文科省は27年6月上旬、全ての国立大学法人等(大学共同利用機関法人含む)に対し、第3期(28年度~33年度)中期目標の策定に当たり、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」を通知した。
見直しの主な内容としては、教員養成系・人文社会科学系の組織の“廃止”や社会的要請の高い分野への“転換”/法科大学院の“廃止・連合”も含めた抜本的見直しなどのほか、入学者選抜の「多面的・総合的な評価・判定への転換」など入試改革・改善も求めている。
ここでは、国立大の第3期中期目標期間における組織及び教育研究等の主な見直し内容とともに、その背景や機能強化の取組、国立大の入試状況、学生の分野別割合などを探った。
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国立大学法人等は、28年度から6年間の第3期中期目標期間(28年度~33年度)を迎える。
文科大臣は国立大学法人評価委員会の意見を聴いた上で、中期目標期間終了時(今回は第2期終了時の27年度)までに国立大学法人等の組織及び業務全般にわたる検討を行い、所要の措置を講ずるものとされている。
文科省が今回、各国立大学法人等に「通知」した「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」は、こうした制度に則って行われたものである。各国立大学法人等は当「通知」を踏まえた第3期中期目標・中期計画の素案の策定、修正等を経て、28年3月(27年度)までに当該の中期目標・中期計画が「認可」される。
文科省は今回の「通知」(27年6月)に先立ち、各国立大学法人(82大学、4大学院大学。以下、同)の自主的な検討を促すことを目的に、事前(26年9月)に国立大学法人評価委員会の課題意識を「組織及び業務全般の見直しに関する“視点”」として、次のような事項を提示した。
◆ 見直しの基本的な方向性
● 各大学の強み・特色、社会的役割を踏まえた機能の一層の明確化
● 定量的な指標の設定など、具体的かつ検証可能な中期目標・計画の策定
● 高い到達目標など、意欲的な中期目標・計画の設定に努力
◆ 組織の見直しに関する視点
● 「ミッションの再定義」(注.後述)を踏まえた組織改革
● 教員養成系、人文社会科学系は、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換
● 法科大学院の抜本的な見直し
● 柔軟かつ機動的な組織編成を可能とする組織体制の確立
◆ 業務全般の見直しに関する視点
(1)教育研究等の質の向上
● 学生の主体的な学びを促す教育の質的転換
● 社会貢献・地域貢献の一層の推進
● 人材・システムのグローバル化の推進
● イノベーション創出(大学発ベンチャー支援)
● 入学者選抜の改善
(2)業務運営の改善等
● ガバナンス機能の強化
● 人事・給与システム改革
● 研究における不正行為、研究費の不正使用の防止
各国立大学法人は各法人の状況を踏まえつつ、「通知」された見直し内容等に沿って検討し、その結果を中期目標・中期計画や年度計画に具体的に盛り込むことが求められている。
注目される組織や教育研究に係る主な見直しの内容は、およそ次のとおりである。
なお、ここに示されている見直し内容は、大学の自治の理念を踏まえ、個々の法人ごとの具体的な組織・業務に言及するのではなく、全ての国立大学法人を対象に、見直すべき点を全般的に示したものであるとしている。したがって、見直しの内容は、個々の法人に全ての項目が一律に該当するものではなく、各法人の状況に応じて該当する内容は異なる。
◆ 運営費交付金の配分方法の見直し
文科省は第3期の運営費交付金の在り方を検討する有識者会議の提言を踏まえ、各国立大の強み・特色の発揮を更に進めていくため、機能強化に積極的に取り組む大学に対し「国立大学法人運営費交付金」を“重点配分”する仕組みを導入するとしている(27年6月)。
具体的には、各国立大の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、次の“3つの重点支援の枠組み”を設ける。(注.「今月の視点-101」:27年5月配信参照)
● 重点支援➀:主として、人材育成や地域課題を解決する取組などを通じて地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大を重点的に支援する。「地域貢献型」ともいえる。
● 重点支援➁:主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大を重点的に支援する。「教育研究型」ともいえる。
● 重点支援➂:主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍(ご)して、全学的に世界で卓越した教育研究、社会実装(注.研究開発成果を社会に生かす)を推進する取組を第3期の機能強化の中核とする国立大を重点的に支援する。「卓越した教育研究型」ともいえる。
各国立大学法人は、それぞれの機能強化の方向性や第3期を通じて特に取り組む内容を踏まえ、3つの重点支援枠から“自ら1つの支援枠を選択”し、取組構想を提示する。
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国立大は、中教審答申『我が国の高等教育の将来像』(17年1月)で提示されている、例えば世界最高水準の研究・教育の実施/計画的な人材養成等への対応/大規模な基礎研究や先導的・実験的な教育・研究の実施/社会・経済的な観点からの需要は必ずしも多くはないが重要な学問分野の継承・発展/全国的な高等教育の機会均等の確保などのほか、地域の活性化への貢献等の役割を担ってきた。
国立大のこうした役割は今後も変わりなく、一層果たしていくことが求められている。
◆ 「国立大学改革プラン」と「ミッションの再定義」
国立大の在り方として上記のような役割を前提に、時代の変化や社会の要請を踏まえて策定された「国立大学改革プラン」(文科省:25年11月)による国立大の機能強化策がある。
同プランは各国立大の機能強化の視点として、➀「強み・特色の重点化」/➁「グローバル化」/➂「イノベーション創出」/➃「人材養成機能の強化」の4つの事項を提示し、第3期開始までの25年度~27年度を「改革加速期間」と位置付け、その間の取組として「ミッションの再定義」(各国立大の強み・特色・社会的役割を客観的データに基づいて教育研究分野ごとに整理)を踏まえた各国立大の機能強化構想に対し、重点的な支援を行っている。
また、政府の「教育再生実行会議」(「これからの大学教育等の在り方について」:第3次提言。25年5月)や「産業競争力会議」(「イノベーションの観点からの大学改革の基本的な考え方」:26年12月)、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(26年12月閣議決定)などでも大学に期待される取組の方向性としてさまざまな提言や指摘がなされている。
中教審は26年12月、高校教育、大学教育及びそれらを接続する大学入学者選抜の抜本的な改革を『新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について』(『高大接続・入試改革』答申)として答申した。
当答申は、大学入試の主な改革提言として、次のような事項を挙げている。
●“新テスト”創設:「高等学校基礎学力テスト(仮称)」(「基礎学力テスト」:学習成果の把握、指導改善等に活用。31年度から導入)/「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(「学力評価テスト」:32年度から大学入試に導入)を創設。
● センター試験廃止:“新テスト”創設により、現行のセンター試験を廃止。
● 入試形態の区分廃止:「一般入試」「推薦入試」「AO入試」の区分を廃止。
● “学力の3要素”の適切な評価:“学力の3要素”である「知識・技能」/「思考力・判断力・表現力」/「主体性・多様性・協働性」といった社会で自立し活動していくために必要な“力”の多面的・総合的な評価を重視した個別選抜を確立。
● 選抜の「公平性」に対する意識改革、等。
◆ 各大学の入試改革
中教審の『高大接続・入試改革』答申は、各大学における入試改革の主な取組として、次のような事項を提言している。
〇 アドミッション・ポリシーの明確化。/“学力の3要素”を踏まえた学力評価の実施と多元的な評価の推進等。/〇 「学力評価テスト」の活用。/〇 高校の学習成果の適切な評価。/〇 特定分野に卓越した能力を有する者や多様な背景を持った学生に対する適切な評価。/〇 入学者の追跡調査等による、選抜方法の妥当性・信頼性の検証。/〇 評価方法の工夫改善、評価に関する専門的人材の育成・活用。/〇 アドミッション・オフィスの強化をはじめとする入学者選抜実施体制の整備等。
◆ 「高大接続システム改革会議」の設置
文科省は『高大接続・入試改革』答申を踏まえ、前述した“新テスト”の在り方や個別選抜の改革の推進方策、多様な学習活動・学習成果の評価の在り方などを検討、議論する「高大接続システム改革会議」を設置し、大学・高校関係者らによる検討を進めている。
そのため、28年度からの第3期中期目標の「入学者選抜の転換」では、当面実施可能なアドミッション・ポリシーの明確化や“学力の3要素”の適切な評価と多面的・総合的な選抜への転換等を求めたものとみられる。
前述した国立大学法人評価委員会の「組織及び業務全般の見直しに関する視点」では、見直しの基本的な方向性の一つに、目標の達成状況の明確化を挙げている。
第2期「中期目標・中期計画」の策定の際には、各国立大学法人の機能を明確化し、中期目標の達成状況が検証可能となるよう、数値目標等を盛り込むことなどを求めていた。
しかし、実際には抽象的、定性的な記述が少なくない状況であったという。
このため、第3期「中期目標・中期計画」の策定に当たっては、各法人が一層の質的向上を目指し、高い到達目標を掲げるとともに、目標を実現する手段や検証指標を併せて明記するなど、より戦略性が高く意欲的な目標・計画を積極的に設定することを求めている。
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国立教員養成系大学・学部は、児童生徒数の変動や教員の年齢構成、退職者数の輩出状況等による量的規模の見直し、及び教員の資質・能力の向上を求める養成課程の改革など、量と質の両面からこれまで度々改革を迫られてきた。
今回の改革構想は、第3期中期目標を見据えた各国立大の「ミッションの再定義」において既に取りまとめられている。教員養成系大学・学部に対する改革の観点は、次のような内容である。
上記の改革の観点をみると、“教員免許状の取得を卒業要件としない”教員養成系の「新課程」、いわゆる「ゼロ免課程」(以下、ゼロ免)の廃止を伴った“量的縮小”と教職大学院への重点化などによる“教員の質の向上”などの取組が注目される。
◆ 規模の拡大と縮小
国立の教員養成系大学・学部は、昭和24(1949)年の新制大学発足と同時に「各都道府県には教養教育と教員養成目的の学部等をおく」という基本方針(国立大学設置の11原則)の下、全国に設置されてきた。
国立大教員養成系の入学定員は、昭和41(1966)年度に1万5,600人で昭和40年代後半は1万7,000人台~1万8,000人台、昭和50年代半ばに1万9,000人台に達し、昭和57(1982)年度~60(1985)年度はいずれも2万150人と2万人を超えた。これは第2次ベビーブーム期による児童生徒数の増加を見込んだ教員養成課程の拡充や昭和50年代に創設されたいわゆる“新構想3大学”(上越教育大、兵庫教育大、鳴門教育大)などによるものであった。
その後、昭和63(1988)年度~平成4(1992)年度は各年度とも1万9,930人(ゼロ免含む)と2万人を割り込み、以後、ほぼ毎年度減少している。(図1参照)
◆ 「新課程」=ゼロ免の設置
小学校では昭和50年代後半から、中学校では昭和60年代初めからそれぞれ児童生徒数が減少に転じた。
こうした状況を踏まえ、長期的な教員の需給関係を見通した養成課程の整備の在り方を調査研究する文部省(当時)の有識者会議は昭和61(1986)年、教員養成課程の入学定員の一部を教員以外の職業分野へも進出する“新たな課程”(新課程)の設置などを提言した。
これを受け、昭和62年度からゼロ免の設置が始まった。
● 教員養成課程の削減をゼロ免に振替え
国立の教員養成系大学・学部のゼロ免の募集人員は、設置時の昭和62年度が110人(国立の教員養成系全体の入学定員に占める割合0.5%)であったが、翌63年度1,805人(同9.1%) → 平成元(1989)年度・2年度2,000人台後半 → 3年度~9年度3,000人台 → 10年度約4,500人 → 11年度約5,500人 → 12年度6,210人(同38.9%)と10年余りで一気に急増し、これまでのピークに達した。また、10年度~12年度にかけては、当時の行政改革の一環として教員養成課程“5,000人削減計画”が謳われ、この3年度間で教員養成課程は4,745人が削減された。その一方で、教員養成課程の定員をゼロ免に振替える措置が採られ、同じ3年度間でゼロ免は2,290人の増員となった。
◆ ゼロ免の“削減”目立つ / 養成課程全体の入学定員、30年間で約71%に!
最近の教員養成系大学・学部の入学定員の推移をみると、教員養成課程の増加に対し、 ゼロ免課程の減少率の大きさが目立ち、全体として減少傾向にある。23年度~27年度の入学定員の推移は、次のとおりである。(図1参照)
● 23年度入学定員:教員養成課程=1万533人、ゼロ免=4,242人、合計1万4,775人
● 24年度:教員養成課程=1万683人(前年度比1.4%増)、ゼロ免=4,037人(同1.2%減)、合計1万4,720人(同0.4%減)
● 25年度:教員養成課程=1万731人(同0.4%増)、ゼロ免=3,989人(同4.8%減)、合計1万4,720人(前年度と同じ)
● 26年度:教員養成課程=1万796人(同1.6%増)、ゼロ免=3,819人(同4.3%減)、合計1万4,615人(同0.7%減)
● 27年度:教員養成課程=1万971人(同1.6%増)、ゼロ免=3,419人(同10.5%減)、合計1万4,390人(同0.7%減)
教員養成課程全体の入学定員は、昭和60(1985)年度の2万150人から平成27年度の1万4,390人と、30年間で約71%に減少した。
また、ゼロ免は減員に留まらず、他学部への改組・転換(教育学部 → 教育人間科学部、教育文化学部等)などで、ピーク時の12年度(6,210人)から15年間で約55%に減少している。
今回の「ミッションの再定義」では、今後の教員需要等を踏まえた教員養成課程全体の量的縮小とともに、教員養成課程本来の機能強化として、この“ゼロ免課程”の廃止も挙げられている。
教員の資質・能力の向上などの一環として、教員の“高度専門職業人”としての位置付けがある。そして、この高度専門職業人を養成する課程(修士レベル)の中核的な役割を担うのが教職大学院である。
◆ 教職大学院の厳しい現状
教職大学院は20年度に国立15大学(入学定員571人)、私立4大学(同135人)の計19大学(同706人)で開学した。その後、設置が相次ぎ、26年度現在、国立19大学、私立6大学の計25大学(入学定員833人)が全国に設置されている。
教職大学院の志願・入学状況は厳しく、創設時の20年度の志願者数は944人(志願倍率1.3倍)、入学者数644人で、入学定員充足率は91.2%だった。
創設から6年経った26年度の志願者数は1,079人(志願倍率1.3倍)、入学者数772人で、入学定員充足率は92.7%。このうち、国立大は入学定員663人、入学者635人、入学定員充足率95.8%/私立大は入学定員170人、入学者137人、入学定員充足率80.6%で、国・私立大とも“入学定員割れ”の厳しい状況である。
ただ、国立大の25年3月の教員養成課程卒業者の教員就職率は70.1%だったのに対し、教職大学院修了者は93.1%に達している。
大学における一般的な知的活動の基盤はいつごろ、どのように形作られていったのか。その源を簡単にたどってみる。
中世ヨーロッパでは、文法・修辞・論理・算術・幾何・天文・音楽のいわゆる「自由七科」が自由人に相応しい“基礎教養”とされていた。
こうした知的活動はその後、ヨーロッパにおける大学の成立・発展に伴い、各専門学部への予備課程における“教養教科”として位置付けられていった。
近代に入ると大学は科学技術や産業の発展に伴い自然科学部門の強化が図られ、自然科学が発展した。さらに従来の人文主義的風潮から社会科学が自立して、自然科学/人文科学/社会科学が確立したとみる。現代の大学の教育研究においては、この3領域は教養教育の基盤であり、各専門教育においても人文・社会・自然科学の素養は必須である。
◆ 日本の大学の教育研究組織の創成
日本では、古くは官吏養成を目的とする教育機関が存在していたが、明治5(1872)年の「学制」により、新しい西洋の概念を取り入れた「大学」が構想された。明治10年には旧・東京大学(明治19年から帝国大学)に法・理・文・医の4学部が設置された。
他方、幕末から明治にかけては、慶應義塾大、同志社大、明治大、早稲田大などの私立大の前身に当たる多数の専門学校や私塾などが文系を中心に設立され、独自の学風(建学の精神)で近代日本の創設に貢献した。
多元性・多様性に富む複雑なグローバル化社会では、地球規模としての自然環境(自然保護、環境問題など)/異文化・言語などの異質な集団や他者との相互関係(人間関係)/国家・社会の在り方や仕組み/産業・経済構造の仕組み(社会構造)など、それぞれが相互作用的に関係する複雑な事象を、人文・社会・自然科学を基盤とする総合的な知的活動で捉えることが重要だ。
つまり、大学の教育研究における人文・社会科学(文系)の位置付けは、自然科学(理系)と同様、極めて重要であるといえる。
前述のような大学における基盤的な教育研究分野の在り方を踏まえて、文科省が提示した人文・社会科学に対する改革の観点である国立大の「ミッションの再定義」を改めてみてみる。文科省は、次のような改革を求めている。
少子化、18歳人口の減少、急激なグローバル化の進展、国際競争力の激化、厳しい財政状況等々、国立大にも“試練の大波”が押し寄せている。
「国立大学プラン」や「ミッションの再定義」はこうした厳しい状況を踏まえて策定されたもので、国立大の多様な役割、機能を一層明確に果たしていくことが求められている。
最近の国立大への改革要請をみると、優れた資質・能力を持つ多様な学生の受け入れとともに、各国立大の強み・特色/グローバル化/イノベーションの創出がキーワードだ。
第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方を提言(27年6月)した文科省の有識者会議は、人材育成に関しても次のような教育成果を提起している。
この提言では、理系・文系に限らず、イノベーションの創出やベンチャーマインドの育成が大学教育の“成果”として重視されるという点に注目される。
ただ、“ベンチャーマインド”の育成は、大学の教育研究の在り方(所期の目的)として、慎重に捉えることも必要であろう。
例えば、大学における「基礎研究」(文系・理系とも)の結果として、企業や新規ビジネスにつながる“ベンチャーマインド”が生まれるという見方もある。
各国立大では「ミッションの再定義」等を踏まえて、この2、3年は機能強化と組織の再編等を図る取組が盛んになっている。
現在、第3期中期目標期間の始まる28年度に向け、多くの国立大が学部(学科)の新設・改組等を含む組織改革に取り組んでいる。特に、教員養成系の「ゼロ免課程」の“募集停止”(教員養成に特化)による学部・学科等の改編が目立つ。
◆ 28年度の新設予定学部等
28年度の主な新設学部等は27年6月現在、次のような国立大で予定されている。ここでは、教員養成系の「ゼロ免課程」募集停止(以下、募停)に伴う教育学部等の新設は割愛。
なお、今後、変更等の可能性もある。
〇 弘前大-人文社会科学(新設:人文学部を改組)/〇 岩手大-理工(新設:工学部を改組)/〇 宇都宮大-地域デザイン科学(新設:工学部の建設を募停、教育学部の総合人間形成を募停)/〇 千葉大-国際教養(新設:教育学部のスポーツ科学、生涯教育を募停)/〇 東京工業大-理、工、物質理工、情報理工、生命理工、環境・社会理工の6学院(改組:理、工、生命理工の3学部を再編)/〇 電気通信大-情報理工学域(改組:情報理工学部・4学科をⅠ類、Ⅱ類、Ⅲ類に再編)/〇 福井大-国際地域(新設:教育地域科学の地域科学課程を募停)/〇 信州大-経法(新設:経済学部を改組)/〇 静岡大-地域創造学環(新設)/〇 徳島大-生物資源産業(新設)、理工(新設:工学部を改組)/〇 愛媛大-社会共創(新設)/〇 高知大-人文社会科学(新設:人文学部を改組)、農学海洋科学(農学部を改組)/〇 佐賀大-芸術地域デザイン(新設)/〇 大分大-福祉健康科学(新設)/〇 宮崎大-地域資源創成(新設)、等
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27年は18歳人口・高卒者数ともに前年より1.6%ほどの増加が見込まれ(旺文社推測)、現役生の大学進学志向を示す現役志願率の前年並みが予測される中、センター試験志願者数は26年より0.3%減(現役生2.7%増、既卒者11.8%減)の約55万9,000人で、国公立大入試の基本ベースとなるセンター試験志願者数は前年とほぼ同様であった。
そうした中、27年国公立大「一般入試」(以下、同)の志願者数は国立大1.8%減、公立大2.7%減で、全体として2.0%減少した。国立大に限ってみると、ボリュームゾーンの前期日程が前年比1.4%減の約19万9,000人/後期日程が同2.3%減の約14万6,000人だった。
27年は「数学・理科」が新課程入試“初年度”として実施された。特にセンター試験では、「基礎を付した科目」(基礎科目。2単位:2科目受験必須=4単位相当)は旧課程の各「理科Ⅰ」(3単位)1科目受験よりも負担に感じる文系受験者が多く、理系にとっても「基礎を付していない科目」(発展科目。4単位:2科目受験=8単位相当)は旧課程科目より負担が増した。加えて、センター試験の数学Ⅱ・Bや化学(発展科目)、地理B(理系志望者の受験が比較的多い)などの平均点ダウンが大きかった。
こうしたセンター試験の受験科目の“負担感”や理系志望者の平均点ダウンなどから、国公立大「一般入試」を避けてセンター試験を課さない「推薦・AO入試」や私立大「一般入試」へ流れたケースが増えたものとみられる。
その結果、国立大の志願者数は、“4年連続の減少”となった。“理数教育の充実”(数学・理科の質、量の拡大)を謳った新課程入試初年度の27年国公立大「一般入試」は、“受験生の負担感”が滲み出た結果だった。 (図2参照)
受験生にとって、教員養成系は手堅い資格取得の一つに従来から位置付けられてきた。
11年以降の国立大「一般入試」の教員養成系(教育、学校教育、教育地域科学、教育文化など。一部、ゼロ免含む)志願者数の動きをみると、16年まで6万人程度だった志願者数は17年~25年まで、19年の約4万6,800人を除き、5万人台前半から半ばで推移してきた。26年の志願者数は、前年より約3,000人(5.8%)減の約4万8,000人で4年連続の減少となった。
27年は前年より52人(0.1%)増の4万8,092人で、5年ぶりの微増に転じた。また、27年の「一般入試」募集人員は前年より183人(1.5%)減の1万1,756人で、志願倍率は前年より0.1ポイント上昇の4.1倍であった。(図3参照)
27年センター試験の平均点(5教科6科目<800点満点>の加重平均点)は前年よりアップ(+3.3点の465.2点)したものの、数学Ⅱ・Bの難化などから現役の理系受験者にダメージを与え、より「安全志向」が高まり、理系志願者“減”につながったとみられる。
27年国立大「一般入試」の学部系統別状況(文科省の区分による)を前年と比べると、「人文・社会(科学)」1.8%増(約1,500人増)の“文系の増加”に対し、「理工」(理、工、理工学系)2.6%減/「農・水産」4.5%減/「医・歯」6.1%減/「薬・看護」10.0%減など、“理系は軒並み減少”し、「自然(科学)」(教員養成を除く)としては約7,700人、3.7%減少した。
不況に強い理系志望の高まりと就職に弱い文系敬遠といった、かつての「文低理高」が、経済状況や就職状況の好転などから崩れてきたことがうかがえる。(図4参照)
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大学生(学部学生。以下、同)の関係学科別(学部等系統別)などの状況は、どうなっているのか。国立・公立・私立大における学生のおよその文系と理系の割合を概観してみる。
まず、26年度の大学生数は、約255万2,000人。そのうち、国立大は約44万7,000人(全学生数に占める割合17.5%)/公立大は約12万9,000人(同5.1%)/私立大は約197万6,000人(同77.4%)で、学生の8割近くは私立大生である。
学生の所属を文系(人文・社会科学)、理工系(理学・工学・農学)、「その他」で区分すると、文系が47.3%(人文科学14.5%、社会科学32.7%)/理工系が21.3%(理学3.2%、工学15.2%、農学3.0%)/「その他」が31.4%で、学生の約5割が文系、約2割が理工系である。(図5参照)
26年度の国・公・私立大別の学生のおよその関係学科別割合は、次のようになっている。
● 国立大:人文・社会科学22.2%(人文科学7.0%、社会科学15.2%)/理工系43.5%(理学7.0%、工学29.7%、農学6.7%)/「その他」34.3%
● 公立大:人文・社会科学42.2%(人文科学15.6%、社会科学26.6%)/理工系18.9%(理学2.1%、工学13.4%、農学3.5%)/「その他」38.9%
● 私立大:人文・社会科学53.3%(人文科学16.2%、社会科学37.1%)/理工系16.5%(理学2.4%、工学12.0%、農学2.1%)/「その他」30.2%
これをみると、文系(人文・社会科学系)学生の割合は私立大(53.3%)と公立大(42.2%)で高く、国立大は22.2%に留まる。
一方、理工学系の学生割合は国立大(43.5%)で高く、公立大(18.9%)と私立大(16.5%)は10%台に留まっている。また、理工学系ではいずれも工学の割合が高く、国立大では29.7%に達している。(図6参照)
世界的競争力の激化や急激な技術革新が進む中、「理工系」志望が低下傾向にあるようだ。
20年前の平成7年度の「理工系」(理学・工学・農学)入学者数は約14万8,000人で、全入学者数(約56万9,000人)
に占める割合は26.0%だった。26年度の「理工系」入学者数は約12万6,000人で、7年度に比べ約2万2,000人減少し、全入学者数(約60万8,000人) に占める割合も20.8%と、7年度より5.2ポイント低下している。
こうした状況なども踏まえ、付加価値の高い理工系人材の戦略的育成の取組が始まっている(「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」:文科省・経産省、27年5月)。
国立大の教育研究組織の整備・再編等を通じた理工系人材の育成が、戦略の重点事項の一つとして挙げられている。
国立大学協会(国大協)は27年6月、国立大の主体的な改革を打ち出すために、『国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン(中間まとめ)』を公表した。
同プランでは、具体的な改革取組の内容を次のような2つのポインで示している。
● ポイント1:優れた資質・能力を有する多様な入学者の確保と受入環境の整備
多様なニーズに応える教育研究の質の向上/確かな学力とともに多様な資質を持った高校・高専卒業者の受入/優れた外国人留学生の積極的な受入と日本人学生の海外派遣の拡大/女子学生及び女性教員の受入環境の整備など6項目を提起している。
● ポイント2:大学間等の機能的な連携・共同による教育研究水準の向上
大学間等の連携・共同による教育の推進/学生、研究者の高い流動性の確保など3項目を提起している。
特にポイント1では入試改革に関して、第3期中期目標期間に次のような取組を開始、実行するとしている。
国立大は、多面的・総合的な評価を含み、個々の大学のカリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーに沿って学修を進めることができる者を選抜できるように入試改革を推進するとともに、推薦入試やAO入試、国際バカロレア入試等の導入を拡大する(入学定員の30%を目標)という。また、国に対しては、各大学における丁寧な入試の実施に必要な組織整備、人材育成等についての支援を行うよう求めている。
◆ 26年度「推薦入試+AO入試」入学者14.9% ⇒「国際バカロレア」入試含め30%に拡大
推薦入試の募集人員については現在、文科省の『大学入学者選抜実施要項』で「募集単位ごとの入学定員の“5割”を超えない範囲」と定められている。国大協では「“推薦入試”と“AO入試”の募集人員を合わせて“5割”を超えない範囲」としている。
国立大の26年度入学者(約10万人)のうち、推薦入試による入学者は約1万2,200人(全入学者に占める割合12.2%)/AO入試の入学者は約2,600人(同2.6%)で、両者合わせた入学者は約1万4,900人(同14.9%)である。因みに、両者合わせた入学定員の割合は15.3%。
他方、国際バカロレア活用の入試は現在低調であるが、国内で国際バカロレアのディプロマ・プログラム(16歳~19歳向けプログラム)と高校の学習指導要領との並行履修がしやすくなるよう、学習指導要領の一部改正が27年夏頃を目途に公布・施行される。
28年度は東京大、京都大、広島大など、29年度には東北大、大阪大(全学部)、九州大などで国際バカロレア活用の入試が予定されており、今後拡大の方向にある。
国立大学法人の第3期中期目標では、「運営費交付金」の配分方法が大きく変わることに加え、前述したように教員養成系や人文社会科学系の学部等の組織を社会的要請の高い分野に変更することが迫られている。
特に運営費交付金については、各大学の強み・特色を踏まえた“機能強化”を促進するため、交付金の一定率については、各大学が選択する一つの「重点支援枠」の機能強化策の成果(評価)に応じて交付される。また、学長のリーダーシップを予算面で支えるために、運営費交付金の中に、学長裁量による学内の「資源再配分」の経費が新たに設けられる。
運営費交付金は国立大学法人の経常収益の平均3割程度(文系の単科系大学は高率)を占めているが、今後は外部資金の獲得が一層重要となってこよう。
このようなことから、各大学・学部等はこれまで以上に“実学”志向の機能強化に向かうことが予測される。
今後、国立大が取り組む改革として、各大学の自主性・自律性を前提に、知識・技術の創造と伝承、人材育成、地域貢献、教育機会の保障といった基本的な役割とともに、社会の様々なニーズにも応えていくことが求められる。
今回の「国立大学改革プラン」の方向性や各大学の「ミッションの再定義」などをみると、成果がみえやすく、社会にすぐ役立つような教育研究、つまり文系・理系に限らず、全体的に“実学”機能強化の組織見直しが進むとみられる。
ところで、文学や哲学、歴史学、教育学、倫理学、政治学などといった分野は、その成果が具体的にすぐ現れるものではない。そのため、これらは、いわゆる“実学”に対して“教養学”などともいわれるようだ。ただ、これらは人間や人間の集団(社会)を主な対象としつつ、自然科学系とも相補的な連携関係にあり、大学の教育研究は「実学と教養学」といった二項対立的な位置付けにはならないであろう。
中教審の第一次答申『21世紀を展望した我が国の教育の在り方について』(平成8年7月)は、教育の基本的な在り方について、次のように提言している。
この答申は21世紀を迎えるに当たって、[ゆとり]の中で子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくことを基本としつつ、国際化、情報化、科学技術の発展、環境問題等の社会的変化に対応する教育の在り方について提言している。
初等中等教育の在り方についての基本的な提言であるが、大学の教育研究の在り方についても同様の考え方ができるのではないか。
「流行」にのみ目を向けた改革では、ディシプリン(学問分野)化された学術研究や教育も含め、学問全体を狭めてしまわないか。各大学のバランスのとれた改革を期待したい。