2025年私立大一般選抜について、難関校を中心に、人気度を示す「志願者動向」を分析する。あわせて、難易変動の指標となる「実質倍率」の変化も見ていく。受験生数の増加率を大きく上回り、志願者は8%増。一方、合格者は絞り込まれた。
《全体解説》
志願者8%増、チャレンジ志向で難関校人気アップ
大都市圏志向が強まり、医・薬以外は文理ともに増加
受験生数を超える増加率
共テ利用方式が大幅増
『螢雪時代』では、学部学生の募集を行う全国の私立大学(583大学。通信制と専門職大学を除く)に対し、2025年(以下、25年。他年度も同様)の一般選抜の志願者数を調査した。4月中旬現在で集計した確定志願者数のデータは「221大学:約300万5千人」にのぼる。
この集計は2月に行われた各大学の独自入試(大学が独自の試験問題等で行う入試)と大学入学共通テスト(以下、共テ)利用方式を主な対象とし、2月下旬~3月の「後期募集(共テ利用を含む)」も集計に一部加えている。
その結果、私立大一般選抜の志願者数は、24年の同時期に比べ、8%増加したことがわかった。今後発表される大学の志願者数を加えても、最終的に私立大の一般選抜志願者数は7~8%の増加となる見込み(下のグラフ1)。複数の入試日程・方式等を合計した「延べ志願者数」なので、学内併願などの重複を除いた実質的な志願者数は、見かけほど増えていない可能性もあるが、全体として積極的な志願状況だったといえる。
25年の4(6)年制大学の受験生数は、24年に比べ約3%増(旺文社推定)となる見込み。また、共テの志願者も約1%増と、基礎となる数値は拡大したが、私立大一般選抜の志願者数はそれらをはるかに上回る増加率を示した。
また、入試方式別に見ると(グラフ2)、大学の独自入試は6%増、共テ利用方式は10%増、独自・共テ併用型(独自入試の指定科目と、共テの高得点または指定科目を合計して判定)は16%増と、共テを利用する方式の増加が目立つ。
このうち、独自・共テ併用型の大幅増は、早稲田大の2学部(社会科学、人間科学)が独自入試から変更した影響が大きい。
「年内入試」の競争激化と
共通テストの易化が影響
このような結果となった理由としては、次の4つのポイントが挙げられる。
(1)「私立大は易しい」の意識
文部科学省の最終集計では、私立大一般選抜全体の実質倍率(受験者数÷合格者数)は「21年2.8倍→22年2.7倍→23年2.6倍」と低下し、「私立大は易化した」との意識が浸透した。24年は2.7倍にアップしたが、いったん定着した意識を変えるには至らず、難関~中堅上位校へのチャレンジ志向に結びついたと見られる。
とはいえ、一方では強い現役志向から、入学する可能性が低い大学は除きつつ、合格確保校の併願を若干増やす傾向も見られた。
(2)共通テストが3年連続で易化
新課程初年度の共テの平均点が、24年に比べアップ(=易化)したことも大きかった。3年連続で共テが易化した影響は、私立大の共テ利用方式(独自との併用方式を含む)にも及び、共テ本試験日の前に締め切る「事前出願」の日程・方式では23・24年の易化が、後に締め切る「事後出願」の日程・方式では25年の易化が、それぞれ追い風となり、いずれも志願者増に結びついた。国公立大志望者が共テ利用方式で大都市圏の私立大への併願を増やしたのに加え、私立大専願の難関校志望者も独自・共テ併用方式で併願を増やした模様。また、独自入試についても、受験生が自信を持ち、チャレンジ校へ出願する後押しになったものと見られる。
(3)「年内入試」人気の影響
一方、強烈な現役志向から、「早く、確実に」合格を確保するため、学校推薦型選抜(以下、推薦型)・総合型選抜(以下、総合型)、いわゆる「年内入試」の志願者が大幅に増えたことが、一般選抜にも影響した。推薦型・総合型合計で志願者17%増(24年12月末現在:115大学集計)。特に首都圏で、大東文化大、東洋大など「学科試験中心、併願可」の方式の導入が相次ぎ、競争が激化した。一方、合格者も7%増となり、入学手続率も良好だった模様。その結果、次の3つの現象が一般選抜の志願者数を押し上げた。
1,推薦型・総合型が倍率アップ(=難化)、不合格者が例年より多く発生し、再挑戦組として2月の一般選抜に流れ込んだ。
2,「併願可」の方式で合格を確保して本命校の一般選抜合格を目指す、京阪神では一般的な併願パターンが首都圏でも増えた。
3,一方で、年内の入学手続者が増えた中堅上位~中堅校は、定員超過を避けるべく、2月の一般選抜の合格者を絞り込む必要が生じた。その結果、さらなる不合格者が例年より多く3月の一般選抜に流れ込んだ。
(4)経済的な負担軽減
志願者大幅増の要因として、複数の学部等や方式を学内併願する際に受験料を割り引く「併願割」や、一定の受験料で複数の学部等を併願できる「定額制」を導入する大学の増加も挙げられる。これらは「見かけの志願者増」に結びつくため、冷静に見る必要がある。
一方、国の「修学支援新制度」の拡充で、学費減免や給付型奨学金の対象が少しずつ広がり、従来の短大・専門学校の志望者層が四年制大学に目を向けるようになったことも確かだ。
地区・系統ごとに見ると?
大都市圏志向が強まる
理系で資格離れの傾向
下のグラフ3で全国6地区ごとの志願動向を見ると、大都市圏を擁する関東・甲信越、北陸・東海、関西、九州が増加したのに対し、北海道・東北、中国・四国は減少。コロナ禍がほぼ終息したことから、大都市圏志向も強まり、「コロナ以前」の水準に戻ったといえる。近年の易化傾向を見越してチャレンジ志向が強まり、国公立大の後期縮小もあって、首都圏や京阪神の難関~準難関校への併願が増えた模様だ。
次に、下のグラフ4で学部系統別の志願状況を見てみよう。近年続いていた「文低理高」傾向が24年に一転、文系が人気復活。25年もその傾向は継続し、法、経済・経営・商の大幅増など、文系が軒並み人気アップ。就職事情の好転に加え、ここ数年の減少傾向の反動などが要因と見られる。一方、情報科学系の新増設が相次いだ理・工をはじめ、理系も概ね増加傾向のため、全体的に高水準の「文理均衡」となった。
ただし、医、薬が前年並み、農・水畜産・獣医も微増に留まり、相対的に「理系の資格志向」は弱まったといえる。
日本大・関西大が大幅増
上智大・専修大がやや減少
ここから、各大学の志願状況を見ていこう。表1では、志願者数(大学合計:4月中旬現在)の多い順に、上位20大学を示した。志願者数の合計は、全体(221大学:約300万5千人)の約54%と半数以上を占める。
特筆すべきは、初めて志願者数トップになった千葉工業大(14%増)。5年連続で共テ利用方式の受験料を免除、独自・共テ併用のSB日程で方式を複線化したことも要因と見られる。
表1以外の大学も含め、首都圏や京阪神の難関~中堅上位校では、チャレンジ志向の強まりから、志願者増が多数を占める。
【首都圏】難関~準難関校では、学習院大(13%増)・国際基督教大(32%増)・中央大(12%増)・立教大(11%増)が大幅増、青山学院大(8%増)・慶應義塾大(7%増)・東京理科大(9%増)・法政大(3%増)・明治大(6%増)・早稲田大(7%増)も増加。全体的に共テ利用方式の増加が目立つ。また、国際基督教大は一般A方式を3タイプに分割したことが人気材料になったと見られる。
一方、上智大(2%減)はやや減少。前年の志願者11%増と合格者絞り込み(6%減)による倍率アップの反動と見られる。
いわゆる「日東駒専」は、東洋大(11%増)・日本大(22%増)が大幅増、駒澤大(6%増)も増加したが、専修大(4%減)はやや減少した。日本大は前年の大幅減(23%減)の反動と見られる。
【京阪神】いわゆる「関関同立」のうち、関西大(10%増)が大幅増、関西学院大(7%増)・同志社大(3%増)も増加したが、立命館大(1%増)は微増に留まった。関西大は情報系学部増設と前年の反動、関西学院大は共テ利用1月出願の新方式導入(情報必須の8科目型、理系4学部で3教科型)が志願者増の要因と見られる。
また、いわゆる「産近甲龍」では、甲南大(37%増)が2年連続で大幅増、京都産業大(4%増)・龍谷大(6%増)・近畿大(7%増)も増加した。甲南大は一般前期の試験日程繰り上げ、逆に一般中期の繰り下げなどが主な要因と見られる。
受験生の経済的負担軽減や
英語外部検定利用で大幅増
表2では、志願者1,000人以上で、構成する全学部が志願者数を発表した大学について、増加率が高い順に上位20大学を示した。
このうち13大学で前年の志願者減や倍率ダウンの反動がベースにあり、さらに入試の変更や学部・学科増設などが複合的に作用した結果といえる。例えば増加率トップの実践女子大は、学部増設、1月下旬の試験日程新設、そして前年の合格者大幅増による倍率ダウンの反動が、志願者が約3.5倍に膨れ上がる要因となった。
注目したいのが、前述の「受験料定額制」導入だ。表2では、桜美林大・東京工科大・立正大が該当し、受験生の経済負担軽減につながるため、いずれも爆発的な志願者増の要因となっている。
また、甲南大・京都橘大は共テ併用方式の新規実施、國學院大・実践女子大・東京工科大・日本大は英語外部検定利用の導入・拡充が、大幅増の一因となっている。
この他、名古屋葵大(旧:名古屋女子大)の大幅増は、共学化の成功例として注目される。
國學院大・明治学院大など
準難関に次ぐクラスが高人気
ここまで紹介した大学以外について、各地区の志願状況を見てみよう。
(1)首都圏
準難関~中堅上位校では、國學院大(21%増)・武蔵大(11%増)・明治学院大(32%増)の大幅増が注目される。準難関校に次ぐクラスの目標校として人気を集めた模様。獨協大(9%増)・成蹊大(4%増)も増加したが、前年の反動か、成城大(9%減)は減少した。また、女子大上位校では日本女子大の11%増に対し、津田塾大は4%減、東京女子大(24%減)は大幅減となった。
理工系中心の大学では、千葉工業大の他、工学院大(15%増)が大幅増、芝浦工業大(9%増)・東京電機大(4%増)・東京都市大(3%増)・東京農業大(7%増)も増加した。
中堅校では、亜細亜大(20%増)・東京経済大(18%増)が大幅増、大東文化大(6%増)も増加。一方、神奈川大(13%減)は大幅減、拓殖大(7%減)・玉川大(6%減)も減少した。また、女子大では昭和女子大(13%減)・東京家政大(28%減)の大幅減、大妻女子大(5%減)・共立女子大(4%減)の減少に対し、学習院女子大(20%増)の大幅増が目立つ。26年に予定される学習院大との統合を見据えた「先物買い」として、24年に続き人気を集めたようだ。
(2)京阪神地区
主な女子大では、甲南女子大(33%増)の大幅増、同志社女子大(7%増)の増加に対し、京都女子大(21%減)が大幅減、神戸女学院大(7%減)・武庫川女子大(7%減)も減少と明暗が分かれた。
また中堅校では、京都橘大(36%増)・追手門学院大(10%増)・大阪経済大(13%増)・関西外国語大(26%増)・神戸学院大(20%増)が大幅増、大阪工業大(4%増)・桃山学院大(7%増)も増加。一方で、大阪経済法科大(13%減)・大阪産業大(28%減)・摂南大(28%減)は大幅減となった。
(3)その他の地区
国公立大との併願が多い各地域の主要大学のうち、北海学園大(11%増)・中京大(10%増)・岡山理科大(12%増)・九州産業大(14%増)・西南学院大(14%増)が大幅増、愛知大(7%増)・南山大(2%増)・名城大(8%増)・福岡大(9%増)も増加した。一方で、広島修道大(20%減)は前年の55%増の反動から大幅減、東北学院大(5%減)も減少した。
合格状況はどうなったか?
「志願倍率」に惑わされず
「実質倍率」に注目しよう
次に、私立大一般選抜の合格状況を見よう。中でも倍率の変化は、「難化・易化」を測る物差しとなる重要データだが、一般的に使われる「倍率」には次の2通りあることに注意したい。
*志願倍率=志願者数÷募集人員=見かけの倍率
*実質倍率=受験者数÷合格者数=実際の倍率
私立大では合格者の入学手続率を考え、独自入試で募集人員の5倍~10倍、共テ利用方式では10~15倍の合格者を出すのが普通だ。
グラフ5で関西学院大‐工の例を見てみよう。一般入試(全学部日程)の志願倍率は19.5倍だが、合格者(補欠合格を含む)を募集人員の7.4倍出しているので、実質倍率は2.6倍となる。また、共テ利用入試(1月出願)の志願倍率は65.0倍もの超高倍率だが、合格者を募集人員の30.6倍も出しているので、実質倍率は2.1倍に収まった。これなら「とても手が出ない」という倍率ではないだろう。
見かけの倍率に惑わされることなく、実際の倍率を志望校選びのデータとして活用しよう。
受験者7%増、合格者4%減
2.8倍→3.1倍に倍率アップ
『螢雪時代』が私立大一般選抜(主に2月入試)の受験・合格状況についても調査したところ、136大学の集計(4月中旬現在)では、受験者数(未公表の場合は志願者で代替)の7%増に対し、合格者数は4%減のため(グラフ6)、実質倍率(以下、倍率)は24年2.8倍→25年3.1倍にアップした。
入試方式別に見ると、共テ利用方式(併用方式を含む)の「受験者11%増、合格者4%増」に対し、独自入試の方が「受験者5%増、合格者9%減」と合格者の絞り込みが顕著だった。
また、地区別の集計では首都圏(3.2倍→3.7倍)、京阪神(2.9倍→3.1倍)、その他の地区(2.2倍→2.4倍)といずれもアップしたが、特に首都圏の倍率アップが顕著だった。
こうした倍率アップと合格者減については、次のような要因が考えられる。
1,前述のように、推薦型・総合型が志願者17%増、合格者も7%増加(115大学集計)。その上、入学手続率も良好だった模様。定員の大幅な超過を避けるため、一般選抜の2月入試、特に独自入試では合格者を絞らざるを得なかった。
2,また、同じ理由から例年より追加合格者を少なめに出す傾向が見られた。さらに、3月入試ではあまり合格者を出せない事態となり、超高倍率のケースが続出した。
以下、主な大学で倍率が目立って変動したケースを紹介する(*は「志願者÷合格者」、その他は実質倍率。主に2月入試の集計)。
(1)倍率アップ 亜細亜大1.7倍→2.2倍、慶應義塾大4.2倍→4.5倍*、国士舘大2.6倍→3.0倍、東京農業大2.8倍→3.6倍、東洋大3.2倍→4.1倍*、武蔵大3.5倍→4.8倍、明治学院大2.6倍→3.8倍、早稲田大5.5倍→5.9倍、愛知淑徳大2.0倍→2.4倍、中京大2.4倍→2.9倍*、京都橘大2.8倍→3.9倍、佛教大2.8倍→3.7倍、大阪経済大3.0倍→5.0倍、関西大3.8倍→4.0倍、関西外国語大2.1倍→2.4倍、関西学院大2.7倍→3.1倍、神戸学院大1.8倍→2.5倍、西南学院大3.0倍→3.7倍、福岡大2.5倍→2.8倍
(2)倍率ダウン 上智大4.5倍→4.0倍、東京経済大3.2倍→2.8倍、京都女子大2.0倍→1.4倍、追手門学院大3.8倍→3.4倍、摂南大2.7倍→2.1倍
倍率アップの大学が多数派で、倍率ダウンの大学は少数に留まっている。
このうち、早稲田大は受験者7%増に対し、合格者はほぼ前年並み。また、関西学院大は受験者7%増に対し合格者4%減。さらに、西南学院大は受験者13%増に対し合格者9%減と絞り込み、いずれも倍率アップで難化したと見られる。果敢にチャレンジしたが、厳しい結果に終わった受験生も少なくなかったようだ。
一方、上智大は受験者2%減に対し、合格者10%増で倍率ダウン。また、東京経済大は受験者18%増に対し、さらに合格者を37%も増やしたため、かえって倍率ダウン。いずれもやや易化した模様だ。
ボーダーライン付近は激戦
明暗を分ける1点の重み
受験生の中には、ふだん「1点の差」を気にも留めない人がいるだろう。しかし、入試本番ではその「1点」が大切なのだ。
グラフ7に、関西大-商の2月一般入試(全学日程1・2の合計)の25年入試結果から、合格ライン付近の上下10点幅の人数分布を示した。受験者5,997人、合格者1,146人で倍率は5.2倍。合格最低点は450点満点で285点(得点率63.3%)だった。
注目すべきは、最低点を含めた「上10点幅」の部分で、ここに合格者全体の約25%が集中する。最低点ぴったりのボーダーライン上にいるのは38人。高校のほぼ1クラス分の人数だ。わずか1点差での不合格者も37人(やはり約1クラス分)、10点差以内の不合格者は346人もいる。合格ライン付近は、同じ得点帯の中に、多くの受験生がひしめき合っているのだ。
たった1つのケアレスミスが命取りになり、合否が入れ替わるのが「入試本番」。ふだんの勉強から解答の見直しを習慣づけよう。
この記事は「螢雪時代(2025年6月号)」より転載いたしました。