今月の視点 2014.10

26年「司法試験」:合格者12%減の1,810人、合格率最低の22.6%!

「法科大学院組」合格者“減”・合格率“低下”で苦戦。「予備試験組」受験者・合格者“増”で拡大!

2014(平成26)年度

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 司法制度改革の一環として、法曹の量的拡大と質的充実を図るため16(2004)年度に法科大学院が創設され、18年からは新制度の司法試験が実施されている。26年司法試験合格者数は前年より11.7%減の1,810人、合格率は3年ぶりの低下で18年以降最低の22.6%。合格者の内訳は、法科大学院修了者(法科大学院組)が14.6%減の1,647人、予備試験通過者(予備試験組)が26.4%増の163人。合格率は前者21.2%、後者66.8%でともに低下した。
 新司法試験の実施当初目標とされた合格者年間3,000人、合格率7~8割にはほど遠く、政府は25年7月、合格者3,000人目標を撤回。法曹人口や予備試験制度の在り方等を検討している。文科省も法科大学院の改善に公的支援見直しの更なる強化策等を打ち出している。

 

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< 司法試験の動向 >

 

 新制度に切り替わった18年以降の司法試験のこれまでの受験・合格状況をみると、18年~23年までは受験者数の増加、合格者数の停滞状態と合格率の低下が目立つ。24年は受験者数の減少、合格者数の増加、合格率の上昇といった好転換がみられた。25年は受験者数が2年連続減少、合格者数もやや減少したが、合格率は2年連続のアップとなった。
 26年は受験者数が3年ぶりに増加したが、合格者数は2年連続の減少で、合格率は新制度になった18年以降で最低となった。(図1・図2、表1・表2・表3参照)

 

受験状況

 

 司法試験の受験者数は、法科大学院における既修者コース(2年制)のみの受験となった18年(第1回)は2,091人であったが、未修者コース(3年制)も加わった19年には18年の2.2倍に当たる4,607人となり、以降、年々増加して23年には8,765人に達していた。
 しかし、24年は初参加の「司法試験予備試験」(以下、予備試験。後述)合格者(予備試験組)85人の受験を加えても、前年を初めて378人(4.3%)下回る8,387人だった。25年は予備試験組の受験者が24年より82人(96.5%)増の167人に増加したが、法科大学院修了者(法科大学院組)が816人(9.8%)減少し、全体では24年より734人(8.8%)減の7,653人だった。
 26年は法科大学院組、予備試験組ともに受験者が増加し、全体では前年より362人(4.7%)増の8,015人で、3年ぶりに増加した。
受験者の内訳をみると、法科大学院組は25年より285人(3.8%)増の7,771人、予備試験組は77人(46.1%)増の244人で、予備試験組の大幅増が注目される。
 また、26年の法科大学院組の受験者7,771人のうち、未修者コースが既修者コースの1.3倍に当たる4,354人(占有率56.0%)で、既修者コースは3,417人(同44.0%)である。

 

合格状況

 

◆ 合格者数
 司法試験の合格者数は18年の1,009人から20年の2,065人まで増加したが、21年は20年より22人減の2,043人に減少。22年はやや増加して2,074人であったが、23年は再び22年より11人減の2,063人。24年は法科大学院組の合格者2,044人(前年に比べ19人減)に初参加の予備試験組の合格者58人が加わり、全体の合格者数は2,102人(同39人増)となった。25年は法科大学院組の合格者1,929人(同115人減)、予備試験組の合格者120人(同62人増)で、合計2,049人(同53人減)だった。
 26年は法科大学院組の合格者が前年より282人(14.6%)減の1,647人、予備試験組の合格者が前年より43人(26.4%)増の163人で、全体の合格者数は前年より239人(11.7%)減の1,810人となり、2年連続の減少である。
 また、26年の法科大学院組の合格者1,647人のうち、既修者コースが未修者コースの2.1倍に当たる1,121人(占有率68.1%)、未修者コースが526人(同31.9%)である。
 ● 合格者の“集中化”
 法科大学院74校(廃止、募集停止校の受験者含む)の26年合格状況をみると、合格者ゼロが4校、1桁台が39校で、合格者100人以上の5校(全校数の6.8%:合格者合計774人)と予備試験組の合格者(163人)を合わせると937人となり、全合格者の51.8%を占めている。また、予備試験組を含め合格者130人の6位と7位の64人とでは2倍以上の開きがあり、合格者の一部法科大学院への集中化がうかがえる。
 ● 「司法試験」合格者数、8年ぶりに“2,000人割れ”
 ところで、旧司法試験は23年まで実施されたが、14年から現行の司法試験開始前年の17年までの合格者数は毎年1,100人台~1,400人台で推移していた。そして、新司法試験開始の18年以降は、18年=約550人 → 19年=約250人 → 20年=約140人 →21年=約90人 → 22年=約60人 → 23年=6人となり、急激に減少していった。
 26年司法試験の合格者数が1,810人となって2,000人を割り込んだが、これは新司法試験と旧司法試験の並行実施期間(18年~23年)における新・旧司法試験合格者の合計を含め、18年の1,558人(新司法試験合格者1,009人、旧司法試験合格者549人)以来、8年ぶりである。
◆ 合格率
 司法試験の合格率は、18年(第1回。既修者コースのみ)の48.3%を最高に、23年まで受験者増と合格者数の停滞状態を反映して年々低下し、23年は23.5%まで低下した。
 24年は受験者数が減少したことに加え、難関をパスした予備試験組の新規参入などから、合格率は23年より1.5ポイント上昇の25.1%となり、19年以降5年連続の下降から初めて脱した。25年も受験者数減少の下、予備試験組の高い合格率(24年より3.6ポイント上昇の71.9%)と法科大学院組の合格率アップ(24年より1.2ポイント上昇の25.8%)で、全体の合格率は24年より1.7ポイント上昇の26.8%で、2年連続の上昇となった。
 26年は前述のように、受験者数が増加(前年比4.7%増)したのに対し、合格者数が減少(同11.7%減)し、合格率は前年より4.2ポイント下降の22.6%で、3年ぶりの低下となった。合格率22.6%は、現行の司法試験が始まった18年以降で最低である。
 26年の法科大学院組の合格率は21.2%(前年に比べ4.6ポイント下降)で、3年ぶりの低下である。一方、予備試験組の合格率は66.8%と、法科大学院合格率トップより14ポイントほど高いが、24年の初参加以降で最低だった。
 なお、26年の既修者コースの合格率は前年より5.6ポイント下降の32.8%、未修者コースの合格率は4.5ポイント下降の12.1%で、未修者コースの合格率は既修者コースの3分の1程度である。

 

 

◆ 各法科大学院の合格実績
 各法科大学院における18年~26年までの司法試験合格実績をみてみよう。
 当期間における全法科大学院の累積合格者数は、1万6,725人である。各法科大学院の合格者数は、東京大1,674人(累積合格率77.8%)/中央大1,550人(同68.0%)/慶應義塾大1,469人(同75.3%)/京都大1,185人(同77.3%)/早稲田大1,160人(同58.8%)/明治大688人(同48.1%)/一橋大625人(同79.5%)の7校が累積合格者数600人以上である。
 一方、国立1校、私立1校が累積合格者数10人台で、私立1校は3人(同3.8%)に留まる。
 この間の各法科大学院の累積合格率は、一橋大79.5%/東京大77.8%/京都大77.3%/慶應義塾大75.3%/神戸大69.0%など15校が50%以上で、全法科大学院の累積合格率49.2%の“半分”に達していないのは25校に上る。そのうち15校が合格率10%台、1校が1桁である。合格者数、合格率の法科大学院間の格差が目立つ。(表1・表2・表3参照)

 

 

受験資格の“喪失”

 

 司法試験の「受験資格」は、法科大学院修了者及び予備試験合格者とされているが、受験に際しては“期間”及び“回数”に関しての制限がある。26年司法試験までは、次のような受験制限が課せられていた。
 なお、受験制限に係る法令はこのほど改正、施行されている(後述)。
 26年までの司法試験において、法科大学院修了者及び予備試験合格者は、それぞれ「課程修了日後あるいは合格発表日後の最初の4月1日から5年間の期間において、3回の範囲内」で受験することとされていた。
 また、当該受験資格に基づく“5年間の受験期間”を経過し、かつ、最後に司法試験を受験した日後の“2年”を経過しなければ、当該受験資格とは別の受験資格で司法試験を受験することはできないとされていた。
 司法試験にこうした“受験制限”(所謂“三振制度”等)を設けていたことは、不合格者への早期の転進(法曹以外の法学関連分野等)を促し、受験生の停滞(司法試験浪人の累積)を回避することや、法科大学院等での教育・学習効果が時間の経過とともに薄らいでいくことなどを勘案したためとみられる。
◆ 「受験回数」等制限の緩和措置
 司法試験の上記のような「受験回数」等の制限については、「5年以内5回まで」などとする緩和措置の検討が25年7月に決まり(法曹養成制度関係閣僚会議)、1年以内に結論を得るとされていた。そして、「法科大学院修了もしくは予備試験合格後、最初の4月1日から5年の期間内は司法試験を毎回受験することができる」とする旨や、「特定の受験資格に基づく最後の受験をした日後の最初の4月1日から2年間は他の受験資格に基づいて司法試験を受験できない旨の規定撤廃」の改正司法試験法が26年10月1日に施行された。

 

法科大学院修了者の5割以上が司法試験の“受験資格喪失”

 

 上述したようなこれまでの受験制限内に司法試験の合格を果たせず、“受験資格喪失”となった法科大学院修了者は、これまでの司法試験において、17年度修了者(既修者コースのみ)の約3割を除き、修了者の5割以上に及ぶ。26年司法試験までの受験資格喪失者の多くは所謂“三振者”(5年期間内に3回受験して全て不合格)であるが、受験機会の放棄者、物故者等も含まれる。また、未修者コースの喪失率は既修者コースの喪失率より大幅に高く、法学未修者(法学部出身の“隠れ既修者”も含む)が標準修業年限3年の教育カリキュラムで司法試験に合格することの難しさを示している。

 

“受験制限”を経過した各年度修了者の司法試験合格状況

 

 法科大学院修了者による司法試験は、これまで9回(18年~26年)実施されており、17年度~21年度の各修了者が「5年期間内に3回受験」とする26年司法試験までの受験制限を経過している。
 受験制限を経過した当該年度修了者の司法試験合格状況の概要は、次のとおりである。
① 17年度修了者(18年~22年司法試験受験可能)
 ・実入学者数(16年度「既修者コース」のみ)=2,350人 → 17年度修了者数(「既修者コース」のみ)=2,176人  → 合格者数(18年~22年)=1,518人 → 合格率=69.8%
 ・受験資格喪失者数=658人 → 受験資格喪失率=30.2%
② 18年度修了者(19年~23年司法試験受験可能)
 ・実入学者数(16年度「未修者コース」+17年度「既修者コース」)=5,480人 → 18年度修了者数=4,418人  → 合格者数(19年~23年)=2,188人 → 合格率=49.5%
 ・受験資格喪失者数=2,230人 → 受験資格喪失率=50.5%
③ 19年度修了者(20年~24年司法試験受験可能)
 ・実入学者数(17年度「未修者コース」+18年度「既修者コース」)=5,660人 → 19年度修了者数=4,911人  → 合格者数(20年~24年)=2,273人 → 合格率=46.3%
 ・受験資格喪失者数=2,638人 → 受験資格喪失率=53.7%
④ 20年度修了者(21年~25年司法試験受験可能)
 ・実入学者数(18年度「未修者コース」+19年度「既修者コース」)=5,774人 → 20年度修了者数=4,994人  → 合格者数(21年~25年)=2,355人 → 合格率=47.2%
 ・受験資格喪失者数=2,639人 → 受験資格喪失率=52.8%
⑤ 21年度修了者(22年~26年司法試験受験可能)
 ・実入学者数(19年度「未修者コース」+20年度「既修者コース」)=5,610人 → 21年度修了者数=4,792人  → 合格者数(22年~26年)=2,261人 → 合格率=47.2%
 ・受験資格喪失者数=2,531人 → 受験資格喪失率=52.8%

 

< 司法試験と予備試験 >

 

法科大学院を経由しない、“例外的ルート”の拡大

 

 18年~23年まで新司法試験と並行実施されていた旧司法試験の廃止を受け、司法試験受験の資格が得られる「司法試験予備試験」(予備試験)が23年から実施されている。
 予備試験は、経済的事情や既に実社会で十分な法律に関する実務を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格を取得する途を開くために設けられた、いわば法科大学院の“例外的ルート”に当たる。
 予備試験合格者は、法科大学院修了者と同等の資格で司法試験を受験することができ、受験制限も前述のように同様に適用される。
 他方、現行の予備試験の科目には、法科大学院で必履修とされている「基礎法学・隣接科目」や「展開・先端科目」がなく、司法試験の受験資格を与える制度として法科大学院制度と予備試験制度はバランスを失しているなどの指摘もある。(図3・図4参照)
◆ 予備試験の実施状況
 23年から実施されている予備試験の実施状況は、次のとおりである。(図3参照)
 ● 23年実施
 出願者数=8,971人 → 受験者数=6,477人(最初の短答式試験)  → 合格者数=116人(最終の口述試験)  → 合格率=1.8%
 ● 24年実施
 出願者数=9,118人 → 受験者数=7,183人(最初の短答式試験)  → 合格者数=219人(最終の口述試験)  → 合格率=3.0%
 ● 25年実施
 出願者数=1万1,255人 → 受験者数=9,224人(最初の短答式試験)  → 合格者数=351人(最終の口述試験)  → 合格率=3.8%
 ● 26年実施
 出願者数=1万2,622人 → 受験者数=1万347人(最初の短答式試験)
* 最終合格発表は26年11月6日。
 ● 26年の「予備試験」出願者・受験者数、法科大学院を上回る
 23年から導入された予備試験の推移をみると、拡大の一途をたどっており、26年には、26年度「法科大学院」の志願者数1万1,450人と受験者数1万267人をそれぞれ初めて上回った。
 ただ、予備試験の合格率は低く、旧司法試験の合格率(17年までの単独実施時の合格率は2~3%台)並みの“超難関”試験ともいえる。
因みに、法科大学院の合格率(受験者数、合格者数とも延べ数)は年々高まっており、26年度は50.1%である。

 

「司法試験」合格率:予備試験組=66.8% VS.法科大学院組=21.2%

 

 上記のような超難関の予備試験をパスした“「予備試験」合格者”(予備試験組:23年~25年合格者)のうち、26年「司法試験」の出願者は251人、受験者は244人、合格者は163人で、合格率は前年を5.1ポイント下回る66.8%だった。
 一方、法科大学院組(21年度~25年度修了者)の26年「司法試験」合格率は21.2%で、予備試験組の3分の1以下に留まる。
 なお、予備試験組の合格率66.8%は、法科大学院中トップの合格率である京都大(合格率53.1%)を13.7ポイント上回っている。(図4参照)

 

「司法試験」合格率67%の予備試験組の4割が法科大学院生、3割が大学生

 

 予備試験組の合格者163人の「職種」をみると、法科大学院生が72人(予備試験組の合格者の44.2%)で最も多く、次いで大学生47人(同28.8%)、無職21人(同12.9%)などである。「最終学歴」では法科大学院が83人(同50.9%)で5割以上を占め、そのうち、9割近くが“在学中”である。(図5参照)
 合格者の「年齢別」では、20~29歳が71.2%、30~39歳が19.6%を占めている。
 また、「男女別」では男性146人(同89.6%)、女性17人(同10.4%)である。

 

「予備試験」制度の在り方を検討

 

 26年「司法試験」合格者の“11人に1人”が予備試験組で、司法試験における予備試験組が今後、学費と時間を節約できる“バイパスルート”として一層拡大・定着していけば、司法制度改革の基本的な理念の下で創設された法科大学院教育の“空洞化”も懸念される。
 政府の法曹養成制度改革推進会議は現在、予備試験の実施状況や予備試験組の司法試験合格者の実態等を踏まえ、試験科目等も含めて試験制度の在り方を検討・議論しており、27年7月頃までに結論を得るとしている。
 また、中教審の法科大学院特別委員会(以下、法科特別委)は、法科大学院と予備試験のそれぞれ創設理念や実態等を踏まえ、法科大学院教育の観点から、予備試験の在り方についても検討・議論し、『法科大学院教育の抜本的かつ総合的な改善・充実方策について』(提言案:26年9月)で、次のような点を指摘している。
➀ プロセスとしての法曹養成における予備試験の位置付け:予備試験の受験対象者の範囲について制度的な対応を速やかに検討していくこと/合格者の質という観点から、当面の試験の運用による対応についても検討していくこと。
➁ 法科大学院教育と予備試験の内容等:法科大学院における原則3年間の教育課程による幅広い法曹養成と、基本的な法律科目を中心とした科目に関する1回だけの試験によって判定される予備試験とが「同等」とされていることについて速やかに検討していくこと。
➂ 法科大学院教育に与える影響:予備試験が学部教育や法科大学院教育に与える影響や、予備試験の受験資格も含めて、その在り方を速やかに検討していくこと。

 

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< 法科大学院の改善方策 >

 

創設から10年の法科大学院修了者:約3万6,300人/「司法試験」合格者:約1万6,700人、累積合格率49.2%

 

 法科大学院は16年度の創設以降、26年度で11年目を迎え、17年度~25年度の“累積修了者数”は3万6,259人にのぼる。その間の司法試験(18年~26年受験可能)の“受験者実数”(司法試験を1回以上受験した者の実数)は3万3,967人、合格者数は1万6,725人で、“累積合格率”(平均)は49.2%になる。(表1・表2参照)
 この間の法科大学院修了者の司法試験受験とその結果を概観すると、前述したように、23年まで受験者数の増加と合格者数の頭打ちで、合格率の低下傾向がみられた。24・25年は受験者数の減少と合格率の上昇がみられたものの、26年は受験者増と合格者減で再び合格率が低下した。
 なお、17年度~21年度修了者は司法試験の“受験制限”を既に経過しているが、22年度~25年度修了者は受験機会を残しており、今後、前述したような受験回数の緩和措置と相俟って、当該修了者による司法試験合格者数の増加もあり得る。

 

法科特別委の改善提言

 

 法科大学院修了者については、従来の旧司法試験にみられた“点”のみによる選抜ではなく、「法学教育-司法試験-司法修習」といった“プロセス”としての法曹養成制度の理念が実現しつつあるとの評価もある。
 しかし、その一方では一部の法科大学院を除き、入学者選抜の低調、司法試験結果の低迷、教育課程実施状況の問題点等が顕在化している。
 中教審の法科特別委では法科大学院の実態を踏まえ、法科大学院教育の改善・充実に向け、『法科大学院教育の質の向上のための改善方策について』(報告:21年4月)/『法科大学院教育の更なる充実に向けた改善方策について』(提言:24年7月)などで法科大学院の改革・改善を促してきた。
 また、文科省も法科特別委の提言等を踏まえ、「法科大学院教育改善プラン」を策定(24年7月)。法曹資格者への支援体制の整備、司法試験合格率の大幅な上昇を目指す成果目標の設定、課題を抱える法科大学院に対する公的支援の更なる見直しや組織改革の加速、法学未修者教育の充実、入学者選抜の改善などについての具体的な改善方策を明確にし、その実現に向けて取り組んでいる。

 

< 公的支援の見直し:「補助金」等の“減額・削減” >

 

 文科省は課題を抱える法科大学院の自主的・自律的な見直しを促進するため、司法試験合格率や競争倍率、入学定員充足率などを指標にして、公的支援の見直しを行っている。
 財政支援の見直しについては、「国立大学法人運営費交付金」及び「私立大学等経常費補助金」の法科大学院に係る項目が減額される。

 

「補助金」等減額対象校:第1弾=24年度6校、25年度4校/第2弾=26年度18校

 

 財政支援見直しの第1弾(22年9月公表)として、司法試験合格率と競争倍率の指標に該当する法科大学院が24年度6校(私立大)、25年度4校(国立1校、私立3校)に上った。
 さらに入学定員充足率を新たな指標として加えた第2弾(24年9月公表)では、26年度対象校として私立16校、国立2校の計18校が該当している。

 

第3弾:27年度の補助金、最大“5割カット”/ 28年度から、“全額カット”も !

 

 文科省は、政府の法曹養成制度関係閣僚会議決定(25年7月)を踏まえ、入学定員の適正化を含む抜本的な組織見直しを加速するために、見直しの第3弾として、次のような「公的支援見直しの更なる強化策」(25年11月公表)を決定し、27年度予算から適用する。
◆ 公的支援見直しの更なる強化策の仕組み
 27年度に適用される補助金等見直し強化策は、およそ次のような仕組みで実施される。
 まず、全ての法科大学院を、司法試験合格率(累積合格率、法学未修者の直近の合格率)/直近の入学定員充足率/法学系以外の出身者や社会人の直近の入学者数・割合など多様な「指標」に基づき、その成果(点数化)に応じて「3類型」に分類する。
 各類型には、現在の入学定員充足状況の傾向を勘案して、「第1類型」=90%/「第2類型」=A:80%、B:70%、C:60%/「第3類型」=50%といった“5ランク”に減額された「基礎額」が設定される。
 こうした法科大学院の財政支援上の類型化を図った上で、先導的な教育システムの構築、教育プログラムの開発、質の高い教育提供をめざした「連合」など優れた取組の提供を評価し、「第1類型」には“+5%~+20%”/「第2類型」(A・B・C)には“+5%~+50%”、/第3類型」には“+50%~+60%”の加算率をそれぞれ措置(加算)する。
 また、28年度以降は、「第3類型」の「基礎額」(50%)を“0%”まで減額した上で、“地方校・夜間校”のみに加算額分だけの増額の可能性があるとしている。つまり、28年度以降は、法科大学院に係る補助金等の“全額カット”もあり得る。(図6参照)
 また、法科大学院に裁判官や検察官等の教員派遣を行わない人的支援の見直しもある。

 

 

◆ 私立7校:法科大学院に係る27年度補助金の「基礎額」が“50%”に
 文科省は26年9月、上記のような公的支援見直しの更なる強化策に則り、26年司法試験結果等を基にした第1・2・3類型に該当する法科大学院を公表した。(表4参照)
 各法科大学院は当該ランクに応じて、今後の教育内容の充実などを提案し、有識者による審査委員会で一定の評価が得られると、各ランクの加算率に応じて基礎額が加算される。

 

 

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< 新たな試練に晒される法科大学院 >

 

法科大学院の成果と“負のイメージ”

 

 創設から11年目を迎えた法科大学院は、これまで中教審の様々な改善提言や文科省の改善施策を受け、各法科大学院において量的・質的な改革、改善に取り組んできた。
 この間、3万6,000人余りの修了者と1万7,000人近くの司法試験合格者を送り出し、弁護士の全登録者数(25年:約3万3,600人)の3分の1近くを法科大学院修了者が占める。
 25年時点で、法曹人口は約3万8,400人であるが、特に弁護士は15年の約1万9,500人から10年間で70%以上増え、弁護士過疎といわれた地裁の支部単位で弁護士登録のない、または1名の所謂「ゼロワン地域」の解消(23年)など、司法サービスの地方格差の是正にも寄与し、法曹や企業の法務担当などの活躍も含めて、一定の評価を受けてきている。
 こうした法科大学院が果たしてきた役割や成果の一方で、創設時の制度設計の誤算は否めず、深刻な課題を抱える法科大学院が少なからず存在する中で、司法試験の低迷や弁護士の就職難などから法科大学院離れ、法曹離れ、さらには大学受験生の法学部系志望の低調といった“負のイメージ”もみられる。

 

“ランク付け”で絞り込み強化

 

 法科大学院を巡る厳しい状況の下、前述のような「公的支援見直しの更なる強化策」が打ち出された。今回の強化策は、各法科大学院を司法試験結果などを基に3類型・5段階に分類し、ランクに応じて補助金を減額したり、ゼロにしたりする。“ランク付け”と補助金の減額措置は、法科大学院の存廃も含めた絞り込みを一層強化していく狙いがあるとみる。
◆“新・旧”変わらない「司法試験」上位校
 ところで、新・旧司法試験で合格者の出身大学の顔ぶれは、どう変わったのか。旧司法試験の単独実施最後の17年度と26年の司法試験合格者の出身大学等を比べてみる。
 ● 17年度(合格者数1,464人、87校<「その他」(合格者1人は合格者数に含むが、校数から除外>):合格者100人以上の大学=早稲田大(228人)/東京大(225人)/慶應義塾大(132人)/中央大(122人)/京都大(116人)の5校で、5位と6位の大阪大(57人)とは2倍以上の差である。
 ● 26年(合格者数1,810人、70校<予備試験組(合格者163人は合格者数に含む)と合格者0人の4校は校数から除外>):合格者100人以上の大学=早稲田大(172人)/中央大(164人)/東京大(158人)/慶應義塾大(150人)/京都大(130人)の5校で、5位と6位の一橋大(64人)とは2倍以上の差がある。
 17年度(旧制度)と26年(新制度)の「司法試験」合格者数100人以上のそれぞれ上位5校の顔ぶれは同じで、5位と6位との差も2倍以上で変わらない。試験制度が変わっても、上位校の顔ぶれはほぼ一定しているようだ。ただ、旧司法試験では法学部系を擁しない理系大学や女子大出身などの合格者も散見され、大学の多彩な顔ぶれもみられた。現在、そうした大学で法曹を目指す者は、法科大学院の法学未修者コースを経て司法試験を受験しているものとみられ、法学未修者教育が担っている役割の一端がうかがえる。
 いずれにしろ、今後は各法科大学院の入学状況や司法試験結果などと“ランク付け”とが相俟って、中堅校も含め募集停止や再編統合が進むとみられる。

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