16年度に法人化された国立大は、28年度から第3期中期目標期間に入る。国立大は法人化以降、競争的環境の中で自主性・自律性を前提に教育研究の活性化や地域貢献などに一定の成果を上げてきた。他方、社会環境はさまざまな領域で大変厳しい状況に直面している。
こうした中で国立大には、第3期中期目標期間において、各大学の強み・特色を最大限に生かし、教育研究や地域貢献のため、さらなる改革・改善と発展が求められている。
文科省の有識者会議はこのほど、各国立大の機能強化の方向性に応じた3つの重点支援枠を国が設定し、大学が選択する1つの支援枠の評価を予算配分に反映させるなど第3期の「国立大学法人運営費交付金」の在り方についての『中間まとめ』を提示した。
交付金見直しの背景や新たな配分方法、国立大の現状、類型・種別化等について探った。
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法人化以前の国立大は文科省(行政機関)の一部として、予算・人事等は国の行政組織としての制度が適用されていた。
当時の国立大の予算(歳入・歳出)は「国立学校特別会計」で一元的に扱われ、国立大の運営に必要な経費の約5割を「一般会計からの受入れ」、残りを授業料や入学検定料、附属病院収入、産学連携収入など各大学の「自己収入」(各大学の収入は国庫に納入)で賄っていた。
国立大は16年度の法人化以降、「国立学校特別会計」に替わって、当初は経常費助成に近い性格を持つ国からの「国立大学法人運営費交付金」(基本的には「一般会計からの受入れ」額に相当。以下、運営費交付金)を受けることになった。
つまり、運営費交付金は、各中期目標期間(6年間)を通じて、各国立大学法人がそれぞれの中期目標・中期計画に基づき、安定的、持続的に教育研究活動を行っていくために必要な基盤的経費であるといえる。
運営費交付金の算定については、基本的には法人化の趣旨に沿った内容で行われるが、各中期目標期間において、算定方法は次のように見直されてきた。
◆ 第1期中期目標期間(16年度~21年度)
法人化当初の16年度予算では、法人化前の公費投入額を踏まえ、それまでの水準の教育研究が引き続き行えるよう法人化以前の配分実績を基に算定。17年度以降は、前年度の予算を基礎として、諸係数等により交付額を算出した。
具体的な算定については、事業の効率化などにより、一定の削減を求める「効率化係数」で対象事業費の“一律1%の減額”が求められ、さらに、附属病院を持つ国立大には「経営改善係数」で“一律2%の病院収入の増収”が求められ、その分の附属病院運営費交付金の減額が講じられていた(収入増が2%を超えた場合は当該大学の収入)。
◆ 第2期中期目標期間(22年度~27年度)
第2期開始の22年度は第1期の「効率化係数」の撤回と「経営改善係数」の廃止があり、23年度以降は各国立大学法人における組織改編や既存事業の見直しなどの改革促進を目的とした「大学改革促進係数」が設けられた。また、従来の「特別教育研究経費」に替わる「特別経費」で各国立大の個性や意欲的な取組、新たな政策課題等への対応などを支援する仕組みが導入され、改革に積極的な国立大学法人に対する重点支援が講じられた。
文科省は28年度からの第3期中期目標期間(28年度~33年度)を迎えるにあたり、運営費交付金の配分方法の仕組みや予算配分に反映するための評価などを検討する「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会」(以下、「運営費交付金検討会」と略)を26年10月に設置した。
当検討会は27年4月、第3期中期目標期間における国立大学法人(大学共同利用機関法人を含む)の在り方や運営費交付金の配分方法等の検討、議論を『中間まとめ』として提示した。
当検討会は今後も具体的な算定・配分方法等を検討し、今夏までに最終報告をまとめる。
運営費交付金検討会は今回の『中間まとめ』で、第2期の運営費交付金の算定・配分のルール等に次のような課題があると指摘している。
そして、第3期の算定・配分ルールの設定では、それらを考慮する必要があるという。
◆ 中教審『将来像答申』の指摘
運営費交付金検討会は『中間まとめ』で、国立大の役割として、中教審答申『我が国の高等教育の将来像』(『将来像答申』:17年1月)における次のような指摘を例示している。
また、『中間まとめ』では、法人化以降も国立大のこうした役割に変わりはなく、社会からは、国立大が常に社会への貢献を第一に意識し、このような多様な役割を一層果たしていくことが求められているとしている。そして、各国立大がそれぞれの役割を認識しながら機能を高めていくことで、強み・特色が形成されていくという。
◆ 「国立大学改革プラン」
さらに『中間まとめ』では国立大の在り方として、上記のような基本的な役割を前提に、時代の変化や社会の要請を踏まえて策定された「国立大学改革プラン」(文科省:25年11月)による国立大の機能強化策を挙げている。
同プランは各国立大の機能強化の視点として、➀「強み・特色の重点化」/➁「グローバル化」/➂「イノベーション創出」/➃「人材養成機能の強化」の4つの事項を提示し、第3期開始までの25年度~27年度を「改革加速期間」と位置付け、その間の取組として「ミッションの再定義」(各国立大の強み・特色・社会的役割を客観的データに基づいて教育研究分野ごとに整理)を踏まえた各国立大の機能強化構想に対し、重点的な支援を行っている。
また、政府の「教育再生実行会議」(「これからの大学教育等の在り方について」:第3次提言。25年5月)や「産業競争力会議」(「イノベーションの観点からの大学改革の基本的な考え方」:26年12月)、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(26年12月閣議決定)などでも大学に期待される取組の方向性としてさまざまな提言や指摘がなされている。
運営費交付金検討会は、国立大を取り巻く上述のような状況や国立大に対する社会の期待等を踏まえ、第3期中期目標期間における国立大学法人の目指すべき姿を、「各国立大が形成する強み・特色を最大限に生かし、自ら改善・発展する仕組みを構築することで持続的な「競争力」を持ち、高い付加価値を生み出していくことにある」としている。
そして、このような国立大の目指す姿の実現に向かって改革を進めていくためには、その活動を支える各国立大学法人の財務基盤の充実が求められるという。
厳しい財政状況の下、文科省は所要の運営費交付金の確保に努めつつ、各国立大学法人においては経費の節減や効率化を不断に行うとともに、教育研究組織の再編成、教職員の配置の適正化、施設・スペース等の有効活用などの学内資源の再配分や外部資金等の多様な財源の受入れを積極的に進めることを求めている。
今回の運営費交付金等の見直しの背景には、現行の運営費交付金の算定・配分の課題、国立大の果たす多様な役割、及び国立大学法人を巡るさまざまな改革を実効的に進めていくことなどが挙げられる。
運営費交付金検討会は、国立大の目指すべき姿や第2期の運営費交付金の配分方法等の課題を踏まえ、次のような第3期の運営費交付金の基本的な方向性を提起している。
『中間まとめ』は、国立大の多様な役割や求められている期待に応える点を総合的に勘案し、各国立大の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、予算上、次のような“3つの重点支援の枠組み”を新設するとしている。つまり、運営費交付金配分の“3類型”化である。(注.下記の重点支援①~③の太字、下線、注記は当方で付記)
重点支援①
主として、人材育成や地域課題を解決する取組などを通じて地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大を重点的に支援する。
ここでの「地域」の捉え方は、各国立大の事情に応じて柔軟に設定することができるものとする。この枠組みについては、運営費交付金の重点支援の仕組みを通じて、人材育成や研究力の強化の取組を推進できるような支援を行う。
重点支援②
主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大を重点的に支援する。
この枠組みについては、当該分野に重点を置いた人材育成や研究力の強化の取組を推進できるような支援を行う。
重点支援③
主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍(ご)して、全学的に世界で卓越した教育研究、社会実装(注.研究開発成果を社会に生かす)を推進する取組を第3期の機能強化の中核とする国立大を重点的に支援する。
この支援の枠組みについては、国際レベルの競争的な環境下で、人材育成や研究力の強化の取組を推進できるような支援を行う。
◆ 高大接続・入試改革等の政策課題の取組支援
運営費交付金検討会議では、上記のような3つの重点支援枠のほか、国立大に共通する政策課題等に関する取組についても支援が必要であるとしている。
例えば、新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた大学教育や大学入学者選抜の改革等(注.中教審答申『新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について』<26年12月>)のように、現在または今後新たに生じてくる国立大に関する政策課題を推進する取組や附属病院の機能強化、共同利用・共同研究拠点の機能強化といった国立大に広く関わる取組を支援する枠組みを設けるという。
文科省は、上述のような3つの重点支援枠ごとに、各国立大学法人が概算要求を行うにあたっての支援の観点や留意点を決定し、各国立大学法人に提示する。その際、文科省は機能強化を実現するための具体的な工夫や方策を盛り込むよう各国立大学法人に求める。
各国立大学法人は、それぞれの機能強化の方向性や第3期を通じて特に取り組む内容を踏まえ、3つの重点支援枠から“自ら1つの支援枠を選択”し、取組構想を提案する。
ただ、今回の『中間まとめ』では、中期目標期間を通じ、取組の進展に応じた枠組みの変更を妨げないことに留意すべきであるとしている。
取組構想の成果を検証する評価指標は、各国立大学法人が取組構想の内容に応じて、原則として測定可能な評価指標(KPI<Key Performance Indicators>。重要業績評価指標:目標の達成度を測るための鍵となる定量的な指標)を独自に設定するとともに、支援の観点ごとに文科省が提示する複数の指標から関連する指標を選択し設定する仕組みにするという。
文科省は、有識者の意見を踏まえ、重点支援の対象となる取組構想を選定。選定された取組については、原則として、3つの重点支援の枠組みごとにまとめた「機能強化促進係数(仮称)」による財源を活用し、改革の取組内容に応じた重点支援として、国立大学法人ごとの運営費交付金に加えて配分するとしている。なお、28年度の「機能強化促進係数(仮称)」の具体的な割合は、28年度の予算編成過程において決定されるものとしている。
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1.財務状況
国立大学法人86大学と大学共同利用機関法人4研究機構の90法人(国立大学法人等)の財務状況をみると、基盤的経費である運営費交付金は16年度の法人化以降、毎年度減額されてきた(26年度のみ増額)。16年度(交付額:1兆2,416億円)と26年度(同、1兆1,123億円)の運営費交付金を比べると、10年間で1,293億200万円、10.4%削減されたことになる。
こうした状況の中、国立大学法人等の全体としての事業規模は、附属病院収入や競争的経費等の外部資金の増加などによって拡大してきた。(図1参照)
国立大学法人等の経常収益をみると、運営費交付金収益と附属病院収益がそれぞれ30%台前半で両者合わせると全体の3分の2を占める。このほか、学生納付金収益と競争的資金がそれぞれ10%強となっている。ただ、国立大学法人ごとにみると、運営費交付金への依存度や競争的資金等の外部資金の獲得状況など、財務構造の違いが顕著になっている。
一般的に運営費交付金の経常収益に占める割合が高いのは、教員養成系や文科系中心の大学、逆に低いのは医科系の大学などにみられる。
また、受託研究収益や寄附金収益、研究関連収益などの外部資金収益の割合が高いのは、大規模な総合大学や理工系中心の大学などである。(図2・図3参照)
国立大学法人は、運営費交付金と各種の競争的資金を組み合わせた“デュアルサポートシステム”によって、一層の機能強化が図られてきた。
しかし現状では、期間が限られている競争的経費の獲得によるさまざまな成果を、運営費交付金の活用によって各国立大の中で組織化し、持続・発展させていくことが難しくなっている。
競争的経費で重点的に支えられている教育研究活動は多大な成果を上げている一方で、デュアルサポートシステムの限界が指摘されており、国立大の機能強化を図る観点から、基盤的経費である運営費交付金の一層の拡充が求められている。
2.設置、量的規模の状況
◆ 新制国立大の設置
国立大は、昭和24(1949)年の新制大学発足当初、69大学でスタートした。
それらの大学には、アメリカの州立大学をモデルにした“1県1国立大学”を原則に、戦前の専門学校や師範学校などを統合したものも少なくない。その後も国立大の整備は行われ、昭和48 (1973)年までには7大学が新設され76大学となった。
昭和50年代前半にかけては、“無医大県解消構想”(1県1医科大学・学部)に基づく新医科大(12大学)や新教育大(3大学)などの所謂“新構想大学”が次々に設置され、平成元(1989)年には96大学となった。また、昭和63(1988)年~平成9(1997)年には4つの大学院大学が設置され、国立大は99大学に達した。
◆ 単科大を中心に進められた再編・統合
文科省は13年6月、国立大の再編・統合を大胆に進めることなどを盛り込んだ「大学(国立大学)の構造改革の方針」(策定にあたった当時の文科相の名前から「遠山プラン」とも)を打ち出した。このプランは、①国立大の再編・統合を進める/②国立大に民間的発想の経営手法を導入する(国立大学法人に移行)/③大学に第三者評価(大学評価・学位授与機構等)による競争原理を導入するといった3項目が改革の柱であった。
これを契機に、主に医科系の単科大と周辺の総合大において、14年10月に2組4大学、15年10月に10組20大学が一気に統合。その後も医薬系や外国語系単科大と総合大の再編・統合が進み、20年には86大学となり現在に至っている。国立短大は22年以降、廃止。
◆ 近年の国立大学数、学生数ともやや減少
26年の全大学数(短大除く。廃止手続きが完了していない募集停止校含む。以下、同)は、国立86大学(全大学数に占める割合11.0%)/公立92大学(同11.8%)/私立603大学(同77.2%)の合計781大学である。
上述のような再編・統合を経験した国立大の大学数は減少し、全大学数に占める割合は昭和30(1955)年の31.6%から平成26年の11.0%まで20.6ポイント低下している。
また、近年の国立大の学生数(大学院生等含む)もやや減少し、全学生数に占める割合は昭和30年の35.6%から平成26年の21.5%まで14.1ポイント低下している。(図4参照)
3.国立大の特色・規模等の状況
国立大学法人は、規模や学部構成、附属病院の有無、教育研究活動などによって、その形態は多様であり、国立大はそれぞれの特色・強みを有している。
国立86大学を、その設置規模(学部数等)や教育研究活動の特色(専門性)等によって類型的に分けると、次のような状況である(25年4月段階。図5参照)。
◆ 総合系大学
2学部以上の学部を持つ総合系の国立大は47大学(全国立大の54.7%)である。そのうち、7学部以上の大規模・総合大は20大学(同23.3%)で一番多く、全て医学部を持ち、旧7帝大はこのグループに属する。
次に多いのが5学部、4学部を擁するそれぞれ9大学で、ともに半数以上の大学が医学部を持つ。
◆ 専門系大学
専門的な教育研究活動に特色を持つ専門系の国立大は33大学(全国立大の38.4%)である。このうち、最も多いのは教員養成系の11大学(同12.8%)で、これに工学10大学(同11.6%)、医学4大学(同4.7%)、社会2大学(2.3%)が続く。
このほか、外国語/芸術/体育/海洋/畜産/障害がそれぞれ1大学である。
◆ 女子大学、大学院大学
国立大には女子大が2大学(全国立大の2.3%)、大学院大が4大学(同4.7%)それぞれ設置されている。
女子大の2大学は、明治時代に創設された官立の東京女子師範学校と奈良女子高等師範学校を起源としている。
国立大の設立起源は、旧制時代も含めて一律ではない。100年以上前の明治時代、正規の大学といえば帝国大学だけであったが、大正7(1918)年の大学令によって、官・公・私立大学の設置が始まり、大学は発展した。そして昭和24年に新制大学が発足し、飛躍的な拡大を遂げてきた。国立大の系譜をたどると、いくつかのグループ分けができる。
法人化前の国立大は国の行政機関の1つとして、設立の経緯等により、➀旧7帝大/➁旧6大/➂11官立大/➃新8大(以上、表1参照)/➄その他、の5つに分類されていたようだ。
それは、旧7帝大を最上位とする国立大の重層的な構造でもあり、例えば予算配分(「運営費交付金」前の「国立学校特別会計」)や学部(学科)・研究科の新増設要求などに対する承認、認可の際に暗黙の前提とされてきたといわれていた。
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ところで、前述した運営費交付金検討会議の『中間まとめ』では、今回の3つの「重点支援枠」は各国立大の機能強化を「“予算上”、重点支援する枠組みであり、各国立大が果たす機能や役割を限定するものではない」としている。つまり、「重点支援枠」によって、国立大を類型化したり、種別化したりするものではないことを強調している。
そこで、大学の類型化や種別化などについて、これまでの経緯を簡単にたどってみる。
戦前の複線型の教育制度(学校体系)から一転して、単線型の新教育制度が発足した戦後の昭和20年代、各教育段階での教育機関の“種別化”は原則として存在しなかった。高等教育機関においても、短大の暫定的な設置(短期大学制度の恒常化は昭和39年以降)を除いて、新制大学は、制度的に一元的に扱われていた。
ただ、戦前の官立と私立、旧7帝大を最上位とする国立大内部の階層的な構造などの“格差”は、新制大学においても実態として存在していた。
例えば、国立大の学部構成や地域性等を考慮しつつ、入試日程を基に大学をグループ分けした「1期校(入試日程3月初旬)・2期校(同、3月下旬)制度」(昭和24年~昭和53年実施。昭和54年「共通1次試験」導入で廃止)などは、受験機会の複数化とはいえ、ほぼ固定化された1期校(旧7帝大など)、2期校の構成によって“差別観”を招いた。
他方、教育政策上、大学や高等教育の類型化や種別化を構想した提言が中教審などにこれまでしばしば登場している。
◆ 『三八答申』
新制大学発足から10数年経った昭和38(1963)年1月、中教審は『大学改革の改善について』(所謂『三八答申』)で、「新制大学の実績をみると、所期の目的が必ずしも十分に達成されていない。その原因の一つは、複雑な社会構造とこれを反映するさまざまな実情に十分な考慮を払うことなく、歴史と伝統を持つ各種の高等教育機関を急速かつ一律に、同じ目的・性格を付与された新制大学に切り換えたことにある」と指摘した。
その対策として、高等教育機関の目的・性格に応じた“種別化”が必要であるとし、「大学院大学/大学/短期大学/高等専門学校/芸術大学」といった高等教育の“5つの種別化”を提言した。
◆ 『四六答申』
昭和46年6月の中教審答申『今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について』(所謂『四六答申』)では、高等教育の多様化を図るために高等教育機関を次のような“5種類に種別化”するとともに、教育の目的・性格に応じて教育課程の“類型”を設けることなどを提言した。
第1種の高等教育機関=「大学」:総合領域型、専門体系型、目的専修型/第2種の高等教育機関=「短期大学」:教養型、職業型/第3種の高等教育機関=「高等専門学校」/第4種の高等教育機関=「大学院」/第5種の高等教育機関=「研究院」
また、『四六答申』は、国公立大の設置形態について、一定額の公費の援助を受けて自主的に運営するなどの“新しい形態の法人”とすることも提言した。
上述のような中教審の“種別化構想”には大学側からの批判も強く、全てが実施されたわけではなく、その後は「多様化」や「機能別分化」、「質保証」といった教育政策の提言がみられるようになった。
◆ 『将来像答申』
前述した中教審の『将来像答申』(平成17年1月)は、高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化に関し、大学が有する機能を次の7つに大別して提示した。
各大学はこれらの機能の全てを保有するのではなく、自らの選択に基づき、これらの機能の一部分を保有するのが通例であり、複数の機能を併有する場合も比重の置き方は異なり、その比重の置き方が各大学の個性・特色の表れとなるとしている。各大学は、固定的な「種別化」ではなく、保有するいくつかの機能の間の比重の置き方の違いに基づいて、緩やかに機能別に分化していくものとしている。
また、『将来像答申』は国や自治体等に対し、各大学が重点を置く機能を自主的に選択できるよう財政面を含む幅広い支援を求めている。
大学が持つこうした機能は、私立大学等経常費補助金の「特別補助」(特色ある取組などへの補助)の配分方法の一部に機能別分化の趣旨が反映されているといえよう。
その一方、大学側による自主・自律的な質保証を通じた“機能別分化”への取組は消極的であり、各大学は“個性・特色”を積極的に打ち出す多様化の傾向にあるといえる。
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大学に客観的な評価を導入して資源を効果的に配分しようという構図は、旧・大学審(現・中教審大学分科会)答申『21世紀の大学像と今後の改革方策について-競争的環境の中で個性が輝く大学-』(平成10年10月)などにみられる。
当『答申』は平成10年当時、法人化以前の国立大について、国費により支えられているという安定性や国の判断で定員管理が可能であるなどの国立大の特性と社会的責任を踏まえ、国立大には、計画的な人材養成の実施など国の政策目標の実現/社会的な需要は少ないが重要な学問分野の継承/先導的・実験的な教育研究の実施/各地域特有の課題に応じた教育研究とその解決への貢献といった果たすべき機能が期待されていると記している。
そのうえで、そうした機能を十分果たしていない国立大については、適切な評価に基づき大学の実情に応じた改組転換を検討する必要も出てくることが考えられるとした。
また、当『答申』は資源配分について、大学の教育研究の個性を伸ばし、質を高める適切な競争を促進し、効果的な配分を行うためにきめ細かな評価情報に基づき、より客観的で透明な方法によって適切に行う必要があるとした。
法人化以降の国立大は所謂「護送船団方式」の一律行政は廃されたが、国立大の役割・使命や社会からの期待は基本的に変わっていないといえる。
実際、法人化によって国立大にもより一層の競争原理(評価)が導入され、教育研究の活性化と効率化、地域貢献の取組、科学技術を中心とした学術研究のレベルアップ、イノベーションの創出などが図られてきた。
今回の運営費交付金の配分方法の見直し(案)は、こうした国立大の役割・使命に加え、各国立大が持つ特色・強みをより強く打ち出すために、大学全体の“機能強化”を図る狙いがあるとみられる。
競争原理を導入し、教育研究の質を競い合い、互いに切磋琢磨していくことは必要である。グローバル化が急速に進展し、国際的な通用性・共通性の向上と国際競争力が問われる中で、大学は自己改革をして教育研究の質を高め、個性を伸ばしていくことが求められている。限られた資源を有効活用するためには、全体に薄く投資するより、評価の高い、期待される領域に重点的に投資するほうが、より効果的で効率的であるとする見方もある。
しかし、科学技術の進展には基盤となる基礎研究が重要であり、そのための教育も含めた研究環境を整備することは不可避である。短期的な利益だけを追求するあまり、特定分野に資金と人材を重点配分し、基礎研究やそれを支える教育までを疎んじてしまっては、かえって高等教育全体を危ういものにしてしまうだろう。
また、産学官連携などの支援が大都市圏や大規模大中心の予算配分では、大学と地元企業との共同研究・開発、地域の課題解決に向けた大学と自治体による共同プロジェクトの取組といった大学と連携した地方の活性化は難しく、大学の地域貢献も十分に果たせない。
「角を矯(た)めて牛を殺す」ことのないよう、国立大に限らず、公・私立大も含めた大学の役割・使命を十分生かすことができるような確固たる財政基盤の確保と、バランスのとれた教育研究の環境づくりが重要である。