大学の学生定員(収容定員)は、教員組織や施設等の規模、教育環境の確保、教育の質保証の観点などから大学設置基準によって規制、管理され、各学部の学則で定められている。
ただ、入学定員や収容定員に対するそれぞれ入学者数、在籍学生数の割合である「入学定員充足率」や「収容定員充足率」が100%(1.0倍)に収まることは少なく、「入学定員割れ」、「入学定員超過」として問題視され、適正な定員管理に向けた措置が講じられている。
他方、地方創生の一環として、大都市圏への学生集中を是正するため、私立大の入学定員超過に対する私学助成の厳格化が28年度以降実施される。国立大でも超過した学納金返納の基準強化が図られる。また、学部設置認可申請の厳格化も29年度開設分から実施される。
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大学の学生定員、つまり「収容定員」は当該大学が、その教員組織や校地、校舎等の施設などと照らし合わせ、適正な教育環境の下で収容できる学生の定員数である。編入学定員が設定されている場合は、「入学定員」と「編入学定員」がそれぞれ明示されている。
また、「在籍学生数」は実際に大学に在籍している学生数であり、「入学者数」は当該年度に実際入学した人数である。
こうした大学の学生定員に係る基準事項は、「大学設置基準」(文科省令)によって、次のように規定されている。
なお、教員組織や校地、校舎等の施設などについては、大学設置基準のそれぞれの条項で学部の種類や規模等に応じて具体的な数値が明示され、規定されている。
1.定員管理の適正化:現行の取組み
大学・学部等が学則に定めた入学定員や収容定員を大きく超えて学生を受け入れたり、逆に定員を大きく割り込んでしまったりすると、教育環境の悪化を招くなど、教育の質保証にも支障を来すことになりかねない。
そのため、定員管理の適正化を図る観点から、様々な措置が講じられている。
まず、私立大における定員管理の適正化に関し、ほぼ全ての私立大が措置対象となる「私立大等経常費補助金」(以下、経常費補助金) 制度についてみておこう。
私立大等(短大・高専含む)は、国から経常費補助金を日本私立学校振興・共済事業団(以下、私学事業団)を通じて交付される。
経常費補助金には、教職員数や学生数等に所定の単価を乗じて得た「基準額」を基に、「学生定員の管理状況」(収容定員や入学定員の充足率など)や教育・財務情報の公表状況、教員組織の充実度、学生納付金の教育研究経費等への還元状況などに応じて交付される「一般補助」/各私立大等における教育研究に関する特色ある取組みや学生の経済的支援などに応じて、「一般補助」に上乗せして交付される「特別補助」がある。つまり、“定員管理に関わる経常費補助金”は、基盤的経費として不可欠な「一般補助」が対象となる。
因みに、26年度の私立大(短大・高専含まない)への経常費補助金の交付校数は568校、総額2,990億3,862万3,000円(前年度より17億1,098万6,000円、0.6%増)で、一般補助=2,572億3,160万6,000円、特別補助=418億701万7,000円であった。
ただ、私立大等(短大・高専含む)の経常的経費に対する経常費補助金の割合は毎年度低下しており、25年度は10.3%である。私立学校振興助成法(昭和50<1975>年7月)の附帯決議では、経常費補助金の割合を「できるだけ速やかに二分の一とするよう努めること」とされている。
私学事業団によると、27年度の私立大(集計579校)の「入学定員充足率」は105.0%(加重平均)だが、「入学定員割れ」は250大学(集計校の43.2%)である。
「一般補助」の基準額は、定員(入学定員、収容定員)の充足率(定員超過、定員割れ)の度合いに応じた各区分の増減率で調整され、経常費補助金の交付額は「増額」、「減額」、または“不交付”になる。
【定員超過の場合】
(1) 各学部等において、当該年度の5月1日現在の「在籍学生数の収容定員に対する割合」(収容定員充足率、「収容定員」超過率)及び「入学者数の入学定員に対する割合」(入学定員充足率、「入学定員」超過率)が、次表(表1参照)のⅠ.またはⅡ.の定員超過率にある場合、学部等への補助金は“不交付”になる。
27年度の場合、① 「収容定員8,000人未満の大学」(小・中規模校)は「収容定員」超過率=1.50倍以上、または「入学定員」超過率=1.30倍以上/② 「収容定員8,000人以上の大学」(大規模校)は「収容定員」超過率=1.40倍以上、または「入学定員」超過率=1.20倍以上でそれぞれ“不交付”となる。
ただし、医・歯・生命歯・口腔歯学部では、「入学定員」超過率=1.10倍以上で “不交付”となる。
また、大学(全体)等に対しても、学部等と同様の不交付措置が講じられる。(表1参照)
(2) 上表以外でも、一定の「収容定員」超過率以上にある学部等は、次のような調整表(26年度:表2-①、②参照)に応じて、経常費補助金(一般補助)は「減額」となる。
【定員割れの場合】
(1) 当該年度の5月1日現在の「在籍学生数の収容定員に対する割合」(収容定員充足率)=50%以下の学部等は、原則として経常費補助金(一般補助)が“不交付”となる。
(2) 上記(1)において、「収容定員充足率」が50%を超えていても、充足率の割合(収容定員割れ)に応じて、学部等への経常費補助金の「減額」措置が講じられている。
「最大減額率」は、19年度=18%(「収容定員充足率」58%~) → 20年度=23%(同58%~) →21年度=30%(同54%~) → 22年度=39%(同54%~) → 23年度=50%(同54%~)と、年度ごとに強化されてきた。
26年度については、次のような調整表によって減額されたが、「収容定員充足率」が低下するほど、減額率は大きくなっている。(表3参照)
国立大でも学生数の適正規模と教育の質保証の観点などから、定員の充足率と学生の教育費とに関わる定員管理が行われている。
具体的には、一定の「入学定員」超過率を超えた学生納付金相当額/あるいは「収容定員充足率」が一定率を下回った場合、運営費交付金のうち、未充足の学生の教育費相当額をそれぞれ国庫に返納する措置がとられている。(図1参照)
【定員超過の場合】
国立大の「定員超過」に対する是正措置は、16年度の法人化後間もない18年度に国立大の「入学定員」超過率が私立大を僅かに超えたことなどから、20年度から段階的に強化されてきた。
現行では、大・中規模学部(学部入学定員100人超)は「入学定員」超過率=1.1倍以上、小規模学部(学部入学定員100人以下)は「入学定員」超過率=1.2倍以上で、それぞれ“「入学定員」超過率以上の入学者数分”の「学生納付金相当額」を国庫に返納する措置が講じられている。
また、各年次においても、それぞれの「定員超過率」(現行では学部定員100人超の場合、1.1倍)以上の学生数分の授業料収入相当額を国庫に返納する。
国立大の入学定員(学部)は少子化にあわせ、11年度に10万人台を割って以降漸減し、最近は9万6,000人台で推移している。27年度の「入学定員」超過率は1.04倍(入学定員充足率103.5%)で、充足率では10年前より4.4ポイント下降している。
【定員割れの場合】
「収容定員充足率」=90%を下回る場合、運営費交付金の積算における、“学生受入れに要する経費として措置されている額”のうち、「未充足分に相当する額」を国庫に返納する。
国庫への納付額は、「(収容定員-在籍学生数) × 学生1人当たりの教育費単価」である。
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2.定員管理の“厳格化”:大都市圏への学生集中の是正
大学設置基準で規制、管理されている大学の学生定員については、その適正化に向けて私立大への私学助成の基準強化や国立大での超過した授業料等の国庫返納など具体的な是正措置が現在講じられている。
他方、少子高齢化と都市部への学生の集中化が進む中、政府が進める地方創生政策において、大学進学時の大都市圏への学生集中を抑制するなどの方策も示されている。
◆ 地域の産業、担い手を育てる大学
政府の教育再生実行会議は『「学び続ける」社会、全員参加型社会、地方創生を実現する教育の在り方について』(『第6次提言』27年3月)で、次のように学生等の地方への定着をはかり、地域の産業、担い手を育てる大学等の在り方などを提言した。
◆ 地方大学等の活性化
政府は、人口減少問題や地方創生などを踏まえた「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」(27年6月閣議決定)を策定した。そこでは、「地方大学等の活性化」を取り上げ、次のような地元学生の定着促進のプランを明記している。
学生が大都市圏の大学に集中している状況は、学校教育の基本データである『学校基本調査』(文科省)からも読み取れる。
例えば、27年度の都道府県別の「大学進学者数(新卒者)の全国比率」と「大学入学者数(既卒者含む国公私立大)の全国比率」を比較してみる。
東京都では大学進学者数の対全国比が12.4%であるのに対し、大学入学者数の対全国比は24.1%であり、全国の大学入学者のほぼ“4人に1人”が東京都に集中している。
このように、「大学進学者数の対全国比」以上に「大学入学者数の対全国比」が高いのは東京都のほか、大阪(大学進学者比率7.5%<大学入学者比率8.5%)/神奈川(同7.1%<同7.9%)/愛知(同6.5%<同6.8%)/京都(同2.7%<同5.5%)/福岡(同3.8%<同4.2%)/宮城(同1.7%<同1.9%)/滋賀(同1.2%<同1.2%:小数点第2位比較)/石川(同0.9%<同1.0%)の8府県である。
つまり、大都市圏を抱えるこれらの都府県では、大・中規模の私立大を中心に他地域から学生が集中し、地元新卒者の大学進学者数の全国比率以上に大学入学者数の全国比率が高くなっていることが伺える。(表4参照)
大学数及び学部入学者数とも全体(国公私立大)の8割近く占める私立大について、その地域別、規模別の入学状況をみてみる。
◆ 入学定員充足率:大都市圏=106.6% VS.地方=97.9%
私学事業団が集計した全国21地域(*注.参照)における27年度の「入学定員充足率」(集計は学部所在地ごと)をみると、「大都市圏」(11地域)では、兵庫(入学定員充足率99.84%)/千葉(同99.19%)/広島(同95.53%)以外の地域は入学定員を充たしており、「大都市圏」全体の入学定員充足率は全国平均の105.04%を1.54ポイント上回る106.58%である。
特に、東京は110.04%と高く、以下、神奈川(同108.09%)/大阪(同107.26%)/埼玉(同106.86%)/京都(同106.16%)/愛知(同106.09%)がそれぞれ全国平均を上回っている。
一方、「地方」(10地域)では、近畿(同104.06%)/北陸(同102.22%)/甲信越(同100.35%)以外は“未充足”地域で、「地方」全体では全国平均を7.14ポイント下回る97.90%である。
私立大の入学状況に限っても、東京を中心にした「大都市圏」における入学定員超過が現れている。(図2参照)
◆ 「入学定員800人未満」で“入学定員割れ”
私学事業団が集計した私立大の規模別の入学動向をみると、過去数年間、入学定員充足率及び志願倍率とも、“入学定員800人”が大きな分岐点となっている。つまり、「入学定員800人未満」の小規模大学は、“定員割れ・低倍率”状態である。(図3参照)
● “大規模大学23校”の入学者数、全体の3割超
27年度の私学事業団集計によると、私立大の「入学定員3,000人以上」の“大規模大学23校”(全集計校数579校の4.0%)の入学定員は13万3,935人(全入学定員の28.9%)、志願者数は156万8,846人(全志願者数の44.7%)、入学者数は14万6,478人で、全入学者数の30.1%を占めている。
◆「入学定員超過」校の超過学生4.5万人の7割が“大・中規模校”、8割が“三大都市圏”
26年度の私立大「入学定員」(集計578校:私学事業団調べ。以下、同)は、46万251人、「入学者数」は47万7,630人で、「入学定員超過」の学生は“1万7,379人”、「入学定員充足率」は“103.78%”になる。
この「入学定員超過」の学生数と「入学定員充足率」は、“入学定員割れ”265校(集計校の45.8%)を含む集計578校全体の「入学定員」と「入学者数」から算出した数値である。
他方、文科省の『28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知)』(27年7月。以下、『私立大「定員管理」通知』)は、私学事業団のデータを基に、“「入学定員超過」校における入学定員超過の学生”の実態を次のように記している。
文科省の『私立大「定員管理」通知』に記された「26年度の“約4万5,000人”の入学定員超過」は、“入学定員超過状態の大学における入学者の超過分”をそれぞれ積み上げた人数である。上述の私学事業団調査による「入学定員超過」の学生数は、入学定員割れ大学の入学者数も含めた全体の入学者数から算出しているため、約“1万7,000人”となる。
私立大「入学定員超過」校の実態としては、超過入学者約4万5,000人のうち、約7割の約3万1,000人が「収容定員4,000人以上」の“大・中規模校”に集中し、約8割の約3万6,000人が“三大都市圏”(首都圏<東京・神奈川・千葉・埼玉>/中部圏<愛知>/関西圏<大阪・京都・兵庫>)に集中している。また、大・中規模校の超過入学者の約9割に当たる約2万7,000人は“三大都市圏”に集中している。(図4参照)
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文科省は27年7月、教育環境の維持・向上や地方創生の観点、及び前述した私立大「入学定員超過」校の実態などを踏まえ、適正な定員管理に向けて経常費補助金の配分に係る基準を厳格化することを決めた(『私立大「定員管理」通知』)。
◆ 経常費補助金“不交付”の厳格化 (表5参照)
● 現行(27年度)の場合
現行(27年度)の経常費補助金の取扱要領では前述したように、“大学の規模”を収容定員➀「8,000人未満」と➁「8,000人以上」に分け、「入学定員」超過率が➀の場合は「1.30倍以上」/➁の場合は「1.20倍以上」だと経常費補助金は“不交付”となる。
● 28年度~30年度:中規模校、大規模校で段階的に厳格化
28年度からは、大学の規模、つまり収容定員を➀「4,000人未満」(小規模校)/➁「4,000人以上、8,000人未満」(中規模校)/➂「8,000人以上」(大規模校)の3つの規模に分ける。
28年度の場合、「入学定員」超過率が➁の中規模校の場合は「1.27倍以上」/➂の大規模校の場合は「1.17倍以上」でそれぞれ“不交付”になる。
さらに29年度は、➁の場合「1.24倍以上」/➂の場合「1.14倍以上」で、30年度は➁の場合「1.20倍以上」/➂の場合「1.10倍以上」でそれぞれ“不交付”となり、年度を追って段階的に厳格化される。
➀の小規模校の場合は、現行と同様、各年度とも「1.30倍以上」で“不交付”となる。
●「収容定員」超過率の取扱は現行のまま
今回の厳格化は「入学定員」に係るものであり、「収容定員」超過率に係る現行の“不交付の基準”(収容定員8,000人未満=「1.50倍以上」/収容定員8,000人以上=「1.40倍以上」でそれぞれ不交付)は改正されない。(表1参照)
◆ 「入学定員」超過の学生経費額の減額等
● 「入学定員」超過率“1.0倍超”の入学者経費の“減額”措置
現行の経常費補助金の「一般補助」では、教育研究経常費等の算定において、学部の「“「収容定員」超過率”が1.0倍超」の学生経費相当額を“措置していない”。
これに対し、31年度からは、「“「入学定員」超過率”が1.0倍超」の入学者に見合う学生経費相当額をさらに“減額する”ことが予定されている。
例えば、「収容定員8,000人以上」の大規模校の場合、入学定員100人の学部で入学者が104人であった場合、入学定員超過の4人(超過入学者分)に見合う経費相当額の減額が予定されている。また、「収容定員4,000人以上、8,000人未満」の中規模校では“超過入学者の1/2”、「収容定員4,000人未満」の小規模校では“超過入学者の1/3”に見合う減額が予定されている。
● 適正な定員管理の努力を促進する“増額”措置
上記のような減額措置の一方で、定員管理の適正化に向けた努力を促進する施策として、31年度から「入学定員充足率が95%以上、100%以下」の場合、一定の“増額”措置が予定されている。
例えば、「入学定員100人」の学部で入学者96人(入学定員充足率96%)の場合、“未充足の4人分程度の増額”が措置される予定である。
国立大の学生定員の管理については現在、前述したような「定員超過」及び「定員割れ」について、定員の充足率と学生の教育費などに関わる措置が講じられている。(図1参照)
28年度からは、“入学定員超過”について、「学生納付金相当額の国庫返納の「入学定員」超過率の基準」が段階的に厳格化される。(表6参照)
◆ 「学納金」“国庫返納”の厳格化
まず、「学部」規模を現行(27年度)の「小規模学部」(学部入学定員100人以下)と「中・大規模学部」(同100人超)の2区分から、➀「小規模学部」(同100人以下)/➁「中規模学部」(同100人超、300人以下)/➂「大規模学部」(同300人超)の3区分にする。
そのうえで、「入学定員」超過率が一定の基準を超えた場合、その基準を超えた入学者数分の「学生納付金相当額」を国庫に返納することになる。その際、「入学定員」超過率の基準を、28年度~30年度までの3年間で段階的に厳格化する。
➀「小規模学部」の場合は、28年度「1.19倍以上」(国庫返納の基準となる「入学定員」超過率。以下、同) ⇒ 29年度「1.17倍以上」⇒ 30年度「1.15倍以上」/➂「大規模学部」の場合は、28年度「1.09倍以上」⇒ 29年度「1.07倍以上」⇒ 30年度「1.05倍以上」となる。➁「中規模学部」の場合は、各年度とも現行と同じ「1.10倍以上」である。
◆ 超過入学者の「教育費」の“国庫返納”
31年度からは、全ての学部において、「「入学定員」超過率が“1.0倍超”」の場合、運営費交付金で措置されている“超過入学者数分の教育費相当額”を国庫に返納することが予定されている。
国私立大の定員管理と財政的な措置の強化策と併行し、公私立大における学部等の設置に係る「入学定員超過」についても厳格化が講じられる。
現行では、公私立大の「設置認可」申請に関して、「平均入学定員超過率」(修業年限4年の場合、開設前年度から過去4年間の平均値)に係る要件を、大学の規模(収容定員)に関係なく、一律「1.30倍未満」とされている。
これに対し、29年度~31年度までの開設に関し、大学の「収容定員」規模や学部の「入学定員」規模に応じて、「1.05倍未満」から「1.15倍未満」の範囲で基準が厳格化される。
具体的には、下表(表7参照)のような段階的な強化が図られる(文科省『大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準の一部を改正する告示の施行について(通知) 』:27年9月)。
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学生定員の管理については、教育環境の維持・向上、教育の質保証といった“教学的な側面”と、学生納付金や経常費補助金、運営費交付金といった“財政的な側面”がある。
定員管理を財政的な側面からみれば、“安定した十分な定員充足率”(入学定員、収容定員とも、超過率の規定基準内で安定していること)が求められる。
私立大では、全体としてみると大学収入の8割近くが学費等の学生納付金で占められていることから、学生数の増減、つまり学生定員の管理は私学経営に大きな影響を与える。
そこで、ここまで「入学定員超過」とその是正方策を中心にみてきたが、ここでは私立大入試における「入学定員割れ」の実態などを探ってみる。
大学入学者の多くを占める18歳人口は、平成4(1992)年の205万人を直近のピークとして減少し、27年度は120万人まで減っている。そうした状況の下、私立大の「入学定員充足率」はアップ・ダウンを繰り返しつつ、下降傾向にある。(図5参照)
ただ、私学事業団の集計によると、27年度の私立大「入学定員割れ」校が250校(集計校の43.2%)に達しているものの、“全体の「入学定員充足率」は105.0%”で、入学定員を充たしている。これは前述したように、多くの「定員超過」入学者を抱える大・中規模校と、「定員割れ」の小規模校の未充足定員を含めた加重平均値によるためである。
文科省の「27年度国公私立大学入学者選抜実施状況」(27年10月。以下、「27年度入学者選抜実施状況」)によると、私立大(580校)の入試形態別の入学状況は、「一般入試」入学者が49.0%(入学者約47万8,000人に占める割合。以下、同)、「推薦入試」入学者が40.1%、「AO入試」入学者が10.5%、「その他」(専門高校・総合学科卒業生選抜など) の入学者が0.4%となっている。
入学者の半数近くを占める「一般入試」の募集人員は約26万人、入学者は約23万4,000人で、「入学定員充足率」は“90.1%”となり、「入学定員割れ」状態である。
因みに、全ての入試形態を含む私立大の入学定員は約45万9,000人、入学者は約47万8,000人で、“「入学定員充足率」は104.1%”となる。
なお、上記の私学事業団調査の充足率と若干異なるのは、集計数等の違いによるとみられる。(表8参照)
いずれにしても、私立大の「入学定員充足率」は全体(全ての入試形態)で“定員超過”でありながら、文科省集計による「一般入試」では“定員割れ”状態である。このことから、私立大における入学者定員の確保には、「推薦・AO入試」が資していることが伺える。
検 証 「歩留まり」 と 「入学定員充足率」
大学にとって“安定した十分な定員充足率”を得るには、合格者の「歩留まり」をどう見極めるかがポイントになる。特に私立大では受験生の変動が大きくなりがちで、その動向を判断することが重要である。
ここでは、文科省の「27年度入学者選抜実施状況」における私立大入試(一般・推薦・AO入試等)の実施結果から、「歩留まり」と「入学定員充足率」との関係を検証してみる。
たとえ志願者数(→ 受験料収入)が減っても、入学定員(→ 学生納付金収入)が確保できていれば“よし”とする見方もあり、定員確保のための合格者数等が問題となる。
文科省の「27年度入学者選抜実施状況」における私立大の入試実施結果(一般・推薦・AO入試等:表8参照)を基に入試全体の流れを集約すると、次のようになる。
➀ 志願者の96.1%が受験した(受験率96.1%)
➁ 受験者の36.5%が合格した(合格率36.5%)
➂ 合格者の38.5%が入学した(歩留率38.5%)
これを、例えば志願者1,000人として上記の27年度私立大入試の流れにあてはめてみると、下図(図6参照)のようになる。
☆ 入学者に対して7.4倍(1,000人÷135人)の志願者がいることになり、もし入学定員が135人の場合、志願者1,000人で入学定員充足率100%となり、定員は確保される。
☆ 受験率や歩留率は一般的には志願者の併願状況等によって決まり、合格率は入学定員に対してどの程度の入学者数を確保しようかという各大学の判断で決まる。
上記の例で、もし入学定員が200人の場合、入学定員充足率は67.5%(135人÷200人)で“入学定員割れ”となる。
そこで、合格率を54.1%[200人÷(961人×38.5%)]に引き上げると(合格者数=520人)、入学者は200人(520人×38.5%)となり、入学定員は確保できる。
☆ 全入状態での定員確保 ~ 27年度の場合、「志願倍率2.7倍以下」は“入学定員割れ” ~
受験者が減少して定員確保が極めて困難な場合、合格率は限りなく100%に近づく。上記の場合で合格率を100%とすると、入学者は370人(1,000人×96.1%×100.0%×38.5%)となり、入学者に対して2.7倍(1,000人÷370人)超の志願者が必要となる。
つまり、27年度の私立大入試全体(一般・推薦・AO入試など含む)としては、入学定員の“2.7倍超”の志願者がいないと、合格率を100%(全入)としても「入学定員割れ」を起こしたことになる。
ところで、今回の学生の定員管理に係る厳格化は、政府の掲げる地方創生の観点から、大都市圏への学生集中を是正するための方策である。
ただ、これまでみてきたように、この厳格化は学生が集中している“三大都市圏”に限定されたものでなく、大学の“規模(収容定員)
”に応じて適用される。これは、三大都市圏にある都府県でも、都市部と郊外では学生の集中度に大きな差があることなどから、大学の規模に視点をおいたものとみられる。
文科省によると、今回の私立大の学生管理に係る基準の厳格化で抑制される定員超過の学生は約1万6,000人にのぼり、そのうち約9割に当たる約1万4,000人は三大都市圏に集中しているという。つまり、この学生集中是正策は、地方創生にも資するとしている。
ところで、学生定員の適正な管理は重要であるが、地方創生を踏まえた今回の是正策が学生の動きにどう影響するか注目される。定員超過の学生を多く抱える私立の大規模校を中心に入試段階でまず、合格者数の“絞り込み”による入学難易度の上昇も想定される。また、受験生の「歩留まり」がつかみにくい「一般入試」枠の募集人員を減らし、入学定員を計画的に確保しやすい「推薦・AO入試」枠を拡大するなどの動きもあろう。
さらに、この是正策は大学定員そのものの拡大を抑制するものでないため、私立の大規模校を中心に規定基準内での学部等の新設や定員拡大なども想定される。
学生の「大都市圏・大規模校」集中を是正するためには、定員管理強化だけでなく、地元自治体や企業等と連携するなどして地方の拠点になる“魅力ある”地方大学が求められる。