26年1月18・19日の両日、56万670人が出願した26年センター試験が全国693試験場で一斉に実施され、本格的な受験シーズンの幕開けとなる。
ところで、25年10月末、政府の「教育再生実行会議」(以下、実行会議)は『高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について』(以下、『第4次提言』)を公表した。提言の目玉でもある新テストの「達成度テスト(仮称)」(基礎・発展レベル)導入や、1点刻みの知識偏重から脱した“丁寧な選抜”への転換などが話題になっている。
当提言については現在、中教審で具体的な内容等を検討・議論しているが、ここでは、“丁寧な選抜”と「学力試験」を中心に、大学入試におけるそれらの在り方を探ってみた。
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大学入試に関する社会の関心度の高さを反映し、政府・実行会議が25年10月末に提言を公表する以前から、大学入試の改革案などが様々な形で取り沙汰されていた。
ことに、国公立大における個別試験(2次試験)の1点刻みによるペーパーテストの廃止論も含め、1次試験の新テスト(「達成度テスト(仮称)」)で学力の達成度を測り、2次試験で面接や論文、活動歴等を評価するといった情報が一部報じられ、入試を受ける側、実施する側の双方に波紋を投じた。
こうした中、25年10月末に公表された政府・実行会議の大学入試者選抜の改善に係る提言のポイントは、およそ次のような内容である。
なお、ここでは「達成度テスト(仮称)」(基礎・発展レベル)の内容等や高大連携の強化に係る部分は割愛した。
上掲のような入学者選抜の在り方の提言に対し、知識偏重の1点刻みの選抜に偏らず、能力・意欲・適性や活動歴を多面的・総合的に評価・判定する“丁寧な選抜”については異論がないものの、面接・論文・活動歴等を多面的・総合的に評価する選抜の割合を大幅に増やすという方策に戸惑いや懸念を抱いた向きも少なからずいるとみられる。
そうした懸念の背景の一つに、受験環境の変化がある。20年以上も続く18歳人口の減少/ユニバーサル段階(大学進学率50%以上)にある大学進学率/増加する大学(私立大を中心に入学定員増)/所謂“全入状態”(大学「収容力」90%)/“入学定員割れ”(私立大の40%)等々、受験環境はかつてのような「大学が受験生を選抜する“買い手市場”」から、「受験生が大学を選ぶ“売り手市場”」に変貌している。
こうした状況の下では、選抜性の高い(実質倍率が高い)一部の有力大学(学部)を除き、厳しい経営問題や教育上の課題を抱え、受験生や学生を如何に獲得するかに腐心している大学も少なくない。そして本来、より“丁寧な選抜”として位置付けられ、能力・意欲・適性等を面接や小論文、プレゼンテーションなどで丁寧に評価するAO入試、あるいは高校の推薦書や活動歴などを評価する推薦入試が一部とはいえ、“学力不問”とまでいわれる選抜で学生を獲得している実態がある。
受験環境のこうした現状を鑑みて、知識偏重から脱した多面的・総合的な評価の拡大は、学生のさらなる“学力低下”を招ねきかねないと危惧する意見も聞かれる。
今回の入学者選抜改善の提言では、“丁寧な選抜”がキーワードの1つになっているが、それは入試の基本であり、それに関する提言もこれまでしばしばなされてきた。
中教審の『21世紀を展望した我が国の教育の在り方について』(以下、『第2次答申』:9年6月)では、「学力試験」偏重からの脱却と能力・適性・意欲・関心等を幅広く評価する選抜方法の多様化と評価尺度の多元化を求め、次のように提言している。
旧・大学審議会(現・中教審大学分科会)は上掲のような中教審『第2次答申』と、大学進学を「選抜」から大学・志願者双方の「相互選択」へ転換し、「入学者受入方針」(アドミッション・ポリシー)を明確にすることなどを提言した中教審答申『初等中等教育と高等教育との接続の改善について』(11年12月)などを踏まえ、『大学入試の改善について』(以下、『入試改善答申』:12年11月)を答申した。
当答申では各大学の入学者選抜の具体的な改善方策として、募集単位の大括り化と多様な選抜方法・評価尺度の導入/センター試験とは異なる能力の判定に力点を置いた個別試験の改善/受験教科・科目の考え方(入学後の教育を十分に意識した上で設定。受験科目等の増加も可)/分離分割方式の募集人員の適切な配分(当時の比率は、前期7:後期3)/秋季入学の拡大/事務職員等の積極的な活用や入試専門組織の整備/信頼性の高い外部試験の活用(センター試験の他、TOEFL等)などを挙げている。
このうち、各大学の個別試験の具体的な改善方策として、次のような事項を例示している。
“丁寧な選抜”といえば、まずAO入試が挙げられよう。旧・大学審の『入試改善答申』では「アドミッション・オフィス入試(以下、AO入試)の適正かつ円滑な推進」を提言している。提言では、AO入試は選抜方法の多様化、評価尺度の多元化等の入学者選抜の工夫・改善の中で各大学の自主的な取組として発展してきたとしている。
そして、我が国におけるAO入試には明確な定義はないとしつつ、次のような選抜方法の1つであるとしている。
また、中教審答申『学士課程教育の構築に向けて』(以下、『学士課程答申』:20年12月)では、推薦・AO入試の現状や課題を取り上げ、高大接続の観点から高校段階での学力を客観的に把握して高校・大学が任意に活用できる学力検査(「高大接続テスト(仮称)」)の高校・大学関係者による協議・研究を求めた。当答申でもAO入試について、上掲と同様の説明をしている。
因みに、文科省の26年度『大学入学者選抜実施要項』(以下、『選抜実施要項』)でも、AO入試について「詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって、入学志願者の能力・適性や学習に対する意欲,目的意識等を総合的に判定する入試方法」と記されている。
“丁寧な選抜”の実施方法については前述のように、今回の提言がはじめてではなく、入学者選抜の基本であり、入試改善方策の必須事項として取り上げられてきた。
そこで、各大学はどのような形で丁寧な試験や選抜に取り組んできたのか。丁寧な試験あるいは選抜として一般的にイメージされる小論文試験、AO入試、推薦入試を例に、それらの導入の経緯や現状などをみてみる。
“丁寧な選抜”への取組の背景の1つに、昭和54(1979)年から開始された「共通1次試験」(平成元年で終了。2年からセンター試験に改編して実施)の存在がある。
共通1次試験のマークシート方式に代表される客観テスト → 知識の多寡を競うような“詰め込み教育”→ 受験教科・科目に長けた“受験秀才(偏差値秀才)
”といった当時の入試システムに対応した教育批判、及び多様で創造的な学生を獲得したいとする大学側の狙いなどが丁寧な試験や選抜への取組を後押ししたとみる。
つまり、教科・科目型の既成された試験(入試)の代替として、小論文試験やAO入試、推薦入試、あるいは国公立大「分離分割方式」の後期試験にみられるような多様で丁寧な選抜方法が登場した。
小論文試験は、客観テストでは測れない志願者の能力・適性等を多角的に評価、判定する試験である。出題の方法としてはテーマを与えて自由に論述させたり、資料・データ等を題材にした設問について論述させたりする形式がみられる。出題者側にとっては採点に手間がかかる一方、受験者の論理的思考力や表現力などをみることができる
小論文試験は昭和60(1985)年頃から、まず有力私立大の間で大学・学部の独自色を色濃く反映させた形で導入された。その後、国公立大の「分離分割方式」(平成元年~)において、教科・科目型の「学力試験」主体の「前期試験」に対し、多様な選抜方法を取り入れた「後期試験」で小論文試験が多く課されるようになった。
AO 入試は平成2(1990)年に我が国としてはじめて慶應義塾大の新設2学部(総合政策学部/環境情報学部:湘南藤沢キャンパス<SFC>)で導入されて以降、私立大を中心に急激に拡大してきた。
また、国公立大では12(2000)年に東北大・筑波大・九州大の国立3大学8学部と岩手県立大の公立1大学4学部ではじめて導入され、数年前までは一気に拡大してきた。
25年入試でAO入試を実施している大学数は、国立47大学(全体の57.3%)、公立23大学(同28.4%)であるが、私立大は466大学(同80.8%)に上る。ただ、入学者数ベースでみると、国立大2.6%、公立大1.9%と少なく、私立大でも10.3%である。(図1参照)
推薦入試はAO入試より以前から実施されており、私立大では新制大学の創設早期から実施されていたとみられ、昭和30(1955)年代にはかなりの私立大で実施されていた。特に昭和30年代~40年代の高度経済成長を背景に急増した大学進学者の受け皿の1つとして急速に拡大した。
そうした状況の中で文部省(当時)は、昭和42(1967)年度の『選抜実施要項』に「推薦入試」の実施について明記した。昭和42年の推薦入試の実施大学数は、国立4大学、公立1大学に対し、私立は33大学であった。
因みに、25年の推薦入試実施大学数は、私立大ではほぼ全ての大学、国公立大でも90%以上に上る。
◆ 私立大入学者の“2人に1人”は、「推薦・AO入試」!
推薦入試による最近の入学者状況をみると、私立大ではやや減少傾向ないし頭打ち状態にあるものの、25年度は前年度と同じ40.3%、国立大は22年度の12.6%をピークにやや減少傾向の12.3%、公立大はやや増加傾向の24.1%である。
私立大では、「AO入試」の入学者割合10.3%(25年度)と合わせると、新入生の“2人に1人”は「推薦・AO入試」による入学者である。(図2参照)
因みに、26年国立大入試の募集人員(9.6万人)の選抜区分状況をみると、一般入試の「前期試験」が6.5万人(全募集人員に占める割合67.6%)、「後期試験」が1.6万人(同16.5%)、推薦入試が1.2万人(同12.4%)、「AO入試・その他」が0.3万人(同3.5%)となっている。
原則として学力検査を免除する推薦入試や、詳細な書類審査と丁寧な面接等で志願者の能力・適性、学習意欲、目的意識等を多面的・総合的に判定するAO入試について、前述した中教審『学士課程答申』は、本来の趣旨と異なる形で実施されている推薦・AO入試を問題視し、基礎学力の担保に課題があると指摘。国と大学に改善策を求めた。
文科省は中教審の改善提言等を踏まえ、推薦・AO入試の学力担保に関して、私立大も含めた各大学は基礎学力を把握するために、以下のうち少なくとも1つを出願要件(出願の目安)や合否判定に用いることなどを『選抜実施要項』に盛り込み、基礎学力の把握措置を求めている。なお、下記①~③の場合は、④との組合せなど「調査書」の積極的な活用が望ましいとしている。
① 各大学が実施する検査(筆記、実技、口頭試問等)の成績
② センター試験の成績
③ 資格・検定試験などの成績等
④ 高校の教科の評定平均値
国公立大の推薦・AO入試では、上記のようなガイドラインを踏まえ、学力把握のためにセンター試験の免除を廃止し、センター試験を課す方式が拡大している。
(独)「経済産業研究所」は所得を労働市場での評価とみなし、「学力考査を課す」入試制度で入学した卒業生と、「学力考査を課さない」入試で入学した卒業生のそれぞれ就職後の年間平均所得を調査し、『大学入試制度の多様化に関する比較分析-労働市場における評価-』(西村和雄・経済産業研究所、他。2013年3月)に報告している。
それによると、45歳以下(23年2月調査)の就業者総数6,937人から海外大出身者や附属・系列高校からの内部推薦入学者等531人を除く6,406人のうち、「学力考査あり」の就業者(平均年齢36.0歳)5,162人の年間平均所得は約470万円で、「学力考査なし」の就業者(同34.5歳)1,244人の平均所得約394万円を統計的に有意に上回っているという。(図3参照)
上記のような所得格差の背景には、年功序列型の賃金体系のほか、一般的に学力試験を課さない「推薦・AO入試」における学力把握の問題/学力試験を課す「一般入試」より早期に入学が決まることによる学習期間(数ヶ月短縮)や学習意欲(学業へのモチベーション低下)の問題/高校での成績と志望大学(学部)の難易度などを基にした入試形態の選択(成績不振 → 学力試験を課さない入試選択の傾向)の問題といった入試制度に加え、入学先の大学(学部)の学士課程教育の在り方など、様々な要因が複合的に組み合わさっていよう。
いずれにしろ、入試制度と入学者(学生)の成績、卒業後の進路、就職状況、就職先(労働市場)での評価など一貫した実証的な検証と、それらに基づく入試制度の改革が大事である。
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現行の大学入学者選抜制度は、その目的や選抜方法によって、「一般入試」、「推薦入試」、「AO入試」などで構成されており、調査書や学力試験(センター試験含む)、面接、小論文、実技など様々な判定資料が使われている。
こうした判定資料のうち、特に教科・科目型の「学力試験」(学科試験)は伝統的に重視されてきた試験で、国公立大入試の主体をなす「一般入試」では最も多く課されている。
「学力試験」の在り方をみるうえで、“学力”とは何かを整理しておく。
なお、ここでの「学力試験」は各国公私立大における「個別学力試験」に限定し、目的・機能が明確なセンター試験は除く。
◆「学力の重要な要素」の把握
入学者選抜の実施に当たっては、志願者の「能力・適性」、選抜(試験)の「公正・妥当」、及び高大接続の観点からの「高校教育の尊重」といった従来からの3原則に加え、“学力”の要素が明確にされた23年度からは文科省の『選抜実施要項』で「学力の重要な要素」を適切に把握することが求められている。
“学力”の要素については、その定義を巡って従来から様々な議論がなされてきたが、学校教育法の一部改正(19年6月:第30条第2項、第62条等)や中教審の『学習指導要領等の改善について』(20年1月答申)、及び新課程『高等学校学習指導要領』(21年3月告示)で明確にされている。中教審答申『学習指導要領等の改善について』では、「学力の重要な要素」として、①基礎的・基本的な知識・技能の習得/②知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等/③学習意欲、の3つを挙げている。
因みに、文科省の26年度『選抜実施要項』の「基本方針」には、次のような学力の3要素を示す文言が盛り込まれ、「学力の重要な要素」を適切に把握することが求められている。
学力試験は前述したような「学力の重要な要素」、つまり基礎的な知識・技能の習得、それらを活用した課題解決力とそのための思考力・判断力・表現力、及び学習意欲をみる試験といえる。ただ、一般的な学力試験ではペーパーテストによるため、学習意欲をみるのは難しい。そのため、面接などと併用して“学力の要素”をみるのが一般的である。
ところで、ペーパーテストによる学力試験は、多数の受験者を同一問題で同時に効率よく実施(出題 → 受験 → 採点 → 評価・判定)する客観テスト主体のイメージから、前述した小論文試験やAO・推薦入試などに比べ“丁寧さ”に欠けるとする見方もある。
しかし、文科省の『選抜実施要項』にもあるように、各大学のアドミッション・ポリシーには求める学生像だけでなく、「何をどの程度学んできてほしいか」をできる限り具体的に明示することを求めている。このことから、各大学には、志願者が「何をどの程度学んできたか」をみるようなきめ細かな出題内容や採点等が求められる。
ペーパーテストによる「学力試験」であっても、“丁寧”な試験(入試)が求められる。
◆ 東京大にみる“丁寧”な「学力試験」
例えば、東京大の26年度『入学者募集要項』では、「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと」と題して、次のように各教科別にその具体的な習得内容や出題の趣旨等を明示している(ここでは、提示されている事項の題目のみ記載)。
〔国語〕①文章を筋道立てて読みとる読解力、②それを正しく明確な日本語によって表す表現力/〔地理歴史・公民〕①総合的な知識、②知識を関連づける分析的思考力、③論理的表現力/〔数学〕①数学的に思考する力、②数学的に表現する力、③総合的な数学力/〔理科〕①自然現象の本質を見抜く能力、②原理に基づいて論理的にかつ柔軟に思考する能力、③自然現象の総合的理解力と表現力/〔外国語〕①英語による受信力、②英語による発信力、③批判的な思考力
東京大では志願者に求めるアドミッション・ポリシーをよりよく具現化するために、きめ細かな丁寧な「学力試験」(一般入試)を行っている。
志願者の“学力”を適切に把握することは、一般入試における「学力試験」に限らず、推薦入試やAO入試などすべての入学者選抜でなされるべきであることが文科省の『選抜実施要項』にも明記されている。
教科・科目型の「学力試験」を主体とする一般入試であれ、小論文試験や面接、活動歴などによるAO・推薦入試であれ、“丁寧な選抜”は入学者選抜の最も基本的な要素である。
したがって、「学力試験」と“丁寧な選抜”は二項対立になるものではない。
入学者選抜では、論述式も含め「学力試験」(ペーパーテスト)による点数を信頼し、得点順に合否判定を行うことが“公正”であるとする所謂「点数絶対主義」の考え方(公正観)が、我が国では伝統的に根強い。
こうした公正観に対し、臨教審の『第1次答申』(昭和60<1985>年6月)では、次のように多面的評価や選抜方法の多様化を提言している。
中教審答申『新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について』(平成3<1991>年4月)でも、上掲の臨教審と同様、「点数絶対主義」による一面的な公正観の見直しを提言し、入学者選抜の改善策として評価尺度の多元化などを提起した。
当答申では入試に関する公正観の問題点が具体的に示されており、今回の政府・実行会議の『第4次提言』の入試改善策にある「知識偏重の1点刻みの試験のみによる選抜からの脱却」と深く関わっていることから、以下に中教審の提言内容を紹介しておく。
「点数絶対主義」による入試(試験)の公正観については、上掲の中教審答申(3年4月)のほか、旧・大学審の『入試改善答申』(12年11月)でも次のように提言している。
前述のような「点数絶対主義」にとらわれない公正観の見直しや評価尺度の多元化、選抜方法の多様化は、「アドミッション・ポリシー」の明確化などとともに“新しい入試観”として当時注目された。
しかし、入学者選抜に関わるこうした一連の改善提言から10年、20年以上経つ現在、アドミッション・ポリシーの明示や選抜方法の多様化、評価尺度の多元化は相当程度進んだものの、特に教科・科目型の「一般入試」では1点刻みの評価からの脱却など絶対的な公正観の見直しはほとんど進んでいない。
このことからも、志願者を評価する試験(入試)の改革・改善の難しさが伺える。
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本稿ではここまで、政府・実行会議で提言された大学入学者選抜の改善方策について、“丁寧な選抜”や「学力試験」、「試験(入試)の公正観」の在り方などを中心に、これまでの中教審答申や大学入試の実態などをみてきた。実行会議が今回提言した入学者選抜の改革・改善方策は、「達成度テスト(仮称)」(基礎・発展レベル)を除き、ほとんどがこれまでにも検討・議論され、提言されてきたいわば“古くて、新しいテーマ”である。
他方、社会環境はあらゆる分野で劇的に変化している。超少子高齢・人口減少社会、今後10年間、ほぼ110万人台で減少傾向にある18歳人口、生産年齢人口の減少、グローバル化の急速な進展といったこれまで経験したことのない厳しい時代を迎え、大学にもイノベーションの創出や時代の変化に対応した人材育成など、これまで以上に多様で高度な教育・研究機能が求められる。
各大学は自校の果たす役割・機能に連動して入学者を受け入れ、育成して社会や専門分野に有為な人材を輩出していく役割を担っている。
その際、「どのような学生を、どのようにして受け入れるか」が、当該大学(学部)の入学者選抜(入試)の在り方であり、その基本方針がアドミッション・ポリシーである。
さて、今後の入学者選抜の行方はどうなるのか。
現行の入学者選抜の在り方を俯瞰すると、「知識・技能追求」型と「創造性・独自性発掘」型に大別することができる。
「知識・技能追求」型は志願者の主に“現在”に視点をおき、主として教科・科目型の「一般入試」による選抜方法である。
これに対し、「創造性・独自性発掘」型は志願者の主に“将来や過去”に視点をおき、主として小論文や面接、プレゼンテーション、活動歴、調査書などを判定材料とする「AO入試」や「推薦入試」による選抜方法である。
今回の実行会議の提言では、前述のような厳しい時代の変化に対応できる人材育成として、「創造性・独自性発掘」型の選抜方法のさらなる拡大を求めているとみる。
今後、「到達度テスト(仮称)」(基礎・発展レベル)やそれに係るセンター試験の行方によって、入学者選抜の実施方法も大きく変わってこよう。
しかし、各大学が実施する個別試験は当面、入試業務に掛かる負担や入学者の学力担保の面などから、特に国公立大や私立の有力大(学部)では「知識・技能追求」型の「一般入試」の割合が高いとみられる。
他方、28年から東京大で実施される志願者の過去・現在・将来をエビデンスに基づいて総合評価する「推薦入試」や、京都大で導入される志願者の学業活動と意欲を重視する「特色入試」などは「創造性・独自性発掘」型の極めて丁寧な選抜方法といえる。
こうした入学者選抜は、成熟した知識基盤社会において、既成概念にとらわれずに「正解の見えない課題に対して最善解を見出す」ような人材発掘のための新たな“エリ-ト選抜”ともいえるもので、今後の入学者選抜の在り方の1つとして注目される。
ただ、このような“丁寧な選抜”には相当な時間と手間を要し、何千、何万人もの志願者を短期間で選抜することはできない。とはいえ、志願者がもつ将来の可能性を発掘することは大学にとっても、社会にとっても大事なことである。
文科省は、政府・実行会議の『これからの大学教育等の在り方について』(『第3次提言』:25年5月)や前述の『第4次提言』などを踏まえ、国の施策に合致した先進的な大学教育改革や、産業界のニーズに対応した人材育成などの取組を支援するため、26年度予算(案:25年12月閣議決定)に“10億円(44件)”を新規計上している。具体的には、これまでの大学教育改革の成果をベースとして、実行会議等で示された新たな方向性(アクティブ・ラーニング、学修成果・指標モデル、入試改革・高大接続等)に合致した先進的な取組を実施する大学を支援し、国として進めるべき大学教育改革を一層推進するという。
社会にとって有意な人材発掘のための“丁寧な選抜”には、財政支援はもとより、高度な専門職員(アドミッション・オフィサー)の養成や専門組織の整備等の支援策も必要である。