今月の視点 2016.3

どうなる、「学力評価テスト」の活用!?

「記述式」導入/評価の「段階別」表示で、入学者選抜の「合否判定」は・・・。

2015(平成27)年度

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 文科省の「高大接続システム改革会議」は現在、中教審が提言した『高大接続・大学入試改革答申』(26年12月)を踏まえ、高校教育に係る「基礎学力テスト」、大学入学者選抜に係る「学力評価テスト」及び個別大学の入学者選抜改革を中心に、先の『中間まとめ』(27年9月)を基に今月末の『最終報告』に向けて検討、議論している。
 ここでは、32年度からセンター試験の後継として実施予定の「学力評価テスト」の「記述式」導入や評価の「段階別」表示による入学者選抜の「合否判定」等について探ってみた。

 

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< 「システム改革会議」の設置と検討事項 >

 

設置の経緯

 

 文科省は中教審の『高大接続・大学入試改革答申』(26年12月)を受け、27年1月に高大接続改革の着実な実行計画として「高大接続改革実行プラン」を策定した。
 同年2月には「高大接続システム改革会議」(座長=安西祐一郎・日本学術振興会理事長。以下、システム改革会議)を設置、27年3月からその実現に向けた方策を検討、議論している。

 

「新テスト」の実現方策、個別選抜の改革方策等の検討・議論

 

 システム改革会議の主な検討事項は、①「高等学校基礎学力テスト(仮称)」(以下、「基礎学力テスト」。注.「テスト」を「診断、検査、検定」等をベースに名称変更を検討中)の在り方/②「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(以下、「学力評価テスト」)の在り方/③「個別選抜」の改革の推進方策/④「多様な学習活動・学習成果の評価」の在り方などである。
 当会議は、高大接続の改革内容をシステムとして捉え、2つの「新テスト」の創設を含め、それぞれの関係等についての議論を27年9月に『中間まとめ』(本欄『今月の視点-105:27年9月参照)として整理し、28年3月末の『最終報告』に向けて議論を進めている。

 

< 「学力評価テスト」の基本的方向 >

 

 センター試験の後継となる「学力評価テスト」は、入学者選抜でどう活用されるのか。
 「学力評価テスト」の活用イメージをつかむうえで、センター試験と大きく異なる「記述式」導入や、入学者選抜の基軸となる“多面的・総合的”な評価に供される試験結果の「段階別」表示などを中心に、現時点での「学力評価テスト」の基本的方向を整理しておく。

 

大学入学希望者の「思考力・判断力・表現力」中心に評価

 

 中教審の『高大接続・大学入試改革答申』では、新しい大学入学者選抜に資する方策の一環として、「学力評価テスト」の創設を提言した。
 また、システム改革会議は『中間まとめ』で、大学入学者選抜における評価方法では、各大学の“三つのポリシー”、つまり「ディプロマ・ポリシー」(学位授与の方針)/「カリキュラム・ポリシー」(教育課程編成・実施の方針)/「アドミッション・ポリシー」(入学者受入れの方針)の一体的な関係に基づく大学教育の実現を目指すうえで、「知識・技能」のみならず、「思考力・判断力・表現力」、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を“多面的・総合的”に評価することに資する「学力評価テスト」の活用が重要になるとしている。
 「学力評価テスト」は、大学入学希望者を対象に、大学教育を受けるために必要な能力について把握することを主な目的とし、十分な「知識・技能」が習得されていることを前提に、「思考力・判断力・表現力」を中心に評価するとしている。
 これにより、大学入学に向けた学びを、知識や解法パターンの単なる暗記・適用などの“受動的なもの”から、学んだ知識や技能を統合して問題の発見・解決に取り組む、より“能動的なもの”へと改革し、大学教育ではこうした学びを一層発展させるとしている。
◆ 「学力評価テスト」の基本的構成
 システム改革会議はこれまでの議論の中で、「学力評価テスト」の基本的な構成について、● 「記述式」問題(当面、国語・数学)/● 英語の「多技能を評価する」問題/● 「マークシート式」問題(各教科・科目)の3つの柱を立てている。

 

「記述式」導入の背景・目的等

 

 上記の3本柱のうち、「記述式」問題については、次のような事柄を提示している。
◆  「言語活動」「探究的な学習」の充実と高校教育の課題
 高校教育では、高等学校学習指導要領で各教科・科目の枠を超えた「言語活動」や「総合的な学習の時間」における「探究的な学習」の充実が求められている。
 しかし、必ずしも十分な指導改善が進んでいる状況ではないと指摘している。
 大学入学者選抜の改革で、こうした「言語活動」や「探究的な学習」の成果を適確に評価することが、高校教育の改革・充実を大きく後押しすることになると期待されるとしている。
◆  “共通テスト”としての「記述式」の必要性
◎ センター試験の特性
 システム改革会議では、現行のセンター試験における受験者の評価に関して、次のような指摘があるとしている。
● “知識の習得状況”の評価に優れていることに加えて、“多肢選択式”中心の条件の中でも、与えられた問題を「分析的に思考・判断する能力」(分析的思考力)の評価に優れている。
● 他方、複数の情報を統合し構造化して新しい考えをまとめる「思考・判断の能力」や、 その過程や結果を「表現する能力」(統合的な思考力・表現力)の評価 については更なる改革が求められる。
● センター試験は、“多肢選択式”中心のため、選択肢の内容を参考に解答するなどのケースも指摘されているという。
◎ 「統合的な思考力・表現力」
 特に「統合的な思考力・表現力」は、今後社会で活躍するうえで求められる能力であるという。
 そうした能力を高校教育や大学教育でよりよく育成していくために、「学力評価テスト」では、「マークシート式」問題の質的改善に加え、「記述式」を導入し、複数の情報を統合し構造化して新しい考えをまとめるための「思考力・判断力」や、その過程や結果を「表現する力」などを評価することが有効であるとしている。
◎  「記述式」導入のメリット
 「記述式」を導入することで、高校教育にも「言語活動」や「探究的な学習」などの充実が促され、生徒の“能動的な学習”をより重視した授業への改善が期待できるとしている。そして、「記述式」問題のメリットとして、次のような例を挙げている。
● 解答を選択肢の中から選ぶのではなく、自らの力で考え出すことで、より主体的な「思考力・判断力」の発揮が期待できる。
● 文や文章の作成を通じて思考のプロセスがより自覚的なものとなることにより、より「論理的な思考力・表現力」の発揮が期待できる。
● 「記述による表現力」の発揮、特に文や文章の作成に当たって、目的に応じて適切な表現様式を用いるなど、表現力の発揮が期待できる。

 

作問と評価

 

◆ 「条件付記述式」
 「記述式」の作問については、現行の国立大2次試験(個別試験)で実施されているような“解答の自由度の高い記述式”ではなく、設問で一定の条件を設定し、それを踏まえて結論や結論に至るプロセス等を解答させる「条件付記述式」を中心に作問するとしている。
 これにより、問うべき能力の評価と採点など、「記述式」テストの実施に当たっての課題解決を目指すとしている。
● 32年度~35年度(現行学習指導要領に対応実施):“短文記述式”問題
● 36年度以降(次期学習指導要領に対応実施):“より文字数の多い”問題
 「記述式」問題に対する採点等の課題や教科・科目の特性も念頭に置き、32年度~35年度までの「現行学習指導要領」対応では“短文記述式”の問題を導入、36年度以降の「次期学習指導要領」対応では“より文字数の多い記述式”の問題を導入するとしている。
◆ 難易度の設定、作問の構造化
 「記述式」問題の作問をより合理的なものとするため、過去の大学入学者選抜の問題等で、どのような「思考のプロセス」が問われているか/どのような「事象間の関係性」の理解や表現が求められているかなどについて総合的に分析し、難易度の設定を含め、作問の考え方の構造化の検討を進めるとしている。
● 「思考のプロセス」:例えば、「問題の理解」「情報の統合」「解決方法の探索、計画立案」「考察過程や考察結果の吟味」などの観点について。
● 「事象間の関係性」:例えば、「共通・相違」「増・減」「原因・結果」「具体・抽象」「演繹・帰納」などの「事象間の関係性」について。
◎ 評価結果の「段階別」表示
 「記述式」問題の解答については、上記のような考え方に基づく作問において設定した“条件への適合性”を中心に評価するという。
また、評価結果は「段階別」表示にするとしている。

 

実施方法

 

◆ 採点方法・体制
 「記述式」の採点業務を効率的・安定的に実施するため、“OCR”(光学式文字読取装置)の技術も活用し、答案を“クラスタリング”(デジタル化した「記述式」問題の解答を、テキスト処理により分類し並び替えを行う処理)する技術やコンピュータを活用した採点技術などの新たな技術の開発と活用を積極的に進めるとしている。
 また、「採点基準」に基づく“個々の条件への適合性の判定業務”については、民間事業者等を活用して実施することも考えられるとしている。
◆ 採点期間
 上記のような「記述式」の採点方法等による採点期間については、厳密な試算は困難であるとしつつ、次のような試算を示している。
 例えば、受験者数最大53万人、実働800人/日の採点者確保、各正答条件を2名で採点することなどを想定した場合、採点の事前・事後にかかる諸準備等も含め、解答の文字数などによって採点期間は20日程度~60日程度になるという。
 なお、出題形式や採点業務の工夫等により採点期間は短縮されることも考えられるとし、その具体的方策について引き続き検討するとしている。
◆ 実施時期
 「記述式」の実施時期については、上記のような試算された採点期間を踏まえつつ、高校教育への影響や大学入学者選抜の合否判定のタイミング等に関する関係者の意見も聞きながら、実施時期を検討するとしている。
 その際、「マークシート式」問題と同日に実施する案、「マークシート式」問題とは別日程で実施する案のそれぞれについて検討するという。

 

「マークシート式」問題

 

 「学力評価テスト」は当面、前述のような「記述式」問題は国語・数学に限定し、各教科・科目はセンター試験と同様、解答欄のコード化された記号に鉛筆で情報(解答)をマークする解答用紙、すなわち“マークシート”を使って行うとしている。
◆ 内容・解答方式等
 「学力評価テスト」の「マークシート式」問題は、システム改革会議の『中間まとめ』やこれまでの議論で、より「思考力・判断力」を重視した作問への改善を図るべく、次のような内容・解答方式等が提示されている。
◎ 多肢選択問題
● 各教科・科目の特性を踏まえながら、分野の異なる複数の文章の深い内容を比較検討することを要する問題。
● 多数の正解があり得る問題。
● 選択式でありながら複数の段階にわたる判断を要する問題。
● 他の教科・科目や社会との関わりを意識した内容を取り入れた問題など。
◎ 連動型複数選択問題(仮称)
 「選択式」問題で、より深い思考力等を問う問題の例として、例えば、複数の文章などを読み、そこで語られている考え方や取り組み方の“共通パターン”を分析し、“お互いに連動する複数の選択肢群”からそれぞれ選択肢を選び、その組合せに応じて“複数の解答が成立する”「連動型複数選択問題(仮称)」などの導入を考慮して検討を進めるとしている。
◎ 解答方式
● 例えば、理科等で正解を選択肢の中から選ばせるのではなく、必要な“数値”をマークさせるなどの方策も考えられるとしている。
● 例えば、主として「知識・技能」を中心に評価する問題と、主として「思考力・判断力」を中心に評価する問題とに分けて設定し、各大学が得点比重を判断できるようにするなどの方策を検討するとしている。
◆ 評価結果の表示
 テストの評価結果の表示について、『中間まとめ』では、大学の入学者選抜における“多面的・総合的”な評価を促進する観点から、大学やテスト受験者に対し、結果を“多段階”による表示で提供することや、種々の具体的なデータ、例えば、「パーセンタイル値」に基づき算出されたデータ、標準化得点、出題分野ごとの正答数や誤答数などを大学に提供することなどについて、より専門的に検討するとしている。
 また、現在よりも多くの情報、例えば、各科目の領域ごとや設問ごとの解答状況も合わせて提供する方向で検討するとしている。
◆ 実施時期
 「記述式」問題や英語の「多技能」(4技能)問題の実施の在り方とあわせて、実施時期を検討するとしている。

 

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< 選抜試験と“多面的・総合的”評価 >

 

「一般入試」における評価尺度の多元化

 

 大学入学希望者(以下、志願者)の学力や資質・能力、つまり、① 十分な「知識・技能」/② それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見出していく「思考力・判断力・表現力等の能力」/③ これらの基になる「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」といった「学力の3要素」を“多面的・総合的”かつ適確に評価して、当該大学・学部等に相応しい入学者を受け入れることが入学者選抜の重要な目的である。
 そのため、これまでにも大学入学者選抜は、一般入試、推薦入試、AO入試などによる“入試方法の多様化”と“評価尺度の多元化”が図られてきた。
 特に“多面的・総合的”な評価は、多様な学力や資質・能力の育成とともに、志願者の“資質・能力の個性”(特質)を引き出し、伸展させる面からも大事なことである。
 こうしたことから、ここでは推薦入試、AO入試に比べて一元的な評価であると捉えられがちな一般入試を中心に、その選抜方法をみてみる。
◆ 多様な評価の組合せ
 現行の一般入試、とりわけ入学者の8割以上を占める国立大の場合、“共通試験”であるセンター試験と各大学(学部等)の“個別試験”(2次試験)による「学力検査」、及び高校での学習歴(履修教科・科目の評定平均値等)を記した「調査書」などを評価基準とし、それらを総合して選抜している。
 学力検査は、センター試験で主に基盤的な「知識・技能」や「思考力・判断力」を評価し、個別試験で各大学(学部等)のアドミッション・ポリシーに基づく「統合的な思考力・表現力」(前期試験は記述式の教科・科目試験が主体。後期試験は小論文・面接などが多い)を主に評価する。国立大の一般入試では、“多元的な評価尺度”を用いて入学者選抜を行っているといえる。入学者の7割超を一般入試で選抜している公立大でも概ね同様である。
 また、国公立大における現行の一般入試のテスト評価は、センター試験と個別試験のそれぞれの“数値”(テスト得点)を基にした「加算方式」が一般的である。
 ただ、当該大学(学部等)の教育目的や特色、専門性等に応じてセンター試験の各科目の標準配点に重み付け(軽重)を行ったり、全体の配点(満点)を圧縮したりする場合もみられる。

 

< 難関国立大の学力検査の実態 >

 

 ところで、国立大「一般入試」の選抜方法の概要は上記のとおりであるが、センター試験が“単一の共通試験”であること、有力な難関国立大には“基盤的な教科学力”の差がほとんどない優秀な志願者が集まることなどから、所謂“小数点選抜”の実態や、センター試験の“出題レベル”についての課題などが浮き彫りになっている。

 

東京大の一般入試と推薦入試

 

 東京大の一般入試は、27年度まで募集人員を前期試験(約3,000人)と後期試験(100人)とに分割して入学者選抜を実施していた(分離分割方式)。
 28年度からは、基本となる前期試験を維持しつつ、学部生の多様性を促進して学部教育の更なる活性化を図るべく、高校生の潜在的多様性を掘り起こす観点から、後期試験の募集を停止して「推薦入試」を導入した。
 なお、後期募集を停止しても、国公立大の「分離分割方式」の規定(前期日程の入学手続き完了者は後期日程等の合格者にはならない)は維持される。
◆ 前期試験:“小数点差”の合否ライン
 東京大の前期試験(第2次学力試験)は、「センター試験(5(6)教科7(8)科目:900点満点を110点満点に圧縮) + 個別試験(4教科:440点満点)」の550点満点で、個別試験では文科類・理科類とも4教科の“記述試験”を2日間にわたって実施している。
 選抜はまず、各科類の志願倍率が科類ごとに定められた予告倍率を超えた場合、センター試験の成績(素点:900点満点)によって「第1段階選抜」が実施される。
 次に、「第1段階選抜」合格者に対して、「センター試験 + 個別試験」(550点満点)の「第2次学力試験」等による選抜が行われる。最終的な合格者の「第2次学力試験」成績(最高点、最低点、平均点)をみると、“小数第4位”まで算出されている。
 これはセンター試験の成績(900点満点)を110点満点に圧縮(110÷900=0.12222......<循環小数>)し、その成績と個別試験の成績(440点満点)を合計した550点満点で得点を表示(循環小数の小数第5位を四捨五入し、小数第4位まで算出)しているためである。
 前期試験合格者の成績で注目されるのは、受験者の成績がセンター試験の圧縮配点によって小数第4位まで算出されている点である。これはセンター試験の得点上位層のいわば“団子状態”を伺わせるもので、合否ラインは“1点単位”でなく、“小数点単位”で決まることもあるようだ。東京大の前期試験は、点差があまりないセンター試験高得点者層の小数点差で合否が決まるような、きわめて熾烈な競争であるともいえる。
 なお、後期試験は27年度まで、理科3類を除く一括募集とし、“文理融合”型の入試を行っていた。(表1参照)

 

 

◆ 推薦入試の選抜:書類審査、面接等の各“5段階評価”+ センター試験(概ね8割)
 東京大の28年度「推薦入試」の合否判定はまず、提出書類・資料についての書類審査を“5段階評価”によって「第1次選考」を実施。次に「第1次選考合格者」に「面接」等と提出書類等による「第2次選考」を実施し(5段階評価)、センター試験成績との“総合的評価”によって最終合格者を決定。
 センター試験は5(6)教科・7(8)科目(900点満点)で入学後の学修を円滑に行い得る基礎学力を有しているかを判断する観点から、“概ね8割(720点)”以上の得点であることが目安とされている。なお、医学部医学科は780点程度が目安。
 28年度の募集人員は全10学部で100人程度とされ、出願者数173人、「第1次選考合格者」数149人、「最終合格者」数77人であった。合格者に占める女子や関東圏以外の高校の生徒の割合が従前の一般入試より高く、大学側は「各学部で評価(選抜)基準を設定し、学生構成の多様性を促進できた」と評価している。

 

難関国立大-理系志願者のセンター試験「数学」の学力評価

 

 東京大の前期試験でも触れたように、難関国立大志願者のセンター試験の成績は高得点域に集まりがちである。特に「数学」は教科の特性から「国語」などに比べると、理系学部では低得点も散見されるが、概して満点近くに多くの志願者が分布する傾向がある。
 そのため、難関国立大の理系学部などでは、センター試験「数学」で志願者の「数学」の力を評価することが難しい実態がみられる。
 例えば、センター試験の「数学Ⅰ・A」と「数学Ⅱ・B」で満点近くに分布している難関国立大-理学部受験者は、個別試験の「2次数学」では得点率8割~3割程度の得点域に分布しているという。
 センター試験は「数学」も含め、全ての教科・科目が“単一問題”(同一の出題レベル)で、受験者の比較的多い主要科目は、平均点60点程度を目安に難易度を設定しているといわれる。
 センター試験「数学」の出題については、学習指導要領に準拠した出題の範囲内で、例えば同じ出題項目(分野)でも設問の進度に合わせて出題レベルを上げていき、受験者(当該大学・学部の志願者)がどのレベルの問題まで解けたかといったきめ細かな情報を大学側に提供し、志願者のセンター試験「数学」の学力を大学側がより詳細に把握できるような工夫も必要ではないかとの指摘もある。

 

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< 共通試験の目的・機能等 >

 

 本稿ではここまで、センター試験に代わる「学力評価テスト」の基本的方向、センター試験の活用と多元的な評価尺度で入学者選抜を行っている難関国立大の実態などをみてきた。
 ここでは、センター試験を例に共通試験の目的・機能を整理し、多面的・総合的評価と選抜方法などを探ってみる。

 

センター試験の“二面性”

 
 平成2(1990)年にスタートしたセンター試験は前身の「共通第1次学力試験」(共通1次試験。国公立大で活用:昭和54<1979>年~平成元<1989>年)も含めると現在まで37年にわたり、大学入学者選抜の一環として公平・公正で、公共性・信頼性の極めて高い“共通試験”として実施され、高校教育の質保証、向上にも寄与してきた。
 センター試験は、大学(短大含む)志願者の「高校段階における基礎的な学習の達成度を判定する」という“目的”(目標準拠型の“達成度テスト”=絶対評価)と、センター試験を利用する大学に対し「当該大学入学者を選抜するための基礎資料を提供する」という“機能”(集団準拠型の“選抜テスト”=相対評価)といった“二面性”をもっているといえる。
 センター試験のこうした目的・機能の原点は、前身である共通1次試験の設置目的に繋がっている。

 

センター試験の資格試験的活用と選抜試験

 

 センター試験は上記のように“資格試験的活用”と“選抜試験”といった二つの側面を持つが、大学では専ら選抜試験あるいは選抜試験の一部として活用している。資格試験的な活用としては、国公立大の「第1段階選抜」などにみられる。
 ところで、大学入学者選抜にも基本的には志願者の“学力把握”と“選抜”といった二つの側面があり、相互に不可欠な関係にあるといえる。
 そこで、大学入学者選抜の選抜機能に着目し、選抜基準と多面的・総合的な評価について考えてみる。

 

総合評価と個別評価

 

 センター試験、あるいは「学力評価テスト」であれ、共通試験を活用して志願者を選抜する場合、選抜(評価)基準の在り方が問題になる。
 前述したように、志願者の資質・能力等を“多面的・総合的”に評価して入学者を選抜することが大前提になるが、現行の入学者選抜では、多面的・総合的評価を前提としつつ、次のような方略がみられる。
 複数の評価基準を同時に組み合せる「総合評価」と、複数の評価過程(2段階選抜など)ごとにそれぞれ異なる評価基準で選抜していく「個別評価」(多段階評価)などがみられる。
 多くの大学でみられる「総合評価」では、一般的に“複数の評価”(テスト得点等)を総合(加算)して選抜するため、志願者の“個性”(資質・能力、教科学力の得意、不得意分野等)が掴みにくい。
 一方、「個別評価」(多段階評価)では、志願者を異なる評価基準で評価段階ごとに“絞り込む”ことで、志願者の“個性をより鮮明”にすることができるといえる。

 

< 選抜試験における合否判定 >

 

評価結果の「段階別」表示

 

 「学力評価テスト」は、「記述式」のほか、「マークシート式」でも評価結果を“段階別”に表示することが検討されている。
 「学力評価テスト」を“資格試験”としてではなく、“選抜試験”として活用する場合、評価結果の「段階別」表示で合否判定をどう行うか。「合否ライン」の設定が、鍵になろう。
◆ 「入学定員」管理と「合否ライン」設定
 大学の学生定員(収容定員)は法的に規制され、厳格に管理されており、入学定員(募集人員)もそれに沿って学部・学科等ごとや選抜方法ごとに設定されている。
 したがって、志願者の合否判定には“学力把握”のみならず、“入学定員管理”(入学定員充足率など)の視点からも判断する必要がある。そのため、優秀な志願者が集まる選抜性の高い大学・学部等では、「評価基準」や「合否ライン」の設定が重要となる。
◆ 「段階別」表示による合否判定
 「学力評価テスト」の「マークシート式」の評価結果が“段階別”で表示された場合、「合否判定」の一例として、次のような判定の仕方も考えられよう。
◎ 異なる評価基準による「合否ボーダーゾーン」の“絞込み”
 まず、「入学定員」と「評価結果」(「学力評価テスト」の評価基準による、例えばA~Eの5段階別評価)の「各段階別人数」を睨みながら、受験者を“合格ゾーン”/“不合格ゾーン”/“合否ボーダーゾーン①”に大別する「合否ライン」を評価の“段階別区切り”(「学力評価テスト」の段階別表示の区分)に即して設定する。
 次に“合否ボーダーゾーン①”に視点を当て、当該受験者を大学側が設定した新たな評価基準①による「評価結果」(例えばA´~E´の5段階別評価)を用いて上記と同様に“合格・不合格ゾーン”と“合否ボーダーゾーン②”に分ける。これで最終的な合否判定がつかない場合は、“合否ボーダーゾーン②”の受験者に対して、更に新たな評価基準②(例えばa,bの2段階別評価)を使って同様の判定を行い、最終的には“数値”化された評価尺度などを用いて判定することもあり得る。
 上記のような“評価の絞込み”による合否判定は、「学力評価テスト」で検討されている「マークシート式」の「段階別」評価結果の活用を想定したものである。(図1参照)
 このほか、「記述式」問題の評価結果の活用に加え、各大学・学部等の個別試験における評価結果も含めた“多面的・総合的”評価による「合否ライン」の設定には様々な評価手法の組合せが想定され、実施には十分な検討、試行を要するとみられる。

 

 

「段階別評価」の課題

 

◆ 「小論文」「面接」等の評価
 ところで、現行の入学者選抜でも「小論文」や「面接」等では評価手法として、段階別評価も行われている。例えば、点数評価が難しい場合、複数の採点者(面接者)がまず、評価基準に基づいて受験者を段階別に評価し、次に各段階別評価を予め決めておいた点数に変換してそれぞれの点数を集計する方法などがある。
 ただ、評価者の間で評価に差が生じて協議を行ったり、評価を進める中で新たな評価基準を追加したりして、段階別評価には時間的な負担も少なくないようだ。
◆ 「マークシート式」問題の“段階別評価”の課題
 「学力評価テスト」の「マークシート式」問題の「段階別」評価には、前述のような合否判定上の課題のほか、受験生にも影響しそうだ。
 「マークシート式」問題は、現行のセンター試験同様、各教科・科目ごとの試験時間・満点、各設問等の配点が想定される。その上で受験者の“得点”(素点)を段階別で表示する場合、そのまま段階的に区分するにしろ、標準化するなどの措置を講じるにしろ、各段階区分上の得点の扱い、受験した教科学力の個別情報(受験科目や項目、設問ごとの得点など、受験プロファイル)の不明確化などが課題として挙げられよう。
 また、受験生にとっては、現行のセンター試験終了直後に発表される“正解・配点”から自分のおよその得点を推測して2次出願する「自己採点」が事実上できなくなり、適切な進路選択にも混乱が予測される。

 

< 「記述式」 導入の課題 >

 

出題者と解答者の“思考のやり取り”

 

 「記述式」問題は最終的な答えだけでなく、解答を導き出す過程も“記述”させ、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」等を統合的に評価する試験である。
 入試問題は、当該大学(学部等)の“アドミッション・ポリシー”をテストの形で具現化したものであり、とりわけ「記述式」問題は出題者(大学側)と解答者が試験問題を通して「出題 ⇒ 解答 ⇒ 採点」といったいわば“思考のやり取り”(解答者は出題意図を読み取り、論理的思考力・表現力等で記述、解答/出題者あるいは採点者は解答者の多様な能力を読み取り、評価)を行う試験といえる。
 例えば、国公立大「個別試験」の「2次数学」(記述式)は、解答に至る“解法”(プロセス)が受験者の「思考力・判断力・表現力」そのものであり、採点者はその能力を評価(採点)する。したがって、出題者が「模範解答」(解法)を提示すると、それが“解法パターン”となって一人歩きして、多様な考え方(解法)を束縛する恐れがあるという。そのため、出題者は模範解答を敢えて示さず、「出題意図」の提示に留める場合もあるようだ。
 ともあれ、「記述式」問題における“思考のやり取り”を短期間のうちに50万人規模の受験者に行えるのか。
 システム改革会議は「学力評価テスト」の「記述式」問題導入について、試算された採点期間や実施時期も含め、実施方法を検討、議論している。

 

採点基準の在り方

 

 「記述式」問題の導入は、「マークシート式」問題では測れない多様な能力を測ることで、高校における“能動的な学習”をより重視した授業改善に繋がるなどの期待もあるという。
 ただ、作問や評価の在り方については、大規模な受験者を対象に採点の効率化を図る観点などから、「条件付記述式」や当初は「短文記述式」にすることなどが示されている。
 「記述式」問題の解答評価は、上述のように出題者あるいは採点者と解答者との“思考のやり取り”が基本となり、解答(記述)を評価する「採点基準」をマニュアル化(統一化)できるのか、評価の公平性・公正性が担保できるのか、といった指摘もある。

 

< 実現可能性に向けた改革を! >

 

最大級の教育・入試改革と環境整備

 

 成熟した知識基盤社会で、これからの時代に求められる資質・能力の育成は大事である。とりわけ、次世代を担う若者たちを育成する高校教育や大学教育、及び両者を架橋する大学入学者選抜の在り方が重要な視点となる。
 そのため、それらの改革論議は24年夏の中教審への諮問『高大接続・大学入試改革』以降、政府の教育再生実行会議『第4次提言』(25年10月)や前記の中教審『高大接続・大学入試改革答申』(26年12月)をはさんで、既に3年半ほど続けられている。
 本稿では、センター試験に代わって32年度からの実施が予定されている「学力評価テスト」を中心に、最近のシステム改革会議で検討、議論されている当テストの基本的方向や実施方策、現行の入学者選抜の実態なども含めてみてきた。
 今回の「基礎学力テスト」や「学力評価テスト」導入、個別大学の入学者選抜の在り方などの改革案は、昭和24(1949)年の「新制大学」発足以来とも、あるいは前述した37年前の「共通1次試験」導入と国立大の「1期校・2期校制度」(昭和24年度~昭和53年度)の廃止以来ともいわれるほど、大きな変革を目指して検討、議論されている。
 特に“共通試験”となる「基礎学力テスト」と「学力評価テスト」に関して、IRT(項目反応理論)やCBT(コンピュータ上で実施する試験)の導入、「記述式」問題の作問・採点、評価結果の「段階別」表示の活用などの実施体制については、その環境整備を十分に検討することが必要である。

 

社会的な理解と慎重な取組

 

 大学入学者選抜の改革は社会的な関心も高く、各大学の自主性を前提としつつ、関係者の不安や混乱を招くことのないよう、拙速を避けて慎重に進めるべきである。
 前述の共通1次試験は、昭和40(1965)年代の受験環境の激化など当時の入学者選抜の在り方について、国大協が“自らの問題”として構想した全国立大の“共通試験”が発端である(第2常置委員会:昭和46年2月)。当構想は、国大協の長年の調査研究、及び中教審答申『今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について』(『四六答申』:昭和46年6月)や文部省(当時)の『大学入学者選抜方法の改善について』(昭和46年12月)の報告に基づき、高校3年生を対象とした複数の「試行テスト」を行ったうえで、昭和54年から導入された。“共通試験”構想から導入実現まで、8年近くを要している。
 今回の高校教育、大学教育、大学入学者選抜の“三位一体”改革は、高校や大学に留まらず、小・中学校教育にも影響を及ぼす。それだけに、社会的にも高い関心を集めている。
 高校や国・公・私立大学関係者だけでなく、高校生や受験生、大学生、保護者なども含めて、社会的にも十分な理解が得られる実現可能な無理のない改革から進めていくことが求められる。

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