入試動向分析

2008年国公立大入試 志願者動向分析【2008年4月】

2008(平成20)年度

国公立大の志願倍率は4.8倍→4.9倍とアップ
千葉大・広島大など”準難関校”が激戦化!

 

「あの大学に入りたい」「こんな勉強がしたい」……夢の実現には、入試を突破する必要があるけれど、”大学入試”がどういうものか、実感がわかない新・受験生も多いはず。大学入試を知るには、まずは2008年入試の状況を把握しておきたい。今月は、国公立大学の入試について、人気度の指標となる「志願者動向」を見ていこう。さらに、来年の2009年入試の最新情報もお届けする。新・受験生には、本番までに「情報力」と「基礎力」をしっかり身につけた”骨太の受験生”になって、第1志望校の合格をゲットしてもらいたい。

 

※この記事は「螢雪時代(2008年4月号)」の特集より転載。(一部、webでの掲載にあたり、加筆・変更を施した)

 

 

センター試験の平均点アップ
でも、”初志貫徹”の出願に。浪人回避で”安全志向”働く


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志願状況は大学や学部の人気度を示す指標といえる。国公立大の志願者数はほぼ前年並みで、志願倍率は4.8倍→4.9倍にアップ。センター試験の平均点アップに浮かれることなく、受験生は”初志貫徹”で、実力相応の第1志望校に出願した模様だ。


志願者数はほぼ前年並み
募集人員減で倍率アップ

大学受験生数と国公立大志願者数・志願倍率等の推移文部科学省の発表によると、2008年(以下、08年)の国公立大一般選抜の確定志願者数は487,777人で、07年に比べ0.2%減(独自日程で入試を行う国際教養大は集計に含まれない)。そして、全募集人員(99,864人)に対する倍率(志願倍率)は4.9倍と、07年より0.1ポイントアップ(グラフ(1))した。
   旺文社「螢雪時代」編集部の推定では、4(6)年制大学の受験生数は、07年より約3万3千人(約5%)減少し、センター試験(以下、セ試)の受験者数も511,272人→504,387人と約1%減少した。基本ベースになる数が減ったにもかかわらず、国公立大の志願者はほぼ前年並みに達したことになり、国公立大志向の強さをうかがわせる。また、志願倍率がアップしたのは、募集人員の一部が推薦やAO入試などに移され、07年より885人(約1%)減少したことによる。


2次試験の日程は3種類
募集枠はほぼ前期8:後期2

国公立大の一般入試(一般選抜)は、まずセ試を受験することから始まる。その後、自己採点を行い、全国集計データなどを参考に、2月上旬までに各大学の2次試験(個別学力検査)に出願する。
   2次試験は原則として、同じ大学・学部の募集人員を前期日程と後期日程に分割し、それぞれの試験を分離して行う「分離分割方式」によって行われる。09年の場合、前期は2月25日から、後期は3月12日以降に行われる。募集人員の比率は、ほぼ「前期8:後期2」で、前期の割合が年々高まっている。また、公立大の一部で「公立大中期日程」(3月8日以降)を行う。
   2次試験への出願は、試験日程の組み合せにより、(1)前期→後期、(2)前期→公立大中期、(3)前期→公立大中期→後期、(4)公立大中期→後期、の4通りの併願パターンがある。ただし、前期日程試験に合格し、入学手続をした人は、後期・公立大中期を受験しても合格者とはならない。このため、第1志望校は前期から選ぶのが基本となる。なお、指定された志願倍率を超えた場合、セ試の得点で2次試験の受験者を絞り込む「2段階選抜」を行う大学・学部もある。
   こうした一般入試に先立って、AO(アドミッション・オフィス)入試や推薦入試が行われる。いずれも、セ試を課さない場合と、課す場合の2種類ある。


セ試では国語、数学I・Aが易化、
英語が難化。理系に”追い風”

2008年 大学入試センター試験 科目別平均点国公立大入試の志願動向に最も大きく影響するのは、セ試の平均点のアップ(=易化)・ダウン(=難化)だ。
   08年のセ試は、07年に比べ平均点がアップした。科目別にみると(表1)、文系・理系ともに受ける基幹科目では、国語(+11.6点)、数学I・A(+12.2点)の大幅アップに対し、英語の筆記(-5.8点)がややダウン。また、地理B・現代社会の大幅アップと、世界史B・生物Iの大幅ダウンが目立つ。
   国公立大の入試科目は、セ試では国立大を中心に、文系は「地歴・公民各必須」の6教科7科目、理系は「理科2科目」の5教科7科目(いずれも数学は2科目受験で、900点満点)が標準的になっている。文系・理系に分けて、各科目の平均点と受験者数からセ試全体の平均点を算出(加重平均)すると、
● 文系標準型=548.2点(23.1点アップ)
● 理系標準型=548.4点(18.7点アップ)

と、いずれもアップしている。
   ただし、実際の文系志望者は、平均点ダウンの日本史B・世界史B・生物Iなどを理系志望者より多く選択し、逆に理系志望者の場合は、平均点アップの地理B・現代社会・化学Iを文系志望者より多く選択しているとみられ、これらの科目の影響を強く受ける。
   駿台予備学校・ベネッセの自己採点集計によると、900点満点での受験者の予想平均点は、文系(6教科7科目)が576点で12点アップ、理系(5教科7科目)が591点で24点アップ。理系の方が、平均点アップの”追い風”を受けたことがわかる。
   とはいえ、英語の難化も影響し、過去2年間の同集計(06年=文系27点アップ・理系32点アップ、07年=文系31点ダウン・理系47点ダウン)に比べ、変動は小さかった。このため、受験生も比較的落ち着いて、自己採点結果が思いのほか良好でも浮かれず、”初志貫徹”で本来の第1志望校に出願した模様だ。
 高校の進路指導の先生方も「センター試験の持ち点を最大限に生かした、自分の実力相応の出願が多く、番狂わせは少ないでしょう」と口を揃える。
   ただし、平均点アップの幅が小さい文系ではやや慎重、幅が大きい理系ではやや強気な出願傾向が見られた。さらに、平均点アップの影響で自己採点時のボーダーラインが高めに出た模様で、浪人を避けたい意識の強まりもあって「安全志向」が働き、難関校よりも”準難関校”が人気を集めた。このため、前期で「東北大→千葉大」「名古屋大→名古屋市立大」「九州大→広島大」といった志望変更の流れが見られた。
   また、国公立大にギリギリ手が届く学力層の一部が、あきらめて私立大へ志望変更したとみられ、北海道・東北、北陸、中国・四国で、志願者大幅減の公立大が目立った。


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大阪大が前・後期とも大幅増。
東京大(後期)の志願倍率は約35倍、”超激戦”に!


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学部系統別では、文系は経済、理系は工の志願者増が目立った。東京大・名古屋大などの「前期集中化」の影響と、「初志貫徹+安全志向」の出願で、一橋大・京都大・大阪大のみならず、千葉大・横浜国立大・広島大など、”準難関校”が人気を集めた。

大都市圏と地方の2極化が進む
経済・工・薬・看護が人気アップ

全国6地区ごと、また学部系統別の全体的な志願動向を見ていこう(以下、【前】は前期、【後】は後期、【中】は公立大中期の略)。
   地区別(グラフ(2))に見ると、関東・甲信越と関西が2%増、九州が3%増。一方で、北海道・東北の4%減、中国・四国の7%減が目につく。地元志向の強まりで大都市圏から地方への受験が減少し、逆に就職先を考えて地方から大都市圏へ流れ込む様子がみえる。東北地区の場合、北関東(茨城大・群馬大・埼玉大など)への進出が増えた模様だ。北陸・東海の1%減は、名古屋大の「後期全廃」の影響といえる。(なお、各地区のおもな大学に関する分析は、「螢雪時代・4月号」の『螢雪ジャーナル』をお読みいただきたい)。
   学部系統別の志願状況を見てみよう(グラフ(4))。文系では経済・経営・商の、理系では工、薬、医療・看護の人気アップが目立つ。理系全体に、セ試の平均点アップが”追い風”となったが、中でも工は5%増。東京大・京都大・大阪大など、難関大の工学系で軒並み志願者が増加した。セ試で理工系の必須科目である物理受験者が0.7%増え、そして物理・化学の2科目受験者が1.6%増えたことからも、近年の「理工離れ」に歯止めがかかったといえる。
   また、大学側の入試改革も人気復活の要因といえる。その一つが「学外試験場」だ。国公立大志向の強い名古屋に会場を新設した、室蘭工業大‐工【前】が13%増、富山大‐工【前】が33%増。また、すでに名古屋に会場を設けている大学も、山形大‐工【前】が23%増、福井大‐工【前】が21%増と志願者を集めた。福井大の場合は志願者の48%、室蘭工業大でも20%を占め、東海地区の受験生が積極的に地方国公立大へ進出したことを物語る。一方で、地元の岐阜大‐工【前】(11%減)、静岡大‐工【前】(17%減)に影響を与えた模様だ。
   経済系人気は就職事情の好調さによる。薬は06年の薬剤師養成課程の6年制化による、2年連続の志願者減の反動とみられる。医は、緊急な医師確保のための定員増もあり、根強い人気が続いているが、「絶対医学部!」ではなく「前期は医、後期は理・工」という併願も増えたようだ。
   一方、社会・社会福祉、歯、家政・生活科学で人気ダウンが目立つ。歯科医師は飽和状態といわれ、歯の不人気は続きそうだ。昨年大幅減の教員養成系は、保護者への対応や教員免許更新制など、教員を取り巻く環境は依然厳しいものの、セ試の国語、数学I・Aの平均点アップが教員志望者の出願を後押ししたとみられ、志願者は微減に留まった。

「前年の反動」や入試科目
・募集人員の変更は要注意

大学・学部別の志願状況を見るためには、次の4つのポイントを押さえておこう。
(1)前年度の倍率アップダウンの反動
 受験生が気にするのは、やはり前年度の倍率。高倍率や倍率アップなら敬遠、低倍率や倍率ダウンなら人気を集めがちで、「前年度の反動」が起きやすい。
(2)入試科目の変更、科目数の増減
 入試科目数が増えると志願者減、減ると志願者増に結びつく傾向がある(例:埼玉大‐経済【前】ではセンター入試枠〈セ試3科目と調査書で選抜。2次なし〉を新設し、志願者37%増)。一方、2次が小論文や面接の場合、対策の立てにくさから敬遠され、学科試験のみの大学・学部が人気アップする傾向がある。
(3)募集人員の変更
 後期から前期へ(またはその逆も)募集人員を移した大学・学部では、増えた(減った)日程は志願者も増加(減少)することが多い。推薦・AO入試の募集枠拡大などで、一般入試の募集人員が減る場合も、志願者が減少することが多い。
(4)地区内の「玉突き」
 志願者が急激に増えた(減った)大学・学部があると、近隣の大学や学内の他学部で、玉突きのように変動が起きるケースがある。

グラフ2-4

難関大の”前期集中化”で
後期実施校が激戦化

08年入試に大きく影響した要因の一つに、07年と同様、国公立大の「前期集中化」があげられる。
   入試日程別に志願状況(グラフ(3))と志願倍率の変化(07年→08年)を比べると、前期は「増減なし:3.3倍のまま」、後期は「1%減:9.7倍→10.0倍」、公立大中期は「7%増:12.6倍→13.8倍」。このうち、後期は募集枠自体が減った(07年21,743人→08年20,755人:5%減)ため、志願者減にもかかわらず倍率が上がっている。
   08年では、東京大が後期日程を「全科類一括募集」に変更し(ただし理IIIは後期廃止)、募集枠を3分の1(324人→100人)に縮小したのをはじめ、名古屋大が後期を全廃(文・理・医・農で廃止)、さらに東北大‐教育・法・医(保健)・薬、九州大‐芸術工といった難関大や、神戸大・高知大の医学部医学科などで後期を廃止した。こうした「前期集中化」で、
(1) 受験のチャンスが実質「1回化」。中でも、同じ大学の前・後期を併願して、前期で失敗しても後期で敗者復活を狙うことがしにくくなった。
(2) 後期の実施学部や募集人員が減るため、従来通り後期を実施するところに志願者が集中した。
(3) さらに、公立大中期への併願が増加。岐阜薬科大(23%増)、大阪府立大‐工(20%増)など、公立大中期の重要性がクローズアップされた。
   後期を廃止・縮小すれば、大学全体の志願者は大幅に減る(東京大11%減、名古屋大18%減)。一方、前期は募集人員が増加するため、志願者もやや増えるが、志願倍率は前年と同じか、低下する(東京大の前期は6%増、3.5倍→3.4倍。名古屋大の前期は0.5%増、2.9倍→2.8倍)。
   参考までに、東京大・名古屋大で後期を縮小、または廃止した学部(科類)の志願者の行動パターンを、高校の先生方への取材をもとに推定、図式化した(図(1))。
■ケース(1) 東京大‐文II(前期)
   従来は、前期・後期とも東京大を併願する、いわゆる「ブチヌキ」受験が多かった。08年の後期は、募集枠縮小に加え、数学の出題範囲に数III・Cまで含まれていることも敬遠材料となり、従来から併願関係の強い一橋大‐商【後】(37%増)や、横浜国立大‐経済【後】(17%増)、千葉大‐法経【後】(2%増)を選ぶ受験生が多かったとみられる。この他、関西方面の受験者は、大阪大‐経済【後】(76%増)を選んだようだ。
■ケース(2) 名古屋大‐理(前期)
   従来から併願関係の強い名古屋工業大‐工1部【後】(16%増)や静岡大‐理【後】(16%増)に加え、大阪大‐理【後】(38%増)、神戸大‐理【後】(16%増)など、関西方面に併願先を求める受験生が多かったようだ。さらに、名古屋大受験者の流入に押し出される形で、大阪大‐理【前】から大阪府立大‐理【後】、神戸大‐理【前】から兵庫県立大‐理【中】への併願が増加したと見られる。

後期日程廃止の影響―併願先をどこへ求めたか?

定員増や地域枠新設など
医学部入試は環境激変

08年入試で最も環境が変化したのは、医学部だろう。深刻な医師不足や地域的な偏在を緊急的に解消する、という国の方針転換を受け、(1)期間を限った定員増(国立8大学・公立4大学)や恒久的な定員増(公立2大学)、(2)出願資格を地元出身者に限定したり、奨学金を支給する代わりに卒業後の地元勤務を義務付けたりする「地域枠」(大学によって一般入試や推薦・AOなど)の新設や拡大を行う医学部医学科が一挙に増えた。また、(3)後期の廃止(7大学で廃止)、(4)科目増(セ試の理科3科目化など)も多い。
   こうした変動要因が、医学部志望者にどのような影響を与えたか。その行動パターンを、やはり高校の先生方への取材をもとに推定した(下の図(2))。
   関東・甲信越の前期を見ると、前年度の志願状況や定員増に伴う募集人員増を見据えて、「東京医科歯科大→千葉大・横浜市立大・福島県立医科大」、「新潟大→信州大・山形大」といった志望変更が行われたようだ。このように、地区を越えて展開する「全国性」も、医学部入試の特徴といえよう。
   関西の後期を見ると、神戸大・京都府立医科大(後期を廃止)から併願先を求め、奈良県立医科大(後期を拡大、地域枠を新設)や和歌山県立医科大(07年に志願者大幅減)へ流れ込んだ様子がわかる。

医学部医学科の志望者はどう動いたか?

志願者ナンバーワンは大阪大
一橋大・京都大が志願者増

下の表2では、志願者数の多い順に、上位10大学を一覧表にした。これをみると、従来から人気が高く、募集人員も多い難関校 や”準難関校”が目立つ。
   1位は大阪大。東京大・名古屋大からの併願増で後期の志願者が増えただけでなく、11学部中7学部で前期も志願者が増えた。大阪外国語大との統合による知名度アップもあろう。ただし、外国語(旧大阪外国語大)は、募集人員減(【前】564人→421人、【後】203人→149人)、セ試の科目増(【前】5→7科目、【後】3→7科目)などで敬遠され、志願者は大幅に減少した(【前】27%減、【後】29%減)。
   2位は東京大。”後期縮小”の影響については先にふれた。前期は募集枠拡大(2,729人→2,953人:8%増)もあって志願者6%増、特に文II(24%増)・理II(16%増)の大幅増、文I(11%減)の大幅減が目立つ。また、全科類一括募集となった後期は志願者38%減だが、志願倍率は17.4倍(理III含む)→34.9倍と急上昇。理科類志望者の”ブチヌキ出願”が多く、超激戦化した。
   4位の千葉大は東京大【前】・東北大【前】からの併願増で、文・理・工・薬の後期が大幅に増加した。
   表2以外の大学では、一橋大(2%増)も東京大【前】からの併願増で人気アップした。また、京都大が志願者6%増。07年に後期をほぼ全廃しながら、前期の志願者(149人増)が募集人員の増加(321人増)ほどには増えず、倍率面で易化した反動とみられる。この他、全体的な動向としては、千葉大や埼玉大(12%増)・東京外国語大(6%増)・横浜国立大(6%増)・広島大(8%増)といった”準難関校”が人気を集めた。
   表3では、志願者の増加率が高い順に、上位10大学を示した。表2と異なり、医・看護など単科大や、比較的小規模な公立大が連なっている。募集人員が少ない場合、多少の変動でも大きく影響するが、それでもかなりの人気アップといえる。
   志願者が倍近くに増えた(82%増)、1位の群馬県立女子大を含め、10大学のうち7大学は、前年に志願者が大幅に減った反動とみられ、まさに安全志向の出願傾向が見て取れる。

表2-3

志願倍率は「志願者数÷募集人員」
実質倍率は「受験者数÷合格者数」

今度は、入試日程ごとに、特に志願倍率が高い(低い)大学・学部を各20学部紹介する(下の表4~6を参照。同倍率が多数の場合は20学部未満で掲載。医学部医学科や看護学科は1学部として集計)。
   志願倍率とは「志願者数÷募集人員」をいい、新聞などでよく目にする「見かけの倍率」だ。一方、「受験者数÷合格者数」で割り出した実際の倍率を「実質倍率(競争率)」という。志願者から、入試当日の欠席者を除いたのが、実際の受験者数となる。また、合格者数は前・後期の場合は募集人員に近いが、公立大中期では募集人員の2~3倍を出す場合もある。
   前期では、欠席者は志願者の5~7%程度。しかし、後期では前期の入学手続者が欠席するので、志願者の50%程度が欠席し、合格者数がほぼ募集人員となるため、志願倍率が10倍でも実質倍率は5倍程度に下がる。公立大中期では、志願者の3分の1程度が欠席し、合格者数が募集人員の2~3倍ならば、志願倍率が15倍でも、実質倍率は5倍程度に下がる。「倍率が高すぎて、絶対ムリ!」なんて思わず、冷静に判断することが望まれる。

高倍率は医、低倍率は
看護・工に目立つ

まず、表4・5の「高倍率の学部」から見ていこう。前・後期とも最高倍率の岐阜大‐医(医)をはじめ、地方の医学科が連なり、難関ぶりを物語る。また、セ試の科目数が少ない場合、例えば島根県立大‐総合政策【前】、群馬県立女子大‐文【後】(各3教科3科目)や筑波大‐社会学類【前】(4教科4科目)などは高倍率になりやすい。
   後期では、募集人員が少ないこともあり、前期以上に「超高倍率」になるが、欠席率の高さ(ほぼ50%が欠席)を割り引いて考える必要がある。その中で、福島県立医科大‐医【後】(前年の志願者65%減の反動)の急激な倍率アップが目立つ。
   一方で、表6のように志願倍率が1倍台のケースもある。医療・看護、工といった理系学部が多くみられ、学科によっては入学手続終了後に「欠員補充2次募集」を行う可能性もある。ただし、新潟大‐理【前】、島根大‐医〈看護〉【前】など、前年の志願者大幅増の反動(07年は、新潟大‐理が19%増、島根大‐医〈看護〉が55%増)で倍率ダウンした場合は、09年にはもとの倍率に戻る可能性が高く、要注意だ。

表4-6

前期日程の第1段階選抜は
約3千人が不合格に

最後に、前期日程の2段階選抜実施状況を紹介しよう。実施学部は21大学33学部→18大学31学部と減少し、第1段階選抜の不合格者も07年3,370人→08年3,226人と減少した。ここにも、”初志貫徹”で堅実な出願傾向があらわれている。
   不合格者の多い大学は、東京大(1,385人)、一橋大(609人)、東京医科歯科大(185人)、筑波大(160人)、福島県立医科大(126人)、横浜市立大(107人)など、難関校や医学系に多い。
   東京大からは、前期の第1段階選抜合格者の最高・最低・平均点が発表された。平均点を得点率に直すと、86.4%(文I)~89.8%(理III)の範囲であった。このうち、志願者11%減の文Iで最低点が低下(76.7%→75.2%)、平均点も文II・IIIを下回ったのと、後期廃止の理IIIで最低点が大幅に低下(82.8%→72.8%)したのが注目される。


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推薦入試の難易は”安定”、AO入試は”やや易化”!?


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一般入試に先立って行われた「セ試を課さない」推薦・AO入試。「螢雪時代」の集計では、推薦は「志願者1%減、合格者:前年並み」、AOは「志願者3%増、合格者7%増」との結果が出た。(なお、各大学の実施結果の一部を「螢雪時代・4月号」に掲載した)

推薦は経済・理工が難化、
法・教員養成系が易化か

「螢雪時代」では、国公立大のセ試を課さない推薦について、08年入試結果の調査を行った。07年12月22日現在の集計データ(102校:志願者数=約2万6千人)では、07年度に比べ、志願者数は1%減少した。
   一般入試の「前期集中化」に伴う推薦枠拡大や、医学部など「地域枠推薦」導入が相次ぎ、国公立大全体の推薦入試の募集枠は16,694人→17,297人(07年→08年。以下同じ)と4%増えた。ただし、増えたのは「セ試を課す推薦」であり、セ試を課さない推薦の実施学部数は、354→342とかえって減少。そのため、「志願者1%減」は想定内の結果だったといえる。
   合格者数はほぼ前年並みで、倍率(ここでは志願者数÷合格者数)は2.5倍→2.4倍とわずかにダウンしたが、国公立大全体ではほぼ安定した入試状況だった。このうち、国立大は2.6倍で07年度と変わらず、公立大は2.3倍→2.2倍とダウンした。
   学部系統別にみると、経済・工・医療系で倍率アップ、法・教員養成系で倍率ダウンの学部が目立った。
   経済系では信州大‐経済(2.2倍→2.6倍)、名古屋大‐経済(2.6倍→3.2倍)、兵庫県立大‐経営(1.9倍→2.5倍)など、工学系では富山大‐工(1.5倍→1.9倍)、名古屋大‐工(2.1倍→2.4倍)などがやや難化した模様。
   一方、法学系では新潟大‐法(2.2倍→1.8倍)、熊本大‐法(4.0倍→3.4倍)など、教員養成系では横浜国立大‐教育人間科学(9.0倍→6.4倍)、大阪教育大‐教育(4.7倍→4.1倍)、香川大‐教育(4.3倍→3.8倍)などが易化した模様だ。

AO入試は志願者3%増、
合格者7%増で倍率ダウン

2008年国公立大「セ試を課さない推薦入試」結果AO入試は国公立大の38%(59大学)で実施している。08年度はお茶の水女子大・金沢大など6大学で導入し、AO入試の募集枠も2,520人→2,870人と、07年度に比べて14%増えた。
   そのうち、セ試を課さないAO入試は、07年12月22日現在の集計(40大学:志願者数=約6千人)によると、07年度より志願者が3%増加したが、合格者数も7%増えた。このため、倍率は4.1倍→3.9倍とダウンし、全体としてはやや易化した模様だ。
   ただし、文系では北海道大‐経済(4.6倍)、山口大‐人文(10.7倍)、高知大‐人文(7.2倍)、兵庫県立大‐経営(8.8倍)など、理系では旭川医科大‐医〈医〉(6.6倍)、東京工業大‐理(32.2倍)、京都工芸繊維大‐工芸科学(5.9倍)、鳥取大‐農(6.4倍)、岩手県立大‐看護(10.8倍)など、高倍率の激戦となるケースもみられた。


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後期廃止にAO導入……09年入試の変更点を速報!


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ここまで、08年入試の志願状況について、どんな要素が入試に影響したかを見てきた。09年入試も、さらなる「前期集中化」や推薦・AO入試の拡大、大学の新設・統合など、国公立大入試の環境は大きく変化する。

一橋大で後期を大幅縮小
京都大で後期日程を全廃

ここからは、来シーズンの09年国公立大入試について見ていこう。志願動向に影響を与えそうな要素の中から、注目すべきポイントを紹介する。
(1)難関校の「前期集中化」
   08年の東京大や名古屋大ほど大規模ではないが、後期日程の廃止や募集枠縮小を行う大学・学部が、09年入試でもみられる。
   一橋大では、商で後期を廃止し、法・社会で後期の募集人員の多くを前期に移す。また、東北大‐文、金沢大‐医・薬・創薬科学の各学類、京都大‐医(保健)、九州大‐教育・医(保健)、大阪市立大‐医(医)などで後期を廃止する。これで、京都大では全学が「前期のみ実施」に統一される。
   こうした日程変更により、全体で300人程度の募集人員が、前期や推薦・AOに移行する。一般入試の受験機会はさらに「1回化」するが、前期は募集枠拡大に加え、同レベルの大学同士で志願者が分散するため、志願倍率は低下し、多少「広き門」になるのは確かだ。一方、従来どおり後期を実施する大学・学部には、併願先を求めて志願者が集中しよう。
(2)推薦・AO入試が増える
   ここ2~3年で、「前期集中化」に伴い推薦・AO入試の導入や募集枠拡大を行う大学が増えている。また、地方における医師不足の解消を目的に、医学部で出願資格を地元出身者に限定したり、卒業後の地元勤務を義務付けたりする、「地域枠」推薦の新規実施や募集枠拡大を図るケースも増えている。
   09年度では、東北大‐文、九州大‐教育のAO入試導入と一橋大‐商、金沢大‐医学類の推薦入試導入(いずれも一般後期を廃止)、旭川医科大のAO入試の募集枠拡大と「全国対象→地域枠」への変更が注目される。

大阪大―医(医)が理科
3→2科目に軽減

(3)入試科目の増減
   国公立大では、セ試で5(6)教科7科目を課す大学・学部が、全学部数の73%、全募集人員の66%を占め、「文系で地歴・公民の2教科必須、理系で理科2科目」が主流となっている。さらに、09年からは岡山大・徳島大の医学部医学科で、セ試の理科を2→3科目に増やし、5教科8科目を課す。
   ただし、09年入試ではセ試・2次ともに、おもに後期で、科目を減らすケースが目立つ。大阪大‐医(医)では、周囲の医学科が軒並み「理科3科目化」する中、前・後期ともにセ試を8→7科目(理科3→2科目)に削減する。この他、京都大‐文系学部【前】の2次で数学の出題範囲から数Cを除外、神戸大‐工【後】の2次で外国語を除外、香川大‐農【後】でセ試を7→5科目に軽減する。
   また、2次で「論文」を取りやめたり(一橋大‐経済【後】、大阪市立大‐商【後】)、小論文を学科試験に切り替えたり(弘前大‐農学生命科学【後】、岐阜大‐教育【後】、愛知県立大‐外国語【前】)するケースも目につく。
   こうした変更を行った大学・学部では、志願者が急増することもあるので、要注意だ。
(4)大学統合・新設など
   09年は、千葉県立衛生短大と千葉県医療技術大学校の2校が統合・改組されて「千葉県立保健医療大」、県立新潟女子短大が母体となり「新潟県立大」の2大学が新設される予定だ。また、富山県立大でも短期大学部を統合し、工学部に「環境工学科」を増設する。
   四年制大学同士の統合(合併)もある。愛知県立大と愛知県立看護大が統合・改組されて「新:愛知県立大」が発足する予定だ。

「セ試7科目」に耐えられる
“骨太な”基礎学力を!

大学受験はある意味で「情報戦」。入試結果のデータや入試科目・募集枠など、正確な情報をすばやく手に入れ、きちんと理解すれば、より効果的な戦略が可能になる。ただし、大切なのはあまり情報に振り回されないこと。前年度の結果や入試科目の増減に、あまり過敏に反応すると、かえって激戦に巻き込まれてしまうこともある。また、本来の夢や志を忘れ、妥協して受験した結果、入学後に不本意な学生生活を送ることになりかねない。
   少なくとも第1志望校は「自分が将来やりたいこと」を基準に決めたい。そして「セ試=5(6)教科7科目、2次=2~3教科」に耐えられる基礎学力をしっかり身に付け、何があってもブレない”骨太な受験生”になることだ。それが、国公立大合格への、最も確実な”ビクトリーロード”だ。

 

(文責/小林)

この記事は「螢雪時代(2008年4月号)」より転載いたしました。


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