得意科目を生かす戦略と「捨てて勝つ」戦術で難関大の合格点を突破!
入試に満点はいらない。合格ラインをクリアすればよい。最難関の医学系で得点率80%以上、その他の学部系統で60~70%台とされる合格ラインを上回るには、得意科目で高得点を取り、不得意科目の失点を最小限に防ぐ戦略と、冷静に「捨てて勝つ」戦術が必要だ。共通テスト、国公立大2次、難関私立大入試それぞれの、合格ラインを突破するプランを紹介する。
※この記事は『螢雪時代・2021年12月号』の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)
共通テストで70%、国公立大2次試験は50~60%、難関私立大では60~70%を確保!
総合点の「合格ライン」のクリアを目標にしよう
大学入学共通テスト(以下、共テと略)、そして一般選抜の本番を直前に控え、「どれくらい点を取れば合格できるのか」と不安なことだろう。そこで、ある程度の目安となるのが、各大学の案内やホームページに載っている「合格最低点」だ。
入試の合否は、たいてい「総合得点」で決まる。総合得点とは、受験した全ての教科・科目の合計得点だ。国公立大ならば共テ(5または6教科が主)と2次の個別試験(2~3教科が主)の合計得点、私立大ならば2~3教科の合計得点ということになる。
合格最低点は、合格者のうち順位が最下位の人の得点だ。発表方法は、大学・学部によって素点(選択科目は得点調整後の場合も)だったり、得点率(合格最低点÷満点)だったりするので、「合格ライン」「ボーダーライン」とも呼ばれる。
合格するには、とにかくこのラインを上回ればいい。特待生を狙わない限り、満点でも合格最低点でも、合格に変わりはない。
もちろん、共テをはじめ、年ごとの入試問題の難易や倍率の変動、科目数や配点の変更などによって、合格最低点も上下する。それでも、具体的な合格者像をイメージできる、最も現実的な目安であることは確かだ。
ふだんの過去問演習では、年ごとの合格ラインと自分の実力との距離を常に意識し、まずはその距離を克服していこう。
私立大一般選抜は「8・7・6」パターンで60~70%台を確保
合格ラインについて、まず私立大一般選抜(各大学の独自入試)のケースを見てみよう。
難関私立大の2021年(以下、21年。他の年度も同じ)入試結果を見ると、コロナ禍による大都市圏敬遠や安全志向により志願者が減る一方、合格者増による倍率ダウンは目立ったものの、それでもやはり厳しい競争が見られた。
図1に、龍谷大 ‐ 経営(前期日程:文系型スタンダード方式)の21年入試で、合格ライン付近の人数分布を示した。同方式の科目・配点は「英語」「国語」「世界史、日本史、政治・経済、数学から1」の3科目で各100点、計300点。受験者数2,257人に対し合格者数449人で、実質倍率は5.0倍。合格最低点は211点(得点率70.3%)だった。
その分布状況を見ると、次のような特徴がある。
①合格最低点を含め、上10点幅のゾーンに197人と全合格者の約44%が集中している。
②不合格者の最高点(210点)を含め、下10点幅のゾーンに243人もいる。
③合格最低点で合格したのは25人、1点差での不合格者も25人いる。
合格ライン付近では、総合的にほぼ同じ学力の受験生がひしめきあい、わずか1点差で合否が決まる。では、“1点差”を争う合格ラインを、どうやって突破するのか?
図1の右側に、合格最低点とその1点下の受験者から、特徴のある得点パターンをピックア ップした。ここからわかるのは「得意科目」の大切さと、「苦手科目」克服の必要性だ。
3科目入試では1科目の比重が大きい。AさんやBさんのように苦手(得点率60%以下)の科目がなければ、合格ラインに到達していない科目も得意科目でカバーすることができる。ただし、CさんやDさんのように極端に苦手な科目があると、得意科目で80~90%以上稼いだとしてもカバーしきれず、1点差に泣くことになる。
得意科目での優位を生かすには、苦手科目を「やや苦手~普通」までにレベルアップし、6割以上の得点がほしいところだ。
私立大一般選抜で、合格ライン(7割台)をクリアするためには、得意科目(8割台)を持ち、残り2科目で7割台(やや得意~普通)と6割台(やや苦手~普通)をキープする「8・7・6」パターンを目標にしよう(図2)。
難関私立大の共通テスト利用は80%台の確保が必要
総合点でどれくらい取れば合格できるのか、難関私立大の21年一般選抜(共テ利用を除く独自入試)の合格ライン(得点率)を、もう少し見てみよう。
表1の同志社大(学部個別日程:正規合格者のデータ)を見ると、文系が70%台、理系がほぼ55%~65%に合格ラインが分布している。また、他大学の合格ラインを見ても、ほぼ「文系=60%~70%、理系=50%~70%」に分布していることが多い。
関西学院大では、合格最低点を総合点だけでなく科目別でも公表している。例えば商学部の全学日程の場合、英語は115点(得点率57.5%)だが、総合点は374.9点(同68.2%)なので、残り2科目の国語と選択科目(数学・地歴)の合計で259.9点(同74.3%)が必要となる計算で、ほぼ「8・7・6」パターンがあてはまる。
一方、難関私立大の共テ利用入試では、標準的な3教科型の場合、合格ラインは文系・理系とも70%台後半~80%台と、一般選抜に比べかなり高い。表2の青山学院大(共テ利用入学者選抜。独自・共テ併用を除く)では、ほとんど80%以上で、中には90%近い学科もある。合格者を募集人員の10倍程度出すことも珍しくない共テ利用入試だが、それでも相当な高得点が必要だったのだ。
得点調整で選択科目間の有利・不利を解消
受験生にとって不安なのは「選択科目」の扱いだ。文系は「地歴・公民・数学から1科目」、理系は理科で「物理・化学・生物から1科目」選択することが多いため、科目の難易で有利・不利が生じ、得点に較差が出てくるからだ。
ただし、多くの大学・学部では、偏差値(得点を「平均が50、標準偏差10の正規分布での値」に換算したもの)や中央値補正法(成績順で中央に位置する人の得点を、その科目の満点の5割となるように全体を補正)などを用いて調整する。偏差値を用いれば満点が異なっても、ほぼ「30~70の値」に換算できる。
21年一般選抜(独自入試)の例を見ると、関西学院大では選択科目で中央値補正法によって得点調整を行った。慶應義塾大 ‐ 文・法・商は「地理歴史」間で、看護医療・総合政策・環境情報も選択科目間で得点を補正。この他、同志社大が全学部で、早稲田大も理工系3学部と国際教養以外の9学部で、選択科目間(学部により全教科。共テ併用の場合は共テ科目が対象)の得点調整を実施した。
共テは「6・6・6・8・9」パターンで70%を確保
次は国公立大について説明する。まず、共テでどの程度得点すればいいのか?
20年まで実施されたセンター試験の受験者全体の平均点は、例年ほぼ60%前後だった。出題レベルが「学習の達成度を見る」ため、教科書(章の練習問題など)の範囲で、受験者平均が60%程度となるように作られたからだ。
共テの出題レベルは当初、受験者平均で50 %程度になると見られていた。しかし、実際の21年共テ(第1日程)の受験者平均点(各科目の平均点と受験者数から全体の平均点を算出)は、 5教科6科目(地歴・公民あわせて1教科1科目として100点、理科1科目として100点)の800点満点で472.3点(得点率59.0%)と、得点率は60%近くだった。
22年の共テの出題レベルは、やや難化が予想されるが、受験者平均(50%台半ばか)は小幅なダウンに留まるものと見られる。
次に、国公立大の21年入試データで、共テの合格最低点の得点率を見てみよう。
表3の金沢大(前期)はおおむね50%台後半~60%台半ばで、医学類が80%近く、文系・理系の一括入試が70%前後。表4の岡山大(前期)では、夜間主コースを除くと、文系は60 %台後半~70%台前半、理工農系は60%台前半~後半、医療系は60%台後半~70%台に分布し、医学部医学科の79.0%、薬学部薬学科の78.4%が際立って高かった。
他大学を見ても、共テの合格ラインは、医・薬や超難関校の80%台を除くと、全体的に60~70%台が多かった。
共テの目標得点を7割とすると、5(6)教科とも均一に70%台を取れればいいが、科目数が多い上に、得意・不得意があるから、そうはいかないのが普通だ。そこで、5教科(ここでは地歴・公民をあわせて1教科とする)の得点割合を「6・6・6・8・9」と設定し、「3教科は受験者平均をやや上回る60%、準得意教科は80%台、得意教科は90%台」で平均70%を確保しよう。私立大と同じく、得意教科の上積みで失点をカバーするのだ(図3)。志望校が傾斜配点(特定教科の比率を高める)で、得意教科の配点が他教科より高ければ、さらに有効だ。
《注目! 進路指導の先生が“おすすめ”の使い方》
①共テの自己採点の後、21年との平均点差を考えながら、志望校の前年の合格最低点から、2次で何点取れば合格に届くか具体的な目標を算出し、出願校決定に役立てよう。
②私立大独自入試では、合格ラインの高低で出題の難易を測れる。過去3か年の平均、同じ学部系統の比較で、合格ラインが高い大学は基本問題中心、低ければ難しめの出題と考えてよい。過去問と照らし合わせ、自分との相性を確認しよう。
国公立大の2次試験は50~60%台を確保しよう
国公立大2次試験(個別試験)は記述式の2~3教科が主流なので、基本的には私立大一般選抜(独自入試)と同様に考えよう。
まず、21年の総合点(共テ・2次合計)の合格ラインを見ていこう。表3の金沢大(前期)をみると、文系は50%台後半~60%台後半、理工系は50%台前半~60%台前半、医療系は50%台前半~後半に分布し、薬学類は70 %近く、医学類は約75%に達する。
さらに、表4の岡山大(前期)や、神戸大・九州大・熊本大・大阪市立大などの前期の合格ラインを見ると、「文系60%~70%程度、理工農系・医療系55%~65%程度、医は70~80%程度」と、ほぼ共通した傾向を示す。
次に、2次の合格最低点を見てみよう。金沢大・岡山大とも、意外と低い学部・学科もあるが、その場合は共テで高得点を取らないと、総合点の合格ラインに届かなかった。
例えば、配点が2次重視である金沢大 ‐ 地球社会基盤学類(前期)の2次の合格最低点は613.5点(45.4%)だが、総合点では1261.5点(56.1%)なので、共テで648.0点(72.0%)と、合格者平均(70.7%)を上回る必要があった。また、配点が共テ重視である岡山大‐文(前期)の2次の合格最低点は206.0点(51.5%)だが、総合点では814.2点(70.8%)なので、共テで608.2点(81.1%)と、やはり合格者平均(79.1%)を上回る高得点が求められた。
受験生、特に現役生の学力は入試直前で大きく伸びる。配点にもよるが、なるべく医学部志望者は「共テ9割+2次7割」で総合点8割台、それ以外は「共テ7~8割+2次5~6割」で総合点7割台を確実に得点し、無理なく合格ラインをクリアしたいところだ。
東北大の前期における各学部(学科・専攻)の、共テ・2次それぞれの合格者平均得点率を見ると(図4)、医学部医学科のみ「共テ86.8%、2次73.7%」と突出しているが、その他は共テがほぼ75%~85%の範囲、2次は50%~60%の範囲におさまっている。
共テで8割を得点するのはハードだが、2次で5~6割を得点するのも容易ではない。特に、数学・理科は記述式で計算量も多いので得点しにくい。しかも各大学の個別試験だから、それぞれの個性が強く出る。過去問を徹底研究し、出題傾向を把握しておくことが、合格ライン突破のカギを握っていることに変わりはない。
なお22年入試から、金沢大は融合学域に「観光デザイン学類」を増設する。
入試本番では「捨てて勝つ」戦術でリズムに乗ろう
合格ラインを突破する得点パターンが決まったら、入試本番ではその方針に沿って問題を解いていこう。問題用紙が配られたら、まず全問を見渡す。第1問から順番に解くのではなく、解けそうな問題から着手し、リズムに乗ろう。この方法は全教科に共通するが、特に数学や、物理・化学など理科系科目で有効だ。その際、次の手順を忘れないこと。
①全問に目を通す(読むのではない)。
②題ごとに、「解けそうだ」=○、「いけるかな」=△「、無理かも」=×、と印をつける。
③○から先に解く(問題番号順とは限らない)。
×には手をつけず、まず○から始め、次は△へ……という順に、集中的に解く。1題解けると落ち着き、次の○や△もふだん通りに解けることが多い。何よりも大切なのは「時間配分」。解けそうもない問題に時間を費やすより、思い切って○や△を優先し、時間をかけよう。
数学で、○や△が完全に解けない場合は、とにかく小問(1)だけを解こう。例えば、大問が小問2つで構成されていれば、(1)は教科書にある基本的な解法で解けるように作成してあり、(2)は(1)の結果を利用すれば解けるようになっているケースが多い。また、×の問題にも比較的易しい小問が用意されていることがあり、各大問のうち小問(1)のみ解くだけで、全体の得点の3~4割近くを取れる。
取りこぼさず、そして部分点をかせぐ。その積み重ねが合格ラインの突破につながる。
* * *
以上の「捨てて勝つ」戦術は、ふだんの過去問演習の時に、指定時間内に解くことを強く意識し、手順をしっかり身につけよう。時間内で、各年度の合格ラインを常に超えられるようになれば、本番でも冷静に対処できるはずだ。
新型コロナウイルスの感染状況によっては、国公立大2次が中止され、代替措置(共テと書類審査で判定など)が行われる可能性もある。それでも、3月まで入試が行われることを前提に、悔いのない準備をしておこう。
ここがPOINT
●国公立大共通テストは「6・6・6・8・9」
●私立大一般選抜は「8・7・6」で7割
●冷静な時間配分と「部分点狙い」が大事
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代(2021年12月号)」より転載いたしました。