国公立大・私立大ともに理系学部が難化、経済系が易化!?
2012年入試結果のデータが各大学から本格的に発表されはじめた。今月は、難化・易化を測る物差しとなる倍率の変化と、クリアすべき目標ライン「合格最低点・平均点」について見ていこう。さらに、2013年入試の変更点などもお届けする。
※この記事は『蛍雪時代・2012年6月号』の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)
国公立大は後期が難化、公立大中期は易化か。大学発表の“合格ライン”で具体的な目標をイメージしよう
中央大・法政大・早稲田大・関西大・近畿大など、私立大は全体的に倍率ダウン。同志社大は難化か
鳥取環境大が前期・後期日程に参入。福島大・法政大でセ試の地歴・公民、理科が「高得点→第1解答科目」利用に!
国公立大は後期が難化、公立大中期は易化か。
大学発表の“合格ライン”で具体的な目標をイメージしよう
国公立大全体の倍率(志願者÷合格者)は、前期日程がほぼ前年並み、後期日程が合格者減でアップしたが、公立大中期はダウンした。学部系統別では、医・歯・薬など理系が難化、経済系が易化した模様だ。大学別では、東京工業大の倍率アップ、一橋大・神戸大の倍率低下が目立つところ。
北海道・東北、九州が倍率アップ。岩手大・福島大が難化か
全国の国公立大学に対し、2012年(以下、12年。他年度も同様)一般入試の合格状況について「螢雪時代」編集部が調査したところ、全体の志願者数は前年比で2%減少したのに対し、合格者数も2%減となった。3月末現在の集計のため、受験者数が未発表の大学もある。また、前年(11年)は東日本大震災(以下、震災)の影響で、後期の個別試験(以下、2次)の実施を急遽取りやめ、センター試験(以下、セ試)の成績のみで合否判定せざるをえなかった大学もある(この場合、志願者数=受験者数)。そのため、ここでは「志願者数÷合格者数」の倍率(以下、国公立大については同じ)を11・12年で比較した。
日程別にみると(グラフ1)、前期は「志願者・合格者とも前年並み」で倍率は3.0倍と変わらず、後期は「志願者3%減、合格者8%減」で8.0倍→8.4倍と倍率がアップしたが、公立大中期は「志願者6%減、合格者:前年並み」で6.0倍→5.6倍とダウンした。
後期の合格者数の大幅減は、東京工業大の後期大幅縮小などに加え、前述の通り、11年では25大学(2大学は一部学科で2次を実施)でセ試のみの合否判定に変更し、受験者が絞られない分、入学手続率の読みにくさから合格者を多めに出したのに対し、12年は2次を行い、ほぼ例年並みの合格者数に戻したためとみられる。
地区別にみると(グラフ2)、北海道・東北(3.8倍→3.9倍)、九州(3.8倍→4.0倍)の2地区は倍率アップ。特に東北地区では、震災の影響が懸念された岩手大(2.8倍→3.3倍)、福島大(3.4倍→4.4倍)の倍率アップが注目される。関東・甲信越は志願者・合格者ともに4%減で、倍率は4.3倍と前年並み。一方、北陸・東海(4.5倍→4.3倍)、関西(4.3倍→4.1倍)では倍率が低下した。
学部系統別(グラフ3)にみると、医、歯、薬が激戦化した。薬は「志願者11%増、合格者:前年並み」で倍率が6.0倍→6.6倍に大幅アップ、医も「志願者6%増、合格者:前年並み」で7.6倍→8.0倍、歯も「志願者5%増、合格者1%減」で4.9倍→5.1倍にアップし、いずれも難化した模様だ。また、工は志願者減ながら、合格者も前年より絞り込まれ、倍率はわずかながらアップ(3.9倍→4.0倍)した。一方、志願者大幅減の経済・経営・商は倍率ダウン(4.2倍→3.9倍)、易化したとみられる。
前期拡大の東京工業大が難化、一橋大・神戸大などが易化か
次に各大学の合格状況を、大学全体(学部・日程等の合計)の倍率の変動で見ていこう(以下、[前]=前期、[後]=後期の略)。セ試の平均点アップ(易化)にかかわらず慎重な出願傾向から、前年の反動が強くあらわれ、各難易レベルで倍率の変動に明暗が分かれた。また、“資格・技能志向”による「文低理高」傾向が、倍率面にも如実にあらわれた。
難関校では、東京大が前期3.2倍→3.3倍、後期29.7倍→32.2倍といずれも倍率アップ。前期を科類ごとに見ると、理Ⅱ(3.8倍→4.1倍)のアップに対し、文Ⅱ(3.4倍→3.1倍)・理Ⅲ(5.7倍→5.0倍)のダウンが目立つ。
東京工業大では後期を縮小(第2~6類で廃止。146人→20人)し、前期の募集枠を拡大(862人→923人)。セ試を配点化せず(基準点は設定)、2次のみで合否判定を行った。前期の志願者増(11%増)は募集枠の増加率(7%増)を上回り、倍率は3.9倍→4.1倍にアップ、特に4~6類が難化した模様。また、第7類[後]には学内併願が集中し、倍率は11.0倍→25.8倍と急上昇、かなり難化したとみられる。
一方、一橋大は社会科学系の人気低下により倍率ダウン(4.8倍→4.5倍)。経済[前]がやや易化する一方、商[前]は難化した模様だ。
北海道大で、11年から前期で学部別募集と並行して実施した総合入試(学部を超えた募集枠)は、導入2年目で文系が倍率ダウン(4.2倍→2.9倍)したが、理系は2.6倍で前年並みを保った。学部別募集のみの後期は、他の難関大からの併願増もあり、全体で7.6倍→8.7倍にアップ、激戦化した。大阪大では、工で後期を取りやめ、前期の募集枠を拡大(654人→820人)したが、工[前]の倍率は2.2倍でほぼ変動なし。一方、基礎工[後]は学内併願増で5.4倍→9.3倍と倍率急上昇、難化した模様。
この他、募集人員の多い前期では、東北大‐医(医)・歯、名古屋大‐情報文化・理・医(医)、京都大‐理、大阪大‐薬、九州大‐文・理・歯・工・農が難化する一方で、東北大‐文・教育・法・経済、名古屋大‐教育、京都大‐文、大阪大‐外国語・経済・医(医)・基礎工、九州大‐教育・経済が易化したとみられる。
準難関校では、経営で後期を廃止した神戸大(4.9倍→4.5倍)や、「学部・学科→学域・学類」に移行した大阪府立大(5.8倍→5.5倍)、広島大(3.4倍→2.9倍)などが倍率ダウン。
一方、後期の合格者35%減の横浜国立大で、倍率が10年並みに戻った (10年4.7倍→11年4.0倍→12年4.7倍)。また、首都大学東京(5.1倍→5.3倍)、大阪市立大(4.1倍→4.4倍)、岡山大(2.9倍→3.2倍)などが倍率アップ、やや難化した模様だ。
東京大の合格最低ラインは前期58~70%、後期45%
志望校選びや目標設定の指針となるのが、合格者の最低点や平均点という「合格者データ」。国公立大ではセ試と2次それぞれを発表するケースと、総合点(セ試+2次)だけを公表するケースがある。合格最高点は文字通り全合格者中の最高得点で、合格最低点は合否の分かれ目になる、いわゆる「ボーダーライン」。そして合格平均点は、総じて最低点より得点率にして5~10%程度高い。
ボーダーラインぎりぎりでも合格には違いないので、合格最低点はまさに「最低目標」として重要なデータといえる。ただし、確実に合格を目指すには、「合格者平均点」のレベルまで学力アップしておくことが望まれる。
12年入試の合格者データのうち、東京大と金沢大のケースを紹介しよう。
表1は東京大の合格ラインである。第1段階選抜と、第2段階(つまり最終)選抜に分けて掲載した。まず前期日程について見てみよう。
第1段階選抜は全科類で実施し、不合格者数は前年より2割近く増加。合格ラインは志願状況(文Ⅰ2%増・文Ⅱ10%減・文Ⅲ3%減・理Ⅰ7%増・理Ⅱ10%増・理Ⅲ11%減)を反映し、文Ⅰ80.1%(前年比+1.8ポイント<以下、p>)、文Ⅱ74.4%(-7.6p)、文Ⅲ70.2%(-12.2p)、理Ⅰ85.6%(+4.6p)、理Ⅱ78.7%(+3.9p)、理Ⅲ78.4%(-2.4p)となった。とはいえ、各科類とも最終合格を考えると、セ試で確実に9割前後は取っておきたいところだ。
第2段階(セ試+2次)選抜のデータを見てみよう。セ試は900点を110点に圧縮、2次440点の計550点満点。最終合格ラインは、文Ⅰ67.6%(前年比+3.3p)、文Ⅱ66.7%(+3.9p)、文Ⅲ64.2%(+1.1p)、理Ⅰ60.7%(+1.6p)、理Ⅱ57.7%(-1.6p)、理Ⅲ69.5%(-1.9p)となり、文科類はいずれもアップしたが、理科類では理Ⅰでアップ、理Ⅱ・理Ⅲでダウンした。
理科類の結果について、駿台予備学校の森澤慶一次長は「理Ⅲの合格者平均点ダウン(得点率で75.9%→74.7%)からも、理系の2次試験の難易度アップは明らかです。理Ⅰで最低点・平均点ともにアップしたのは、第1段階選抜の予想ラインの高さを恐れず、強気な出願で学力上位層の争いになったことが最大要因ではないか」と見る。
次に、全科類一括募集(共通問題で選抜)の後期日程について見よう。セ試は第1段階選抜のみに利用し、合否は2次のみで判定する。東京工業大の後期大幅縮小などの影響で学内併願が増加したため、倍率はアップ(11年29.7倍→12年32.2倍)し、さらなる激戦に。第1段階選抜の合格ラインは90.3%(+0.8p)、セ試での9割確保は最低条件といえる。2次は300点満点で、最終合格ラインは44.7%(-6.6p)とダウンした。前出の森澤次長は「入試科目(総合科目Ⅰ~Ⅲ)のうち、総合科目Ⅰ(英語)の難化が要因と思われます」と語る。
金沢大の合格平均は文系・理工系が7割前後、医療系が8割近く
次に、金沢大の前期日程の合格者データを見てみよう(表2)。
総合点を得点率(%)に換算し、各学類を分野別にまとめて平均すると、文系(人間社会学域)で「最低69%・平均72%」、理工系(理工学域)で「最低64%・平均68%」、医療系(医薬保健学域)で「最低70%・平均74%」となった。合格するには、文系・医療系で7割以上(医は8割以上)、理工系でも6~7割程度の得点を要求されるのだ。さらに、合格者平均点をセ試・2次の別に平均すると、「文系=セ試77%・2次65%、理工系=セ試75%・2次62%、医療系=セ試80%・2次66%」となった。マーク式のセ試に比べ、記述式の2次の方が得点しにくいことがわかる。
このうち、配点がセ試重視の「経済学類」と、2次重視の「機械工学類」を比較してみよう。
経済学類の科目・配点は、セ試が5または6教科7科目の計900点、2次が国語・数学・外国語各200点の計600点で総計1,500点。合格者は、セ試では得点率69%~86%(平均76%)に分布し、最高・最低の差は17p。2次では得点率45~78%(平均59%)に分布し、最高・最低の差は33p。配点の小さい2次の方が最高・最低の差が大きく、セ試の得点である程度合否が決まったことがうかがえる。
一方、機械工学類の科目・配点は、セ試が5教科7科目の計450点、2次が数学250点、物理・英語各200点の計650点で、総計1,100点。合格者は、セ試では得点率64%~86%(平均75%)に分布、最高・最低の差は22p。2次では得点率51~79%(平均62%)に分布し、最高・最低の差は28p。経済学類に比べ、セ試と2次で得点幅にそれほど違いがなく、2次の得点力で合否が決まったことがうかがえる。
中央大・法政大・早稲田大・関西大・近畿大など、私立大は全体的に倍率ダウン。同志社大は難化か
私立大の一般入試の受験・合格状況をみると、受験者2%減に対し、合格者は6%増加し、実質倍率は11年3.5倍→12年3.3倍とダウンした。中央大・法政大・早稲田大・関西大・近畿大など、全体的に倍率ダウンの大学が目立つ。一方、倍率アップの大学は、愛知大・同志社大など少数派だ。
実質倍率は3.5倍→3.3倍にダウン、特にセ試利用で顕著
「螢雪時代」編集部が私立大一般入試の受験・合格状況について調査したところ、110大学の集計(3月中旬現在)では、受験者数は2%減ったが、合格者数が6%増加(グラフ4)。実質倍率(以下、倍率)は11年3.5倍→12年3.3倍とダウンした。
私立大が集中する大都市圏の大学を集計すると、首都圏4.4倍→4.2倍、京阪神3.6倍→3.3倍と、いずれも倍率がダウンしたが、特に京阪神で「受験者減・合格者増」が顕著だった。
入試方式別では、独自入試(各大学の個別試験)は「受験者1%減、合格者4%増」で3.8倍→3.6倍にダウン。セ試利用入試は「受験者2%減、合格者11%増」、独自・セ試併用型は「受験者3%減、合格者11%増」とさらに合格者増が顕著で、倍率はそれぞれ2.9倍→2.6倍、3.3倍→2.9倍とダウンした。
私立大では合格者が併願先の他大学にある程度流出することを想定し、正規合格者をかなり多めに出す(独自入試=募集人員の3~5倍程度、セ試利用入試=5~10倍程度)。12年は震災や金融不安などの影響で、経済的な制約から、確実な合格を目指しつつ併願校数を絞る傾向が続く一方、“国公立大志向”も根強かった。そのため、国公立との併願が多い大学を中心に、入学手続率の低下を見越し、定員の大幅超過を懸念しつつ、合格者を増やす大学が目立った。
以下、おもな大学の倍率の変動を紹介する(*は「志願者÷合格者」、その他は実質倍率。おもに2月入試の集計)。中央大・法政大・早稲田大・関西大・近畿大など、全体的に倍率ダウンするケースが目立ち、倍率アップは同志社大・愛知大など少数派だ。
(1)倍率アップ
【首都圏】慶應義塾大(独自入試のみ)4.8倍→5.0倍*、東京女子大2.9倍→3.0倍、津田塾大2.5倍→2.6倍
【京阪神・その他】愛知大2.6倍→2.9倍*、同志社大2.8倍→3.0倍
(2)倍率ダウン
【首都圏】青山学院大5.6倍→5.3倍、駒澤大4.1倍→3.8倍、成蹊大5.5倍→4.8倍、専修大3.7倍→3.5倍、中央大5.0倍→4.6倍、東洋大4.7倍→3.8倍、日本女子大3.3倍→2.8倍、法政大5.5倍→5.1倍、明治学院大3.2倍→3.1倍、立教大5.2倍→5.1倍、早稲田大6.1倍→5.5倍
【京阪神】京都産業大3.9倍→3.3倍、同志社女子大3.5倍→3.2倍、佛教大4.1倍→3.8倍、関西大5.0倍→4.3倍、近畿大4.4倍→4.1倍、関西学院大3.6倍→3.4倍、甲南大3.8倍→3.6倍*、武庫川女子大3.4倍→3.2倍
【その他】北海学園大2.1倍→2.0倍、東北学院大1.9倍→1.8倍、南山大2.7倍→2.2倍、名城大3.0倍→2.5倍、西南学院大3.4倍→3.2倍
理系学部は難関から中堅校に至るまで幅広く志願者増
グラフ5で文理別・難易ランク別の志願者動向(4月中旬現在:駿台予備学校の集計)を見てみよう。ここでいう難易ランクは、同じ大学内でも学部によって異なるが、おおむね、Aランクは難関校や難関医科大、Bランクは準難関校、Cランクは中堅上位校、D~Eランクは中堅クラス以降を指す。文系はBランクを除き、軒並み志願者減。一方、理系は全ランクで満遍なく志願者が増え、中でもEランクの志願者増が際立つ。理系の難易ランクを超えた幅広い志願者増と、対照的な文系の志願者減という、「文低理高」傾向がはっきり見て取れる。
文系の場合、法・経済など社会科学系の人気ダウンが影響した。Bランクのみ増加したのは、安全志向で難関校から、就職を意識して中堅校から流入したものとみられ、“手の届く目標校”としての準難関校人気の根強さを物語る。
一方、理系の場合、11年と同様、(1)“資格・技術志向”の強まりで人気が高まり、(2)理系受験生自体の厚みも増し、(3)セ試の平均点アップが理系に“追い風”となったことが要因とみられる。特に“中堅理工系”の大幅増が目立ったが、“安全志向”によるランクダウンに加え、厳しい就職状況から、従来は大学進学を考えなかった層が進路変更し、流入した模様だ。
合格ラインから私立大の入試の実態を把握しよう
次に、私立大の「合格ライン」を見ていこう。毎年、倍率の変動や入試問題の難易などによって上下し、大学によっては選択科目間の有利・不利をなくす得点調整を行う場合もある。
まず、表3に関西学院大の「学部個別日程」の合格最低点を示した。得点率にして52%~71%の間に分布しているが、全学部(学科)を平均すると、例年60%台が合格最低ラインの目安となる。その中で、倍率低下した文(総合心理科学)・社会・法(政治)・経済・人間福祉(社会起業・人間科学)で合格ラインが下降し、逆に倍率アップした文(美学芸術学・西洋史学・日本文学日本語学・英米文学英語学)・商・教育(幼児・初等教育<文系>)で上昇。入試問題の難易もあり、一概には言えないが、倍率の変動が合格ラインに影響した好例といえる。
同志社大では、総合点の合格ラインに加え、合格者の科目別の最高・最低点も公表している。表4に「学部個別日程」のデータを示した。
文系学部では、総合点の合格最低ラインは平均して70%程度。科目別に見ると(以下、得点率で表示。極端に低い学部・学科を除く)、英語の最高点は91%~98%で全体的に満点に近く、最低点は55%~74%。全学的に英語の得点力を重視するため、ある程度ハイレベルな学力が要求される。不得意でも60%台は得点したい。国語の最高点は87~100%、最低点は40~64%と幅広く分布し、選択科目(日本史・世界史・政治経済・数学)では、最高点は80%~90%、最低点は60%前後のケースが多い。
一方、理系学部では、総合点の合格最低ラインは平均して約60%。科目別に見ると、英語の最高点は得点率90%前後だが、最低点は40%前後が多い。数学は最高点がほぼ満点で、最低点は50%前後が多い。物理・化学・生物は、最高点はだいたい70%~満点、最低点は物理が30%~50%、化学・生物が40~60%に多く分布する。理系学部では、文系より合格者の得点ゾーンが広いのが特徴だ。
私立大入試の3科目型では、1科目が得意で、もう1科目がまずまずなら、残りの1科目はやや不得意でも合格は十分可能なことがわかる。合否はあくまで、3科目の合計点次第なのだ。
最後に、合格ライン付近がいかに激戦となるかを紹介する。グラフ6に龍谷大‐経済学部(A日程:スタンダード方式文系型)の、合格ライン付近の上下10点幅の人数分布を示した。同方式は、文系型3科目で各100点、計300点の均等配点。12年では、受験者数1,516人に対し、合格者429人で倍率は約3.5倍。合格最低点は202点、得点率は約67%だった。
注目すべきは、最低点を含め上10点幅の部分に、合格者全体の約31%が集中していることだ。1点違いの不合格者も13人いるなど、合格ライン付近には多くの受験生がひしめきあっている。ふだんの勉強から「1点の重み」を意識し、解答の見直しを習慣づけよう。
鳥取環境大が前期・後期日程に参入。
福島大・法政大でセ試の地歴・公民、理科が「高得点→第1解答科目」利用に!
ここからは4~5月に続き、2013(以下、13)年入試の変更点をお知らせする。新設予定大学は公立1大学・私立3大学と、ここ数年に比べ少ない。「私立→公立」に移行した鳥取環境大の前期・後期への参入、ここ数年続く立命館大の入試方式整理、防衛大学校の入試改革などが注目される。
新設大学:公立1大学、私立3大学が新設予定
文部科学省の発表(4月中旬)によると、公立1大学、私立3大学の新設が予定されている。各大学を構成する学部と定員(カッコ内。編入学を除く)は次の通り。
【公立】秋田公立美術大‐美術(100)
【私立】札幌保健医療大‐看護(100)、岡崎女子大‐子ども教育(100)、大阪総合漫画芸術工科大‐漫画・コミックアート(90)
国公立大:東京工業大の前期でセ試の「基準点」の扱いを厳格化
[1]募集人員の変更
●名古屋大 教育学部でセ試を課さない推薦を「15人→10人」に削減し、前期を「50人→55人」に増員する。
●新見公立大 看護学部で、前期を「35人→40人」、後期を「5人→8人」に増員し、セ試を課す推薦を「20人→12人」(うち、地域優先選抜枠2人を新設)に削減する予定。
●愛媛県立医療技術大 前期を「看護学科35人→42人、臨床検査学科14人→15人」に、セ試を課す推薦を「看護学科18人→26人、臨床検査学科6人→10人」に増員する予定。
●福岡県立大 看護学部で前期を「40人→50人」に増員し、編入学定員を廃止する予定。
[2]一般入試の変更
●福島大 セ試の地歴・公民、理科について、「高得点科目を利用→第1解答科目を利用」に変更する。これで、全国立大が基本的に地歴・公民、理科は「第1解答科目」利用となった。
●東京工業大 前期のセ試(5教科7科目)で、基準点(950点中600点以上)の扱いを厳格化。「個別学力検査の成績が極めて優秀な者は基準点に満たない場合であっても合格とすることがある」という特例を廃止し、基準点に満たない場合は「出願不可」とした。
●愛媛大 医学部看護学科で、セ試を「4教科4科目→5教科5科目」に増加(「地歴・公民・理科から1科目選択」を「地歴・公民から1科目、理科から1科目」に変更)。
●鳥取環境大 「私立→公立」に移行した同校では、13年から一般入試全部を、セ試を課す分離分割方式(前期・後期)で実施する。入試方式・日程ごとの募集人員は、環境・経営の2学部とも「AO5人、推薦43人、前期A方式45人・B方式20人、後期25人」(A方式はセ試5教科型、B方式はセ試3教科型)。
[3]推薦・AO入試の変更
●愛媛県立医療技術大 セ試を課す推薦で、出願資格から「評定平均値4.0以上」を除外。
●高知工科大 マネジメント学部でAO入試を新規実施する。
私立大 : 岩手医科大・関西医科大などが新たにセ試を利用
[1]学部の改組など
●東京慈恵会医科大 医学部看護学科で定員増(40人→60人)を予定している。
●関東学院大 工学部(6学科)を「理工学部(11コース)、建築・環境学部」に分割する。また、看護学部を増設する予定。
[2]一般入試の変更
●酪農学園大 コース入試を廃止し(管理栄養士コースを除く)、学類入試(入学後に専攻するコースを決定)のみ実施する。
●岩手医科大 歯・薬の2学部でセ試利用入試を新規実施する。歯が「セ試=3教科3科目(理科、外国語、「国語・数学から1科目選択」)、個別=面接」、薬は「セ試=3教科5科目(数学・理科各2科目、英語)、個別=課さない」。
●埼玉医科大 医学部がセ試利用入試を新規実施する予定。
●東京女子医科大 看護学部の一般入試でⅡ期を廃止。
●日本赤十字看護大 一般入試のB日程を廃止し、セ試利用入試の募集枠を拡大(5人→15人)、3方式に分割する。募集人員は各5人で、いずれも個別試験は課さない。各方式のセ試の教科・科目は次の通り。
[Ⅰ‐A]数学Ⅰ・A、英語(リスニングを除外。以下同じ)必須、「数学Ⅱ・B、化学Ⅰ、生物Ⅰから1科目選択」の2または3教科3科目
[Ⅰ‐B]国語(古文・漢文を除く。以下同じ)、数学Ⅰ・A、英語の3教科3科目
[Ⅱ]英語必須、「国語、数学Ⅰ・A、化学Ⅰ、生物Ⅰから2科目選択」の2または3教科3科目
●法政大 (1)セ試利用入試(B・C方式)の地歴・公民、理科について「高得点科目を利用→第1解答科目を利用」に変更する。/(2)理工・生命科学の2学部のセ試利用で、C方式(5教科6科目型)を新規実施する。
●立命館大 (1)W方式(英文記述問題を課す英・国2教科型)を廃止する(12年は4学部で実施)。/(2)情報理工学部の「英国数3教科型」を独自・セ試併用方式に変更する。
●関西医科大 (1)医学部でセ試利用入試を新規実施する。募集人員は15人、選抜方法は「セ試=4教科6科目(数・理各2科目)、個別=面接」。/(2)一般入試で東京会場を新設する。
[3]推薦・AO入試の変更
●立命館大 AO入試のうち、国際方式(12年は10学部で実施)を廃止する。
●関西学院大 経済学部で、AO入試に「英語能力重視型」を追加する。英語の有資格者(英検準1級など)が対象で、試験日は9月19日、選考方法は書類審査と面接(日本語・英語)。
文科省所管外 : 防衛大学校でAO方式を導入、一般入試を複線化
防衛大学校が大規模な入試改革を実施する。従来の推薦入試(試験:9月。高校長推薦)に加え、AO方式の「総合選抜」(試験:9~10月)を導入。また、一般入試を「前期日程(試験:11~12月)、後期日程(試験:3月)」に分割した(後期を新規実施)。各入試の専攻ごとの募集人員、選抜方法の概略は以下の通り(詳細は各募集要項で確認のこと)。
【推薦入試】募集人員=人文・社会科学20人、理工学80人/選抜方法=学力試験(人文・社会科学=英語・小論文、理工学=英語・数学・物理・化学)、口述試験・身体検査
【総合選抜】募集人員=人文・社会科学、理工学合計で40人/選抜方法=[1次]基礎学力試験(科目等は推薦と同じ)、[2次]適応能力試験・問題解決能力試験・基礎体力試験・口述試験・身体検査
【一般前期】募集人員=人文・社会科学65人、理工学235人/選抜方法=[1次]人文・社会科学(英語、国語、「数学・地歴・公民から1科目選択」、小論文)、理工学(英語、数学、「物理・化学から1科目選択」、小論文)、[2次]口述試験・身体検査
【一般後期】募集人員=人文・社会科学10人、理工学30人/選抜方法=[1次]英語、数学、国語(数学・国語は専攻により出題範囲が異なる)、[2次]口述試験・身体検査
* * *
詳細は国公立大の入学者選抜要項(7月頃に発表)、私立大の入試ガイド(5月以降に発表)などで必ず確認してほしい。
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代(2012年6月号)」より転載いたしました。