22年3月末、学校における評価に関して、2つの『報告』が相次いで出された。
1つは、中教審から出された新学習指導要領における「学習評価」の在り方についての検討報告。もう1つは、「学校評価」について、これまでの「自己評価」と「学校関係者評価」に加えて導入される「第三者評価」のガイドライン策定に関する文科省の調査研究協力者会議からの報告である。
この2つの『報告』は、児童生徒の教育水準の維持向上を保障するとともに、授業の改善や学校運営の改善を図るうえでの基本的な指針を示しており、学校教育・運営に係るPDCAサイクルにおいて密接にリンクしている。
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1.「学習評価」の在り方
中教審は20年1月、学習指導要領改訂に係る『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領の改善について』を答申。これを受け、20年3月に幼稚園、小学校、中学校の学習指導要領が改訂され、21年3月に高等学校、特別支援学校の学習指導要領が改訂された。新しい学習指導要領は、小学校については23年度、中学校については24年度から全面実施、高等学校については25年度から学年進行で実施される。
中教審(児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ)では、学習指導要領改訂に伴い、学習評価の観点や評価規準、評価方法などのほか、指導要録についても検討、議論し、『児童生徒の学習評価の在り方について』(以下、『学習評価の在り方報告』)を先ごろ取りまとめて報告した。
『学習評価の在り方報告』は、児童生徒の学習状況を“分析的”に捉える「観点別学習状況の評価」(観点別評価)と“総括的”に捉える「評定」とを、学習指導要領に定める“目標に準拠した評価”(絶対評価)によって実施している、現行の学習評価の在り方を基本に据えている。新学習指導要領はこれまでの「生きる力」の理念を引き継いでいること、現行の学習評価の意義や在り方が小・中学校を中心に定着してきていることなどから、現行の学習評価の在り方を維持しつつ、その深化を図っていくことが重要であるという。
学習評価は、児童生徒の学校における教育活動に関し、学習状況を評価することである。現在、学習評価は前述のように、各教科において評価の観点ごとに学習状況を分析的に捉える「観点別学習状況の評価」(観点別評価)、及び総括的に捉える「評定」などによって行われている。
ところで、各教科における“評価の観点”は、不変ではない。その時々の学習指導要領の趣旨を活かすために、改訂に伴って見直されている。この30年余りの間、学習指導要領改訂に伴って評価の観点がどのように変わったのか、たどってみよう。
(1)昭和52(1977)年の学習指導要領改訂に伴う指導要録の見直しの際、指導要録にそれまであった「評定」欄に加え、「観点別学習状況」欄が新たに設けられた。これは、昭和40(1965)年代の“詰め込み教育”批判を受け、所謂“ゆとり教育”への転換を示すものといえ、学習意欲の向上や自ら考え行動する態度の育成を重視した学習指導要領の趣旨を活かすべく、各教科の評価の観点として「関心・態度」が共通に示された。
(2)平成元(1989)年の学習指導要領改訂に伴う指導要録の見直しでは、それまでの“知識・理解重視型学力観”から脱却し、「自ら学ぶ意欲の育成や思考力、判断力などの能力の育成に重点を置く」とする“新学力観”に立った学習評価の観点が明確に打ち出された。
すなわち、評価の観点は、基本的には「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技能・表現(又は技能)」「知識・理解」の“4観点”で構成し、観点の順序もこれによるとされた。
(3)10(1998)年の「生きる力」の育成を基本的な理念とする新学習指導要領に伴う指導要録の見直しに当たっても、上記の“4観点”を基本に据えた。
(4)今回の学習指導要領改訂(20年3月小・中学校、21年3月高校)では、“学力の要素”が明確にされたことから、それらと“4観点”との関連が整理(後述)されている。
なお、評価の方法は、10年の学習指導要領改訂(指導要録の通知:13年)から、それまでの「相対評価」(集団準拠)を改め、「絶対評価」(目標準拠)で評価している。
所謂“ゆとり教育”の集大成とまでいわれた10年の新学習指導要領では、その基本理念である「生きる力」(「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」)を実現するための理解や具体的な手立てが教育行政はじめ、学校関係者や保護者、社会との間で十分でなかったといわれる。“学力低下”論が喧伝される中で、教育について、“ゆとり”か“詰め込み”かといった二項対立的な議論がなされてきた。
今回の新しい学習指導要領では、二項対立的な議論を乗り越え、「生きる力」を支える「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」の調和を重視し、基礎的・基本的な知識・技能の習得と、これらを活用する思考力・判断力・表現力等をいわば“車の両輪”として相互に関連させながら伸ばしていくとともに、学習意欲の向上を図ることを求めている。(図1参照)
こうした学力の重要な要素を示した新しい学習指導要領(総則)に先立ち、学校教育法の改正(第30条第2項<小学校:中学・高校にも準用>、19年6月)や前述した中教審の『学習指導要領改善答申』(20年1月)において、「学力の要素」が明確化されている。
これらの法文や答申では、“学力の重要な要素”として、(1)基礎的・基本的な知識・技能の習得/(2)知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等/(3)主体的に学習に取り組む態度、といった3点を挙げている。
『学習評価の在り方報告』は、今回の学習指導要領改訂に伴う「観点別学習状況の評価」について、新学習指導要領は現行学習指導要領の「生きる力」の理念を引き継いでいることなどから、現在の評価の観点を大きく見直す必要はないとしている。
ただし、学力の重要な要素が明確にされたもとでは、学習指導と学習評価との一体化をさらに進めていくために、学力の“3要素”を踏まえて評価の観点を整理する必要があるという。『学習評価の在り方報告』では、学力の“3要素”と評価の“4観点”との関連について、教科によって違いはあるとしつつ、概ね次のように整理している。(図1参照)
(1)基礎的・基本的な知識・技能 ⇔「知識・理解」「技能」 (2)知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等 ⇔「思考・判断・表現」 (3)主体的に学習に取り組む態度 ⇔「関心・意欲・態度」 |
ここで、従来の「思考・判断」を「思考・判断・表現」と設定した趣旨は、各教科の内容等に即して“思考・判断”したことについて、その内容を言語活動中心の“表現”、あるいは教科の特性に応じた“表現”と一体的に評価することを明確にするためであるという。これに伴い、従来の「技能・表現」の観点における「表現」との混同を避けるため、当該観点を「技能」に改めている。
また、各教科における評価の観点は上記の観点を基本としつつ、教科の特性に応じて設定すること、評価の観点の順序が学習指導の順序と必ずしも結び付けられるものではないこと、などに十分留意する必要があるとしている。
小学校児童(中学校・高等学校生徒)等の「指導要録」は、児童生徒の学籍並びに指導の過程と結果の要約を記録し、その後の指導と外部に対する証明等に役立たせる原簿である。
指導要録の記載事項として、小・中学校については、「学籍に関する記録」と「指導に関する記録」(「各教科の学習の記録」として「観点別学習状況」と「評定」/「総合的な学習の時間の記録」/「行動の記録」など)を記入するとされている。
高等学校の指導要録については、各教科・科目等の「評定」の記載はあるが、「観点別学習状況」と「行動の記録」を独立して記載することとはされていない。ただし、学習評価は、例えば、「観点別学習状況の評価」を踏まえながら行うとされており、成績評価に観点別評価を取り入れているところもある。
『学習評価の在り方報告』は、指導要録においても新しい学習指導要等の趣旨を反映した学習評価の基本的方向性を踏まえた改善が必要であるとしている。
具体的には、「関心・意欲・態度」の評価方法や評価時期等の工夫/小学校「外国語活動」における文章記述による評価のほか、「特別活動」や「行動の記録」などについての改善の方向性も示している。
また、「評定」については、簡潔で分かりやすい情報を提供するものとして、児童生徒の教科の学習状況を総括的に評価するものであり、教師同士の情報共有や保護者等への説明のためにも有効であると指摘。小学校(低学年を除く)、中学校、高等学校での「評定」は引き続き必要であるとしている。
ただし、評価結果は進学等に活用されることから、都道府県等の地域ごとに一定の統一性を保つことや、「評定」の決定方法を対外的に明示するとことを求めている。
『学習評価の在り方報告』は、高等学校の学習評価について、現在、「観点別学習状況の評価」の趣旨を踏まえた学習評価を行っている学校がある一方で、ペーパーテストを中心とする所謂、平常点を加味した“成績付けのための評価”に留まっている学校もあると指摘し、小・中学校の状況とは異なっているという。
そのうえで、高等学校においても、学校教育法の改正や新しい学習指導要領を踏まえ、学力の3要素に関する観点についても評価を行うなど、「観点別学習状況の評価」の実施を推進し、きめ細かな学習指導と生徒一人一人の学習の確実な定着を求めている。
指導要録の記載事項については、生徒の特性や進路等に応じて多様な教育課程が編成されていることなどから、大枠のみを示す現行と同様の基本的な方向を維持するとしている。
『学習評価の在り方報告』では、進学等に活用される評価結果の改善などを指摘しているが、学習評価と入試、指導要録と調査書などの関係改善については特に言及していない。
大学入試に供される調査書は、受験生の高等学校における学修や生活状況等をみる資料として一般入試、推薦・AO入試等の出願の際、高等学校側から大学側に提出する文書である。
この調査書には指導要録に基づき、「各教科・科目等の学習の記録」として各教科・科目の在学中の全学年についての「評定」(5~1までの5段階表示)や「修得単位数の計」、「各教科の評定平均値」及び「学習成績概評」などが記載される。
しかし、この調査書に記載される評定値などは学習指導要領の目標や内容に準拠した“目標準拠の評価”-絶対評価-でありながら、その多くは高等学校ごとの評価尺度、すなわち“校内尺度”であるとして、大学側からは客観性や公平性、信頼性が求められる入試への活用には評価の仕方などを検討すべきとの指摘がある。このような指摘は、高校入試において、絶対評価に切り替わった中学校の調査書についてもみられる。
入試の際に上級学校から調査書が校内尺度などと指摘される背景には、到達度評価の“基準”が評価者の主観的な判断にあるといえる。
指導要録や調査書に記載される各教科(科目)の評定値は、4観点や学習指導要領の目標などを踏まえ、「評価規準」に則って目標準拠の絶対評価に基づいて決定される。
高等学校における実技以外の科目では多くの場合、前述したようにペーパーテストの成績(得点)を主な「評価基準」とし、それに「関心・意欲・態度」などの観点から、授業中の評価を加味した総合的な評価となる。したがって、ここでの評価“基準”は、評価の主体をなす“ペーパーテストの難易度”で決定づけられる。つまり、出題者の主観によって決まる。「A校の評定値5は、B校の4よりも実質的には低い」などといった、絶対評価でありながら、校内尺度などと指摘されるのは、こうした事情による。
「学習評価」については学習の目標や評価の“規準”が明確化されているものの、目標に対する到達度を評価する“基準”は各学校や担当教師に任されている実態がある。そのため、評定値は学校間や担当教師の間で格差を生じ、上述のような指摘を受ける結果となる。
こうした大学入試と学習評価や調査書との関係を円滑にし、課題を解決するための方策の一つとして、高等学校での学力の水準(標準性)を客観的に測り、高等学校段階での学力の到達度を評価するための新たな取組みとして、「高大接続テスト(仮称)」の協議、調査・研究が大学・高等学校・教育関係者らによって現在進められている。今秋中には、最終「報告」が提示される予定である。
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2.学校の「第三者評価」のガイドライン策定に向けて
学校評価の目的は、児童生徒がより良い学校生活を送ることができるよう、学校や設置者等が教育活動等の成果を検証し、教育・学習指導、学校運営を改善して教育水準の向上と保障を図ったり、保護者や地域住民等への説明責任を果たし、学校・家庭・地域の連携協力の促進を図ったりすることにあるといえよう。
(1)学校評価の必要性については、『教育改革国民会議報告~教育を変える17の提案~』(平成12(2000)年12月)において、外部評価を含む学校の評価制度を導入し、評価結果を保護者や地域と共有して学校の改善につなげる、などの提言がなされた。
(2)14年度からの新学習指導要領実施(小・中学校。高校は15年度から学年進行)、完全学校週5日制の実施などのもと、同年度から小学校設置基準等(中学、高校等にも準用)において、学校の「自己評価」の“実施・公表の努力義務”などに関する規定が設けられた。しかし、実施内容が不十分で、評価結果の公表も進んでいないなどの課題がみられるとして、学校評価ガイドラインの策定の必要性が指摘された。
(3)文科省は18年3月、上記のような課題を踏まえ、学校評価の目的や方法、評価項目・指標、結果の公表方法などを『義務教育諸学校における学校評価ガイドライン』としてまとめ、各学校(小・中学校、中等教育学校前期課程等)や自治体の取組の参考に供した。
(4)こうした状況のもと、学校評価のさらなる推進を図るべく、19年6月に学校教育法、同年10月に学校教育法施行規則が改正され(小学校のほか、幼稚園、中学校、高等学校等にも準用)、学校の「自己評価」の“実施・公表の義務”、評価結果の設置者への“報告義務”/「学校関係者評価」の“実施・公表の努力義務”、評価結果の設置者への“報告義務”、などに関する規定が設けられた。
(5)この新たな規定や文科省の学校評価に関する調査研究協力者会議の議論等を踏まえ、前記の『義務教育諸学校における学校評価ガイドライン』に高等学校も対象に加えた『学校評価ガイドライン<改訂>』が20年1月に作成された。
当ガイドラインでは、学校評価の実施手法を「自己評価」「学校関係者評価」「第三者評価」の3形態に整理し、「第三者評価」については文科省の調査研究協力者会議において検討を深めるとしていた。
(6)上記の方針に従い、調査研究協力者会議では21年4月から、学校の第三者評価のガイドライン策定等の検討を行い、22年3月末に『学校の第三者評価のガイドラインに盛り込むべき事項等について』を取りまとめて報告した。今後、当報告の趣旨を踏まえ、前掲の『学校評価ガイドライン<改訂>』はさらに改訂される予定である。
今回の『報告』で提言された第三者評価のガイドラインに盛り込むべき事項等について、そのポイントを中心に以下に紹介する。
学校が自ら学校運営を改善し、その教育水準の向上を図るとともに、適切に説明責任を果たして保護者や地域住民等の理解と参画を得て学校づくりを進めていくため、「自己評価」や「学校関係者評価」に加えて「第三者評価」を導入し、学校評価全体の充実を図る。
学校教育法に規定されている学校評価の一環として、学校とその設置者が実施者となり、学校運営に関する外部の専門家を中心とした評価者により、教育活動その他の学校運営全体について、専門的視点から評価を行うもの。
・学校とその設置者が実施者となり、その責任のもとで、「第三者評価」が必要であると判断した場合に実施する。⇒ 法令上の実施義務や努力義務は課さない。
・具体的な実施体制については、地域や学校の実情に応じて柔軟に対応する。
学校運営について専門的視点から評価を行うことができる者(例えば、教育学を専門とする大学教授、校長経験者など)の中から、実施者がふさわしい識見や能力を有すると判断したうえで選定する。
・実施者が実施時期・日程、評価項目等を決定し、評価者が授業の観察等により評価。
・各学校の目標の設定・達成に向けた取組状況など学校運営の在り方について評価し、学校の優れた取組や今後の学校運営の改善につなげるための課題や改善の方向性等を提示。
・過度に学校の事務負担が増えないように配慮する。
・評価者が責任をもって評価結果の取りまとめを行う。
・評価結果は、評価対象校及び設置者等に報告する。
・学校は、評価結果を踏まえて、自ら学校運営の改善に努めるとともに、評価結果を学校関係者に説明、情報提供する。広く公表することについては、個人情報保護の観点や、学校の序列化助長の可能性などから、慎重な対応が望まれる。
・設置者は、評価結果を踏まえて、学校の支援や必要な改善措置を講ずる。
・ガイドラインは、まずは主として公立の小・中学校を念頭に置きつつ、各学校やその設置者の取組の参考となるよう構成する。
・幼稚園、高等学校、特別支援学校、私立学校については、その特性を踏まえた第三者評価の在り方についてさらなる検討が必要である。
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学習評価は、児童生徒一人一人の学習状況を評価して個人の学力向上等につなげていくだけでなく、教師の学習指導の改善や学校における教育活動全体の改善に結び付けていくことが大事だ。
教師や学校にとって学習評価は、(1)教育課程の編成や、それに基づく各教科等の学習指導の目標や内容、評価規準や評価方法等を含めた指導計画等の組織的な“作成”-Plan/(2)指導計画等を踏まえた教育活動の“実施”-Do/(3)児童生徒の「学習評価」と、それを踏まえた授業や指導計画等の“評価”-Check/(4)“評価”を踏まえた授業改善や児童生徒一人一人の個に応じた指導の充実と指導計画等の“改善”-Action、といった学習指導に係る“PDCAサイクル”の中で教育活動の改善に資する基本的な資料となる。
学習指導に係るPDCAサイクルは、固定化されているものではなく、様々な段階で適宜繰り返されながらスパイラルに展開されていくものであろう。
また、上述のようなPDCAサイクルは、教職員による「自己評価」において中心的に位置づけられるとともに、「第三者評価」も含めた「学校評価」全体の枠組みの中で適切に実施されていくことが求められよう。