2次逆転するには、されないためには?
センター試験(以下、セ試)を受けたら、自己採点の結果をもとに、国公立大志望の人は1月31日までに個別試験(以下、2次)へ出願する。予想より得点できた人も、そうでなかった人も、結果を冷静に受け止め、最善の対策を立てよう。ここでは、自己採点データや大学公表の合格者データなどをもとに、2次出願のポイントと「2次逆転」の条件を紹介する。
※この記事は『螢雪時代・2018年2月号』の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)
自己採点の結果は冷静に受け止める
「2次試験で逆転」は本当に起こる!
2次試験は英語・数学で差がつく
逆転に必要なものは「合格者平均点」だ!
強い意志と得意科目で逆転できる!
私立大入試の“実戦”を活かす!
自己採点の結果は冷静に受け止める
目標通りなら「先行逃げ切り」、届かなくても逆転を目ざし、よく考えた出願を!
セ試を受けた後、まずやることは「自己採点」だ。大半の受験生は1月15日(月)に行い、予備校等が実施する全国レベルの自己採点集計に参加する。セ試の結果を正確に採点し、受験科目の得点、志望校の配点による得点を把握しよう。集計結果は3~5日で戻ってくる。
集計データが届いたら、最初に各科目の得点を全国平均と比較しよう。予想通りの科目、意外に高得点の科目、ミスした科目に分かれるはず。こうした特徴をつかんだら、志望校について目標とした得点と比較してみよう。
また、合格可能性の判定だけでなく、自分の席次(志望学部・学科の全志望者中、何番目か)を確認し、前年の合格者・不合格者の分布と比較しよう。その際、全国レベルの総合平均点や科目別平均点のアップダウンに注意したい。前年より平均点が大幅に変動(±10点程度)した科目があると、志望校の配点によっては合格ラインに大きく影響するからだ。ちなみに2017年セ試の場合は、生物基礎、英語<筆記>などがプラスの方向に、国語、日本史Bなどがマイナスの方向に影響した。
以下、自己採点結果の基本的な受け止め方と対応策を示した。いずれの場合も、担任や進路の先生とよく相談して出願校を決定しよう。
(1)目標どおりに得点できた場合
全国レベル(平均点の変動などを加味)で予定した得点が取れた場合、またそれより±20点(900点満点で)の範囲で、合格可能性がA・B判定、あるいは50%以上の場合は、おおむねそのまま出願すればよい。
(2)目標よりかなり多く得点できた場合
予定より40点ほど上回った場合、2次の科目・配点を考えずに志望校をランクアップする人がいるが、2次科目の学力不足で不合格になるケースも多い。マーク式特有の幸運を割り引いて考えよう。ただし、セ試の配点が高く、2次に不安がなければランクアップしてもよい。
ここで注意すべきは、地歴・公民、理科(特に基礎を付さない「発展科目」)で、自分の受験科目、特に「第1解答科目」として受けた科目が、志望変更先に考えた大学の指定科目でない場合がありうることだ。さらに、自分の理科の選択パターンが、大学の指定と異なる場合もありうる。例えば、Cパターン(基礎2科目+発展1科目)で「化学基礎、生物基礎、生物」と受けた場合、基礎・発展の「同一名称の選択は不可」とする大学には出願できない。
募集要項を確認せずにうっかり出願し、「0点」「無資格」とならないよう気をつけてほしい。これは次の(3)でも同じことがいえる。
(3)予想外に悪く、目標を下回った場合
逆に合格可能性がC・D判定、あるいは30%以下の時は考えどころ。はっきり実力不足の場合は、すみやかな志望校変更が必要だ。さらに、「どうしても国公立」という人は、募集人員が比較的多い後期・中期日程を併願先として選び直す必要もある。
しかし、セ試の失敗があくまでマークミスや計算ミスなど不注意によるもので、記述試験に絶対の自信がある人は、志望校の2次の配点比率が比較的高ければ、初志貫徹した方が後悔しない。また、同レベルで2次の配点比率がより高く、課す科目が共通する他大学・学部を選ぶのも一つの手段だ。いずれの場合も、そこが2段階選抜を予告していたら、ここ数年の実施の有無と突破ラインを調べよう。
とはいえ、合格への基本戦略となるのは、セ試の持ち点を活かした「先行逃げ切り」だ。国公立大は私立大に比べ受験機会が少ないうえに、後期日程を行わない学部・学科も多い。そのため、ある程度満足感が得られるなら、“次善の志望校”への変更もやむをえない。その場合は、科目・配点の面で極力有利になる大学・学部を重視し、出願校を再選定しよう。
ただし、前年に実質倍率が大幅ダウンした大学・学部は要注意。「与(くみ)しやすい」と思われ、反動で必ずといっていいほど志願者が集中するからだ。逆に、前年に大幅アップした場合は、敬遠されて意外な“穴場”となる可能性も。さらに、こうした現象は1年おきに繰り返されることもある(後述のコラムを参照)。
また、セ試の地歴・公民、理科で「高得点科目を利用」する公立大や、セ試で理科を課さない文系・看護系の学部・学科も、志望変更の際に制約が少ないことから、駆け込み出願があるので、やはり注意してほしい。
【コラム】2次出願の時は要注意…「隔年現象」とは?
国公立大2次出願では、自己採点の集計結果だけでなく、過去の入試結果も参考にする。その際、私立に比べ受験機会が限られることもあり、「前年の反動」や、それが1年おきに繰り返される「隔年現象」が起こりやすい。例えば、ある学部で入試科目数を減らすと、志願者は増えて倍率もアップする。その翌年は、受験生の多くが「前年のように激戦になる」と考えて敬遠し、志願者が減って倍率も下がる。そして翌々年は「前年の倍率なら入りやすそう」と考えて挑戦し、志願者は増える……というサイクルがしばらく続くのだ。受験生心理としては無理もないが、入試結果はあくまで前年のもの。思わぬ激戦に巻き込まれたり、チャンスを逸したりしないよう、科目・配点などの条件を冷静に分析しつつ、なるべく初志貫徹したいものだ。
「2次試験で逆転」は本当に起こる!
センターが高得点でも安心は禁物。特に、2次の配点比率が高いと逆転が起きやすい
図表1に、駿台予備学校の「入試データバンク」の中から、金沢大学人文学類の前期日程について、2017年(以下、17年)のセンター試験の合否調査結果を示した。
17年入試では、配点が「セ試1,000点、2次600点」。入試結果は受験者191人、合格者107人、実質倍率1.8倍で、図表1のデータは受験者の約89%、合格者の約87%をカバーする。大学公表のセ試の合格者成績は「最高848.0点、平均769.1点、最低707.1点」で、本データの合格者の分布にほぼ合致する。
得点帯ごとの合格者・不合格者の分布表で、背景がグレーの部分に注目しよう。本データでは不合格者の最高が約800点で、合格者の最低は約700点。この差100点の範囲が“2次逆転”が起きた「合否混在ゾーン」で表中の合格者の約88%、不合格者の約70%が含まれる。
セ試で合格最低点の受験者が総合点の合格最低点を超えるには、2次で合格者平均(65.0%)を上回る得点率(66.2%)が必要だったが、それでも逆転は可能だ。逆にセ試で高得点を取っても安心はできない(2次が合格最低点<54.0%>の場合、セ試は78.0%が必要)。
さらに、熊本大学理学部の前期(図表2)も見てみよう。17年入試では、配点が「セ試450点、2次500点」。入試結果は受験者326人、合格者165人、実質倍率2.0倍で、図表2のデータは受験者の約86%、合格者の約87%をカバー。大学公表のセ試の合格者成績は「最高365.6点、平均318.0点、最低271.6点」で、本データの合格者分布にほぼ合致する。
本データの合否混在ゾーンは、不合格者の最高(約360点)と合格者の最低(約265点)の間、95点差の範囲であり、表中の合格者の約98%、不合格者の約83%が含まれる。セ試の満点が圧縮配点の450点であることを考えると、セ試の比率が高い金沢大-人文学類より、“2次逆転”のゾーンが広いといえる。
2次試験は英語・数学で差がつく
教科別の得点分布の特徴を、標準的なケースからつかもう。差がつきやすいのは英語と数学だ
【英語】得点差がつきやすいキー科目
英語は大半の大学で課されるが、A・B大学の例をみると、国語に比べて得点差がつきやすく、合否に大きな影響を与えている。
A大学の場合、文系だけに英語が得意な人も多く、受験者の平均点は得点率65%前後、合格者は110点~160点の範囲に多く分布。配点ウエートが大きいこともあり、英語の高得点者の多くが合格している。一方、B大学では理系のためか、受験者には低得点者も多い。合格者も50~140点に幅広く分布しているが、やはり英語での高得点者の合格率は高い。文理ともに、英語は合否を決めるキー科目といえる。大学による難易差はあるが、最低でも文系で60%以上、理系でも50%以上は得点したい。
【国語】比較的、差がつきにくい
国語は平均点レベルに得点分布が集中し、差がつきにくい。C大学は文系学部だけにD大学の理系学部よりも平均点が高く、高得点者の合格率も高い。逆にD大学の理系学部では50~150点と合格者の分布は幅広い。理系の場合、国語を課すケースが少ない上、配点もたいてい数学・理科に比べて小さいので、得点率が低くても合格する反面、高得点者でも合格しないことがある。とはいえ、不得意な場合でも50%以上の得点を目指してほしい。なお、制限字数以内で理由を説明したり、主旨を要約したりする設問で意外に差がつくという。
【数学】わかりやすい答案で部分点を確保
数学は文系・理系を問わず、得点差が大きい。できる人は満点に近くなるが、できない人は0点に近い得点になるからだ。
E大学の文系学部の場合、受験者・合格者ともに得点差が大きく、60%を超えるような高得点者の合格率は高い。文系では、数学が得意なら強力な武器となる。
F大学の理系学部では、出題レベルがやや難しく、受験者の平均は80点前後、合格者は幅広く分布している。合格には最低限40%以上は必要で、60%以上では大半が合格した。
メモを書き連ねたような答案でなく、論理展開、計算の過程、推論などを明確にし、採点者にわかりやすい答案作成を心がけ、きめ細かく得点しよう。2次試験の採点法は、減点主義ではなく加点主義。完答できなくても、部分点だけで合格している人は多いのだ。
【理科】高得点が合格への必須条件
理科の場合、受験者の平均点は、物理よりも化学の方がやや高い傾向がある。G大学・H大学の得点分布を見ると、理科の高得点者は大半が合格したことがわかる。全国的に理科の得点分布は安定しており、確実に合格するには60~80%の高得点が必要とされる。ただし、2次で理科2科目を課す大学で、なおかつ低倍率の場合は、不得意な方の1科目が30%程度の低得点率で合格したケースもみられる。
以上、2次試験の教科別に標準的な事例を示した図表3で、得点分布の特徴を見てきた。得点差がつく教科でもつかない教科でも、わかりやすい答案作成で着実な得点を心がけたい。
逆転に必要なものは「合格者平均点」だ!
センターの高得点者が2次でも高得点とは限らない。2次で合格者平均点を確保しよう
国公立大では、後期など一部を除き、セ試と2次の合計点で合否が決まる。その実態を、本誌取材のデータ(図表4:X大学-理系学部の前期の事例)で見てみよう。
同学部の入試科目・配点は、セ試が5教科7科目の450点、2次が数学・理科・英語各200点の計600点。合格者・不合格者の分布は、セ試を10点刻み、2次を30点刻みの得点帯に分け、双方が交差したブロックごとに、人数の多い少ないを色の濃淡(5段階。濃くなるほど人数が多い)で示した。ブルーは合格者(例:セ試380~390点、2次330~360点の範囲)を、イエローは不合格者(例:セ試360~370点、2次240~270点の範囲)を、グレーのブロックは合格者・不合格者の混在ゾーンを示した。また、セ試・2次合計の合格最低点を示す直線k(x+y=k)の右上部分が合格ゾーンとなる。
①セ試の得点は、受験者が330~410点に、合格者は360~410点(得点率80~90%)に集中。合格者平均は380点(約85%)程度。
②2次では、受験者は240~420点(40~70%)の範囲に集中。合格者は270~450点(45~75%)の幅にあり、集中するのは300~420点(50~70%)の得点帯である。
③合格者の大半は「セ試80~90%、2次50~70%」のゾーンにいる。その幅はセ試の10ポイント差に対し、2次は20ポイント差になる。マーク式のセ試に比べ、記述式の2次(特に数学・理科)は得点差が大きくなる。
④全体の得点分布はほぼ楕円形になり、セ試と2次の得点は相関関係にある。ただし、セ試が340~350点と低くても、2次で360~390点(60~65%)の高得点をとって合格した者もいる。逆に、セ試で400点近くをとっても、2次で240点(40%)程度しかとれず、不合格となっている。
ここで注目したいのは、セ試の高得点者が必ずしも2次の高得点者ではない、ということ。記述試験を常に意識した学習で、2次に適応した学力がついていれば、もしもセ試で目標の点数を取れなくても、2次の配点が高い大学・学部なら、ある程度は挽回が可能なのだ。
次に、セ試で合格最低点の場合、2次でどれだけとれば合格できたか、17年の大阪市立大(前期)のケースを見てみよう(図表5)。
同大学ではセ試・2次・総合点それぞれに、合格者の最低点や平均点を公表している。そこで、総合の合格最低点からセ試のそれを引き、「2次必要点」として算出し、さらに2次の合格者平均点と比べてみた。
これをみると、2次科目が国語・外国語(商・経済は数学も)の商・経済・法・文では、学部により得点率53~64%、2次科目が数学・理科・外国語の理・工でも、学科により得点率52~61%と、いずれも合格者平均点付近(ほぼ、上下3~4ポイントの範囲)の得点が必要だった。特に、医学部医学科では得点率76.1%と、合格者平均に達しないものの、全学の「2次必要点」の中で最もハイレベルな得点が必要だった。
きびしい目標ではあるが、“2次逆転”のためには、合格者平均点を確保できるまでレベルアップしておきたい。
強い意志と得意科目で逆転できる!
「文系で数学、理系で英語が得意」「熱意」「記述式が得意」の三拍子そろえば、逆転できる
ここまでの事例を踏まえ、2次逆転のポイントをまとめてみた。
◎“2次逆転ゾーン”とは?
セ試で比較的低得点の受験者が、2次で合格者平均レベルの得点を取り、合格するケースが多い。つまり、2次の合格者最低点と合格者平均点前後の得点の間が、合格・不合格が混じる逆転ゾーンとなることが多い。
◎逆転が起こりやすい条件は?
逆転ゾーンは、文系学部で狭く理系学部で広い傾向がある。また、セ試・2次の配点比率が「2次重視」で、2段階選抜がなければ広くなるが、セ試の配点が高いほど狭くなる。
◎逆転に有利な得意科目は?
得点差のつきやすい数学・英語がキー科目。特に「文系で数学が得意」「理系で英語が得意」であれば、逆転の可能性が高い。
◎逆転できる合格可能性の目安は?
自己採点時に2次逆転が可能なリミットを判断するには、多くの場合、合格可能性30~40%のラインが目安となる(予備校によって異なる)。もちろん、セ試・2次や科目間の配点比率によって、判断基準は上下する。
さらに、2次逆転できる受験生には、次のような特徴があるという。
(1)志望校に対する強い意志
「必ずこの大学に入る!」という強い意志は必須条件。これが最後の粘りにつながる。さらにセ試の失敗を引きずらず、2次対策に集中する切り替えの早さも必要だ。
(2)ハイレベルの得意科目がある
絶対の自信を持つ得意科目がある人は強い。その科目の配点が高ければ2次逆転のチャンスは広がる。また、科目数の絞られる2次に向けて、得意科目を集中的に勉強できるので、残り1か月で学力が飛躍的にアップするという。
(3)思考力・論理力重視の記述試験が得意
スピードを要求される試験より、じっくり考えさせる試験の方が得意で、論理構成のしっかりした答案が作れる人は、2次で真価を発揮する。
一方、2次で逆転されやすいのは、セ試が予想より高得点で合格可能性もA判定のため、安心してしまうケース。特に、記述式が苦手な人は気をつけよう。
私立大入試の“実戦”を活かす!
受験生は直前で伸びる。私立大入試の“実戦”を最大限に活用し、短期間で2次対策を完成
前期日程まであと1か月あまり。ただし受験生、特に現役生は、受験教科が絞られることもあり、この短期間に学力が「偏差値で3~5は上がる」という。急激な学力アップを実現するには、志望校の出題傾向を頭に叩き込むとともに、“実戦”の場を活用することが重要だ。
セ試や私立大入試を受けた後は、模試と同じように、失敗や違和感のあったところを必ず復習する(セ試は2次との共通科目のみ)。原因を突き止め、弱点を補強した上で、これまで受けた模試の解説や講評などを読むと、実感を伴って理解できるようになる。さらに、志望校で頻出する範囲や項目を、集中的に学習して蓄えた知識が、私立大入試という“実戦”を通して整理され、定着する。
セ試が好成績だった人は逆転されないために、予定より得点できなかった人は逆転を狙って、最後まで集中力を保っていこう。
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代(2018年2月号)」より転載いたしました。