司法制度改革の一環として、16年度に法科大学院が創設され、18年からは新制度の司法試験が実施されている。司法試験を巡っては、これまで合格者数の減少や合格率の低迷などの課題が指摘されてきた。政府は27年6月末、司法試験合格者数“年間1,500人程度”/法科大学院修了者の司法試験の“累積合格率7割以上”を目指すなど今後の方針を決めた。
こうした中、27年司法試験の実施結果が9月上旬発表された。合格者数は前年より2.2%増の1,850人、合格率は2年ぶりのやや上昇で23.1%。合格者の内訳は、法科大学院修了者(法科大学院組)が前年より17人(1.0%)増の1,664人、予備試験通過者(予備試験組)が23人(14.1%)増の186人で、予備試験組の合格者数は初めて全合格者数の1割を超えた。
* * *
新制度に切り替わった18年以降の司法試験のこれまでの受験・合格状況をみてみる。
18年~23年は受験者数の増加、合格者数の停滞状態と合格率の低下が目立つ。24年は受験者数の減少、合格者数の増加、合格率の上昇といった好転換がみられた。25年は受験者数が2年連続減少、合格者数もやや減少したが、合格率は2年連続のアップとなった。26年は受験者数が3年ぶりに増加したが、合格者数は2年連続の減少で、合格率は新制度になった18年以降で最低となった。27年は、受験者数が前年並みの中、合格者数が3年ぶりに増加し、合格率は2年ぶりに上昇した。(図1・図2・図4、表1・表2・表3参照)
司法試験の受験者数は、法科大学院における既修者コース(2年制)のみの受験となった18年(第1回)は2,091人であったが、未修者コース(3年制)も加わった19年には18年の2.2倍に当たる4,607人となり、以降、年々増加して23年には8,765人に達していた。
しかし、24年は初参加の「司法試験予備試験」(以下、予備試験。後述)合格者(予備試験組)85人の受験を加えても、前年を初めて378人(4.3%)下回る8,387人だった。25年は予備試験組の受験者が前年より82人(96.5%)増の167人に増加したが、法科大学院修了者(法科大学院組)が816人(9.8%)減少し、全体では前年より734人(8.8%)減の7,653人だった。26年は法科大学院組、予備試験組ともに受験者が増加し、全体では前年より362人(4.7%)増の8,015人で、3年ぶりに増加した。
27年は法科大学院組が減少、予備試験組が増加し、全体では前年よりわずか1人増の8,016人となった。受験者の内訳は、法科大学院組が26年より56人(0.7%)減の7,715人、予備試験組が57人(23.4%)増の301人で、予備試験組は3年連続の大幅増である。
また、27年の法科大学院組の受験者7,715人のうち、未修者コースが既修者コースの1.2倍に当たる4,209人(占有率54.6%)で、既修者コースは3,506人(同45.4%)である。
◆ 合格者数
司法試験の合格者数は18年の1,009人から20年の2,065人まで増加したが、21年は20年より22人減の2,043人に減少。22年はやや増加して2,074人であったが、23年は再び22年より11人減の2,063人。24年は法科大学院組の合格者2,044人(前年に比べ19人減)に初参加の予備試験組の合格者58人が加わり、全体の合格者数は2,102人(同39人増)となった。25年は法科大学院組の合格者1,929人(同115人減)、予備試験組の合格者120人(同62人増)で、合計2,049人(同53人減)だった。26年は法科大学院組の合格者が前年より282人(14.6%)減の1,647人、予備試験組の合格者が前年より43人(26.4%)増の163人で、全体の合格者数は前年より239人(11.7%)減の1,810人で、2年連続の減少。
27年は法科大学院組の合格者が前年より17人(1.0%)増の1,664人、予備試験組の合格者が前年より23人(14.1%)増の186人で、全体の合格者数は前年より40人(2.2%)増の1,850人で、3年ぶりの増加である。
また、27年の法科大学院組の合格者1,664人のうち、既修者コースが未修者コースの2.1倍に当たる1,133人(占有率68.1%)、未修者コースが531人(同31.9%)である。
● 合格者の“集中化”
法科大学院74校(廃止、募集停止校の受験者含む)の27年合格状況をみると、合格者ゼロが4校、1桁台が39校で、合格者100人以上の5校(全校数の6.8%:合格者合計750人)と予備試験組の合格者(186人)を合わせると936人となり、全合格者の50.6%を占めている。また、予備試験組を含め合格者128人の6位と7位の79人とでは1.6倍以上の開きがあり、合格者の一部法科大学院と予備試験組への集中化がうかがえる。
● 「司法試験」合格者数、2年連続の“1,800人台”
ところで、旧司法試験は23年まで実施されたが、14年から現行の司法試験開始前年の17年までの合格者数は毎年1,100人台~1,400人台で推移していた。
18年以降の司法試験合格者数(18年~23年まで併行実施された旧司法試験の合格者数含む)の推移をみると、18年が1,500人台、19年~25年が2,000人台、26年・27年が1,800人台となっている。
なお、27年までの合格者数最多は、20年の2,209人(旧司法試験合格者144人、新司法試験合格者<法科大学院組>2,065人)である。
◆ 合格率
司法試験の合格率は、18年(第1回。既修者コースのみ)の48.3%を最高に、23年まで受験者増と合格者数の停滞状態を反映して年々低下し、23年は23.5%まで下降した。
24年は受験者数が減少したことに加え、予備試験組の新規参入などから、合格率は25.1%に上昇した。25年も受験者数減少の下、予備試験組の高い合格率と法科大学院組の合格率アップによって、全体の合格率は26.8%となり、2年連続の上昇。26年は、受験者数の増加と合格者数の減少で、合格率は22.6%に下降し、現行の司法試験が始まった18年以降で最低となった。
27年は受験者数がわずか1人増加したのに対し、合格者数が40人(前年比2.2%)増加し、合格率は前年より0.5ポイント上昇の23.1%で、2年ぶりの上昇となった。
27年の法科大学院組の合格率は21.6%(前年に比べ0.4ポイント上昇)で、2年ぶりの上昇である。一方、予備試験組の合格率は61.8%と、法科大学院合格率トップより6ポイントほど高いが、2年連続ダウンとなり、24年の初参加以降で最低だった。
なお、27年の既修者コースの合格率は前年より0.5ポイント下降の32.3%、未修者コースの合格率は0.5ポイント上昇の12.6%である。
◆ 各法科大学院の合格実績
各法科大学院における18年~27年までの司法試験合格実績をみてみよう。
当期間における全法科大学院の累積合格者数は、1万8,389人である。各法科大学院の合格者数は、東京大1,823人(累積合格率78.4%)/中央大1,720人(同69.6%)/慶應義塾大1,627人(同76.1%)/京都大1,313人(同78.4%)/早稲田大1,305人(同59.5%)/明治大741人(同48.3%)/一橋大704人(同81.2%)の7校が累積合格者数700人以上である。
一方、国立1校、私立1校が累積合格者数10人台で、私立1校は3人(同3.8%)に留まる。
この間の各法科大学院の累積合格率は、一橋大81.2%/京都大78.4%/東京大78.4%/慶應義塾大76.1%/神戸大71.7%など16校が50%以上で、全法科大学院の累積合格率50.3%の“半分”に達していないのは22校に上る。そのうち14校が合格率10%台、1校が1桁である。合格者数、合格率の法科大学院間の格差が目立つ。(表1・表2・表3参照)
司法試験の「受験資格」は、法科大学院修了者及び予備試験合格者とされているが、受験に際しては“期間”及び“回数”に関しての制限がある。
26年司法試験までは、次のような受験制限が課せられていた。
法科大学院修了者及び予備試験合格者は、それぞれ「課程修了日後あるいは合格発表日後の最初の4月1日から5年間の期間において、3回の範囲内」で受験すること。
◆ 「受験回数」制限の緩和措置
司法試験の上記のような「受験回数」の制限については、その緩和措置が検討され、「法科大学院修了もしくは予備試験合格後、最初の4月1日から5年の期間内は司法試験を毎回受験することができる」とする改正司法試験法が26年10月1日に施行された。この結果、27年司法試験では、受験制限期間における“4回目”の受験が可能となった。
● 27年「合格者」の8.5%が“4回目”で合格
27年司法試験の合格者数1,850人(予備試験組含む)の受験回数別人数をみると、1回目920人(全合格者に占める割合49.7%)/2回目505人(同27.3%)/3回目267人(同14.4%)/4回目158人(同8.5%)である。受験回数の緩和措置で、27年は合格者の8.5%が合格したことになる。
なお、法科大学院組の合格者数1,664人に限ってみると、1回目の合格占有率は45.6%で、4回目の合格占有率は9.4%である。
上述したようなこれまでの受験制限内に司法試験の合格を果たせず、“受験資格喪失”となった法科大学院修了者は、これまでの司法試験において、17年度修了者(既修者コースのみ)の約3割を除き、修了者の5割以上に及ぶ。
◆ “受験制限”を経過した各年度修了者の司法試験合格状況
法科大学院修了者による司法試験は、これまで10回(18年~27年)実施されており、17年度~21年度の各修了者は「5年期間内に3回受験」とする26年司法試験までの受験制限を経過している。また、22年度修了者(23年~27年司法試験受験可能)については、上述のように、27年司法試験で4回目の受験が可能となっている。
受験制限を経過した当該年度修了者の司法試験合格状況の概要は、次のとおりである。
① 17年度修了者(18年~22年司法試験受験可能)
・実入学者数(16年度「既修者コース」のみ)=2,350人 → 17年度修了者数(「既修者コース」のみ)=2,176人 → 合格者数(18年~22年)=1,518人 → 合格率=69.8%
・受験資格喪失者数=658人 → 受験資格喪失率=30.2%
② 18年度修了者(19年~23年司法試験受験可能)
・実入学者数(16年度「未修者コース」+17年度「既修者コース」)=5,480人 → 18年度修了者数=4,418人 → 合格者数(19年~23年)=2,188人 → 合格率=49.5%
・受験資格喪失者数=2,230人 → 受験資格喪失率=50.5%
③ 19年度修了者(20年~24年司法試験受験可能)
・実入学者数(17年度「未修者コース」+18年度「既修者コース」)=5,660人 → 19年度修了者数=4,911人 → 合格者数(20年~24年)=2,273人 → 合格率=46.3%
・受験資格喪失者数=2,638人 → 受験資格喪失率=53.7%
④ 20年度修了者(21年~25年司法試験受験可能)
・実入学者数(18年度「未修者コース」+19年度「既修者コース」)=5,774人 → 20年度修了者数=4,994人 → 合格者数(21年~25年)=2,355人 → 合格率=47.2%
・受験資格喪失者数=2,639人 → 受験資格喪失率=52.8%
⑤ 21年度修了者(22年~26年司法試験受験可能)
・実入学者数(19年度「未修者コース」+20年度「既修者コース」)=5,610人 → 21年度修了者数=4,792人 → 合格者数(22年~26年)=2,261人 → 合格率=47.2%
・受験資格喪失者数=2,531人 → 受験資格喪失率=52.8%
⑥ 22年度修了者(23年~27年司法試験受験可能)
・実入学者数(20年度「未修者コース」+21年度「既修者コース」)=5,352人 → 22年度修了者数=4,535人 → 合格者数(23年~27年)=2,200人 → 合格率=48.5%
・受験資格喪失者数=2,335人 → 受験資格喪失率=51.5%
18年~23年まで新司法試験と併行実施されていた旧司法試験の廃止を受け、司法試験受験の資格が得られる「司法試験予備試験」(予備試験)が23年から実施されている。
予備試験は、経済的事情や既に実社会で十分な法律に関する実務を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格を取得する途を開くために設けられた、いわば法科大学院の“例外的ルート”に当たる。
予備試験合格者は、法科大学院修了者と同等の資格で司法試験を受験することができ、受験制限も前述のように同様に適用される。
他方、現行の予備試験の科目には、法科大学院で必履修とされている「基礎法学・隣接科目」や「展開・先端科目」がなく、司法試験の受験資格を与える制度として法科大学院制度と予備試験制度はバランスを失しているなどの指摘もある。(図3・図4参照)
◆ 予備試験の実施状況
23年から実施されている予備試験の実施状況は、次のとおりである。(図3参照)
● 23年実施
出願者数=8,971人 → 受験者数=6,477人(最初の短答式試験) → 合格者数=116人(最終の口述試験) → 合格率=1.8%
● 24年実施
出願者数=9,118人 → 受験者数=7,183人(最初の短答式試験) → 合格者数=219人(最終の口述試験) → 合格率=3.0%
● 25年実施
出願者数=1万1,255人 → 受験者数=9,224人(最初の短答式試験) → 合格者数=351人(最終の口述試験) → 合格率=3.8%
● 26年実施
出願者数=1万2,622人 → 受験者数=1万347人(最初の短答式試験) → 合格者数=356人(最終の口述試験) → 合格率=3.4%
● 27年実施
出願者数=1万2,543人 → 受験者数=1万334人(最初の短答式試験)
* 最終合格発表は27年11月5日。
● 26・27年の「予備試験」出願者・受験者数、2年連続で法科大学院を上回る
23年から導入された予備試験の推移をみると、拡大の一途をたどっており、26年には26年度「法科大学院」の志願者数と受験者数をそれぞれ初めて上回った。さらに27年も「法科大学院」の志願者数1万370人と受験者数9,351人をそれぞれ上回った。
ただ、予備試験の受験者数は23年の6,477人から26年の1万347人まで一気に増加したが、27年は1万334人と前年をやや下回り、1万人超えで頭打ち状態にある。
なお、予備試験の合格率は極めて低く、26年は3.4%(競争倍率29.1倍)で旧司法試験の合格率(17年までの単独実施時の合格率は2~3%台)並みの“超難関”試験ともいえる。
因みに、法科大学院の合格率(受験者数、合格者数とも延べ数)は年々高まっており、27年度は53.6%(競争倍率1.87倍)である。
上記のような超難関の予備試験をパスした“「予備試験」合格者”(予備試験組:23年~26年合格者)のうち、27年「司法試験」の出願者は307人、受験者は301人、合格者は186人で、合格率は前年を5.0ポイント下回る61.8%だった。
一方、法科大学院組(22年度~26年度修了者)の27年「司法試験」合格率は21.6%で、予備試験組の3分の1程度に留まる。
なお、予備試験組の合格率61.8%は、法科大学院中トップの合格率である一橋大(合格率55.6%)を6.2ポイント上回っている。(図4参照)
予備試験組の合格者186人の「職種」をみると、法科大学院生が76人(予備試験組の合格者の40.9%)で最も多く、次いで大学生51人(同27.4%)、無職25人(同13.4%)などである。「最終学歴」では法科大学院が105人(同56.5%)で5割以上を占め、そのうち、7割以上が“在学中”である。(図5参照)
合格者の「年齢別」では、20~29歳が65.6%、30~39歳が17.7%を占めている。
また、「男女別」では男性166人(同89.2%)、女性20人(同10.8%)である。
27年「司法試験」合格者の“10人に1人”が予備試験組で、その7割近くが在学中の法科大学院生や大学生で占められている。司法試験における予備試験組が今後、学費と時間を節約できる“バイパスルート”として一層拡大・定着していけば、司法制度改革の基本的な理念の下で創設された法科大学院教育の“空洞化”も懸念される。
政府は27年6月末、一連の法曹養成制度の改革方針を『法曹養成制度改革の更なる推進について』として決定した(以下、『推進会議決定』)。『推進会議決定』は、当面必要とされる法曹人口の輩出に必要な取組、法科大学院、司法試験及び予備試験などの改革の更なる推進を決めた。
この中で、予備試験については、「法科大学院」修了との“同等性”の検証や運用面の改善など、次のような検討事項を挙げている。
● 予備試験の結果の推移等や法科大学院修了との同等性等を検証するとともに、必要な方策を検討する。(⇒ 法務省)
● 合格判定に当たり、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念を損ねることがないよう配慮する。(⇒ 司法試験委員会に期待)
● 法科大学院改革の進捗に合わせ、予備試験の趣旨に沿う者の受験を制約せず、かつ、法曹養成制度の理念を阻害せぬよう、必要な制度的措置を検討する。(⇒ 法務省)
* * *
法科大学院は16年度の創設以降、27年度で12年目を迎え、17年度~26年度の“累積修了者数”は3万8,769人にのぼる。その間の司法試験(18年~27年受験可能)の“受験者実数”(司法試験を1回以上受験した者の実数)は3万6,537人、合格者数は1万8,389人で、“累積合格率”(平均)は50.3%になる。(表1・表2参照)
この間の法科大学院修了者の司法試験受験とその結果を概観すると、23年まで受験者数の増加と合格者数の頭打ちで、合格率の低下傾向がみられた。24・25年は受験者数の減少と合格率の上昇がみられたものの、26年は受験者増と合格者減で再び合格率が低下した。
27年は受験者数の減少と合格者数の増加で、合格率は上昇に転じた。
なお、17年度~22年度修了者は司法試験の“受験制限”(5年間)を既に経過しているが、23年度~26年度修了者は受験機会を残しており、今後、“受験回数の緩和措置”などと相俟って、当該修了者による司法試験合格者数の増加や合格率の上昇もあり得る。
法科大学院修了者については、従来の旧司法試験にみられた“点”のみによる選抜ではなく、「法学教育-司法試験-司法修習」といった“プロセス”としての法曹養成制度の理念が実現しつつあるとの評価もある。ただ、その一方では一部の法科大学院を除き、入学者選抜の低調、司法試験結果の低迷、教育課程実施状況の問題点等が顕在化している。
そうした中、前述した政府の『推進会議決定』は、法曹人口の在り方として、当面“1,500人程度(年間の司法試験合格者数)”が輩出されるよう必要な取組を進め、更にはこれに留まることなく、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきであるとしている。
また、27年度~30年度までを「法科大学院集中改革期間」と位置付けて、法科大学院の抜本的な組織見直しと教育の質の向上を図ることにより、地域配置や夜間開講による教育実績などに留意しつつ、各法科大学院における各年度の修了者の司法試験の“累積合格率が概ね7割以上”になることを目指すべきであるとしている。
中教審の法科大学院特別委員会(以下、法科特別委)では、法科大学院の実態を踏まえ、法科大学院教育の改善・充実に向け、『法科大学院教育の質の向上のための改善方策について』(報告:21年4月)/『法科大学院教育の更なる充実に向けた改善方策について』(提言:24年7月)など、法科大学院への様々な改革・改善を提言し、その取組を促してきた。
また、文科省も法科特別委の提言等を踏まえ、「法科大学院教育改善プラン」を策定(24年7月)。法曹資格者への支援体制の整備、司法試験合格率の大幅な上昇を目指す成果目標の設定、課題を抱える法科大学院に対する公的支援の更なる見直しや組織改革の加速、法学未修者教育の充実、入学者選抜の改善などについての具体的な改善方策を明確にし、その実現に向けて取り組んでいる。
文科省は課題を抱える法科大学院の自主的・自律的な見直しを促進するため、司法試験合格率や競争倍率、入学定員充足率などを指標にして、公的支援の見直しを行っている。
財政支援の見直しについては、「国立大学法人運営費交付金」及び「私立大学等経常費補助金」の法科大学院に係る項目が減額・削減される。
24年度~26年度にかけ、課題を抱える法科大学院の組織見直しを促進するため、「司法試験合格率」(合格者数÷修了年度を問わない全受験者数)や「競争倍率」、「入学定員充足率」などを指標にして、公的支援の見直しを行った。
財政支援見直しの“第1弾”として、「司法試験合格率」と「競争倍率」による補助金等(国立大は運営費交付金、私立大は経常費補助金<特別補助>)の減額の指標に該当する法科大学院は24年度6校(私立大)/25年度4校(国立1校、私立3校)に上った。
さらに「入学定員充足率」を新たな指標として加えた“第2弾”では、26年度対象校として私立16校、国立2校の計18校が補助金等の減額措置に該当した。
文科省は、政府の法曹養成制度関係閣僚会議決定(25年7月)による法科大学院の抜本的な組織見直しへの取組要求と、中教審法科特別委の提言を踏まえ、入学定員の適正化を含む抜本的な組織見直しを加速するために、「公的支援見直し」の“第3弾”として、次のような強化策を決定した。この強化策は、公的支援見直しの「加算プログラム」の形で27年度予算から適用されており、28年度も引き続き実施されることが決まっている。
◆「加算プログラム」の仕組み
27年度から適用された「加算プログラム」は、およそ次のような仕組みである。
まず、全ての法科大学院を、〇「司法試験の累積合格率」/〇「法学未修者の直近の司法試験合格率」/〇「直近の入学定員充足率」/〇「法学系以外の出身者や社会人の直近の入学者数・割合」の“4指標”に基づき、その成果(点数化)に応じて「3類型」に分類する。
各類型には、入学定員充足状況の傾向を勘案して、「第1類型」=90%/「第2類型」=A:80%、B:70%、C:60%/「第3類型」=50%といった“5ランク”に減額された「基礎額」が設定される。
こうした法科大学院の財政支援上の類型化を図った上で、先導的な教育システムの構築、教育プログラムの開発、質の高い教育提供をめざした「連合」など優れた取組の提供を評価し、「第1類型」には“+5%~+20%”(取組ごとの加算率。以下、同)/「第2類型」(A・B・C)には“+5%~+50%”、/「第3類型」には“+50%~+60%”の加算率をそれぞれ措置(加算)する。
「基礎額算定率」+「加算率」が補助金等の「配分率」になる。
また、28年度以降は、「第3類型」の「基礎額」(50%)を“0%”まで減額した上で、“地方校・夜間校”のみに加算額分だけの増額の可能性がある。つまり、28年度以降は、法科大学院に係る補助金等の“全額カット”もあり得る。(図6参照)
28年度の「第3類型」に該当する法科大学院は4校で、いずれも私立大である。
更に、こうした財政支援の見直しに加え、法科大学院に裁判官や検察官等の教員派遣を行わない“人的支援の見直し”も講じられる。
◆ 28年度 法科大学院「補助金」に係る“類型”化
文科省は27年9月、前述のような“4指標”に照らして、これまでの取組や成果等を評価し、28年度の第1・2・3類型に該当する法科大学院を公表した。(表4参照)
各法科大学院は当該ランクに応じて、今後の教育内容の充実などを提案する。有識者による審査委員会の審査結果を踏まえ、最終的に「配分率」(基礎+加算)が決まる。
法科大学院の公的支援については、これまで様々な形で行われ、24年度からは補助金等の減額措置、27年度からは補助金等における「加算プログラム」によって実施されている。
他方、各法科大学院は自主的な組織の見直し、入学定員の削減などに取り組んできた。
その結果、法科大学院の学生募集校数はピーク時の74校(17年度~22年度)から、28年度の45校(ピーク時の60.8%。27年9月現在)と、これまでに29校が“募集停止”(2校は“廃止”)を公表している。補助金の減額措置が実施された24年度以降、特に公的支援見直しの更なる強化策(加算プログラム)公表後は、募集停止の法科大学院が急増している。
また、入学定員もピーク時(17年度~19年度)の5,825人から、26年度3,809人 → 27年度3,169人 → 28年度2,724人(ピーク時の46.8%。27年9月時点の見込み)と、2,700人台まで削減されている。
こうした流れをみると、各法科大学院の定員削減や司法試験等への取組などの改革を、補助金など公的支援の見直し(強化)によって誘導していることが伺える。
政府の『推進会議決定』は、上記のような各法科大学院の定員削減への取組や低迷する司法試験結果の下、法科大学院の抜本的な組織見直しと教育の質の向上を更に推進すべきであるとしている。
中教審の法科特別委は法科大学院の現状や政府方針を踏まえ、法科大学院全体の体質強化、教育の質の向上を図るため、現行の「加算プロブラム」の見直しなど、29年度以降の公的支援の見直しを今後、検討することにしている。