24年6月に策定された『大学改革実行プラン』から1年数か月が経ち、国立大は「ミッションの再定義」を始点とした機能強化に取り組んでいる。
文科省は国立大の機能強化に向けた「考え方」を示すとともに、先行実施された教員養成・医学・工学の3分野の「ミッションの再定義」等を踏まえた機能強化の推進、世界トップレベルの教育研究環境を構築するための新規予算等、26年度概算要求・要望に運営費交付金1兆1,410億円を含む1兆1,630億円を国立大学改革の推進総額として提出している。
ここでは、国立大学改革に関する最近の提言や施策を整理するとともに、国立大の機能強化に向けた「ミッションの再定義」、各大学の改革構想、国立大に係る26年度概算要求・要望の概要など、国立大学改革を巡る動きを入試の動向なども交えて探ってみた。
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24年6月に策定された『大学改革実行プラン』から現在まで1年数か月の間、国立大学改革についてどのような提言や施策が示されてきたのか。その概要を整理してみよう。
文科省は民主党政権下の24年6月、大学教育の質的転換と大学入試改革、国立大学改革、私立大の質保証の徹底に向けた厳格化など、29年度までの大学改革の基本的方向性を盛り込んだ『大学改革実行プラン ~ 社会の変革のエンジンとなる大学づくり ~』(以下、『実行プラン』)を策定した。
『実行プラン』では、国立大学改革について次のような取組を提起した。
改革のロードマップとしては、24年度中に国として改革の方向性を提示し、25年央までに大学ごとのミッションを再定義して改革の工程を確定することなどが示されていた。
24年12月に自民党が政権与党に復帰すると、安倍晋三首相は内閣の最重要課題の一つに位置づけている教育再生を議論・実行していくため25年1月、首相官邸に「教育再生実行会議」(以下、実行会議)を設置した。
「実行会議」ではこれまで、『いじめの問題等への対応について』(『第1次提言』:25年2月)/『教育委員会制度等の在り方について』(『第2次提言』:25年4月)/『これからの大学教育等の在り方について』(『第3次提言』:25年5月)を安倍首相に提言している。
『第3次提言』では、政府に対し29年までの5年間を「大学改革実行集中期間」と位置付け、速やかに具体的な政策立案に向けた検討を行うよう求めている。
特に国立大や教員養成大学・学部については、次のような改革を提言している。
政府の『日本再興戦略』(『成長戦略』)は、上掲の「実行会議」の『第3次提言』を反映した次のような人材育成等に係る政策を打ち出し、25年6月に閣議決定されている。
『第2期教育振興基本計画』(以下、『第2期基本計画』。25年6月閣議決定)は、第1期計画期間中(20年~29年までの10年間を通じて目指すべき教育の姿:20年7月閣議決定)の検証結果を踏まえた今後5年間(~29年)における、政府が策定する教育の振興に関する総合計画である。
『第2期基本計画』は、「4つのビジョン」(基本的方向性)、「8つのミッション」(成果目標)及び「30のアクション」(基本施策)で構成されており、国立大学改革に関しては、「基本施策」で次のような具体的な取組が提起されている。
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文科省は25年6月、前掲したような国立大学改革の提言や諸政策(閣議決定)等を踏まえつつ、国立大の第2期中期目標期間(22年度~27年度)の後半3年間を“改革加速期間”として設定し、次のような観点を中心にさらなる国立大の機能強化に取り組むことを示した。
先行実施された3分野の「ミッションの再定義」では、教員養成大学・学部の組織編成の抜本的見直し・強化として、教職大学院への重点化や「新課程」の廃止等が注目される。
国立の教員養成大学・学部の教職大学院への重点化については、24年8月の中教審答申『教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について』を受け、教員を“高度専門職業人”として明確に位置づけるとともに、「学び続ける教員像」を確立することなどから、教員養成の修士レベル化を進めるためとみる。
教職大学院は20年度に国立15大学、私立4大学の計19大学で開学した。その後、6大学で開設され、25年度現在、国立19大学(入学定員645人)、私立6大学(同170人)の計25大学(同815人)が全国に設置されている。また、教員養成系の修士課程を設置している大学は25年度現在、国立44大学(国立大のみ)で、入学定員は3,255人である。
文科省は“学び続ける教員”を支援する仕組みづくりを進めるため協力者会議を設置し、教職大学院の教育課程・教員組織の見直し、教員養成修士課程の改善などに取り組んでいる。
国立の教員養成大学・学部は、昭和24(1949)年の新制大学発足と同時に「各都道府県には教養教育と教員養成目的の学部等をおく」という基本方針(国立大学設置の11原則)の下、全国に設置されてきた。しかし、少子化と教員需要の低下などから、「1県1教員養成系学部体制」の見直しなど再編・統合を含めた国立大教員養成系の組織・体制の抜本的な改革提言等を受け、これまで教員養成系学部の改組、再編、定員見直し等が図られてきた。
25年度現在、全国に44大学・44学部(入学定員1万4,720人)の国立教員養成大学・学部が設置されており、そのうち、単科大は11大学である。
ところで、教員養成大学・学部では、昭和62(1987)年度から教員以外の人材育成を目的とする、つまり教員免許状の取得を卒業要件としない教員養成系の「新課程」、いわゆる「ゼロ免課程」(以下、“ゼロ免”)が設置された。今回の「ミッションの再定義」では、教員養成課程本来の機能強化として、この“ゼロ免”の廃止が挙げられている。
● 25年度“ゼロ免”募集人員、ピーク時の約64%、約4,000人
国立の教員養成大学・学部の“ゼロ免”の募集人員は、設置時の昭和62年度が110人(教員養成大学・学部の入学定員に占める割合0.5%)であったが、翌63年度1,805人(同9.1%) → 平成元(1989)年度・2年度2,000人台後半 → 3年度~9年度3,000人台 → 10年度約4,500人 → 11年度約5,500人 → 12年度6,210人(同38.9%)と10年余りで一気に急増。13年度は6,180人(同38.8%)で、“ゼロ免”は平成10年代初めに約6,000人のピークに達した。最近は少子化のなか、団塊世代による大量の定年退職や教職員定数の改善などから教員需要が高まり、教員養成全体の入学定員は変えず、“ゼロ免”の募集人員を教員養成課程に振り替える傾向がみられる。
24年度の教員養成大学・学部の入学定員は、教員養成課程=1万683人、“ゼロ免”=4,037人の合計1万4,720人であったが、25年度は教員養成課程=1万731人(前年度より48人、0.4%増)、“ゼロ免”=3,989人(同48人、1.2%減。ピーク時より約2,200人<約36%>の減員)で、教員養成大学・学部全体の入学定員は24年度と変わらない。
大学受験生にとって、教員養成系は手堅い資格取得の一つとして従来から位置づけられてきた。ただ、11年以降の国立大「一般入試」の教員養成系(教育、学校教育、教育地域科学、教育文化など。一部、「新課程」含む)志願者数の動きをみると、16年まで6万人程度だった志願者数は17年以降、19年の約4万6,800人を除き、5万人台前半から半ばで推移している。25年の志願者数は前年より約3,000人(5.6%)減の約5万1,000人で(募集人員は30人、0.3%増の約1万2,000人)、3年連続の減少だった。(図1参照)
国立大では、機能強化に向けた文科省の「考え方」(25年6月。前掲)等を踏まえつつ、自校の強みや特色、社会的役割等を踏まえた次のような機能強化の改革構想を示している。
文科省は、それらの改革構想を支援する予算を26年度概算要求(後述)に計上している。
次のような国立大では、卓越した研究実績や国際的ネットワークを活用した海外トップ大学からの研究者招聘、海外展開等、世界水準の教育研究活動の飛躍的充実を図る。(表1参照)
次のような国立大では、イノベーション創出のための理工系・ライフ分野や質の高い信頼される教員の養成など各分野の抜本的、構造的な機能強化を図る。(表2参照)
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国は、国立大(4大学院大学を含む86国立大学法人)及び大学共同利用機関法人(4研究機構:国公私立大の研究者のための学術研究の中核拠点)が国の人材養成や学術研究の中核として安定的・継続的に教育研究活動を実施できるよう、財務措置を行っている。
26年度については、基盤的経費である「国立大学法人運営費交付金」(4研究機構含む90法人。以下、運営費交付金)1兆1,410億円、及び「国立大学改革強化促進事業」220億円の合計1兆1,630億円を国立大学改革の推進総額として概算要求・要望に計上している。
26年度「運営費交付金」:1兆1,410億円(対前年度618億円、5.7%増)
文科省は、26年度の運営費交付金として、前年度より618億円(5.7%)増の1兆1,410億円を要求・要望している。このうち、「優先課題推進枠」として690億円が含まれている。「優先課題推進枠」は安倍政権が重視する「新しい日本のための優先課題推進枠」(特別枠)で、“要望額”である。
運営費交付金は、国立大が法人化された16年度以降毎年度減少し、16年度~25年度までの9年間で1,623億8,416万円(16年度交付額の13.1%)削減されている。26年度の概算要求・要望額が通れば、初めて前年度を上回ることになる。(図2参照)
運営費交付金のうち、前述した国立大の“機能強化”など、26年度のポイントとなる主な内容は、次のとおりである。
● 国立大の機能強化:110億円(新規)
国立大の機能強化を推進するため、教育研究組織の再編成や年俸制など人事給与システムの弾力化を通じて、前掲したような「世界水準の教育研究活動の飛躍的充実」や「各分野における抜本的機能強化」及びこれらに伴う若手・外国人研究者の活躍の場の拡大等に取り組む大学に対して110億円(新規)を重点配分する。
● 教育費負担の軽減:294億円(対前年度13億円、4.6%増)
授業料免除枠の拡大と学内ワークスタディへの支援を行う。
* 免除対象人数:約0.2万人増(25年度=約5.2万人<学部・修士:約4.6万人/博士:0.6万人> → 26年度=約5.4万人<学部・修士:約4.8万人/博士:0.6万人>)
なお、被災学生の「授業料等免除」7億円は「復興特別会計」に別途計上。
● 世界の学術フロンティアを先導する国立大等における国際研究力の強化:
380億円(対前年度80億円、26.7%増)
国立大等における研究力、グローバル化、イノベーション機能の強化を図るため、個々の大学の枠を越えた研究機関・研究者が多数参画する学術の大規模プロジェクトを戦略的・計画的に推進(大規模学術フロンティア促進事業等)する。
● 世界トップレベルの教育研究環境の構築:200億円(新規)
科学技術のイノベーション創出に向け、中心的役割を担う国立大学等における、国際的な共同利用・共同研究の推進、新たな学問領域の創成を図るための最先端研究設備や基盤的な教育研究診療設備の整備に220億円を新規計上している。
● 国立大附属病院の機能・経営基盤強化:259億円(対前年度28億円、9.8%減)
高度先進医療や高難度医療を提供する国立大附属病院の機能を強化するため、診療基盤の整備支援策を拡充する。
* 教育研究診療機能充実の債務負担軽減策等:138億円(対前年度43億円、3.8%減)
* 附属病院の医師等の教育研究環境の改善等:121億円(対前年度15億円、14.2%増)
* 世界トップレベルの教育研究環境の構築に関し、病院再開発等の診療設備等を支援。
26年度「国立大学改革強化促進事業」:220億円(対前年度35億円、18.9%増)
「国立大学改革強化促進事業」は、前掲した国立大の機能強化に向けた文科省の「考え方」の下、第2期中期目標期間(27年度まで)の後半3年間を「改革加速期間」と位置づけ、「ミッションの再定義」で明らかにされる各国立大の強みや特色、社会的役割を中心に第3期中期目標期間(28年度以降)を見据えた各国立大の具体的な改革構想をさらに加速化するための重点支援事業である。
当事業は総額220億円(対前年度35億円、18.9%増)で、次のような項目が挙げられている。
● 国立大学改革強化促進補助金:170億円(対前年度30億円、21.4%増)
「ミッションの再定義」を踏まえた学内資源配分の最適化のための大学や学部の枠を越えた教育研究組織の再編成に向けた取組、人材の新陳代謝や年俸制への切り替などの先導的な取組を集中的かつ重点的に支援する。
特に当事業では、イノベーションを支える主要な担い手となる理工系人材の戦略的育成を図るため、今後産業界との対話を通じて策定される「理工系人材育成戦略」を踏まえ、産業構造の変化に対応した理工系分野の教育研究組織の整備や再編成に向けた取組を重点支援する。
● 国立大学改革基盤強化促進費:50億円 (対前年度5億円、11.1%増)
国立大の機能強化に結実する各大学の改革構想の実現のため、基盤的設備や最先端設備の整備など、基盤強化の観点から重点支援する。
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大学改革において、大学の重要な構成要員の一員である“学生”の受入れ方針(アドミッション・ポリシー)は、改革の重要な鍵を握っている。つまり、大学・学部の特色や社会的な役割・使命等を踏まえつつ、どのような受験生を、どのような評価方法(選抜方法)で受け入れるのか。そうした一連の入試制度の在り方は、「大学力」を高める重要な要素となる。
国立大の入試制度はいわば国民的な教育制度の一環として、これまでに何度か改革・改善され、高校教育や公私立大入試にも少なからず影響を及ぼしてきた。そこで、国立大「一般入試」の個別試験(2次試験)を中心に、主な制度改革の変遷をたどってみる。(図3参照)
◆ 1期校・2期校制
国立大を1期校(試験日3月上旬)と2期校(同、3月下旬以降)の2グループに振り分け、受験機会を複数化した制度が、新制大学発足当初の昭和24(1949)年から昭和53(1978)年まで30年間続けられた。
1期校、2期校の大学はほぼ固定され、その区分に偏り(旧7帝大は1期校、法学部は2期校にはないなど)や地域的な不均衡がみられた。そのうえ、2期校における受験率の低さと入学辞退者の多さ、国立大学間の格差助長など、様々な問題点も指摘され、昭和54(1979)年の「共通1次試験」開始(平成元<1989>年まで実施)に合わせ、この制度は昭和53年を最後に廃止された。1期・2期校制度の廃止で、国立大個別試験の実施方法は一元化され、昭和54年~昭和61(1986)年までの8年間、国立大は1校しか受験できなかった。
◆ 連続方式
共通1次試験の開始とともに、国立大の受験機会が一元化されたことへの不満や、個別試験の多様化が不十分であるとの批判が出るなどして、受験制度の改善に迫られた。
その結果、昭和62年から、各国立大学・学部の一般入試をA、Bの2グループ(公立大はA、B、Cの3グループ)に分け、A → B(→ 公立大C)の順で試験日を設定し、受験者は連続して2校(公立大を含むと3校)を受験し、合格者は合格大学のいずれかを合格後に自由に選ぶ(事後選択)ことができる「連続方式」が導入された。
しかし、この連続方式では2段階選抜による大量の不合格者や、大学・学部によっては大量の入学辞退者が出るなど、大学、受験生の間で混乱が生じ、社会的にも問題視された。
連続方式は、国立大では8(1996)年まで、公立大では10年まで、それぞれ「分離分割方式」(後述)と併用された後、廃止された(C日程は公立大中期日程として現在も継続)。
◆ 分離分割方式
平成元(1989)年からは連続方式のほかに、一般入試において同一募集単位の入学定員を前期日程と後期日程とに振り分ける「分割」と、前期日程の合格者が入学手続きを完了してから後期日程試験を行うという、前・後期日程試験の「分離」とを組み合わせた「分離分割方式」が導入され、現在に至っている。
分離分割方式で複数合格を認めないのは、1期・2期校制や連続方式の「事後選択」にみられたような混乱を防ぐためで、混乱なく入試業務を遂行するためともいえる。受験生側からみれば前・後期の複数合格が認められず、完全な“分離”とはいい難い面もある。
◆「分離分割方式」の弾力化 / 受験機会の複数化と評価尺度の多元化
国立大の分離分割方式では、学科試験を主体とする「前期」の募集人員割合が、小論文・面接・実技等を主体とする「後期」を大幅に上回り、「前期」の比率は年々拡大し、26年入試では「前期」80.3 対 「後期」19.7 と、「前期」は「後期」の4倍余りに達している。
国立大学協会(国大協)は15年11月、当時の新課程(現行課程)入試初年度に当たる18年入試において、分離分割方式の理念である「受験機会の複数化」や「評価尺度の多元化」が確保されることを原則とし、各国立大が「合理的な分割を実現する自由度を高める」という観点から、定員分割を各大学の判断で弾力的に実施できるようにした。これにより、分割比率の少ない募集人員に推薦・AO入試などを含めることを前提に事実上、「後期」募集“ゼロ”も可能になった。この分離分割方式の弾力化は18年入試以降も継承され、「前期」拡大、「後期」縮減、「推薦・AO入試」拡大(26年は微減)といった傾向につながっている。
● 「推薦・AO入試」募集人員の扱い
国立大では、前述したような18年入試からの分離分割方式の弾力化措置に伴い、募集人員の「前期」集中化と、「後期」の「推薦・AO入試」への振り替えが拡大した。
そこで、国大協は20年入試から、当該学部・学科等の推薦入試やAO入試の募集人員について「推薦 + AO入試 5 割の範囲」とすることを国立大入試の『実施要領』(実施細目:18年11月)に定めた。
文科省の『大学入学者選抜実施要項』では、推薦入試の募集人員について、附属高校からの推薦を含め、学部等募集単位ごとに「5 割を超えない範囲」と定めている。AO入試の募集人員については、特に定めていない。なお、公立大では文科省のガイドラインに則り、推薦入試の募集人員は「5 割を超えない範囲」としている。
中教審は、『21世紀を展望した我が国の教育の在り方について』(第2次答申:平成9年6月)で大学入試の改善策として、「学力試験偏重を改め、選抜方法の多様化と評価尺度の多元化の促進」などを提言。さらに、中教審答申『初等中等教育と高等教育との接続の改善について』(11年12月)では、大学進学に関して「“選抜”から大学・志願者双方の“相互選択”への転換、アドミッション・ポリシーの明確化」などを提言した。
他方、旧大学審の『大学入試の改善について』(12年11月答申)では、「評価尺度の多元化、受験機会の複数化、推薦・AO入試の導入」などを提言した。こうした大学入試の改善提言が平成10年前後にかけて次々と出され、当時、“新しい入試観”として注目された。
上述のような大学入試の改善答申が中教審等から出されるなか、国大協でも学生の学力低下問題や大学入試における国立大の使命などを観点に、国立大の入試改革に取り組んでいた。
国大協は、国立大志願者に対し、16年入試からセンター試験「5教科7科目」(国大協では地歴と公民を合わせて1教科、「社会」と表示)受験を原則とすることなどを盛り込んだ『国立大学の入試改革-大学入試の大衆化を超えて-』(12年11月)を提言した。
5教科7科目化のねらいは、特定な科目に偏らず、高校教育として標準化された教科・科目を普遍的に履修することを取り戻すとともに、「学力低下」に歯止めをかけようとするものだ。
国立大では共通1次試験時代の当初、文・理系の別なく、一律に5教科7科目(昭和62<1987>年~平成元<1989>年は5教科5科目が主流)課せられていたことから、共通1次時代への“先祖返り”であるともいえる。(図3参照)
各国立大では、16年入試からのセンター試験「5教科7科目」化の提言を受け、5教科7科目以上を課す大学が定着している。
26年の国立大入試では、大学ベースで95.1%、学部ベースで89.6%、募集人員ベースで77.5%(いずれも推薦・AO入試等を含むすべての入試に対する割合)が5教科7科目以上を課し、高校教育の普遍的な基礎学力を担保している。
大学受験生数のベースとなる18歳人口は、平成4(1992)年の約204万9,000人(概数。以下、同)を直近のピークとして、途中、多少増加した年もあったが、24年までほぼ右肩下がりに減少してきた。高卒者数(中等教育学校後期課程卒業者含む)も4年の180万7,000人をピークに、18歳人口の減少とほぼ平行する形で24年まで減少してきた。
25年は、18歳人口が123万1,000人(前年比3.4%増)、高卒者数が109万2,000人(同3.3%増)、大学受験生数(既卒者含む)が67万9,000人(同2.2%増)で、ともに3年ぶりの増加となった。
こうしたなか、高校生の大学受験を志願する度合いを示す「現役志願率」(現役志願者数<実数>÷高卒者数)は24年より0.1ポイント下降の54.9%で、3年連続のダウンである。
また、高校生の大学進学者数は24年より1万4,000人(2.8%)増加の51万7,000人であったが、「現役進学率」(現役の大学入学者数÷高卒者数)は0.3ポイント下降の47.4%で、低下傾向を示している。
ところで、高等教育(大学・学部)の発達段階を示す25年の「大学(学部)進学率」(既卒者等含む大学・学部入学者数÷18歳人口)は、24年より0.9ポイント低下の49.9%で、5年ぶりに“50%割れ”となっている。(図4・図5参照)
最近の国立大「一般入試」の状況をみると、募集人員は8万1,000人程度、志願者数は30万人台後半、志願倍率は4倍台で、概観すれば根強い「国公立大志向」の下、“高嶺安定”の状況にあるといえよう。
ただ、25年は高卒者数・大学受験生数が増加したのに加え、センター試験志願者数も2年ぶりに増加(前年比3.2%増、約57万3,000人<概数。以下、同>)したにもかかわらず、国立大「一般入試」の志願者数は24年より8,500人(2.3%)減の35万9,000人で、2年連続の減少。前期はほぼ前年並みの0.4%減に留まったが、後期は4.9%の大幅減となった。
これは、文・理系型共通のセンター試験「5教科6科目」の平均点(800点満点)が24年より33.9点も大幅ダウンの450.7点(得点率56.3%)に低下し、センター試験の配点比率が前期に比べて高い後期を敬遠したためとみられる。(図6参照)
また、センター試験の“難化”は、特に過去最低の平均点となった“国語ショック”などとなって現われ、「難関~準難関の国立大 → 中堅国立大 → 地元公立大」といった、難易ランクを下げた出願が目立った。因みに、公立大の志願者数は24年より3,400人(同2.7%)増の13万1,000人であった。
国大協は、国立大の第2期中期目標期間(22年度~27年度)の開始に先立ち、国立大入試に関する制度改革への提言等を盛り込んだ『平成22年度以降の国立大学の入学者選抜制度 ― 国立大学協会の基本方針 ― 』(19年11月。以下、『基本方針』)を策定した。
『基本方針』では、国立大は知識の創造拠点、高度人材育成の中核、大学教育機会の保証、社会への知的貢献等の役割を担い、教育と研究によってその使命を果たすとともに、高校教育と大学教育の適切な接続(高大接続)を追求してきたとしている。
そして、国立大の使命や役割、それに関わる入試制度の特性を確認したうえで、受験機会の複数化、入試方法の多様化、評価尺度の多元化などを担っている一般入試の「分離分割方式」などの現行入試制度を当面継承するとしている。
『基本方針』は、高大接続に係る所謂「共通試験」の改革・改善にも言及している。
これは、大学での教育研究に必要な基礎学力を大学入試でどう担保していくかの問題提起でもある。大学進学のユニバーサル化と高校教育の多様化などで、国立大といえども入学者に高校での平準化された履修歴や学力を一律に求めるのは難しくなっている。
そこで、センター試験の在り方も含め、適切な高大接続を実現するべく、「高校等における基礎的教科・科目の学習の達成度を把握する新たな仕組み」の構築に関し、文科省はじめ関係者による検討を要請している。
国大協は、28年度以降の第3期中期目標期間における入試制度の在り方等の検討を行うとみられる。
ただ、現在、政府の「教育再生実行会議」で検討・議論されている、高校在学中の基礎的な知識・理解力などを測る「到達度テスト」(仮称)の大学入試への導入(25年10月提言予定)、中教審の「高大接続特別部会」での提言などによっては、現行の入試制度が大きく変わる可能性がある。
前述の『基本方針』では、「高校等における基礎的教科・科目の学習の達成度を把握する新たな仕組み」が導入される場合には、現行入試制度の条件が変わるため、新たな仕組みの導入検討に合わせ、入試制度の抜本的な検討を行うとしている。
政府「教育再生実行会議」や中教審「高大接続特別部会」での大学入試改革に係る今後の議論、提言が注目される。