新課程初年度は理科の“負担感”が影響、国公立大志向弱まる?!
新課程入試初年度となる、2015年国公立大入試について、各大学や学部系統などの人気度を示す「志願者動向」を分析する。さらに、2016年入試の最新情報も紹介する。
※この記事は『螢雪時代・2015年4月号』の特集より転載(一部、webでの掲載にあたり、加筆・訂正を施した)
センター試験の平均点アップは小幅、数学Ⅱ・B、化学などの難化が影響。志願者数は2%減、後期日程が3%減
法学系が人気回復、「弱めの文高理低」に。一橋大・名古屋大が増加、京都大が減少。センター理科の指定が志願動向に影響大
セ試を課さない推薦の志願者は、国立大が2%減、公立大が4%増。新潟大・県立広島大などが志願者増
16年入試の変更点を速報! 東京大が「推薦入試」を、京都大が推薦・AOなど「特色入試」を新規実施!
センター試験の平均点アップは小幅、数学Ⅱ・B、化学などの難化が影響。志願者数は2%減、後期日程が3%減
国公立大の志願者数は前年比2%減、志願倍率は4.8倍→4.7倍とやや低下した。国立大2%減に対し公立大3%減、後期日程で志願者減が目立った。センター試験の平均点はややアップしたが、数学Ⅱ・Bや化学(発展)、地理Bの難化が影響。全体的には「初志貫徹」ながら、現役の理系を中心に「安全志向」が見られた。
受験生数微増にもかかわらず、国立大2%減、公立大3%減
文部科学省の発表によると、2015年(以下、15年)の国公立大一般選抜の確定志願者数は474,546人で、14年に比べ2.0%減少(独自日程で入試を行う国際教養大・新潟県立大は集計に含まれない)。そして、全募集人員(101,605人)に対する倍率(志願倍率)は14年4.8倍→15年4.7倍とやや低下した(グラフ1)。
入試日程別に志願状況(グラフ2)と志願倍率の変化(14年→15年)をみると、前期は「1.5%減:3.3倍→3.2倍」、後期は「2.8%減:10.0倍→9.7倍」、公立大中期は「1.7%減:13.8倍→13.4倍」と、いずれも志願者減・倍率ダウンしたが、特に後期の志願者減が顕著だ。
また、国立・公立の別に見ると、国立大が志願者1.8%減、志願倍率は4.3倍と前年並みだったのに対し、公立大は志願者2.7%減、志願倍率は6.5倍→6.3倍にダウンした。
4(6)年制大学の受験生数が微増(0.8%増:本誌推定)で、センター試験(以下、セ試)の志願者数がほぼ前年並み(0.3%減)と、基本ベースがほぼ変わらない中で、国公立大の志願者が減少したのはなぜか? これには、新課程科目へ移行した数学・理科が強く影響している。
セ試で数学Ⅱ・B、化学(発展)が難化。現役理系には“逆風”
新課程初年度となる、15年国公立大入試に影響を与えた大きな要素は3つある。
(1)過年度卒業者(浪人)の大幅減
15年新課程入試における数学・理科の変更を懸念し、過年度卒業者に対する経過措置(セ試では旧課程科目を出題)があるにもかかわらず、「後がない」意識による「浪人できない」プレッシャーから、14年入試ではランクダウンしてでも現役合格を決める受験生が多かったとみられる。このため、セ試の志願者のうち、過年度卒業者は前年比で11.8%も減少。浪人の激減が、国公立大の志願者減の一因となった。ただし、残ったのは難関国立大や医学部を目指し、あえて浪人した「少数精鋭」だった。
(2)新課程理科への過剰な意識
新課程セ試の理科では、「基礎を付した科目(以下、理科基礎。2単位)」を受ける場合、2科目必須となる。また「基礎を付さない科目(以下、理科発展)」は、旧課程の理科Ⅰより内容としては重い(3→4単位)。
いかに「基礎」とはいえ、理科2科目受験を負担に感じる文系受験者は多い。理系にとっても、発展2科目の受験は、やはり旧課程科目より負担は増す。こうした“負担感”が、新課程理科への過剰な意識となり、国公立大一般選抜を避け、セ試を課さない推薦・AOや私立大一般入試へ流れるケースが増えた模様だ。
(3)数学Ⅱ・B、理科発展科目のダメージ
新課程初年度のセ試は、全体的には平均点がアップしたものの、数学Ⅱ・Bの難化と、理科発展の化学・生物が手ごわかったことが、主に現役の理系受験者にダメージを与えた。
科目別に見ると(表1)、国語は平均点が大幅アップ、旧課程履修者対象の科目(旧数学Ⅰ・Aや化学Ⅰ以外の旧理科Ⅰ科目)もアップした。また、理科基礎も生物・地学はやや難しめだったものの、文系には適度な難易レベルだったといえる。しかし、数学Ⅱ・Bと地理Bが大幅ダウン、化学・生物(各発展)も難しめの出題で得点が伸びなかった。特に数学Ⅱ・Bはセ試開始以来、初めて平均点が40点を割り込んだ。
また、理科は旧課程科目と発展科目の平均点差が大きく、特に旧物理Ⅰと生物(発展)との間では21.5点もの差が出たため、17年ぶりに得点調整が行われ、平均点が最も高い旧物理Ⅰと、受験者1万人未満の地学(発展)と旧地学Ⅰを除く5科目で、それぞれの素点に応じ加点された。特に生物(発展)は最大8点まで加点された。
国公立大受験のセ試科目の標準となる、文系・理系に共通の5教科6科目(地歴・公民合わせて1科目として100点、理科1科目として100点の800点満点。数学・理科は旧課程科目を含む)の加重平均点(科目別平均点と受験者数から算出。ただし、理科基礎は2科目受験者の加重平均点で、追試を含む。また理科は得点調整後の得点)を算出すると465.2点(得点率58.2%)で、前年に比べ3.3点アップした。
しかし、現役の理系志望者は、得点源の数学Ⅱ・Bや化学(発展)で稼げず、選択者の多い地理Bからも“逆風”を受けた。一方、浪人の理系志望者は“少数精鋭”のうえに、旧物理Ⅰ・旧生物Ⅰの易化も“追い風”になった。また、文系志望者は数学Ⅱ・Bの失点を国語でカバーし、理系よりは得点を伸ばした模様だが、「文系=予定通り/理系=現役はやや弱気、浪人は予定通り」との違いはあるにせよ、その底流にあるのは、やはり“安全志向”のようだ。
特に、募集人員が少なく、しかも実施学部・学科が減っている後期では、ボーダー付近の学力層が出願をあきらめ、私立大一般入試の併願を増やしたとみられる。
法学系が人気回復、「弱めの文高理低」に。一橋大・名古屋大が増加、京都大が減少。センター理科の指定が志願動向に影響大
学部系統別では、医・薬の志願者減、法・外国語の増加が目立つ。文系全体の堅調に対し、理系は全ての系統で減少、「弱めの文高理低」となった。難関校では、一橋大・名古屋大の増加、京都大・九州大の減少が目立った。安全志向で前年の反動が強く、おもに準難関校と公立中堅校で減少した。
北陸・東海を除く5地区で減少、他地区への進出は弱まる
全国6地区の志願動向(グラフ3)を地区別に見ていこう。北陸・東海は前年並みを保ったが、その他の5地区はいずれも減少。特に北海道・東北、関東・甲信越、九州が3%減と全国平均を下回った。
首都圏では、前述のように新課程理科を過剰に意識したためか、やや国公立大志向が弱まり、私立大志向が強まった模様。首都圏以外の関東・甲信越地区では、信州大‐医(医)の大幅減(後述)も影響している。
北陸・東海地区は地元志向が強まり、地区内で出願が完結した模様。ただし、富山大(10%増)・金沢大(4%増)では、「北陸新幹線」効果が今年3月の開通前からあらわれ、沿線(北関東・長野・新潟)から志願者が流入したとみられる。富山大の場合、さいたま市(工学部:前期)、名古屋市(経済学部:前期)に学外試験場を新設したことも、戦略的に功を奏したといえる。
関西地区(2%減)からは、セ試で得点が伸びなかった現役理系を中心に、中国・四国の大学への志望変更があった模様。一方で、北海道・東北は東海地区からの流入の減少、九州地区は受験生数自体の減少も一因とみられる。
各地区のおもな大学に関する分析は、『螢雪時代』4月号掲載の「螢雪ジャーナル」をご覧いただきたい。
医・薬が大幅減、工・農・歯も減少。教員養成系は堅調
次に学部系統別の志願状況を見てみよう(グラフ4)。全体に、文系の志願者は「やや増加~堅調」であるのに対し、理系の志願者減、特に医・薬の人気ダウンが目立つ。
セ試の数学Ⅱ・B、化学(発展)の難化による得点伸び悩みの影響に加え、医・薬は難化が頂点に達した観があり、敬遠された模様。
さらに医の場合は、①浪人(旧課程科目の受験者)との競争を避け、現役が最初から超高倍率の後期をあきらめた、②8年連続の定員増(国公立は計1,023人増)で門戸は広がったが、その多くが地域枠・地域医療枠の推薦・AOに充てられている、などの要因が複合的に作用したとみられる。特に東日本で地方医学部の減少が顕著で、首都圏の医学部志望者の一部が私立へ流れた可能性もある。
また、薬の場合は、国家試験の合格率ダウン(薬剤師:13年79.1%→14年60.8%)も敬遠材料となった模様。特に、岐阜薬科大(13%減)、名古屋市立大‐薬(28%減)といった、併願が集中する公立大中期の大幅減が目立った。
さらに、工、農・水畜産・獣医、歯、家政・生活科学が減少するなど、「理系人気」はやや沈静化したといえる。資格志向の強い理系志望者は、教員養成系に流入したものと見られる。医療・看護系は比較的堅調ながら、前年の志願者増減の極端な反動と、理科の選択パターン指定が各大学の志願動向に大きく影響した(後述)。
一方、就職状況の改善に伴い、法、社会・社会福祉、外国語が増加し、その他の系統も堅調と、文系学部がやや人気回復した。全体的には、近年の傾向とは異なり、「文理均衡」もしくは「弱めの文高理低」状態になった。
「前年の反動」や入試科目・募集人員の変更は要注意
大学・学部別の15年の志願状況を見るためには、次の5つのポイントを押さえておこう。
①前年度の倍率アップダウンの反動
受験生は前年の倍率を気にする。高倍率や倍率アップなら敬遠、低倍率や倍率ダウンなら人気を集めるため、前年の反動、さらには1年おきに増減を繰り返す“隔年現象”が起きやすい。
②入試科目の変更、科目数の増減
入試科目数の増減、2段階選抜の廃止(導入)や予告倍率緩和(引き締め)など、負担の変化が志願者の増減に結びつく傾向がある。
③セ試の数学・理科
セ試で難化した数学Ⅱ・Bや化学(発展)などの影響を弱めるため、数学や理科が1科目選択、または課さない学部・学科等に志望変更するケースが、特に医療・看護系でみられた。
④募集人員の変更
後期から前期へ(その逆も)募集人員を移したり、学部全体の募集人員が増減したりした大学・学部では、募集人員が増えた(減った)日程は志願者も増える(減る)ことが多い。
⑤地区内の「玉突き」
志願者が急激に増えた(減った)大学・学部や、後期日程の廃止・縮小、新設大学・学部などがあると、近隣の大学や学内の他学部で、玉突きのように変動が起きるケースがある。
* * *
わかりやすい例として、高知大‐農、兵庫県立大‐工、信州大‐医(医)のケースを紹介する。高知大‐農の前期については、図1も参照してほしい(以下、【前】=前期、【後】=後期)。
例1:高知大‐農
前年の志願者減(前期22%減、後期26%減)の反動(→①)に加え、セ試の理科が「基礎2科目」または「発展1科目」である(→③)ことが、理科のダメージをなるべく弱めたい、または発展科目を回避し基礎科目を履修した受験生の人気を集めた模様。
このため、香川大‐農【前】(53%減)・【後】(49%減)、愛媛大‐農【前】(21%減)、山口大‐農【前】(23%減)など「発展2科目」の大学から流入(→⑤)、志願者は大幅に増加(前期63%増、後期30%増)した。なお、香川大‐農【前】は前年の68%増の反動、愛媛大‐農【前】は前年の17%増の反動も影響したと見られる(→①)。
例2:兵庫県立大‐工
募集人員の配分を「前期→後期重視」(前期216人→120人、後期44人→140人)に逆転(→④)。あわせて、前期で大阪会場を廃止、後期で神戸会場を新設した(工の所在地は姫路市)。このため、志願者は前期で大幅減(30%減)、後期は大幅増(54%増)となった。前期は滋賀県立大‐工【前】(30%増)、岡山県立大‐情報工【前】(30%増)へ流出した模様。一方、後期には大阪市立大‐工【後】(23%減)、鳥取大‐工【後】(44%減)などから流入したとみられる(→⑤)。
例3:信州大‐医(医)
募集人員を「後期→前期」に移行(前期55人→85人、後期45人→15人)した(→④)。また、前・後期とも2次に化学を追加し、前期で2段階選抜を新規予告(倍率=募集人員の7倍)した(→②)。このため、前期は募集人員増ながら志願者10%減、後期は大幅減(70%減)となった。特に後期は1,186人も減少し、医学系統全体の志願動向に影響を及ぼした。
千葉大・埼玉大・大阪市立大など準難関校が志願者減
表2では、志願者数の多い順に、上位10大学を一覧表にした。難関~準難関校が連なるが、安全志向と浪人の大幅減が影響してか、大阪大を除き、志願者が減少している。
【難関校】志願者数トップは東京大で、志願者1%減と堅調。前期では文Ⅰが7%増、理Ⅲが6%減と、法学系の人気回復と医学部人気の沈静化が対照的にみられた。また、文Ⅲが5%減で、13年ぶりに第1段階選抜が実施されなかった。理Ⅲを除く全科類共通入試の後期は、実施最終年度(16年から推薦入試を導入)だったが志願者は4%減。前年の反動とみられる。
一方で、京都大は4%減。総合人間・文・法のセ試で公民が選択可になったり、医(医)の2次で理科の選択制限(セ試で受験しなかった科目を含める)を廃止したりしたため、当初は志願者増が予想されたが、やはり安全志向と浪人大幅減の影響を受けたといえる。
表2以外の大学も含めると、難関校では一橋大(4%増)・名古屋大(4%増)が人気アップ、東北大(前年並み)・大阪大(1%増)・神戸大(1%減)は堅調、北海道大(3%減)・東京工業大(3%減)・九州大(4%減)はやや減少した。
一橋大は法学系の人気回復が押し上げ、名古屋大は“ノーベル賞効果”も影響したとみられる。また、大阪大は京都大からの志望変更が増えた模様だ。
【準難関校】表2では、千葉大(6%減)・横浜国立大(4%減)・首都大学東京(7%減)と、首都圏の準難関校がそろって志願者減。この他にも、埼玉大(15%減)・広島大(4%減)・大阪市立大(7%減)など、志願者減が目立った。前年の志願者増の反動が出たケースが多い。
これに対し、志願者が増加したケースは、東京外国語大(27%増)・岡山大(5%増)と少数に留まる。東京外国語大の場合、前期の2次の地歴で日本史が選択可能になった(従来は世界史必須)ことに加え、後期でセ試に理科を課さないことが人気を集めたものと見られる。
【国公立中堅校】各地区の国公立大中堅校では、公立大でより志願者減が目立つ。2年連続の「公立大人気」の反動といえる。特に変動が大きかったおもな大学は次の通り。
[1]志願者大幅増 岩手大20%増、茨城大11%増、富山大10%増、静岡大11%増、滋賀大23%増、高知大15%増、愛知県立大10%増、県立広島大21%増、熊本県立大69%増
[2]志願者大幅減 福島大12%減、東京学芸大13%減、信州大17%減、奈良女子大11%減、奈良教育大36%減、香川大13%減、長崎大15%減、鹿児島大16%減、横浜市立大19%減、福井県立大30%減、名古屋市立大10%減
表3では、志願者の増加率が高い順に上位12大学(10位が同率で3大学並ぶため)を示した。表2と異なり、単科大が8大学を、公立が8大学を占める。1位の新潟県立看護大をはじめ、9大学で前年の志願者大幅減の反動が出ている(ちなみに、昨年162%増で1位だった鳥取環境大は38%減)。
さらに注目すべきは、セ試の数学・理科の科目指定、具体的にはセ試が「数学1科目選択」(→数学Ⅱ・Bが不要)、「理科が1科目選択」(→ダメージを1科目分に抑えられる)、「理科が基礎2科目で受験可」(→看護系の場合、私立の一般入試は基礎科目が主流)であることも、志願者増に大きく影響しているのだ。特に医療・看護系では、各大学における理科の選択パターン指定が、そのまま志願状況に反映されたといっても過言ではない。セ試の数学Ⅱ・Bや理科でダメージを受けた現役理系で、志望変更者が多数いたものと見られる。
奈良県立医科大‐医(医)が前期の志願倍率トップ
次は、各入試日程で特に志願倍率(志願者数÷募集人員)が高い(低い)学部を各20学部紹介する(表4~6。同倍率が多数の場合は20未満で掲載。医学部医学科や看護学科などは1学部として扱う)。なお、「受験者数÷合格者数」で割り出す、実際の倍率を「実質倍率(または競争率)」という。
まず、表4・5の「高倍率の学部等」から見ていこう。前期では、最高倍率の奈良県立医科大‐医(医)【前】など医学科が連なり、医学部志望者が減ったとはいえ、難関ぶりは相変わらずだ。また、島根県立大‐総合政策【前】、高知工科大‐経済・マネジメント【前】は、入試方式の複線化が高倍率化につながった。
後期では、募集人員が少ないうえ、実施学部・学科も減っているので、最高倍率(41.0倍)の愛媛県立医療技術大‐保健科学【後】をはじめ、前期以上の「超高倍率」になる。特に医学科は、後期実施校が少ないため、前述の信州大‐医(医)【後】のように募集人員が3分の1になっても併願せざるを得ず、超高倍率が続くことになる。ただし、欠席率の高さ(前期の入学手続者が欠席するので、志願者の約50%が欠席する)を割り引いて考える必要がある。
表5を見ると、半数を公立大学・学部が占め、併願先としての公立大の重要性がわかる。また、前年の反動による一橋大‐法【後】の倍率アップと、山梨県立大‐人間福祉【後】、鳥取環境大‐経営【後】の倍率ダウンが目立つ。
一方で、表6のように前期で志願倍率が1倍台のケースもある。例年、医療・看護系の学部・学科が比較的多い中で、入試における英語外部検定の利用や、入学後に留学が必須など“グローバル系”学部として注目された山口大‐国際総合科学【前】(15年新設)、長崎大‐多文化社会【前】(開設2年目)の超低倍率や、香川大‐農【前】の急激な倍率ダウンが目を引く。ただし、香川大‐農【前】は前述のように、セ試の理科の影響と前年(68%増)の反動によるもので、16年は揺れ戻す可能性がある。
前期日程の第1段階選抜の不合格者は3,692人と増加
最後に、前期日程の2段階選抜の実施状況を紹介しよう。予告した学部(55大学146学部)に対し、実際に行ったのは27大学41学部(前年比2大学1学部減)だったが、第1段階選抜の不合格者は「14年3,268人→15年3,692人」と逆に増加(13%増)した。全体としては安全志向の中、セ試で比較的高得点できた難関大や医学部志望者の一部が、やや強気に走った結果とみられる。特に、首都大学東京における不合格者の大幅増(534人→638人:19%増)と、2段階選抜を廃止、または予告倍率を緩和する学類が相次いだ筑波大で、かえって不合格者が増えた(65人→104人)のが注目される。
第1段階での不合格者の多かった大学は、首都大学東京の他に、東京大(721人)、徳島大(227人)、一橋大(215人)、信州大(165人)、高知大(164人)、大阪大(139人)など。
セ試を課さない推薦の志願者は、国立大が2%減、公立大が4%増。新潟大・県立広島大などが志願者増
一般入試に先立って行われた「セ試を課さない」推薦・AO入試。旺文社集計では、推薦は「志願者2%増、合格者2%減」で、公立大がやや難化。また、AO入試は「志願者8%増、合格者4%増」との結果が出た。
新課程センター試験を回避? 推薦入試は文系が志願者増
旺文社教育情報センターでは、国公立大のセ試を課さない推薦について、15年入試結果の調査を行った。14年12月25日現在の集計データ(89校:志願者数=約2万1千人)では、志願者数は前年度に比べ2%増。「国立大2%減、公立大4%増」と、一般入試とは逆の現象がみられた(グラフ5)。
実施学部数が「セ試を課す推薦174→183、セ試免除推薦354→348」(14年→15年。以下同じ)と前者に移行したものの、国公立大志望者の一部に「できれば新課程一般入試を回避したい」意識が強まり(特にセ試の理科の負担感が影響か)、セ試を課さない推薦・AOが狙われたものとみられる。また、強い安全志向から、より難易度の高い国立大を敬遠し、前年の倍率アップダウンに敏感な出願傾向が顕著だった。
大学別では、茨城大(8%増)・宇都宮大(6%増)・新潟大(7%増)・都留文科大(7%増)・県立広島大(8%増)・山口県立大(15%増)・高知工科大(15%増)・長崎県立大(15%増)の志願者増、福島大(12%減)・山梨大(20%減)・熊本大(19%減)の志願者減が目立つ。
合格者数は「国立大3%減、公立大1%減」、倍率(志願者数÷合格者数。以下同じ)は、国立大が2.5倍で14年と同様だったのに対し、公立大は2.1倍→2.3倍とアップした。
学部系統別では、就職状況の好転で経済・文など文系がやや人気回復。農、医療・看護も増加したが、理工・教員養成系は微減となった。
セ試を課さないAO入試は「志願者8%増、合格者4%増」
AO入試は国公立大の43%(71大学)が実施した。推薦入試と同様、「セ試を課す」AOが導入される一方で、「セ試を課さない」AOは実施学部の削減(例:長崎大‐環境科学、島根県立大‐総合政策などで廃止)が進んだ。しかし、セ試を課さないAO入試は、14年12月25日現在の集計(30大学:志願者数=約4千人)によると、「志願者8%増、合格者4%増」で、倍率は3.4倍→3.5倍にアップした。大学別では、東北大(2.5倍→2.9倍)、京都工芸繊維大(7.2倍→7.6倍)の倍率アップが目立った。
16年入試の変更点を速報! 東京大が「推薦入試」を、京都大が推薦・AOなど「特色入試」を新規実施!
新課程科目に完全移行する16年入試。理系学部で「英語重視」の変更が多い。東京大が「推薦入試」を、京都大が「特色入試」を導入し、能動的で突出した才能の獲得を目指す。この他、千葉大・信州大・福岡教育大・佐賀大など国立大教員養成系学部の改組、推薦・AO入試の「セ試を課さない→課す」への移行が注目される。
教員養成系で大規模改組が相次ぐ。理系学部で目立つ英語重視の変更
ここからは16年国公立大入試の特徴と、志願動向に影響しそうな変更点を見ていこう。
(1)東京大・京都大の入試改革
東京大が後期日程を取りやめ「推薦入試」を、京都大が「特色入試」を全学部で導入する。東京大はセ試を課す推薦、京都大は学部・学科により実施方式(AO・推薦・後期)が異なるが、ハイレベルな出願資格(国際科学オリンピックの出場者など)、膨大な提出書類(京都大では入学後の「学びの設計書」など)、長時間の面接や学科試験などで、高校での活動・成果や入学後の適性を丁寧に評価する選抜を目指す方向性は、両大学で共通している(表7・8。出願資格・提出書類等の詳細は大学のホームページを参照)。募集枠自体は、東京大が100人、京都大が約110人で定員の3~4%程度と少ないが、世界的な大学間の競争が激化する中、主体的、能動的に学ぶ突出した才能を獲得できるか、注目される。
(2)推薦・AO入試の導入・廃止
「セ試を課さない→課す」方式への移行が目立つ。
【推薦入試】神戸大‐国際文化でセ試を課す推薦を導入し、北海道教育大の教員養成課程、兵庫県立大‐工で「セ試を課さない→課す」に移行。一方、千葉大‐法政経でセ試を課す推薦を、福岡女子大でセ試を課さない推薦を廃止する。
【AO入試】富山大‐経済[昼]でセ試を課すAOを廃止。一方、島根大‐教育・生物資源科学 で地域枠AO入試を導入する。
(3)新設・改編、日程・募集人員の変更
国立大の教員養成系学部で、教員免許を卒業要件としない課程を廃止し、教員養成課程を拡充したり、学部増設を予定したりするケースが目立つ(千葉大・信州大・福岡教育大・佐賀大・大分大など。図2に佐賀大のケースを例示)。公立大では、長崎県立大で「2→4学部」に分割する予定。
その他、埼玉大‐教育、東京大、信州大‐医(医)、熊本大‐医(医)の後期日程の募集停止が注目される。
(4)入試科目の増減など
グローバル教育の充実が叫ばれる現状を反映し、理系学部や教育学部で、2次に英語を追加、または「選択→必須」にするケースが増えている。茨城大‐農【前】、佐賀大‐理工【前】、長崎大‐工【前】、鹿児島大‐工【前】・農【前】・水産【前】などで2次に英語を追加。北海道教育大‐教員養成課程【前】や千葉大‐教育【前】でも、英語を追加、または「小論文→英語を含む学科試験」へ変更する専攻・選修が多数ある。さらに、東京海洋大‐海洋科学では、全入試の出願資格として、新たに学部指定の英語外部検定(英検準2級など)のスコア提出を課す(一般入試はセ試の英語が基準点以上でも出願可)。
(5)2次の国語・英語の出題範囲
16年からは国語・地歴・公民・外国語が新課程科目に移行する。2次で国語・英語を課す場合、国語は「国語総合、現代文B、古典B」、英語は「コミュニケーション英語Ⅰ~Ⅲ、英語表現Ⅰ・Ⅱ」のパターンが多数派だ。
* * *
以下、2月下旬までに判明した、2016年国公立大入試の主な変更点の一部を紹介した。新課程に移行する科目を含め、詳細は次号(螢雪時代5月号)の特別付録『国公立大新課程入試科目・配点速報』を見てほしい。さらに今後、各大学が6~7月に発表する「選抜要項」(入試の概略を紹介した冊子)、10~12月に発表する「募集要項(出願書類を備えた正式な入試要項)」などで必ず確認してほしい。
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代(2015年4月号)」より転載いたしました。