入試動向分析

2025年 国公立大一般選抜 志願者動向分析【2025年5月】

2025(令和7)年度

2025年国公立大入試について、人気度を示す「志願者動向」を分析する。大学受験生数の増加を背景に、一般選抜の志願者数は前年に比べて約1%増。共通テストは易化したが、「初志貫徹もやや慎重」な出願傾向が見られた。

 

【全体解説】

志願者微増、「初志貫徹もやや慎重」な出願傾向
千葉大、横浜国立大など準難関校が人気集める

 

共通テストの志願者増に比例
現役志向で公立大人気が顕著

文部科学省の発表によると、2025年(以下、25年。他年度も同様)の国公立大一般選抜の確定志願者数は428,501人で、24年に比べ1.2%増加(独自日程で入試を行う国際教養大・新潟県立大・叡啓大・芸術文化観光専門職大は集計に含まれない)。全募集人員(98,236人)に対する倍率(志願倍率)は4.4倍で、前年に比べ0.1ポイントアップした(グラフ①)。

 

 

4(6)年制大学の受験生数は前年比で約3%増(『螢雪時代』推定)、大学入学共通テスト(以下、共テと略)の志願者数も約1%増となり、基本ベースの拡大に比例して国公立大の志願者も増えた形だ。

入試日程別に志願状況(グラフ②)と志願倍率の変化(24年→25年)を見ると、前期は「1.5%増:2.9倍→2.9倍」、後期は「0.1%増:10.0倍→10.3倍」、公立大中期は「5.7%増:12.9倍→13.8倍」となった。募集人員の増減(前期:0.1%減、後期3.3%減、中期0.5%減)と比較すると、後期の募集枠縮小に対処するため、公立大中期の併願がやや増えたものと見られる。

 

 

さらに、国立・公立別の志願状況を比べると、国立大の「前期0.6%増、後期0.9%減」に対し、公立大は「前期4.2%増、後期3.1%増」。公立大の人気アップが示される結果となった。

 

共テは3年連続で易化したが
現役志向でやや慎重な出願に

共テは平均点が3年連続でアップ(=易化)し、受験生数や共テの志願者数の増加とともに、国公立大の志願者増につながった。新課程科目の影響など、さらに詳しく要因を考えていこう。

新課程初年度の今回から、出題教科に「情報」が追加され、国立大のほとんど、公立大のほぼ半数で必須とされた。国公立大受験の共テ科目の標準となる、文系・理系に共通の6教科7科目(地歴・公民1科目として100点、理科1科目として100点、情報100点の900点満点。経過措置の旧課程科目を含む)の加重平均点(科目別平均点と受験者数から算出。理科基礎は2分野受験の加重平均点)を算出すると、535.57点(得点率59.5%)となった。教科・科目数が異なるため、加重平均点の単純比較はできないが、得点率は24年の57.7%に比べ1.8ポイントアップ。新課程になっても共テが易化したことが、国公立大への出願を後押ししたといえる。

表1で科目別に見てみよう(地歴・公民、数学は24年の旧課程科目との比較)。

 

 

【易化】国語、「歴史総合,世界史探究」、「公共,政治・経済(以下、公共政経と略)」、英語リーディングなどで平均点がアップ。国語は近代以降の文章が「2→3問」に増加、新たに実用的な文章が出題されたが、他の2問(論理的な文章、文学的な文章)が複数素材の組み合わせでなく、単独素材でセンター試験に近い出題形式のため、取り組みやすかったと見られる。

また、新科目の情報Ⅰは予想より平易で、平均点を押し上げる要因となった。必須とする大学でも、共テの配点の10%以下が大多数を占めるため影響は小さいが、安心材料となったことは確かだ。

【難化】一方、「数学Ⅱ,数学B,数学C(以下、数学ⅡBCと略)」、英語リスニング、化学などが平均点ダウン。数学ⅡBCは、出題範囲に数学Cが加わった負担感が影響したといえる。なお、公立大では主に看護・医療系で数学1科目(ⅡBCの影響を受けない)のケースも多く、これも公立大人気につながった模様だ。

【地歴・公民で明暗】科目構成が全面的に再編された地歴・公民では、24年(旧課程科目)と比べ、「地理総合,地理探究」が平均点大幅ダウン、公共政経は大幅アップと明暗が分かれた。

【実際の出願傾向は…】平均点アップを背景に、やや強気な出願も予想された。しかし、自己採点後のボーダーラインも上がったため、強烈な現役志向から、結果的に「基本は初志貫徹だが、やや慎重」な出願傾向となり、難関校より準難関校の志願者増、中堅校では前年の反動と「国立大→公立大」の志望変更が目立った。また、物価上昇などによる家計不安が影響し、地元出身者が学費面で優遇されることが多い公立大の人気アップにつながった可能性もある。

 

相次ぐ理工系・情報系の定員増や
女子枠拡大も局所的に影響

25年入試の主要な変動要因として、新課程初年度の共テ以外に注目されたのが、理工系・情報系の定員増や女子枠の導入だ。

理工系・情報系の定員増は、福島大・横浜国立大・岐阜大・名古屋大・三重大・滋賀大・大阪大・和歌山大・広島大などで実施された。このうち、一般選抜の募集人員が増加した福島大‐理工学群の前期、岐阜大‐工の前・後期、滋賀大‐データサイエンスの前・後期、広島大‐情報科学の前期などは志願者大幅増につながった。

一方、理工系・情報系の学校推薦型・総合型選抜で女子枠の新設・拡大が相次いだ影響で、千葉大‐情報・データサイエンス、東京科学大‐理学院・工学院、佐賀大‐理工、長崎大‐工の各前期、福井大‐工の後期などで募集人員を削減。このうち、東京科学大‐工学院の前期、福井大‐工の後期は志願者大幅減につながった。

この他、京都工芸繊維大が全学で後期を募集停止したことも影響大。国の施策で新増設や定員増が相次いだ割に、後述のように工学系統の志願者は伸び悩むこととなった。

 

地区・系統ごとに見ると?

 

遠隔地受験の動きが復活
東北や九州から受験生流出

 

 

全国6地区の志願動向(グラフ③)を見ていこう。関東・甲信越と中国・四国が増加、北陸・東海が微増、関西が前年並み、北海道・東北と九州がやや減少した。北海道・東北、九州はもともと地元志向が強く、基本的に地区内で出願が完結するケースが多いが、コロナ後に地区を越えた受験が復活。前者は関東・甲信越、後者は中国・四国に受験生が流出したと見られる。

ただし、北海道・東北では、「国際卓越研究大学」に選ばれた東北大が理系を中心に志願者増、東京大や東京科学大など首都圏の難関大からの志望変更が続出したものと見られる。

関東・甲信越では、5科類で2段階選抜の予告倍率を引き締めた東京大が全科類で志願者減。一方、埼玉大・千葉大・横浜国立大・東京都立大といった準難関校に人気が集まった。

北陸・東海では、前年に能登半島地震の影響で志願者減が続出した富山・石川両県の大学で、県外からの流入が復活した模様。一方、前年に北陸新幹線の福井県延伸によって大幅増となった福井大は、その反動で激減。ただし、福井県立大は恐竜学部の新設などで大幅増となった。

なお、医学部志望者は全国を視野に入れて受験するため、流動性が高い。25年は富山大、滋賀医科大、鳥取大、鹿児島大などの医学部医学科の前期へ志望変更があった模様だ。

 

法をはじめ「文高理低」傾向
医・歯・薬・農は志願者減

次に、学部系統別の志願状況を見てみよう(グラフ④)。

 

 

24年に引き続き、全体的に「文高理低」傾向だ。23年まではコロナ禍の影響で「文低理高」傾向だったが、就職事情の好転などを背景に、25年は文系のほぼ全ての系統で増加。法の人気復活をはじめ、文・教育・教養、社会・社会福祉、外国語に人気が集まっている。

一方、医、歯、薬、医療・看護はコロナ禍の収束に伴い減少傾向が続く。農・水畜産・獣医も前年に続き減少。工は定員増や新増設でやや増加が見込まれたが、結果的には前年並みに留まり、実質的には人気ダウンといえる。

また、教員養成系も減少傾向が続いている。資格志向の弱まりに加え、教員の勤務環境や待遇面の改善が進まないことが要因と見られる。

 

大学・学部ごとに見ると?

 

「前年の反動」や入試科目・
募集人員の変更は要注意

大学・学部別の25年の志願状況を見るためには、次の4つのポイントを押さえておこう。26年一般選抜の志望動向を予測する時にも生かせるポイントだ。

①前年度の倍率アップダウンの反動
受験生は前年の倍率や、志願者の増減を気にする。高倍率や倍率アップ、志願者増なら敬遠、低倍率や倍率ダウン、志願者減なら人気を集めるため、前年の反動、さらには1年おきに増減を繰り返す“隔年現象”が起きやすい。これが最もよく見られるパターンだ。

②入試科目の変更、科目数の増減
入試科目数の増減、新方式実施、2段階選抜の廃止(導入)や予告倍率緩和(引き締め)など、負担の変化が志願者増減に結びつく傾向がある。

③学部・学科の増設・廃止、募集人員の変更
後期から前期へ(その逆も)募集人員を移したり、学部全体の募集人員が増減したりした大学・学部では、募集人員が増えた(減った)日程は志願者も増える(減る)ことが多い。また、学部・学科の新設や、新たに前・後・中期で入試を実施、あるいは募集停止する場合、周囲の大学・学部に対する影響も大きい。

④他大学への「玉突き」
志願者が急激に増えた(減った)大学・学部や、後期日程の廃止・縮小、新設大学・学部などがあると、近隣の大学や学内の他学部で、玉突きのように変動が起きるケースがある。

具体例として、福島大‐理工学群、東京大‐理科一類、和歌山大‐教育、佐賀大‐教育の事例を紹介する(以下、【前】=前期日程、【後】=後期日程)。

例1:福島大‐理工学群【前】
福島大‐理工学群【前】では定員増(40人増)に伴い、募集人員を70人→102人に増加(→③)。2次で数学が「必須→選択」になり(→②)、さらに前年の志願者49%減の反動(→①)もあり、志願者は45%増。隣県の宇都宮大‐工【前】(36%減)の大幅減に影響した(→④)。

例2:東京大‐理科一類【前】
東京大‐理科一類【前】では、2段階選抜の予告倍率を「募集人員の約2.5倍→約2.3倍」に引き締めた(→②)。敬遠材料となり、学費の増額(年間で535,800円→642,960円)、前年の志願者9%増の反動もあり(→①)、志願者は12%減。東北大‐理【前】(14%増)・工【前】(8%増)、千葉大‐理【前】(15%増)・工【前】(23%増)、東京都立大‐理【前】(28%増)の増加に影響した(→④)。

例3:和歌山大‐教育【前】
和歌山大‐教育【前】では定員減(30人増)に伴い、90人→70人に募集人員減(→③)、2次も負担増(文科系・理科系で英語を追加。→②)、いずれも敬遠材料に。前年の志願者11%増の反動もあり(→①)、志願者は39%減。奈良教育大‐教育【前】(26%増)の大幅増に影響した(→④)。

例4:佐賀大‐教育【前】【後】
佐賀大‐教育【前】【後】は、隔年現象(前期=22年25%増→23年15%減→24年9%増、後期=22年38%増→23年27%減→24年20%増)の揺れ戻しで、志願者が「前期36%減、後期17%減」(→①)。熊本大‐教育【前】(30%増)、鹿児島大‐教育【後】(10%増)の増加に影響した(→④)。
 

東北大・一橋大・神戸大が増加
東京大・東京科学大は減少

表2では志願者の多い順に、上位10大学を一覧にした。難関~準難関校が連なる中で、特に注目すべきは、埼玉大・千葉大・横浜国立大・東京都立大といった準難関校の志願者増だ。

 

 

【難関校】志願者数で第6位の東京大(11%減)は、理科三類以外の5科類で2段階選抜の予告倍率を引き締めたことと、学費の増額が大幅減の要因と見られる。また、京都大(2%減)は法の後期募集停止が志願者減、神戸大(2%増)は学部新設(システム情報)と学科増設(医‐医療創成工)が志願者増につながった。

表2以外の大学も含めると、東北大(5%増)・一橋大(4%増)・名古屋大(3%増)が増加。東北大は「国際卓越研究大学」に正式選定されたことで、理系を中心に関東・甲信越など地元以外の難関校志望者からも人気を集めたようだ。

一方、東京医科歯科大と東京工業大が統合した東京科学大は7%減。特に、総合型に女子枠を新設し、314人→261人に募集枠を縮小した工学院【前】の大幅減(12%減)が影響した。東京大ともども、東北大への志望変更があったものと見られる。

【準難関校】志願者最多の国公立大は4年連続で大阪公立大。26年までに府内出身者を段階的に学費無償化する施策が、志願者の安定確保につながり、1%減とほぼ前年並みを保った。

「準難関校人気」を反映し、埼玉大(16%増)・千葉大(10%増)・東京外国語大(20%増)・横浜国立大(12%増)・岡山大(11%増)・熊本大(15%増)・東京都立大(22%増)が大幅増。また、広島大(8%増)もやや増加した。千葉大・横浜国立大・東京都立大は、東京大や東京科学大から志望変更があった模様。また、横浜国立大は全学での2段階選抜廃止が要因となり、東京都立大は都民の授業料を全額免除する制度が人気材料となったものと見られる。

一方で、お茶の水女子大(16%減)・東京農工大(10%減)が大幅減となった。

【中堅校】各地区の国公立大中堅校も、「基本は初志貫徹だが、やや慎重」な出願傾向を反映し、前年の志願者増減の極端な反動が随所に見られた。慎重な出願傾向に加え、強い地元志向も反映され、各地区の公立大にも人気が集まった。特に変動が大きかった主な大学は次の通り。

 

(1)国立大

【志願者増】山形大14%増、福島大12%増、群馬大15%増、新潟大12%増、富山大26%増、愛知教育大11%増、奈良教育大23%増、奈良女子大17%増、山口大19%増、愛媛大16%増、高知大18%増、鹿児島大11%増

【志願者減】弘前大10%減、秋田大13%減、宇都宮大18%減、東京学芸大13%減、信州大10%減、福井大23%減、三重大18%減、京都工芸繊維大43%減、鳥取大26%減、島根大25%減、香川大12%減、福岡教育大14%減、長崎大13%減、大分大14%減

(2)公立大

【志願者増】新潟県立大12%増、都留文科大33%増、富山県立大24%増、名古屋市立大13%増、京都府立大21%増、県立広島大11%増、周南公立大17%増、高知工科大47%増、熊本県立大17%増

【志願者減】秋田県立大29%減、静岡県立大15%減、北九州市立大16%減

 

表3では、志願者の増加率が高い順に上位10大学を示した。表2と異なり、地方公立大が8大学を占めるのが大きな特徴。前年に名を連ねた公立大は4大学だったことから、25年の地方公立大人気が見て取れる。医療や看護、教育など単科大(1学部のみ)が6大学入っているのも特徴だ。1位の香川県立保健医療大と2位の大分県立看護科学大は、ともに志願者が2倍超に膨張。両校を含め、表3のうち8大学で、前年の志願者大幅減の反動が出ている。

ちなみに、前年は志願者130%増で1位だった宮崎公立大は、やはりその反動からほぼ半減(49%減)した。

 

 

志願倍率トップは山口大
医学部医学科の後期日程

次に、各入試日程で特に志願倍率(志願者数÷募集人員)が高い(低い)学部等を上位各20まで紹介する(表4~6)。同倍率が多数の場合は20を超えて掲載し、医学部医学科や看護学科などは1学部として扱う。なお、「受験者数÷合格者数」で割り出す実際の倍率を「実質倍率(または競争率)」と呼ぶ。

 


 

まず、表4・5の「高倍率の学部等」から見ていこう。前期では医学部医学科が目立ち、変わらない難関ぶりを物語る。その中で、釧路公立大‐経済は前年の3位から2位にランクアップ。24年の「学科別募集→学部一括募集(2年次進級時に所属決定)」移行が、引き続き人気要因になった模様だ。また、新設学部(岩手大‐獣医、福井県立大‐恐竜)の高人気も注目される。

後期・中期は募集人員が少なく、実施学部・学科も減っているので、最高倍率(44.5倍)の山口大‐医〈医〉【後】など、前期以上の「超高倍率」になるが、欠席率の高さ(例えば後期の場合、前期の合格・入学手続者が欠席するので、志願者の約60%が欠席となる)を割り引いて考える必要がある。公立大は中期に加え、後期も国立大に比べて多く残っているため、併願先の私立大が限られる大都市圏以外の地域では、志願者が集中しがちだ。

一方で、表6のように、前期で志願倍率が1倍台のケースもある。看護・医療系が目立つが、秋田大‐総合環境理工、鳥取大‐工など、理工系も多いことに注目したい。なお、金沢大‐国際学類【前】は隔年現象(23年45%減→24年16%増→25年32%減)によるもので、26年は再び揺れ戻す可能性があるので要注意だ。第1段階選抜の不合格者は前・中・後期合計で8,518人

最後に、前期、および後期・中期の2段階選抜の実施状況を紹介しよう。

前期では、予告した学部(67大学180学部等)に対し、実際に行ったのは36大学61学部等で、前年より1大学6学部等増えたが、第1段階選抜の不合格者数は「24年4,413人→25年4,459人」で前年とほぼ同じだった。

大学別に見ると、不合格者が最も多い東京大では、5科類で2段階選抜の予告倍率を厳格化したが、24年とほぼ同数となった(892人→893人)。次いで東京都立大(772人)、東京科学大(429人)、一橋大(258人)、富山大(212人)…と続く。前期の志願者19%増の東京都立大では、不合格者は倍増を超えた(114%増)。

一方、後期・中期では、予告した学部(43大学96学部等)に対し、実際に行ったのは25大学34学部等で、前年より4大学2学部等減り、第1段階選抜の不合格者も「24年4,399人→25年4,059人」と減少した。

大学別に見ると、不合格者が最も多かったのが一橋大(626人)で、次いで山梨大(439人)、秋田大(380人)、東北大(375人)、山口大(295人)…と続く。一橋大は前年比29%増、東北大も36%増となった反面、前年は最も不合格者が多かった山梨大でほぼ半減(49%減)した。


この記事は「螢雪時代(2025年5月号)」より転載いたしました。

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