今月の視点 2010.11

文科省、低迷する「法科大学院」と「歯学部」に改善策を施行!

1.法科大学院“低迷校”への「交付金・補助金」、24年度から減額
2.歯学部(歯学科)には、今秋から実態解明の“検証メス”

2010(平成22)年度

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 司法制度改革の一環として16年度に創設された法科大学院は22年度現在、74校・入学定員4,909人にのぼる。法曹養成機関の量的規模としては当初予測を大きく超えている一方で、入試の競争性や授業内容、新司法試験結果など、その質的な課題が指摘されている。
 他方、歯学部-歯学科は22年度現在、国公私立大29校・入学定員2,611人(編入学含む)であるが、恒常的な志願者減、私立大の入学定員割れ、国家試験合格率の不振など、低迷する歯学科の改善・充実が求められている。
 文科省は先ごろ、中教審法科大学院特別委員会や歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議の提言などを受け、それぞれの改善に向けて具体的な対策に乗り出した。

 

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1.法科大学院への“改善策”行使
<理念と現実>

 

創設の基本理念

 

 法科大学院は、グローバル化の進展と国際的な流動性の高まりのもと、裁判官・検察官・弁護士といった法曹の需要増大や司法の多様化・高度化などに応えるべく、その量的拡大と質的充実を図るため16(2004)年度から開設された。
 それまでの法曹養成制度では、旧司法試験合格率2~3%程度(16・17年の合格者数それぞれ約1,500人)という超難関試験に対する塾・予備校通い(法学部とのダブルスクール化等)や、質を維持しつつ法曹人口の大幅な増加を図ることの難しさなどが指摘されていた。
 そこで、「司法試験という“点”のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた“プロセス”」としての法曹養成制度を整備するために、法曹養成に特化した教育を行う専門職大学院として法科大学院が創設されたのである。
 かつての小渕政権下において内閣に設置された司法制度改革審議会(11(1999)年7月~13年7月)は、その『意見書』(13年6月)で法曹人口の拡大として「22年頃には新司法試験合格者数を年間3,000人」、法科大学院の教育内容・方法、成績評価、修了認定等について「修了者の新司法試験合格率を7~8割」などを提唱していた。

 

低迷続く厳しい現実

 

 法科大学院の創設当初、設置校数は20~30校程度が構想されていたようだが、16年度開設の申請は72校に達し、そのうち68校(当初の保留2校含む)が認可、開設された。翌17年度には国立23校、公立2校、私立49校の計74校にのぼり、現在に至っている。
 
【 法科大学院の入試状況 】
 法科大学院がスタートした16年度から22年度までの入試状況を概観してみよう。
・入学定員
 法科大学院の入学定員は、創設時の16年度が5,590人、17年度~19年度まで5,825人、20年度5,795人、21年度5,765人と、21年度まで5,000人台後半で推移してきた。
 しかし、中教審の法科大学院特別委員会(以下、法科特別委)の『法科大学院教育の質の向上のための改善方策について』(21年4月。以下、『改善方策』:後述)の指摘等を受け、多くの法科大学院で定員(募集人員)の削減が行われた。その結果、22年度は前年度に比べ856人(14.8%)減の4,909人と、初めて5,000人台を割った。(図1参照)
 なお、18年度~20年度までの募集人員は各年度とも入学定員より10人少なかった。
 23年度の入学定員は、4,576人(募集停止1校含む。検討中は22年度定員数を集計。22年9月現在)以下になる見込みである。
・志願者数、倍率
 法科大学院の志願者数は、創設された16年度(68校)の7万2,800人を最高に、17年度(22年度まで74校)~19年度が4万人台、20年度4万人割れ、21・22年度2万人台と、志願者減の傾向にある。
 平均の志願倍率(志願者数÷募集人員)も16年度の13.0倍を最高として、17年度~20年度は7倍前後、21・22年度は5倍前後で推移している。
 また、競争倍率(受験者数÷合格者数)も低く、最近の倍率は21年度2.81倍、22年度2.75倍で、「相応の競争原理がはたらき、適正な入学者選抜が確保できる」と考えられる最低限の“競争倍率2倍”に満たない法科大学院が21年度には74校中42校、22年度には40校に達している。

 

法科大学員の入学状況の推移

 

・ 入学者数、入学定員充足率
 入学者数は、16年度~19年度まで、17年度の約5,500人を除き5,700人台で、20年度約5,400人、21・22年度4,000人台と、減少傾向にある。
また、入学定員充足率は16年度の103.2%を除き、毎年“定員割れ”状態で、17年度~20年度90%台、21・22年度84.0%となっている。(図1参照)
 
【 新司法試験の動向 】
 新司法試験のこれまでの受験・合格状況をみると、受験者数は増加しているが、合格者数の停滞状態と合格率の低下が目立つ。(表1・図2参照)
・ 受験状況
 受験者数は、法学既習者コース(2年制)のみの受験となった18年(第1回)は2,091人であったが、法学未修者コース(3年制)も加わった19年には前年の2.2倍に当たる4,607人となり、以後、年々増加して22年には8,163人に達している。(図2参照)
 ただ、出願時の修了見込者(現役生)が占める割合は年々低下している一方で、それ以前に受験機会のあった受験者(前年以前の不合格者を含む。修了後5年間のうち3回受験可能)が年々増加している。
 また、法科大学院修了者のうち、受験しなかった者が18年の34人から年々増加し、22年には2,745人に及ぶ。
・ 合格状況
 新司法試験の合格者数は18年の1,009人から20年の2,065人まで増加したが、21年は前年より22人減の2,043人に減少。22年は再びやや増加に転じ、2,074人となった。
 合格率は、受験者増と合格者数の停滞状態を反映して、18年(第1回。法学既習者のみ)の48.3%を最高に年々低下し、22年は25.4%までに低下している。(図2参照)
 合格者数・合格率とも、法科大学院創設当時の政府の目標値である「22年頃には新司法試験合格者数を年間3,000人、新司法試験合格率を7~8割」には、程遠い状況にある。

新司法試験の受験者・合格者数と合格率の推移

法科大学院別 新司法試験の受験・合格状況

 

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<公的支援の見直し>

 

 ここまで、創設から6年経過した法科大学院入試の現状、及び法科大学院教育の実効性を担保する一つの側面である新司法試験結果のそれぞれ概況をみてきた。それらをみる限りにおいても、一部の法科大学院を除き、法科大学院の低迷ぶりがうかがえる。

 

法科特別委の提言

 

・『改善方策』の提言
 前述のような法科大学院の現状などを踏まえ、中教審の法科特別委は21年4月、『改善方策』において、「入学者の質と多様性の確保」について次のような提言を示している。

公的支援の見直し

・「公的支援の見直し」提言
 法科特別委は22年3月、上記のような提言にもかかわらず、深刻な課題を抱えながら改善が進んでいない法科大学院に対し、文科省は財政的支援の見直しや人的支援の中止などの措置を早急に検討すべきであるとして、次のような「公的支援の見直し」を提言した。
 この提言は、法科大学院の再編等(統廃合含む)も視野に、各大学院の自主的・自律的な組織の見直しを促進する狙いがある。

「公的支援の見直し」提言

 

文科省の「交付金・補助金」減額措置

 

 文科省は中教審の法科特別委の上掲のような提言を受け、深刻な課題を抱えている法科大学院の自主的・自律的な改善を促進するために“公的支援の在り方”を見直すことにし、22年9月、次のような交付金(国立大)と補助金(私立大)の減額措置を講じることを提示した。(図3参照)

文科省の「交付金・補助金」減額措置

法科大学院への「交付金・補助金」減額の基準

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<法科大学院の評価>

 

 法科大学院における今回の「公的支援の見直し」は、「入り口」(=入試の競争倍率の確保)と「出口」(=新司法試験の合格率の確保)に視点を当て、低迷している法科大学院への交付金(国立大)や補助金(私立大)を減額することで、入学定員削減や統廃合も含めた再編等を促し、法科大学院の運営改善と質保証を担保しようとする文科省側の狙いがあるとみる。これまでの中教審の改善提言や文科省通知では期待されていたほどの成果がみられず、いわば“兵糧攻め”ともいえる「実力行使」に踏み切らざるをえなかったのであろう。
 ただ、今回の措置によって、法曹養成が一部の法科大学院や地域に整理・統合されたり、各法科大学院の自主性・創造性の下で総合的、かつ多様に編成されたカリキュラムが、新司法試験の合格率アップのために受験偏重教育へと偏向されたりすることが懸念される。
 裁判員制度の導入など、国民と司法との関わりが格段に増大している現在、法科大学院の評価は数値的な成果だけでなく、司法制度改革の原点に立ち返って、司法試験の在り方等も含めた司法と法学教育全体とを見据えた総合的な検証も大事だ。

 

2.歯学部(歯科)の実態解明 
<歯学部の現状>

 

入学定員の削減

 

 歯学部(歯学科。以下、同)は現在、国立大11校、公立大1校、私立大17校の計29大学に設置されているが、入学定員(編入学定員含む。私立大については募集人員。以下、同)に関しては、歯科医師の需給等が検証される中で、これまで度々削減されてきた。
 まず、厚生省(当時)の歯科医師需給に関する検討会の『報告書』(昭和61(1986)年)において「歯科医師の新規参入を最小限20%以上削減すべき」とされたことを踏まえ、定員ピーク時(昭和56(1981)年度~60(1985)年度)の3,380人を平成10(1998)年度には2,714人まで、666人(19.7%)削減した。その後さらに、平成10年の厚生省の需給検討会で「10%程度の削減」が提言されたが、10年度~20年度の10年間でわずか57人(10年度の定員2,714人に対する割合、2.1%)の削減に留まっていた。(図4参照)
 ただ、20年度~22年度において、国公立大での入学定員の削減はなかったが、私立大では46人(20年度の私立大歯学科募集人員1,937人に対する割合2.4%)が削減されている。
 23年度は、文科省の有識者会議の“入学定員の見直し”提言(21年1月。後述)や、22年度の医学部定員増(歯学部との定員振替枠)に伴う「振替削減」などにより、国立大、私立大ともそれぞれ60人以上の大幅な削減が予定されている(22年9月現在)。
 なお、23年度も医学部における歯学部との振替増員(最大30人)が急遽決定したが(22年10月下旬)、これによる歯学部定員の削減数は22年10月末現在、未定である。

歯学部入学定員の削減の推移

 

低迷する入試動向

 

 歯科医師の過剰、歯科診療の過当競争などが喧伝される中、歯学部(歯学科。以下、同)入試の志願者数は国公私立大とも減少傾向にある。16年度~22年度の志願者数の動きをみると、国立大(11校)は約3,800人~約2,700人、公立大(1校)は16年度に約1,000人であったが、18年度~20年度に約600人、21・22年度には300人台に激減している。私立大(17校)は19年度まで1万人台前半で推移していたが、20年度に1万人割れとなってから一気に減り、22年度は19年度の半分以下となる約5,000人であった。
 志願者数の減少で受験者数も減少傾向にある。
 合格者数は国立大で600人台前半、公立大は100人前後で推移し、国公立大では大きな変化はない。私立大では約3,000人程度であるが、「歩留まり」の悪化などから、ここ数年増加傾向にあった。しかし、22年度は定員を満たしている私立大で入学者の質の維持、向上を図る観点などから合格者数の絞り込みがあったとみられ、減少に転じている。(図5参照)
・ 私立歯科大学・学部の65%が22年度“入学定員割れ”校に
 国公私立大全体の最近の入学定員充足率(私立大は募集人員を集計)をみると、20年度96.9% → 21年度92.4% → 22年度84.7%と、年々低下している。ただ、国公立大では全ての大学が定員を満たしている。
 一方、私立大(17校)の入学定員充足率(ここでは、募集人員ではなく、入学定員で集計)は、20年度84.3% → 21年度77.5% → 22年度68.0%と低下し、22年度は60%台まで下落。また、入学定員未充足(入学定員割れ)となった私立歯科大学・学部は、18・19年度1校(17校に占める割合、5.9%) → 20年度3校(同、17.6%)  → 21年度12校(同、70.6%) → 22年度11校(同、64.7%)となっている。“入学定員割れ”校は21年度から一気に拡大しており、入学定員充足率にみる限り、私立大における入学者確保の“二極化”が目立つ。

私立歯科大学・学部の入試概況の推移

 

歯科医師国家試験の動向

 

・ 受験・合格状況
 歯科医師国家試験の過去3年間(20年~22年)の受験・合格状況をみると、受験者数と合格者数に大きな変化はみられない。
 受験者数は国立大700人台、公立大約120人、私立大約2,500人~約2,600人で、国公私立大全体では約3,300人~約3,500人で推移している。
 合格者数は、国立大約580人~600人台前半、公立大100人前後、私立大約1,600人~約1,700人で、全体では約2,300人~約2,400人となっている。
・ 合格率の低迷
 歯科医師国家試験の合格率は、国立大80%台、公立大約70%~約80%、私立大60%台前半で、国公私立大全体では約68%~約70%となっている。
 歯科医師国家試験の合格率が、医師国家試験の合格率90%前後に比べ20ポイント程度下回っており、医療教育における医科と歯科の学習成果や臨床能力の隔たりが懸念される。

 

<歯学教育の改善提言>

 

 上述したように近年、歯科医師の過剰感の増大、歯学科志願者の減少、私立歯科大学・学部の入学定員割れ、国家試験合格率の不振に加え、臨床実習の不十分さや臨床能力の格差など、歯科医師養成を取り巻く環境は深刻な状況にある。
 こうした中、文科省の有識者会議「歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」(以下、歯学教育改善・充実会議)は21年1月、歯学教育の改善に向けた『第1次報告 ~確かな臨床能力を備えた歯科医師養成方策~』を取りまとめ、報告した。
 『第1次報告』は、歯学教育の質を保証する第三者評価の導入や課題を抱える大学の入学定員の見直しなど、次のような4本の改善方策を柱に据えている。

歯学教育の改善提言

 

<課題校への“実地検証”>

 

 文科省は22年9月、歯学教育改善・充実会議の下に「フォローアップ小委員会」(以下、小委員会)を設置した。小委員会は各大学における歯学教育の状況を分析するとともに、上掲の『第1次報告』で提言された改善方策のフォローアップを行い、今秋から年明けにかけ、必要に応じてヒアリングや実地調査を行う。

 

“実地検証”の指標等

 

 小委員会はまず、フォローアップを実施するための基礎的な情報(実態)を把握するために、次のような『第1次報告』の提言(4本柱)を“ヒアリングの観点”として、各大学を対象に書面調査を行う。

・ ヒアリングの観点(例)

・歯科医師として必要な臨床能力の確保/・優れた歯科医師を養成する体系的な歯学教育の実施/・歯科医師の社会的需要を見据えた優れた入学者の確保/・未来の歯科医療を拓く研究者の養成

 ヒアリングの分析結果などから、さらなるヒアリングや実地調査の実施の有無を判断する“指標”として、次のような項目が挙げられている。
・ さらなるヒアリング、実地調査の有無を判断するための指標(案)

(1) 入学定員充足率/(2) 競争倍率(受験者数÷合格者数) /(3) 留年者数等/(4) 国家試験合格率(総数、新卒) /(5) これまでの定員削減状況等

 
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<“歯科-医科融合型”の歯科医療>

 

 歯学部(歯学科)のフォローアップや課題校への実地調査等は、法科大学院に対して中教審法科大学院特別委員会のワーキング・グループが行ってきた改善状況調査を踏襲して実施されるとみられる。ここでも、実地調査をするか否かの判断の指標は、入試の競争倍率や入学定員充足率、国家試験合格率など、数値的な成果がポイントになっている。
 各大学は、“入学定員割れ”校を中心に、まず入学定員(募集人員)を削減してこよう。
 しかし、歯科と医科との“融合型の歯科医療”(例えば、歯周病などの口腔疾患と全身状態との関連)、超高齢社会における“在宅歯科診療”など、歯科医療にも新たな環境変化の波が押し寄せている。そうした中、単に定員を削減(歯科医師の削減)することが、中長期的にみて、歯科医療の新たな診療分野や老人医療における歯科診療の需要に合致するのだろうか。
 各大学は、歯科医療の将来的なニーズも視野に入れた自校の特色ある教育体系を構想する中で、入学定員等を定めていくべきである。

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