文科省は先ごろ、政府の教育再生実行会議が提言した『今後の学制等の在り方について』(『第5次提言』:26年7月)を踏まえ、小中一貫教育の制度化や高校「早期卒業」制度の創設、教員免許制度や課程認定制度の見直しなどを含めた教員養成・採用・研修の再構築、学校組織全体の総合力の強化策などを中教審に諮問した。
中教審は小中一貫教育の基本的な制度設計と教員免許制度の見直し等を並行して審議し、年内~来年早々に答申を提出する予定。文科省は26年の通常国会で関連法改正を目指す。
ここでは、『第5次提言』の概要、今回の中教審への諮問内容及び現在、中教審で検討、議論されている教員の養成・採用・研修の改善についての概要などについてまとめた。
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政府の教育再生実行会議(座長=鎌田薫・早稲田大総長。以下、実行会議)は26年7月初め、『今後の学制等の在り方について』(『第5次提言』)の答申をまとめ、安倍晋三首相に提出した。
『第5次提言』はまず、将来の人材育成について、少子・高齢化やグローバル化の進展の下、国が将来にわたって成長し発展を続け、一人一人の豊かな人生を実現していくためには、個人の可能性を最大限引き出すとともに、少子化を克服して、国力の源である人材の質と量を充実・確保していく必要があるとしている。
今回の答申は、こうした観点から、〇幼児教育に関する無償教育や義務教育期間の見直し、小中一貫教育の制度化、実践的な職業教育を行う高等教育機関の制度化、高等教育機関への編入学等の柔軟化など新しい学校制度の構築/〇教員免許制度の改革と教員養成等の見直し/〇教育を「未来への投資」として重視する施策といった3部構成でまとめられている。
それぞれの提言の主な内容は、次のとおりである。
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下村博文文科大臣は前述した政府・実行会議の『第5次提言』を踏まえ、26年7月末、1.子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について/2.これからの学校教育を担う教職員やチームとしての学校の在り方について、の2つの事項について中教審(会長=安西祐一郎・日本学術振興会理事長)に諮問した。
◆ 諮問1.子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について
諮問1.では、小中一貫教育を学校制度に位置づけ、9年間の教育課程の区切りを柔軟に設定できるようにすることと、それに伴う学校種を超えた教員免許状の創設などのほか、高校の早期卒業制度の創設、高校の専攻科や職業能力開発大学校、短期大学校等から大学への編入学等の進学についての審議を求めている。具体的な諮問内容は、次のとおりである。
◆ 諮問2.これからの学校教育を担う教職員やチームとしての学校の在り方について
諮問2.では、複雑化・多様化している学校の諸課題に対応していくために、教員の資質能力を一層向上させるべく教員養成・採用・研修の接続を重視した見直しとそのための再構築の方策、学校組織全体がひとつのチームとして総合力を発揮するための方策などについての検討、審議を求めている。具体的な諮問内容は、次のとおりである。
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中教審の初等中等教育分科会教員養成部会は今回の教員養成に係る諮問に先立つ26年3月、「教員の養成・採用・研修の改善に関するワーキンググループ」(以下、教員養成WG)を設置し、それぞれの専門的事項について検討、議論してきた。
教員養成WGは26年7月下旬、それまでの議論を『教員の養成・採用・研修の改善について ~論点整理~』(以下、『論点整理』)としてまとめ、教員養成部会に報告した。
この『論点整理』は、教員養成部会において今回の諮問に係る今後の審議に資することになるが、その概要を以下にまとめておく。
超少子高齢社会の進行、生産年齢人口の減少、グローバル化の進展による国際競争力の激化など、我が国を取り巻く環境は大きく変容している。
そうした社会の急激な変化の中で、子供たちが新たな時代と社会を生き抜いていくために、知識・技能を基に、自ら課題を発見し、他者と協働してその解決に取り組むことなどを身に付けるため、主体的・協働的な学びを実現する教育改革を一層進めていく必要があるとしている。
こうした教育改革を担う教員には、より高度な資質能力と改革に取り組む先進性・創造性が強く期待されている。
このため、〇改めて教員を“高度専門職”と位置づけ、「学び続ける教員像」の理念の確立とその実現を目指すこと/〇大学が教員養成を自らの社会的使命として再確認し、質保証に取り組む仕組みを構築すること/〇養成・採用・研修の各段階において、大学と教育委員会、学校等の緊密な連絡・協働の実現を目指すことが重要であるとしている。
1.教員養成課程の改善
◆ 教育課程の改善
〇 大学における「開放制」の教員養成
教員養成は戦前、師範学校や高等師範学校等の教員養成を目的とする専門の学校で行うことを基本としていた。
戦後の教員養成は、幅広い視野と高度の専門的知識・技能を兼ね備えた多様な人材育成を目的として、教員養成の教育は大学で行うこととする「大学における教員養成」の原則と、専ら教員養成を目的とする学位課程に限らず、国・公・私立大のいずれの学位課程においても教員免許状取得に必要な所要の単位・科目を開設して学生に履修させることができることとする「開放制の教員養成」の原則に基づいて行われている。
『論点整理』では、こうした大学での教員養成に係る教育課程の改善について、「学部・学科」段階と「大学院」段階に分け、次のような方向性を整理している。
【学部・学科段階】
〇 教員免許状の取得に必要な最低修得単位数は、現行の総単位数の増加を行わないことを前提とする。
例:現行の中学校普通免許状一種=67単位(4年制大学の要卒業単位数124単位の過半)
〇 教育課程の見直しにおいて、次のような点を考慮すべきであるとしている。
● 学校段階間の接続・円滑な移行への対応とともに、教科等横断的な視野で学習活動を展開する力を養成する履修内容の位置づけ。
● 子供たちが主体的・協働的に学ぶ授業を展開できる指導力などを養成する履修内容の位置づけ。
● 専門性と実践性に優れた教員を育成するため、「教科に関する科目」(教科専門)と「教職に関する科目」(各教科の指導法)を融合した履修内容(「教科内容構成に関する科目」の開設)の位置づけ。
● 特別支援教育に関する理論と指導法など。
【大学院段階】
● 教職生活全体を通じたキャリア形成と資質向上の取組の中に、教職大学院等、大学院段階の学びを明確に位置づけることが必要。
● 教育委員会と大学・大学院との連携・協働をさらに進めていくことが不可欠。
例えば、初任者、指導教諭、主幹教諭や管理職等といった教職の各段階で求められる資質能力を明らかにしたうえで、両者の連携・協働の下に大学院段階の教育課程について、より高度な実践的指導力や学校経営・管理力等を養成するものとなるよう検討していくことが重要。
● 大学院修了が基礎資格となっている専修免許状は、一種免許状の取得に必要な学部段階の履修を基礎に一定量の学びを深めることが求められている。
専修免許状に種別を設けることや、これとは別に「高度専門免許状(仮称)」(種類:学校経営・管理、高度学習指導、高度生徒指導・教育相談、幼小接続、小中接続、中高接続など)の設置も考えられ、教員免許制度の改善の在り方(後述)と併せ、大学院段階の教育課程を検討することが適当。
◆ 課程認定制度の改善
〇 約2万4,200課程に上る教員養成課程
教員養成課程は前述したような「開放制」の原則に基づき、大学の学位課程が開設時に文科大臣に申請した専任教員の人数や教育課程の内容等が基準を満たしていれば認定される。
現在、教員養成課程を設置する大学数は約1,000校で、教員養成課程を置く学位課程数は約8,000課程あり、一つの学位課程(学部など)に学科や専攻・コース別に教員養成課程を置くなど、全国の教員養成課程数は約2万4,200課程に上る。
〇 課程認定と評価の仕組み
教員養成課程の認定後は、中教審教員養成部会の課程認定委員会が年間30~50大学を実地視察し、助言や視察結果の公表を行っている。
しかし、実質的な質の確保・向上などは大学任せで、指導教員数の不足や長期にわたる卒業生の教員採用なしなどのほか、法令や認定の基準違反など不適切な管理・運営も見られるという。
こうした実態を踏まえ、教員養成課程の質保証について、“認定”のみでなく、成果や実績の“評価”を含む、次のような二つの仕組みを提起している。(表1参照)
【案1】 評価型認定(一定期間ごと)
「認定」に“有効期間”を付し、①法令等の基準を満たしていること/②一定の実状・実績があること、について審査を受け合格した場合に、“次期”の「認定」を受けられることにする。
【案2】 認定(1回限り) + 評価(一定期間ごと)
「認定」は現行どおり(1回限り)とし、別途、一定期間ごとに“第三者機関”による「評価」を受けることにする。
〇 教員養成課程の組織、設置の見直し
【統括組織の設置】
教員養成課程を置く大学が、全学的な責任体制の下で教員養成課程を統括し、教員養成の質を高める取組を主導的に行う組織として、「全学教員養成管理運営センター(仮称)」の設置を検討する必要があるとしている。
【教員養成課程の共同設置、大学単位の一括設置】
● 教育課程が適切に編成され、学生定員の管理や指導体制が的確である場合、複数の教員養成課程間で、授業科目の共通開設を広く認めることが適当である。
● この場合、複数の学位課程による教員養成課程の“共同設置”が可能になり、さらに、“大学単位”で一括して教員養成課程を設置することも考えられるという。
2.教員免許制度の改善
◆ 免許制度見直しの背景 (表2・表3参照)
〇 今回の『論点整理』では、教員には学校段階間の接続や円滑な移行に対応できる指導力、教科横断的な視野と知見を踏まえた指導力が求められており、教員養成課程の教育課程の見直し、教員免許状取得に必要な所要資格を改めることが必要であるとしている。
〇 現在、幼稚園・小学校・中学校・高校の普通免許状は学校種ごとに授与されている。
また、中学・高校の教員免許状は教科ごとに授与されるが、この学校種・教科種ごとの教員免許状を同時に複数取得しやすい方策を講じる必要性の有無について検討する必要があるとしている。
〇 さらに、経年的に複数の教員免許状を取得することを通じて、継続的・発展的に資質能力の拡大・高度化を図っていくことも重要であるとして、大学院レベルにおける教員免許状の在り方も含めて検討することが適当であるという。
◆ 教員免許制度改革のパターンの検討
『論点整理』では前記のような観点から、教員免許制度の改革について、次のような事項を整理し、新たな教員免許制度の創設を含めて考えられるパターンを提示している。
➀ 複数校種の教員免許状の取得
現行免許状を基本に“併有”を促進する考え方(案1:図1参照)/現行免許状と複数校種の免許状(新設)を“併存”させる考え方(案2)/複数校種の免許状の“新設”を基本とする考え方(案3)に基づき、3案を提示している。
➁ 同一学校種の複数教科の教員免許状の取得
上記➀のそれぞれの考え方に基づき、3案を提示している。
➂ 小学校において一つの教科の指導及び担任が可能な教員免許状
小学校の教科別免許状を“創設”する案(案1)/小・中学校において一つの教科の指導及び担任が可能な教員免許状を“創設”する案(案2)/小・中・高校において一つの教科の指導及び担任が可能な教員免許状を“創設”する案(案3)の3案を提示している。
➃ 二種・専修免許状及び高度専門免許状(仮称)の取得
現行の専修免許状と高度専門免許状(仮称)を“併存”させる考え方(案1)/校種に係る専修免許状に代え、高度専門免許状(仮称)を“基本”とする考え方(案2)に基づき、2案を提示している。
● 「高度専門免許状(仮称)」については、大学院段階の教員免許状として設けるほか、学部段階又は大学院段階において、複数の学校種の接続部分について特に履修したことを証明する、“付随型”の教員免許状として設けることを提示している。
〇 今後の具体的な検討に当たっては、都道府県教育委員会の免許事務や大学等の教員養成課程の実状、過去及び現行制度との円滑な接続及び重複要素の排除、法制上の実現可能性などを踏まえ、十分な検討が必要であるとしている。
〇 教員免許や教員養成等に関する制度は非常に複雑、難解であることから、教員免許状の取得を目指す者や関係者に負担や混乱を招くことのないよう、あまりに複雑なものにならないよう留意しながら導入、改善することが重要であるとしている。
3.採用と研修の改善
◆ 教職大学院等進学者・修了者を対象とした取組の促進
教職大学院等の教育機能や実態を勘案し、その進学者・修了者等を対象に、教員の採用選考において、教職大学院等の履修を評価した取組を促進。
例えば、教職大学院修了者を対象とした特別選考など。
◆ 教職大学院等を活用した研修の高度化の促進
〇 教職大学院等の履修成果を考慮し、法定の初任者研修の一部免除など、教職大学院等と初任段階の研修の相互関係を検討することが適当。
〇 教職大学院等と教育委員会等が共同で開発した研修プログラムに基づき教職大学院等が授業科目を開設し、教員を教職大学院等に派遣して教員の研修を実施。
例えば、初任段階の研修や、教職経験5~10年目以降における学校経営・管理に必要な研修等。また、これらの研修と教員免許制度(「高度専門免許状(仮称)」等の取得など)の接続も検討。
〇 教員が長期研修等に参加できるよう、定数措置による支援等の環境整備の検討も必要。
◆ 現職教員の新たな教員免許状の取得に向けた取組の促進
〇 現職教員が、資質能力の拡大・高度化を図った成果を社会に示し、教育の充実に役立てていくことができるよう、新たな教員免許状を取得しやすい環境を充実することが必要。
〇 教育委員会等が「免許法認定講習」(現職教員が大学の教職課程によらず上位又は他種類の教員免許状の取得に必要な単位を修得できるよう開設されている講習)の認定を受けて研修を実施することや、「免許状更新講習」を開設するなど、研修又は免許状更新講習と免許法認定講習との連動や関係機関間の連携を促進。
〇 任命権者(地方公務員である教員については各都道府県又は指定都市教育委員会)や雇用者は、教員の所有免許状の種類に応じ、新たな教員免許状の取得に向けた学びを積極的に奨励。
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昭和20(1945)年8月の終戦後間もない昭和22年4月から、小学校6年-中学校3年-高等学校3年-大学4年とする、「6-3-3-4」制が新しい学校制度としてスタートした。
新しい学校制度は、当時、アメリカで中等学校(ハイスクール)への進学拡大を図って広く取り入れられていた「6-3-3」制(州によって異なる)を参考に、小学校6年・中学校3年の9年間を“義務教育”にし、高等学校3年の教育課程にできるだけ多くの生徒を進めさせたいとして、極めて困窮していた財政状況の下で断行された。
この新制度は、平成11(1999)年に「中高一貫教育」制度(中等教育学校の創設、併設型の中学・高校及び連携型の中学・高校の設置)を導入したり、18年の教育基本法改正で義務教育の“期間規定9年”を将来の延長可能性を視野に削除したりしたものの、基本的な体制は変わっていない。
小・中学校の教育課程は戦後約70年にわたり、「6-3」制の下で児童生徒を育成してきた。
しかし、この間、社会環境や子供たちの状況は大きく変化している。子供たちの心身の発達の早期化、価値観などの変化は著しく、特に小学校から中学校への進学といった新しい環境に移行する段階では、いじめや不登校といった「中一ギャップ」などの課題が指摘されている。
こうした課題に対しては、研究開発学校制度や構造改革特別区域研究開発学校、教育課程特例校制度などの学校において、様々な小中一貫教育の取組が以前から行われてきた。これらの学校では、小・中学校の教育課程の区切りを「4-3-2」や「5-4」にしたり、小学校から教科担任制を導入したり、小・中一体型の校舎を設置したりして、教育課程の改善に役立てる実証的な研究、資料収集等を行っている。
これらの学校では、小中一貫教育、つまり「6-3」制の弾力化は「中一ギャップ」の解消に効果的であることや、学習意欲・学力向上にも一定の成果を上げていることなどを報告している。
中教審は26年8月末、今回諮問された小中一貫教育に係る事項(前記の諮問1.(1)参照)を審議する「小中一貫教育特別部会」を設置して検討、議論を開始した。
当部会では、〇小中一貫教育の目的/〇現状の小中一貫教育の取組の成果・課題の分析/〇小中一貫教育の制度設計の基本的方向性/〇小中一貫教育の推進方策などの事項について、小・中学校の学習指導要領の在り方も含めて審議する。
今回の小中一貫教育の基本的な方向としては、教育課程を全国一律に1本化に固定するのではなく、政府・実行会議が提言した「小中一貫教育学校(仮称)」の創設も含め、9年間の教育課程を一体的に捉え、「4-3-2」や「5-4」といった柔軟な区切りを可能とする多様で複線的な教育体制の検討、議論がなされるとみられる。
また、小中一貫教育制度に伴う教員免許状の在り方などについては、先述したように、中教審教員養成部会で教員養成WGの『論点整理』などを基に審議される。
本稿ではここまで、今回の諮問における小中一貫教育制度に係る事項を中心にまとめてきたが、諮問ではこのほか、高校の「早期卒業」制度や高校の専攻科等から大学への「編入学」制度の確立、さらに国際的な観点から、学制の異なる外国人留学生の大学・大学院への入学資格の在り方など、学校制度の柔軟な構築についての審議を求めている。
厳格な成績評価の下での高校の「早期卒業」制度や高校専攻科から大学への編入学の制度化については、中教審の初等中等教育分科会高等学校教育部会の『審議まとめ』(26年6月)で既に提言されており、今後は中教審大学分科会等において検討、審議されよう。
現行制度における高校の卒業に関する規定では、全日制課程の修業年限は3年、定時制・通信制課程の修業年限は3年以上とされ、卒業に必要な修得単位数74単位以上の修得者について学校長が卒業を認定する。そのため、大学への「飛び入学」は「中退」扱いとなり、平成10年度の制度導入以来26年度時点で6大学(国立1校、公立1校、私立4校)が実施しているが、この間の累積入学者数は111人(国立大が約7割)に留まっている。
また、高校では、例えば看護に関する専攻科が設置割合の約8割を占めているが、現行制度では、「高校3年(看護科)+専攻科2年」の看護師養成課程修了者(5年一貫教育:看護師国家試験の受験資格あり)は、大学への「編入学」が認められず、大学の1年生に入学することになる。
今回の学校制度の改革論議は、教育課程の質保証を前提に、小学校-中学校-高等学校-大学のそれぞれの教育システムの連携、接続、あるいは学校間のトランスファー(編入学等)をより柔軟にして、フレキシブルな学校制度を法的に確立させることがポイントになる。