今春(22年3月)卒業した大学の学部生約54万1,000人のうち、就職も進学もしていない「進路未定者」は約10万6,000人、卒業者の約20%を占めることが、先ごろ発表された文科省の22年度『学校基本調査速報』でわかった。「進路未定者」は、前年より約2万6,000人、30%以上増え、2年連続の増加である。また、卒業者の就職率も、過去最大の下げ幅となる前年比7.6ポイント低下の60.8%で、2年連続のダウンである。
20年秋のリーマン・ショックを発端とする急激な経済不況によって、“「大学と職業との接続」の綻び”が一段と鮮明になった。
「大学と職業との接続」について、その現状と課題などを探ってみる。
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文科省の22年度『学校基本調査速報』によると、22年3月(21年度)卒業の大学生(学部生。以下、同)は54万1,111人(国立大10万776人、公立大2万5,412人、私立大41万4,923人)で、そのうち、(1)「大学院等への進学者」が7万2,503人(卒業者に占める割合、13.4%)、(2)「就職者」が32万9,085人(同、60.8%)、(3)「臨床研修医(予定者含む)」が8,831人(同、1.6%)、(4)「専修学校・外国の学校等入学者」が1万3,469人(同、2.5%)、(5)「一時的な仕事に就いた者」が1万9,312人(同、3.6%)であるほか、(6)「前記(1)~(5)以外の者」が8万7,085人(同、16.1%)、(7)「不詳・死亡の者」が1万826人(同、2.0%)となっている。
(5)の「一時的な仕事に就いた者」、すなわち、パートやアルバイトなどの“臨時的な収入”を目的とした仕事に就いた者を“恒常的な就職者”とみないで(6)に加えると、就職も進学もしていない「進路未定者」が10万6,397人(同、19.7%)にのぼる。(図1参照)
この「進路未定者」、近年では“就職氷河期”だった15年(2003)年の14万7,929人(同、27.1%)を直近のピークとし、その後は景気の回復とともに減少し、20年には7万1,276人(同、12.8%)まで改善されていた。しかし、20年秋の世界同時不況の影響で21年には8万885人(同、14.5%)に増加。22年はさらに人数で2万5,512人(前年比31.5%)増え、全卒業者に占める割合も5.2ポイント上昇の19.7%に達した。(図2参照)
22年3月大卒者の就職率は、前掲(2)の「就職者」32万9,085人に、(1)「大学院等への進学者」で“就職している58人”を加えた32万9,143人の全卒業者数に占める割合、60.8%となる。この就職率は、過去最大の下げ幅(前年比7.6ポイント低下)で、2年連続のダウン。
平成元(1989)年~15年までの就職率の推移をみると、3年の81.3%をピークに9年・13年の上昇を除き、毎年下降を続け、“就職氷河期”であった15年には55.1%(過去最低)まで低下した。その後は、景気の持ち直しとともに上昇し、20年には69.9%まで回復したが、21年(就職率68.4%)から前年割れに転じている。(図3参照)
・ “就職希望者”(抽出調査)の就職率
文科省と厚労省は平成8(1996)年度から毎年度、調査大学等(大学、短大、高専、専修学校)や学生を“抽出”して大学等卒業者の就職状況を調査している。当調査は、対象学生の「就職希望率」、及び“就職希望者に占める就職者の割合”を「就職率」(内定含む)として、年度ごとに10月、12月、2月、及び卒業直後の4月の計、4回実施している。
22年3月大学卒業者(抽出校=国立21校、公立3校、私立38校)の4月1日現在の状況は、「就職希望率」66.8%(前年度同期比、3.6ポイント低下)、「就職率」91.8%(同、3.9ポイント低下)であった。就職率の91.8%は12年4月の91.1%に次ぐ低さで、下げ幅の3.9ポイントは過去最大である。就職率の内訳は、国公立大94.5%(同、2.1ポイント低下)、私立大90.8%(同、4.6ポイント低下)で、私立大の減少幅が大きい。また、就職率の文系・理系別では、文系91.0%(同、4.3ポイント低下)、理系95.2%(同、2.2ポイント低下)で、特に私立文系は90.5%(同、4.8ポイント低下)と低い。(図3参照)
ここまで、学生の就職の現状をみてきたが、次に「大学と職業との接続」の状況をみよう。まず、学生の就労環境がどのように変化してきたのか。過去20年ほどを概観してみる。
平成3(1991)年前後の「バブル経済崩壊」以降、今日までの就労環境全体を概観すると、景気の低迷で大学新卒者の正規雇用での就職は減少し、就職も進学もしない「進路未定者」が一時的な減少はあったものの、最近は増加傾向にある。16(2004)年頃からの緩やかな景気の回復傾向と、「団塊の世代」の大量退職を控え、16年頃から就職状況にも改善がみられ、「進路未定者」数は一時期減少していた。しかし、20年秋の世界同時不況による景気の悪化で、学生を取り巻く雇用情勢は再び厳しさを増している。(図2・3参照)
次に、「大学と職業との接続」について、企業と大学との関係がどのように変化してきたのか、景気動向を軸に概観してみよう。
・ 経済安定、成長期
平成初期(1990年代初期)までの経済の比較的安定した成長期においては、企業は大学新卒者に対し、安定的な正規雇用を主体とする終身雇用、年功序列型処遇、企業内教育や研修、産業・職業能力の開発、企業文化の育成と継承といった、「日本型雇用システム」を広く採っていた。ただ、これは労働市場における正規雇用、いわば中心に近い“内部”の雇用システムで、その“周辺部”には当時においても非正規雇用などの雇用形態は広がっており、両者を隔てる壁(格差)は高く、厚かったとみる。
他方、この時代の大学は、18歳人口の増加、進学率の上昇、景気の好調さなどに裏打ちされ、大学主導の“売り手市場”であった。大学入試は、その機能(基礎学力の把握と選抜)を果たし、大学の入口管理は保障されていた。大学は、企業の人材需要に応えて、一定程度“質保証”された学生を産業界や企業に輩出していた。大学から企業(職業)への移行は、見かけ上(内実は必ずしも伴っていない)、概して円滑に行われていたといえよう。
ただ、その時代、大学では、「産学協同路線」に対する批判の高まりなど、教育と企業(職業)とを関連づけることを消極的ないしは否定的に捉えるような傾向もみられた。
・ 低成長期
前述したように、平成初期のバブル経済崩壊後から現在まで、多少の景気回復はあったものの経済停滞が続いている。加えて、少子・高齢化と18歳人口の減少が進む中、グローバル化の急激な進展で国際競争が強まり、企業や大学を取り巻く環境は一変した。
企業は低成長とグローバル化のもと、国内外の経済競争に打ち向かうために雇用システムの見直し(終身雇用・長期雇用の見直しや非正規雇用の増加など)や生産性向上、コスト削減などを追求する中で、これまで企業内で行われていた実践的な職業能力の育成への投資を抑え、それらを大学などに求めるようになった。
一方、大学は18歳人口の急激な減少と相反する大学の量的拡大によって、受験生主導の“買い手市場”へと180度変わった。
その結果、入試における選抜機能を十分果たしている有力大学・学部を除き、入口管理の機能は低下している。このため、入学者に大学で必要とされる普遍的な基礎学力(知識・技能)を求めることが難しくなっていたり、入学先の専門分野や将来の進路(職業)に対する意識も希薄であったりと、入学者の能力やキャリア形成の意識も低下している。
大学には、企業の求める様々な職業能力ニーズや多様な学生の職業教育への対応など、これまで以上に質の保証も含め職業教育の充実が求められるようになった。
世界的な経済不況と学生の能力、職業・勤労意識の低下などが相俟って、前述のような大学新卒者の「進路未定者」の増加、あるいは「就職留年」の拡大や就職後の「早期離職率」の高止まりなど、学生の就労への移行は円滑に行われていないことが浮き彫りになっている。
22年度『学校基本調査速報』によると、22年度(22年5月1日現在)の学部生数は過去最多の255万9,181人であるが、そのうち、就業年限4年課程を超過している者が10万6,254人、就業年限6年課程(医・歯・獣医学関係)を超過している者が2,457人で、合計、10万8,711人(学部在学者に占める割合、4.2%)が最低在学年限を超過、つまり“留年”していることになる。
留年者には、海外留学や休学などの学生も含まれるが、「就職留年」もかなりの人数に上るとみられる。「就職留年」は在学中に就職を決められず、企業の「“新卒”一括採用」に対応するため、“既卒”となることを避け、敢えて留年の道を選ぶようだ。こうした「就職留年」は最近拡大しているとみられ、当該学生のために授業料減免措置などを講じる大学もみられる。
厳しい雇用情勢にもかかわらず、新卒者の「早期離職率」の高さが目立つ。近年の新規大卒者の「離職率」をみると、就職後1年目が15%程度、2年目が11%程度、3年目が9%程度で、就職後3年間の離職率は35%程度という高い水準で高止まっている。つまり、新卒就職者の3人に1人は、就職後3年以内に辞めていることになる。(図4参照)
なお、就職後3年以内の新卒者の「離職率」を学校段階別にみると、概して中学7割、高校5割、大学3割といった“七五三”現象がみられ、中学、高校も含めたキャリア教育・職業教育の充実が求められる。
大学、特に私立大では、少子化の下での志願者獲得策のひとつとして、就職支援を積極的にアピールしているところも少なくない。そうした大学では、入学早期からのキャリア教育やインターンシップの実施、面接対策、就職相談などを積極的に行っている。
大学側(国公私立大等による「就職問題協議会」)は、企業の就職・採用活動の早期化などに対して、その是正を求める「要望書」を提出している。また、大学側としても、学校推薦の期日(22年度の場合、原則として7月1日以降)や正式内定日(同、10月1日以降)などを学生に明示することを申し合わせている。
大学側による採用活動の早期化是正要請については、企業側((社)日本経済団体連合会)も採用選考に関する所謂「倫理憲章」によって、正常な学校教育と学習環境の確保に協力し、学事日程の尊重、正式な内定日を10月1日以降(22年度の場合)にするなどの採用・選考活動の早期化の自粛などを定めている。
他方、大学側に対しては、企業の求める人材像を踏まえた教養教育の充実や厳格な成績評価の実施などを求めている。
国としても、学生の就業力の向上や就職支援に様々な取組を行っている。
文科省では、大学等における「社会的・職業的自立に関する指導等(キャリアガイダンス)」の制度化(後述)のほか、大学等から学生の就業力向上のためのプログラムを募り、財政面で支援する「大学生の就業力育成支援事業」を22年度から展開している。厚労省でも「新卒者体験雇用事業」などを実施している。
また、政府の「新卒者雇用・特命チーム」(首相官邸)は、卒業後3年以内の既卒者を正規雇用する企業への奨励金の創設、大学等におけるキャリアカウンセラー等の増員など、新卒者雇用に係る緊急対策に9月初旬から取り組むとしている。
大学は今、多様な職業教育ニーズや職業に関する高度な知識・技能についての産業界・企業からの要求、学生の職業観・勤労観の希薄化など、学生の社会・職業への円滑な移行に関して様々な課題を抱えている。
こうした大学の現状と課題を踏まえ、文科省は22年2月、大学設置基準を改正して、大学が教育課程の内外を通じて学生の社会的・職業的自立に向けた指導等、すなわち「キャリアガイダンス」に取り組むよう、法令上明確にした。短大も設置基準を改正し、大学院・高専は改正内容を準用する。
この規定は23年4月から全大学で施行されるが、単に、教育課程上に職業教育関連の科目を開設するだけでなく、大学教育全体として学生の“自立支援”に取り組むことになる。つまり、大学の教育課程全体を通じて、学生の教養教育はもとより、専門的・職業的能力を育成する教育力の強化が求められる。
日本学術会議は22年7月、文科省から20年5月に審議要請された『大学教育の分野別質保証の在り方について』の回答を提示した。同会議は課題別に3つの分科会を設置して、それぞれ課題別に具体的な審議を進めてきた。
大学教育の質保証の在り方を検討するに当たり、各分野の専門教育だけを対象とするのではなく、学生が職業生活に移行する際、特に文系において大学と職業とが円滑に接続していない現実にも目を向けるべきだとして、「大学と職業との接続検討分科会」を設置。当分科会では、『大学と職業との接続の在り方について』(以下、『接続報告』)を取りまとめた。
『接続報告』では、若者の就職問題の根底には低成長期における正規雇用の縮小と、進学率の上昇による大卒者の急増といった労働市場の需給バランスの変化があるとしている。
こうした状況の下、従来の「大学と職業との接続」は、大学での学習成果と職業上必要とされる能力との接続を閑却してきたと指摘。そのため、学生は大学教育を通して身に付けた職業能力をほとんど主張できない状況にあり、就職できなかった場合のセーフティーネットもないままに、厳しい就職活動に臨むことを余儀なくされているという。他方、企業においても、学生に対して大学教育を通して身に付けた職業能力を問う姿勢が依然として乏しいとしている。
大学においては、学士課程教育を通じて社会人・職業人として習得すべきジェネリックスキルの育成など、大学教育の“職業的意義”を高めることをはじめとして、「大学と職業との接続の在り方」を新たなかたちで調整していくことが必要であるという。
『接続報告』ではまた、現下の就職活動をめぐる問題に関して、当面取るべき対策として、前述の「キャリアガイダンス」の実施のほか、企業の採用における“新卒”要件の緩和や“緩やかな職種別採用”の促進などを挙げている。さらに、今後目指すべき「大学と職業との新しい接続のかたち」も提言している。
・ “新卒”要件の緩和
「新卒一括採用」という採用方式は、個人のライフコースの特定の時期にリスクを集中させるとともに、景気の変動を通じて、世代間でも特定の世代にリスクを集中させるという機能を潜在的に内在させることになると指摘している。そのネガティブな影響は、社会的にも無視し得ないものとして認識されるようになってきているという。
そのため『接続報告』は、例えば「卒業後最低3年間は、若年既卒者に対しても新卒一括採用の門戸が開かれること」を提言している。こうした方策では、卒後一定期間、大学や大学間連合による就職支援が必要となり、そのための大学の支援機能や体制強化などについて、政府の更なる具体的な検討が速やかに行われることを求めている。
・ “緩やかな職種別採用”の促進
「職種別採用」は、就職後に担当する職種が前もって提示されており、応募者はその職種に就くことをわかって応募するシステムである。こうした「職種別採用」では、就職後の業務内容がある程度特定されていることから、業務に対する目的意識の高い学生を採用することができ、早期の離職率の低下にも一定の効果があるとしている。
また、職種を問わない「一括採用」では、コミュニケーション能力や一般常識、潜在的な職業訓練の可能性などが重視される傾向をもつのに対して、「職種別採用」では、特定の業務内容への対応性という観点から、特に専門教育の意義に対する評価が、企業と学生の双方で高まるとして、『接続報告』は“緩やかな職種別採用”を提言している。
・ 今後目指すべき「大学と職業との新しい接続のかたち」の提言
大学と職業の接続について、『接続報告』では次のように問題点を〔現状〕として指摘し、その改善策を〔今後の姿〕として例示して、「大学と職業との新しい接続のかたち」を提言している。
〔現 状〕
(1) 大学教育の職業的意義の希薄さ
(2) 大学在学中に学んだ内容が重視されず、かつ長期間にわたって行われる就職・採用活動
(3) 正規雇用・非正規雇用間の分断が明確であり、大学卒業時点でいずれの就労状態に従事するかがその後の職業キャリア形成に及ぼす影響の大きさ
(4) 職業上の専門的な知識・技能が重視されない労働市場
(5) 大学における社会人のリカレント学習の未発達
(6) 失業や、労働条件のよくない不安定雇用に対するセーフティーネットの欠如
〔今後の姿〕(上記の「現状」の番号に対応)
(1) ⇒ 大学教育の職業的意義の向上(在学中における教育内容と関連した職業体験やインターンシプの実施を含む)
(2) ⇒ 大学で学んだ内容と求める人材像との適合性を重視した志望動機・採用基準に基づいて、かつ大学教育の概ねの課程を修了した段階で開始される就職・採用活動
(3) ⇒ 卒業後も求職活動や適職探索を行う余地が幅広く認められる初期職業キャリア
(4) ⇒ 専門性を重視した職業上の知識・技能に応じて正規雇用・非正規雇用間で均衡した処遇がなされる労働市場
(5) ⇒ 必要に応じて何度でも学び直せるリカレント学習の拡大
(6) ⇒ 生活支援と職業訓練機会の付与、就職支援とが一体となったセーフティーネットの構築
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現下の厳しい経済・雇用情勢、さらには学生の職業への不安定な移行などを鑑みると、“「大学と職業との接続」の綻び”は、学生や大学だけの問題ではなく、産業社会や企業、政府も含めた社会経済の在り方などとも深く関わっている。
かつての就職氷河期に、卒業直後、非正規雇用や無業を一旦経験すると、その後は正規雇用の就労が非常に難しく、所謂“ロストジェネレーション”などといわれるように、不安定な生活を余儀なくされる者も少なくない。
こうしたロストジェネレーションの再出を避けるためにも、アルバイトやパートなど不安定な非正規雇用も含めた「進路未定者」などへの支援・対策は喫緊の課題である。そして、中・長期的には、大学と産業界(企業)、政府(関係部局等)が協動して「大学と職業との円滑な接続」に向けて具体的に取り組んでいくことが求められる。