今月の視点 2012.6

岐路に立つセンター試験!

24年センター試験トラブルは、入試の多様化・複雑化に対応した“選抜機能”の限界を示唆!

2012(平成24)年度

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 24年センター試験は、地理歴史と公民の試験枠統合、理科のグループ制廃止による試験枠統合で科目選択範囲の拡大を図るなど、試験実施方法や受験方法が大幅に変更された。
 しかし、24年1月に実施された本試験では、地理歴史と公民の問題冊子の配付ミスや試験開始時間繰り下げの多発、リスニング機器の輸送ミスなど、多くの受験者にかつてない大きな混乱を与えてしまった。平成2(1990)年にスタートしたセンター試験は前身の共通第1次学力試験も含めると30有余年にわたり、大学入試の一環として公平・公正で、公共性・信頼性の極めて高い共通試験として実施され、高校教育にも多大な影響を及ぼしてきた。
 ここでは、大学入試センターと文科省に設置されたセンター試験に関する検証委員会が先頃まとめた『検証報告書』等を踏まえ、一段と進んだ大学入試の多様化・複雑化に対応したセンター試験の“選抜機能”としての限界を考察してみた。

 

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<24年セ試の実施方法、受験方法の大幅変更>

 

セ試大幅変更の背景と経緯

 

 センター試験(以下、セ試)は、高校の学習指導要領の改訂、中教審や旧大学審の提言、高校・大学関係団体などからの要望等を受け、その折々に改革、改善されてきた。
◆ セ試大幅変更の背景 ~ 国大協の要望 ~
 国立大の個別試験では、社会科系の科目を課す大学が極めて少なく、学生の歴史や地理に対する知識・理解力の低さが指摘されていた。特に人文・社会科学系の大学・学部では、高校における地理歴史(以下、地歴)の科目群は専門基礎教育を受ける上で必須の科目群であるという。そのため、国立大の文系学部を中心に、セ試の「“地歴”から2科目」を選択・受験させたいという要望が根強く、国立大学協会(以下、国大協)は16年からの所謂、セ試「5(6)教科7科目」体制の見直しの中でその実現を図るべく、大学入試センターに「地歴2科目選択」の要望書を提出していた(14年4月・6月、17年6月)。
 さらに国大協は、社会科系のセ試科目で4単位科目を指定する場合、公民(現行課程入試開始の18年~23年までの出題科目は全て2単位)からの選択が制約されてしまうこと(社会科系4単位科目は地歴1科目しか課すことができない)や、学習指導要領上では「現代社会」(2単位。以下、現社)又は「倫理」(2単位)+「政治・経済」(2単位。以下、政経)が必履修となっていることを指摘。そのうえで、公民の出題科目に4単位科目の「倫理、政治・経済」(以下、倫政経)の新設を要望していた。
 国大協はこうした要望を『平成22年度以降の国立大学の入学者選抜制度-国立大学協会の基本方針-』(19年11月。以下『基本方針』)において改めて提起し、1コマの試験枠で「地歴2科目選択」や「理科2科目選択」を可能とすること、4単位科目の倫政経の設定などのセ試改善策を大学入試センターに要請した。
◆ セ試実施方法の変更に至る経緯と周知
 大学入試センターでは、大学・高校関係者、有識者等による「セ試の改善に関する懇談会」を設置、国大協の上述のような要望や『基本方針』に盛り込まれたセ試改善要請を中心に幅広く検討し、セ試改善策の『意見のまとめ』(20年3月)を文科省に提出した。
 文科省はこれを踏まえ、20年8月、24年セ試に係る実施方法変更の基本方針を公表。
 その後、大学入試センターで具体的な試験実施方法や受験方法等について検討(20年9月~23年5月)。その間、22年5月には文科省から『24年度セ試実施大綱』、大学入試センターから『24年度セ試出題教科・科目の出題方法等』が大学等に発出され、出題教科・科目の試験時間、出題範囲、配点等が明らかにされた。さらに、23年5月には大学入試センターから『24年度セ試実施要項』が発出され、24年セ試の時間割が確定した。
 そして、23年6月~12月、文科省や大学入試センター主催の入学者選抜・教務連絡事項及び入試担当者連絡協議会で、各大学に対し24年セ試大幅変更の周知が図られた。
 高校関係者には23年7月~8月の大学入試センター説明会、セ試志願者には24年セ試『受験案内』(23年9月1日から配付)、『受験上の注意』(23年12月)等で周知された。
◎ 試験枠統合による地歴、公民、理科の成績利用の扱い ~ 決定時期の遅れ ~
 24年セ試の試験実施方法や受験方法が大幅に変更されて複雑になったが、その周知は上記のような形で行われてきた。それにも拘らず、多大なトラブルを生じてしまったのは、現場の試験監督者への周知徹底の不十分さ、試験実施者(大学入試センターと各大学の“共同実施”)の認識の甘さなどに加え、変更された地歴、公民、理科の具体的な受験方法等の決定時期の遅れもトラブルの要因の一つとして指摘されている。
 地歴と公民の試験枠統合による[地歴、公民](以下、[ ]は試験枠)、及びグループ制廃止による[理科]における「2科目選択・受験」の扱い(第1解答科目、第2解答科目の扱い等。後述)や[地歴、公民]の教科数の扱い(「地歴」と「公民」各1教科となるのか、[地歴、公民]<社会科系試験枠>で1教科扱いとなるのか → 事前登録や検定料、各大学の利用教科・科目数に関係する)などの決定、周知時期が遅かった。
 「2科目選択・受験」の扱いについては、大学入試センターの各大学への説明会等での「第1解答科目」利用の要望を踏まえ、国大協は23年6月下旬、各国立大に「第1解答科目」の成績利用を要請した。そのため、国公立大の『24年度入学者選抜要項』(23年6月1日~7月31日までに発表)に「第1解答科目」利用の記載が間に合わず、急遽ホームページ等での広報や、『24年度学生募集要項』(23年12月15日までに発表)での記載など、その対応におわれた大学が多かった。
 他方、セ試志願者にとっては、第1解答科目と第2解答科目をめぐり、併願も含めた出願要件(セ試科目の選択・受験、解答順序等)の確認など、難しい判断を迫られた。

 

24年セ試の大幅変更の概要

 

 24年セ試で大幅に変更された試験実施方法や受験方法の概要は、次のとおりである。
 ● 地歴と公民の試験枠を統合し、10科目から最大2科目が選択可能。
 ● 理科の3グループ制を廃止して試験枠を統合し、6科目から最大2科目が選択可能。
 ● 公民の出題科目に「倫政経」を新設。

 ● 「事前登録制」を導入し、出願時に全ての受験教科名と地歴、公民、理科における受験科目数、及び別冊子試験問題(数学、外国語)の配付希望を登録。(図1参照)
◆「第1・第2解答科目」/「解答時間」の“不公平”是正措置
 統合された試験枠[地歴、公民]と[理科]において、「2科目選択・受験」の場合、最初に解答する科目を「第1解答科目」、次に解答する科目を「第2解答科目」としている。
 [地歴、公民]及び[理科]における問題冊子は1科目受験者、2科目受験者とも同じであり([地歴、公民]の問題冊子は地歴と公民の2分冊。[理科]の問題冊子は1冊)、2科目受験の解答科目の順番は受験者に任される。解答時間は各科目60分であるが、2科目受験の場合、第1と第2の間に10分間(「中間時間」)の答案回収(第1科目)と解答用紙配付(第2科目)を行うため、試験時間は“130分のぶち抜き”となる。
 そのため、セ試受験者の志願大学・学部のセ試利用が“1科目利用指定”であると、当該受験生は“本命1科目”に絞って「2科目選択・受験」(試験時間130分)を事前登録し、“本命1科目”の解答に最大2倍近い解答時間(120分程)を掛けることが可能だ。
 こうした解答時間の“不公平”を是正する観点から、大学入試センターでは「2科目選択・受験」の場合、志願大学への成績提供について、“1科目利用指定”の場合でも、「第1解答科目」「第2解答科目」それぞれの得点及び合計点を提供して、合否判定には「第1解答科目」の利用を促すなどの是正措置を講じている。
 他方、国大協でも大学入試センターの是正措置を踏まえ、「2科目試験枠」における受験者が“1科目利用指定”の学部等に出願した場合、従来の「高得点科目」による合否判定ではなく、「第1解答科目」の利用を各国立大に要請。因みに、24年入試ではほぼ全ての国立大と半数以上の公立大が「第1解答科目」の成績を利用した。(図1参照)

 

設問

 

<24年セ試の実施概要と主なトラブル等>

 

本試験の実施概要

 

 24年セ試は志願者数55万5,537人(前年比0.6%減)、受験者数52万6,311人(同0.3%減。追・再試験受験者含む。本試験受験者数は52万6,182人)で、ともに4年ぶりに減少した。
 24年1月14・15日の本試験は、参加大学674大学(国立大82校、公立大79校、私立大513校)・161短大(公立短大16校、私立短大145校)で、全国709試験会場の9,843試験室において実施された。

 

[地歴、公民]における主なトラブル

 

「本試験」第1日目最初の[地歴、公民]の試験で、次のようなトラブルが多発した。
 ◆ 2教科(地歴、公民)受験者に対して、地歴と公民の問題冊子(2冊)を同時に配付せず、いずれか1冊のみの配付で試験を開始するなどのトラブル → 69大学・81試験会場の98試験室(試験室総数の1.0%)
→ 受験者3,452人(本試験受験者数の0.7%)に影響。
 ◆ 試験監督者から受験者への説明や指示が長引いたり、問題冊子の配付に手間取ったりしたため、正規の試験開始時刻が“10分以上”繰り下がったところが[地歴、公民]の2科目試験室に集中 → 44大学・48試験会場 → 受験者4,053人(本試験受験者数の0.8%)に影響。
 ◎ 問題冊子の配付ミスに対する対応、救済措置
 ・試験会場において、1科目の試験時間60分を確保するよう解答時間を調整。
 ・本試験当日、本人の予定(本意)と異なる科目を「第1解答科目」として提出していないか確認し、「第1解答科目」と「第2解答科目」の入替え希望には答案の転記を実施。
 ・本試験終了後、[地歴、公民]試験で試験問題の配付ミスがあった試験室在室者(69大学・81試験会場、98試験室の3,452人)を対象に、①「第1解答科目」と「第2解答科目」の解答順序入替えの希望/②「再試験」受験希望の二つの選択肢を提示し、その意思確認を実施。その結果、3,452人の救済措置対象者のうち、①の解答順序入替え希望者=264人/②の「再試験」希望者=243人 → 「再試験」受験者=212人であった。

 

リスニング機器の輸送ミス

 

「本試験」第1日目最終科目の英語リスニング(17:10~18:10)の機器が試験会場(東日本大震災に伴う特例措置として設定された宮城県の公立高校の臨時試験場)に必要個数搬入されなかったため、試験開始時間が2時間遅延した。
 ・影響を受けた受験者=202人 → 「再試験」受験者=1人。

 

< 「検証委員会」 の設置と 『検証報告書』 >

 

大学入試センターの検証委員会

 

 大学入試センターは今回のセ試実施のトラブルを検証し、再発防止策を検討するため、高校・大学関係者ら外部有識者による「24年度セ試の実施に関する検証委員会」を24年2月初めに設置。当検証委員会はセ試実施方法に関する検証、セ試実施大学へのアンケート調査(試験実施本部を置く544大学対象、519大学回答)、関係者からのヒアリング等を行い、24年3月末に『24年度セ試の実施に関する検証報告書』(以下、『入試センター検証報告書』)をまとめ、公表した。
 ◆『入試センター検証報告書』
 『入試センター検証報告書』の内容は、24年セ試の受験方法及び実施方法の変更、発生したトラブルの内容、受験者の救済措置、各トラブルの検証、再発防止に向けての提言、実施大学へのアンケート調査結果などである。
検証委員会は、25年セ試実施において受験者に関わるトラブルの再発防止に向け、次のような提言を提示している。
 ① 問題冊子の形態
 ● 地歴、公民の問題冊子の配付の複雑さが配付ミス等の原因であったことなどから、検証委員会では、問題冊子は“合冊”化(または“2冊パッケージ”化)を行う方向で検討すべきであるとしている。
 ● 地歴、公民の問題冊子の合冊化は、問題冊子の配付ミスの再発防止に寄与し、実施方法の簡素化、試験開始前の準備時間の短縮化にも有効であるという。
 冊子の形態については、アンケート調査回収大学(短大含む)519校(配付ミス有り=69校/配付ミス無し=450校)中、321校(回収大学に占める割合61.8%)が「合冊化」を回答している。321校の内訳は、「配付ミス有り」校が55校(「ミス有り」校に占める割合79.7%)、「配付ミス無し」校が266校(「ミス無し」校に占める割合59.1%)である。
 なお、「分冊のままとするが、2教科2科目受験者には2冊の問題冊子を袋詰め」にする方策については、全体で97校(回収大学に占める割合18.7%)が回答している。
 ② 地歴、公民、理科の2科目受験における「中間時間」
 ● 地歴、公民、及び理科の2科目受験者試験室における「中間時間」の“10 分間”は、「トイレ等の一時退室は、原則認めない」ことについての“周知徹底”を受験者側及び監督者側の両者に行う必要があるとしている。
 ● 上記のような事項の“周知徹底”を図ると同時に、「中間時間」における受験者の対応等に“連絡要員の増員”を検討する必要があるとしている。
 ③ 試験時間割の検討
 ● 地歴、公民、及び理科をどの試験時間帯に配置するかについても、ミスの未然防止を図る観点から改めて検討する必要があるとしている。
 当検証委員会では、地歴、公民の時間帯を別の時間帯や第2日目に移動するなど複数の案について検討したという。しかし、地歴、公民の問題冊子の合冊化を前提とした場合、現行試験時間割より明らかに改善される案を見いだすには至らなかったという。
 ● 当検証委員会は、各科目の予想される受験者数、受験しない教科がある場合の受験者の待機時間等、様々な事情を総合的に勘案したうえで、さらに大学入試センターにおいて検討することを期待するとしている。
 ④ 『監督要領』の改善
 ● 今回の試験実施トラブルでは、正規の時刻に試験が開始できず、試験開始時間10分以上繰り下げの影響は4,053人に及んだ。
 24 年セ試の『監督要領』(試験監督者用マニュアル)は、23年に比べて指示内容等の分量が増え(200ページ以上)、時間繰下げが多発した理由の一つになっているという。
 地歴、公民、理科については、受験方法、実施方法の変更に伴い新しい用語、表記が増え、一部の監督者はそれらを十分に理解しないまま、監督業務に当たったようだ。
 ● こうした実態を踏まえ、試験当日の説明時間を短縮する観点から、検証委員会では『監督要領』のスリム化とともに、平易で明確な記述を求めている。

 

文科省の検証委員会

 

 文科省でも今回のセ試トラブルを検証し、25年以降のセ試改善策等を検討する「24年度セ試に関する検証委員会」を24年2月中旬、省内に設置した。委員は、大学・高校関係者、外部有識者、及び文科省側からの副大臣、政務官で構成。
 当検証委員会での検討事項は、①24年セ試で発生したトラブルについて/②『入試センター検証報告書』の内容/③25年以降のセ試における再発防止策/④今後のセ試の在り方に関する課題の論点整理、の4点である。
 文科省の検証委員会では、関係団体からのヒアリング、『入試センター検証報告書』の検討等の結果を踏まえつつ、当検証委員会としての意見やセ試の中長期的な課題についての指摘等を『入試センター検証報告書』に加えた形で、24年4月下旬に『24年度セ試に関する検証委員会報告書』(以下、『文科省検証報告書』)を取りまとめ、公表した。
◆『文科省検証報告書』
 『文科省検証報告書』の主な内容は、上述のように『入試センター検証報告書』をベースにしており、1.24年セ試の主な変更点/2.24年セ試の主なトラブル/3.トラブル発生原因の検証/4.再発防止に向けて/5.中長期的な課題、の5部構成である。
 このうち、受験者に関係する4.の「再発防止に向けて」については、①試験監督者に対する周知方法の改善、②試験監督者用マニュアル(監督要領等)の改善、③問題冊子の形態、④試験時間割等の設定方法の改善、⑤各大学内での各試験場、各試験室への輸送の改善、⑥大学入試センターと各大学間の連絡体制の改善、⑦実施方法の検討プロセス等の改善、といった項目を立てて改善方策を提言している。
 特に注目される③の「問題冊子の形態」については、『入試センター検証報告書』の提言と同様、“問題冊子の合冊化”(パッケージ化して2冊の問題冊子を一律に全員に配付する方式を含む)が考えられるとしている。その際、受験者にとっての扱いやすさなどを十分に考慮して決定する必要があるとしている。
 また、5.の「中長期的な課題」については、次のように提言している。
● セ試の複雑化が、今回の様々なトラブルの背景として考えられることを踏まえ、セ試の在り方について、今後、文科省において別途検討が行われることが望まれる。
● 18年から導入されている英語のリスニングテストについては、これまでの成果を検証することが必要である。その上で、今後の在り方についても検討すべきである。
● セ試の在り方も含めた入試制度全体の検討に当たっては、高校段階から大学卒業までを見通した「高大接続」の観点からの総合的な検討が必要である。
● セ試も含めた入試の内容・方法の変更に際しては、受験者の準備状況に対する配慮が必要である。そのため、中長期的な課題の検討に当たっては、周知や準備のための期間についても十分に留意して進めることが必要である。
● 文科省は、セ試実施に当たっての十分な対応が行われるよう大学入試センター等に必要な指導、助言を行うとともに、当分の間、定期的なフォローアップを実施すべきである。
 
【速 報】 文科省及び大学入試センターの『検証報告書』で提言されていた地歴と公民の問題冊子の“合冊”化が24年5月末に決まり、文科省から『25年度大学入学者選抜実施要項』、大学入試センターから『25年度セ試実施要項』が各大学等に発出された。
 各大学の「セ試利用の教科・科目」については、合冊化しても地歴と公民は学習指導要領に準じ、“別教科”扱いになる。
 他方、セ試出願時における[地歴、公民]の「事前登録」上の教科数は、受験者に一律同じ問題冊子を配付するため、“教科区分”の必要はなく、全て“1教科”扱いとなる。

 

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<複雑化したセ試実施方法と受験方法>

 

[地歴、公民]2科目受験の問題冊子の配付パターンは“7通り”!

 

 24年セ試実施トラブルで最も問題となったのは、地歴と公民の問題冊子の配付ミスである。試験実施の試験室の割り当てや問題冊子の配付パターンと配付ミスとの関連等については、大学入試センター及び文科省の『検証報告書』でおよそ次のように報告されている。
 試験枠[地歴、公民]における「2科目受験」の教科別“受験パターン”は、①「地歴1科目+公民1科目」(以下、「科目」は略記)/②「地歴2」/③「公民2」の3通り。
 また、[地歴、公民]と[理科]の2科目受験者と1科目受験者が同一試験室内に混在した場合、試験開始前の説明や指示、答案回収や解答用紙の配付が難しくなることから、両者を同一試験室に割り当てないこととされた。
 ただ、[地歴、公民]の「2科目受験者」の試験室4,159室においては、試験会場の試験室数と受験者(収容者)数によって、配付する問題冊子の種類が異なる受験者を同一の試験室に収容する場合がある(同一試験室に混在)。
 そのため、[地歴、公民]の「2科目受験者」の各試験室における地歴、公民の問題冊子の“配付パターン”は、次の“7通り”となる。
 ①「地歴1+公民1、地歴2、公民2」(388室、2科目試験室に占める割合9.3%)/②「地歴1+公民1、地歴2」(575室、13.8%)/③「地歴1+公民1、公民2」(458室、11.0%)/④「地歴1+公民1」(2,145室、51.6%)/⑤「地歴2、公民2」(3室、0.1%)/⑥「地歴2」(340室、8.2%)/⑦「公民2」(250室、6.0%) (図2参照)
 ◆「地歴1+公民1」での配付ミスが約7割で最多 !
 [地歴、公民]2科目受験者の試験室(4,159室)における問題冊子の配付パターンが上記のように複雑化した中、98試験室で地歴、公民の問題冊子の配付ミスが発生した。
 上記①~⑦の配付パターン別の各試験室における“配付トラブル室数”(合計数は当日別室で実施した4室を除く94室)は、次のとおりである。
 パターン①=3室(トラブル室数94室に占める割合3.2%)/パターン②=9室(同9.6%) /パターン③=13室(同13.8%) /パターン④=69室(同73.4%) /パターン⑤・⑥・⑦=0室
 配付パターン別の試験室の設置割合と配付ミスの発生割合をみると、④の「地歴1+公民1」の配付パターンは、試験室の設置割合は約52%であるが、配付ミスの発生割合は約73%に拡大している。その一方で、最も複雑な配付パターンである①の「地歴1+公民1、地歴2、公民2」は約9%から約3%に減少している。
 つまり、より複雑な混在型の試験室では配付ミスはむしろ起こりにくく、比較的単純な配付パターンの試験室で配付ミスが起こりやすい傾向がみられると、文科省及び大学入試センターの『検証報告書』は伝えている。
 なお、「地歴1+公民1」が混在しない試験室(⑤・⑥・⑦の配付パターン)では、配付ミスが起きなかったことも注目される。(図2参照)

 

[地歴、公民]2科目受験 問題冊子の配付パターン別試験室数とトラブル室数の割合比較

 

[地歴、公民]2科目の受験パターンは“40通り”!

 

 試験枠[地歴、公民]における「2科目受験」のパターンは、“教科の組合せ”に着目すれば前述したように、「地歴1+公民1」/「地歴2」/「公民2」の3通りである。
 さらに、各教科の“科目の組合せ”でみれば、「地歴1+公民1」=24通り(地歴A科目(以下、「科目」略)×公民=12通り、地歴B×公民=12通り)/「地歴2」=12通り(地歴A×地歴A=3通り、地歴B×地歴B=3通り、地歴A・B×地歴A・B=6通り)/「公民2」=4通り、の合計“40通り”にのぼる。因みに、前年までの地歴と公民の各試験枠から1科目ずつの「2科目選択・受験」の組合せは、18通りだった。
 ◆「地歴1+公民1」受験者:約15万8,000人、2科目受験者の約88%
 24年セ試の[地歴、公民]2科目受験者は、17万9,217人(以下、実受験者数)で、23年の2科目受験者23万424人より5万1,207人(22.2%)の大幅減となった。これは、国立大を中心としたセ試利用の1科目指定における2科目受験の成績利用の大転換(高得点科目利用→第1解答科目利用)などから、理系志望者を中心に“公民離れ”が進んだ結果とみられる。
 さて、24年の2科目受験者17万9,217人のうち、「地歴1+公民1」の2科目受験者は15万7,612人で、[地歴、公民]2科目受験者に占める割合は87.9%に達する。さらに、その科目別の組合せでは、公民の「現社」を基軸に、「日本史B」との組合せが3万1,392人([地歴、公民]2科目受験者に占める割合17.5%)、「地理B」との組合せが2万5,839人(同14.4%)のほか、「日本史B」と「政経」の組合せが1万7,645人(同9.8%)などとなっている。
 なお、地歴と公民の試験枠統合の要因になった「地歴」2科目受験は、受験者が1万5,749人([地歴、公民]2科目受験者に対する割合8.8%)と、期待されたほど多くなかった。特に「地歴B」科目同士の2科目受験者は、1万5,251人(同8.5%)に留まった。(図3・4参照)

 

[地歴、公民]内訳等

 

<多様化するセ試利用>

 

 セ試利用の方法は、利用教科・科目や配点なども含め、利用大学(学部)に任されている。
 国立大では、特定な科目に偏らず、高校教育として標準化された教科学習を促進するとともに、「学力低下」に歯止めをかけるなどの狙い(国大協提言:『国立大学の入試改革-大学入試の大衆化を超えて-』、平成12年11月)から、16年入試以降、所謂セ試「5(6)教科7科目」を原則とすることが定着している。すなわち、①文系標準型:国語+[地歴、公民]2科目+数学(2科目)+[理科]1科目+外国語/②理系標準型:国語+[地歴、公民]1科目+数学(2科目)+[理科]2科目+外国語である。因みに、24年入試でセ試「5教科7科目以上」を課す国公立大は、国立大95.1%(大学ベース)、公立大38.0%(同)である。
 他方、私立大では、セ試を単独で利用する従来型の「セ試利用入試」に加え、最近では「独自試験+セ試」といった併用型もみられる。また、受験料割引など、志願者獲得策の一つとしての利用も目立ち、今や私立大の8割以上(大学ベース)がセ試を利用している。
● 国立大の“セ試任意受験”! 合否判定以外のセ試利用では、国立大で“セ試を課さない”推薦・AO入試の合格者に入学までの間、学習意欲の継続や基礎学力の確保・維持、AO入試の出願要件にある指定教科・科目の履修状況や学習成果とは別の観点による学力把握などの目的で、“セ試の任意受験”(推薦入試)や“セ試受験と大学への成績通知”(AO入試合格者の入学要件)といった、学習教材あるいは学力測定教材的な利用もみられる。
 このように、セ試は国公立大及び私立大の入試利用のみならず、大学での入学前教育の教材的な利用などのほか、高校でもセ試を課さない推薦・AO入試の早期合格組に学習意欲と学力維持・向上策としてセ試の受験を勧めている。
 セ試の利用が多様化、複雑化する中で、受験者層も多種多様な様相を呈している。

 

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<セ試トラブルの背景>

 

セ試の“目的・機能”と、“複雑なセ試利用”への対応

 

 24年セ試トラブルは、複雑な試験実施方法や受験方法の変更に伴う実施作業上のミスや実施者側の認識不足だけでなく、セ試本来の“目的・機能”(後述)と、各大学の“複雑なセ試利用”への対応との間の“ずれ”が露呈してしまったとみる。セ試の利用者、志願者ともセ試を専ら“選抜テスト”として捉えている。そのため、セ試は単一の共通試験でありながら、多様化・複雑化したセ試利用に即して試験実施も複雑にならざるを得ない。
 そうした試験制度上の“限界(無理)”が、今回のトラブルの背後にあるとみられる。

 

セ試のもつ“二面性”

 

 セ試は大学志願者の「高校における基礎的な学習の達成度を測る」という“目的”(目標準拠型の“達成度テスト”=絶対評価)と、セ試を利用する大学(短大含む)に対し「当該大学入学者を選抜するための基礎資料を提供する」という“機能”(集団準拠型の“選抜テスト”=相対評価)といった“二面性”をもっているといえる。
 セ試のこうした目的・機能の原点は、セ試の前身である共通第1次学力試験(昭和54<1979>年~平成元<1989>年。以下、共通1次試験)の設置目的に繋がっているといえる。
 ◆「共通テスト」構想と「共通1次試験」の設置
 昭和40(1965)年代、18歳人口の激増、大学進学率の上昇、大学受験生数の急増などから受験環境が激化。そのため、高校での「学習成果」(「調査書」等)は入学者選抜に反映されず、所謂“難問・奇問”の出題が多くみられた。こうした状況に対し、当時の中教審は、『今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について』を答申し(昭和46<1971>年6月。以下、『四六答申』)、初等中等教育から高等教育までの学校教育全般にわたる制度的・内容的な改善施策を提言した。その中で、大学入試制度の改善の方向として、次の3点を挙げている。
 ① 高等学校の学習成果を公正に表示する調査書を選抜の基礎資料とすること。
 ② 広域的な共通テストを開発し、高等学校間の評価水準の格差を補正するための方法として利用すること。
 ③ 大学側が必要とする場合には、進学しようとする専門分野において特に重視される特定の能力についてテストを行い、または論文テストや面接を行ってそれらの結果を総合的な判断の資料に加えること。
 上記の①・②から、『四六答申』は当時既に「高大接続」と「入学者選抜」の問題点を踏まえ、“教育機能”を意識した「共通テスト」の創設を提言していたことが伺える。
 他方、国大協は当時、“高校教育の尊重”(高校での学習成果を入学者選抜に反映)と“各大学の独自性”(個別試験)といった入学者選抜の“二部構成”を構想していた。
 そして、『四六答申』の①・②は国立大の入学者選抜で「高校における一般的・基礎的な学習の達成度を共通尺度で評価するための試験」として位置づけられ、入学者選抜の“第1段階試験”(共通1次試験)として昭和54年1月、公立大も参加して実施された。また、提言の③は、国公立大の「共通1次試験と各大学の個別試験(2次試験)との総合による合否判定」という入学者選抜方法によって具体化された。
 ◆ セ試の「アラカルト方式」と“選抜テスト”機能の強まり
 共通1次試験は、全受験者(国公立大志願者)に一律「5教科7科目」(国語、数学<1科目200点満点>、外国語、社会<2科目>、理科<2科目>。昭和62<1987>年~平成元年は「5教科5科目」主体)を課したため大学の“序列化”が進み、“輪切り”の進路指導が行われたこと、試験の利活用が国公立大のみに留まったことなどが問題視された。
 当時、臨時教育審議会(臨教審:総理大臣の私的諮問機関)は『第1次答申』(昭和60年6月)の「大学入学者選抜制度の改革」において、大学・学部の序列化による「偏差値」偏重の受験競争の弊害を是正し、受験生の個性・能力・適性等の多面的な判定や、国公私立大を通じて各大学が自由に利用できる新たな「共通テスト」の創設を提言した。
 共通1次試験は、臨教審の多様化・個性化路線を踏まえ、国公立大の固有性を崩して私立大の参加を可能にし、受験教科・科目を各大学(学部)の自由に任せる「アラカルト方式」にするなど、入学者選抜の多様化、独自性に向けた「センター試験」へと衣替えした。
 セ試の「アラカルト方式」は、私立大の参加(2、3科目主体)を促進した。国公立大では「5教科6科目」(国語、数学<2科目>、外国語、社会<9年から地歴、公民:1科目>、理科<1科目>)が主流を占めたが、利用方法の弾力化を受け、少数科目利用の大学・学部も少なくなかった(国立大では16年以降「5(6)教科7科目」化が定着)。こうしたことから、セ試のもつ“二面性”のうち、「高校における学習成果を把握する」目標準拠型の“達成度テスト”としての機能は薄れ、集団準拠型の“選抜テスト”としての機能が強まった。
● 当初の「共通テスト」構想とセ試の実相
 前述したように中教審の『四六答申』で提起された「共通テスト」構想は、共通1次試験からセ試へと改変されていく中で次のように変貌していった。
 ①高校「調査書」の評価水準の格差補正(中教審『四六答申』) → ②共通1次試験:高校教育における一般的、基礎的な学習の達成度を測る第1段階試験(選抜テスト:国大協) → ③セ試:大学志願者の高校段階の基礎的な学習の達成度を測る/利用大学に入学者選抜のための基礎資料(合否判定資料)として提供(臨教審『第1次答申』)
 特に上記③のセ試の“二面性”については、以前から疑問視されていた。例えば、地歴のA、B科目(旧課程では国語Ⅰ、国語Ⅰ・Ⅱ/理科ⅠA、ⅠB科目等も)など、単位数や難易度の異なる科目の同列な扱いは、セ試の“達成度テスト”の理念(目的)として許容されるものの、“選抜テスト”(実態)としては問題視されてきた。
 そして、セ試は当初の「共通テスト」構想が掲げた“教育機能”の働きをみえにくくしてしまっため、“選抜テスト”として、出題内容・難易度、得点調整対象科目間の平均点較差等の適正化に加え、絶対的な公正・公平性の下、50万人以上の受験者を対象に過誤なく全国同一期日に同一試験を行うなど、厳しい実施条件が要求されている。

 

<セ試見直しの好機に ! >

 

“単一の共通試験”に限界

 

 セ試開始から20年以上、共通1次試験から30数年、この間、様々な改革がなされてきたが、高校教育の多様化と細分化された履修教科・科目、多様化する大学の利用目的と受験者層の拡大などに、“単一の共通試験”であるセ試がどこまで対応できるのか。
 28年から「全面実施」される新課程対応のセ試の出題教科・科目については既に決定、公表されている。特に、27年から「先行実施」される「理科」の出題科目の多様化と選択・受験科目の“パターン化”はこれまで以上に複雑で、新たな混乱も懸念される。(図5参照)
 『文科省検証報告書』の提言にもあるように、受験者への周知期間にも配慮しつつ、今回のトラブルを機に、セ試の目的・機能、利用方法などを実態に即して幅広く検証し、「高大接続」の在り方も含めた観点からの見直しも必要ではないか。

 

共通一次試験からセンター試験への変遷と主な改善等

 

「高大接続」と大学入学者選抜

 

「高大接続」では、本来、異質で目的の異なる二つの教育段階、つまり「高校教育」と「大学教育」(学士課程教育)とをいかに“円滑”に接続するかが重要だ。それは、両者を同化させたり、主従の関係で結び付けたり、高校の履修科目と大学の入試科目の連続性を求めたりするのでなく、それぞれの独自性を尊重し、それを担保するシステムが必要である。
 「高大接続」に関してはこれまで中教審はじめ、関係機関等で議論、提言されてきた。
 中教審答申『学士課程教育の構築に向けて』(20年12月)では、「高校と大学は“選抜だけの関係”から、“客観的できめ細やかな学力把握”とそれに基づく“適切な指導”で学力向上が図られるよう共に力を合わせて取組む関係へと転換していくこと」を求めている。
 こうした「高大接続」に係る入試改善策の答申に関し、文科省委託の所謂「高大接続テスト(仮称)」の協議・研究(国公私立大、高校関係者等で構成)の『最終報告』(22年9月)は、高校段階の基礎的教科・科目についての学習の達成度を客観的に評価する“目標準拠型”の「達成度テスト」の基本的方向性を提言している。
 現在、中教審の高等学校教育部会及び大学教育部会では、高校教育と学士課程教育における“質の保証”などについての議論がなされている。今後は、両部会の合同会議も提起されており、「高大接続」に係る高校での学習成果の把握と質保証、セ試や「高大接続テスト(仮称)」も含めた入学者選抜の在り方などについての幅広い議論が期待される。

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