2021年私立大入試について、難関校を中心に、人気度を示す「志願者動向」を分析する。
あわせて、難易変動の指標となる「実質倍率」の変化も見ていく。
全体にコロナ禍の影響が大きく、「志願者大幅減、合格者増」で易化した模様だ。
※この記事は『螢雪時代・2021年6月号』の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)
【全体解説】
一般選抜は志願者14%減、コロナ禍の影響が顕著。
「超地元志向」と併願減で、難易ランクを問わず減少。
大学の独自入試は15%減、共テ利用方式は13%減
「志願者14%減」…この数字が、異例づくめだった2021年私立大入試を象徴する。大学の入試担当者から「受験生はどこへ行ってしまったのか」、高校の先生方から「私立大は入りやすかった」との言葉がよく聞かれた。入試改革初年度の2021年私立大一般選抜は、とにかく新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)の影響を強く受けた。
『螢雪時代』編集部では、学部学生の募集を行う全国の私立大学(586大学。通信制と専門職大学を除く)に対し、2021年(以下、21年。他年度も同様)の一般選抜の志願者数を調査した。4月中旬現在で集計した確定志願者数のデータは「228大学:約288万人」にのぼる。この集計は2月に行われた各大学の独自入試(大学が独自の試験問題等で行う入試)と大学入学共通テスト(以下、共テ)利用入試を主な対象とし、2月下旬~3月の「後期募集(共テ利用を含む)」も一部加えている。
その結果、私立大一般選抜の志願者数は、20年の同時期に比べ約14%も減少したことがわかった。今後発表される大学の志願者数を加えても、最終的に私立大の一般選抜志願者数は「14%前後の減少」となりそうだ(グラフ1)。複数の入試日程・方式等を合計した「延べ志願者数」なので、学内併願などの重複を除いた実質的な志願者数は、見かけほど減っていない可能性もあるが、それでも予想を超える大幅減となったことは間違いない。
私立大一般選抜の志願状況を方式別に見ると(グラフ2)、大学の独自入試は15%減、共テ利用方式が13%減、独自・共テ併用型(独自入試の指定科目と、共テの高得点または指定科目を合計して判定)が11%減と、いずれも激減している。ただし、青山学院大・上智大・立教大・早稲田大など、独自・共テ併用型を本格的に導入する大学もあり、減少幅は他の2方式に比べてやや緩やかだ。
21年の4(6)年制大学の受験生数は、旺文社の推定では20年に比べ約4%減となる見込み。また、共テの志願者も4%減で、志願者が減少する素地はあった。しかし、私立大一般選抜の志願者激減は予想をはるかに上回った。
大都市圏回避の「超地元志向」、推薦型・総合型の合格者増も影響
このような現象が起きた理由として、次の3つのポイントが挙げられる。
(1)コロナ禍に伴う「超地元志向」
冒頭に触れた通り、21年入試の受験生に最も影響を与えたのがコロナ禍だ。全国的な感染拡大で緊急事態宣言が発出された結果、地方在住の受験生の多くが、感染状況が厳しい大都市圏にある私立大への進学や受験を敬遠し、地元への進学志向を強めたと見られる。
20年度はキャンパス入構制限で、大学の授業の多くが対面式からオンライン形式になった。サークル活動など学生同士の交流が困難になり、コロナ禍に伴う経済不況(以下、コロナ不況)からアルバイトの求人も減少、精神的にも経済的にも苦しい学生生活を送る先輩たちの状況を見て、あえて自宅から遠い大学に行く動機を失った受験生が増えたものと見られる。
さらに、コロナ不況が家計に影響を与え、遠隔地の私立大への進学が経済面で難しくなったことも、自宅から通える国公私立大を希望する受験生が大幅に増える「超地元志向」につながった。首都圏や京阪神の中でも、自宅のある地域に進学先を絞り、隣の都府県まで受けに行かない「地区内の地元志向」が見られた。
(2)コロナ不況で併願減
志願状況をレベル別にみると、20年入試で敬遠された難関校~中堅上位校だけでなく、爆発的に増加した中堅校まで、軒並み志願者が激減した。こうした中堅校は地域密着型で、他地区からの流入は比較的少ないので、コロナ不況に伴う家計不安から、併願校数を減らす傾向が影響したものと見られる。
特徴としては、「タテ方向」(チャレンジ校、合格確保校)も「ヨコ方向」(実力相応校)も、併願校数が減らされた模様だ。
さらに、現役生に比べ併願校数の多い既卒者(浪人生)が大幅に減少した(共テの志願者のうち、既卒者は19 %減)ことも影響した。
共テがセンター試験(以下、セ試)より難化するとの警戒感から、共テの試験日(第1日程)前に出願を締め切る「事前出願」の日程・方式で志願者減が著しく、20年入試(最終的に3%減)以上に“受験バブル”が弾けたといえる。
ただし、共テ(第1日程)の前後ではやや潮目が変わった。当初、試行調査の出題傾向などから、セ試と比べ難化が予想された共テだが、実際には全体として平均点がややアップ(特に数学Ⅰ ・A、同Ⅱ・B)。共テ(第1日程)の後まで出願できる「事後出願」の日程・方式は、共テ利用方式については、「事前出願」よりもやや減少の程度が緩やかになった模様だ。
(3)推薦型・総合型の影響
学校推薦型選抜(以下、推薦型)・総合型選抜(以下、総合型)の合格者大幅増と易化も、一般選抜の志願動向に影響を及ぼした。コロナ禍に伴う臨時休校措置などの影響、さらに総合型は出願開始の繰り下げ(9月1日→同15日以降)もあり、推薦型(公募制)・総合型合計で志願者7%減。一方、早期の入学者確保を見据え、合格者を多めに出す大学が続出し、合格者は前年比15%増。特に京阪神では「志願6%減、合格者19 %増」で易化した模様だ。
その結果、私立大一般選抜の受験者層は、京阪神を中心に厚みを失ったと見られる。
2月入試では志願者大幅減のうえ、後述のように合格者を増やして倍率ダウンする大学が続出した結果、共テ利用も含めた3月入試(後期募集)の志願者は激減(29%減)した。2月入試の段階で合格者が多めに発表され、さらに追加合格・補欠合格が続々と出される状況では、もはや受験生が残っていなかったのだ。
地区・系統ごとに見ると?
文理ともに軒並み減少したが理系の資格志向は復活か
全国6地区ごとの志願動向を見ると(グラフ3)、全地区で減少したが、大都市圏を擁する関東・甲信越、北陸・東海、関西の大幅減が目立つ。「超地元志向」の影響で他地区からの流入が鈍ったのに加え、北陸・東海、関西は推薦型・総合型の合格者増が影響したものと見られる。難易ランクを問わず減少し、志願者が増えた大学は少数派だ。北海道・東北、中国・四国の志願者減がやや小幅なのも「超地元志向」の影響だが、家計不安のため、大学進学をあきらめ専門学校へ転じる傾向も一部に見られた。
次に学部系統別の志願状況を見てみよう(グラフ4)。コロナ不況と就職内定率低下の影響で、法、経済・経営・商、文・教育・教養をはじめ、文系学部は減少が著しい。中でも国際・国際関係・外国語は、観光業や航空会社など、主な就職先がコロナ禍で打撃を受けたことや、これもコロナ禍の影響で海外留学が困難になったことが要因といえる。
一方、理系学部では、農・水畜産・獣医、医療・看護で減少が目立つが、理・工、医、薬は文系に比べ、相対的に小幅な減少に留まり、「理系の資格志向」が復活したものと見られる。
入試改革路線を取り入れた首都圏5大学で明暗分かれる
21年「入試改革」については、国公立大と異なり、私立大の一般選抜ではほとんど動きがなかった。その中で、首都圏の青山学院大・学習院大・上智大・立教大・早稲田大では「入試改革」路線を強め、共テ利用方式の導入、一般選抜の共テ併用化、あるいは記述式・思考力問題の導入を全学規模で進め、従来型の「3科目、マーク式中心」の私立大一般選抜と異なる方向性が注目された。その結果、立教大(7%増)・学習院大(1%増)は志願者増、上智大も前年並みを保ったが、青山学院大(31%減)・早稲田大(12 %減)は大幅減と明暗が分かれた。
立教大は試験日自由選択制の導入と、英語を共テ利用または外部検定利用に切り替えたことが、従来とは異なる受験者層の発掘につながり、人気アップの要因になったと見られる。また、学習院大・上智大は新規実施の共テ利用方式(共テのみで合否判定)が人気を集めた。
一方、青山学院大は個別学部日程を、一部の学部・方式を除き共テ併用に移行し、総合問題や小論文などを導入したため、敬遠されたと見られる。早稲田大も、政治経済・国際教養・スポーツ科学の一般選抜が共テ併用に移行、文・文化構想・商・国際教養で共テのみ合否判定に利用する方式を廃止したことが大幅減の要因となった。特に政治経済(37%減)は、共テで数学必須、個別で総合問題を課す意欲的な改革が、従来の私立文系型の志願者を削ぎ落した結果といえる。
「志願者数10万人以上」が8→2大学に激減!
ここから、前述の5大学以外の、各大学の志願状況を見ていこう。表1では、志願者数(大学合計:4月中旬現在)の多い順に、上位20大学を示した。志願者の合計は、全体(228大学:約288 万人)の約50 %を占める。
表1以外の大学も含め、首都圏や京阪神の難関~中堅上位校で、志願者大幅減が目立つ。志願者数10万人を超える大学が、昨年の8大学から、8年連続で志願者数トップの近畿大と、千葉工業大の2大学に激減したのが象徴的だ。
千葉工業大(5%増)は、「超地元志向」が追い風になったのに加え、コロナ禍対応で今年度に限り共テ利用選抜の受験料を免除したことが、志願者増の要因となった。
首都圏の難関~準難関校では、中央大(9%減)・東京理科大(13%減)・法政大(12%減)が大幅減の一方で、慶應義塾大(5%減)・明治大(3%減)は小幅な減少に留まった。
いわゆる「日東駒専」は、駒澤大(4%増)が前年の41%減の反動でやや人気が戻ったが、東洋大(12%減)・日本大(14%減)は大幅減、専修大(7%減)も減少した。日本大は隔年現象(19年12 %減→ 20 年13 %増)といえる。
京阪神では、いわゆる「関関同立」のうち、関西学院大(1%増)の微増に対し、立命館大(19%減)は大幅減、同志社大(11%減)・関西大(9%減)も減少した。立命館大は前年の志願者10%増の反動が要因と見られる。一方、関西学院大は理工系学部の分割・改組(理工→理・工・生命環境・建築)と各学部間の併願割引導入などの改革が人気を集めたと見られる。
また、いわゆる「産近甲龍」のうち、龍谷大(6%増)のみ増加し、京都産業大(27%減)・甲南大(22%減)は大幅減、近畿大(6%減)も減少した。京都産業大は推薦型・総合型が易化(志願者8%減に対し合格者17%増)したため、再チャレンジ組の一般選抜への流入が弱まったものと見られる。一方、龍谷大は独自・共テ併用方式の拡大が志願者増の主な要因となった。
表2では、志願者1,000人以上の大学について、増加率が高い順に上位15大学を示した。表1のように20大学としなかったのは、志願者が増えた大学自体が極めて少なく、16~18位は「1%増」でほぼ前年と変わらないからだ。ここにも、21年私立大入試がいかに異常事態であったかが示されている。
それぞれに、入試変更や学部・学科の増設、前年の志願者減の反動といった人気材料はあるが、それだけでは志願者増の理由を説明できない。やはり中堅校については、ここ数年の傾向である安全志向と、前述の「地区内の地元志向」が最大の要因といえる。
京阪神の中堅校が軒並み激減、地方拠点校でも減少が目立つ
ここまで紹介した大学以外を中心に、各地区の志願状況(主に2月入試)を見てみよう。
①首都圏
難関~中堅上位校では、國學院大(25 %減)・成蹊大(15%減)・東京女子大(14%減)・日本女子大(20%減)・武蔵大(22%減)が大幅減、国際基督教大(9%減)・津田塾大(9%減)も減少。国際基督教大は総合型の拡大に伴う募集人員減(17%減)が影響した。一方、成城大(5%減)・明治学院大(3%減)は小幅な減少に留まった。
理工系中心の大学では、工学院大(13 %減)・芝浦工業大(7%減)・東京都市大(11%減)が減少する一方、東京電機大は前年並みを保った。
中堅校では、亜細亜大(21%減)・桜美林大(21%減)・国士舘大(41%減)・玉川大(31%減)・東海大(21%減)・神奈川大(19%減)と軒並み大幅減。一方で、大東文化大(4%減)は小幅な減少に留まった。
②京阪神地区
女子大では、京都女子大(13%減)・同志社女子大(14%減)・神戸女学院大(42%減)・武庫川女子大(23%減)とそろって大幅減。武庫川女子大は20年の17%増(経営・建築・食物栄養科学の3学部を開設)の反動といえる。
中堅校では、佛教大(30%減)・大阪経済大(28%減)・大阪工業大(23%減)・関西外国語大(23%減)・摂南大(11%減)・桃山学院大(35%減)・神戸学院大(18%減)と大幅減が相次ぎ、中には半数以下に落ち込むケースも見られた。一方、経済・経営・工の3学部を開設した京都橘大(7%減)や、キャンパスを新設した追手門学院大(6%減)は小幅な減少に留まった。
なお、大阪医科大と大阪薬科大が統合して発足した「大阪医科薬科大」は、初年度は志願者12 %減と伸び悩んだ。
③その他の地区
国公立大との併願が多い各地域の拠点大学のうち、東北学院大は前年並みを保ち、南山大(2%減)・広島修道大(1%減)も堅調だったが、北海学園大(14%減)・愛知大(19%減)・中京大(19%減)・名城大(8%減)・岡山理科大(9%減)・松山大(13%減)・九州産業大(7%減)・西南学院大(18%減)・福岡大(15%減)と、軒並み志願者減。特に北海学園大・岡山理科大・九州産業大は、前年の大幅増の反動が顕著だった。
合格状況はどうなったか?
「志願倍率」に惑わされず「実質倍率」に注目しよう
次に、私立大一般選抜の合格状況を見よう。中でも倍率の変化は、「難化・易化」を計る物差しとなる重要データだが、一般的に使われる「倍率」には次の2通りあることに注意したい。
*志願倍率=志願者数÷募集人員=見かけの倍率
*実質倍率=受験者数÷合格者数=実際の倍率
私立大では合格者の入学手続率を考え、独自入試で募集人員の5倍程度、共テ利用方式では10倍程度の合格者を出すのが普通だ。
グラフ5で同志社大‒ 理工の例を見てみよう。一般選抜(学部個別日程)の志願倍率は16.0倍だが、合格者(追加合格を除く)を募集人員の7.1倍出しているので、実質倍率は2.1倍となる。また、共テ利用入試の志願倍率は43.7倍もの超高倍率だが、合格者を募集人員の8.5倍出しているので、実質倍率は5.1倍におさまった。これなら「とても手が出ない」という倍率ではないだろう。
見かけの倍率に惑わされることなく、実際の倍率を志望校選びのデータとして活用しよう。
受験者15%減、合格者7%増、全体で3.9→3.1に倍率低下
『螢雪時代』編集部が私立大一般選抜(主に2月入試)の受験・合格状況について調査したところ、正規合格者まで発表した117大学の集計(4月中旬現在)では、受験者数(未公表の場合は志願者で代替)の15%減に対し、合格者数は7%増のため(グラフ6)、実質倍率(以下、倍率)は20年3.9倍→21 年3.1 倍とダウンした。
地区別の集計では、首都圏(4.4倍→3.6倍)、京阪神(4.2倍→3.3倍)、その他の地区(3.1倍→2.6倍)といずれもダウンしたが、特に京阪神地区では、追加合格や補欠合格の増加も含め、各大学で合格者増と倍率低下が目立った。
合格者増の要因は、①コロナ禍で相対的に「国公立大志向」が強まり、私立は難関~準難関校でも入学手続率を予測しにくく、合格者を多めに出し、併願先の中堅上位~中堅校もそれを想定して、玉突きのように合格者増の連鎖となった、②難関~準難関校で追加合格や補欠合格が増えた結果、①と同様の理由で併願先の中堅上位~中堅校でも追加合格や補欠合格を増やさざるを得なかった、等が挙げられる。
以下、主な大学で倍率が目立って変動したケースを紹介する(*は「志願者÷合格者」、その他は実質倍率。おもに2月入試の集計)。
①倍率アップ 国際基督教大3.3倍→3.9倍*、京都女子大2.3倍→2.6倍、摂南大3.3倍→3.8倍
②倍率ダウン 亜細亜大4.6倍→3.4倍、東海大4.5倍→2.9倍、東京経済大5.6倍→3.5倍、東洋大3.8倍→3.2倍*、日本女子大2.9倍→2.3倍、早稲田大7.1倍→6.6倍、中京大4.1倍→3.2倍*、名城大3.1倍→2.6倍、京都産業大5.7倍→3.4倍、佛教大3.9倍→2.3倍、龍谷大3.8倍→3.0倍、大阪工業大3.9倍→3.0倍、関西大5.9倍→4.4倍*、近畿大4.3倍→3.5倍、関西学院大3.9倍→3.0倍、神戸学院大3.5倍→2.1倍、西南学院大4.1倍→3.4倍、福岡大3.8倍→3.0倍
このうち、近畿大は受験者7%減に対し、合格者を15%増やし、受験者が2%増えた関西学院大も、合格者を大幅に増やした(31 %増)。思い切って挑戦した結果、意外な合格を手にした受験者も多かったのではないだろうか。
一方、国際基督教大は一般選抜の募集枠縮小もあり「志願者9%減、合格者23%減」で、21年入試では珍しく倍率アップし、上智大は「志願者:前年並み、合格者1%増」で、倍率(志願者÷合格者)は20・21年とも7.0倍でほぼ変動なく、いずれもハイレベルを保った。
ボーダーライン付近は激戦、明暗を分ける1点の重み
受験生の中には、ふだん「1点の差」を気にも留めない人がいるだろう。しかし、全体的に易化傾向にあるとはいえ、入試本番ではその「1点」が大切なのだ。
グラフ7に、関西大学商学部の2月一般入試(全学日程1・2の合計)の21年入試結果から、合格ライン付近の上下10点幅の人数分布を示した。受験者6,830人、合格者1,306人で倍率は5.2倍。合格最低点は450点満点で284点(得点率63.1 %)だった。
注目すべきは、最低点を含めた「上10点幅」の部分で、ここに合格者全体の約26%が集中する。最低点ぴったりのボーダーライン上にいるのは28人。高校の1クラスに近い人数だ。わずか1点差での不合格者も34人(やはりほぼ1クラス分)、10点差以内の不合格者は394人もいる。合格ライン付近は同じ得点帯の中に、多くの受験生がひしめき合っているのだ。
たった1つのケアレスミスが命取りになり、合否が入れ替わるのが「入試本番」。ふだんの勉強から解答の見直しを習慣づけよう。
ここポイント!
追加・補欠合格が連鎖反応、
全体的に合格者増で易化
でも「1点の重み」は大事!
推薦型・総合型の結果は?
推薦型・総合型合計では志願者7%減、合格者15%増!
『螢雪時代』編集部では、私立大の推薦型(公募制・指定校制)および総合型についても入試結果を調査した。「入試改革」の制度変更(出願開始時期、学校長の推薦の有無などによる基準明確化)によって、従来の公募制推薦の位置付けを「総合型」に変更する大学が目立ったため、推薦型(公募制)と総合型の合計で志願・合格状況を集計し、実態を把握しやすいデータとした。
20年12月25日現在(調査締切日)の、推薦型(公募制)・総合型合計の140校(集計数:約26万7千人)の集計データでは、前年比で「志願者7%減、合格者15%増」、倍率(志願者÷合格者)は3.4 倍→2.8 倍とダウンした。
志願状況を地区別にみると(グラフ8)、志願者全体の約8割を占める京阪神が6%減、首都圏が13 %減、その他の地区も10 %減となった。一般選抜と同様、感染状況の深刻さで敬遠された大都市圏だけでなく、地方でも減少した。
当初は、共テをはじめ様変わりする2021年一般選抜を回避しようとして、「より早く確実に」合格を決めたい私立大志望者が、推薦型(公募制)や総合型に大量流入するものと見られたが、実際には志願者減となった。その要因としては、やはりコロナ禍の影響が大きい。
まず、3月~5月の臨時休校措置で、①高校は「学業の遅れ」対策に注力せざるを得ず、進路指導の遅れが生じた。また、②スポーツ・文化活動の諸大会・行事の中止、資格・検定の受験機会の中止・延期など、出願資格・要件を満たせない不安が生じた。さらに、年間を通じた大学のキャンパス入構制限も影響し、③オープンキャンパス・説明会等のオンライン化によるリアルな大学体験の不足、④選考方法の急な変更(集団面接→個人面接、面接等のオンライン化など)、⑤京阪神の「学科試験中心、併願可」のタイプは、コロナ禍による家計不安から、併願数を減らされた、⑥総合型は出願開始の繰り下げ(20 年までは8月以降→入試改革で9月1日以降→コロナ禍対応で同15日)、といった諸要因が複合的に影響したものと見られる。
なお、推薦型(指定校制)は、47 校(集計数:約1万2千人)の集計データでは志願者数が前年並みに留まった。「指定校枠のさらなる拡大が難しい」という大学側の事情も、志願者頭打ちの要因となったものと見られる。ただし、北海学園大4%増、西南学院大9%増など地方の主要大学では利用者が増加した。
主な大学の顕著な志願者増減は次の通り。安全志向から、前年の反動による増減が目立った。
【首都圏】志願者増=立教大12%増
志願者減=千葉工業大36%減、青山学院大15%減、亜細亜大23%減、国士舘大8%減、駒澤大14%減、東京農業大22%減、東京都市大8%減、早稲田大40%減、神奈川大18%減、北里大11%減
【京阪神】志願者増=龍谷大12%増、追手門学院大45%増、大阪産業大9%増、近畿大10%増
志願者減=京都産業大8%減、京都女子大18%減、同志社女子大11%減、佛教大13%減、大阪経済大9%減、大阪工業大10%減、大阪電気通信大12%減、関西外国語大13%減、摂南大11%減、桃山学院大36%減、甲南大26%減、神戸学院大15%減、武庫川女子大8%減
【その他】志願者増=中京大20%増、岡山理科大6%増、九州産業大8%増、久留米大8%増
志願者減=東北学院大7%減、金沢工業大33%減、愛知大21%減、愛知学院大17%減、愛知淑徳大12%減、中部大21%減、福岡大11%減
京阪神で倍率低下が顕著、追加合格を出す大学も
一方で、推薦型(公募制)・総合型ともに、合格者を多めに出す大学が目立ち、推薦型・総合型では珍しい追加合格を出す大学もあった。一般選抜の志願者減をあらかじめ想定し、一定の入学者を確保する意図が見える。
地区別に見ると、京阪神(4.1倍→3.2倍)の大幅な倍率ダウンが注目される。京都産業大(5.0倍→3.9倍)、佛教大(4.7倍→3.1倍)、龍谷大(5.4倍→4.5倍)、大阪工業大(3.9倍→2.5倍)、近畿大(5.1倍→4.0倍)、摂南大(3.5倍→2.4 倍)、神戸学院大(4.2 倍→3.0倍)など、軒並み大幅に倍率ダウンし、易化した模様。一方、倍率アップは追手門学院大(4.5倍→5.3倍)など、ごく少数に留まる。
その他の地区の主な大学では、立教大(5.5倍→4.9 倍)、早稲田大(6.0 倍→4.2 倍)、愛知淑徳大(3.4倍→2.5倍)、中部大(3.3倍→2.1倍)の倍率ダウンが目立つ。
主な学部系統ごとに見ると(グラフ9)、文理を問わず軒並み「志願者減・合格者増」で倍率ダウンし、一般選抜と同じく「文低理低」状態となった。特に法、経済・経営・商、教員養成、社会・社会福祉が大幅に倍率ダウンし、易化したものと見られる。
ここポイント!
一般選抜と同じくコロナ禍の影響大。
京都産業大・龍谷大・近畿大などが、
合格者増で倍率大幅ダウン
22年変更点は何か?
東海大が全国規模で学部再編、兵庫医科大と兵庫医療大が統合
ここからは、私立大の22年入試について、4月上旬現在までに判明した主な変更点の一部を紹介する(以下、新増設大学・学部等については、全て予定)。
国公立大と同じく、「入試改革」初年度のため一般選抜も推薦型・総合型も変更点が数多く、しかもコロナ禍の影響でさらに変更が相次いだ21年入試に比べ、22年入試では新増設大学・学部も含めて変更が極めて少なく、波静かな入試となりそうだ。
くわしくは、5月以降に各大学からホームページ等で発表される入試ガイドや案内パンフレットなどで、必ず確認してほしい。
●新設予定大学等
大阪信愛学院大・令和健康科学大の2大学、電動モビリティシステム専門職大・アール医療専門職大の2専門職大が新設予定(いずれも仮称)。
●学部等の増設・改組
22年の新増設・改組の目玉は、東海大の全学規模、というより“全国規模”の再編成だ。
まず、児童教育・建築都市の2学部を湘南キャンパス(神奈川県平塚市)に、経営・国際の2学部を東京キャンパスに、人文学部を静岡キャンパスに開設する。また、熊本キャンパスの経営・基盤工の2学部を統合して「文理融合学部」を開設する。こうした学部増設や統合に伴い、次の学部で学科の増減がある(教養:3→2学科、政治経済:3→2学科、情報理工:2→3学科、工:13 →7学科、情報通信:4→1学科、海洋:6→3学科)。また、政治経済の3~4年次を「湘南→東京キャンパス」に移転する。こうした大規模な再編成が、関東・東海・九州の3地区にわたり、志願動向に影響しそうだ。
兵庫医科大・兵庫医療大の2大学が統合し、新たに医・薬・看護・リハビリテーションの4学部で構成される「兵庫医科大」としてスタートする。この他にも、日本医療大‒ 医療福祉、順天堂大‒ 医療科学、金城学院大‒ 看護、名古屋女子大‒ 医療科学などの学部増設、森ノ宮医療大の学部分割(保健医療→看護・総合リハビリテーション・医療技術)など、看護・医療系の新増設・改組が目立つ。
工学系では、人気の高い情報系(名城大‒ 情報工、近畿大‒ 情報)、建築系(神奈川大‒ 建築、京都美術工芸大‒ 建築)や、岡山理科大‒ 生命科学などの学部増設、成蹊大‒ 理工の学科統合(3→1学科)などが注目される。
一方、文系学部では、やはり人気の高い心理系(愛知学院大‒ 心理、人間環境大‒ 心理、神戸女子大‒ 心理)や、國學院大‒ 観光、武蔵大‒ 国際教養などの学部増設、追手門学院大(国際教養→国際・文)・摂南大(外国語→国際)の学部改組が注目される。
●推薦型・総合型の変更
早稲田大‒ 社会科学で全国自己推薦の募集枠を縮小(50人→35人)、全国を7地域ブロックに分け、ブロック単位で合格者(各5人)を出す方式を導入する。入学者中の地方出身者の比率アップを目指す施策といえる。
龍谷大では、農以外の8学部の指定校推薦で、合否判定には利用しないが、出願資格として共テの受験を必須とする。文系7学部は2科目以上(外国語必須)、先端理工学部は数学2科目と理科を課す。すでに21年に、早稲田大で同様の変更を行っており、入試改革とともに指定校推薦のあり方も変わりつつある。
この他、明治大‒ 国際日本で自己推薦特別入試を新規実施(英語外部検定利用)。立教大は全学のアスリート選抜で、出願資格に英語外部検定の成績取得を追加。立命館大‒ 情報理工の総合型で「総合評価方式」を廃止。同志社大‒ 法の自己推薦では書類審査を廃止する。
●一般選抜の変更
【共テ併用方式】早稲田大‒ 人間科学の一般選抜(共テ+数学選抜方式)で、独自試験(数学)の配点を「560点→360点」に減らす。共テは140点で変更なく、共テの比率が高まる/立命館大‒ 情報理工の「共テ+面接」グローバルコース方式で、面接をオンライン実施に変更。
【独自入試】東海大では文系・理系学部統一選抜前・後期、一般選抜(医学部医学科以外)で、英語外部検定を利用する場合も、大学独自の英語筆記試験の受験が必須となった(高得点の方を利用)/法政大‒ グローバル教養の一般A方式で、英語の独自試験を廃止し、英語外部検定を新規利用(出願資格、得点換算)/早稲田大‒文・文化構想で、一般選抜の募集人員を「文390人→340人、文化構想430人→370人」に削減する(共テ利用方式、英語4技能テスト利用方式は変更なし)/立命館大‒ 薬の全学統一方式(理系)と薬学方式で、薬(6年制)・創薬科学(4年制)の2学科併願制を導入(同方式で2学科同時併願が可能に)/関西学院大‒ 理・工・生命環境・建築の一般選抜の関学数学併用型で「3教科必須型」を廃止/産業医科大‒ 医の募集人員を変更。一般選抜を85人→80人に削減、推薦型を20 人→ 25 人に増員する。
ここポイント!
変更少なめ、波静かな入試に
医療・看護系の新増設が目立つ
指定校推薦も共テ利用の新傾向
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代2021年6月号」より転載いたしました。