入試動向分析

2011年 国公立大入試 志願者動向分析【2011年4月】

2011(平成23)年度

センター試験の平均点アップで文系は“初志貫徹”、理系はやや強気に出願。
準難関校が激戦化!

 

大学入試を突破するには、そのしくみを知ることからスタートしよう。今回は、最終目標とすべき国公立大の2011年入試について、人気度を示す「志願者動向」を分析。さらに、キミたちが受験する2012年入試の最新情報もお届けする。センター試験の実施方法が地歴・公民、理科で変わるので要注意だ。

 

※この記事は「螢雪時代(2011年4月号)」の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)

 

不況の深刻化で“国公立大志向”が強まる。
全日程で志願者が増加し、5年ぶりに50万人を突破。
後期は“浪人回避”で慎重出願に


このページの先頭へ

国公立大の志願者数は前年比3%増で、志願倍率(志願者数÷募集人員)は4.9倍→5.0倍とアップした。深刻化する不況で“国公立大志向”が強まる一方、センター試験(以下、セ試)の平均点アップの影響で、受験生の多数は“初志貫徹”で実力相応の第1志望校に出願しつつ、理系ではやや強気な出願傾向が見られた。


志願者数は3%増、志願倍率は4.9倍→5.0倍にアップ

文部科学省の発表によると、2011年(以下、11年)の国公立大一般選抜の確定志願者数は504,193人で、10年に比べ3.0%増加(独自日程で入試を行う国際教養大・新潟県立大は集計に含まれない)。5年ぶりに50万人を突破した。そして、全募集人員(100,583人)に対する倍率(志願倍率)は5.0倍に達し、10年より0.1ポイントアップ(グラフ1)した。
 入試日程別に志願状況(グラフ2)と志願倍率の変化(10年→11年)をみると、前期は「2.7%増:3.3倍→3.4倍」、後期は「3.7%増:10.1倍→10.4倍」、公立大中期は「2.2%増:13.7倍→14.2倍」といずれも志願者が増え、志願倍率もアップしている。
 国立・公立の別に見ると、募集人員3.2%増の公立大が志願者3.5%増、志願倍率は6.7倍で変わらないのに対し、募集人員がほぼ前年同様の国立大で志願者2.9%増、志願倍率も4.5倍→4.6倍にアップしたのが注目される。
 本誌の推定では、4(6)年制大学の受験生数が2年連続で増えた(0.4%増)。また、セ試の志願者数も増えた(1.0%増)とはいえ、国公立大の10年(3%増)に続く志願者増は“国公立大志向”の根強さを改めて印象づけた。

大学受験生数と国公立大志願者数・志願倍率等の推移


個別試験の日程は3種類。募集枠はほぼ前期8:後期2

国公立大の一般入試では、まずセ試を受験した後、自己採点を行い、全国集計データなどを参考に、2月上旬までに各大学の個別試験(2次試験)に出願する。2次試験は原則として、各学部の募集人員を前期・後期日程に分割して行われ(分離分割方式)、その比率はほぼ「前期8:後期2」。前期の割合が年々高まっている。また、公立大の一部で公立大中期日程を行う。
 2次試験への出願は、試験日程の組み合せにより、
(1)前期→後期、
(2)前期→公立大中期、
(3)前期→公立大中期→後期、
(4)公立大中期→後期、

の4通りの併願パターンがある。ただし、前期日程試験に合格し、入学手続をした人は、後期・公立大中期を受験しても合格者とはならない。このため、第1志望校は前期から選ぶのが基本となる。なお、指定された志願倍率を超えた場合、「2段階選抜」を行う大学・学部もある。
 こうした一般入試に先立って、AO(アドミッション・オフィス)入試や推薦入試が行われる。いずれも、セ試を「課さない」「課す」の2種類あり、最近は後者が増えている。


セ試では国語、数学Ⅰ・A、物理、化学などが易化、理系に“追い風”

大学入試センター試験(本試験) 科目別平均点11年国公立大入試に大きな影響を与えた要素は、「セ試の易化」と「不況の深刻化」だ。

(1)センター試験の平均点ダウン
   国公立大の志願動向に最も大きく影響するのは、セ試の平均点のアップ(=易化)・ダウン(=難化)だ。11年のセ試は前年より平均点がアップした。09年・10年と難化した反動といえる。科目別にみると(表1)、文系・理系ともに受ける数学Ⅰ・A、国語や、現代社会、物理Ⅰ、化学Ⅰがアップ。一方、生物Ⅰ、英語リスニングなどでダウンした。
 国公立大がセ試で課すのは、文系で「地歴・公民各必須」の6教科7科目、理系で「理科2科目」の5教科7科目(いずれも数学は2科目受験で900点満点)が標準的だ。文系・理系ごとに、各科目の平均点と受験者数から5(6)教科7科目合計の平均点を算出(加重平均)した。
●文系標準型=533.7点(20.7点アップ)
●理系標準型=531.1点(22.0点アップ)

 いずれも大幅にアップした。ただし、実際の文系志望者は、平均点ダウンの生物Ⅰなどを理系志望者より多く選択し、逆に理系志望者の場合は、平均点アップの現代社会・物理Ⅰ・化学Ⅰを文系志望者より多く選択しているとみられ、これらの科目の影響を強く受ける。
 駿台予備学校・ベネッセの自己採点集計によると、900点満点での受験者の予想平均点は、文系(6教科7科目)が574.8点で17.0点アップ、理系(5教科7科目)が583.5点で27.0点アップ。理系の方が、より平均点アップの“追い風”を受けたことがわかる。

(2)不況の影響が強まる
   とはいえ、深刻化する不況は受験生の志願動向に深く影響を及ぼした。保護者の経済事情の悪化に伴い、「少しでも学費を安く」との意識から“国公立大志向”が強まるとともに、「浪人できない」という意識も働いた。
 このため、受験生の多数は、自己採点結果が思いのほか良好でも、“初志貫徹”で実力相応の第1志望校に、堅実に出願した模様だ。その中でも、平均点アップの幅が大きい理系(特に成績上位者)では「やや強気」な出願傾向が見られた。特に、医学部志望者の脱落が少なかった模様で、ある私立進学校では、「難関大の理系の他学部を勧めても、医学部への流れが止まらない」状況だったという。
 一方、後期については、募集人員の少なさから高倍率の激戦になりがちなので、前期より慎重に1ランク落として出願したようだ。
 なお、既卒生の増加(セ試の志願者は、現役生0.5%増に対し既卒生3.3%増)も、国公立大人気に結びついたとみられる。


このページの先頭へ

千葉大・横浜国立大・神戸大・広島大など“準難関校”が志願者増。
理・工・農、医・歯・薬など「理系+資格系」が高人気


このページの先頭へ

学部系統別では、医・歯・薬をはじめ理系全般に志願者が増加する一方で、法・経済は人気ダウン。教員養成系も前年並みに留まった。千葉大・横浜国立大・神戸大・広島大・大阪市立大など“準難関校”で志願者が軒並み増加した。一方、公立大では前年の反動が顕著だった。

北陸・東海が8%増、中国・四国が7%増。“内向き”な出願傾向

国公立大入試 地区別志願状況全国6地区ごとの全体的な志願動向(グラフ3)を見ていこう(以下、【前】=前期、【後】=後期)。九州以外の5地区で増加したが、中でも北陸・東海が8%増、中国・四国が7%増と突出している。一方、北海道・東北、関東・甲信越は1%増と全国平均を下回った。
 北陸・東海、中国・四国の場合、不況の深刻化から、入学後の生活費を考え“地元志向”が強まったためであろう。名古屋大(8%増)や広島大(10%増)の志願者大幅増は、難関校志望者でさえ“内向き”気味で、地区外へ打って出なかった様子が見て取れる。
 逆に、理工系志望者を中心に、関西地区西部、九州北部から中国・四国へ、東北地区南部から関東地区北部へ積極的に進出した模様。「必ず現役で国公立大へ」との意欲が、本来は強いはずの“地元志向”を上回った格好だ。
 各地区のおもな大学に関する分析は、螢雪時代4月号掲載の『螢雪ジャーナル』をご覧いただきたい。

図1・図2

“理系女子”が目指す分野が志願者増、法・経済はやや減

次に、学部系統別の志願状況を見てみよう(グラフ4)。理、工、農・水畜産・獣医、医、歯、薬、医療・看護と、理系分野が軒並み人気アップ。特に“理系女子”が目指す分野の大幅増が目立つ。セ試の平均点アップが理系により強く作用し、国公立大への積極的な出願につながった模様。さらに、大学生の就職事情の悪化で「資格志向」が強まった上に、「まだしも理系の方が、就職先がある」との認識から、理系全体の人気が高まったものとみられる。
 また、高校の先生方からは、「前年より理系受験生の母数自体が増えた」「進路決定に関して保護者の影響力が強まり、就職実績重視の受験校選定に傾いた」との指摘もある。
 注目すべきは、医、歯、薬の急激な志願者増だ。医は10%増、志願倍率も7.1倍→7.8倍に急上昇した。医師不足解消へ向け4年連続で行った定員増(国公立は08年~11年で計915人増)がすっかり認知され、潜在的な志望者層が拡大したようだ。さらにセ試の平均点アップで、昨年なら難関校の他学部(理工系など)へ志望変更した学力層が初志貫徹し、地域枠(出願資格を地元出身者に限定)や地域医療枠(卒業後の一定期間の地元勤務を条件に奨学金を支給)も活用しながら出願した模様だ。その場合、少しでもチャンスのありそうな医学科(募集枠を拡大、前年が比較的低倍率など)を目指し、広範囲に動いた様子が見て取れる(図1)。
 歯は定員減(8大学で31人減)でも12%増。さらに薬は17%増、志願倍率が6.1倍→7.3倍に跳ね上がった。学費負担を考慮し「歯科医師、薬剤師を目指して6年間学ぶなら、国公立大しか行けない」との意識が強まったようだ。
 理、工は、難関校から中堅校に至るまで幅広く増加した。東京工業大(11%増)をはじめ、室蘭工業大(23%増)・名古屋工業大(17%増)・京都工芸繊維大(16%増)・九州工業大(14%増)など、理工系国立大が軒並み大幅増。セ試で理工系の必須科目といえる「物理・化学」の2科目受験者が1.9%増えたことも、「理工系人気」の底堅さを物語っている。また、農・水畜産・獣医の場合、「口蹄疫」「鳥インフルエンザ」等で社会的関心が高まった影響もあろう。
 一方、法、経済・経営・商は志願者減。法は法科大学院の新司法試験合格率の低迷、経済・経営・商は就職状況の悪化が要因と見られる。また、教員養成は前年の人気アップの反動に加え、大都市圏以外では教員採用率が低調なことから、志願者はほぼ前年並みに留まった。大阪教育大(10年32%増→11年5%減)、福岡教育大(22%増→12%減)、都留文科大(23%増→21%減)など、ゆれ戻しが目立った。

図1・図2

「前年の反動」や入試科目・募集人員の変更は要注意

11年の大学・学部別の志願状況を見るためには、次の4つのポイントを押さえておこう。

[1]前年度の倍率アップダウンの反動
 受験生が気にするのは、やはり前年度の倍率。高倍率や倍率アップなら敬遠、低倍率や倍率ダウンなら人気を集めがちで、「前年度の反動」や「隔年現象」が起きやすい。
[2]入試科目の変更、科目数の増減
 入試科目数が増えると志願者減、減ると志願者増に結びつく傾向がある。また、小論文や面接が敬遠され、学科試験のみの大学・学部が人気アップする傾向がある。
[3]募集人員の変更
 後期から前期へ(その逆も)募集人員を移したり、学部全体の募集人員が増減したりした大学・学部では、募集人員が増えた(減った)日程は志願者も増える(減る)ことが多い。
[4]地区内の「玉突き」
 志願者が急激に増えた(減った)大学・学部や、新設大学・学部などがあると、近隣の大学や学内の他学部で、玉突きのように変動が起きるケースがある。

わかりやすい例として、横浜国立大‐理工と大阪市立大‐医(医)のケースを紹介しよう。
事例1 横浜国立大‐理工
工学部で5→4学科に改編し「理工学部」に名称変更。教育人間科学部(教員養成以外の課程を統合)から定員の一部を移し、募集人員を「前期220人→303人、後期374人→388人」に増やした(→[3])ため、志願者数は前期(66%増)、後期(13%増)とも大幅増。理系の「やや強気」な出願傾向もあって、電気通信大‐情報理工【前】(9%減)・同【後】(6%減)、山梨大‐工【前】(16%減)などの志願者減につながった(→[4])。
事例2 大阪市立大‐医(医)
   前期でセ試の理科を3→2科目に軽減(→[2])、志願者は前年比52%も増加した。この影響は周辺地区の医学科に及んだ(→[4])。10年に同様の科目軽減を行った徳島大‐医(医)【前】、岡山大‐医(医)【前】が、前年の反動もあって、前者が「10年62%増→11年10%減」、後者が「10年8%増→11年15%減」と減少した(→[1])。

東京工業大・名古屋大が大幅増。公立大で前年志願者増の反動

表2では、志願者数の多い順に、上位10大学を一覧表にした。従来から人気が高く、募集人員も多い難関校や“準難関校”が連なる。
 1位は大阪大だが志願者1%減、特に外国語の大幅減(前期16%減、後期23%減)が目立った。10位の京都大(増減なし)とともに、関西地区の難関校志望者に医学部志向が強まり、「京都大・大阪大→全国の医学部」へ志願者が流れたようだ。一方で、2位の東京大は志願者1%増、特に文Ⅰ【前】の大幅増(23%増:10年の23%減の反動)が注目される。
 6位の北海道大は3%増。学部別募集とは別に、入学後の2年進級時に進路決定する、学部を超えた募集枠「総合入試(文系・理系)」を全学部の前期で導入し、特に理・薬・工・農の前期を全て移行して注目された。志願倍率を見ると「文系4.6倍、理系2.8倍」で、ある程度人気を集めたといえそうだ。表2以外では、東京工業大・名古屋大が理系人気から大幅増。一方、社会科学系の一橋大は5%減となった。
 「初志貫徹~やや強気」の出願傾向を反映し、3位の神戸大、4位の千葉大、8位の横浜国立大、9位の首都大学東京など“準難関校”が、10年に続き人気を集めた。この他、筑波大(12%増)・岡山大(4%増)・広島大・大阪市立大(5%増)など、軒並み志願者が増加した。
 表3では、志願者の増加率が高い順に上位10大学を示した(参考に別日程実施の国際教養大も掲載)。表2と異なり、比較的小規模な公立大が8大学を占める。1位の三重県立看護大は、セ試の負担減(前・後期とも7→5科目)が要因となり、2年連続で志願者が倍増した。
 また、志願者が1.5倍に増えた2位の新潟県立看護大を含め、10大学のうち7大学で、前年の志願者大幅減の反動が強く出ている。
 10年4月に「私立→公立」に移行した静岡文化芸術大・名桜大、10年開設の新見公立大(以上の3大学は、10年は別日程で実施)、11年に新設された福山市立大の公立4大学が、そろって11年から分離分割方式(セ試を課し、前・後期で実施)に新規参入。これが公立大全体の志願者数を押し上げ、北陸・東海、中国・四国、九州の志願動向に局地的な影響を与えた(図2に福山市立大を例示)。
 ただし、これら4大学を除くと、公立大の志願者は2%減となる。(1)地元出身者に対し、入学金を通常より安く設定するケースが多い、(2)難易度の面で「お手頃感」がある、(3)セ試の科目数が少ないケースが多い、といった要因から「公立大人気」は根強いものの、10年に志願者大幅増の大学が続出したため、その反動から11年では大幅減のケースが目立った。さらに、セ試の平均点アップで当初の予定通り得点できた自信から、受験生がランクダウンせず、国立大へ出願した様子が見て取れる。

表2・表3

後期・中期の志願倍率は割り引いて判断しよう

次は、入試日程ごとに、特に志願倍率が高い(低い)学部を各20学部紹介する(表4~6。同倍率が多数の場合は20を超えて掲載。医学部医学科や看護学科は1学部として扱う)。
 志願倍率とは「志願者数÷募集人員」で割り出した「見かけの倍率」だ。一方、「受験者数÷合格者数」で割り出した実際の倍率を「実質倍率(競争率)」という。
 志願者から入試当日の欠席者を除いたのが「受験者数」。また、合格者数は前・後期では募集人員に近いが、公立大中期では募集人員の2~3倍を出す場合もある。前期では、欠席者は志願者の5~7%程度。しかし、後期では前期の入学手続者が欠席し、志願者の50%程度が欠席するため、志願倍率が10倍でも実質倍率は5倍程度に下がる。公立大中期では、志願者の3分の1程度が欠席し、合格者数が募集人員の2~3倍ならば、志願倍率が15倍前後でも、実質倍率は5倍程度に下がる。「倍率が高すぎて、絶対ムリ!」と思わず、冷静に判断しよう。

少数科目の学部は高倍率になりやすく、要注意!

まず、表4・5の「高倍率の学部」から見ていこう。前期では、最高倍率の岐阜大‐医(医)【前】など医学科が連なり、その難関ぶりを物語る。また、セ試の科目数が少ない場合、例えば北九州市立大‐地域創生学群(2教科2科目)や三重県立看護大‐看護、福山市立大‐都市経営(各5教科5科目)などは高倍率になりやすい。
 後期では、募集人員が少ないうえ、実施学部・学科が減ったこともあり、最高倍率の岐阜大‐医(医)【後】の98.8倍をはじめ、前期以上の「超高倍率」になるが、欠席率の高さ(ほぼ50%が欠席)を割り引いて考える必要がある。
 その中で、11年新設の福山市立大‐都市経営・教育の高倍率や、高知工科大‐環境理工、岐阜県立看護大‐看護、富山県立大‐工、尾道大‐経済情報の急激な倍率アップ(高知工科大を除き、前年の志願者減の反動)が目立つ。
 一方で、表6のように志願倍率が1倍台のケースもある。例年、医療系や理工系の学部が連なる中で、11年の特徴として経済系(金沢大‐経済学類、香川大‐経済、長崎大‐経済)の低倍率が目を引く。ただし、金沢大‐経済学類【前】のように前年の志願者増の反動(10年は32%増)で倍率ダウンした場合は、12年にはもとの倍率にゆれ戻す可能性が高い。

表4・表5・表6

前期日程の第1段階選抜では3,428人が不合格に

最後に、前期日程の2段階選抜の実施状況を紹介しよう。予告した学部(51大学149学部)に対し、実際に行ったのは22大学34学部と2割程度だが、10年より6大学6学部増えた。第1段階選抜の不合格者も、志願者増に伴い10年2,922人→11年3,428人と増加した。
 不合格者の多かった大学は、東京大(1,056人)をはじめ、一橋大(539人)、宮崎大(253人)、富山大(220人)、横浜市立大(171人)など。医学科での実施が目立つ。一方、京都大・大阪大など難関大では、不合格者数が減少している。
 東京大からは、前期の第1段階選抜合格者の最高・最低・平均点が発表された。得点率に直すと、平均点が85.8%(理Ⅱ)~89.5%(理Ⅲ)の範囲、最低点が78.3%(文Ⅰ)~82.4(文Ⅲ)の範囲であった。
 セ試の平均点アップに加え、強気出願による第1段階不合格者数の大幅増(715人→1,056人)もあって、全科類で平均点・最低点ともにアップしたが、中でも志願者23%増の文Ⅰで最低点が大幅アップ(68.1%→78.3%)し、例年並みの水準に戻ったことが注目される。


このページの先頭へ

推薦入試の志願者は国立5%減、公立大4%増と対照的な結果に。
金沢大・山口県立大などが増加、岩手大・兵庫県立大などが減少


このページの先頭へ

一般入試に先立って行われた「セ試を課さない」推薦・AO入試。当社の集計では、推薦は「志願者:1%減、合格者:前年並み」、AOは「志願者8%減、合格者7%減」との結果が出た。

推薦入試:教員養成・看護が志願者増、法・文・理工が志願者減

当社では、国公立大のセ試を課さない推薦について、11年入試結果の調査を行った。10年12月24日現在の集計データ(103校:志願者数=約2万6千人)では、志願者数は前年度に比べ1%減少したが、国立・公立別にみると、国立大5%減、公立大4%増と対照的だった。
 公立大の志願者増の要因は、推薦募集枠の拡大(前年比7%増)、特にセ試を課さない推薦の実施学部増(131→142)や、地元出身者以外の募集枠の拡大などがあげられる。一方、国立大は10年度に難化したため敬遠され、より難易度の低い公立大へ流出したものとみられる。
 北海道教育大(8%増)・群馬大(8%増)・金沢大(13%増)・佐賀大(7%増)・山口県立大(9%増)・高知工科大(68%増)の志願者増と、弘前大(12%減)・岩手大(10%減)・茨城大(8%減)・山口大(11%減)・香川大(9%減)・大分大(12%減)・宮崎大(12%減)・兵庫県立大(9%減)の志願者減が目立つ。
 合格者数は国立大2%減、公立大1%増で、倍率(ここでは、志願者数÷合格者数。以下同じ)は、国立大で2.6倍→2.5倍(10年→11年。以下同じ)とダウンしたが、公立大は2.2倍→2.3倍とアップ、やや難化した模様だ。
 学部系統別にみると、教員養成、医療・看護の志願者増が目立つ。一方、法、文、理工、農は志願者減、特に法は易化したとみられる。

AO入試:北海道大など“AO離れ”進む。志願者8%減、合格者7%減

図3AO入試は国公立大の43%(69大学)で実施。11年度は埼玉大・和歌山大で導入した。一方で、実施学部・学科の削減(北海道大の4学部でセ試を課さないAOを廃止/鳥取大‐工や大阪府立大‐工で実施学科を削減)など“AO離れ”が進み、入試結果にも影響した。
 セ試を課さないAO入試は、10年12月24日現在の集計(41大学:志願者数=約5千人)によると、前年度に比べ「志願者8%減、合格者7%減」と大幅減だが、倍率は4.0倍→4.0倍とほぼ変動なし。おもな実施校(志願者200人以上)では、東京工業大(5%増)・静岡大(7%増)・京都工芸繊維大(13%増)の志願者増、東北大(8%減)・山口大(10%減)・熊本県立大(13%減)の志願者減が目立った。


このページの先頭へ

12年入試の変更点を速報!
難関大の多数がセ試の公民で「倫理、政治・経済」を指定! 
東京工業大で後期を大幅縮小


このページの先頭へ

2012年(以下、12年)入試では、セ試の地歴・公民、理科の実施方法に大きな変更があり、各大学の科目指定には注意が必要だ。この他、東京工業大の後期の大幅縮小とAO導入、大阪府立大の「学域・学類」制導入、獣医の「共同学部(課程)」設置などが注目される。

京都大など6大学の医学科でセ試の理科3→2科目に

ここからは、12年国公立大入試の特徴と、志願動向に影響しそうな変更点を見ていこう。

(1)セ試の実施方法の変更
 12年入試から、セ試の実施方式が変わる。
図3
[1]地歴と公民の試験枠を統合し、「地歴・公民から最大2科目選択」となる。「日本史・世 界史」など地歴2科目選択が可能になり、公民(従来は現代社会、倫理、政治・経済)に新科目「倫理、政治・経済」(以下、倫政経)が加わる。
[2]理科でグループ制(2科目ずつの3試験枠)を廃止し、理科6科目から最大2科目選択となる。このため、理科3科目選択はできなくなる。
[3]受験する科目数は、出願時に申請する。
【地歴・公民の指定状況】
選択科目に倫政経を追加するだけの大学が多く、この場合は受験生に大きな影響はない。ただし、既存の公民3科目や地歴A科目が選択不可となる大学もあり(東北大・東京大・一橋大など難関校や医学科に多い)、これらの科目で準備してきた既卒生や現役生は対応できないことになる。倫政経は、倫理、政治・経済両方の準備が必要で、文系・理系ともに負担が増す。志望校の科目指定はホームページなどで必ず確認してほしい。
【理科3科目不可の影響】
国公立6大学の医学部医学科で、12年からセ試の理科が3→2科目となるが、京都大・九州大・長崎大・佐賀大の前期では、2次を含めて実質的に理科3科目(物理・化学・生物)を維持する。一方、旭川医科大【前】【後】、九州大【後】、佐賀大【後】、奈良県立医科大【前】【後】は理科2科目に軽減されるが、旭川医科大‐医(医)【後】は2次で新たに理科を課す。

(2)入試科目の増減
 全体にセ試の科目数を軽減し、2次の科目数を増やす傾向がみられる。
【センター試験】
東京工業大では、全学の前期でセ試の配点化と2段階選抜を廃止。ただし、セ試に基準点を設定する。
【個別試験】
埼玉大‐経済[昼]の一般枠で3→2教科に軽減。千葉大‐医【前】で理科1→2科目に増加。金沢大‐経済学類【前】で2→3教科に増加。京都大‐医(医)【前】で英語リスニングを廃止。九州大‐医(医)【後】で数学を追加、理(数学)【後】で女性枠(9人中5人)を新設する。

(3)日程の変更
 日程の変更で最も注目されるのは、東京工業大の後期の大幅縮小だ。第7類を除き、第2~6類で後期を廃止(第1類は既に前期のみ)、AO入試を導入する。また、大阪大‐工、神戸大‐経営でも後期を廃止し、代わりに大阪大‐工では複数の採点方式による判定、神戸大‐経営ではセ試を課す推薦を導入する。

(4)推薦・AO入試の導入・廃止
 全体的に「セ試を課さない方式」の廃止、または「課す方式」へ転換するケースが多い。
【推薦】
東京工業大‐第1類でセ試を課さないAOを廃止、セ試を課す推薦を導入。金沢大‐理工学域でセ試を課さない推薦を廃止、名古屋大‐工で「セ試を課さない→課す」に変更。
【AO】
東京工業大‐第2~6類で、セ試を課すAOを導入する。募集人員は計75人、選考方法は「1次=セ試5教科7科目・書類審査、2次=総合問題(筆記・面接。第6類は他に「造形課題」「面接」の2パターンあり)」。

(5)学部の改編・新設など
 大阪府立大が現在の7学部28学科を、理系を中心とした「4学域13学類」に改編する。このうち、「現代システム科学域」では文理融合型の教育を展開する(図3を参照)。
 また、12年は国内初の共同学部・課程が、いずれも獣医学分野の3組(6大学)で設置される予定だ(「おもな変更点」の(1)を参照)。複数の大学が共同で教育課程を編成、学生はいずれかの大学に本籍を置きつつ、制度上は複数の大学に重複して在籍する。一大学では難しい質の高い教育の展開を可能にするシステムだ。

 *     *     *

以上、紹介した事例を含め、2月下旬までに発表された「2012年国公立大入試のおもな変更点」の一覧を掲載した。今後、各大学から6~7月に発表される「選抜要項」(入試の概略を紹介した冊子)、10~12月に発表される「募集要項(出願書類を備えた正式な入試要項)」などで、必ず入念に確認してほしい。

 

(文責/小林)

この記事は「螢雪時代(2011年4月号)」より転載いたしました。


このページの先頭へ

記事一覧に戻る