大学入試センターは23年4月、高校の数学・理科が24年度から学年進行で新学習指導要領に移行するのに伴って27年センター試験で先行実施される新課程「数学・理科」の出題科目等を決定、公表した。
また、各大学の27年入試についても、新課程「数学・理科」のセンター試験科目、及び個別試験科目等が東京大や京都大など、一部の大学で公表されはじめた。
特に新課程「理科」は科目の再編や単位数の変更等で大幅改訂となり、センター試験も出題科目と科目選択のパターン化や弾力化が図られているが、時間割等の実施方法は未定だ。
ここでは、センター試験と個別試験の関連も含め、新課程「理科」の入試の行方を探った。
* * *
まず、既に決定、公表されている新課程センター試験「理科」の出題科目や科目選択の方法等について、改めて以下に整理した。
新課程「理科」の出題科目は、下記の枠内に記した8科目である。
・「物理基礎」/「化学基礎」/「生物基礎」/「地学基礎」:各科目において、それぞれの構成内容の全てが出題範囲となる。
・「物理」/「化学」/「生物」/「地学」:各科目において、それぞれの構成内容の全てが出題範囲となる。ただし、出題方法については、受験者の大幅な負担増とならないよう、“選択問題”の配置などを検討。
センター試験の参加大学が定める出題科目の利用方法は、次のA~Dの4パターンである。
【A】:「物理基礎」/「化学基礎」/「生物基礎」/「地学基礎」の4科目から2科目又は1科目を選択解答。(2科目選択=4単位相当/1科目選択=2単位相当)
【B】:「物理」/「化学」/「生物」/「地学」の4科目から1科目を選択解答。(1科目選択=4単位相当)
【C】:「物理基礎」/「化学基礎」/「生物基礎」/「地学基礎」の4科目から2科目又は1科目並びに「物理」/「化学」/「生物」/「地学」の4科目から1科目を選択解答。(3科目選択=8単位相当/2科目選択=6単位相当)
【D】:「物理」/「化学」/「生物」/「地学」の4科目から2科目を選択解答。(2科目選択=8単位相当)
注.同一名称を含む科目同士の受験については制限せず、同一名称を含む科目同士の受験を可能とする。“同一名称を含む科目の組合せ”は、「物理基礎」と「物理」/「化学基礎」と「化学」/「生物基礎」と「生物」/「地学基礎」と「地学」。
新課程センター試験「数学・理科」の時間割・配点等は、現行との継続性を勘案して定めるとされ、現段階では決まっていない。
また、「理科」の試験時間・配点は、「基礎を付していない科目」(以下、「発展科目」)は「基礎を付した科目」(以下、「基礎科目」)の2倍となることを想定しているとしている。
こうした状況を踏まえ、上述の「理科」4パターンの科目選択におけるそれぞれの「試験枠」を想定してみた。(図1参照)
本稿では、現行のセンター試験実施方法や「基礎科目」と「発展科目」との試験時間の比率(「発展科目」は「基礎科目」の2倍)などを踏まえて、試験時間を「基礎科目」30分(50点満点)、「発展科目」60分(100点満点)と仮定し、受験組(問題冊子の配付分け)を“「基礎科目」組”と“「発展科目」組”に分け、それぞれ物理・化学・生物・地学の4科目を1括り(「基礎科目」1科目受験=30分、同2科目受験=第1解答+第2解答<60分+答案回収・解答用紙配付>/「発展科目」1科目受験=60分、同2科目受験=第1解答+第2解答<120分+答案回収・解答用紙配付>)として想定した。
ただ、新課程「理科」の試験実施で課題として挙げられるのは、「基礎科目」の試験時間と実施方法である。想定した“30分・細切れ”実施は、現実的には難しいとみられる。この点については、国立大学協会(以下、国大協)がセンター試験「理科」出題科目の選択方法についての「ガイドライン」(後述)で施策(図1の国大協バージョン)を提示している。
ところで、想定した「試験枠」をA~Dの4パターンに当てはめると、6通りのパターン別「試験枠」になる。そして、大学側における実際の利用方法(科目選択の指定等)は、「基礎科目」と「発展科目」との同一名称を含む科目同士の受験の可否などの付帯事項によって、さらに多様化しよう。(図1参照)
新学習指導要領(以下、新指導要領)では、理科の科目編成は次のようになっている。
「科学と人間生活」(標準単位数:2単位)/「物理基礎」(同:2単位)/「化学基礎」(同:2単位)/「生物基礎」(同:2単位)/「地学基礎」(同:2単位)/「物理」(同:4単位)/「化学」(同:4単位)/「生物」(同:4単位)/「地学」(同:4単位)/「理科課題研究」(同:1単位)の10科目。
履修方法は、前記10科目のうち、「科学と人間生活」/「物理基礎」/「化学基礎」/「生物基礎」/「地学基礎」から2科目(うち1科目は「科学と人間生活」を含む)、又は「物理基礎」/「化学基礎」/「生物基礎」/「地学基礎」から3科目を選択して“必履修”する。(図2参照)
さらに、物理、化学、生物、地学の「基礎科目」を履修した後に、それぞれの領域(物理、化学、生物、地学の4領域)に対応する「発展科目」(「物理」/「化学」/「生物」/「地学」)を履修する。「理科課題研究」は、「基礎科目」を1科目以上履修した後に履修する。(図2参照)
全日制・普通科で多くの生徒が国公立大を含めた大学進学を目指す高校における新課程「理科」の履修モデルカリキュラムを想定してみた。3年間を通じ、文系で10単位、理系で17単位程となり、いずれも現行の単位数より増えそうだ。(図3参照)
センター試験の前身である共通1次試験時代(昭和54<1979>年~平成元(1989)年)も含め、「理科」の出題科目についてはこれまで学習指導要領上、“必履修科目”と“選択必履修科目”から出題されてきた経緯がある。今回も選択必履修科目である「物理基礎」/「化学基礎」/「生物基礎」/「地学基礎」の出題は当然といえる。ただ、選択必履修科目の「科学と人間生活」は、観察・実験等を通して科学的な見方・考え方を養い、科学への興味・関心を高めることを目標としている。そのため、当科目を出題した場合、科目本来の設定趣旨を歪め、高校の教育内容に多大な影響を及ぼしかねないことなどから、出題しないとしている。
また、「基礎科目」のみでは、日常生活や社会との関連を重視した、定性的な扱いの多い“2単位”科目だけの出題となり、“理数教育の充実”を謳った新課程の趣旨にそぐわない。
そこで、より広範な理科の素養を求める大学(学部)側の求めにも対応すべく、「基礎科目」に比べ、定量的な扱いの多い“4単位”の「発展科目」も出題することにしたとみられる。
新課程センター試験「理科」で注目されるのは、出題科目の大学(学部)側の利用方法に、前述のような“4パターン”の選択方式を採り入れたことである。
“パターン別”利用を導入した背景には、物理・化学・生物・地学の4領域中、3領域以上履修を基本理念とする新課程のカリキュラム編成や、「基礎科目」と「発展科目」の履修内容等を踏まえ、それら新課程「理科」の改訂趣旨を活かしつつ、センター試験利用大学(学部)における広範な科目選択に応える狙いがあったとみられる。
ところで、22年12月に公表された「理科」出題科目等の“方針案”では、パターン別の「選択科目」と「選択科目数」が“セット”になっており、選択科目数は固定されていた。
また、同一名称を含む科目の組合せの選択はできないとされていた。
しかし、その後の高校・大学の関係団体等からの意見聴取などを踏まえ、23年4月の決定段階では、次のように弾力化された。(図4参照)
“方針案”のA・Cパターンにおいて、“「基礎科目」を2科目”と固定した背景には、「基礎科目」の単位数が2単位であり、1科目の選択解答では理科の出題の幅(出題範囲等)が十分確保できなくなるおそれがあることや、「基礎科目」の3科目履修をカリキュラム編成の基本の一つに据えていることなどが挙げられる。
しかし、前述したようにカリキュラム編成上、「科学と人間生活」(センター試験の出題科目ではない)及び「基礎科目」を1科目(計2科目、4単位相当)履修する場合も文系クラスなどを主体に想定されることから、“「基礎科目」1科目”の選択も可能としたようだ。
また、次のような高校・大学側双方の事情にも配慮したものとみられる。
“方針案”で示された「基礎科目」とはいえ理科2科目(4単位相当)受験となると、文系志望者(主に国公立大)にとって、これまでの理科1科目受験(2単位又は3単位)を主体としてきた受験科目数や、高校における週30単位時間を標準とする(22年度全日制・普通科1年次の週当たりの授業時数:30単位時間=36.1%、32単位時間=21.1%等)授業時数を踏まえるならば、現行に比べタイトな「理科」のカリキュラム編成を迫られることになる。
また、センター試験を利用する側でも、志願者獲得の観点などから、文系志望者への理科2科目は避けたいとする大学も少なからずあったとみる。
* * *
国大協は、27年新課程センター試験「数学・理科」の出題科目等が決定、公表されたことを受け、これまで国立大が果たしてきた高等教育の質保証の観点、及び新指導要領の改訂に伴う各大学の対応が受験生に与える影響などを踏まえ、23年6月、新課程入試に係る「ガイドライン」を提示した。
特にセンター試験「理科」の出題科目等のパターン化された選択方法等を中心に、その具体的な利用方法を示し、それらを参考にして各大学のアドミッション・ポリシーに基づく入試を実施するよう、各国立大に要請している。
大学入試センターから公表されている「理科」の選択方法は前述した4パターンであるが、国大協では「基礎科目」の選択科目数を“2科目”とする、次のような「ガイドライン」を提示している。
(1) 「物理基礎」/「化学基礎」/「生物基礎」及び「地学基礎」の4科目から2科目を選択解答させる。(←【A】:大学入試センターのパターン。以下、同)
(2) 「物理」/「化学」/「生物」及び「地学」の4科目から1科目を選択解答させる。(←【B】)
(3) 「物理基礎」/「化学基礎」/「生物基礎」及び「地学基礎」の4科目から2科目並びに「物理」/「化学」/「生物」及び「地学」の4科目から1科目を選択解答させる。(←【C】)
(注.同一名称を付した科目の選択は認めない)
(4) 「物理」/「化学」/「生物」及び「地学」の4科目から2科目を選択解答させる。(←【D】)
注.下線を付した太字は、大学入試センターが23年4月に決定、公表した新課程「理科」の出題科目の選択方法との相違部分。
◆ 「ガイドライン」策定の背景
国大協の「ガイドライン」では、「基礎科目」の選択科目数を2科目に限定した背景として、次のような点を挙げている。
大学入試センターが提示したA~Dの4パターンのうち、A・C
における、「基礎科目」から1科目を指定する選択方法は、「基礎科目」から2科目を指定する選択方法との関係において、同じ試験時間で実施することとなった場合に、“公平性の確保が困難”となるため、「基礎科目」から1科目を指定する選択方法を除外。
前記において、「同じ試験時間で実施することとなった場合」とあるのは、「基礎科目」の試験時間30分(50点満点)を想定した場合、「基礎科目」の“30分・細切れ”実施を避けるため、“60分の試験時間(1コマ)で「基礎科目」1科目又は2科目”の試験実施を想定した場合である。
このことは、大学入試センターが公表している“「発展科目」の試験時間・配点は「基礎科目」の2倍を想定”、及び“試験時間・配点は、現行のセンター試験との継続性を勘案”することに基づいたものであろう。(図1参照)
他方、「ガイドライン」(3)(「基礎科目」と「発展科目」の組合せ)で、“同一名称を付した科目の選択を認めない”ことは、結果的に“理科3科目”(理科の3領域)を解答させることになる。そのことは、受験生の高校段階での幅広い履修を前提に、各大学が個別試験でアドミッション・ポリシーに基づいた出題科目の設定を可能にするとしている。
◆ 受験資格の弾力化
国大協の「ガイドライン」では、センター試験「理科」の選択方法における大学入試センターからの受験資格の弾力化要請を受け、次のような配慮を各国立大に求めている。
入学志願者の大学の選択範囲を必要以上に狭めることとならないよう、「基礎科目」を指定する大学は「発展科目」受験者に対しても受験資格を付与するようにする。
受験資格の弾力化によって、当初の理系志望(「発展科目」2科目受験等)から、2次出願時の文系(「基礎科目」指定大学・学部)への出願変更(文転)の幅が広がるなどのメリットがある。
ただ、この弾力化で、国大協の「ガイドライン」に沿ってセンター試験科目等を指定した場合、例えば、Aパターンにおける「基礎科目」2科目のうち、1科目をCパターンの「発展科目」で代替し、残り1科目の「基礎科目」をCパターンの「基礎科目」の試験コマ(2科目受験を前提)で“2倍の時間”をかけて解答することが可能になる。
東京大と京都大は23年11月~12月にかけ、27年入試の新課程「数学・理科」の入試科目等を公表(予告)した。
両大学における27年入試科目「理科」について、センター試験での利用科目等と個別試験の出題科目の概要を以下に紹介しておく。東京大は上述した国大協の「ガイドライン」に合わせ、京都大ではほぼ沿った形でセンター試験利用科目や選択方法等を提示している。
東京大では「基礎科目」指定に「発展科目」選択で代替できることや、「基礎科目」と「発展科目」との同一名称を含む科目同士の選択不可などの付帯事項のため、前期日程の文科各類では「発展科目」を“かっこ付き”で表示したり、注釈が多く、複雑になったりしている。
また、京都大の予告は公表時点(23年12月)での内容であり、今後変更する可能性があるとして、同大学からの今後の発表を注意喚起している。
◆ 27年センター試験(理科)
[前期日程]
・文科各類:「物理基礎」(「物理」)/「化学基礎」(「化学」)/「生物基礎」(「生物」)/「地学基礎」(「地学」)/ の「基礎科目」4科目から2科目を選択。
ただし、「発展科目」(かっこ付き)を選択した場合は、同一名称の「基礎科目」を選択していない場合に限り、「基礎科目」を選択したものとみなす。
・理科各類:「物理」/「化学」/「生物」/「地学」/ の「発展科目」4科目から2科目を選択。
[後期日程]
・全科類(理科三類を除く):「物理基礎」/「物理」/「化学基礎」/「化学」/「生物基礎」/「生物」/「地学基礎」/「地学」/ の「基礎科目」と「発展科目」8科目から2科目を選択。
ただし、「基礎科目」と「発展科目」の2科目を選択する場合は、同一名称を含む科目同士の2科目選択はできない。なお、3科目受験(「基礎科目」2科目と「発展科目」1科目)の場合は、「基礎科目」2科目を利用。
◆ 27年個別試験(理科)
[前期日程]
・理科各類:「物理基礎・物理」/「化学基礎・化学」/「生物基礎・生物」/「地学基礎・地学」/ の4科目から、あらかじめ出願の際に届け出た2科目。
各科目の出題範囲は、理科4領域(物理・化学・生物・地学)それぞれにおける「基礎科目」と「発展科目」の全範囲から出題。
(注.後期日程の個別試験(理科三類を除く)では理科は課されず、総合科目Ⅰ:英語/総合科目Ⅱ:数学/総合科目Ⅲ:文化、社会、科学等に関する論述問題の3科目)
◆ 27年センター試験(理科)
[前期日程]
・総合人間<文系>・文・教育<文系>・法・経済<一般、論文>学部:「物理基礎」/「化学基礎」/「生物基礎」/「地学基礎」/ の「基礎科目」4科目から2科目を選択。
理科4領域における各「基礎科目」からの2科目選択に替えて、それぞれの「発展科目」2科目を選択することができる。
・総合人間<理系>・教育<理系>・理・医(人間健康科学)・薬・農学部:「物理」/「化学」/「生物」/「地学」/ の「発展科目」4科目から2科目を選択。
・経済<理系>学部:「物理」/「化学」/「生物」/「地学」/ の「発展科目」4科目から1科目を選択。
・医(医)学部:「物理」/「化学」/「生物」/ の「発展科目」3科目から2科目を選択。
・工学部:「物理」必須、「化学」/「生物」/ の「発展科目」2科目から1科目を選択。
◆ 27年個別試験(理科)
・総合人間<理系>・理・農学部:物理、化学、生物、地学、から2科目を選択。
・教育<理系>学部:物理、化学、生物、地学、から1科目を選択。
・医(医・人間健康科学)・薬学部:物理、化学、生物、から2科目を選択。
・工学部:物理、化学 の2科目必須。
個別試験における各科目(京都大では物理、化学、生物、地学と表記)の出題範囲は、それぞれの領域における「基礎科目」と「発展科目」を併せた範囲から出題。
(注.後期日程の募集は、全学で行われていない)
* * *
新課程「理科」のセンター試験は、物理・化学・生物・地学の4領域それぞれにおいて、「基礎科目」(2単位)と「発展科目」(4単位)双方からの“並行出題”となっている。
他方、個別試験(理系)の「理科」は、東京大や京都大にみるように、4領域の各科目とも“基礎+発展の内容・範囲”からの出題がほとんどであろう。
そのため、国公立大“理系志望者”にとって、「理科」の入試科目は、センター試験・個別試験とも選択科目に応じてそれぞれの「発展科目」が必須となり、科目数は両試験とも2科目が多くなりそうだ。
因みに、現行の国公立大“理系入試”の「理科」は、センター試験=物理Ⅰ、化学Ⅰ、生物Ⅰ、地学Ⅰ(一部に理科総合A、理科総合B)から2科目/個別試験=物理Ⅰ・Ⅱ、化学Ⅰ・Ⅱ、生物Ⅰ・Ⅱ、地学Ⅰ・Ⅱから2科目の選択が一般的である。
つまり、現行入試では、センター試験(理科4領域の各「Ⅰ科目」:基礎的内容で3単位相当)と個別試験(4領域の各「Ⅰ・Ⅱ科目」:基礎的内容+発展的内容で6単位相当)とは、出題内容や範囲、難易差等においてはっきり棲み分けられているといえる。
他方、新課程入試では、センター試験の「発展科目」と個別試験(出題科目=「基礎科目」+「発展科目」)との違いが、出題内容などの実質的な面でどこまではっきり出されるのか。
センター試験と個別試験との目的はそれぞれ異なり、センター試験は「発展科目」といえども高校段階における共通の基礎的学力の達成度を測るといった共通性に重きを置き、個別試験は各大学(学部)のアドミッション・ポリシー(特色・個性)に重きを置くことになる。両者の違いは、取り上げられる題材や出題の難易差ということになろう。
(図5参照)
センター試験の「発展科目」と個別試験の「出題科目」(「基礎科目」+「発展科目」)との出題構成の関係は、昭和60(1985)年~平成8(1996)年にかけて、センター試験(共通1次試験含む)・個別試験とも“基礎+発展内容”で構成された“4単位科目”の出題と類似している。
当時の学習指導要領(昭和57<1982>年度~平成5<1993>年度実施)における「理科」の科目や履修方法に基づき、共通1次試験(昭和60年~平成元年)とセンター試験(平成2年~8年)の出題科目・選択は、「理科Ⅰ/物理/化学/生物/地学から“1科目”選択」(昭和60・61年は「理科Ⅰ」全員必答、並びに物理/化学/生物/地学から1科目選択。昭和62年~平成元年の「理科Ⅰ」は受験承認者のみ解答。2年~8年は試験枠のグループ分けで複数科目選択が可能)であった。
他方、当時の個別試験「理科」は、「物理/化学/生物/地学から“2科目”選択」が主体であった。
そして、センター試験(共通1次試験含む)と個別試験における「理科」の出題構成は基本的には同じであったが、センター試験に“選択問題”は設置されていなかった。
因みに、当時、小社から刊行していたセンター試験と個別試験用の“受験対策書”(『傾向と対策』)の章立てなどの内容構成は、基本的に同じであった(題材や難易差等は異なる)。
センター試験の「発展科目」は、該当する「基礎科目」の履修を前提として(例:「物理」は「物理基礎」の履修を前提)、その学習内容も踏まえて出題される。そのため、センター試験「発展科目」と個別試験の違いは、出題形式(選択式、記述式など)を別とすれば、出題レベル(難易差)・範囲・題材などによる差別化が一般的であろう。
そして、両者の差別化の鍵を握るのが、新指導要領における“「はどめ規定」の原則撤廃”であろう。
学習指導要領上、詳細な事項は扱わないなど、学習範囲や程度を規定した「はどめ規定」は、平成15(2003)年12月の学習指導要領一部改正告示によって、15年度入学者(平成11年3月告示の学習指導要領実施開始の該当者)から“緩和”されてきた。これは当時の「学力低下」論議に対する文科省の姿勢を示したものであり、学習指導要領の「基準性」の明確化や「発展的な学習」の促進などとともに、「はどめ規定」の緩和が図られてきた。
今回の新指導要領ではさらに踏み込んで、「学校において必要がある場合には、学習指導要領の示す教科・科目の目標や内容の趣旨を逸脱したり、生徒の負担過重になったりすることのない範囲で、各教科・科目の『内容の取扱い』に示していない事項を加えて指導することができる」などと「総則」に明記し、「はどめ規定」を原則“撤廃”している。
大学入試については例年5月末頃、文科省から次年度の『大学入学者選抜実施要項』が各国公私立大学長宛に通知される。
24年度の『実施要項』を見ると、まず、大学入試に当たっては入学志願者の大学教育を受けるに相応しい能力・適性等を多面的に判定し、公正かつ妥当な方法で実施するとともに、高校教育を乱すことのないよう求めている。また、各大学は当該大学・学部の教育理念、教育内容等に応じた入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、これに基づき、入学後の教育との関連を十分に踏まえた上で入試方法の多様化、評価尺度の多元化を促している。
さらに、個別試験については、「学習指導要領に準拠し、高校教育の正常な発展の障害とならないよう十分留意しつつ、適切な方法で実施する」こととしている。
また、センター試験と同じ教科・科目を課す場合は、「論理的思考力や言語的表現力など、センター試験とは異なる能力の判定に力点を置く」ことを促している。
さて、センター試験は「大学入学志願者の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度を判定する」ことを主な目的としている。
したがって、センター試験は、当該科目を履修するすべての生徒が学習する内容の範囲や程度、つまり学習指導要領の“範囲内”からの出題となろう。
個別試験は、「はどめ規定」撤廃も含めた、学習指導要領に“準拠”した実施となろう。
新課程「理科」の入試では、前述したように、物理・化学・生物・地学といった4領域それぞれの「発展科目」におけるセンター試験と個別試験、及びセンター試験における「基礎科目」と「発展科目」の出題内容、難易差などが注目される。
特に、国公立大志望者にとっては必須ともいえるセンター試験「理科」の出題内容等は、受験者のみならず、高校現場での理科教育にも少なからず影響しよう。
こうした状況も踏まえ、大学入試センターでは業務の中期目標・中期計画(23年4/1~28年3/31の5年間)において実施すべき事項として、新課程センター試験に関し、「数学・理科」については27年センター試験から、それ以外の教科については28年センター試験から確実に実施するため、「出題方法等を検討し、必要に応じて試作問題を作成する」などとしている。
ここで注目されるのは、「試作問題」の作成である。「試作問題」については以前、平成元(1989)年3月告示の学習指導要領の大幅改訂に伴い、出題内容・範囲が大幅に変更されたり、出題科目が新たに設置されたりした9年(1997)年からのセンター試験実施に先立ち、7年2月に公表された経緯がある。試作された教科・科目は5教科16科目に達し、A4判・174ページに及ぶ。特に、当時、まったく新しい科目として設置された「地理歴史」(世界史・日本史・地理)の各「A科目」と「理科」の「総合理科」及び4領域それぞれの「ⅠA科目」は特に注目され、高い関心を集めた。
こうした前例を踏まえるならば、今回の新課程センター試験では、「理科」4領域それぞれの「基礎科目」と「発展科目」の「試作問題」が公表される可能性がある。
また、試験実施の方法(時間割、配点など)も示されることになろう。
ところで、10年ほど前の国立難関大の個別試験において、当該大学の『選抜要項』に記載された入試科目(文系数学)で、当時の学習指導要領(旧課程)の通常の学習範囲を超えた設問があったとして話題になった。
大学側は、入試科目における学習指導要領の「発展的な内容」で扱う程度の数学的能力は文系入学者にとっても、当該科目履修者には必要だとするアドミッション・ポリシーに基づき出題したという。以降、同大学では入試科目とともに、出題範囲等についても詳細に提示している。
こうした傾向は、新指導要領で「はどめ規定」が撤廃されたことから、新課程入試では難関大を中心に特に数学や理科を主体に、一層拡大することも予測される。
この点について、高校側は「はどめ規定」の撤廃で、個別試験の出題範囲・難易度が“青天井”になるのではないかなどと、懸念を示しているようだ。
学習指導要領・教育課程(高校教育)と大学入試(大学教育)とは当然、連接すべきものであるが、両者は必ずしも繋がっていない。
例えば、高校側では「学力低下」論などへの対応による「はどめ規定」の撤廃と“発展的な学習”の促進、言語活動の充実、理数教育の充実、外国語活動の充実といった新指導要領の改訂理念を踏まえたカリキュラム編成、大学側では学士課程教育の質保証を踏まえたアドミッション・ポリシーに裏打ちされた入試科目・内容の設定等が挙げられよう。
高校現場は、「完全学校週5日制」によるタイトな授業時数の中、教育課程行政と入試という狭間で、大学進学希望者の進路を保障するカリキュラム編成(入試対策)を取らざるを得ない現実がある。
高校側、大学側ともに立場の異なる者同士が互いの現状・課題等を認識し、生徒・学生の学力や学習意欲の向上、充実した高校教育・学士課程教育へと繋がるような大学入試(入試科目・内容等の設定含む)の実施が望まれる。