2010年は教員養成系国立大と理工系の中堅私立大が難化。2011年も“資格系人気”続く?
受験勉強が本格化する夏休みを前に、各大学の2010年入試結果データが出そろった。ここでは、国公立大、私立大それぞれの一般入試結果を最終チェックし、2011年の動向を予測。学部の増設や統合、一般入試の方式変更、センター試験の新規利用など最新入試情報も紹介する。
※この記事は『螢雪時代・2010年8月号』の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)
一般入試の合格状況を総ざらい!国公立大は準難関校や地方公立大も難化。私立大は中堅上位~中堅クラスで倍率アップが目立つ。
11年入試の変更点をチェック!福岡女子大で全学規模の改組を予定。
医療系を中心に資格系学部・学科の新設が目立つ
一般入試の合格状況を総ざらい!国公立大は準難関校や地方公立大も難化。私立大は中堅上位~中堅クラスで倍率アップが目立つ。
2010(以下、10)年の一般入試結果を見ると、国公立大は「志願者3%増、合格者1%減」、私立大は「志願者4%増、合格者2%増」。学部系統別では、国公立大は教員養成・医療看護・生活科学が難化、社会福祉・医・歯・薬が易化した模様。私立大では理工・農・医・医療看護が難化、薬が易化したとみられる。
国公立大:
志願者3%増、合格者1%減。
定員増の医はやや“広き門”に
国公立大の10年一般入試の実施結果を本誌で調査したところ、全体では09年に比べ「志願者3%増、合格者1%減」のため、倍率(志願者÷合格者。以下、特に注記のない場合は同じ)は09年4.0倍→10年4.1倍とアップした。さらに日程別にみると「前期2.8倍→2.9倍、後期8.0倍→8.2倍、公立大中期5.7倍→5.9倍」といずれもアップした。
大学受験生数の増加(2%増:旺文社推定)に加え、経済不況で受験生の“国公立志向・地元志向”が強まったことが要因とみられる。経済不況に加え、10年入試に大きく影響したのは、センター試験(以下、セ試)の難化だ。国語、数学I・A、物理I、化学Iなどの難化で、セ試の平均点は2年連続でダウン(グラフ1)。受験生に“安全志向”が強まり、1ランク落とした出願傾向や、前年度の反動が顕著にみられた。さらに、就職状況の悪化を背景とした“資格志向”も加わり、「国立大教員養成系」と「地方の公立大」が人気アップした。
大学全体の倍率の変動を見ると、東京学芸大(3.3倍→3.8倍)、大阪教育大(3.4倍→4.3倍)など、教員養成系の国立単科大が軒並み倍率アップ。また、岩手県立大(7.0倍→8.3倍)、山梨県立大(3.4倍→5.2倍)、北九州市立大(4.2倍→5.3倍)など、大都市圏以外の公立大でも倍率アップが目立ち、いずれも難化した模様だ。
さらに、隔年現象(08年:志願者増→09年:減→10年:増)が顕著だった“準難関校”では、横浜国立大(4.5倍→4.7倍)、金沢大(2.7倍→3.1倍)、広島大(2.8倍→3.1倍)が倍率アップし、やや難化した模様。
学部系統別(グラフ2)では、資格取得に強い学部系統の人気が高まり、教員養成、医療・看護、家政・生活科学が倍率大幅アップで難化した模様。一方、社会・社会福祉、歯、薬は倍率ダウンで易化したとみられる。医は09年と同様、定員増の割に志願者が伸びず、やや“広き門”となった模様だ。
私立大:
志願者4%増、合格者2%増
セ試利用の倍率アップが顕著
「螢雪時代」編集部の私立大一般入試結果調査(506大学集計:志願者273.1万人)によると、09年に比べ「志願者4%増、合格者2%増」で、倍率は全体で09年3.6倍→10年3.7倍にアップした。
入試方式別にみると、各大学の個別試験は「志願者2%増、合格者:前年並み」で、倍率は3.8倍→3.9倍にアップ。一方、セ試利用入試(一般・セ試併用型を含む)は「志願者9%増、合格者4%増」で倍率は3.1倍→3.3倍と、より志願者増と倍率アップが顕著だった。大流行が懸念された「新型インフルエンザ」のリスクを回避しつつ、受験機会を確保する狙いもあったようだ。
全体に“安全志向”が強まり、出願校を順次ランクダウンする傾向が見られた。さらに、各大学では合格者の入学手続率が“例年以上に”良好だったといわれ、定員の大幅超過の回避や入学者の学力レベル維持のため、09年ほどではないが、合格者を抑え目に出したようだ。
志願者数の上位10大学(表1)の入試結果を見ると、東洋大・日本大・明治大・近畿大では志願者増の割に合格者を絞り込み、実質倍率(受験者÷合格者)がかなりアップしている。一方、関西大・立命館大は、志願者減の割に合格者を多めに出し倍率ダウン、やや易化した模様だ。この他に、志願者の多いおもな大学で実質倍率が変動したケースを紹介する。
(1)倍率アップ 東北学院大2.3倍→2.5倍、獨協大3.3倍→3.9倍、亜細亜大4.4倍→4.7倍、国士舘大2.6倍→3.4倍、国学院大4.7倍→5.4倍、駒澤大3.7倍→3.8倍、成蹊大5.7倍→6.2倍、専修大3.5倍→3.9倍、愛知大3.0倍→3.3倍、南山大2.7倍→2.9倍、関西学院大3.8倍→4.1倍、甲南大4.0倍→4.2倍、西南学院大3.4倍→3.5倍、福岡大3.5倍→3.6倍、など (2)倍率ダウン 青山学院大6.4倍→5.4倍、学習院大4.2倍→3.9倍、慶應義塾大4.6倍→4.3倍、成城大5.2倍→5.0倍、東京理科大3.1倍→3.0倍、中京大3.6倍→3.0倍、名城大3.4倍→3.1倍、京都産業大4.8倍→4.3倍、同志社大3.1倍→2.9倍、龍谷大4.2倍→4.1倍、など |
「日東駒専」をはじめ、中堅上位~中堅クラスや地方の主要私立大の倍率アップが目立つ。一方で、早・慶をはじめ、大都市圏の難関校が敬遠され、倍率ダウンしている。
全国の私立大を、大学単位の競争率(実質倍率)グループ別に分類すると(グラフ3)、09年に比べ「3.9~3.0倍」と「1.9倍以下」の大学数が減少し、「4.9~4.0倍」と「2.9~2.0倍」が増加した。ここから、中堅上位で「3.9~3.0倍」から「4.9~4.0倍」へ、中堅クラスで「1.9倍以下」から「2.9~2.0倍」に移行するケースが多かったことがうかがえる。
地区別の集計では(グラフ4)、関西(3.8倍→3.7倍)を除く5地区は倍率がアップしたか、前年並みを保った。関西は、前述の立命館大・関西大などの合格者増が影響している。
学部系統別の集計では(グラフ5)、社会・社会福祉、理・工、農・水畜産・獣医、医、医療・看護の倍率アップが目立つ。工学系の中堅校が人気を集め、東京電機大(2.9倍→3.5倍)、愛知工業大(2.1倍→2.8倍)、大阪工業大(3.6倍→4.1倍)など、実質倍率が大幅にアップした。一方、経済・経営・商、薬が倍率ダウン、特に薬が易化した模様。歯は志願者大幅減だが、定員減などもあり、倍率はほぼ前年並みに留まった。
2011年一般入試の志願者数は、
国公立が1%増、私立は微減か
次に、11年の一般入試がどう動くのか予測してみよう。前提となるポイントは3つある。
(1)受験生数はほぼ10年並みか
4(6)年制大学の受験生数は、「螢雪時代」編集部の推定では「10年68万人→11年68万2千人」と、ほぼ横ばいとなる見込みだ。
(2)センター試験の平均点が上がる!?
11年度のセ試は、2年連続の平均点ダウンの反動で、国語や数学I・Aなどが易化する可能性があり、平均点がややアップしそう。受験生がやや「強気出願」に転じる可能性がある。
(3)不況の影響が続く
とはいえ、不況の影響が続く現状から、《1》生活費や通学費の支払能力を考えた“地元志向”、《2》就職状況の低迷を意識した“資格志向”、《3》浪人を回避するための“安全志向”、《4》学費負担を考えた“国公立大志向”は10年と変わらないものとみられる。さらに、12年にセ試の実施方式が大きく変わる(地歴・公民の試験枠を統合、理科の試験枠を3→1に統合、公民に新科目「倫理、政治・経済」を設置、など)ことも、浪人の回避に拍車をかけそうだ。
このため、国公立大の一般選抜全体の志願者数は、10年ほどでないにせよ、1%程度の増加が見込まれる。難関校では、入学後に進路を決定する大くくり募集の「総合入試」を導入する北海道大が台風の目となろう。
一方、私立大では、難関校の人気回復が見込まれるものの、中堅上位~中堅校で10年の志願者増の反動が予想され、一般入試全体の志願者数は「10年並み~微減」になるとみられる。
学部系統別では、教員養成・医療看護などの資格系や、理工・農が底堅い人気で志願者を集めそう。一方、法科大学院の不人気に加え、公務員採用にもかげりが見られる法が志願者減か。歯・薬も志願者減が見込まれるが、国公立大の歯の一部で定員減を予定しており、意外な難化もありうる。また、私立大の医は、10年に激戦化した反動から志願者減が見込まれる。
11年入試の変更点をチェック!福岡女子大で全学規模の改組を予定。
医療系を中心に資格系学部・学科の新設が目立つ
ここからは11年入試の変更点を、おもに一般入試について紹介する。学部・学科増設の認可申請では、ここ数年と同様、医療・看護系と教育・保育系が目立つ。また、新見公立大・東京医科大など公私立14大学が、セ試利用入試を新たに実施する。
新設予定の福山市立大が
セ試利用の前・後期で実施
【国公立大:学部改組】福岡女子大が全学的な改編を予定。文・人間環境の2学部(5学科)を「国際文理」の1学部(3学科)に統合し、定員を180人→240人に増やす(右上の図と表2を参照。学部・学科名は仮称)。なお、1年次は全寮制となる予定だ。
岡山大‐工では、7学科(機械工・システム工・電気電子工・通信ネットワーク工・情報工・物質応用化学・生物機能工)を、4学科(機械システム系・電気通信系・情報系・化学生命系)に統合・改組する(学部全体の定員は変更なし)。
【国公立大:一般選抜】10年から「私立→公立」に移行した名桜大(沖縄県)は、11年から一般入試を全て、ほとんどの国公立大と同じ、セ試利用の分離分割方式(前期・後期)で実施する。また、11年新設予定の福山市立大も、開学初年度から、やはり一般入試をセ試利用の分離分割方式(前期・後期)で実施する予定だ。
東北大‐医(医)では、前期で2段階選抜の予告倍率を「4.0倍→3.0倍」に引き締め、2次の面接に「小作文」を加えて点数化(150点)。前橋工科大‐工では、前・後期ともセ試の英語にリスニングを追加。名古屋市立大‐医では、後期で2次の小論文を廃止、面接を400点→100点に軽減し、配点比率を逆転(セ試400点→900点、2次800点→100点)。また、同‐人文社会で前・後期ともに2段階選抜を廃止。北九州市立大‐経済では、前期の募集人員を「4教科型74人→100人、3教科型50人→24人」に変更する。
京都女子大が法学部を新設
酪農学園大が全学的に改編
【学部・学科の増設】6月18日に、11年度の学部・学科の増設予定が文部科学省から発表された(5月末認可申請分。表2を参照)。
新設予定大学の傾向(7大学中4大学が医療・看護系)と同じく、既設の大学でも資格取得に強い学部系統の増設が目立つ。私立大では13大学で学部(学科)の増設を申請したが、うち6大学で医療・看護系、2大学で教育・保育系の学部(学科)の増設を申請中だ。上智大‐総合人間科学(看護)は、看護系の聖母大を統合して開設予定。また、京都女子大‐法は「女子大初の法学部」として注目される。
【全学的な改編】酪農学園大が学部・学科制から「学群・学類制」に移行。酪農・獣医・環境システムの3学部8学科を、2学群(農食環境、獣医)5学類(循環農、環境共生、食と健康、獣医保健看護、獣医)に改編する。
【募集停止】福祉系専門大学の福岡医療福祉大が、11年度から学生募集を停止する。
関西学院大では文系学部が
数学を軸として受験可能に!
【学部共通入試】5月号で既報の日本大「N方式」(法・経済・商の学部共通入試)の募集人員・入試科目等が発表された。学部別の募集人員は「法50人、経済65人、商45人」で、共通問題により同一日(3/4に実施)に試験を行い、法では3教科3科目(国語・英語必須、地歴・公民・数学から1)、経済・商では2教科2科目(英語必須、国語・数学から1)を課す。
【一般入試】関西学院大では、一般入試の名称変更(F方式→全学日程、A方式→学部個別日程)とともに、学部個別日程(文系型)の時間割を変更、入試方式を「英語・国語必須、数学・地歴から1」→「英語必須、国語・数学・地歴から2」とした。国語を選択せず「英語・数学・地歴」での受験も可能になり、数学が得意な受験生にとっては朗報といえる。
岩手医科大‐歯・薬で一般後期を新規実施する。玉川大では全学統一入試で後期日程を追加(2科目型)。立命館大ではE方式(10年は3学部で実施)を廃止。近畿大‐医では一般前期に面接を追加し、「1次=学科試験、2次=小論文・面接」と2段階で実施する。
【セ試利用入試】青山学院大‐理工では、セ試利用後期を廃止。一方で、中京大では9学部でセ試利用前期に4教科型を導入。龍谷大では、受験生の経済的負担の軽減のため、セ試利用入試の受験料を1万5千円→1万円に減額する。
立命館大ではセ試利用入試のうち、2月実施の4教科型(10年は9学部で実施)と経営のベスト3科目型を廃止し、3月実施の後期型では4学部で3→4教科に変更。基本的に2月を「7科目型・5教科型・3教科型」の3タイプ、後期型(3月)を4教科型にまとめる。
公立1大学、私立13大学が
センター試験に新規参加
文部科学省は、09年12月と10年6月の2回にわたり、11年度からセ試を新たに利用する公私立大学・学部について発表した。
(1)新規利用大学・学部の顔ぶれ
セ試を新たに利用する大学は、公立大が新見公立大の1大学、私立大が東北福祉大・東京医科大など13大学。また、すでにセ試を利用している大学で、新たに利用学部を増やす私立大は、東海大‐観光、立命館大‐スポーツ健康科学、関西大‐社会安全・人間健康、近畿大‐総合社会、関西学院大‐国際など25大学29学部である。
一方、芦屋大・岡山学院大の2大学で、セ試の利用を取りやめる。また、武庫川女子大ではセ試利用学部を減らす(音楽学部で廃止)。
これで、セ試に参加する私立大は過去最多の503大学1,441学部(6月発表段階)となり、大学数では全私立大の約88%を占める。
(2)利用科目・方法
公立大の新見公立大‐看護では、セ試で前・後期ともに5教科6科目(理科2科目)、2次は「前期=小論文・面接、後期=面接」を課す。
私立大のセ試利用入試では、「セ試2~3科目、個別試験なし」が一般的だが、立命館大‐スポーツ健康科学は「7科目型・5教科型・4教科型」の3タイプで実施、関西学院大‐国際でも5科目型を実施する。また、医療系では次のような“多科目型”で行う場合もある。東京医科大‐医=5教科7科目(数・理各2科目)と小論文・面接・適性検査/大阪医科大‐看護=4教科4科目と面接/兵庫医療大‐リハビリテーション(理学療法)=4教科5科目(数学2科目)/日本赤十字広島看護大‐看護=4教科5科目(理科2科目)。
一方、日本赤十字看護大では、科目選択次第で数学・英語の2教科3科目で受験できる。また、関西学院大‐国際のうち「関学英語併用型・英語重視型」では、セ試が英語リスニングのみ、個別試験も英語のみで受験できる。
なお、上記の新規利用学部(計47学部。一般・セ試併用型を除く)は全て英語を課すか選択可能だが、そのうち24学部が「リスニングの成績を利用しない」、4学部が「リスニングを含む場合と含まない場合の得点を算出し、高得点の方を合否判定に利用」としている。
以上、詳細は国公立大の選抜要項、私立大の入試ガイドなどで必ず確認してほしい。
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代(2010年8月号)」より転載いたしました。