政府の「教育再生実行会議」(座長=鎌田薫・早稲田大総長:以下、実行会議)は25年6月6日、大学入試改革や高大接続の在り方などについての検討、議論を開始した。
安倍晋三首相は会議の冒頭、「大学入試は大学教育と初等中等教育の双方に与える影響が大きく、国民の関心も高い。入試に過度にエネルギーを集中せざるを得ないことが、教育の問題点でもある。これからの時代に求められる力の育成のために、幅広い観点から議論してほしい」と述べた。同会議は今年9月を目途に議論を取りまとめ、安倍首相に提言する。
ここでは、「実行会議」の今回のテーマである大学入試改革や高大接続の在り方に関する自民党「教育再生実行本部」の提言、中央教育審議会(以下、中教審)でのこれらに関する現在の審議状況、及び「実行会議」が5月末に提言した大学教育等の在り方などを整理した。
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自民党は昨秋「教育再生実行本部」(以下、実行本部)を発足させ、24年11月に教育再生の『中間取りまとめ』を提示した。
そして、自民党が政権与党に復帰すると、安倍晋三首相は内閣の最重要課題の一つに位置づけている教育再生を議論・実行していくため25年1月、首相官邸(内閣府)に「教育再生実行会議」(以下、実行会議)を設置した。同会議では、自民党「実行本部」の『中間取りまとめ』でも掲げていた、①いじめ問題への対応/②教育委員会の見直し/③大学の在り方の見直し/④グローバル化に対応した教育/⑤6・3・3・4制の在り方/⑥大学入試の在り方などを検討・議論し、安倍首相に提言する。
「実行会議」ではこれまで、『いじめの問題等への対応について』 (『第1次提言』:25年2月)/『教育委員会制度等の在り方について』
(『第2次提言』:25年4月)/『これからの大学教育等の在り方について』 (『第3次提言』:25年5月。後述)の3本を安倍首相に提言している。
「実行会議」では、当面の検討課題である上掲の6つのテーマのうち、①~④のテーマについては上記のとおり、既に『第1次提言』~『第3次提言』として取りまとめている。
そして、「実行会議」では第9回会合(6月6日)から、検討課題⑥の大学入試や高大接続の在り方などを中心に議論し、9月を目途に提言を取りまとめる。
自民党「実行本部」では、前述した『中間取りまとめ』を昨秋策定した後、25年1月から、①平成の学制大改革/②大学・入試の抜本改革/③新人材確保法の制定/④学力向上の4つを検討課題として挙げ、検討・議論を進めている。
このうち、「学力向上」については、“成長戦略”に資する世界で活躍できる人材育成が急務であるとし、特に英語教育、理数教育、ICT教育を中心とした『成長戦略に資するグローバル人材育成部会提言』(『第1次提言』:25年4月)を先行して取りまとめている。この提言は、前述した政府「実行会議」の『第3次提言』の背景にもなっている(後述)。
他方、「学力向上」以外の3つの課題である、「平成の学制大改革」「大学・入試の抜本改革」「新人材確保法の制定」については、『第2次提言』(25年5月)として取りまとめて安倍首相に提出している。
ところで、政府「実行会議」の今回の検討テーマである大学入試改革や高大接続の在り方などに関連する事項については、自民党「実行本部」の『第2次提言』を睨みながらの検討、議論が予測される。
そこで、自民党『第2次提言』から、大学入試改革や高大接続の在り方などに関連する事項を以下にまとめた。
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◆ 大学進学の拡大と進学率50%超の“ユニバーサル”化
昭和30(1955)年代~昭和40年代にかけての高度経済成長を背景に、急増する大学(学部。以下、同)進学志望者の受け皿として私立大を中心に大学は急激に拡大していった。
その結果、大学進学率(既卒者含む:大学<学部>入学者÷18歳人口<3年前の中卒者及び中等教育学校前期課程修了者>)は、昭和44(1969)年の15.4%以降(昭和39年に一時的に15.5%)、それまでの高等教育の発達段階における“エリート型”(進学率15%まで)から“マス型”(同15%~50%)に移り(大学・短大では昭和38年に15.4%)、更に、昭和47年に20%台、平成6(1994)年に30%台、14年に40%台と上昇を続けて、21年には50.2%で最終段階の“ユニバーサル・アクセス型”(進学率50%以上)に達した(大学・短大では17年に51.5%)。24年は50.8%(大学・短大では56.2%)となっている。(図1参照)
◆ 大学の「収容力」:20年前の1.5倍、91%の“全入”状態
近年の18歳(大学進学適齢期)人口の推移をたどると、平成4(1992)年の204.9万人(第2次ベビーブーマー)を直近のピークとし、途中一時的な微増(13年、22年)がみられるものの、ほぼ“右肩下がり”で減少している。
高卒者数や大学受験生数(実数)もこうした減少傾向にほぼ沿った形で減少してきた。
24年の18歳人口は119.1万人、高卒者数は105.6万人で、ともに4年の6割弱である。また、大学受験生数は66.4万人で4年(92.0万人)の7割強まで減少している。
このような18歳人口・受験生数の減少傾向に対し、受験生の受け皿となる大学入学定員(国公私立大)は、4年の47.2万人から24年の58.1万人(4年の1.2倍)へと“右肩上がり”の増加をたどっている。
その結果、大学の「収容力」(入学者数<外国の学校卒等含む全ての入学者> ÷ 志願者数<志願した受験生数:実数>)は、4年の約59%から24年の約91%(4年の1.5倍)へと、所謂“全入”状態を呈している。(図1参照)
文科省は、大学の“量的規制の撤廃”及び“設置認可の弾力化”に関する中教審答申(平成14<2002>年8月)等を受け、15年には大学・学部等の設置に関する抑制方針を基本的に撤廃。そして、昭和51(1976)年度~平成16年度まで行われていた「高等教育計画」による各種規定、つまり大学等新増設の原則、“抑制方針”は“撤回”された。高等教育の量的規模と質に関する政策は、ユニバーサル段階における大学の緩やかな機能的分化と大学教育の質保証に向けた政策誘導へと転換されていった。
私立大は、そうした政策の中で、看護・医療系を主体とする人材養成や地域の高等教育需要などへの対応から、大学・学部の新増設や短大から大学への改組・転換(短大=縮減、大学=拡大)といった“スクラップ&ビルド”による量的拡大を図ってきた。
その一方で、私立大の「入学定員割れ」問題が深刻な状況にある。24年度は577校中、264校(45.8%)が入学定員割れである。特に小中規模校で目立ち、24年度は「入学定員800人未満」が“入学定員割れ状態”に陥っている。また、地域別では、「大都市圏」でほぼ入学定員を充たしているのに対し、「地方」は一部を除き、“未充足”地域である。
大学進学率の上昇とともに、学力試験偏重の入学者選抜の見直しや、選抜方法の多様化と評価尺度の多元化といった中教審の提言(9年6月)等を追い風に、特に私立大を中心に推薦入試やAO入試が急激に増大していった。私立大「推薦・AO入試」急増の背景には、“早期の学生確保”のほか、「一般入試」枠を縮小(学力選抜の狭き門)することで、一般入試の“合格難易度を高める”狙いもあったようだ。
推薦入試による最近の入学者状況をみると、私立大ではやや減少傾向にあるものの24年度で40.3%、国立大はほぼ横ばいの12.4%、公立大はやや増加傾向の24.0%である。私立大では、AO入試の入学者割合10.2%(24年度)と合わせると、新入生の“2人に1人”は「推薦・AO入試」による入学者である。
ところで、推薦・AO入試が問題視されるのは、「定員確保のための利用」や「実施時期の早期化」のほか、「外形的・客観的な基準が乏しく、事実上の“学力不問”となるなど、本来の趣旨と異なった運用がされているのではないか」(中教審答申『学士課程教育の構築に向けて』:20年12月)といった懸念が指摘されている。文科省ではこうした問題に対し、毎年、国公私立の各大学に通知する『大学入学者選抜実施要項』において、推薦・AO入試の実施時期や募集人員割合(AO入試割合を除く)に一定の規定を設けたり、基礎学力の把握措置を具体的に例示したりして、推薦・AO入試の改善施策を講じている。(図2参照)
高校では、生徒の多様な興味・関心や進路等に応じ、「普通科」「専門学科」及び「総合学科」の各学科や全日制・定時制・通信制の各課程が設けられ、多様な教育内容を様々な方法で学ぶことができるようになっている。
他方、中学から高校への進学率が98.3%(24年度)に達し、高校はまさに“義務教育化”した国民的な後期中等教育機関といえる。そのため、生徒の興味・関心、能力・適性、進路等が極めて多様化しており、学力面でも高い学力をもつ者から、小・中学校段階の学習を十分習得していない者まで、学力格差も極めて大きい。
24年の「現役志願率」(現役の大学受験生数<実数>÷高校等卒業見込者)は55.0%で、高校生の2人に1人は大学受験を志望し、出願している。
そして、大学志願者(既卒者含む)の9割以上(24年の「収容力」91.1%)が入学を果たす、所謂「大学全入時代」となっている。
その一方で、前述したように私立大の約46%が「入学定員割れ」状態で、原則、学力検査免除の「推薦・AO入試」(学力把握措置を促進)の入学者も“2人に1人”に達している。「一般入試」も含め、選抜性の高い有力大学・学部を除き、大学入試の選抜機能は低下し、大学入試は“広き門”となっている。
こうした受験環境の緩和は、高校生の概して学力中間層(ボリュームゾーン)に学習意欲の低下や学習時間の減少をもたらしている。
高校教育及び高校生の多様化の進展に加え、大学入試の多様化と評価尺度の多元化、全体的な選抜機能の低下傾向は、学習指導要領に裏打ちされた“高校生としての基礎学力”の習得を安易にさせ、大学進学志望者の“専門教育に必要な基礎学力”の担保を危うくしている。
こうした状況の下、中教審は23年11月、初等中等教育分科会に「高等学校教育部会」を設置し、高校教育の在り方について審議を行っている。
高等学校教育部会では24年8月に『課題の整理と検討の視点』、25年1月に『審議の経過について』(以下、『審議経過』)を取りまとめた。
『審議経過』では、高校教育施策の方向性として、“全ての生徒”に共通に最低限身に付けさせるべきもの=「コア」=についての検討、生徒の習得すべき内容の明確化、及び「高等学校学習到達度テスト(仮称)」(後述)などの検討を挙げ、高校教育の質保証の仕組みの構築を求めている。
◆ 「コア」 の範囲と評価
「コア」の範囲やその要素を含む様々な資質・能力の中には、例えば知識の量を筆記試験や技能試験等で客観的に比較的容易に把握しやすいものと、難しいものとが混在している。
「コア」の評価に当たっては、様々な資質・能力について、それぞれの性質に応じた適切な方法による把握を行い、客観的な評価の充実を図っていく必要があるとしている。
◆ 「高等学校学習到達度テスト(仮称)」 の構想
~ 基礎的・基本的な知識・技能と思考力・判断力・表現力等の評価 ~
『審議経過』で挙げている「高等学校学習到達度テスト(仮称)」は、高校生として共通に求められる基礎的・基本的な知識・技能や思考力・表現力・判断力等の学習到達度を把握する希望参加型の共通テストを構想している。
18歳人口の約51%(既卒者含む大学進学率:24年度)、高校等卒業見込者の約48%(大学への現役進学率:24年度)が大学に進学する「ユニバーサル・アクセス」型の大学進学状況にあって、円滑な「高大接続」は、高校教育と大学教育の質保証の観点において重要なテーマである。
とりわけ、高校教育に多大な影響を及ぼしている大学入試の在り方については、双方の質保証・向上に向けた喫緊の課題である。
◆ 中教審:「高大接続特別部会」の設置と審議
文科省は24年6月、『大学改革実行プラン』を策定し、その中で大学入試の改革の観点として、「高校教育から一貫した質保証へ」と「教科の知識偏重入試から、意欲・能力・適性等の多面的・総合的な評価へ」といった2つの基本方針を掲げた。
文科省はこうした大学改革プランや最近の高校教育と大学教育の接続に係る質保証の問題などを踏まえ、24年8月、中教審に「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」を諮問した。
諮問では、例えば次のような点に留意した審議を求めている。
中教審では諮問を受けて「高大接続特別部会」を設置し、①高校から大学までを通じて育成すべき力と育成するための方策/②大学入学者選抜の在り方/③高校教育と大学教育の接続・連携の在り方、といった3つを主な視点として審議している。
25年5月までの審議では、主に次のような意見が出されている。(「高大接続特別部会」第7回<25年5月24日>配付資料より)
1. 高等学校から大学までを通じて育成すべき力
・知識にとどまらない汎用的能力の育成が必要。
・大学教育における、社会で求められる能力の育成の前提として、大学入試では汎用的能力を測定することが必要。
2.高校教育、大学入試、大学教育それぞれの関係と役割分担
・これまで大学入試が高校生の学習意欲の喚起、幅広い学びの確保、学力の状況の把握の機能を多く担っていたが、これらの機能は高校教育がしっかり担っていくことが必要。
・高等学校における学習到達度や大学教育に必要な能力・適性の判定等、入試が担うべき機能について整理することが必要。
・高校教育との円滑な接続のため、入試では、高校教育の成果の確認と、大学教育に必要な能力・適性等の判定の2つの視点のバランスをとることが必要。
・高校教育の質保証の取組によって高校段階で教科の到達度を評価した上で、入試では活用力や意欲を重視することが必要。
・大学が多様化し機能別分化が求められる中で、大学入試の在り方についても、機能や類型に応じた検討が必要。
・入試には各大学が置かれている状況に応じ、従来の選抜機能のほか、教育・学習支援機能が求められている。
・高等学校における学習の早期分化の是正の観点から、募集単位の大くくり化を進めることが必要。
3.高校教育の質保証
・高校段階の学力状況の客観的な把握の仕組みの検討を含め、高校教育の質保証の取組の充実が必要。
・「高等学校学習到達度テスト(仮称)」は、就職試験やAO・推薦入試等に活用される仕組みとすることが必要。
4.センター試験の改善
・細分化した出題教科・科目の精選をはじめ、出題教科・科目の在り方の検討が必要。
・活用力を問う問題の充実、グレード別の成績提供、複数回実施、実施時期の見直しの指摘。
・センター試験の見直しに当たっては、高校教育への影響に留意することが必要。
5.個別入試の改善
(1) 総合力を見る入試への転換(入学志願者の多様な能力・適性等の評価の推進)
・諸外国のように、共通試験の活用により、各大学の個別試験では意欲や体験等を評価するとともに、個別学力試験に係る労力を大学教育の改善に注ぐことが必要。
・思考力や表現力、学習意欲等を丁寧に評価するためにも、入試方法の多様化、評価尺度の多元化の推進は引き続き必要。
・より丁寧な入試を行うためには、各大学の入試実施体制の整備や業務の効率化のための仕組み等が必要。
・入試に求められる絶対的な公平性・公正性の在り方について見直しが必要。
・多様な能力・適性等を多面的にきめ細かく評価する観点から、外部試験等の活用が必要。
・体験活動やボランティア活動等も含めた受験生の様々な学習活動歴の評価が必要。
・グローバル人材育成の観点からTOEFL等の活用が必要。
・外部試験等の活用に当たっては、アドミッション・ポリシーとの整合性が必要。
(2) AO・推薦入試の改善
・AO・推薦入試については多様化が進展しており、ある程度の類型ごとの対策が必要。
・大学教育への円滑な接続の観点から、AO・推薦入試における基礎的な学力把握の取組の充実が必要。
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政府の「実行会議」が大学入試改革の議論を始めた25年6月初め、大学入試に活用する“到達度テスト”の創設やセンター試験の縮小・廃止も含めた見直しなどが新聞等で報じられ、高校・大学などの教育現場はじめ、社会的にも話題になった。
ともあれ、到達度テストとセンター試験については、「実行会議」における大学入試改革の議論の的になることから、それらの概要等を整理しておく。(注.以下の提言等の文中において文言に付されている“ ”、太字、下線は当方で付記)
◆ 『第2期基本計画』 での位置づけ
到達度テストは、先に閣議決定された『第2期教育振興基本計画』(以下、『第2期基本計画』)の4つのビジョン(基本的方向性)のひとつ、「社会を生き抜く力の養成」のミッション(成果目標)として、次のような形で盛り込まれている。
【 社会を生き抜く力の養成 】
① 生きる力の確実な育成(幼稚園~高校) ⇒ ・高校段階での“到達度テスト導入”など高校教育の改善・充実、など。
② 課題探求能力の修得(大学~) ⇒ ・点からプロセスによる質保証を重視した高大接続(高校段階での“到達度テストの活用”を含め、志願者の意欲・能力・適性等の多面的・総合的な評価に基づく入試への転換)など。
上記①は“高校教育の改善・充実”のための「到達度テスト」導入であり、②は“多面的・総合的な評価に基づく大学入試”への「到達度テスト」活用を示している。
◆ 自民党「実行本部」の『第2次提言』での提言
前掲した自民党「実行本部」の『第2次提言』では、大学入試の抜本改革の一環として「高校在学中に複数回挑戦できる“達成度テストの創設”」を提言している。
また、個人の能力・適性に応じた学びの保証システムの実現に、“達成度テストの導入”を挙げている。
◆ 中教審「高等学校教育部会」の『審議経過』における位置づけ
中教審「高等学校教育部会」の『審議経過』では前述したように、“高等学校学習到達度テスト(仮称)”は、基礎的・基本的な知識・技能や思考力・表現力・判断力等の学習到達度を把握するための希望参加型の共通テストであるとしている。
そして、テストの成績が、就職やAO・推薦入試など対外的な場面で自身の学力を証明することになれば、生徒の学習意欲を一層喚起することにもなるという。
◆ “三者三様” の 「到達度テスト」 構想
上述した所謂「到達度テスト」構想をみると三者三様であるが、特に自民党の『第2次提言』における達成度テストは大学入試、つまり「高大接続」のツールとしての活用が強く滲み出ているといえる。
一方、中教審高等学校教育部会の『審議経過』の到達度テスト構想は、就職や進学等も含めた高校生に対する「高校教育の質保証」のツールといえる。
なお、『第2期基本計画』は、政府が策定する25年度~29年度の教育の振興に関する総合計画であり、今後5年間にわたる国の教育施策の基本的方向を示すもので、25年6月14日に閣議決定されている。
◆ 大学・短大受験生の77%、高校等卒業見込者の42%がセンター試験出願
センター試験は18歳人口や高卒者数が増加傾向にあって大学受験生数が直近のピークを迎えた平成4(1992)年の直前、平成2年に開始されてから今年で23年、前身の共通1次試験から34年になる。
国公立大のみに利用されていた共通1次試験から、私立大の参加(16年からは短大も参加)と利用教科・科目の自由化(アラカルト方式)へと衣替えしたセンター試験は、私立大の利用大学・学部を飛躍的に伸ばし、センター試験は全ての国公立大及び私立大の9割以上(大学数ベース)で利用されている。
こうした状況の下、25年センター試験には高校等卒業見込者の42.1%である約46万人を含め、大学・短大受験生(既卒者含む旺文社推計:約74万人)の約77%に当たる約57万3,000人が出願し、約54万3,000人が受験している。
センター試験は、その平均点のアップ・ダウンが大学志願者動向に大きく影響し、私立大受験も含め、大学受験には不可欠な試験として定着している。(図3・図4参照)
◆ 「目的」 と 「機能」
センター試験は、“大学進学志願者”の高等学校段階における基礎的な学習の達成度を判定することを主たる目的として大学が共同して実施する試験である。
つまり、“全ての高校生”を対象に、高等学校等が行う基礎的な学習の達成度をみる試験ではない。そのため、センター試験の出題教科・科目は学習指導要領の必修教科・科目に準拠し、現行では6教科・29科目(英語は筆記、リスニング出題)の多岐にわたる。また、主要科目の出題レベル(難易度)は、“平均点6割程度”を基本方針としているようだ。
センター試験は上記のような「目的」(目標準拠型の“達成度テスト”=絶対評価)と、センター試験を利用する大学に対し「当該大学入学者を選抜するための基礎資料を提供する」という「機能」(集団準拠型の“選抜テスト”=相対評価)といった“二面性”をもっている。そして、センター試験の成績によって合否判定を行う私立大のセンター試験利用入試の拡大などによって、センター試験の“選抜テスト”としての機能が高まっている。
◆ “単一の共通問題” 、 “マークシート方式” に限界
センター試験導入から20数年経ち、この間、受験環境はもとより、社会状況も大きく様変わりしている。センター試験にもこれまで様々な改善等がなされてきたが、“単一の共通問題”による同一問題・同一期日の一律実施試験であることは変わらない。
高校教育の多様化と細分化された履修教科・科目、多様化する大学の利用目的と受験者層の拡大などに、単一の共通問題であるセンター試験がどこまで対応できるのか。既に限界に達しているといえる。
また、センター試験はマークシート方式のため“受験者独自の発想”による解法は評価されず、「予測困難な事象に主体的に取り組んで活路を切り拓く力」(クリティカルシンキング)などを測る試験とは言いがたい。
安倍首相が内閣の最重要課題のひとつとして教育再生を掲げていることを受け、教育改革提言が、この半年余りの間に自民党「実行本部」と政府「実行会議」からそれぞれ教育再生の“矢”として文字通り“矢継ぎ早”に放たれている。
放たれた“矢”、つまり“提言”が今後、どういう形で教育政策として実行されていくのかが注目される。
昭和54(1979)年から実施された共通1次試験は当初、大学入試(個別試験)のそれまでの難問・奇問を排し、良質な出題の確保などの点で評価を得た。
しかし、一律に課された受験教科・科目などから、大学(学部)の序列化が顕在化して輪切りの進路指導が行われたこと、共通1次試験の利用が国公立大のみに留まっていたことなどが問題視された。
そうした状況の中、当時の総理大臣(中曽根康弘・元首相)の私的諮問機関である臨時教育審議会(昭和59年8月設置。以下、臨教審)は、共通1次試験の問題点を改善すべく、“国公私立大”を通じて各大学が自由に利用できる「共通テスト」の創設などを盛り込んだ『第1次答申』(昭和60年6月)を提言した。この「共通テスト」(文部省は当初、「新テスト」と仮称)提言は、当時の文部省が設置した大学入試改革協議会(国公私立大、高校関係者等で構成)で検討・議論され、共通1次試験を衣替えする形でセンター試験へと引き継がれたのである。
こうした「臨教審(政府)提言 → 文部省 → 大学入試改革協議会 → 共通1次試験見直し → センター試験」の過去の経緯をたどると、今回は「政府『実行会議』提言 → 文科省 → (大学入試改革検討協議会(仮称)などが想定される?)/中教審 → センター試験見直し → 到達度試験」といった流れを髣髴させる。
ただ、臨教審答申は、当時の文部省における各審議会等で検討されていた教育改革の意見等を集約し、文部省に限らず政府各府省に関する事項も含め、第三者的な立場から審議し、提言したものであるといわれる。
文部科学大臣であり教育再生担当大臣でもある下村博文大臣は、自身が両方の担当大臣でもあることから、教育改革については政府「実行会議」と中教審のそれぞれの役割分担の中で議論し、屋上屋を重ねるような議論は避け、スピード感のある審議を進めていきたいとしている。そして、「実行会議」でそれぞれのテーマ(検討課題)における目指すべき方向性についての論点を議論し、法改正につながるような部分については中教審(諮問 → 答申)において「実行会議」の提言にのっとってさらに深堀して議論することになるという。
いずれにしろ、『第4次提言』に向けた政府「実行会議」の議論では、まず、前述したような三者三様の“到達度テスト”構想をどのように捉え、センター試験の見直しなどとともに大学入試改革や高大接続の在り方の基本的方向性をどう提言するのかが注目される。
大学入試改革にとって、センター試験の抜本的な見直しは不可欠であろう。ただ、センター試験は共通1次試験時代も含め30数年の長期にわたって続けられ、定着しており、受験生の基礎学力を一面的とはいえ、下支えしてきた。それだけに、全面的な見直しとなれば、大学進学志望者はもとより、高校や大学など教育現場に多大な影響を与える。
到達度試験の導入やセンター試験の見直しは、教育現場への影響も視野に、高校教育と大学教育の一連の質保証と連動した入試改革の中で幅広い、慎重な議論が求められる。
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ところで、政府の「実行会議」は25年5月28日、自民党の「実行本部」が25年4月に安倍首相に提出したグローバル化人材育成等の提言(自民党「実行本部」の『第1次提言』)等を踏まえ、グローバル化に対応した教育の在り方や大学改革等について、『これからの大学教育等の在り方について』(政府「実行会議」の『第3次提言』)を安倍首相に提言した。
当提言ではまず、大学の機能強化の取組について、国家戦略として中長期的展望に立ち、日本人としてのアイデンティティと幅広い教養を持つグローバルな人材の育成が重要であるとしている。
そのうえで、初等中等教育から高等教育までの一貫した取組、文理共通したリベラルアーツの充実、日本文化についての深い理解が必要であるとし、政府においては平成29年までの5年間を「大学改革実行集中期間」と位置付け、速やかに具体的な政策立案に向けた検討を求めている。なお、当提言は政府の『日本再興戦略』(成長戦略)に反映され、25年6月14日に閣議決定されている。『第3次提言』の概要(一部抜粋)は、次のとおりである。
上掲の『第3次提言』を見ると、大学では、・英語による授業比率の向上/・国際化を断行する「スーパーグローバル大学」(仮称)の重点支援/・今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上をランクイン/・大学入試や卒業認定におけるTOEFL等の外部検定試験の活用などの施策が並ぶ。
さらに、初等中等教育段階では、・小学校英語の抜本的拡充(実施学年の早期化、教科化等)/・中学校における英語による英語授業/・グローバル・リーダー育成の「グローバルハイスクール」(仮称)の指定など、グローバル化対策の早期化が目立つ。
また、全ての学生の文理系双方の基礎知識の習得や「理工系人材育成戦略」(仮称)の策定など、イノベーション創出のための初等中等教育段階から大学までの理数教育の強化などが盛られている。