国立大「文系縮小」などで併願が増加、相対的な「文高理低」状態に!
2016年私立大入試について、難関私立大の一般入試を中心に、人気度を示す「志願者動向」と、難易変動の指標となる「実質倍率」について見ていく。また、2017年入試の最新情報も紹介する。
※この記事は「螢雪時代(2016年5月号)」の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)
近畿大が3年連続で志願者数トップ。日本大・法政大・明治大・早稲田大とあわせ、5大学が”10万人超え”!
「定員管理の厳格化」で倍率アップ。早稲田大・南山大・龍谷大がやや難化、関西学院大がやや易化か!?
公募制推薦は首都圏・京阪神ともに合格者絞り込みが目立つ。早稲田大・京都産業大・龍谷大などが難化か
17年の私立大入試はここに注目!
早稲田大・中央大の一般入試で英語外部試験利用方式、東京女子大でAO入試を導入!
近畿大が3年連続で志願者数トップ。日本大・法政大・明治大・早稲田大とあわせ、5大学が”10万人超え”!
2016年私立大一般入試(おもに2月入試)の志願者数は、前年比5%増加した。就職状況の良好さ、国立大の「文系縮小・理系拡大」の学部改組、センター試験の数学Ⅰ・A、化学基礎・発展の難化が、私立大文系に“追い風”となった模様。学部系統別では、法・経済の志願者増が目立ち、相対的な「文高理低」となった。
受験生数はわずかに減ったが一般入試の志願者は5%増
旺文社では、学部募集を行う全国の私立大学(578大学。通信制を除く)に対し、2016年(以下、16年。他年度も同様)の一般入試の志願者数を調査した。3月中旬現在で集計した確定志願者数のデータは「201大学:約275.1万人」にのぼる。この集計は2月に行われた各大学の独自入試(大学が独自の試験問題等で行う入試)とセンター試験(以下、セ試)利用入試を主な対象とし、2月下旬~3月の「後期募集(セ試利用含む)」を一部集計に加えた。
その結果、私立大一般入試の志願者数は、15年の同時期に比べ約5%増加したことがわかった。今後発表される大学の志願者数を加えても、最終的に私立大の一般入試志願者数は「4%程度の増加」に落ち着きそうだ(グラフ1)。
ちなみに、16年の4(6)年制大学の受験生数は、本誌の推定では15年より約4千人(約0.6%)減る見込み。私立大の志願者数は、受験生数の微減にもかかわらず増えたことになる。ただし、さまざまな入試日程・方式等を合計した「延べ志願者数」なので、学内併願などの重複を除いた実質的な志願者数は、見かけほど増えていないものとみられる。
セ試の数学Ⅰ・A、化学の難化も影響。大学の独自入試で志願者増が目立つ
私立大一般入試の志願状況を方式別に見ると(グラフ2)、大学の独自入試が5%増加、独自・セ試併用型(独自入試の指定科目と、セ試の高得点または指定科目を合計して判定)が8%増加したのに対し、セ試利用入試も増えてはいるが、2%増に留まった。
これには、国立大の志願者が減少(2%減)した理由がほぼあてはまる。国立大の改組と、セ試の理科に対する負担感、同じくセ試の数学Ⅰ・A、化学(基礎・発展)の平均点ダウンだ。
16年度で相次いだ国立大の「教員養成学部における教員養成以外の課程廃止、文系学部縮小、理系学部拡大」の改組は、国公立大文系志望者の出願に影響を及ぼした。「教員養成以外の課程」は、文系志望者の“受け皿”になっていたケースが多い。これが廃止された影響は大きく、文系学部の縮小とあいまって、代わりとなる受け皿が不足した。好調な就職状況を受け、文系人気が復活し(文系回帰)、理系人気が落ち着いたにもかかわらず、文系の募集枠が縮小される「ねじれ現象」のため、国立大文系志望者は、私立大文系学部の2月入試への併願を増やしたものと見られる。
また、セ試の理科では、「基礎を付した科目(以下、理科基礎)」を受ける場合、2科目必須となるが、負担に感じる文系受験者はいまだに多い。理系にとっても「基礎を付さない科目(以下、理科発展)」2科目の受験は、それなりに負担となる(特に医療・看護系)。こうした“負担感”に加え、16年のセ試では、国語の平均点が大幅アップ(=易化)したものの、数学Ⅰ・A、化学(基礎も発展も)はダウン(=難化)した。「無理せず現役で」という近年の受験生気質もあって、文系・理系ともに“安全志向”が強まり、国公立大志望者が駆け込みで私立大の、しかもセ試利用入試ではなく、独自入試との併願を増やした模様だ。
実は、秋の公募推薦の段階から私立大人気が高まり、しかも合格者を絞り込む傾向が強まったため、おもに関西地区で推薦不合格の“再チャレンジ組”が2月の一般入試に流入した模様。さらに、セ試利用も含めた3月入試(後期募集)は12%も増加したが、これも2月入試(特に首都圏)で合格者を絞り込む傾向が見られたため、あくまでも現役合格を目指す“再チャレンジ組”が、3月入試に流入したものと見られる。つまり、公募推薦から続く“玉突き”現象なのだ。
首都圏の大規模大学が人気回復、「ネット割」効果が出た大学も
全国6地区ごとの志願動向を見ると(グラフ3)、全地区で志願者が増えたが「大幅増=中国・四国/増加=関東・甲信越、関西、九州/微増=北海道・東北、北陸・東海」といった違いが見られた。中国・四国の18%増は、4月に「私立→公立」化した山陽小野田市立山口東京理科大(旧:山口東京理科大)で、志願者が約3倍超に膨れ上がった影響が大きい(学費が減額されるため。表2を参照)。
注目すべきは、関東・甲信越、中でも首都圏の増加だ。北陸新幹線の開通効果などもあり、首都圏の大規模大学の“求心力”が戻りつつあるようだ。関西も増加しているが、他地区からの流入というより、おもに地区内の併願増と見られる。また、北陸・東海(特に東海地区)が微増に留まったのは、15年に大幅に増加した反動といえる。
16年私立大一般入試では、インターネットを利用した出願(以下、ネット出願)を実施する大学が前年比で約5割も増加し、私立大全体の約4割が実施するに至った。また、ネット出願を実施する大学のうち、約5割が受験料割引(以下、ネット割)を実施するに至った。
急速な普及で、ネット出願・ネット割の希少性が薄れ、ネット出願の利便性や、ネット割の「お得感」も、受験生(特に導入が先行していた関西地区)には当然のものとなりつつある。
このため、実施大学に志願者増をもたらす「ネット出願・ネット割」効果は薄れつつあるが、首都圏だけは様相が異なる。受験料割引を伴うネット出願を導入した獨協大(30%増)・専修大(17%増)、ネット割を導入した文教大(19%増)が志願者大幅増。こと首都圏に関する限り、「ネット出願・ネット割」効果が、他地区に遅れてあらわれたといえよう。
法・経済など文系は軒並み増加。理系では薬が大幅減、農も減少
次に学部系統別の志願状況を見てみよう(グラフ4)。就職状況の良好さを反映し、法、経済・経営・商の大幅増をはじめ、文系学部の志願者は軒並み増加した。一方、理系も医、医療・看護が増加、理・工もやや増加したが、薬が2年連続で大幅減、農・水畜産・獣医もやや減少するなど文系ほどの勢いはなく、14年までの「文低理高」から、15年の「文理均衡」を経て、16年は相対的な「文高理低」状態となった。
文系分野の全面的な増加は、前述の国立大の改組(教員養成以外の課程廃止、文系学部縮小、理系学部拡大)も“追い風”になったといえる。特に、募集人員の多い法、経済・経営・商の大幅増が、私立大全体の志願者数を押し上げたと言っても過言ではない。また、国際・国際関係・外国語は、ここ数年の「グローバル系人気」に加え、学習院大‐国際社会科学、名城大‐外国語、近畿大‐国際の新設が大きく影響した。
一方、農・薬の志願者減は、セ試の化学が難化した影響が色濃い。さらに、薬は14年まで難化が続いたのに加え、薬剤師国家試験の合格率低迷(14年60.8%→15年63.2%)も敬遠材料となった模様だ。同じく、歯も国家試験の合格率低迷(14年63.3%→15年63.8%)が、志願者が伸びなかった要因と見られる。
医の増加は、実に37年ぶりの設置認可となった、東北医科薬科大(旧:東北薬科大)の医学部新設の影響が大きい。同医学部の開設初年度の一般入試は、募集100人に対し、2,463人の志願者を集めた。この他、医療・看護、家政・生活科学の増加は、医療・看護系や食物・栄養系の学部・学科増設が相次いだことに加え、薬からの志望変更もあったものと見られる。
「日東駒専」がそろって志願者増、学習院大・中央大なども大幅増
ここから、大学ごとの志願状況を見ていこう。表1では、志願者数(大学合計:3月中旬現在)の多い順に、上位20大学を示した。3年連続でトップになった近畿大をはじめ、日本大・法政大・明治大・早稲田大と、実に5大学で志願者数が10万人を超えた。20位までの志願者の合計は、全体(201大学:約275.1万人)の約52%と過半数を占める。
特筆されるのは、首都圏の難関~中堅上位校の増加ぶりだ。慶應義塾大(3%増)・早稲田大(4%増)をはじめ、中央大(8%増)・法政大(9%増)・明治大(3%増)が志願者増。さらに、駒澤大(23%増)など、いわゆる「日東駒専」がそろって志願者増。いずれも国公立大志望者の併願が増えたものと見られるが、特に慶應義塾大・早稲田大の場合は、東京大の後期募集停止の影響もあった。
中央大・早稲田大の場合は、セ試利用入試に関する変更(中央大‐法でセ試利用前期に3科目型を追加/早稲田大‐文・文化構想でセ試のみで判定する方式を追加、商で負担減)も要因となった。また、日本大は2学部増設、専修大(17%増:21位)は受験料割引を伴うネット出願の導入も、大幅増の要因となった。
一方、青山学院大・東京理科大がほぼ前年並みに留まり、立教大(9%減)・芝浦工業大(14%減:24位)が大幅減と、志願状況が分かれた。
京阪神では、立命館大・近畿大が増加。いずれも学部・学科増設がおもな要因となった。一方、関西学院大(9%減)の減少は、立命館大の15年の茨木キャンパス(京都・大阪間)開設の影響が続いている模様だ。
表2では、志願者1,000人以上の大学について、増加率が高い順に上位20大学を示した。全体の特徴としては、駒澤大をはじめ、獨協大・亜細亜大(21%増)・学習院大(52%増)・国士舘大(18%増)といった、首都圏の文系学部中心の大学が目につく。
1位の山陽小野田市立山口東京理科大(243%増)は、前述の通り「私立→公立」化によるもの。また、学習院大や千葉工業大(50%増:工学部を3学部に分割)など、多くの場合は学部・学科の増設・改組や定員増(20大学中11大学が該当)、前年の志願者減の反動が要因となっている。また、前述の通り、獨協大・文教大では「ネット割」導入も要因となった。
南山大など各地域の拠点校が増加、上智大・関西学院大などが減少
ここまで紹介した以外の大学を中心に、各地区の志願状況(おもに2月入試)を見てみよう。
(1)首都圏地区
15年に全学部統一日程の「TEAP利用型入試」(英語能力試験「TEAP」の受験が必須、各学科が設定した基準点を出願資格とし、英語以外の2教科で合否判定。複数学科に同時併願可で、受験料割引も採用)を導入して志願者11%増だった上智大は、16年は13%減。従来型の一般入試は2%増えたが、TEAP利用型は前年の反動に加え、全28学科中9学科が「2→4技能」の利用に移行したため、志願者がほぼ半減した。とはいえ、「スーパーグローバル大学」(大学の国際競争力向上やグローバル人材育成促進を目的として、文部科学省が選定)である同校では、英語外部試験利用の4技能化は必須目標であり、入学者の英語能力の質保証を優先した、“覚悟”のうえでの志願者減だったといえる。
この他、難関~中堅上位校では、國學院大(8%増)・成城大(7%増)・日本女子大(16%増)の志願者増、東京農業大(5%減)・武蔵大(5%減)・明治学院大(8%減)の減少が目立つ。また、中堅グループでは、工学院大(5%増)・大東文化大(6%増)の志願者増が目立つところ。
●TEAPとは? |
(2)京阪神地区
首都圏の難関~準難関校の増加ぶりに比べ、いわゆる「関関同立」は、立命館大こそ大幅増だが、同志社大は微増、関西大は前年並みに留まり、関西学院大は大幅減。一方、「産近甲龍」では京都産業大(13%増)の大幅増、近畿大・龍谷大の増加に対し、甲南大(5%減)のみ減少。京都産業大は前年の反動と見られる。
女子大では、京都女子大(7%増)・神戸女学院大(6%増)・武庫川女子大(10%増)の志願者増に対し、同志社女子大(5%減)が減少。中堅グループでは、追手門学院大(27%増)・大阪経済大(11%増)・大阪工業大(7%増)・関西外国語大(9%増)・摂南大(13%増)・桃山学院大(6%増)・神戸学院大(23%増)が増加し、志願者減は佛教大(5%減)など少数派。安全志向に加え、難関校の合格者絞り込みを警戒し、中堅上位~中堅グループへの併願が増えた模様だ。
(3)その他の地区
中京大(7%減)は減少したが、東北学院大(6%増)・愛知大(5%増)・南山大(5%増)・名城大(9%増)・広島修道大(38%増)・西南学院大(15%増)・福岡大(7%増)と、各地域の拠点大学で志願者増が目立った。いずれも国公立大との併願が多い大学であり、“国立大改組”の影響が色濃い。名城大は外国語学部の増設と都心キャンパス新設も要因となった。
「定員管理の厳格化」で倍率アップ。早稲田大・南山大・龍谷大がやや難化、関西学院大がやや易化か!?
受験生が注目すべきは、見かけの「志願倍率」よりも「実質倍率」だ。2月入試を中心に、一般入試の受験・合格状況を集計したところ、「受験者3%増、合格者1%減」のため、実質倍率は15年3.2倍→16年3.4倍とアップした。特に首都圏で、合格者を抑え目に出して倍率アップする大学が目立った。
「志願倍率」に惑わされず、「実質倍率」に注目しよう
次に、私立大一般入試の合格状況を見よう。中でも倍率の変化は、「難化・易化」を計る物差しとなる重要データだが、一般的に使われる「倍率」には次の2通りあることに注意したい。
*志願倍率=志願者数÷募集人員=見かけの倍率
*実質倍率=受験者数÷合格者数=実際の倍率
私立大では合格者の入学手続率を考え、一般入試で募集人員の3~5倍程度、セ試利用入試では10倍程度の合格者を出すのが普通だ。
グラフ5で関西学院大‐理工の例を見てみよう。一般入試(学部個別日程)の志願倍率は10.3倍だが、合格者を募集人員の4.9倍出しているので、実質倍率は2.0倍となる。
また、セ試利用入試(1月出願)の志願倍率は37.0倍もの超高倍率だが、合格者を募集人員の15.6倍も出しているので、実質倍率は2.4倍におさまった。これなら「とても手が出ない」という倍率ではないだろう。
見かけの倍率に惑わされることなく、実際の倍率を志望校選びのデータとして活用しよう。
受験者3%増、合格者1%減。全体の倍率は3.2→3.4とアップ
旺文社が私立大一般入試(主に2月入試)の受験・合格状況についても調査したところ、正規合格者まで発表した92大学の集計(3月中旬現在)では、受験者数(未公表の場合は志願者で代替)が3%増えたのに対し、合格者数は1%減少した
(グラフ6)ため、実質倍率(以下、倍率)は15年3.2倍→16年3.4倍とアップした。
大都市圏(首都圏、京阪神)とその他の地区に分けて集計すると、首都圏で合格者減による倍率アップ(3.9倍→4.1倍)が目立った。また、京阪神地区(3.5倍→3.6倍)、東海などその他の地区(2.5倍→2.6倍)も、やや倍率アップした。
今年度(16年度)から段階的に、定員規模の大きな大学では、定員超過率が厳しく抑制されている(定員管理の厳格化)。このため、特に首都圏の大規模総合大学で、志願者が増えても正規合格者を絞り気味に出したものと見られる。
以下、おもな大学で倍率が変動したケースを紹介する(*は「志願者÷合格者」、その他は実質倍率。おもに2月入試の集計)。
①倍率アップ 獨協大2.5倍→2.9倍、北里大4.2倍→4.5倍、東京経済大2.7倍→3.3倍、日本女子大2.3倍→2.7倍、早稲田大5.5倍→5.7倍、愛知大2.7倍→3.1倍、南山大2.3倍→2.7倍、京都女子大2.2倍→2.7倍、龍谷大3.6倍→4.2倍、大阪経済大4.4倍→5.0倍、摂南大3.6倍→4.6倍、西南学院大3.0倍→3.5倍、福岡大3.2倍→3.4倍 ②倍率ダウン 国際基督教大3.2倍→2.8倍*、上智大5.7倍→5.4倍*、中京大3.3倍→3.1倍*、佛教大3.6倍→3.2倍、近畿大4.5倍→4.2倍、関西学院大3.2倍→2.9倍 |
このうち、早稲田大は「受験者4%増、合格者1%増」、南山大は「受験者5%増、合格者11%減」、龍谷大は「受験者6%増、合格者8%減」と合格者を絞り込み、やや難化した模様。一方、関西学院大は、受験者9%減に対し、合格者は前年並みに出し、学部・方式等によってはやや易化したものとみられる。
ボーダーライン付近は激戦、明暗を分ける1点の重み
受験生の中には、ふだん「1点の差」を気にも留めない人がいるだろう。しかし、入試本番では、その「1点」が大切なのだ。
グラフ7に、関西大学商学部の2月一般入試(学部個別日程と全学部日程の合計)の16年入試結果から、合格ライン付近の上下10点幅の人数分布を示した。受験者6,052人、合格者1,230人で倍率は4.9倍。合格最低点は450点満点で275点(得点率61.1%)だった。
注目すべきは、最低点を含めた「上10点幅」の部分で、ここに合格者全体の約25%が集中する。最低点ぴったりのボーダーライン上にいるのは37人。高校の1クラス分に近い人数だ。わずか1点差での不合格者も38人(やはりほぼ1クラス分)、10点差以内の不合格者は336人もいる。合格ライン付近は、同じ得点帯の中に、多くの受験生がひしめき合っているのだ。
たった1つのケアレスミスが命取りになり、合否が入れ替わるのが「入試本番」。ふだんの勉強から解答の見直しを習慣づけよう。
公募制推薦は首都圏・京阪神ともに合格者絞り込みが目立つ。早稲田大・京都産業大・龍谷大などが難化か
一般入試に先立って行われた「公募制推薦」とAO入試。本誌の集計では、公募制推薦は「志願者4%増、合格者:前年並み」、AO入試は
「志願者6%増、合格者1%増」で、いずれも倍率はややアップした。公募制推薦では、法政大・早稲田大・京都産業大・龍谷大などが難化した模様だ。
推薦では経済など文系の志願者増が顕著。薬は2年連続で減少
私立大の公募制推薦について、16年入試結果の調査を行ったところ、昨年12月末現在の集計データ(142校:志願者数=約19万9千人)では、前年度に比べ志願者数は4%増えた(グラフ8)。その要因としては、①私立大専願者の「より早く確実に」合格を決めたい傾向に加え、②一般入試と同様、国立大の改組(文系縮小、理系拡大)が、受験生の“文系回帰”の志望動向とミスマッチを起こし、私立文系に“追い風”となった、の2点があげられる。
地区別に見ると、小論文・面接中心の首都圏も、学科試験中心で推薦志願者全体の8割近くを占める京阪神地区も、ほぼ同程度増加し、その他の地区(東海地区など)はほぼ前年並みだった。
一方、合格者数は前年並みに留まり、私立大の公募制推薦全体の倍率(ここでは志願者数÷合格者数。AO入試も同じ)は、15年2.9倍→16年3.0倍とややアップ。地区別にみても、首都圏(1.8倍→1.9倍)、京阪神(3.5倍→3.7倍)ともにアップした。
一般入試でもふれたが、今年(16年)度から段階的に、大都市圏の定員規模の大きな大学では、定員超過率が厳しく抑制される。このため、首都圏では法政大・早稲田大、京阪神では京都産業大・龍谷大などが、志願者増でも合格者を減らしており、倍率面を見る限り、やや難化したといえる。
大学別に見ると、法政大(2.7倍→3.1倍)・早稲田大(3.6倍→4.0倍)・京都産業大(3.4倍→4.0倍)・龍谷大(4.0倍→5.5倍)・追手門学院大(2.9倍→3.7倍)・桃山学院大(2.5倍→4.5倍)・武庫川女子大(5.0倍→5.9倍)の倍率アップ、立教大(3.1倍→2.6倍)・愛知淑徳大(2.7倍→1.8倍)・摂南大(3.9倍→3.4倍)の倍率ダウンが目立つ。
学部系統別にみると(グラフ9)、就職事情の好調さを受け、経済・経営・商、国際関係・外国語で志願者増が顕著だ。一方、理系では理・工の高人気が続いているが、薬は一般入試と同じく志願者大幅減、人気低下に歯止めがかからない。この他、法と経済・経営・商の、合格者絞り込みによる倍率アップ(=難化)も注目される。
AO入試は志願者6%増、合格者1%増でやや倍率アップ
昨年12月末現在の集計(108大学:志願者数=約2万4千人)によると、前年比で「志願者6%増、合格者1%増」といずれも増えた。
20年度以降に始まる予定の「入試改革」(セ試に代わる「1点刻み」でない共通テストの導入、多面的・総合的な評価を重視した選抜など)を先取りする形で、推薦・AO入試を導入・拡大する動きが活発化し、これがAO入試の人気回復にもつながった模様だ。
とはいえ、公募制推薦と同じく、やや合格者を絞り込む傾向が見られ、AO入試全体の倍率は、15年1.7倍→16年1.8倍とややアップした。
おもな実施大学(原則として志願者300人以上)の倍率の変動を見ると、東北学院大(1.4倍→2.1倍)・早稲田大(3.1倍→3.6倍)・金沢医科大(16.7倍→19.8倍)・中部大(2.3倍→2.7倍)・立命館大(2.4倍→2.6倍)の倍率アップと、昭和女子大(1.9倍→1.6倍)・東海大(1.9倍→1.7倍)・京都産業大(3.4倍→2.7倍)・福岡大(3.9倍→3.6倍)の倍率ダウンが目立った。
17年の私立大入試はここに注目! 早稲田大・中央大の一般入試で英語外部試験利用方式、東京女子大でAO入試を導入!
ここからは、17年私立大入試における、3月中旬現在で判明したおもな変更点を紹介する。医療系中心に6大学が新設予定、津田塾大・東洋大・南山大などが学部増設を予定。早稲田大‐文・文化構想、中央大‐経済・文・総合政策など、一般入試における英語外部試験を利用する方式の導入や、東京女子大のAO入試導入などが注目される。
医療・看護系など6大学が新設予定、東洋大・南山大が国際系を増設予定
私立大の17年入試について、変更点の一部を紹介する。詳細は、5月以降に各大学から発表される「入試ガイド」や案内パンフレットを取り寄せ、必ず確認してほしい。
(1)大学・学部等の新設・改編
【新設予定大学】16年度は31年ぶりに新設大学が全くなかったが、17年度は私立6大学の新設が予定されている。このうち5大学が医療・看護系の単科大学だ。各大学を構成する学部と定員(カッコ内。編入学を除く)は次の通り。
北海道千歳リハビリテーション大‐健康科学(110)/岩手保健医療大‐看護(80)/福井医療大‐保健医療(180)/一宮研伸大‐看護(80)/大阪キリスト教学院大‐こども教育(80)/福岡看護大‐看護(100)
【学部の増設・改組】学部等の増設予定では、16年度の東北医科薬科大‐医に続く、国際医療福祉大の医学部新設(千葉県成田市)や、東洋大‐国際・国際観光(国際地域を2学部に分割)、南山大‐国際教養、京都橘大‐国際英語など“グローバル系”学部の増設・改組が注目される。
また、岩手医科大‐看護、東邦大‐健康科学、大阪歯科大‐医療保健、広島修道大‐健康科学といった医療・看護系をはじめ、芝浦工業大‐建築、津田塾大‐総合政策、東洋大‐情報連携、京都産業大‐現代社会、大阪工業大‐ロボティクス&デザイン工などの学部増設予定も、志願者増の要因として注目される。
(2)キャンパスの新設・移転
名城大‐人間・都市情報が名古屋市東区のキャンパスに移転する予定(人間は同天白区から、都市情報は岐阜県可児市から)。また、大妻女子大‐社会情報(東京都多摩市→同千代田区)、南山大‐総合政策(愛知県瀬戸市→名古屋市昭和区)のキャンパス移転が完了するなど、大都市の郊外から中心部(または交通の要地)へキャンパスを移転する傾向が続いている。
慶應義塾大・立教大・早稲田大でネット出願を新規実施
推薦・AO・一般入試の別を問わず、英語外部試験を利用する方式を導入する大学・学部が増えつつある。利用方法は大きく「出願資格」「見なし満点(得点)」の2パターンある。
(3)推薦・AO入試の変更
【AO入試】東京女子大‐現代教養では、全学科でAO「知のかけはし入試」を新規実施する。合格者は、給付型の「挑戦する知性」奨学金の選考対象者となる。また、同志社大‐生命医科学でもAO入試を新規実施する。
【推薦入試】学習院大‐経済で公募制推薦を、立教大‐経済で自由選抜入試を、早稲田大‐人間科学で公募制推薦(FACT選抜)を新規実施。いずれも英語外部試験の利用を予定。明治大‐商の公募制特別入試(セ試利用)でも英語外部試験利用の募集枠を新設する。
(4)一般入試の変更
【英語外部試験利用】「出願資格」型では、早稲田大‐文・文化構想の一般入試で、英検・TEAPなど英語外部試験(4技能)を利用する「英語4技能テスト利用型」を新規実施。中央大‐経済・文・総合政策の一般入試でも、英語外部試験を利用する方式を追加する。いずれも、学部指定の基準点・基準級を上回れば、一般入試の英語以外の科目で合否を判定する。また、青山学院大‐国際政治経済の一般B方式では、英語からリスニングを除外し、新たに英語外部試験(英検準1級など)を出願資格とする。
「見なし満点(得点)」型としては、聖路加国際大‐看護の一般入試で、理科を2→1科目に軽減し、英語で新たに英語外部試験を利用可能にする(例:英検準1級=英語を免除し80点と見なす、英検1級=満点と見なす)。また、学習院大‐国際社会科学、明治大‐経営も、一般入試で英語外部試験利用の方式を新規実施するが、出願資格であるとともに、英語外部試験の成績を得点換算して他科目と合計する、「見なし満点(得点)」型の特徴もあわせ持つ。
すでに利用している大学・学部では、上智大がTEAP利用型入試で、全学部・学科の出願資格(TEAP)について、4技能全ての利用に統一する。このため、全28学科中、19学科が「2→4技能」に移行する(9学科はすでに4技能で実施)。
【ネット出願】慶應義塾大が一般入試で、立教大・早稲田大も一般入試・セ試利用入試でネット出願を導入し、紙の願書を廃止。また、法政大・立命館大も一般入試・セ試利用入試をネット出願に全面移行する。
【その他】青山学院大が全学部日程の学外試験場を仙台・岡山に増設/日本大‐理工のセ試利用C方式2期で、5教科6科目→3教科4科目に軽減/日本医科大の一般入試で、後期を新規実施/法政大‐国際文化でセ試利用入試を新規実施/明治大‐政治経済でセ試利用後期を廃止。また、同‐情報コミュニケーションで一般B方式(情報総合が必須)を廃止する。
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代(2016年5月号)」より転載いたしました。