新課程入試初年度は“文理均衡”の結果に。16年は国立理系、私立文系が人気アップ!?
夏休みを前に、各大学の2015年(以下、15年)新課程入試結果データが出そろった。ここでは、国公立大、私立大それぞれの一般入試結果を最終チェックし、16年の動向を予測。さらに、16年入試の最新情報も紹介する。
※この記事は『螢雪時代・2015年8月号』の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)
一般入試の合格状況を総ざらい! 準難関国公立大がやや易化か。私立大は合格者増で倍率ダウン
15年の一般入試結果を見ると、国公立大は「志願者2%減、合格者1%増」、私立大は「志願者1%増、合格者4%増」。いずれも全体的にやや倍率ダウンした。準難関国公立大や地方公立大、私立大理系学部がやや易化した模様だ。学部系統別では、国公立・私立ともに理系で倍率低下が目立ち、「文理均衡」に転じた。
国公立大:
志願者2%減、合格者1%増。法がやや難化、薬が易化か
国公立大の15年一般入試の実施結果を『螢雪時代』で調査したところ、全体では14年に比べ「志願者2%減、合格者1%増」で、倍率(志願者÷合格者。以下、特に注記のない場合は同じ)は14年4.0倍→15年3.9倍(国立大4.3倍→4.2倍、公立大4.8倍→4.6倍)にダウンした。
日程別にみると(グラフ2)、国立大前期がほぼ前年並みの倍率だったのに対し、公立大は全日程で倍率ダウンと対照的な結果になった。特に公立大後期が前年の反動もあり、「志願者4%減、合格者3%増」で、倍率が大幅ダウン(9.2倍→8.5倍)したのが目立つ。
もともと、新課程に移行したセンター試験(以下、セ試)の理科負担増(基礎科目は2科目受験必須、基礎を付さない科目は出題範囲拡大)で「国公立大敬遠→私立大独自入試」の流れが強まっていた。さらに、セ試の平均点はややアップ(グラフ1)したが、数学II・Bや地理Bなどが難化したことで、おもに理系の現役生が“安全志向”から、後期をあきらめ私立大独自入試の併願を増やしたものと見られる。
各大学の倍率(全学の合計)の変動を見てみよう。難関校では、一橋大(4.1倍→4.3倍)・名古屋大(2.6倍→2.7倍) が倍率アップ、北海道大(3.9倍→3.7倍)・東京工業大(4.5倍→4.4倍)・九州大(3.1倍→3.0倍)がダウンしたが、その他は東京大(4.0倍)をはじめ、前年並みを保った。少数精鋭の既卒者を中心に、難関大志望者は初志貫徹した模様だ。
一方、筑波大(3.9倍→3.8倍)、埼玉大(3.7倍→3.3倍)、千葉大(4.5倍→4.2倍)、横浜国立大(4.7倍→4.4倍)、広島大(3.2倍→3.0倍)、首都大学東京(5.2倍→4.8倍)、大阪市立大(4.1倍→3.9倍)、大阪府立大(5.5倍→5.1倍)といった準難関校が倍率ダウン。また、地方公立大でも倍率低下が目立った。前年に難化した反動に加え、準難関校~中堅校を第1志望とする学力層が「数II・Bショック」もあり、私立大も含め、順次ランクダウンしたとみられる。
学部系統別(グラフ3)にみると、文系は法、社会・社会福祉がやや倍率アップ。一方、理系は工・農・医など全系統で倍率が低下、特に倍率ダウンが顕著な薬は易化した模様だ。志願状況と同様、倍率面でもここ数年の「文低理高」から「文理均衡」状態に転じたといえる。
総合点の“合格者平均点”のクリアを最終目標にしよう
こうした「倍率」とともに気になるのが、合格者の最低点や平均点という「合格者データ」だろう。合格最低点は合否の分かれ目になる、いわゆる「ボーダーライン」。合格平均点は、総じて最低点より得点率(%)にして5~10p(ポイント)程度高い。合格最低点は「最低目標」として重要なデータといえるが、確実に合格を目指すには、「合格者平均点」のレベルまで学力アップしておくことが望まれる。
15年入試の例として、金沢大の前期日程の合格者データを見てみよう(表1)。総合点を得点率(%)に換算し、各学類を分野別にまとめて平均すると、文系(人間社会学域)で「最低63%・平均67%」、理工系(理工学域)で「最低62%・平均67%」、医療系(医薬保健学域)で「最低68%・平均72%」となる。合格するには医療系で7割以上(医は8割以上)、文系・理工系で6~7割程度の得点が必要なのだ。また、合格者平均点をセ試・2次(個別試験)ごとに平均すると「文系=セ試72%・2次60%、理工系=セ試74%・2次61%、医療系=セ試78%・2次66%」となる。マーク式のセ試に比べ、記述式の2次の方が得点しにくいことがわかる。
このうち、配点がセ試重視の「国際学類」と、2次重視の「機械工学類」を比較してみよう。
国際学類の配点は「セ試900点、2次600点、総計1,500点」。合格者は、セ試では得点率67%~79%(平均73%)に分布し、最高・最低の差は12p。2次では得点率51~76%(平均61%)に分布し、最高・最低の差は25p。配点の少ない2次の方が最高・最低の差が大きく、セ試の得点である程度合否が決まったことがうかがえる。一方、機械工学類の配点は「セ試450点、2次650点、総計1,100点」。合格者は、セ試では得点率62%~84%(平均73%)に分布、最高・最低の差は22p。2次では得点率56~80%(平均64%)に分布し、最高・最低の差は24p。国際学類に比べ、セ試と2次で得点幅にほとんど違いがなく、2次の得点力で合否が決まったことがうかがえる。
私立大:
志願者1%増、合格者4%増。農・薬・医療系が易化か
『螢雪時代』の私立大一般入試結果調査(514大学集計:志願者302.0万人)によると、14年に比べ「志願者1%増、合格者4%増」で、倍率は全体で14年3.4倍→15年3.3倍とダウンした。
入試方式別にみると、各大学の独自入試は「志願者2%増、合格者4%増」で、倍率は3.7倍→3.6倍にダウン。また、セ試利用入試(独自・セ試併用型を含む)は「志願者1%減、合格者4%増」で、倍率は2.9倍→2.7倍と、独自入試より倍率ダウンが顕著だった。セ試の理科負担増で、受験生の一部が国公立大や私立大セ試利用入試を敬遠した結果とみられる。
学内同時併願の受験料割引(以下、併願割)や、インターネット出願(以下、ネット出願)の受験料割引(以下、ネット割)が急速に普及。そうした大学では、学内併願が増えた分、各学部・学科や日程・方式における合格者の出し方が難しくなったのに加え、私立大独自入試は「数II・Bショック」で国公立大志望者からの併願が増えたため、入学手続率(歩留まり)が読みにくくなり、合格者(補欠合格も含め)を多めに出さざるを得なかったものとみられる。
志願者数の上位10大学(表2)の入試結果を見ても、志願者の増減にかかわらず、合格者を多めに出しているのがわかる。このため、明治大・早稲田大・近畿大など、10大学中6大学で実質倍率(受験者÷合格者)がダウンした。定員増(全学で8%増)に加え、セ試利用入試で受験料割引(2併願でも単願でも同額)を導入し、志願者34%増の東洋大でも、ほぼ同じ割合で合格者が増えた。
この他、おもな大学で実質倍率が比較的大きく変動したのは次の通り(*=志願者÷合格者)。倍率ダウンした大学が圧倒的に多い。
(1)倍率アップ 【首都圏】千葉工業大4.1倍→5.2倍、慶應義塾大4.0倍→4.2倍、国際基督教大2.9倍→3.2倍*、芝浦工業大4.1倍→4.4倍、上智大4.3倍→4.9倍、武蔵大4.4倍→4.7倍 【京阪神ほか】中京大3.0倍→3.2倍、南山大2.1倍→2.3倍 (2)倍率ダウン 【首都圏】獨協大2.7倍→2.5倍、学習院大3.3倍→2.8倍、駒澤大3.3倍→3.1倍、成蹊大4.3倍→4.0倍、専修大2.9倍→2.7倍、東海大3.3倍→3.1倍、東京女子大2.4倍→2.1倍、東京電機大4.5倍→4.1倍、日本女子大2.9倍→2.2倍 【京阪神ほか】金沢工業大2.7倍→2.3倍、愛知大2.9倍→2.6倍、京都産業大4.9倍→3.8倍、京都女子大2.7倍→2.2倍、同志社大3.0倍→2.8倍、同志社女子大3.8倍→3.5倍、大阪工業大3.4倍→3.2倍、摂南大4.7倍→3.6倍、関西学院大3.7倍→3.1倍、甲南大3.6倍→3.1倍、神戸学院大2.9倍→2.6倍、武庫川女子大3.6倍→3.2倍、西南学院大3.3倍→3.0倍、福岡大3.8倍→3.1倍 |
地区別の集計をみると(グラフ4)、関東・甲信越など4地区で倍率が低下。特に、ネット出願やネット割が他地区より普及している関西で、合格者増と倍率ダウンが顕著だ。
グラフ6で文理別・難易ランク別の志願者動向(5月上旬現在:駿台予備学校の集計)を見てみよう。ここでいう難易ランクは、同じ大学内でも学部によって異なるが、おおむね、Aランクは難関校や難関医科大、Bランクは準難関校、Cランクは中堅上位校、D~Eランクは中堅クラス以降を指す。
文系は全ランクで「微増~前年並み」と安定していたのに対し、理系はA~Cランクで志願者が減る一方でEランクが大幅増、と14年までの「文低理高」とは逆の現象が見られた。難関~中堅上位校については、「文理均衡」もしくは弱めの「文高理低」傾向に転じたことがわかる。また、理系で志願者増が顕著なのがEランクであることから、現役理系の“安全志向”がいかに強かったかが見て取れる。
全国の私立大を、大学単位の競争率(実質倍率)グループ別に分類すると(グラフ7)、「4.9~4.0倍」の大学が減り、「2.9~2.0倍」の大学が増えているのが注目される。理系を中心に、高倍率校を敬遠してランクダウンし、前年低倍率の中堅クラスに流入するとともに、準難関~中堅上位校で合格者増による倍率低下がみられ、倍率全体を押し下げた模様だ。
学部系統別にみると(グラフ5)、理系で倍率ダウンが顕著な系統が目立ち、国公立大と同じく「文理均衡」状態を示している。
文系は、経済・経営・商が前年並みの倍率を保ち、他の系統もわずかなダウンに留まった。一方、理系のうち、歯が倍率アップし、理・工も前年並みを保ったが、農・水畜産・獣医、薬、医療・看護が「志願者減・合格者大幅増」で倍率ダウンし、いずれも易化したとみられる。薬は、ここ数年の高倍率が敬遠されたのに加え、前年度の国家試験合格率の低下(13年79.1%→14年60.8%)も影響した模様。また、医療・看護は新設が相次いだことによる志願者分散と合格者大幅増(前年比8%増)もあって、既設の学部・学科を中心にかなり易化した模様だ。
合格ライン周辺から私立大の入試の実態を把握しよう
倍率に続き、私立大一般入試の「合格ライン」を見てみよう。国公立大と同様、合格への道標となる大切なデータだ。
グラフ8に、龍谷大‐経済(A日程:文系型スタンダード方式)の15年入試で、合格ライン付近の人数分布を示した。同方式の科目・配点は「英語」「国語」「世界史、日本史、政治・経済、数学から1」の3科目で各100点、計300点。受験者数2,052人に対し合格者数460人で、実質倍率は4.5倍。合格最低点は213点(得点率71.0%)だった。その分布状況を見ると、
(1)合格最低点を含め、上10点幅のゾーンに157人と、全合格者の約34%が集中している。
(2)不合格者の最高点(212点)を含め、下10点幅のゾーンに208人もいる。
(3)合格最低点で合格したのは15人、1点差での不合格者も16 人いる。
合格ライン付近では、総合的にほぼ同じ学力の受験生がひしめき合い、わずか1点差で合否が決まる。では、“1点差”を争う合格ラインを、どうやって突破するのか? グラフ8の右側に、合格最低点とその1点下の受験者から、特徴のある得点パターンをピックアップした。ここからわかるのは、「得意科目」の大切さと、「苦手科目」克服の必要性だ。
3科目入試では、1科目で得点が伸びなくても他の科目でカバーできることが多い。AさんやBさんのように絶対的な得意科目があれば、他の2科目が普通、または1科目だけやや苦手であっても心強い。ただし、CさんやDさんのように苦手科目の失点が大きすぎると、カバーしきれず1点差に泣くことになる。得意科目の優位を生かすには、苦手科目でも6割以上の得点はほしい。私立大一般入試で何とか合格ライン(7割台)をクリアするためには、得意科目(8割台)、準得意科目(7割台)を持ち、残り1科目で普通(6割台)をキープしよう。
16年入試の変更点をチェック! 岩手大・静岡大・愛媛大などで全学規模の学部改組を予定!
ここからは、4・5月号に続き、6月中旬現在で判明した、おもな16年入試の変更点を紹介する。国公立大では、国立大における大規模な学部改組が目立ち、8大学で学部増設。文系学部縮小、理系学部拡大、教育系の教員養成機能への特化、という方向性がみえる。私立大ではネット出願の普及や、英語外部試験利用などの入試改革が注目される。
ネット出願:
青山学院大・明治大など、導入校は大幅に増えそう
15年に私立大の約3分の1が実施した「ネット出願」は、16年入試でも導入校が大幅に増えそう。しかも、ネット出願に全面移行(紙の願書を廃止)する大学が増える見通しだ。
国立大では、豊橋技術科学大・奈良教育大が一般入試でネット出願を導入し、紙の願書を廃止。四国の国立5大学(徳島大・鳴門教育大・香川大・愛媛大・高知大)が連携してネット出願を導入し、こちらは紙の願書と併用する。
私立大では、青山学院大・国際基督教大・東京理科大・明治大・南山大が一般入試(国際基督教大以外はセ試利用を含む)でネット出願を導入し、紙の願書を廃止。また、学習院大では一般入試でネット出願を導入(紙の願書と併用)。専修大では一般入試(セ試利用含む)でネット出願(紙の願書と併用)を導入するが、あわせて受験料割引(ネット割)も導入する。
この他、東北学院大・東京国際大・獨協大・大妻女子大・嘉悦大・二松學舎大・金沢工業大・京都光華女子大・大阪樟蔭女子大・大阪人間科学大・関西外国語大・甲南女子大・武庫川女子大・広島経済大・広島女学院大・安田女子大・松山大・中村学園大・福岡女学院大・熊本学園大などでネット出願を導入する予定(対象となる入試やネット割の有無は各大学で異なる)。
既にネット出願を実施している大学では、京都産業大・龍谷大が一般入試・セ試利用入試・公募推薦をネット出願に全面移行し、紙の願書を廃止(受験料割引は継続)するのをはじめ、亜細亜大・大東文化大・大阪産業大などもネット出願に全面移行(一部方式を除く)。東海大では医学部もネット出願の対象に追加する。今後も、秋以降の募集要項の発表までに、ネット出願やネット割を導入する大学が続出するものと見られ、注意が必要だ。
英語外部試験利用:
青山学院大・法政大・立教大・関西学院大が一般入試で導入
グローバル化の急速な進展に対応するため、大学における「グローバル人材」の育成が急務となっている。実践的な英語運用能力向上へ向け、大学入試の段階で、英語の4技能(読む、聞く、書く、話す)全てを判定する必要性が、文部科学省(以下、文科省)から提言されている。このため、スーパーグローバル大学(大学の国際競争力向上やグローバル人材育成促進を目的として文科省が選定)を中心に、従来の入試方式の枠組みで、独自試験などの英語の代わりに、4技能を測定できる「英語外部試験」を活用する新方式の導入が加速している。利用方法は大きく、(1)出願資格、(2)見なし満点、(3)加点、の3パターンに分かれる(図1)。以下、おもに一般入試で、新規に利用する事例の一部を示した。
* * *
◎東京海洋大 海洋科学で全入試の出願資格として、新たに学部指定の英語外部試験(英検準2級以上など)のスコア提出を課す(一般入試はセ試の英語が基準点以上でも出願可)。
◎獨協大 一般A方式で「外部検定試験活用型」を新規実施。学科指定の基準以上なら、英語以外の2科目で合否判定。
◎青山学院大 文(英米文)のC方式、地球社会共生・総合文化政策のB方式で、TEAP利用型(文<英米文>は4技能、他は2技能)を新規実施。指定基準を満たせば、文(英米文)は英語以外の2科目、その他は小論文のみで受験可。
◎東京理科大 新設予定学科(経営‐ビジネスエコノミクス)の一般入試で「グローバル方式」を新規実施。出願資格(TEAPがリーディング・リスニング2技能合計で100点以上)をクリアすれば、数学のみで受験可。
◎法政大 15学部中6学部で英語外部試験利用入試を新規実施(T日程と同日)。学部指定の基準以上なら、英語以外の1科目で合否判定。
◎立教大 全学部日程で「グローバル方式」を新規実施。英語外部試験を出願資格(例:TEAP226点、英検準1級など)として利用する。試験当日は外国語(英語)以外の2教科を受験。
◎中京大 10学部で前期A方式に「英語基準型」を導入。英語外部試験の基準(英検準1級など)を満たせば、英語を満点とみなす。
◎南山大 全学統一入試で、英語外部試験が基準(TEAP360点など)を満たせば、英語を満点とみなす。
◎立命館大 全学(法・理工を除く)のセ試利用入試で、英語外部試験が指定の基準以上の場合、セ試の英語を満点として換算。また、国際関係IR方式で英語リスニングを廃止し、英語外部試験の成績を新規利用(例:英検2級=80点、準1級以上=満点に換算)。
◎関西学院大 全学部のセ試利用入試(1月出願)で「英語検定試験活用型」を新規実施。英語外部試験(TEAP、英検準1級など)を出願資格として活用し、各学部が指定する、英語以外のセ試の科目で合否判定。
●TEAPとは?
TEAP(Test of English for Academic Purposes:アカデミック英語能力判定試験)とは、上智大と日本英語検定協会が共同開発した、大学で学習・研究を行う際に必要とされる総合的な英語運用力(英語で資料や文献を読む、講義を受ける、意見を述べる、文章を書く、など)を測定するテスト。「読む、聞く、話す、書く」の4技能で構成され、レベルは英検準2級~準1級程度とされる。2015年は、年3回(7・9・12月)、全国11会場で実施し、複数回受験が可能。
国公立大:
国立は文系縮小、理系拡大の方向。8大学で学部増設予定
●国立大の大規模改組
16年度は、国立大で学部改組が相次ぎ、大きく変わろうとしている。その背景には、13年に文科省が出した機能強化策「国立大学改革プラン」がある。「持続的な競争力を持ち、高い付加価値を生み出す国立大学へ」という目標のもと、各大学で改革案が検討された結果だ。
全体として、(1)教員養成系学部の教員養成機能への特化と、教員免許を卒業要件としない課程の廃止、(2)人文・社会科学系学部の縮小、(3)理工・農学系学部の拡大、(4)上記の(1)(2)による定員削減分で、地域貢献型、または国際系の学部を増設、という方向性が見て取れる。
その中で、学部を増設するなど、規模の大きな改組は次の通り(岩手大は図2、福井大は図3も参照)。以下は全て予定で、新設学部等の名称は仮称。カッコ内の人数は定員を示す。
* * *
◎弘前大 人文学部を「人文社会科学部」に改組、3→2課程に再編し、定員減(345人→265人)/教育学部で生涯教育課程を募集停止/理工学部(300人→360人)、農学生命科学部(185人→215人)を定員増
◎岩手大 人文社会科学部を4→2課程に統合し、定員減(215人→200人)/教育学部で生涯教育・芸術文化の2課程を募集停止/工学部を「理工学部」に改組、5→3学科に再編し、定員増(400人→440人)/農学部を4課程1学科→6学科に再編し、定員増(210人→230人)
◎宇都宮大 地域デザイン科学部(140人)を開設/教育学部で総合人間形成課程を募集停止
◎千葉大 国際教養学部(90人)を開設/教育学部で、スポーツ科学課程・生涯教育課程と、中学校教員養成課程のうち総合教育・教育心理・情報教育の3分野を募集停止
◎電気通信大 情報理工学部を「情報理工学域」に改組、4学科→3類に再編。夜間主課程を社会人対象に限定し、定員減(100人→30人)
◎東京工業大 全学規模で組織を変更、3学部23学科→6学院19系に再編(入試時の募集単位は第1~7類で変更なし)
◎信州大 経済学部を「経法学部」に改組/教育学部で、生涯スポーツ・教育カウンセリングの2課程を廃止し、特別支援学校教員養成課程を学校教育教員養成課程に統合/工学部を7→5学科に再編し、定員増(470人→485人)/繊維学部を「2課程3学系→4学科」に再編
◎福井大 国際地域学部(60人)を開設/教育地域科学部を「教育学部」に改組し、地域科学課程を募集停止/工学部を8→5学科に再編
◎静岡大 全学横断型教育プログラムの地域創造学環(50人)を新設/人文社会科学部で定員減(470人→420人)/教育学部で生涯教育・総合科学教育・芸術文化の3課程を募集停止/理学部に創造理学(グローバル人材育成)コースを増設(20人)/情報学部を2→3学科に再編し、定員増(200人→240人)/農学部を3→2学科に再編し、定員増(150人→180人)
◎名古屋工業大 工学部1部で、従来の7学科を、5学科と創造工学教育課程(学部・大学院の6年一貫教育課程)に再編
◎徳島大 生物資源産業学部(100人)を開設/総合科学部を3→1学科に統合し、定員減(265人→170人)/工学部を「理工学部」に改組、昼間7学科・夜間主6学科を各1学科に統合
◎愛媛大 社会共創学部(180人)を開設/法文学部で昼・夜間主コースとも2→1学科に統合、定員減(昼395人→275人、夜110人→90人)/教育学部で学校教育課程を定員増(100人→140人)、総合人間形成・スポーツ健康科学・芸術文化の3課程を募集停止/農学部を1→3学科に再編
◎高知大 人文学部を「人文社会科学部」に改組、3→1学科に統合/理学部で定員減(270人→240人)/農学部を「農学海洋科学部」に改組、1→3学科に再編し、定員増(170人→200人)
◎福岡教育大 教育学部で、共生社会教育・環境教育・芸術の3課程を募集停止し、教員養成系3課程を定員増(合計で528人→615人)
◎佐賀大 芸術地域デザイン学部(110人)を開設/文化教育学部を「教育学部」に改組し、学校教育課程を定員増(90人→120人)、人間環境、国際文化、美術・工芸の3課程を募集停止
◎大分大 福祉健康科学部(100人)を開設/教育福祉科学部を「教育学部」に改組し、学校教育教員養成課程を3→2コースに再編、情報社会文化・人間福祉科学の2課程を募集停止
◎宮崎大 地域資源創成学部(90人)を開設/教育文化学部を「教育学部」に改組し、学校教育課程を定員減(150人→120人)、人間社会課程を募集停止/農学部で定員増(265人→285人)
この他、群馬大‐社会情報、山口大‐人文では、学部内を「2→1学科」に統合。また、三重大‐教育で人間発達科学課程を、和歌山大‐教育では総合教育課程を募集停止する予定だ。
●推薦・AO入試
新規実施の東京大「推薦入試」、京都大「特色入試」は、16年で最も注目すべき入試改革だ。詳細は別記事『東京大「推薦入試」vs京都大「特色入試」!』を読んでほしい。
弘前大‐教育でセ試免除推薦をAOに移行。東京農工大‐工のセ試を課す推薦で、選考に書類審査・面接・小論文を追加。福岡教育大で推薦入試を、セ試を課す推薦とセ試免除の「地域創生推薦」に分割。愛知県立大‐看護では、セ試を課す「全国枠推薦」を新規実施する。
●一般入試
岩手大‐人文社会科学で、セ試を「前期=7(8)科目→6(7)科目、後期=7(8)科目→3(4)科目」に軽減。電気通信大‐情報理工学域[昼]は改組のため、学科別募集から、前期が「学域一括募集」に、後期は「類別募集」に変更。また、前期は2次の数学・理科の配点でA・B方式に複線化し、2次で理科1→2科目に負担増。募集人員も「前期414人→370人、後期207人→250人」に変更され、後期の比率が高まる。
長崎大‐教育で学外試験場(東京)を廃止。一方、敦賀市立看護大は前期で、下関市立大は中期で名古屋会場を新設する。
私立大:
独自入試で科目増、セ試利用で多科目型の導入が目立つ
●新増設・改組等
16年度の私立大学の新設予定、および学部・学科等の増設予定が文部科学省から発表されている(大学は前年10月末認可申請。学部・学科等は3月末認可申請分。表3を参照)。
大学の新設予定は通信制の1大学(1学部)。また、23大学で学部・学科等の増設を認可申請中だ。その他に設置届出として、(1)亜細亜大‐都市創造、日本大‐スポーツ科学・危機管理、名城大‐外国語、立命館大‐総合心理、近畿大‐国際などの学部増設、(2)千葉工業大(工→創造工・先進工・工)、東京理科大(工1・2部→工)などの学部改組、(3)工学院大‐情報(システム数理)、東京理科大‐経営(ビジネスエコノミクス)、京都産業大‐理(宇宙物理・気象)、広島修道大‐人文(教育)などの学科増設が予定されている。
全体としては、医療・看護系の増設が多いが、15年の「新設ラッシュ」には及ばない。むしろ、教員養成系や国際・外国語系の増設予定、工学系の大規模な改組が目立つ。
●推薦・AO入試
【AO入試】明治学院大‐心理、立命館大‐総合心理でAO入試を新規実施。一方、北海道薬科大、東京都市大‐工、日本大‐生物資源科学でAO入試を取りやめる。また、関西大‐文のAO入試で3つの募集枠(自己推薦型、外国語能力重視型、論文評価型)を新設する。
【推薦入試】東北工業大、清泉女子大、東京都市大‐工、法政大‐情報科学で公募推薦を新規実施。関西学院大でも、全学部でスーパーグローバルハイスクール対象の、理工でスーパーサイエンスハイスクール対象の公募推薦を導入。法政大‐経済、甲南大‐文・法・経営・理工・知能情報・フロンティアサイエンスで自己推薦を新規実施(法政大‐経済は英語外部試験利用)。一方、同志社大‐文(哲学)で公募推薦を廃止する。この他、日本大‐理工の公募推薦で、出願資格を「浪人可→現役のみ」に変更する。
●独自入試(一般入試)
【英語外部試験利用】上智大のTEAP利用型入試で、TEAPについて新たに技能ごとの基準スコアを設定、文(英文・新聞)・総合人間科学(教育・社会)・法律(国際関係法)・経済・外国語(英語)・総合グローバルは4技能全ての利用に移行(他は「読む、聞く」で変更なし)する。
【おもな変更】慶應義塾大‐経済で募集人員減(A方式480人→420人、B方式240人→210人)/國學院大‐法でV方式I期またはA日程受験者を対象に、書類選考を加えて判定する「特別選考」を導入/成城大で一般A方式の試験日を「2/10~13→2/4~7」に繰り上げる/中央大‐総合政策の統一入試で4教科型を廃止/帝京大は、8学部で一般入試・セ試利用とも2→3科目に増加(医・薬は従来から3科目)し、全学部で英語が必須に/東京女子医科大‐医の一般入試に小論文を追加/日本大‐医がN方式1期(全学規模の共通入試)に新規参加/法政大‐グローバル教養でT日程を新規実施/金沢工業大で一般前期を2→3教科に増加/立命館大‐理工・生命科学・薬で、学部個別配点方式に理科2科目型を追加/関西大‐法・経済で全学部日程に同一配点方式を追加する。
●セ試利用入試
【新規利用】6月中旬現在で判明した、16年からセ試を新規利用する私立大学・学部の一覧を掲載した(各大学の入試概要、および旺文社調査による)。新規に利用するのは、15年に開設された大学・学部がほとんどを占める。
【おもな変更】獨協大でセ試中期を新規実施/國學院大のセ試V方式でII期を新規実施し、C日程(独自・セ試併用)を廃止/成蹊大‐文で独自・セ試併用のP方式を新規実施(セ試5科目+E方式1科目)。また、同‐経済のセ試利用で3月実施のM方式を新規実施(セ試5科目+グループ面接)/中央大‐法のセ試単独方式前期で、3教科型を追加/東海大‐医でセ試前・後期を新規実施/東洋大‐法のセ試前期で5教科型を追加/日本大‐歯でセ試C方式2期を新規実施/法政大‐社会のセ試利用でC方式(5教科6科目型)を新規実施/早稲田大‐文・文化構想のセ試利用入試で、セ試6(7)科目のみで判定する方式を追加(従来は独自・セ試併用型)。また、同‐商でセ試利用入試を6(7)科目→5(6)科目に軽減/京都女子大‐文・発達教育・家政・法のセ試前期に5科目型を追加し、発達教育・法でセ試後期を新規実施する。
●2016年度/センター試験を新規利用する私立大学・学部等(15年6月中旬現在の判明分) (注)大学の入試概要、本誌調査への回答による。☆=2016年度の新設予定学部。*=再参加 (1)新たに利用する大学 湘南医療大‐保健医療/人間環境大*‐人間環境・看護/梅花女子大*‐文化表現・心理こども・食文化・看護福祉/鳥取看護大‐看護 (2)新たに利用学部を増やす大学 跡見学園女子大‐観光コミュニティ/青山学院大‐地球社会共生/白百合女子大‐人間総合☆/松蔭大‐看護/金城大‐看護/福井工業大‐スポーツ健康科学/山梨学院大‐国際リベラルアーツ/岐阜聖徳学園大‐看護/愛知淑徳大‐グローバル・コミュニケーション☆/名城大‐外国語☆/日本福祉大‐看護/京都学園大‐健康医療/同志社女子大‐看護/立命館大‐総合心理☆/龍谷大‐農/追手門学院大‐地域創造/近畿大‐国際☆/四條畷学園大‐看護/神戸女子大‐看護/武庫川女子大‐看護/中国学園大‐国際教養 |
●キャンパス新設・移転
大都市中心部や交通至便の地へのキャンパス新設や、履修キャンパスの「郊外→都心」移転が続く。おもな新設・移転の予定は次の通り。
杏林大で、東京都三鷹市にキャンパス新設、総合政策・外国語・保健(看護以外)の3学部が同八王子市から移転する予定/東京理科大では、経営がキャンパス移転の予定(埼玉県久喜市→東京都新宿区)/名城大は、名古屋市東区に「ナゴヤドーム前キャンパス」を新設し、同キャンパスに外国語学部を新設する予定だ 。
* * *
以上、詳細は国公立大の選抜要項、私立大の入試ガイドなどで必ず確認してほしい。
16年一般入試の志願者数は、国立理系、私立文系が増加か
最後に、16年一般入試がどう動くのか予測してみよう。ポイントは3つある。
(1)受験生数は減少する!?
4(6)年制大学の受験生数は、15年の約1%増に対し、18歳人口の減少に伴い、再び減少する見込み。66万3千人と、15年に比べ約1%減少するとみられる(旺文社推定)。ただし、次の理由からセ試の志願者は増加が見込まれる。
(2)セ試の志願者が増え、平均点が上がる!?
16年度のセ試は、15年に平均点が大幅ダウンした反動で、数学II・B、地理Bなどが易化するとみられる。また、平均点が大幅アップした国語も、13年・14年と2年連続でダウンしていたため、反動による難化は考えにくい。
理科についても、手探り状態だった15年とは異なり、過去問演習や先輩の合格体験の研究など、受験生はしっかりした準備ができる。特に文系受験生にとって、基礎2科目受験が必ずしも負担にならないことがわかったため、理科受験者の増加と平均点アップが見込まれる。
以上のことから、15年のような「セ試敬遠」から一転、セ試の志願者はやや増加し、平均点はやや上がる見込み。これは、国公立大と私立大セ試利用への出願を促す要因となりそうだ。
(3)国立大の大規模改組が影響!?
以上のことから、一般入試の志願者数は、国公立大では理系学部、私立大では文系学部で、やや増加が見込まれる。ただし、大都市圏の規模の大きな私立大に対して、定員超過率を厳しく制限する動きがあり、そうした大学では合格者を絞り込む可能性もあるので要注意だ。
学部系統別では、就職状況の好転が続く限り、私立大では法・経済を中心に「文理均衡」、または弱めの「文高理低」傾向が続きそう。しかし国公立大では、理系重視の学部改組が、工・農の志願者増に結びつきそうだ。医は国公立・私立ともに、15年の反動で人気回復しそうだが、薬は引き続き志願者減が見込まれる。また、医療・看護系は15年ほどではないが増設が多いので、志願者が分散、易化しそうだ。
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代(2015年8月号)」より転載いたしました。