得意科目を生かす実戦的得点プランで合格ラインを突破!
大学入試に満点はいらない。合格ラインをクリアすればよい。一般的に、文系と医療系で得点率70%台以上、理工系で60%台以上、最難関の医学部で80%台以上といわれる合格ラインを、どうやって少しでも上回るか。ここでは、センター試験、国公立大2次試験、私立大入試それぞれの合格ラインを分析し、突破するための実戦的テクニックと本番直前の学習法について解説・紹介しよう。
※この記事は『螢雪時代・2009年1月号』の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)
直前期はメリハリある学習を。
本番では“捨てて勝つ”戦法で波に乗り、部分点をかせぐ!
入試直前の最終段階では、得意科目と不得意科目それぞれに応じたメリハリある学習で時間を有効利用。入試本番では「解ける問題を優先」「部分点狙い」など、効率的かつ粘り強い取り組みで、志望校の合格ラインを突破しよう。
まずは「合格ライン」の
クリアを目標にしよう
センター試験、そして一般入試の本番を直前に控え、今の受験生たちが不安なのは、「どれくらい点を取れば合格できるのか」ということだろう。そこで基準となるのが、各大学が案内パンフレットやホームページで発表している「合格最低点」だ。
入試の合否は、たいていの場合は「総合得点」で決まる(例外的に、受験科目中の特定科目の成績順位で決まるケースもある)。総合得点とは、受験した全ての科目の合計得点だ。
国公立大ならば1次のセンター試験(5<6>教科7科目が主)と2次の個別試験(2~3教科・科目が主)の合計得点、私立大ならば2~3教科・科目の合計得点ということになる。
合格最低点は、合格者のうち順位が最下位の者の得点である。発表方法は、大学・学部によって異なり、素点そのもの(選択科目は得点調整後の場合も)だったり、得点率(合格最低点÷満点×100)だったりする。そのため、合格最低点は「合格ライン」「ボーダーライン」とも呼ばれる。
受験生が入試に合格するためには、とにかく「合格ライン」をクリアすればよい。特待生を狙わない限り、満点であろうと合格最低点であろうと、いずれも合格であり、それによって区別されることは全くない。
私立大の難関・上位校は
合格ライン付近が激戦
合格ラインについて、まずは私立大一般入試のケースをみてみよう。「易しくなった」といわれる私立大だが、難関・上位校では、厳しい競争が続いている。
グラフ1は、龍谷大‐経済(A日程:スタンダード方式文系型)の2008(以下、08)年入試で、ボーダーライン付近の人数分布を示したものである。同方式の科目・配点は「国語」「英語」「世界史B・日本史B・政治経済・数学(I・II・A)から1」の3科目で各100点、計300点の均等配点。受験者数2,045人に対し、合格者481人で実質倍率は4.3倍。合格最低点は208点(得点率69.3%)だった。その分布の特徴を挙げると、
(1)「合格最低点を含め、上10点幅のゾーンに184人と、全合格者の約38%も集中している。
(2)不合格者の最高点(207点)を含め、9点差までのゾーンにも209人いる。
(3)最低点で合格したのは22人、わずか1点差で不合格になった人は24人もいる。
合格ライン付近では、総合的にはほぼ同じ学力の、多くの受験生がひしめき合い、わずか1点の差で合否が決まる。漢字の間違いや英語のスペルミス1つで明暗が分かれるといってもいい。入試では“1点の重み”がいかに大きいかわかるだろう。
私立大文系は「8・7・6」
パターンで60~70%台を確保
では、“1点差”を争う合格ラインを、どうやってクリアするのか?
グラフ1の右側に、合格最低点とその1点下の受験者から、特徴のある得点パターンをピックアップした。ここからわかることは「得意科目」の重要性だ。
3科目入試の場合、1科目で得点が伸びなくても他の2科目でカバーできることが多い。特に、AくんやBさんのように突出した得意科目を持っていると、他の2科目が普通、または1科目だけやや苦手であっても突破できるので心強い。
ただし、Fくんのように苦手科目での失点が大きいと、得意科目が1つだけではカバーしきれず、「1点差」に泣くことになる。得意科目のアドバンテージを最大限生かすためにも、他の科目も6割台以上の得点はほしいところだ。
以上のことから、私立大文系学部ではCくんのような「8・7・6」、つまり得意1科目(8割台)、準得意科目(7割台)を持ち、残り1科目は普通(6割台)をキープすることが、合格ライン(7割台)をクリアする目標パターンであることがわかるだろう。
私立大理系は「5・5・8」
パターンで50~60%台を確保
総合点でどれくらい取れば合格できるのか、難関私立大の08年入試の合格ライン(得点率)をもう少しみてみよう。
表1の慶應義塾大では、文系は商B方式と総合政策(「数学・小論文」選択者以外)が70%台だが、他はほぼ60%台。理系は医・理工・看護医療が60%台で、他は50%台が合格ラインだ。
また、表2の早稲田大では、文系は政治経済・社会科学が70%前後だが、他は平均して60%台。理系はほぼ40%台後半から50%台後半が合格ラインだ。
表3の同志社大(全学部日程)では、合格ラインは文系がほぼ60%台後半から70%台前半、理系はほぼ60%台前半から70%台前半だ。ここでは、科目別の最高・最低点をみてみよう。
入試の配点パターンとして、全教科とも同じ配点の「平等配点」と、特定の教科にウエートをつける傾斜配点があるが、同志社大をはじめ、後者を採用する大学・学部の方が多い。
経済で日本史を選択した場合、英語が合格最低点(104点:52%)であっても、日本史で最高点(128点:85%)を取れば、国語113点(75%)で総合点の合格ライン(345点:69%)に到達。理工(電気工)では、物理が120点(80%)取れれば、英語56点(56%)、数学120点(60%)でも合格ライン(296点:66%)に到達できる。
このように、各大学の「合格ライン」をみると、総じて「文系は60~70%台、理系は50~60%台で一部に70%台」であることがわかる。
文系学部は、前述のように「8・7・6」で7割台確保を、理系学部は6割台確保のために、得意1科目(8割台)を持ち、残り2科目は5割台をキープする、「5・5・8」のパターンを目標にしよう。
特定科目に“基準点”を設ける
大学・学部には要注意
ここで「6割台をとるなら、“5・5・8”でなくとも、“4・6・8”や“3・7・8”のパターンでもよいはずでは?」と考える受験生もいるだろう。
ところが、大学側は教育上、極端な不得意科目を嫌うケースがある。そして、大学(学部・学科)によっては、ある特定の科目の得点が一定点に達していない場合は、他の科目も含め選考の対象にしない“基準点”を設けていることもある。
例えば、慶應義塾大‐総合政策・環境情報では、選択した「数学」「外国語」または「数学および外国語」の得点が一定水準に達した受験生だけの小論文を採点する。さらに、その得点が一定水準に達した受験生に対し、学科試験の得点と小論文の採点結果を組み合わせ、最終判定を行っている。
また、早稲田大‐教育では、国語国文学科は「国語」の、英語英文学科は「英語」の、数学科は「数学」について、それぞれの全受験者の平均点を合格基準点としている。同志社大‐法・経済でも、英語(200点満点)に80点(4割)の基準点を設けている。
基準点は、「特定科目の全受験者の平均点」か「配点の4割」とするのが一般的だ。募集要項で必ず確認しておくとともに、苦手科目でもこの程度は得点できるようにしておこう。
得点調整で選択科目間
の有利・不利を解消
受験生にとって不安なのは「選択科目」の扱いだ。文系は「地歴・公民・数学から1科目」、理系は理科で「物理・化学・生物などから1科目」選択することが多い。そのため、科目の難易で有利・不利が生じ、得点に較差が出てくるからだ。
だが、多くの大学・学部では、偏差値(得点を「平均が50、標準偏差10の正規分布での値」に換算したもの)や中央値補正法(成績順で中央に位置する人の得点を、その科目の満点の5割となるように全体を補正)などを用いて調整している。偏差値を用いれば、例えば500点満点や350点満点の得点でも、ほぼ「30~70の値」に換算できる。
08年入試の例を見ると、関西学院大では選択科目(学部によっては全科目)で中央値補正法によって得点調整を行い、同志社大も全学部の選択科目の間で得点調整を実施した。慶應義塾大‐法(B方式)・商は「地理歴史」間で、看護医療は選択科目(数学・化学・生物)の間で得点を補正。早稲田大でも理工系3学部以外の10学部で、選択科目間の標準化を行い、表2の合格最低点は調整後のものだ。
センター試験は「6・6・6・
8・9」で70%台を確保
今度は国公立大について説明しよう。まず、1次のセンター試験でどれくらい得点すればいいのか?
センター試験の受験者全体の平均点は、例年ほぼ60%前後である。これは、問題レベルが「学習の達成度を見る」ため、教科書(章の練習問題など)の範囲で、受験者平均が60%程度となるように作られるためだ。ちなみに、08年センター試験の受験者平均点(各科目の平均点と受験者数から全体の平均点を算出)によると、900点満点の標準型に換算して文系548.2点(6教科7科目:得点率60.9%)、理系548.4点(5教科7科目:同60.9%)である。
次に、国公立大の08年入試データで、センター試験の合格最低点率をみてみよう。表4の東京大(前期:第1段階選抜)の最低点は、科類により7~8割とハイレベル。表5の大阪大(前期)では、文系(外国語を除く)は7割台後半~8割、理工系は6割台後半~7割台前半、医を含む医療系は7割台~8割台前半。外国語のみほぼ6割台だが、これは2次の配点比率が約77%と際立って高いためでもある。表6の大阪市立大(前期)では、文系・理系(医学科を除く)ともに6割台後半から7割台前半で、医(医)のみ85.7%と飛びぬけて高い。他大学の事例を見ても、センターの合格ラインは、医・薬や超難関校の8割台を除くと、全体的には7割台が多い。
センター試験の得点目標を7割とすると、5(6)教科とも均一に70%台をクリアできれば理想的だが、科目数が多い上に、得意・不得意があるのだから、そうはいかないのが普通だ。
そこで、5教科(ここでは地歴・公民をあわせて1教科とみる)の得点割合を「6・6・6・8・9」と設定し、「3教科は受験者平均並みの60%台、残りの2教科は準得意1教科80%台、得意1教科90%台」で平均70%台を確保しよう。得意教科を最大限に生かすのだ。傾斜配点で、得意教科の配点が他教科より高ければ、さらに有効だ。
目標得点が8割台以上であれば、6割台の教科を全て7割台まで引き上げるような対策が必要だ。教員養成系の学部など、センター・2次の配点で「センターの比率が極端に高い」「2次を課さない」といった、センター試験の結果が直接影響する場合にも、やはり同じことが言える。
2段階選抜の実施の有無と
予告倍率に注意しよう
さらに注意すべきなのは、国公立大のおもに難関校や医学部医学科などで行われる「2段階選抜」だ。
2段階選抜の実施を予告している大学・学部では、センター試験が指定の得点に達しなかったり、2次試験の志願倍率(志願者数÷募集人員)が予告倍率を超えていたりする場合、第1段階選抜(センター試験による選抜)で不合格になる。
例えば、08年入試での東京大(前期)の2段階選抜予告倍率は、募集人員に対し「文I~III:3.0倍、理I:2.5倍、理II:3.5倍、理III:4.0倍」だった。そして、各科類の第1段階選抜結果(志願者数→合格者数)は「文I:1,342人→1,205人、文II:1,320人→1,074人、文III:1,692人→1,409人、理I:3,045人→2,772人、理II:2,266人→1,869人、理III:418人→360人」。全体では、募集人員2,953人に対し、志願者数は10,083人で、第1段階選抜の結果、1,394人が2次を受験できなかったことになる。
せっかく2次対策をしても、受験すらできなくなってしまう。そんな残念な結果に終わらないためにも、受験生は志望校が2段階選抜を行うかどうか、行う場合は予告倍率(または基準点)を募集要項でしっかり確認しておく必要がある。
難関私立大や国公立大2次では……
文系は7割台、理工系は6割台を確保!
次に、国公立大2次試験の突破法だ。記述式の2~3教科が主流で、文系は「国語、数学(地歴・公民)、外国語」、理系は「数学・理科・外国語」が多いので、基本的に私立大と同様に考えるとよい。
総合点(センター・2次合計)の合格ラインを見ていこう。表4の東京大の前期日程では、理III:のみ68.7%と突出しているが、他の科類は55%~65%の範囲に収まっている。表5の大阪大(前期)、表6の大阪市立大(前期:第1部のみ)をみても、文系・理系ともに6~7割台の学部・学科がほとんどで、医学科のみ8割を超えている。この他、金沢大(前期)・神戸大(前期)の合格ラインをみると、「文系7割台、理工系6割台、医療系7割台、医が8割台」で、ほぼ共通した傾向を示す。
大阪大・大阪市立大とも、2次の合格最低点が意外と低いが、センター試験で相当高得点を取らないと、総合点の合格ラインに届かない。例えば、大阪大‐工(地球総合工)の2次の合格最低点は326.75点(50.3%)だが、総合では636.27点(63.6%)のため、センターで309.52点(88.4%)も必要だ。2次は記述式で難度も高いので、センター試験より得点しにくいが、やはり6割程度は得点したい。
文系学部や医療・看護系では「センター8割+2次6割」で総合点7割台を、理工系学部では「センター7割+2次5割」で総合点6割台を、そして医学部志望者は「センター9割+2次7割」で総合点8割台を、確実に得点したいところだ。
最終目標は「合格者平均点」
確保で余裕ある勝利を!
ただし、合格ラインはあくまでも当落線上であり、受験生、とりわけ現役生の学力は入試直前で大きく伸びる。できればより安全な「合格者平均点」まで学力レベルを上げ、余裕ある勝利を得たいものだ。
グラフ2では、東北大の前期日程における各学部(学科・専攻)の合格者平均得点率を、センター・2次それぞれに示した。これを見ると、合格者平均点は文系(文・教育・法・経済)、理工系(理・工・農)ともに、センター試験が80%前後に達しているのに対し、2次は農の56.6%から法の64.0%まで幅はあるが、60%前後に留まっている。医(医)だけは「センター89.7%、2次76.6%」と突出し、ハイレベルの激戦であることがわかる。医学科以外の学部・学科では「センター80%、2次60%」以上を確保したいところだ。
とはいえ、センター試験の80%はともかく、2次で60%得点するのは容易ではない。特に数学・理科の場合は、全て記述式で計算量も多いので得点しにくい。しかも、2次は各大学の個別試験だから、それぞれの個性が強く出る。そのため、過去問をしっかり学習し、出題傾向を把握することが、「60%」クリアのカギを握るといっても過言ではない。
本番では「捨てて勝つ」
戦法でリズムに乗ろう
合格ラインを突破するための得点割合が決まったら、入試本番ではその方針によって問題を解いていこう。問題用紙が配られたら、まず全問を見渡す。第1問から順番に解くのではなく、解けそうな問題から着手し、リズムに乗ろう。この方法は全教科に共通するが、特に数学や、物理・化学など理科系科目では重要だ。その際、次の手順を忘れないこと。
(1)全問に目を通す(読むのではない)。
(2)「解けそうだ」=○、「いけるかな」=△、「無理かもしれない」=×、と問題ごとに印をつける。
(3)○から先に解く(問題番号順とは限らない)。
×には手を付けず、まず○から始め、次は△へ……という順に、集中的に解く。1題解けると落ち着き、次の○や△もふだん通りに解けることが多い。
数学で、○や△が完全に解けない場合は、とにかく小問[1]だけを解こう。例えば、大問が小問2つで構成されていれば、(1)は教科書に出ている基本的な問題解法で解けるように作成してあり、(2)は(1)の結果を利用すれば解けるようになっているケースが多い。また、×の問題にも比較的易しい小問が用意されていることがあり、各大問のうち小問[1]だけを解くだけで、全体の得点の3~4割近くを取れる。
とにかく、粘り強く部分点をコツコツかせぐこと。この小さな“貯金”の積み重ねが、最後に「合格」というハイリターンになって戻ってくるのだ。
以上の「捨てて勝つ」戦法は、ふだんの過去問演習の時に、指定時間内に解くことを強く意識して、手順をしっかり身に付けよう。
得意科目は“攻め”、不得意科目
は“守り”の効率的学習を!
入試直前は少しの時間も無駄にできない。これからの学習の進め方としては、
(1)不得意科目は、基本を重視し、テキストや模試などの問題を何度も解く。
(2)出題傾向をよく調べ、よく出るジャンルの基本問題を中心に、毎日3題は解く。
(3)国公立大志望者は、当面のセンター試験に全力投球する。ただし、私立大や国公立大2次と重複する教科・科目は、2次対策の学習(過去問の演習)に重点を置く。
(4)過去問を解くときは、必ず制限時間内で解く。
1教科につき、最低2日に1回は解答練習を。
最後に受験生に向けて一言アドバイスを…
思い切って、得意科目は過去問や参考書・問題集を中心とした学習に徹し、不得意科目は教科書や模試の問題などの反復練習に切り換え、「復習に力を入れることが受験勉強」と割り切ることだ。得意科目では“攻める”一方で、不得意科目は基礎力充実の“守り” に徹するメリハリの効いた学習法によって、効率よく“合格力”をつけよう。
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代(2009年1月号)」より転載いたしました。