今月の視点 2015.12

国立82大学の“入学者選抜の転換”!

8割超が“多面的・総合的評価”を第3期「中期目標・計画」に!

2015(平成27)年度

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 16年度に法人化された国立大は、28年度から6年間の第3期中期目標期間を迎える。
 進展するグローバル社会と知識基盤社会にあって、国立大の使命・役割を認識し、今後6年間の活動の主軸となる「中期目標・中期計画」の“素案”が各国立大から提示され、27年10月下旬に文科省から公表された。入学者選抜に関しては、「学力の3要素」を踏まえた、志願者の“多面的・総合的”な評価への転換が8割超の大学で目標、計画されている。
 ここでは、国立82大学が「中期目標・計画」の素案に掲げている項目から、入学者選抜に関する目標及び具体的な計画について、その内容を紹介するとともに、第3期中期目標期間における入学者選抜の方向性を探った。

 

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< 国立大学法人の中期目標・計画の策定 >

 

組織・業務全般の見直し

 

 国立大学法人は、各大学法人(以下、国立大)の基本理念や長期的な目標を実現するために、当面の6年間を一区切りとして達成すべき目標を「中期目標」として策定する。
 また、中期目標の内容を達成するための具体的な計画を「中期計画」として立てる。
 文科省は、各国立大が第3期「中期目標・計画」を策定するに当たり、組織や業務全般の見直しに関する“視点”を26年9月に提示し、更に27年6月上旬、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」を各国立大に「通知」した。
 この「通知」は、第3期中期目標期間(28年度~33年度)における組織や業務全般の見直しについて、教員養成系・人文社会科学系の組織の“廃止”や社会的要請の高い分野への“転換”等のほか、教育研究等の見直しの一つとして“入学者選抜の転換”も求めている。

 

第3期における“入学者選抜の転換”:文科省「通知」

 

 各国立大は、「通知」された次のような入学者選抜に係る見直し内容等に沿って検討し、その結果を中期目標・計画や年度計画に具体的に盛り込むなど、新たな“転換”が求められている。
 ただ、見直しの具体的な計画(措置)等については、各国立大の自主的・自立的な検討に基づくものであり、各大学の状況等に応じて内容は異なる。

 

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第3期「中期目標・計画」(素案)にみる国立82大学の入学者選抜の転換

 第3期「中期目標・計画」(素案)における「大学の教育研究等の質の向上」に盛り込まれた、国立82大学(4大学院大学を除く)の“入学者選抜の転換”に関する「目標」及び「計画」(目標達成のための措置)は、次のようなものである(文科省27年10月下旬公表)。
 ただ、次掲の「目標」等は27年6月の“素案”段階(一部、27年7月以降の追加・修正等含む)のもので、今後、文科省の「高大接続システム改革会議」の『最終報告』や国大協の入試改革に向けた『提言』などによって、内容の変更や追加等もあり得る。
 なお、ここでは学部入試に関するものを取り上げ、大学院入試は割愛。各大学の記載で、新たな入学者選抜への取組など、注目すべき文言等は当方で太字・下線を付記した。

 

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< “多様な入学者”の受入れ >

 

中教審『答申』等の反映

 

 中教審は26年12月、これからの時代の変化に対応するために、高校教育、大学教育、及び大学入学者選抜の改革を一体的に行うことを提言した『新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について』を答申した(以下、『高大接続・入試改革答申』)。
 文科省は当答申を受け27年1月、高大接続改革を着実に実行する観点から、取り組むべき重点施策等を明示した実行計画として『高大接続改革実行プラン』を策定し、27年2月に「高大接続システム改革会議」を設置した。当改革会議は高大接続シシテム改革の実現のための具体的方策などを27年9月に『中間まとめ』として取りまとめ、現在、『最終報告』に向けて検討、議論を進めている。
 大学入学者選抜を巡るこうした改革提言の動きの中、国立大の第3期中期目標期間における“入学者選抜の転換”が文科省から「通知」された(27年6月:前掲の「通知」内容参照)。
 前掲した82大学の入学者選抜の転換をみると、文科省の「通知」内容に加えて、同省の『高大接続改革実行プラン』や中教審の『高大接続・入試改革答申』等も反映されている。

 

改革のカギを握る“多面的・総合的”な評価・選抜:8割超の大学提示

 

 今回示されている「高大接続・入学者選抜の転換」で“キーワード”ともいえる文言や新たな取組が、各大学の「目標」「計画」にどの程度盛り込まれているかをみる。(図1参照)
 まず、大学入学者の受入れに関しては、多様な人材育成の観点などから、これまでのような画一的な一斉試験による知識偏重の評価から脱し、「“入り口”段階で求められる“力”」(アドミッション・ポリシー)を“多面的・総合的”に評価・選抜する新たな入学者選抜が求められている。
 そのため、“8割を超える大学”が、今回の入学者選抜改革のカギを握る“多面的・総合的”をキーワードに、入学者選抜の新たな評価・選抜方法への転換を提示している。

 

「学力の3要素」を踏まえた評価・選抜:3割弱が提示

 

 小・中・高校を通して育成される「学力の3要素」(知識・技能/思考力・判断力・表現力/主体的な学習態度:学校教育法、学習指導要領)について、中教審の『高大接続・入試改革答申』は、高校段階ではこれからの時代に社会で生きていくために必要な「主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度」が求められるとして、「主体的な学習態度」を「主体性・多様性・協働性」に置き換えている。
 こうした「学力の3要素」(「確かな学力」や「新しい学力」観など含む)を掲げ、新たな入学者選抜への転換を提示している大学は“3割弱”である。

 

「新テスト」対応等、新たな「個別選抜」の具体的策定:4割強

 

 中教審の『高大接続・入試改革答申』は「高等学校基礎学力テスト(仮称)」(以下、「基礎学力テスト」)及び「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(以下、「学力評価テスト」)といった「新テスト」の創設や個別選抜の改革、多様な学習活動・学習成果の評価などを提言した。「高大接続システム改革会議」はこうした提言を踏まえ、さらに「新テスト」の在り方や実施方法、個別選抜の改革促進方策などを検討、議論している。「基礎学力テスト」は31年度から導入、「学力評価テスト」は32年度から導入とされているが、現段階では出題内容や実施方法等も含めて不透明な状況にある。
 こうした状況の中、「新テスト」への対応も含めた新たな入学者選抜への転換に取り組んでいる大学は少なくないとみられるが、特に“新入試名”を冠した個別選抜の導入やこれまでにない具体的な選抜方法を策定し、明記している大学は“4割強”である。個別選抜の具体的な改革事例として、次のような取組が注目される。

 ●「国際総合入試」(北海道大)/●「学部共通試験、志望分野の適性試験、地域性・地域貢献への意欲等を考慮する入試」(岩手大)/●「グローバル入試」(東北大)/●「グローバル入学者選抜システム、人文社会系・自然科学系などの大括り入試」(筑波大)/●「志願者の能力を多面的に判断する推薦入試」(東京大)/●「四大学連合(東京医科歯科大・東京外国語大・東京工業大・一橋大)を活用した大学個別試験」(東京医科歯科大)/●「飛び入学制度、国際バカロレア資格活用」(東京芸術大)/●「新フンボルト入試」(お茶の水女子大)/●「キャリア形成を軸とした高大接続を可能とする入試改革、募集単位の大括り化」(横浜国立大)/●「文系一括、理系一括入試」(金沢大)/●「6年一貫教員養成高度化コース(仮称)特別選抜」(愛知教育大)/●「京都大学特色入試」(京都大)/●「実践的外国語運用能力を評価基準とする入試改革」(京都工芸繊維大)/●多様な観点を取り入れた独自の総合入試制度:「世界適塾入試」(大阪大)/●「島根大学型育成入試」(島根大)/●「総合的評価に基づく入試、課題解決型入試、高大接続型入試」(岡山大)/●「調査書等の点数化、高校教育の「学び」の数値化を評価基準の一部に利活用する入試システム」(山口大)/●「四国地区5国立大学(徳島大・鳴門教育大・香川大・愛媛大・高知大)の連携による志願者の活動歴等のオンラインでの収集システムの開発・充実と入学者選抜への活用」(四国地区5国立大)/●「佐賀大学版CBT」、「特色加点」制度(佐賀大)など。

 

一体的な3つのポリシーに基づく選抜:1割強

 

 中教審の『高大接続・入試改革答申』や高大接続改革会議の『中間まとめ』などは、大学教育の質の向上や学生の学修成果の向上を図るために、「学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー)/「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)/「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の“3つのポリシー”の一体的な策定を法令上位置付けるよう求めており、入学者選抜はこれら3つの方針に基づいて行うべきであるという。
 アドミッション・ポリシーはほぼ全ての国立大(学部)で策定されているものの、3つのポリシーの一体的な策定と、それに基づく入学者選抜の実施を「目標・計画」に明記している大学は“1割強”に留まる。

 

「外部試験」新規活用:1割強/「国際バカロレア」資格の新規活用:1.5割

 

 グローバル人材の育成や英語4技能の評価・判定などの観点から、英語(語学関連)を中心に「外部試験」(資格・検定試験)や「国際バカロレア」資格を入学者選抜に活用することを「目標・計画」に掲げている大学が目につく。「外部試験」の新規活用は“1割強”、「国際バカロレア」資格の新規活用は“1.5割”程度である。
 ただ、英語の「外部試験」活用については、既に実施していたり(国立大25年度入学者選抜<一般・推薦・AO入試>での活用は約2割)、今回の「目標・計画」に記載せずに28年度から新規活用したりする大学(学部・学科)もあり、英語の「外部試験」活用は現段階で計画も含めると大学ベースで3割程度になるとみられる。

 

新たな選抜実施体制の構築/入学者の追跡調査と選抜の改善:ともに2割強

 

 多面的・総合的な評価による入学者選抜を全学的に進めるためには、その実施体制の充実・強化と評価方法や実施方法の研究・開発などが必要である。
 今回の「目標・計画」では、アドミッション・オフィスやアドミッションオフィサーなどの新設置、及び入学者の評価・選抜方法と入学後の学修・進路状況等の追跡調査を通じた選抜方法の改善などの取組が目につく。
 新たな選抜実施体制の構築や、入学者の追跡調査などを掲げている大学は、ともに“2割強”である。

 

< 国大協の『アクションプラン』と第3期「中期目標・計画」 >

 

優れた多様な入学者の確保

 

 国立大学協会(国大協)は27年9月、国立大の将来ビジョンと主体的な改革を打ち出すために、『国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン』(以下、『アクションプラン』)を策定した(27年6月『中間まとめ』)。
 同プランでは、具体的な改革取組の内容として、ポイント1:優れた資質・能力を有する多様な入学者の確保と受入環境の整備/ポイント2:大学間等の機能的な連携・共同による教育研究水準の向上、という2つのポイントを掲げている。
 特にポイント1では入試改革に関して、第3期中期目標期間に次のような取組を開始、実行するとしている。

 

多面的・総合的な評価 / 推薦・AO入試、国際バカロレア入試の拡大

 

 国立大は、多面的・総合的な評価を含み、個々の大学のカリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーに沿って学修を進めることができる者を選抜できるように入試改革を推進するとともに、推薦入試やAO入試、国際バカロレア入試等の導入を拡大するという。
 また、国に対しては、各大学における丁寧な入試の実施に必要な組織整備、人材育成等についての支援を行うよう求めている。

 

27年度「推薦入試+AO入試」入学者14.8% ⇒「国際バカロレア」入試含め30%に拡大

 

 推薦入試の募集人員については現在、文科省の『大学入学者選抜実施要項』で「募集単位ごとの入学定員の“5割”を超えない範囲」と定められている。国大協では「“推薦入試”と“AO入試”の募集人員を合わせて“5割”を超えない範囲」としている。
 国立大の27年度入学者(約9万9,600人)のうち、推薦入試による入学者は約1万2,100人(全入学者に占める割合12.1%)/AO入試の入学者は約2,700人(同2.7%)で、両者合わせた入学者は約1万4,800人(同14.8%)だった。
 因みに、28年度の両者合わせた募集人員は約1万4,900人(募集人員全体の15.6%)で、前年度より約210人(1.4%)増加しており、全体に占める割合も0.3ポイント上昇している。(図2・3参照)
 こうした国立大の推薦・AO入試の実態を踏まえ、国大協の『アクションプラン』は推薦・AO入試、及び国際バカロレア入試等の多面的・総合的な評価による入学者受入れの割合を現行の約2倍に当たる“30%”に拡大することを掲げている。
 これは、国大協の「推薦+AO入試“募集人員”=50%以内」の“ガイドライン”と、現実の「推薦+AO入試“入学者”=15%」とのギャップから、「推薦+AO+バカロレア入試等“入学者”」の割合を、実現可能性を踏まえた目標として30%にしたことが伺える。
 ただ、28年度から新規導入される東京大の推薦入試や京都大の推薦・AO入試の募集人員はそれぞれの大学の募集人員全体の3%程度に留まり、東京大では「記述解答式の学力試験による入学者選抜をさらに改善しつつ継続する」ことを「目標・計画」に明記している。
 いずれにしろ、多面的・総合的な評価による多様な入学者の受入れには、評価尺度の多元化などとともに、選抜の公平性や妥当性などが求められる。入学者選抜の新たな取組には財政支援等も含めた体制整備が必要であり、文科省は国立大の入学者選抜改革への重点支援として、28年度概算要求に20億円を新規計上している。

 

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