今月の視点

9月

新課程「地学」は、“新教科書なき入試”に!

25年度使用教科書「地学」(発展科目)の発行なく、旧課程「地学I」と「地学II」で対応!

旺文社 教育情報センター長 大塚/2012年9月3日掲載

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新しい高等学校学習指導要領に基づく数学と理科は、24年度から学年進行で先行実施されており、理科は「科学と人間生活」及び“基礎を付した科目”(以下、基礎科目)である「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」が開設され、各教科書が発行されている。
 25年度からは全ての教科・科目が新学習指導要領で全面実施される。理科では、“基礎を付していない科目”(以下、発展科目)である「物理」「化学」「生物」「地学」の一定の開設が予想される中、「地学」については、25年度使用の教科書が発行されない。
 文科省は旧学習指導要領の「地学Ⅰ」と「地学Ⅱ」に対応する教科書等の使用も考えられるとしている。27年の数学・理科の新課程入試では、「地学」はセンター試験・個別試験とも“新教科書なき入試”になる。ここでは、高校理科“4領域”の現状と課題等を探る。


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<新指導要領 「理科」 の科目編成と履修方法>
「基礎科目」 と 「発展科目」等に再編

文科省が21年3月に告示した高等学校学習指導要領(以下、新指導要領。24年度から数学・理科を先行実施、25年度から全面実施)の理科は、11年3月告示の学習指導要領(以下、旧指導要領。15年度から実施)に比べ、科目編成や単位数、履修方法等が大幅に改訂されている。
 新指導要領「理科」の科目編成は、「科学と人間生活」(標準単位数2単位。以下、かっこ内の数値は単位数)/「物理基礎」(2)/「化学基礎」(2)/「生物基礎」(2)/「地学基礎」(2)/「物理」(4)/「化学」(4)/「生物」(4)/「地学」(4)/「理科課題研究」(1)の10科目である。(図1参照)

“基礎3科目”主体の選択必履修

新指導要領「理科」の履修方法は、上記10科目のうち、「科学と人間生活」「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」から「科学と人間生活」を含む2科目、又は「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」から3科目を選択して必履修する。普通科では、“基礎3科目”の選択必履修が主体になるとみられる。
 さらに、物理、化学、生物、地学の「基礎科目」を履修した後、各領域(物理、化学、生物、地学の4領域)に対応する「発展科目」(「物理」「化学」「生物」「地学」)を選択して履修する。また、「理科課題研究」は、「基礎科目」を1科目以上履修した後に履修する。(図1参照)


全日制・普通科で大半の生徒が国公立大を含めた進学を目指す高校における新指導要領「理科」の履修形態としては、「基礎科目」は1年次2科目、2年次1科目を履修(“基礎3科目の選択必履修”をクリア)、「発展科目」は、文系の2年次と3年次で1科目を分割履修、理系の2年次と3年次で2科目を分割履修するようなカリキュラムが一般的に想定される。なお、理系では2年次又は3年次で「理科課題研究」の履修もあり得る。(図2参照)

<旧指導要領 「理科」 の科目開設状況>

24年度入学者に適用される新指導要領「理科」の各科目の開設状況は、現時点では公表されていないため、「理科」科目の開設状況の傾向を旧指導要領「理科」でみてみる。

旧指導要領 「理科」 の履修方法

まず、旧指導要領「理科」科目の開設状況をみるうえで、理科の履修方法を確認しておく。
 旧指導要領「理科」の履修方法(15年度~23年度入学者に適用)は、次のとおりである。
 「理科基礎」(標準単位数2単位。以下、かっこ内の数値は単位数) /「理科総合A」(2)/「理科総合B」(2)/「物理Ⅰ」(3)/「化学Ⅰ」(3)/「生物Ⅰ」(3)/「地学Ⅰ」(3)の7科目のうちから、「理科基礎」「理科総合A」又は「理科総合B」を少なくとも1科目含む2科目を選択して必履修する。また、原則として、物理、化学、生物、地学4領域の「Ⅰを付した科目」(以下、「Ⅰ科目」)を履修後、それぞれの領域に対応する「Ⅱを付した科目」(以下、「Ⅱ科目」)を選択履修する。(図1参照)

旧指導要領 「理科」 の開設状況

上述の旧指導要領「理科」の履修方法を踏まえ、22年度入学者に適用された旧指導要領「理科」各科目の開設状況(調査対象:22年度公立高校全日制・普通科2,466学科、22年7月調査。文科省『22年度公立高等学校における教育課程の編成・実施状況調査の結果』<23年1月>)をみてみる。(以下の記述に関しては図3・図4参照)
● 「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」:「理科基礎」の開設率は1年次~3年次を通して2%前後~7%台と低い。「理科総合A」(物理・化学分野)の開設率は1年次で67.0%と高いが、「理科総合B」(生物・地学分野)の1年次開設率は20.6%に留まる。
● 「物理Ⅰ」「物理Ⅱ」:「物理Ⅰ」の開設率は、2年次77.7%、3年次27.4%で、1年次は0.8%に留まる。「物理Ⅱ」は3年次の開設率が高く75.9%で、2年次は2.3%。
● 「化学Ⅰ」「化学Ⅱ」:「化学Ⅰ」は1年次の開設率が19.9%で、普通科の2割は「化学Ⅰ」を1年次で開設している。さらに、2年次で71.1%、3年次で37.6%が開設している。「化学Ⅱ」の開設率は、2年次は4.0%と低いが、3年次では78.2%に達する。
● 「生物Ⅰ」「生物Ⅱ」:「生物Ⅰ」の1年次開設率は10.7%で、理科“4領域”では「化学Ⅰ」に次いで高い。また、2年次79.7%、3年次52.4%と、2・3年次とも高い開設率である。「生物Ⅱ」の開設率は、2年次1.8%に対して3年次80.5%で、3年次の開設率は理科11科目中、最も高い。
● 「地学Ⅰ」「地学Ⅱ」:「地学Ⅰ」の開設率は1年次0.5%、2年次23.8%、3年次23.7%で、1年次は「物理Ⅰ」とともに1%未満である。ただ、「物理Ⅰ」は2年次で8割近くの開設率に達しているのに対し、「地学Ⅰ」は2・3年次とも2割程度に留まる。「地学Ⅱ」の開設率も2年次0.2%、3年次12.7%で、他の理科“3領域”に比べ非常に低い。


旧指導要領 「理科」 科目の開設傾向 ~ 化学、生物、物理が主体、地学は僅か ~

旧指導要領「理科」各科目の開設状況から、次のような科目の開設傾向が見て取れる。
● 1年次「理科」の開設科目は、「理科総合A」(物理・化学分野)、「理科総合B」(生物・地学分野)及び「化学Ⅰ」を主体にしており、特に「理科総合A」は「理科総合B」や「化学Ⅰ」の3倍以上の開設率である。
 これは、文・理系共通の科目として「化学Ⅰ」を“文・理分け”(進学志望別のクラス編成)以前の1年次に履修させるとともに、「理科総合A」と「化学Ⅰ」とを組み合わせる2科目選択によって、限られた授業時数における実質的な“2領域”(化学主体と物理)履修で学習指導と受験対策の効率化を図る狙いが伺える。
 なお、国公立大文系のセンター試験受験を見据えた「理科総合B」と「生物Ⅰ」の“2領域”(生物主体と地学)履修も伺える。
● 物理、化学、生物の各「Ⅰ科目」の開設率は2年次で7割以上、「Ⅱ科目」は3年次で8割前後となっているのに対し、地学は「Ⅰ科目」が2・3年次で各2割程度、「Ⅱ科目」は3年次で1割程度と非常に低い。
● 公立高校全日制・普通科という前記の調査対象校を前提に、主に国公立大への進学(センター試験の受験を前提)を視野に入れて理科“4領域”の開設状況を俯瞰すると、およそ次のような傾向が浮かび上がってくる。
 「理科」科目の開設は、「文・理系共通の化学」「文系向けの生物」「理系向けの物理」といった“3領域”でほとんど占められ、“地学領域”の開設は僅かである。
 そして、こうした開設傾向は、新課程「理科」にも受け継がれていくとみられる。

<高校 「理科」 教員の実態調査>
“地学”領域担当教員の専門性低く、苦手意識は大

科学技術振興機構(JST:理科教育支援センター)と国立教育政策研究所は21年1月~2月、全国約900校の高校で理科を教える約3,300人の教員を対象に、理科教育の物的・人的環境、理科教員の意識、理科授業への取組などについての実態調査を行い、『20年度高等学校理科教員実態調査報告書』(22年3月)を発表している。
 ここでは、旧指導要領における理科各「Ⅱ科目」の開講状況、教員の「理科」担当科目に対する意識などについて、その要点を以下に紹介する。
● 普通科における物理・化学・生物の各「Ⅱ科目」の開講率は90%以上、「地学Ⅱ」8%
 普通科(有効回答数700校)で選択科目の理科「Ⅱ科目」を開講している割合は、「物理Ⅱ」90.6%、「化学Ⅱ」96.2%、「生物Ⅱ」95.8%、「地学Ⅱ」8.3%と、「地学Ⅱ」の開講率は非常に低い。(図5参照)
 また、普通科の履修者(調査した生徒数53万5,195人)における理科各「Ⅱ科目」履修者の割合をみると、「化学Ⅱ」の8.7%が最も高く、これに「生物Ⅱ」5.7%、「物理Ⅱ」5.6%がほぼ同率で続き、「地学Ⅱ」は0.3%と、開講率を反映して極めて低い。
● 教員が理科“4領域”で、自身の高い専門性を認識している割合:
“物理・化学・生物”は約3割、“地学”は約1割

 普通科の「理科」教員(回答教員2,422人)が、理科“4領域”について、「自身の専門性が高い」と認識している割合は、“物理”27.5%、“化学”36.2%、“生物”32.7%、“地学”8.8%で、“地学”領域は他の“3領域”に比べて大幅に低い。
● 担当科目の得意度:物理・化学・生物 「Ⅱ科目」の“苦手”意識は約2割、「地学Ⅱ」約5割
 教員(普通科)の理科担当科目(Ⅱ科目)の「得意度」について、「物理Ⅱ」は「“得意”又は“やや得意”」79.7%、「“やや苦手”又は“苦手”」20.3%(以下、同様の「得意度」割合の順)で、「化学Ⅱ」81.9%、18.1%/「生物Ⅱ」78.4%、21.6%/「地学Ⅱ」51.7%、48.3%である。「地学Ⅱ」の指導については5割近い担当教員が苦手意識を持っているのに対し、他の理科「Ⅱ科目」についての苦手意識は2割程度に留まる。(図6参照)
 なお、理科“4領域”の各「Ⅰ科目」についても同様の傾向がみられる。

教員の専攻分野 ~ 理学系約5割、農水系約1.6割、教育(理数)系約1.6割 ~

普通科「理科」教員の大学での専攻分野もみると、理学系51.8%、農水系15.8%、教育(理数)系15.7%、工学(情報含む)系8.8%などで、理工学系が6割を超えている。
 理工学系での“地球科学”分野の開設学部・学科、定員等は非常に少ないことから、高校「理科」教員における“寡少な地学専門教員”の実態が伺える。
 また、普通科「理科」教員の高校在籍中に履修した理科の各領域の割合は、“総合的な理科”(以前実施されていた指導要領の「理科Ⅰ」「総合理科」「理科総合」「理科基礎」等含む)19.5%、“物理”領域80.5%、“化学”領域90.5%、“生物”領域71.5%、“地学”領域42.7%で、高校で“地学”を履修した「理科」教員は、4割強に留まる。
 以上のような調査結果から、高校・大学で“地学”領域を学んでこなかった高校「理科」教員がかなりいるとみられる。


<「理科」 教科書の採択状況>

旧指導要領「理科」各科目の“開設状況”や“開講率”などは前述したとおりであるが、各科目の“履修状況”はどうであろうか。
 「理科」各科目の全国的な履修状況についてまとめた資料がないため、教科書の“採択状況”から類推してみる。

24年度 「理科」 教科書の採択 ~“新・旧課程”用の2系列 ~

24年度入学者は、数学・理科では新指導要領に基づく教科書を使用するが、2・3年次など中・高学年は旧指導要領の教科書を使用する。また、主として低学年用の教科書であっても、中・高学年での使用や年次をまたいで使用する(分割履修)場合もある。そのため、24年度の「理科」教科書は、新課程用と旧課程用の2系列が採択されている。
 文科省のまとめによると、24年度の新課程用「理科」教科書は「科学と人間生活」「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」の5種目(科目)が発行され、合計202万9,931冊の採択があった。また、旧課程用「理科」も「理科基礎」他、全11種目(科目)が発行され、合計239万4,378冊が採択されている。(表1参照)

新課程 「生物基礎」 は約63.5万冊、採択比率31.3% 、「地学基礎」 約8.3万冊、4.1%

新課程用「理科」5科目の教科書の合計採択冊数(202万9,931冊)に占める各科目の採択比率は、「科学と人間生活」15.6%/「物理基礎」19.4%/「化学基礎」29.6%/「生物基礎」31.3%/「地学基礎」4.1%である。最多の「生物基礎」(63万5,222冊)は、最少の「地学基礎」(8万3,464冊)の7.6倍に及ぶ。(表1参照)

“物理”領域、“地学”領域の“基礎的な科目”の選択比率アップの動き

「理科」は今回の学習指導要領改訂で前述したように大幅に変わったが、生徒の科目選択の動向を新・旧課程用「教科書」の採択状況から探ってみる。
 新・旧指導要領では、必履修科目の科目編成、履修方法、単位数などが異なるため、単純比較はできないが、新指導要領の「基礎科目」が旧指導要領の「Ⅰ科目」に相当するものとして、理科“4領域の基礎的な科目”の23年度(旧課程用)と24年度(新課程用)との採択状況(採択比率の変化)をみてみる。



 まず、23年度「Ⅰ科目」(合計採択冊数195万6,997冊)と24年度「基礎科目」(合計採択冊数171万2,380冊)における各科目の採択比率(合計採択冊数に占める各科目の採択冊数の割合)を比べると、次のとおりである。(以下、23年度 → 24年度の順。下線・太字は上昇)
 「物理Ⅰ」18.2% →「物理基礎」23.0%(4.8ポイント上昇) /「化学Ⅰ」35.2% →「化学基礎」35.0%(0.2ポイント低下) /「生物Ⅰ」42.0% →「生物基礎」37.1%(4.9ポイント低下)/「地学Ⅰ」4.6% →「地学基礎」4.9%(0.3ポイント上昇)
 次に、23年度「Ⅰ科目」(合計採択冊数195万6,997冊)と24年度の「主に低・中学年用の理科科目」(「基礎科目」+「Ⅰ科目」:合計採択冊数311万6,836冊)における理科4“領域”のそれぞれ採択比率を比べると、次のとおりである。(以下、23年度 → 24年度の順。下線・太字は上昇。図7参照)
 “物理”領域:「物理Ⅰ」18.2% → <「物理基礎」+「物理Ⅰ」>22.3%(4.1ポイント上昇) /“化学”領域:「化学Ⅰ」35.2% → <「化学基礎」+「化学Ⅰ」>31.5%(3.7ポイント低下) /“生物”領域:「生物Ⅰ」42.0% → <「生物基礎」+「生物Ⅰ」> 40.7%(1.3ポイント低下) /“地学”領域:「地学Ⅰ」4.6% → <「地学基礎」+「地学Ⅰ」>5.4%(0.8ポイント上昇)
 上記①・②から、24年度「理科」教科書(「基礎科目」は旧課程の「Ⅰ科目」に相当とする)の採択比率では、23年度に比べ、「物理基礎」と“物理”領域の4ポイントを超える上昇、及び「地学基礎」と“地学”領域の僅かな上昇がみられる。
 その一方で、「生物基礎」と“生物”領域、及び「化学基礎」と“化学”領域の採択比率は低下している。
 “物理”領域の採択比率の大幅アップは、最近の理系志向の高まりで、これまで敬遠されがちの“物理”領域の科目を選択する生徒が増加したことによろう。
 また、“地学”領域の採択比率の僅かなアップは、新課程による理科“3領域”主体の選択必履修で、これまでの「生物Ⅰ」「化学Ⅰ」を主体とする“2領域”の選択から、「地学基礎」も選択肢に入れた“3領域”選択への転換によるとみられる。

新科目 「科学と人間生活」 は約31.8万冊で、採択比率15.6%

理科“4領域”から科学と人間生活との関わりを取り上げて扱う“新科目”「科学と人間生活」(2単位。選択必履修科目)の24年度採択冊数は31万7,551冊で、新課程用「理科」教科書における採択比率は15.6%だった。この比率は、23年度に採択された旧課程用の「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」(いずれも2単位の選択必履修科目)の3科目合計の採択比率37.1%(「理科」11科目全体に占める割合)の半分以下である。(表1参照)
 ただ、「科学と人間生活」は「基礎科目」1科目との組合せ(計2科目)履修で、主に専門学科での採択が想定されるのに加え、24年度は新課程「理科」の初年度であるため、当科目は1年次のみを対象としている。
 他方、「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」は普通科も含めた全ての学科において、これらの科目を1科目以上含む「Ⅰ科目」との組合せ(計2科目)履修であることに加え、当該3科目は主に低学年用であるが、対象は1年次に限らない。
 こうしたことから、23年度採択の「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」と、24年度採択の「科学と人間生活」とでは、教科書の需要対象が大きく異なっていることに留意する必要がある。

旧課程 「地学Ⅱ」 の採択状況 ~ 24年度は約7,600冊、採択比率とも漸減傾向 ~

主に中・高学年用の「理科」教科書については、24年度は新課程用の「発展科目」の発行はなく、理科“4領域”において旧課程用の「Ⅱ科目」4種目(科目)が発行されている。
● 24年度の「Ⅱ科目」の合計採択冊数64万1,758冊に占める各「Ⅱ科目」の採択比率は、「物理Ⅱ」28.4%/「化学Ⅱ」41.3%/「生物Ⅱ」29.1%/「地学Ⅱ」1.2%である。また、採択冊数最少の「地学Ⅱ」(7,647冊)は、最多の「化学Ⅱ」(26万5,185冊)の約35分の1である。(図8参照)
● 旧課程用教科書「Ⅱ科目」のこうした採択状況は例年ほぼ変わらないが、「地学Ⅱ」の最近3年間の採択冊数と採択比率をみると、次のように漸減している。
 「地学Ⅱ」の採択冊数・採択比率(22年度~24年度の順):8,594冊・1.4% → 8,098冊・1.3% → 7,647冊・1.2%。(図8参照)


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<25年度使用の新課程 「地学」 教科書なし ! >
教科書使用の規定等

小・中学校、高等学校等の学校においては、全ての児童生徒は教科書を用いて学習する必要がある。教科書には、文科大臣の検定を経た教科書(文科省検定済教科書)と文科省著作の教科書(文科省著作教科書)があり、学校ではこれらの教科書を使用しなければならないと規定されている(学校教育法第34条。高校は第62条で準用)。
 ただ、高等学校、中等教育学校後期課程、特別支援学校並びに特別支援学級において、適切な教科書がないなど特別な場合には、上記のような教科書以外の図書を教科書として使用することができる(学校教育法附則第9条、及び学校教育法施行規則第89条)。

25年度使用の 「地学」(発展科目)教科書の検定申請なし !

25年度の高校「理科」教育は学年進行で新課程2年目に入り、新指導要領「理科」“4領域”ではそれぞれ「発展科目」の開設が予想される。
 しかし、“地学”領域については、「地学」(発展科目)の検定申請がなかったため、25年度の文科省検定済教科書は発行されないことになる。
 これまでみてきたように、新課程“地学”領域の科目選択は、24年度「地学基礎」の選択率が旧課程「地学Ⅰ」に比べ僅かにアップしたことが伺えるものの、「理科」教科書全体における“地学”領域の教科書の採択数、採択比率は低調である。特に、24年度旧課程用教科書「地学Ⅱ」の採択部数はついに8,000部を切り、理科“4領域”の「Ⅱ科目」における採択比率も1%強に留まる。こうした状況から、25年度使用の新課程用「地学」教科書については、検定申請が行われなかったものとみられる。(図8参照)

旧課程 「地学Ⅰ」 「地学Ⅱ」 教科書で代替

文科省は25年度使用の「地学」(発展科目)教科書の検定申請がなかったことを受け、前述の教科書関連法令(学校教育法附則第9条、及び学校教育法施行規則第89条)に則り、新指導要領「地学」を25年度に開設する場合、旧指導要領「地学Ⅰ」と「地学Ⅱ」に対応する教科書などの使用も考えられるとする通知を24年5月に各関係機関等に通知した。
 さらに24年7月には、新指導要領「地学」と旧指導要領「地学Ⅰ」「地学Ⅱ」との履修項目の対応関係を公表している。(図9参照)
 なお、新指導要領「地学」を25年度と26年度で“分割履修”する場合、26年度に新指導要領「地学」の教科書が発行されても、代替用の旧指導要領「地学Ⅰ」「地学Ⅱ」の教科書を引き続き使用することもできるとしている。

新科目 「理科課題研究」 は検定申請受理種目から“除外”

新指導要領で新設された「理科課題研究」(1単位)も25年度以降の中・高学年(2・3年次など)での開設が予想される。
 当科目は、旧指導要領の理科“4領域”各「Ⅱ科目」内に配されている「課題研究」(必修項目)を先端科学や学際的領域に関する研究なども扱えるよう、それぞれの「課題研究」を集約し、独立した“科目”として設置された。(図1参照)
 また、当科目は、生徒の実感を伴った理解を図るため、個人やグループでの課題設定、各地域の大学や研究機関、博物館、科学館、動植物園、水族館などとの連携、施設の活用などが考えられ、授業も“特定の期間”に集中的に行うことなども想定されている。
 こうした科目の特性から、「理科課題研究」は教科書を使用する学習には馴染まないとして、新指導要領「理科」の教科書検定申請の受理種目には入っていない。
 そのため、「理科課題研究」の教科書は存在しないことになり、同じく教科書が存在しない「総合的な学習の時間」(3~6単位<2単位まで減可>。必修)と同様の学習形態などが想定される。


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<「理科」 入試の状況>

高校での物理・化学・生物といった理科“3領域”を主体とする理科教育、大学でのそれら3系統を基盤に据えた理系学部・学科の設置などを反映し、大学入試「理科」の入試科目や受験者の受験科目においても“3領域”が主体である。

センター試験 「理科」 について

◆ 現行センター試験 「理科」
 旧指導要領「理科」(23年度入学者まで適用)に基づく現行のセンター試験「理科」(以下、現行セ試「理科」)は、26年まで実施される。
 現行セ試「理科」の出題科目は、「理科総合A」「理科総合B」「物理Ⅰ」「化学Ⅰ」「生物Ⅰ」「地学Ⅰ」の6科目で、1つの試験枠から1科目又は2科目を選択、解答する。
 現行セ試「理科」の国公立大での利用状況をみると、「地学Ⅰ」も含めた理科“4領域”の「Ⅰ科目」からの利用が多いが、「理科総合A」「理科総合B」も教員養成系や文系などを中心に利用されている。国立大では、理系は理科2科目、文系は理科1科目を課すところがほとんどであるが、公立大では理系や看護系の理科1科目もみられる。
 他方、科目別の受験状況をみると、受験者の学校での履修歴や学習状況、個別試験との関わりなどから、「地学Ⅰ」を除く「物理Ⅰ」「化学Ⅰ」「生物Ⅰ」の“3領域”受験が圧倒的に多い。(図10参照)
◎ 24年センター試験 「理科」 の実施状況
 24年のセンター試験(以下、セ試)「理科」全体の実受験者数は“理系”志向を反映して、23年より7,145人、1.9%増の38万2,629人で、セ試全受験者数(52万6,311人)に占める「理科」選択率も23年の71.1%から72.7%にアップしている。
 「理科」各科目の受験者数は、「化学Ⅰ」22万3,752人(「理科」延べ受験者数に占める構成比率36.1%)/「生物Ⅰ」18万9,260人(同30.5%) /「物理Ⅰ」15万2,910人(同24.7%)で、この3科目で「理科」受験者の9割以上を占める。「地学Ⅰ」の受験者数は1万8,357人(同3.0%)で「理科総合B」の2万375人(同3.3%)より少ない。(図10参照)


また、「理科」2科目の実受験者数は23万7,344人で、23年(3科目受験含む。23年までは試験枠の3グループ制で3科目受験可)より603人(0.3%)増加。2科目受験の組合せは例年どおり、理系に必須な2科目である「物理Ⅰと化学Ⅰ」(13万4,296人、2科目受験者数に占める割合56.6%)が最も多く、次いで「化学Ⅰと生物Ⅰ」(6万7,839人、同28.6%)/ 「生物Ⅰと理科総合B」(1万3,732人、同5.8%)などが続き、「地学Ⅰと理科総合B」の2科目受験者は3,015人(同1.3%)だった。
◆ 新課程センター試験 「理科」
 新指導要領「理科」(24年度入学者から適用)に基づくセンター試験「理科」(以下、新課程セ試「理科」)は27年から実施され、出題科目と利用方法等は大学入試センターから既に公表されている。
 27年新課程センター試験 「理科」 の出題科目・利用方法
 27年新課程セ試「理科」の出題科目は、「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」の“基礎4科目”、並びに「物理」「化学」「生物」「地学」の“発展4科目”の合計8科目である。
 また、セ試参加大学が定める利用科目と利用方法は、次の4パターンとなっている。
● A:「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」の4科目から2科目を選択、解答。
● B:「物理」「化学」「生物」「地学」の4科目から1科目を選択、解答。
● C:「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」の4科目から2科目、並びに「物理」「化学」「生物」「地学」の4科目から1科目を選択、解答。
● D:「物理」「化学」「生物」「地学」の4科目から2科目を選択、解答。

 27年の新課程セ試「理科」の出題科目・利用方法については、22年12月に“方針案”、23年4月に“決定”が公表されていたが、所謂“24年セ試トラブル”(「地歴」「公民」の問題冊子の配付ミスなど)の検証委員会提言(24年4月)を踏まえ、複雑な試験実施方法を解消する観点から、24年7月に“基礎1科目の指定不可”などの変更が公表された。
 なお、各大学の27年新課程セ試科目(数学・理科)については、23年11月以降、多くの国公立大で「予告」として発表されていたが、今回の変更で見直されることになる。
◎ 新課程センター試験 「理科」 の動向予測
 新課程セ試「理科」の現段階での大学の利用状況を予測すると、国公立大では、理科“4領域”を主体にして、文系は“基礎2科目”(Aパターン)、理系は“発展2科目”(Dパターン)が中心となり、一部の理系では“発展1科目”(Bパターン)や、教員養成課程の一部理系では“基礎2科目+発展1科目”(Cパターン)などもみられよう。
 また、受験する理科“領域”としては、現行セ試(旧課程)と同様、物理・化学・生物の“3領域”が主体となろう。ただ、理科“3領域”が選択必履修になったことに加え、セ試“基礎2科目”セットになったことから、例えば、“「生物基礎」+「地学基礎」”や“「化学基礎」+「地学基礎」”などで「地学基礎」の受験比率アップもありそうだ。

個別試験 「理科」 について

旧指導要領「理科」による現行の個別試験の出題科目状況をみると、国公立大・私立大(理系)とも物理・化学・生物の理科“3領域”の各「Ⅱ科目」(多くは「Ⅰ科目」の内容を含む)からの出題がほとんどで、「地学Ⅱ」の出題は地球科学系を擁する学部・学科や国立大教員養成課程の一部理系に限られ、少ない。また、「理科総合A」「理科総合B」を単独で出題科目としている大学はほとんどない。
 個別試験(理系)「理科」の受験科目数としては、国立大2科目、公立大1、2科目、私立大1科目がそれぞれ主体となっている。
 新指導要領「理科」の個別試験については、基本的には現行入試の出題方針を踏襲するであろう。
 すなわち、物理・化学・生物“3領域”の「発展科目」(「基礎科目」の内容を含む)から、国立大2科目、公立大1、2科目、私立大1科目の選択が多いとみられる。

「地学」(発展科目)の“教科書なき入試”!

新指導要領「地学」(発展科目:4単位)は、セ試の出題科目であり、個別試験でも地球科学系の学部・学科や一部の教員養成系(理科)などでの出題科目として予測される。
 しかし、前述したように25年度使用の「地学」教科書は発行されない。27年のセ試、個別試験とも「地学」受験者は他の理科「発展科目」(3科目)に比べ非常に少ないとみられるが、“教科書なき入試”は異例で、地球科学系志望者への影響が懸念される。セ試における「地学基礎」と「地学」の出題内容や難易度の違い、「地学」(全項目必修)の“選択問題の配置などの負担軽減措置”、及びセ試と個別試験における「地学」の出題内容に係る差異などは、学習指導要領や解説書だけでは分かりにくい。「地学」受験者にとっては受験対策上、大きな課題だ。こうした課題解消のためにも、大学入試センターによる新課程セ試“新科目”の「試作問題」の早期の公表が期待される。
 なお、平成3(1991)年の学習指導要領(告示)で新設された「総合理科」(4単位:選択必修)は、指導要領実施初年度(6年度)に文科省検定済教科書が不合格で発行されないまま、当時の新課程入試(9年)を迎えた経緯がある。

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<高校 「地学教育」 の課題>

本稿では、25年度使用の新課程「地学」(発展科目)の教科書が発行されないことを踏まえて、高校「理科」教育の現状を探るべく、理科“4領域”の開設状況や開講状況、「理科」教員の専門性や担当科目への意識、「理科」教科書の採択状況、及び大学入試における「理科」の出題科目や受験状況等を関係資料(データ)とともにみてきた。
 いずれにおいても、“地学”領域は他の理科“3領域”に比べ、生徒や受験生の需要が小さい。25年度「地学」教科書が発行されないのは、そうした高校「地学」の実態を象徴しているようだ。

戦後生まれの高校 「地学教育」 の役割

地学は、物理・化学・生物ともに、学習指導要領上では主要な理科“4領域”の1つとして位置づけられている。
 しかし、地学がマイナーな理科科目になっている背景には、極めて悠遠な事物・現象までも扱う様々な分野の集合体であることと多岐にわたる内容の複雑さ/地学“領域”全体としての系統立てた指導・学習の難しさ/大学での関係学部・学科設置の少なさなどから、地学の履修生徒の減少、高校での地学“領域”の開設・開講の縮小、地学専門担当教員の寡少といった、“負のスパイラル”に陥っていることなどが挙げられる。
 ところで、高校「地学」は戦後、それまでの「地質・鉱物」を主体とする分野から、アメリカにおける「地球科学」(Earth Science)を基に再編成されたとみる。そのため、地学は、地球とその構成物質及び地球を取り巻く大気から宇宙まで、長大な時間軸と広大無辺の空間、膨大なエネルギーといった概念を“地学”領域で包括的に養う、いわば特異な理科教育の役割を担っている。
 因みに、戦前の昭和10(1935)年代の旧制中学の理科は「物象」(物理、化学、地質・鉱物など)と「生物」で、旧制高校(理科)の「理科」入試科目はほとんど物理であった。
 なお、昭和23(1948)年度に発足した新制高校の学習指導要領「理科」では、「物理」「化学」「生物」「地学」(各5単位)から1科目を選択必履修としていた。

「3・11」、想定される 「南海トラフ巨大地震」 等を踏まえ、重要度増す 「地学教育」

23年3月11日の東日本大震災(マグニチュード<M>9.0)では、巨大地震・巨大津波で未曽有の災厄を被り、未だ計り知れない地球の脅威を思い知らされた。人類が38万キロかなたの月面着陸に成功してから40数年が経った現在でも、大地を揺るがす巨大地震のメカニズムの解明、予知への道は未だ容易ではない。
 地震・津波に限らず、高校「地学」で扱う事物・現象は、日常的な気象現象からファンタスティックな天体ショーまで、我々にとって極めて身近なものであるとともに、命に直接かかわる問題でもある。特に東日本大震災や原発事故、甚大な被害が想定されている「南海トラフ地震」(M9.1を想定)等を踏まえ、これまで以上に自然災害に対する防災・減災教育の重要性が指摘されている。さらに、地震・津波に加え、自然エネルギー・地下資源・海洋開発、日本列島周辺の地殻変動や地質構造(原発敷地内の活断層など)、火山活動、地球温暖化、異常気象のそれぞれ調査・分析、研究等々、地球科学に対する関心度と研究成果への期待はこれまでになく高まっている。
 大学では地球科学(地球惑星科学)系の研究者・教育者の育成や技術者養成を一層進めるとともに、高校でも「地学」教育の重要性を再認識し、地学の“脱・マイナー科目”化を図る努力が求められる。

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