高校に2年以上在学し、特定の分野に特に優れた資質を有する者が早期に大学に入学できる「飛び入学」制度が平成10年度から実施されている。
ただ、現行制度では「高校中退」扱いのままで、大学入学後に中退して就職や資格試験等で進路変更する際、学歴上のリスクを伴うことになり、制度上の不備が指摘されている。
他方、政府・教育再生実行会議(『第5次提言』)は、高校「早期卒業」に関する制度化を提言しており、文科省は中教審に高校から大学への早期進学に係る制度の在り方を諮問した。
中教審は26年11月、「飛び入学」者が高校で50単位以上、大学で16単位以上を分野の偏りなく修得した場合、高卒と「同等以上の学力」を文科大臣が認定する答申案を示した。
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高校から大学への「飛び入学」に関し、高校とはどういう学校種なのか。
まず、その概要をみておこう。
終戦後間もない昭和22(1947)年3月に「学校教育法」が公布され、23年度から新制高校が発足した。新制高校は、旧制中学校がほぼそのまま移行する形で創設されていった。
こうして発足した高校の教育は、中等教育の前期段階を担う中学校(新制)に接続して、後期段階を分担し、高等普通教育と専門教育を施すとされている。つまり、高校は大学に接続する学校種であるが、制度的には大学の“予科的”な位置付けではない。
高校教育の在り方については、学校教育法においてその「目的」と「目標」が次のように規定されている。
高校では、前掲にある教育の「目的」を実現するために、上記のような①国家・社会の形成者として必要な資質形成/②一般教養と専門的知識・技能の習得/③個性の確立と健全な批判力の育成といった3つの「目標」の実現に努めなければならないとされている。
なお、中等教育学校後期課程についても、同様の目的や目標が規定されている。
高校では、生徒の多様な興味・関心や進路等に応じることができるよう、単位制を前提に、「普通科」「専門学科」及び「総合学科」の各学科や全日制・定時制・通信制の各課程が設けられ、多様な教育内容を様々な方法で学ぶことができるようになっている。
履修形態としては、「単位制高校」以外、「学年制」を重視した「単位制」との併用がほとんどである。
現行の高等学校学習指導要領(21年3月告示。24年度から数学・理科、25年度から全教科・科目に適用)の基本的な考え方は、およそ次のとおりである。
学校での教育活動に当たっては、「生きる力」を育むことを目指して、それを支える「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」の調和を重視し、①基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得/②それらを活用して課題を解決するための思考力・判断力・表現力等の育成/③学習意欲の向上、に努めなければならないとしている。
上記①、②、③は所謂“学力の3要素”として学校教育法に明確に規定され、学習指導要領の「総則」にも明記されている。
現行の学習指導要領による教育課程編成の基本的枠組みは、およそ次のとおりである。
なお、学習指導要領の規定については、共通性を維持しつつ、生徒の多様な学習に対応して一定の弾力性も確保されている。 (表1参照)
高校を卒業することに関しては、次のような法令上の規定がある。
学習指導要領には、校長の卒業認定に関して、次のような趣旨が記載されている。
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大学への所謂「飛び入学」制度は、どのような背景の下で創設されたのか。まず、その経緯をたどってみる。
我が国は明治以来、欧米先進国の科学技術を効率的に吸収し、進歩させ、科学技術立国、経済大国として発展してきた。しかし、高度経済成長期を過ぎ、資源エネルギーの厳しい制約や国際経済摩擦などの経済産業社会においては、独特の個性を持つ創造力豊かな人材を育成し、既存の知識や技能では難しい諸課題を解決していくことが求められる。
こうした状況の中、平成初期の中教審答申において、“脱・画一教育”の先駆的な取組として「教育上の例外措置」である「飛び入学」制度が提言された。
◆ 中教審答申『新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について』(平成3年4月)
平成3(1991)年の中教審答申『新時代の教育制度改革』は、高校教育の改革とこれに関連する大学教育の課題及び生涯学習の基盤整備について提言した。そのうち、高校教育改革と大学教育の課題に関連して「教育上の例外措置」の項で、「特定の分野において特に能力の伸長の著しい者」の事柄を取り上げている。具体的には、次のように提言している。
◆ 中教審第2次答申『21世紀を展望した我が国の教育の在り方について』(平成9年6月)
中教審『第1次答申』(平成8<1996>年4月)では「ゆとり」の中で「生きる力」を育むことを基本とする学校教育の改善が提言された。そして、『第2次答申』では「生きる力」を育む上で、一人ひとりの能力・適性に応じた教育を重視していく必要があるとして、ここでも「教育上の例外措置」を掲げ、次のように「飛び入学」制度を提言している。
◆ 平成9年から「飛び入学」を制度化
文部省(当時)は前述のような中教審の「教育上の例外措置」の提言を踏まえ、9年7月に大学入学年齢の特例措置、所謂「飛び入学」制度を導入するため、学校教育法施行規則(省令)の一部改正を行った。これにより、「数学又は物理学の分野において特に優れた資質を有し、年齢が17歳以上(高校在学2年以上)の者、又はこれに準ずる者で文部大臣の指定したもの」は大学入学が認められるようになった。
その後、平成13年には学校教育法(法律)を一部改正して、「飛び入学」制度の位置付けを法律上に明確化させ、“対象分野の制限も撤廃”した。
◆ 大学への「飛び入学」に係る規定
現在、高校から大学への「飛び入学」に関するおもな規定は、次のとおりである。
大学への「飛び入学」制度については、上掲のような学校教育法(法律)の規定のほか、学校教育法施行規則(省令)の第151条~第154条で、およそ次のような要件を定めている。
国立の千葉大は平成9年の学校教育法施行規則の一部改正で「飛び入学」が可能になったため、10年度から「先進科学プログラム」を発足させ、まず、工学部(物理学の分野)で「飛び入学」制度を導入した。
現在は理学部(物理学コース、物理化学・生命化学コース)/工学部(フロンティアテクノロジー<FT>コース)/文学部(人間探究コース)の3学部、4コースで実施している。
募集人員は、各コース(分野)とも若干名。
選抜方法は高校2年生を対象(春飛び入学)に、提出書類、独自の課題論述試験、面接による「方式Ⅰ」/提出書類、一般入試(前期日程試験:受験科目は分野別に指定)、面接による「方式Ⅱ」のほか、26年度からは高校3年生を対象(秋飛び入学)にした9月入学の「方式Ⅲ」も実施している。
先進科学プログラムに入学した学生は、各コースに該当する学部・学科に所属し、それぞれの学士課程カリキュラムに加え、同プログラム独自の科目を履修する。また、少人数教育や海外語学研修、短期留学等も積極的に行われている。学部卒業生の9割以上が大学院に進学し、修士修了者の6割以上が博士課程へ進学している。
千葉大における10年度~26年度までの「飛び入学」者数の累積は77人(26年度「秋飛び入学」者含む)に達し、「飛び入学」者全体の7割近くを占めている(表2、図1参照)。
大学への「飛び入学」制度は10年度に国立大で唯一の千葉大、13年度に私立大の名城大がそれぞれ導入し、26年度までに国立1大学、公立1大学、私立5大学(うち、1大学は26年度から停止)の合計7大学で累積入学者数は112人である。
各大学の累積入学者数の実績をみると、千葉大(77人)と名城大(26人)のほかは1人~4人程度で二極化しており、「飛び入学」制度の低調さが伺える。(表2参照)
◆ 低調な要因
「飛び入学」制度が創設されて20年近く経つ現在、導入大学の多くは何年度にもわたり「入学者ゼロ」状況で、いわば“開店休業”状態にある。(表2参照)
こうした「飛び入学」の伸び悩みの要因としては、様々な問題が考えられるが、およそ次のような点が浮かび上がってくる。
● 先進的な取組を行っている千葉大では世界的な有力大学で博士号を取得し、博士研究員などとして活躍している卒業生もみられる。
しかし、「飛び入学」制度を存在規模としてみた場合、対象が“稀有な才能の持ち主”のためやむを得ないことだが、絶対的な人数が少ない。そのため、出願者(個人)や大学(実施者側)、社会にもたらす「飛び入学」の効果が明確にされにくい。
● 高校生や保護者などには、高校での同期(同級)意識や友達意識、部活動等での仲間意識など集団的な存在意識が強く、規定の修学年齢(集団)よりも“早期に進学する”という意識転換が難しい。
● 大学の教育研究や社会貢献の目的達成のために、必ずしも「飛び入学」実施の必要性がない。
● 「飛び入学」志願者を推薦する高校側、受け入れる大学側双方にとって、「特に優れた資質」の判断が難しい。各種科学コンテストの実績などを別とすれば、特に人文科学系や社会科学系での見極めが難しい。
● 「飛び入学」に関する法令等で大学側に求められている学生への“特別な配慮”、つまり、選抜方法/教育研究上の実績・指導体制/自己点検・評価の実施と結果の公表などに対する困難さと負担感。等。
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高校から大学への「飛び入学」制度については先述したように、硬直した教育制度を打破するために20数年前の中教審答申等で提言され、平成10年度から実施されている。
しかし、その実態は伸び悩み、制度利用の拡大は一部を除きほとんどみられない。
こうした状況の下、進展するグローバル化に対応して国際的に活躍できる人材育成には「飛び入学」制度の活用などが必要であるとして、再び「飛び入学」や高校「早期卒業」に関する次のような提言や政府の施策計画等が示されている。
なお、以下の枠内に記した本文中、「飛び入学」や「早期卒業」に係る文言は、当方で太字や“ ”印、下線を付記した。
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文科省は上掲のような政府・教育再生実行会議の『第5次提言』を受け、26年7月、「子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築」などについて中教審に諮問した。
その中で、「高校の早期卒業について、現在の大学への飛び入学制度の活用状況等も踏まえ、意欲・能力に応じた学びの発展や、その後の興味・関心の変化による進路変更に対応できるようにするには、どのような制度とすべきか」を審議するように求めた。
ところで、高校の早期卒業に関しては中教審において以前からも検討、議論されてきており、24年6月の高等学校教育部会では、次のように論点を整理している。
高校の修業年限に達することなく、早期卒業を認める場合、次のような論点を挙げている。
◆ 対 象
・高校、中等教育学校(後期課程)、特別支援学校高等部に在籍する者を対象とするか。
・進路によって対象を制限するのか。
◆ 要 件
(1)各学校の定める卒業に必要な単位(74単位以上)の修得を求める場合
● 単位について
・3年未満(中等教育学校の場合は6年未満)で各学校の定める卒業に必要な単位を現実的に修得可能か。
・早期卒業をする場合に必履修教科・科目の履修を求めるのか。
● 成績について
・「一定以上の成績」を要件とすべきか。要件とする場合、一定以上であるかどうかは、どのようにして判断するのか。
ア.履修する教科・科目の修得状況をどのようにして明らかにするのか。
イ.追加的な資格又は学習成果をもって、「一定以上の成績」と判断するのか。
・これらの要件を課した上で、更なる要件が必要か。
(2)修得した単位数にかかわらず、特に優れた才能を有する者を対象とする場合
・「飛び入学」との関係をどのように考えるか。
・高校教育の質保証との関係をどのように考えるか。
・特に優れた才能を有するかどうかは、どのようにして判断するのか。
以上について勘案した上で、修業年限はどれだけ短縮できるのか。また、高校の卒業を要件としている各種資格との関係をどう考えるか。
● 「飛び入学」制度は、特定の大学への入学資格を得ることはできても、他の大学でも「飛び入学」の資格を得ることができるとは限らず、また高校を卒業していないため、高校の卒業資格は得られない。
● 「早期卒業」制度の検討とは別に、「飛び入学」の活用者に対して高校の卒業を認定するような制度改正を検討することが必要か。
一定の要件の下、「飛び入学」者に対して高校の卒業認定をどのように考えるか。
【論点例】
● 高校の卒業に必要な教育課程を全て履修していないにもかかわらず、単位の認定及び卒業の認定を行うことが可能か。
● 一定の能力を有することをもって高校の卒業を認定することができるか。高校教育制度や高校教育の質の保証との関係をどのように考えるか。
中教審では前述した26年7月の諮問を受け、初等中等教育分科会で改めて「飛び入学」者に対する高校「早期卒業」の在り方などについての審議が行われた。
◆ 「飛び入学」経験者4割、高校生等8割が、「高卒」資格の“必要あり”を回答
中教審の今回の審議過程で、文科省は26年9月、「飛び入学」制度を導入している大学(6校)、「飛び入学」経験者(有効回答34人)、科学オリンピック出場者などの高校生等(同63人:中学生一部含む)に対してアンケートとヒアリング調査を行った。
その結果、「高校卒業」資格を認める必要性について、「必要あり」が「飛び入学」経験者の38%(必要=9%、どちらかといえば必要=29%)/高校生等の78%(同=64%、同=14%)を占め、特に高校生等に「高校卒業」資格を望む割合が高い。
また、「飛び入学」経験者が「高校卒業」資格の必要性を感じた理由としては、〇高校中退では進路変更が困難/〇出身高校の同窓会等に入れず、OB・OGになれない/〇自分だけが卒業扱いにならないことへの不安などを挙げている。(図2・図3参照)
● 大学、高校関係者から指摘された課題
「飛び入学」制度を導入している大学や高校関係者からは、同アンケートやヒアリングを通じて、次のような課題が指摘されている。
・大学在学中にやむを得ず大学を卒業できなくなった場合を想定すると、高校卒業の扱いとならず、進路変更の可能性に対する配慮が必要である。
・「飛び入学」先の大学を中退した場合には、高校卒業の扱いとならず、特に優れた資質を持つ者であっても「飛び入学」制度での大学進学を躊躇する場合もあり、各分野で特に優れた資質を持つ者を「飛び入学」制度で受け入れることが困難になっている。
・仮に、在籍する高校の卒業が認められなくても、「飛び入学」者が進路変更をする際に不利益を被らないように何らかの保証が必要である。
・「飛び入学」以外の理由により中途退学する生徒もいる中で、大学が特定分野で優れた資質を認めたということだけで、「飛び入学」者に高校の校長が卒業を認定するのは難しい。等
◆ 「飛び入学」に関する制度上の実態
大学への「飛び入学」者の資質などに関しては、次のような制度的な実態等がある。
○「飛び入学」時点では、特定分野における優れた資質が確認できるが、当該分野以外の資質については確認できない/○「飛び入学」の要件として、高校に2年以上の在籍が必要であることから、通常の高校3年間の課程のうち、一定の単位は修得している状態で入学することになる。
また、高等教育を受ける機会を広く開く観点から、高校卒業者でなくても通信制大学において、「科目等履修生」などとして人文、社会、自然科学の3分野にわたって“16単位以上”の授業科目を履修した者は、当該大学の入学資格があると認めることが可能である。
◆ 高卒者と「同等以上の学力」の確認
中教審の今回の審議では、前述した高等学校教育部会の「論点整理」、関係者等に対するアンケート調査やヒアリング結果、及び上記のような制度上の実態などを踏まえ、「飛び入学」者の高校での学習(履修)状況に加えて、大学での一定期間の学修状況を基に、高卒者と「同等以上の学力」が備わったかを確認する“認定制度”を「飛び入学」制度是正の基本に据えた。
◆ 「高校50単位以上 + 大学16単位以上」修得 ⇒「高等学校卒業程度特別認定者」(仮称)
大学への「飛び入学」制度の具体的な是正措置としては、「高校での50単位以上の修得及び大学での16単位以上の修得と、それぞれ修得した単位の分野が著しく偏っていないこと」を確認することで、文部科学大臣が高卒者と「同等以上の学力」を有することについて「認定」する。
認定されると「高等学校卒業程度特別認定者」(仮称)の称号が得られる。(図4参照)
◆ 具体的な審査の流れ (図5参照)
● 大学入学後に「飛び入学」者本人が文部科学大臣に申請する。
● 審査委員会(高校、大学関係者を含む)を設け、次のような「審査基準」に基づき審査する。
【審査基準】
● 高校で“50単位以上”を修得していること(高校2年間で修得できる単位の目安)。
● 大学で“16単位以上”を修得していること。
● 取得した単位の分野が著しく偏っていないこと。
◎ 大学の授業科目の「単位」
ところで、大学における授業科目の単位数は、大学設置基準第21条の規定によって、各大学で定めるものとされている。その際、「1単位」の授業科目は、“授業前後の主体的な学び”を含めて「45時間の学修」を要する内容で構成することが標準とされている。
つまり、予習・復習(2時間)、及び授業(講義=1時間)を含めて「1単位」=「45時間の学修」ということになる。大学は、学生が主体的に授業についての「事前の準備」「授業の受講」「事後の展開」といった学修過程に一定時間取り組むことで「単位」を授与し、そうした学修経験を組織的、体系的に深めることで「学位」を授与する。
「飛び入学」者が「高等学校卒業程度特別認定者」(仮称)として認定されると、通常の高卒者と同等の法的地位、社会的評価が得られ、各種の資格試験の受験資格や大学の一般入学資格などが得られるとしている。
大学への「飛び入学」について、高校側の制度的な面からみると、特例として修業年限を短縮することや、卒業要件の修得単位数を減らすことにより、学校長の判断で卒業認定するといった「早期卒業」制度の特例措置も考えられる。
しかし、中教審の今回の提言では、学習指導要領に定められた教育課程を通じて、「生きる力」を育み、国家、社会の形成者として必要な資質を養う高校教育において、特に優れた資質を有して「飛び入学」したことをもって、「早期卒業」を認めることは適当でないとしている。当提言は、高校の「早期卒業」制度の創設ではなく、「飛び入学」制度の是正措置である。中教審の答申(26年12月予定)後、関係省令の改正、施行となろう。
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「科学オリンピック」の出場者等の高校生などへのアンケート調査(有効回答者は一部中学生含む63人。文科省:26年9月実施。以下、同)では、志望大学に「飛び入学」制度があれば「利用したい」が51%(32人)/「利用したくない」が49%(31人)と、「飛び入学」の利用希望はほぼ半々に分かれている。
アンケートに回答した高校生等は、「飛び入学」のメリットとして、早期に高度な学修や練習環境に触れられること/ある程度自由な学修・練習が可能になること/経済的負担が軽減されることなどを挙げている。その一方で、高校生活の体験不足/進路変更の際の学歴問題(高校中退)/大学で異年齢集団に馴染めるか、といった不安も訴えている。
26年度現在、「飛び入学」制度をもつ大学は、6大学(国立1校、公立1校、私立4校:表2参照)で、募集人員も少数に留まっている。
こうした中、京都大-医学部・医学科(以下、医(医)と略)では、28年度から実施される「特色入試」の一環として「飛び入学」制度が導入される。
医(医)の「飛び入学」を含めた「特色入試」の実施概要は、およそ次のとおりである。
まず、医(医)の「特色入試」の出願資格は高校又は中等教育学校を28年3月卒業見込み者(出願時高3生)のほか、国際科学オリンピック(数学、物理、化学、生物)日本代表で世界大会に出場した29年3月卒業見込み者(出願時高2生)を「飛び入学」の対象としている。
このほか、学校長の推薦要件(調査書の評定平均値=4.7以上、TOEFL-iBTスコア=83点以上など)/提出書類(調査書、推薦書、学びの設計書、TOEFL-iBT受験者成績表の原本、特色事項<各種コンクール、科学オリンピック等の資料:「飛び入学」対象者は提出必須>)/選抜方法(第1次選考=提出書類、第2次選考=小論文<160点>、面接<240点>の成績を総合判定)などは、高3生と「飛び入学」対象者(高2生)ともほぼ同様である。
また、「飛び入学」者を含めた「特色入試」の募集人員は5人である。各学校の推薦人員は1人であるが、「飛び入学」対象者は別枠で1人とされる。
東京芸術大-音楽学部は、音楽の優れた才能をもつ地方の小学生を対象に27年から音楽の「早期英才教育」に乗り出し、将来的には中学・高校生も対象に取り組みたいとしている。
また、28年度からは「飛び入学」制度の導入も検討しているという。
「飛び入学」制度の現状のような実施規模では、制度上の不備が是正されても、一気に「飛び入学」者が増えるとは考えにくい。
ただ、グローバル化やイノベーションの創出などに対応する人材育成のために、大学側で「飛び入学」制度の活用が拡大することは予測される。
加えて、上述したように京都大-医(医)や東京芸術大-音楽など、当該分野での影響力の大きな大学・学部で今後「飛び入学」制度が導入されていけば、大学入学者選抜の改革と相俟って、「飛び入学」制度が「入学者受け入れ方針」(アドミション・ポリシー)の一つとして、その位置付けを確固たるものとしていくことはあり得よう。
今後、「飛び入学」が高校や大学に浸透していくには、制度上の是正措置だけでなく、大学側の活用拡大に加え、稀有な才能を伸ばす高校生の意欲、“出る杭を伸ばす”ための「脱・画一教育」や選抜方法の「脱・公平性」を是とする社会の意識改革などが必要だ。