国公立・私立とも“文高理低”の結果に。2017年も公私立の“文系人気”アップか!?
夏休みを前に、各大学の2016年(以下、16年)入試結果データが出そろった。ここでは、国公立大、私立大それぞれの一般入試結果を最終チェックし、17年の動向を予測。さらに、17年入試の最新情報も紹介する。
※この記事は『螢雪時代・2016年8月号』の特集より転載(一部、webでの掲載にあたり、加筆・訂正を施した)
一般入試の合格状況を総ざらい! 早慶など首都圏の難関私立大が難化、大規模改組の地方国立大が易化か
16年の一般入試結果を見ると、国公立大は「志願者・合格者ともに1%減」、私立大は「志願者4%増、合格者:前年並み」。私立大が文系を中心に倍率アップした。
公立大後期や私立大文系学部がやや難化、大規模改組した国立大が易化した模様だ。
学部系統別では、国公立・私立ともに理系で倍率低下が目立ち、「文高理低」となった。
国公立大:
国立大後期が倍率ダウン
公立大中・後期はアップ
国公立大の16年一般入試の実施結果を本誌で調査したところ、全体の集計では15年に比べ、国立大が「志願者2%減、合格者1%減」で、倍率(志願者÷合格者。以下、特に注記のない場合は同じ)が15 年・16 年とも4.2倍だったのに対し、公立大(別日程実施の2大学を除く)は「志願者2%増、合格者1%減」で、倍率は15 年4.6倍→ 16 年4.7倍にアップした。
日程別にみると(グラフ2)、国立大後期でやや倍率ダウンしたのに対し、公立大中期・後期はアップと対照的な結果になった。
センター試験(以下、セ試)の化学基礎・化学・英語リスニングなどの難化による得点伸び悩み(グラフ1)で安全志向が高まったのに加え、国立大で相次いだ学部改組(文系縮小、理系拡大、教員養成学部で教員免許取得を卒業要件としない課程を廃止)の影響もあり、文系志望者が国立大後期から公立大中期・後期へ流れたと見られる。また、文系では基礎科目とはいえ「理科2科目」の負担感を敬遠する傾向が根強いことも、理科を選択せずにすむ軽量科目型もある、公立大文系へ流れる要因になった模様だ。
各大学の倍率(全学の合計)の変動を見てみよう。難関校では、推薦入試を導入し後期を廃止した東京大が志願者25%減、ただし前期は前年並み(3.1倍)を保った。「特色入試」を導入した京都大は、法の後期復活で倍率アップ(2.8倍→2.9倍)。また、東京大からの併願が増えた東京工業大(4.4倍→4.5倍)・一橋大(4.3倍→4.4倍)が倍率アップ、名古屋大(2.7倍→2.6倍)・神戸大(3.9倍→ 3.8倍)がダウンした。準難関校では、千葉大(4.2倍→4.7倍)・首都大学東京(4.8倍→5.1倍)・広島大(3.0倍→3.2倍)が倍率アップ、横浜国立大(4.4倍→ 4.2 倍)がダウンした。
前述の改組を行った地方国立大は、岩手大(3.0倍→2.6倍)・福井大(4.3倍→4.0倍)・徳島大(5.0倍→3.7倍)・大分大(4.4倍→4.0倍)・宮崎大(5.3倍→4.4倍)など、軒並み倍率ダウン。一方で、高崎経済大(5.3倍→6.1倍)・都留文科大(3.8倍→5.1倍)・下関市立大(4.1倍→4.8倍)など、中期も実施する文系公立大の難化が目立った。
学部系統別(グラフ3)にみると、文系は文・経済がやや倍率アップ。一方、理系は医・歯・薬など、農を除いて倍率ダウン、特に歯・薬は易化した模様。志願状況と同様、倍率面でも弱めの「文高理低」状態といえる。
総合点の“合格者平均点”の
クリアを最終目標にしよう
「倍率」とともに気になるのが、合格者の最低点や平均点という「合格者データ」だろう。合格最低点は合否の分かれ目になる、いわゆる「ボーダーライン」。合格平均点は、総じて最低点より得点率(%)にして5~10p(ポイント)程度高い。合格最低点は「最低目標」として重要なデータといえるが、確実に合格を目指すには、「合格者平均点」のレベルまで学力アップしておくことが望まれる。
16年入試の例として、金沢大の前期日程の合格者データを見てみよう(表1)。総合点を得点率(%)に換算し、各学類を分野別にまとめて平均すると、文系(人間社会学域)で「最低64%・平均68%」、理工系(理工学域)で「最低62%・平均66%」、医療系(医薬保健学域)で「最低66%・平均70%」となる。合格するには、医療系で7割以上(医は8割以上)、文系・理工系で6~7割程度の得点が必要なのだ。また、合格者平均点をセ試・2次(個別試験)ごとに平均すると「文系=セ試73%・2次60%、理工系=セ試73%・2次61%、医療系=セ試76%・2次64%」となる。マーク式のセ試に比べ、記述式の2次の方が得点しにくいことがわかる。
このうち、配点がセ試重視の「国際学類」と、2次重視の「機械工学類」を比較してみよう。
国際学類の配点は「セ試900点、2次600点、総計1,500点」。合格者は、セ試では得点率69%~85%(平均75%)に分布し、最高・最低の差は16p。2次では得点率51~78%(平均60%)に分布し、最高・最低の差は27p。配点の少ない2次の方が最高・最低の差が大きく、セ試の得点である程度合否が決まったことがうかがえる。一方、機械工学類の配点は「セ試450点、2次650点、総計1,100点」。合格者は、セ試では得点率62%~83%(平均73%)に分布、最高・最低の差は21p。2次では得点率51~79%(平均62%)に分布し、最高・最低の差は28p。国際学類に比べ、セ試と2次で得点幅にあまり違いがなく、2次の得点力で合否が決まったことがうかがえる。
私立大:
志願者4%増、合格者は前年並み。
法など文系がやや難化、薬が易化
『螢雪時代』の私立大一般入試結果調査(529大学集計:志願者314.8万人)によると、15年に比べ「志願者4%増、合格者:前年並み」で、倍率は全体で15年3.3倍→16年3.4倍とややアップした。入試方式別にみると、各大学の独自入試は「志願者4%増、合格者1%増」で倍率は3.6倍→3.8倍にアップ。また、セ試利用入試(独自・セ試併用型を含む)は「志願者2%増、合格者1%減」と独自入試より合格者を絞り込み、倍率は2.7倍→2.8倍にアップした。
私立大の志願者増は、学内同時併願の受験料割引(以下、併願割)、インターネット出願(以下、ネット出願)の受験料割引(以下、ネット割)などの影響もあるので、バブル的な要素を割り引いて考える必要がある。とはいえ、好調な就職状況、理科の負担感による国立大敬遠、大規模改組に伴う国立大文系志望者からの併願増(セ試利用よりも独自入試で)などから、実際に志願者は増えたものとみられる。
一方、今年度(16年度)から段階的に、定員規模の大きな大学では、定員超過率が厳しく抑制されている(定員管理の厳格化)。このため、大都市圏(特に首都圏)の大規模総合大学を中心に、合格者を絞り気味に出す傾向が強まった。
志願者数の上位10大学(表2)の入試結果を見ても、志願者増の一方で、合格者を抑え目に出したことがわかる。このため、明治大・早稲田大など、10大学中8大学で実質倍率(受験者÷合格者。東洋大は志願者÷合格者)がアップした。その中で、志願者大幅増の法政大が、さらに上回る増加率で合格者を出し、倍率ダウンしたのが目立つ。
この他、おもな大学で実質倍率が比較的大きく変動したのは次の通り(*=志願者÷合格者)。
(1)倍率アップ 【首都圏】獨協大2.5倍→2.9倍、青山学院大5.5倍→5.8倍、学習院大2.8倍→3.9倍、慶應義塾大4.2倍→4.5倍、國學院大3.9倍→4.6倍、駒澤大3.1倍→3.6倍、成城大3.5倍→3.8倍、専修大2.7倍→3.3倍、日本女子大2.2倍→2.7倍 【京阪神ほか】愛知大2.6倍→3.0倍、南山大2.3倍→2.8倍*、京都女子大2.2倍→2.6倍、同志社女子大3.5倍→3.8倍、龍谷大3.7倍→4.3倍、摂南大3.6倍→4.3倍、神戸学院大2.6倍→2.9倍、西南学院大3.0倍→3.4倍、福岡大3.1倍→3.5倍 (2)倍率ダウン 【首都圏】国際基督教大3.1倍→2.8倍、芝浦工業大4.4倍→3.8倍、上智大4.9倍→4.6倍、武蔵大4.7倍→3.8倍、立教大5.0倍→4.7倍* 【京阪神】関西学院大3.2倍→2.7倍* |
地区別の集計をみると(グラフ4)、関東・甲信越など4地区で倍率アップ。志願者がほぼ前年並みに留まった北陸・東海も合格者を減らすなど、全体的に合格者を抑え目に出している。なお、中国・四国は「私立→公立化」した山陽小野田市立山口東京理科大(志願者197%増・合格者18%減)の影響が強く出た。
グラフ6で文理別・難易ランク別の志願者動向(5月上旬現在:駿台予備学校の集計)を見てみよう。ここでいう難易ランクは、同じ大学内でも学部によって異なるが、おおむね、Aランクは難関校や難関医科大、Bランクは準難関校、Cランクは中堅上位校、D~Eランクは中堅クラス以降を指す。
文系が全ランクでまんべんなく増加したのに対し、理系はA・C・Dランクの志願者が減りEランクが大幅増と、前年から見られた文系の人気回復傾向が、16年ははっきりと表れた。理系のC・Dランクの減少は、就職や資格取得を見据え、理系に転じていた受験生層が、好調な就職状況や理科の負担感から“文系回帰”したものと見られる。
全国の私立大を、大学単位の競争率(実質倍率)グループ別に分類すると(グラフ7)、4.0倍以上の大学と「2.9~2.0倍」の大学が減り、その間の「3.9~3.0倍」の大学が増えたのが注目される。安全志向から高倍率の大学を敬遠する一方、「合格者絞り込み」で低倍率校が倍率アップする、2つの方向性の中間に位置する中堅上位校の厚みが増した感がある。
学部系統別にみると(グラフ5)、国公立大と同じく「文高理低」状態を示している。文系は志願者大幅増の法、経済・経営・商をはじめ、全面的に倍率アップし、特に法は難化した模様だ。一方、理系は理、農・獣医畜産・水産、医、歯、薬と倍率ダウンが目立ち、特に薬は易化したものとみられる。また、看護・医療・栄養は新設が多く相次ぎ志願者が分散し、おもに医療系・栄養系がやや易化した模様だ。
合格ライン周辺から私立大の入試の実態を把握しよう
倍率に続き、私立大一般入試の「合格ライン」を見てみよう。国公立大と同様、合格への道標となる大切なデータだ。
グラフ8に、龍谷大‐経営(A日程:文系型スタンダード方式)の16年入試で、合格ライン付近の人数分布を示した。同方式の科目・配点は「英語」「国語」「世界史、日本史、政治・経済、数学から1」の3科目で各100点、計300点。受験者数2,075人に対し合格者数316人で、実質倍率は6.6倍。合格最低点は218点(得点率72.7%)だった。その分布状況を見ると、
①合格最低点を含め、上10点幅のゾーンに144人と、全合格者の約46%が集中している。
②不合格者の最高点(217点)を含め、下10点幅のゾーンに202人もいる。
③合格最低点で合格したのは17人、1点差での不合格者も24 人いる。
合格ライン付近では、総合的にほぼ同じ学力の受験生がひしめき合い、わずか1点差で合否が決まる。では、“1点差”を争う合格ラインを、どうやって突破するのか? グラフ8の右側に、合格最低点とその1点下の受験者から、特徴のある得点パターンをピックアップした。ここからわかるのは、「得意科目」の大切さと、「苦手科目」克服の必要性だ。
3科目入試では、1科目で得点が伸びなくても他の科目でカバーできることが多い。AさんやBさんのように絶対的な得意科目があれば、他の2科目が普通、または1科目だけやや苦手であっても心強い。ただし、CさんやDさんのように苦手科目の失点が大きすぎると、カバーしきれず1点差に泣くことになる。得意科目の優位を生かすには、苦手科目を「やや苦手~普通」までにグレードアップし、6割以上の得点はほしい。私立大一般入試で何とか合格ライン(7割台)をクリアするためには、得意科目(8割台)、準得意科目(7割台)を持ち、残り1科目で普通(6割台)をキープしよう。
17年入試の変更点をチェック! 山形大・横浜国立大・新潟大などで全学規模の学部改組を予定!
ここからは、4・5月号に続き、6月下旬までに判明した、おもな17年入試の変更点を紹介する。
国公立大では、国立大における大規模な学部改組が目立ち、16年と同様、「文系学部縮小、理系学部拡大、教育系の教員養成機能への特化」が続く。
私立大ではネット出願への全面移行や、英語外部試験利用などの入試改革が注目される。
ネット出願:
京都大・九州大や早慶など、新規導入で全面移行する大学が続出
16年に私立大の4割以上が実施した「ネット出願」は、17年も導入校が増え、過半数を超えるのは確実だ。しかも全面移行、つまり紙の願書を廃止する大学が大幅に増える見通しだ。
国公立大では、京都大・九州大・九州工業大がネット出願を導入し、紙の願書を廃止。既に実施している広島大も、紙の願書を廃止する。一方、山口大と宮崎公立大もネット出願を導入するが、こちらは紙の願書と併用する。
私立大では、慶應義塾大・立教大・早稲田大や、津田塾大・東京女子大・日本女子大が一般入試(慶應義塾大・津田塾大以外はセ試利用を含む)でネット出願を導入し、紙の願書を廃止。また、東北学院大では一般前期・セ試前期でネット出願を導入(紙の願書と併用)する。
この他、北里大・大阪体育大・阪南大・川崎医療福祉大などでネット出願を導入する予定(対象となる入試は各大学で異なる)。
既にネット出願を実施している大学では、成蹊大・専修大・法政大・明治学院大・立命館大・関西大・福岡大がネット出願に全面移行(一部方式を除く)し、紙の願書を廃止する。また、東海大・愛知学院大・広島修道大などもネット出願に全面移行(一部方式を除く)する。
今後も、秋以降の募集要項の発表までに、ネット出願を導入したり、紙の願書を廃止したりする大学が続出するものと見られる。
英語外部試験利用:
九州工業大・中央大・早稲田大・関西大などが一般入試で導入
グローバル化の進展に対応するため、英語教育は実践的な運用能力向上へ向け、4技能(読む、聞く、書く、話す)を総合的に評価する方向に変わってきた。そして、2020年以降に予定される「入試改革」では、自ら課題を見つけ学ぶ力や論理的思考力・表現力とともに、大学入試の段階で英語4技能全てを判定する必要性が求められている。
このため、従来の入試方式の枠組みで、独自試験やセ試の英語の代わりに、4技能を測定できる「英語外部検定試験」を利用する方式の導入が加速している。利用方法は大きく、①出願資格、②見なし満点・得点、③加点、の3パターンに分かれる(図1)。以下、一般入試で新規に利用する事例の一部を示した。なお、既実施校では、上智大の全学部統一日程「TEAP利用型入試」で、出願資格(TEAP)について、全学部が4技能全ての利用に統一される。
* * *
◎九州工業大 工・情報工の前・後期のセ試で、新たに英語外部試験の利用が可能に。学部指定の等級・スコアを点数換算し、工の前・後期は英語に加点、情報工の前・後期は英語リスニングの素点より高ければ換算点に置き換える。
◎宮崎大 地域資源創成の前期の2次で、新たに英語外部試験を利用。級・スコアにより、満点を上限として英語に加点する。
◎鹿児島大 全学の前・後期のセ試で、新たに英語外部試験の利用が可能に。指定の級・スコアを満たせば、セ試の英語を満点と見なす(ただし、外国語の受験は必要)。
◎青山学院大 国際政治経済の個別学部日程B方式で、英語リスニングを除外し、新たに英語外部試験(英検準1級など)を出願資格とする。また、経済・経営の個別学部日程で、英語にTEAPを利用する方式(経済はB方式、経営はC方式)を新規実施(読む、聞くの2技能で判定)。
◎芝浦工業大 一般入試で、英語資格・検定試験利用方式を新規実施。学部指定の基準点・基準級を上回れば、一般前期の英語以外の科目で合否を判定する。
◎聖路加国際大 看護学部の一般入試で、理科を2→1科目に軽減し、英語で新たに英語外部試験を利用可能にする(例:英検準1級=英語を免除し80点と見なす、英検1級=満点と見なす)。
◎専修大 全学部の一般入試(A・AS・D・E・Fの各方式、全学部統一入試)で、新たに英語外部試験を利用可能にする(例:英検2級=英語を免除し80点と見なす、英検準1級=満点と見なす)。
◎中央大 経済・文・総合政策の一般入試で「英語外部検定試験利用入試」を新規実施。学部指定の基準点・基準級を上回れば、一般入試の英語以外の科目で合否を判定する。
◎東洋大 前期一般入試で、英語外部試験利用の利用が可能に(出願時登録)。指定の基準点・基準級に応じて、同大学の英語試験の得点に換算する。従来の英語試験を受験してもよく、その場合は高得点の方で合否を判定する。
◎法政大 経済(国際経済)の一般入試で、英語外部試験利用入試を新規実施する。
◎明治学院大 経済・国際・心理の全学部日程で、英語外部検定試験利用型を新規実施。指定のスコア・級を上回れば、英語以外の2教科で合否を判定する。従来の3教科型との同時併願も可。
◎早稲田大 文・文化構想の一般入試で、英検・TEAPなど英語外部試験(4技能)を利用する「英語4技能テスト利用型」を新規実施。学部指定の級・スコアを上回れば、一般入試の国語・地歴で合否判定する。募集人員は「文50人、文化構想70人」。
◎愛知大 全学部のセ試利用前・後期の英語で「外部英語活用型」を新規実施(指定のスコア・級以上なら英語を満点と見なす)。
◎関西大 文・外国語の一般入試で、新たに英語外部試験を利用する。文は学部個別日程で「英語外部試験利用方式」を新規実施し、出願資格として利用。外国語は全学部日程の2教科型英国方式において、基準を満たせば英語を満点と見なす。
◎甲南大 全学部のセ試利用入試の英語で「外部英語活用型」を新規実施。
◎西南学院大 全学部のセ試利用前期の英語で、新たに英語外部試験を利用可能にする(例:英検準1級=満点と見なす)。
●TEAPとは?
TEAP(Test of English for Academic Purposes:アカデミック英語能力判定試験)とは、上智大と日本英語検定協会が共同開発した、大学で学習・研究を行う際に必要とされる総合的な英語運用力(英語で資料や文献を読む、講義を受ける、意見を述べる、文章を書く、など)を測定するテスト。「読む、聞く、話す、書く」の4技能で構成され、レベルは英検準2級~準1級程度とされる。16年は、年3回(7・9・11月)、全国11会場で実施し、複数回受験が可能。新たにCBT(コンピュータを利用したテスト)を導入する(16年は10月に、東京・大阪で実施)。
国公立大:
17年も文系縮小、理系拡大の方向。5大学で学部を増設
以下の変更点のうち、推薦入試・一般入試については、原則として国公立大は4月号、私立大は5月号に掲載したものを除いた。
●国立大の大規模改組
16年度に続き、17年度も国立大で大規模な学部改組が相次ぐ。13年に文部科学省が出した機能強化策「国立大学改革プラン」を基に、各大学で改革案が検討された結果だ。
全体に、①教員養成系学部の教員養成機能への特化と、教員免許を卒業要件としない課程の廃止、②人文・社会科学系学部の縮小、③理工・農学系学部の拡大、④上記の①②による定員削減分で、地域創生・文理融合型の学部を増設、という方向性は16年度と変わらない。また、複数学科を統合し、入学後に専門分野を決めるシステムを導入するケースも増えている。
その中で、学部を増設するなど、規模の大きな改組は次の通り(茨城大は図2も参照)。公立大でも、宮城大で全学的な改組を予定している(図3を参照)。以下は全て予定で、新設学部等の名称は仮称。カッコ内の人数は定員を示す。
* * *
◎山形大 人文学部を「人文社会科学部」に改組、2→1学科(5コース)に統合し、定員減(300人→290人)/地域教育文化学部を「8→2コース」に統合/理学部を5→1学科(6コース)に統合し、定員増(185人→210人)/工学部を「8→6学科」に再編し、定員増(620人→650人)
◎茨城大 人文学部を「人文社会科学部」に改組、2→3学科に再編し、定員減(395人→360人)/教育学部で、情報文化・人間環境教育の2課程を募集停止し、教員養成課程を定員増(215人→240人)/農学部を3→2学科に再編し、定員増(115人→160人)
◎東京海洋大 海洋資源環境学部(105人:2学科)を新設/海洋科学部を「海洋生命科学部」に改組、「4学科→3学科・水産教員養成課程」に再編し、定員減(275人→170人)
◎横浜国立大 都市科学部(248人:4学科)を新設/教育人間科学部を「教育学部」に改組し、学校教育課程に特化、人間文化課程を新設学部に移行する/理工学部を4→3学科に改組、建築都市・環境系学科を新設学部へ移行する/経済学部を「2→1学科」に統合/経営学部を「4→1学科」に統合し、夜間主コースを募集停止
◎新潟大 創生学部(65人)を新設/教育学部で学習社会ネットワーク・生活科学・健康スポーツ科学・芸術環境創造の4課程を募集停止/理学部を「6→1学科(7プログラム)」に再編・統合し、定員増(190人→200人)/工学部を「7→1学科(9プログラム)」に再編・統合し、定員増(480人→530人)/農学部を「3→1学科(5プログラム)」に再編・統合し、定員増(155人→175人)
◎名古屋大 工学部を「5→7学科」に再編/情報文化学部を「情報学部」に改組し、「2→3学科」に再編
◎大阪教育大 教育学部で、教員養成系の4課程(幼稚園、学校教育、小学校教員5年課程、特別支援教育)を、初等教育(幼児教育・小学校教育の2専攻)・学校教育(特別支援教育・小中教育・中等教育の3専攻)の2課程に改組・統合し、教員養成課程全体(養護教諭課程を含む)の定員増(525人→550人)を行う。また、教養学科を「教育創生学科」に改組し、定員減(405人→350人)を行う
◎鳥取大 地域学部を「4→1学科(3コース)」に統合し、定員減(190人→170人)/農学部で、学科改組(生物資源環境:6コース→生命環境農:4コース)と定員増(235人→255人)を行う
◎島根大 人間科学部(80人)を新設/法文学部で定員減(225人→185人)/教育学部で人間生活環境教育主専攻を廃止し、定員減(170人→130人)
◎琉球大 工学部を「4→1学科(7コース)」に統合し、夜間主コースを廃止。募集は学部一括で実施、入学時に各コースに仮配属し、2年進級時に最終的に配属を決定/教育学部で生涯教育課程を募集停止し、学校教育教員養成課程を定員増(100人→140人)
この他、以下の新設や改組が予定されている。
【国立大】滋賀大で「データサイエンス学部」を新設。神戸大で国際文化・発達科学の2学部を「国際人間科学部」に統合する。
北見工業大‐工を「6→2学科」に、宇都宮大‐国際を「2→1学科」に統合。京都大‐医(人間健康科学)を「4専攻→3コース」に再編し、定員減(143人→100人)。高知大‐理を「理工学部」に改組し「2→5学科」に再編する。
教員養成系では、愛知教育大‐教育で現代学芸課程を募集停止し「教育支援専門職養成課程」を新設。また、熊本大‐教育で地域共生社会・生涯スポーツ福祉の2課程を、鹿児島大‐教育で生涯教育総合課程を募集停止する。
【公立大】都留文科大‐文で「国際教育学科」を、富山県立大‐工で「医薬品工学科」を増設。一方、岐阜薬科大‐薬で4年制の薬科学科を募集停止し、6年制の薬学科を定員増(80人→120人)。16年4月に「私立→公立」に移行した福知山公立大も定員増(50人→120人)を行う。
●推薦・AO入試
滋賀大‐データサイエンスでセ試を課すAOを新規実施。岐阜県立看護大‐看護、高知工科大‐環境理工学群でセ試を課す推薦を(岐阜県立看護大は全国枠)、北九州市立大‐地域創生学群でセ試免除推薦を新規実施する。また、弘前大‐人文社会科学・理工・農学生命科学でセ試免除推薦を、医(保健)でセ試を課す推薦をそれぞれAOに移行する。一方、東京海洋大‐海洋工でセ試免除推薦を廃止する。
●一般入試
【国立大】新潟大‐工の前・後期で、学部改組に伴い「分野(9プログラムを5分野に分類)」別募集に移行し、同‐理の前期の選抜方法を、セ試の配点や2次の科目でA~Cに複線化。
小樽商科大の前期で学外試験場(青森)を新設。滋賀大‐データサイエンスが「前期60人、後期20人」で実施。九州大‐医(医)の前期で出願書類に志望理由書を追加する。
【公立大】16年4月から「私立→公立」化した山陽小野田市立山口東京理科大‐工では、一般入試を「前期96人、中期26人」で実施する。前期はA・Bの2方式で実施(各48人。A方式=セ試7または8科目、B方式=セ試4または5科目)。同じく「私立→公立」化した福知山公立大‐地域経営は、一般入試を「前期64人(5教科型45人・3教科型19人)、後期13人」で実施する。
岐阜県立看護大‐看護で後期を募集停止。奈良県立大‐地域創造で、募集人員を「前期50人→65人、中期65人→50人」に変更。
群馬県立女子大‐国際コミュニケーションの前期で、2次を「英語→面接」に変更。静岡県立大‐食品栄養科学の前・後期で2段階選抜を廃止し、同‐国際関係の前期で、2次の英語の配点を400点→200点に変更。新見公立大‐看護で2次の配点を、前期で「小論文70点→100点、面接30点→100点」、後期で「面接100点→200点」にアップする。
私立大:
東洋大・立教大・近畿大など、大規模大学で大幅定員増!
●新増設・改組等
17年度の私立大学の新設予定、および学部・学科等の増設予定が文部科学省から発表されている(大学は前年10月末認可申請。学部・学科等は3月末認可申請分。表3を参照)。
大学の新設予定は6大学(6学部)。また、27大学で学部・学科の増設を認可申請中だ。その他に設置届出として、①芝浦工業大‐建築、東洋大‐情報連携、南山大‐国際教養、大阪工業大‐ロボティクス&デザイン工などの学部増設や学科増設、②東洋大(国際地域→国際、国際観光)、九州産業大(工、情報科学→理工、生命科学、建築都市工)などの学部改組、③立命館大‐情報理工(4→1学科に統合)などの学科改組が予定されている。
全体としては、看護・医療系、栄養系、教育・保育系、グローバル系の増設予定が多い。また、理工系の大規模な改組が目立つ。
●大規模私立大の定員増
16年から始まった定員管理の厳格化は、17年以降も続く。入学定員超過率はさらに抑制され、補助金の不交付措置のラインは、大規模校(収容定員8千人以上)で「15年1.20倍→16年1.17倍→17年1.14倍」、中規模校(同4千人~8千人)で「15年1.30倍→16年1.27倍→17年1.24倍」となる。この措置が16年私立大入試の「合格者絞り込み→倍率アップ」につながったのだが、17年以降のさらなる厳格化を背景に、定員増が私立44大学(7,354人増)から申請され、6月末に認可された。超過率制限オーバーのリスクを避ける狙いと見られる。特に増加数が多かったのは、青山学院大(318人増:8%増)、東京理科大(325人増:9%増)、東洋大(569人増:8%増)、立教大(454人増:11%増)、立命館大(472人増:7%増)、近畿大(920人:13%増)といった、大都市圏の大規模校だ(カッコ内に定員の対前年比も示した)。
●推薦・AO入試
【AO入試】専修大‐法1部、東京女子大‐現代教養、日本大‐法1部、同志社大‐生命医科学などでAO入試を新規実施する。
【推薦入試】学習院大‐経済、昭和大‐薬、帝京大‐医、早稲田大‐人間科学、甲南大‐経済などで公募推薦を新規実施。立教大‐経済も自由選抜入試を導入(英語外部試験利用)する。
玉川大で地域創生推薦(首都圏の1都3県以外の教員志望者が対象)を新規実施。また、新設予定の東洋大‐情報連携・国際で、AO型推薦「Web体験授業型入試」を新規実施。一方、同志社大‐生命医科学で公募推薦を廃止する。
●独自入試(一般入試)
工学院大‐工の一般S・A方式、セ試C-Ⅰ方式で、学部総合形式(入学後に学科を選ぶ)の募集を追加/専修大の全学部統一入試で、学外試験場を仙台・郡山・新潟・長野・名古屋に増設/玉川大で全学統一入試前期と同日に、給付型奨学金入試を新規実施(同時併願可)/帝京大‐医の一般入試の選考を2段階とし、課題作文を追加/東海大で文系学部統一入試を新規実施(3科目受験の高得点2科目判定で、同時に3併願まで可能)/東京農業大で一般入試の名称を「Ⅰ期→全学部統一型、Ⅱ期→学部志望型」に変更し、学部志望型を2月末に実施(実施学部を1→6に増加。試験日を3月上旬から繰り上げ)/東京理科大の一般B方式で、受験科目が同じなら同一試験日の2学科まで併願可に(受験料の併願割引あり)/日本大‐文理・経済・芸術・生物資源科学がN方式1期(全学規模の共通入試)に新規参加。また、法のA方式2期で2学科以上の同時併願と受験料割引を導入/南山大‐総合政策の一般入試でB方式を廃止/関西大‐外国語の一般後期で「英語+1教科選択方式」を新規実施/近畿大‐農・生物理工・工・産業理工で学部内の複数学科同時併願が可能に。また、同‐医の一般後期で面接を追加/甲南大‐文・経済・法・経営・マネジメント創造の一般前期で2教科型を新規実施する。
●セ試利用入試
専修大のセ試利用入試で受験料の併願割引を導入(1出願も2出願も1万7千円)/成蹊大‐経済で独自・セ試併用5科目型のP方式を新規実施/帝京大‐医のセ試利用入試で、2次に課題作文を追加/東洋大のセ試利用入試で、5教科型の実施学部・学科を1学部1学科→7学部8学科に増加/法政大‐国際文化でセ試B方式(3教科型)を新規実施/神奈川大‐経済のセ試前期に4教科型を追加/中京大のセ試前期で、法・経済・経営・スポーツ科の3科目型、法・経済・経営・総合政策・スポーツ科の4・5科目型が英語必須に。また、セ試後期で「2→3科目型」に負担増、5科目型を追加/同志社大のセ試利用入試で、理工(エネルギー機械工)が5科目方式を、社会(社会・教育文化)も小論文を廃止/武庫川女子大の4学部(文、健康・スポーツ科学、生活環境、薬)の一般D(セ試利用)で2教科型を廃止/福岡歯科大‐口腔歯のセ試利用入試で小論文を廃止する。
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以上、詳細は国公立大の選抜要項、私立大の入試ガイドなどで必ず確認してほしい。
17年も私立文系人気が続くか。「合格者絞り込み」は要注意
最後に、17年一般入試がどう動くのか予測してみよう。ポイントは3つある。
(1)受験生数はわずかに増加する!?
4(6)年制大学の受験生数は、16年の約1%減に対し、18歳人口の増加に伴い、再び増加する見込み。66万7千人と、16年に比べ約1%増加するとみられる(本誌推定)。これに比例し、セ試の志願者も微増が見込まれる。
(2)セ試の平均点がやや下がる!?
17年度のセ試は、16年に平均点が大幅ダウンした化学(基礎・発展)、数学Ⅰ・Aなどが、反動で易化すると見られる。一方、平均点が2年連続で大幅アップした国語や、生物(発展)は難化が見込まれる。また、英語リスニングは引き続き「英語4技能判定」を意識した新傾向の出題が予想されるため、易化は考えにくく、手強い状況が続くものと見られる。以上のことから、セ試の平均点はやや下がりそうだ。
(3)前年に続き国立大の改組が影響!?
前年と同様に、国立大の学部改組は、その多くが「文系学部縮小、理系学部拡大、教員養成系学部の教員養成機能への特化」を特徴とする。このため、国立大文系志望者が、公立大や私立難関~中堅上位校の文系学部の併願を増やすことが考えられる。一方で、理系志向が落ち着いたにもかかわらず、募集枠が拡大された国立大理系は、倍率ダウンによる易化が予想される。
以上のことから、一般入試の志願者数は、公立大と私立大の文系学部で増加が見込まれる。
大都市圏の大規模私立大に対して、定員超過率の制限がさらに厳しくなるため、そうした大学では合格者を絞り込む可能性が高いので要注意。ただし、前述の定員増を行う大学は多くの志願者を集めそうだが、門戸が広がる分、倍率は前年並みか、小幅なアップに留まりそうだ。
学部系統別では、好調な就職状況が続く限り、国公立大・私立大ともに、法・経済を中心に「文高理低」傾向が続きそう。薬はここ2年間の大幅減の反動と、国家試験の合格率アップ(15年63.2%→16年76.8%)でやや人気回復しそうだが、歯は引き続き志願者減の見込み。また、看護・医療・栄養系は増設が多いものの、受験生の「文系回帰」傾向から志願者増には至らず、既設の学部・学科は易化しそうだ。
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代(2016年8月号)」より転載いたしました。