2011年は国公立・私立ともに、理工系大学が軒並み難化。2012年も“文低理高”が続く?
受験勉強が本格化する夏休みを前に、各大学の2011年(以下、11年)入試結果データが出そろった。ここでは、国公立大、私立大それぞれの一般入試結果を最終チェックし、12年の動向を予測。さらに、12年の最新入試情報も紹介する。センター試験の地歴・公民、理科の実施方法や時間割が大幅に変更されたので、要注意だ。
※この記事は『螢雪時代・2011年8月号』の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)
一般入試の合格状況を総ざらい!
国公立は筑波大・神戸大など準難関校が難化、私立は明治大・立教大・立命館大などが易化か
12年入試の変更点をチェック!
セ試の実施方法が大幅に変更。東京外国語大・山梨大・奈良教育大で大規模な改組を予定
一般入試の合格状況を総ざらい!国公立は筑波大・神戸大など準難関校が難化、私立は明治大・立教大・立命館大などが易化か
11年の一般入試結果を見ると、国公立大は「志願者3%増、合格者2%増」、私立大は「志願者1%増、合格者4%増」。学部系統別では、国公立大・私立大ともに理系学部が難化、法・経済・社会福祉などが易化したとみられる。
国公立大:
志願者3%増、合格者2%増。医・歯など理系は軒並み難化
国公立大の11年一般入試の実施結果を旺文社で調査したところ、全体では10年に比べ「志願者3%増、合格者2%増」のため、倍率(志願者÷合格者。以下、特に注記のない場合は同じ)は10年4.1倍→11年4.2倍とアップした。
経済不況に加え、センター試験(以下、セ試)の易化が、受験生の“国公立志向”に拍車をかけた。セ試の平均点は3年ぶりにアップ(グラフ1)。理系志望者を中心に“やや強気”な出願傾向がみられた。さらに、就職状況の悪化を背景とした“資格・技能志向”も加わり、理系学部が軒並み人気アップした。
日程別にみると、前期は「志願者3%増、合格者1%増」で2.9倍→3.0倍、公立大中期も「志願者2%増、合格者1%増」で5.9倍→6.0倍と倍率がアップしたのに対し、後期は「志願者4%増、合格者7%増」で8.2倍→8.0倍とダウンした。東日本大震災の影響で、東北~関東の国公立大が後期日程の実施方法を急遽変更。国立16大学・公立9大学で個別試験(以下、2次)を取りやめ(旺文社調査)、セ試と調査書等、またはセ試の成績のみで合否判定を行った(群馬大・千葉大は医学科のみ後期試験を実施)。この場合、受験者が絞られない分、入学手続率が読みづらく、合格者を多めに出さざるを得なかったとみられる。一方、2次逆転を狙った受験生が涙を飲んだ例も多かったようだ。
大学全体の倍率の変動を見てみよう。筑波大(3.7倍→4.1倍)、神戸大(4.3倍→4.9倍)、広島大(3.1倍→3.4倍)、首都大学東京(4.8倍→5.1倍)、大阪市立大(3.9倍→4.1倍)など「準難関校」が倍率アップ、やや難化した模様だ。
また、東京工業大(5.0倍→5.4倍)をはじめ、名古屋工業大(3.5倍→4.0倍)、京都工芸繊維大(3.9倍→4.5倍)、九州工業大(3.0倍→3.4倍)など、理工系大学が難易レベルを問わず倍率アップし、いずれも難化した模様だ。
一方、大都市圏以外の公立大では、岩手県立大(8.3倍→5.4倍)、都留文科大(5.4倍→5.0倍)、北九州市立大(5.3倍→3.9倍)など、前年の反動による倍率ダウンが目立った。
学部系統別(グラフ2)では、理系学部の人気が高まり、軒並み倍率アップ。特に、医、歯、薬が激戦化し、いずれも難化した模様。歯は定員減(8大学で31人減)も影響した。また、理、工、農・水畜産・獣医、医療・看護も倍率アップ、やや難化した模様だ。一方、法、経済・経営・商、社会・社会福祉など文系学部はいずれも倍率ダウンし、やや易化したものとみられる。
私立大:
志願者1%増、合格者4%増。セ試利用入試で合格者大幅増
旺文社の私立大一般入試結果調査(513大学集計:志願者276.4万人)によると、10年に比べ「志願者1%増、合格者4%増」で、倍率は全体で10年3.7倍→11年3.6倍にダウンした。
入試方式別にみると、各大学の独自試験は「志願者1%増、合格者2%増」で、倍率は3.9倍→3.8倍にダウン。また、セ試利用入試(独自・セ試併用型を含む)は「志願者2%増、合格者7%増」で倍率は3.3倍→3.1倍と、より合格者増と倍率ダウンが顕著だった。
国公立大受験者が私立大の併願校数を減らす傾向が見られ、10年までの“合格者絞り込み”傾向から一転、セ試利用入試を中心に、合格者を多めに出す大学が目立った。
志願者数の上位10大学(表1)の入試結果を見ても、軒並み実質倍率(受験者÷合格者)が低下している。特に日本大・明治大・立教大・立命館大では、志願者減ながら合格者を多めに出し、やや易化した模様だ。この他、おもな大学で実質倍率が変動したケースを紹介する。
(1)倍率アップ 青山学院大5.4倍→5.6倍、駒澤大3.8倍→4.1倍、東海大2.6倍→2.7倍、東京理科大3.0倍→3.2倍、神奈川大2.9倍→3.0倍、摂南大4.0倍→4.2倍、など (2)倍率ダウン 東北学院大2.5倍→1.9倍、亜細亜大4.7倍→4.3倍、学習院大3.9倍→3.5倍、慶應義塾大4.3倍→4.2倍、国士舘大3.4倍→3.3倍、上智大4.7倍→4.1倍、成蹊大6.2倍→5.5倍、成城大5.0倍→4.4倍、専修大3.9倍→3.7倍、武蔵大6.6倍→5.5倍、明治学院大3.6倍→3.2倍、愛知大3.3倍→2.8倍、南山大2.9倍→2.7倍、名城大3.1倍→2.9倍、京都産業大4.3倍→3.9倍、龍谷大4.1倍→3.4倍、同志社大2.9倍→2.8倍、関西学院大4.1倍→3.6倍、甲南大4.2倍→3.8倍、西南学院大3.5倍→3.4倍、福岡大3.6倍→3.3倍、など |
難関校から中堅校に至るまで、全体的に倍率ダウンしたことがわかる。一方、理工系大学では、東京理科大をはじめ、千葉工業大(2.5倍→2.8倍)、工学院大(3.4倍→5.0倍)、芝浦工業大(3.9倍→4.2倍)、金沢工業大(1.4倍→2.0倍)など、実質倍率がアップした大学が目立つ。
ただし、全国の私立大を、大学単位の競争率(実質倍率)グループ別に分類すると(グラフ3)、意外にも10年とほぼ同様の傾向を示す。その中で、「2.9~2.0倍」と「5.0倍以上」の大学数が若干増加したのが目につく。
地区別の集計では(グラフ4)、3地区でほぼ前年並み、3地区で倍率がダウンした。特に関西(3.7倍→3.5倍)は、立命館大・龍谷大・近畿大などの合格者増が影響した模様だ。
学部系統別では(グラフ5)、農・水畜産・獣医、医療・看護の倍率アップが目立つ。歯、薬も倍率がアップしたが、定員割れのケースも見られ、二極化が顕著だ。理・工は志願者増ながら、倍率は前年並み。一方、法、経済・経営・商、社会・社会福祉が倍率ダウンし、やや易化した模様。
2012年一般入試の志願者数は、国公立が2%増、私立は微減か
次に、12年の一般入試がどう動くのか予測してみよう。ポイントは3つある。
(1)受験生数は横ばいからやや減少!?
4(6)年制大学の受験生数は、大震災前の【蛍雪時代】の推定では、11年・12年ともに68万3千人とほぼ横ばいとなる見込みだったが、大震災後の経済悪化等の影響で大学進学率が低下し、受験生数が減少に転じる可能性もある。
(2)センター試験の平均点が下がる!?
12年度のセ試は、11年度の平均点アップの反動で、国語や数学Ⅰ・A、物理などが難化するものとみられ、平均点はややダウンしそう。また、地歴・公民や理科は、実施方法の大幅な変更(後述)で、平均点が科目によって乱高下する可能性もある。こうしたことから、受験生が慎重な出願に転じるものとみられる。
(3)地元志向に加え“京阪神志向”も!?
震災後の復興の遅れ、深刻さを増す不況、就職状況の低迷などから、“資格・安全・国公立” 志向はより強まるものとみられる。さらに、原発事故等の影響を懸念し、東北・関東以外の地区では、心理的にも経済的にも“地元志向”と“東北・関東離れ”の傾向が強まるものとみられる。さらに、難関校を受験する場合、国公立大は京都大・大阪大・神戸大など、私立大は「関関同立」などへ流入する“京阪神志向”も予想される。一方で、首都圏(国公立大=東京大・一橋大など、私立大=早慶・MARCHなど)では、他地区からの流入減が見込まれる。
以上のことから、一般入試の志願者数は、国公立大が前年比2%程度の増加、私立大は1%程度の減少が見込まれる。学部系統別では、理系の重要性が強く認識され、理工・農・医・薬・医療看護が志願者増の見込み。また、“資格志向”で教員養成系も人気アップしそう。一方、文系、特に法・経済は志願者減が見込まれ、11年と同様、「文低理高」の傾向が続きそうだ。
12年入試の変更点をチェック! セ試の実施方法が大幅に変更。
東京外国語大・山梨大・奈良教育大で大規模な改組を予定
ここからは前回に続き、12年入試の変更点を紹介する。セ試では、地歴・公民および理科の実施方法や時間割が大きく変更されるので、要注意だ。東京外国語大など、国立3大学の全学規模の改組も注目される。
セ試の地歴・公民、理科を「第1解答科目」で判定する大学も
12年セ試から、地歴と公民の試験枠が統合され、「地歴・公民から2科目まで選択可」となり、公民に新科目「倫理、政治・経済」が加わった。理科も試験枠が「3→1」に統合され、「6科目の中から2科目まで選択可」となった。これらの変更に伴い、5月末に大学入試センターが発表した『実施要項』では、従来と比べ、実施方法や時間割が次のように変更された。
(1)教科名などの事前登録
10月の出願時に、《1》受験する全ての「受験教科名」、《2》地歴・公民、理科は「受験科目数」(それぞれ1科目または2科目。科目名は不要)を登録しなければならなくなった。地歴・公民については、試験枠は1つだが、教科名はそれぞれ登録する必要がある。なお、事前登録した教科名および科目数の変更は認められない。
(2)時間割と実施方法の変更
地歴・公民、理科の試験枠統合を受け、時間割(表2)が大幅に変更され、地歴・公民、理科の実施方法も従来とは異なる形となった。
まず、1科目受験者と2科目受験者で試験室が分けられる。問題冊子は「地歴・公民」「理科」それぞれ全科目を1冊にまとめて掲載する(従来は試験枠ごとの分冊)。
2科目受験の場合、最初に解答する科目を「第1解答科目」、次の科目を「第2解答科目」とした。試験時間は、各科目60分で解答し、2科目受験の場合は第1・第2の間に10分間、答案回収等の時間が設けられる。休憩時間ではないので、私語や離席は許されず、参考書等を見たりすることもできない。
どの科目を第1・第2にするかは自由だが、2科目受験者が1科目判定の大学・学部等に出願した場合、これまでの「高得点の科目を判定に利用」ではなく、「第1解答科目で判定」する旨を、東京大・広島大・九州大・大阪市立大などで予告している。2つの試験時間を使って実質的に1科目を解答させないようにするための措置だ。
出願時に2科目で登録すると、後で1科目だけしか必要なくなっても、2科目用試験室で受験することになる。私立大のセ試利用入試も含め、多くの大学では従来の「高得点科目」方式を踏襲するとみられるが、それでも得点を稼ぐ自信のある科目は、「第1解答科目」として最初に解答しておくのが安全だ。
なお、文系で地歴・公民2科目必須、理系で理科2科目必須の場合は、2科目の実質的な解答時間の配分を受験生自身で決められる。時間配分の優劣が合否のカギを握るといえよう。
* * *
こうした判定方法の詳細の決定が、選抜要項(国公立大)や入試概要(私立大)に間に合わない大学も考えられるので、ホームページや秋以降の募集要項で必ず確認してほしい。
東京外国語大が1→2学部に改編島根県立大が看護学部を新設
【国立大:学部改組】東京外国語大では、外国語学部の「言語文化・国際社会」2学部への改編を構想中。両学部とも、学生は27言語とそれに対応する地域(仮称)で編成された教育組織に所属し、1・2年次は共通カリキュラム「世界教養プログラム」で学び、3年次以降は各学部3コースずつに分かれて専門領域を学ぶ。入試は、言語文化が推薦入試と前期日程、国際社会は前期・後期日程で実施する予定。
山梨大では生命環境学部(仮称)を新設予定(定員130人)。生命工・食物生産科学・環境科学・共生社会経営の4学科で構成される。これに伴い、工学部で定員減(440人→365人)、教育人間科学部では2課程を廃止し、定員を削減(200人→145人)する。また、奈良教育大では「総合教育課程」を廃止し、教員養成課程を定員増(180人→255人)。同課程を教育発達・教科教育・伝統文化教育の3専攻に再編する。
【公私立大:新増設】6月17日に、12年度の学部・学科の増設予定が文部科学省から発表された(5月末認可申請分。表3を参照)。島根県立大‐看護をはじめ、公私立あわせて11大学で学部・学科の増設を認可申請したが、医療・看護や保育・教育など、資格取得に強い分野が目立つ。
青山学院大でセ試利用後期を廃止、慶應義塾大で新奨学金制度を導入
【私立大:一般入試】日本大で、N方式(法1部・経済・商の学部共通入試)に受験料割引制度を導入。同時併願する場合、2学部目から「3万5千円→1万5千円」に減額する。神戸学院大でA・AC日程の試験日を「2/7・8→1/30・31」に繰り上げ、薬のS・SC日程を廃止する。
【私立大:セ試利用】青山学院大でセ試利用後期と独自・セ試併用型を廃止。中央大‐法でセ試利用の出願締切日を、セ試本試験日の「後→前」に繰り上げる(1/25→1/13)。東京都市大‐工・知識工のセ試利用で5教科型(900点中630点以上で合格)を導入。武蔵大のセ試後期で、社会・人文に7科目型を導入し、経済を3→2科目に軽減する。大阪経済大では、C方式に4教科型を追加し、3教科型で国語を「必須→選択」に変更。関西学院大‐法・経済・商・人間福祉で、セ試利用(3月)に3科目型を追加。神戸学院大ではセ試中期を廃止する。
【奨学金制度】慶應義塾大では「学問のすゝめ奨学金」を導入。一般入試前に申請を受け付け、候補者を決定し、合格後に奨学生として採用する。評定平均値4.1以上の国内(東京・神奈川・埼玉・千葉以外)の高校等出身者が対象。全国を6ブロックに分け、地域ブロックごとに給付人数を設定する(合計107人を予定)。
【東日本大震災の被災者対応】専修大と石巻専修大では「被災者支援スカラシップ入試」を導入。受験料を免除し、書類審査・小論文・面接で選考、合格者は4年間の授業料と施設費相当額を免除する。募集人員は、専修大が「1部20人程度、2部6人程度」、石巻専修大が10人程度。また、早稲田大では震災の被災者対象の学費減免措置を12年度入学者にも適用し、新たに受験料も合否にかかわらず免除することを決定した。
日本大‐松戸歯、龍谷大‐政策などでセ試利用入試を新規実施
文部科学省は、11年1月と6月の2回にわたり、12年度からセ試を新たに利用する私立大学・学部について発表した。セ試を新たに利用するのは10大学。また、すでにセ試に参加し、利用学部を増やすのは13大学13学部。一方、慶應義塾大がセ試の利用を取りやめる。
私立大のセ試利用入試では、「セ試2~3科目、個別試験なし」が一般的だが、龍谷大‐政策の後期は5教科5科目、日本赤十字九州国際看護大では4教科4科目と面接を課す。また、弘前医療福祉大‐保健、明海大‐歯、日本大‐松戸歯、聖泉大‐看護、エリザベト音楽大‐音楽も面接を課す。
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以上、詳細は大学入試センターから発表される『受験案内』、国公立大の選抜要項、私立大の入試ガイドなどで必ず確認してほしい。
(文責/小林)
この記事は「螢雪時代(2011年8月号)」より転載いたしました。