今月の視点 2015.11

「特定研究大学(仮称)」構想の狙い!

国立大に国際的な研究力・人材育成力強化の拠点形成!

2015(平成27)年度

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 人口減少社会と国際競争力の激化が急速に進む中、大学を基盤とする国際的な研究競争力の強化とイノベーション創出の人材育成がこれまで以上に求められている。
 文科省は政府の「『日本再興戦略』改訂2015」(27年6月閣議決定)などを踏まえ、国際的な研究・人材育成の拠点形成に先導的な役割を果たす新たな仕組みとして、国立大を対象に「特定研究大学(仮称)」制度を創設する必要があるとしている。同省は先ごろ有識者会議を設置し、当制度や国立大の経営力強化の方策などの検討、議論を開始した。
 ここでは、「特定研究大学(仮称)」構想を中心に、その背景や狙いなどを探った。

 

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< 「特定研究大学(仮称)」 構想の背景>

 

政府の大学改革に係る新たなテーマ

 

 大学を巡る文教・科学政策は主に中央教育審議会(中教審)や科学技術・学術審議会を中心に、特に国立大学法人の中期目標・中期計画及び評価に関しては国立大学法人評価委員会など、文科省の審議会や有識者会議等で検討、議論されている。
 他方、大学等の高等教育政策は、急速に進むグローバル化や産業構造の変化などで、これまでのような文科省の範疇に留まらず、関係府省との横断的な政策側面も出てきている。 
 そうした中、政府に設置されている「産業競争力会議」や新たな成長戦略に向けた「『日本再興戦略』改訂2015」などで、大学改革、とりわけ国立大学改革に向けた新たなテーマとして、「特定研究大学(仮称)」構想が提起されている。
◆「産業競争力会議」:大学改革・イノベーション
 政府の「産業競争力会議」は、産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具現化と推進について調査、検討、議論するための会議として25年1月に設置された。
 当会議では「新陳代謝・イノベーションWG」を設置し、「イノベーションの観点からの大学改革の基本的な考え方」(26年12月)を提起した。
 そこでは、次のような大学改革のポイントを示している。
 ● 中長期の経済成長を持続的に実現する上で、これまで以上に技術シーズを有する大学の知の創出機能の強化/イノベーション創出力の強化/人材育成機能の強化が求められており、大学改革の更なる加速が経済成長を実現する上での鍵となる。
 ● 改革を進める大学への重点支援を通じた大学間・学内の競争を活性化する。
 ● グローバル競争を勝ち抜くための制度整備を進めることが重要である。
 そのため、世界の研究大学と競争する「特定研究大学(仮称)」制度を新たに創設し、日本の将来を担う優秀な人材を育成する「卓越大学院(仮称)」、「卓越研究員(仮称)」制度を創設する。
 また、当WGは、国立大学法人の28年度からの第3期中期目標期間においては国立大の多様な機能を踏まえつつ、「地域活性化・特定分野重点支援拠点(大学)」/「特定分野重点支援拠点(大学)」/「世界最高水準の教育研究重点支援拠点(大学)」といった類型を踏まえた新たな枠組み(3つの「重点支援枠」)を設け、予算措置や評価をそれぞれの固有の機能や役割を最大化する観点からきめ細かく行い、大学としての機能強化を図ることなども提起した(所謂、国立大「運営費交付金」の“3類型”化:後述)。
 当会議は大学改革を巡る議論を27年5月まで重ね、その改革構想は政府の「『日本再興戦略』改訂2015」などに継承された。
◆「『日本再興戦略』改訂2015」
 政府の「『日本再興戦略』改訂2015」(27年6月閣議決定)は、人口減少下における労働力の需要増加と供給制約といった「労働需給タイト化」などを乗り越えるべく、設備や技術、人材等に対する「未来投資による生産性革命の実現」を成長戦略の柱の一つに据え、国際的イノベーション・ベンチャー創出拠点の形成に向けた新たな大学・大学院制度の創設などを掲げている。
 高等教育に係る内容としては、「日本産業再興プラン」の一つに「大学改革/科学技術イノベーションの推進/世界最高の知財立国」の項目を掲げ、新たに講ずべき具体的施策として、「特定研究大学(仮称)」制度の創設を次のように提示している。

 

 当政策は、国公私立大も含めた「卓越大学院(仮称)」や「卓越研究員(仮称)」についても、次のように提示している。

 

 

文科省の「国立大学経営力戦略」

 

 文科省は政府の「産業競争力会議」における国立大の改革論議等を踏まえ、27年6月に「国立大学経営力戦略」を策定した。
 当戦略は、知識基盤社会の中核的拠点として全国に配置された国立大が“社会変革のエンジン”として「知の創出機能」を最大化していくことが必要であるとし、国立大の経営力を強化するために、およそ次のような方策を提起している。
〇 大学の将来ビジョンに基づく機能強化の推進:3つの「重点支援枠」による運営費交付金の重点配分の導入/〇 自己変革・新陳代謝の推進:機能強化のための組織再編、大学間・専門分野間での連携・連合、学長裁量経費によるマネジメント改革等/〇 財務基盤の強化:収益を伴う事業の明確化、寄附金収入の拡大、民間との共同研究・受託研究の拡大/〇 未来の産業・社会を支えるフロンティアの形成:「特定研究大学(仮称)」制度の創設、「卓越大学院(仮称)」の仕組づくり、「卓越研究員(仮称)」の制度設計。特に「特定研究大学(仮称)」制度などについては、次のような方針を盛り込んでいる。(図1参照)
◆「特定研究大学(仮称)」
 世界と互角に渡り合うリソースと経営力のある国立大の形成のため、「特定研究大学(仮称)」制度を創設することとし、自律的な教育研究や財務基盤の強化のための規制緩和等を含めた必要な制度設計等について検討を加速する。27年中を目途に結論を得るとともに、必要な制度改正の準備を行う。
◆「卓越大学院(仮称)」
 新領域・新産業等を創造できる博士人材の育成のための「卓越大学院(仮称)」に関して、27年度中を目途に、産学官からなる検討会において、形成する分野の設定や複数の機関が連携する仕組みについて示す。
◆「卓越研究員(仮称)」
 卓越した研究者を安定性あるポストで受け入れることにより挑戦的な研究を発展させる「卓越研究員(仮称)」の制度設計を27年度中に行い、28年度から具体的な取組を行う。
◆ ベンチャー創出のプラットフォーム機能
 「国立大学経営力戦略」は、世界のビジネスモデルが大きく変革しつつある中、経済にインパクトのある新陳代謝を引き起こすには、ベンチャー企業による新産業の創出が極めて重要であるとしている。
 そのため、「特定研究大学(仮称)」は、国内外の優れた創業人材の登用や実践的な創業人材育成など、ベンチャー創出のプラットフォーム機能を担うことができるよう、関係府省等によって各種のベンチャー関連施策を密接に関連させて支援・促進を図るとしている。
また、「卓越大学院(仮称)」については、文理融合領域や新領域の形成・新産業の創造の観点も踏まえた分野の設定を行うとともに、複数の大学、研究機関、企業等との連携を図る仕組みにするとしている。

 

 

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 「特定研究大学(仮称)」 制度の検討 

 

有識者会議の設置

 

 文科省は国立大学改革の一環として、「特定研究大学(仮称)」の制度設計と「国立大の経営力強化」のための方策について検討、審議する有識者会議を27年9月に設置した。
 当会議の第1回会合(27年10月上旬)では、当制度や方策を議論する上での「特定研究大学(仮称)」のイメージについて、およそ次のような基本的な考え方が文科省(担当事務局)から示された。

 

< 「特定研究大学(仮称)」 の基本的な考え方>

 

国際的な研究・人材育成の拠点形成

 

 我が国の大学は、例えば、グローバル化を含む社会経済の急速な変化を踏まえた人材育成の強化、質の高い教育研究活動の推進に必要なガバナンスと財務基盤の確立、教員の人事評価の仕組みを含む学内評価の枠組みの構築等に課題があり、国際的な大学間競争で遅れを取りつつある。
 一方、世界の有力大学は、優秀な人材を惹きつける魅力ある教育研究環境を有し、国際的な研究・人材育成拠点として卓越した教育研究活動を展開している。
 それらの大学は、次のような4つの観点で、それぞれの強みを発揮できる条件を備えていると考えられる。

 

国立大に“高い目標設定”、“高い自由度・自律性”で国際的な研究・人材育成拠点形成

 

 国立大は国際的な研究・人材育成の拠点形成についても先導的な役割を果たしていくべきことが急務とされている。
 そのため、前述した「国立大学経営力戦略」に従い、これまでの研究・人材育成の実績を踏まえた上で、上記➀~➃の4つの観点で国際的な拠点形成に向けた組織的取組を進めていく大学については、新たな仕組みとして「特定研究大学(仮称)」制度を設けて改革を促進していく必要がある。
 「特定研究大学(仮称)」は今後、必要な制度整備を進めつつ、大学の申請により、文科大臣が指定することになるという。指定された国立大はこれまでの国立大学法人制度と国立大学法人評価とは“別の枠組み”で支援・評価を行い、“高い目標設定”と“高い自由度・自律性”の中で、教育研究活動の充実を図り、世界の有力大学の中での研究・人材育成面での拠点性を高めていくとしている。

 

目指すべき「特定研究大学(仮称)」のイメージ

 

◆ 卓越した教育研究活動の質の向上目指す目標設定:「知の創出機能」と「人材育成機能」
  「特定研究大学(仮称)」となる国立大は、新たな学問分野の開拓や、ベンチャー創業などに関するイノベーション創出等の「知の創出機能」とそれらを担う「人材育成機能」を発揮することが必要である。
 そのため、大学自らが伍していこうとする海外大学を目標としてベンチマークすることや、データ等のエビデンスを明確化した上で、教育研究活動や産学連携等において、明確かつ意欲的な達成すべき目標を設定することが求められる。
 ◎ 目標の例(検討素案)
目指すべき教育内容や研究内容の具体的計画、数値目標等を海外大学の状況等も踏まえ設定。
【大学全体】
・大学全体としての国際的な評価指標の向上(例:世界ランキング〇位以内を目指す)
・10年後に海外を含む社会の変革の担い手として活躍している卒業生の割合〇%を目指す、他。
【研究分野】
・国際的に卓越した研究の推進(論文数、論文引用数等の目標設定)
・文理融合・新領域の開拓に向けた目標設定
・国際展開(海外の有力大学との連携、国際研究拠点化などの目標設定)
・経済・社会・文化・政策等へのインパクト(社会貢献)の観点から、強みを活かした研究戦略、具体的な計画に基づく目標設定(人文社会系含む)、他。
【教育分野】
<大学院>:・「卓越大学院(仮称)」の形成に資する分野の強化(海外大学や企業との提携等を含めた目標設定)
・専門職大学院の強化(高度専門職業人養成の具体的な目標設定、分野別評価指標の向上)
・博士号取得者の育成に関する目標設定(多様なキャリアパスの確保とそのための能力の育成等)、他。
<学部>:・学生の主体的な学習を通じた社会経済の仕組みや課題を深く学ぶカリキュラム、授業方法の開発と推進による教養教育の強化
・社会変革をもたらす企業家教育・デザイン教育の充実
・課題解決型学習、中長期インターンシップや海外留学の充実などによる多様な学習経験
・上記を踏まえ、学生の学習経験、成果の体系的な把握に基づく目標設定と海外の専門家を含めた評価、他。
【産学連携】
・経済団体や企業等との産学連携のための協定締結の件数の増加
・外部との共創、評価の現れとして、外部資金の獲得や人材の流動化を拡大するための目標設定
・大学発ベンチャーの件数等の目標設定、他。
【管理運営体制】
・教育、研究、社会貢献の機能強化を図るための体制整備(運営に当たって、各ステークホルダーとの議論を通じ、そのニーズを考慮する仕組みの構築)
・学長のリーダーシップ等、ガバナンス体制の確立
・人事給与システム改革、他。
◆ ガバナンスの強化
 大学に国際的な研究・人材育成拠点を形成するためには、その大学が持てる力を最大限発揮するとともに、学内外からの信頼を得て、優秀な人材や多様な資源を惹きつけていけるよう、強力なリーダーシップの下で組織としてガバナンスを確立する。
 また、学内のリソースをIR(*注.) 等により把握・分析し、教育研究活動の卓越性強化のためのマネジメント戦略の策定と、学内の最適な資源配分、組織見直しを実現する。
(*注.IR=Institutional Researchの略称。大学の様々な情報を把握・分析、数値化するなどし、結果を教育・研究、学生支援、経営等に活用)
 ◎ 検討例
  ● 経営を担う人材、経営を支える専門人材の育成
  ● 人材の流動化や外部人材の活用例(研究支援者のキャリアパスも含む)
  ● 財務情報も含めた、必要な情報の可視化、他。
◆ 厳格な評価システムの確立と教育研究活動の改善
 ◎ 大学の評価制度
 国立大学法人は、国立大学法人評価委員会によって、中期目標期間(6年間)における各事業年度の業務実績に関する評価及び中期目標に係る業務に関する評価が行われている。
 また、国立大学法人評価委員会が中期目標に係る業務実績を評価する際には、大学評価・学位授与機構(独立行政法人)に教育研究評価の実施を要請し、その結果を尊重することになっている。
 なお、公・私立大を含め全ての大学は「自己点検・評価」に加え、大学の教育研究等の総合的な状況について、文科大臣の認証を受けた認証評価機関による評価(認証評価)を受ける。この評価は、7年以内ごとに大学の総合的な状況を評価する「機関別認証評価」と、5年以内ごとに専門職大学院を評価する「専門分野別評価」の2種類である。
 ◎ 海外大学の実状も踏まえた公正な評価
 世界に伍していこうとする大学は、教育研究活動の卓越性を更に追求していくために必要な大学の運営の在り方について、海外大学の実状も踏まえつつ、より公正な評価を行うことによって、強化していくことが必要であるとしている。
 ◎ 検討例
  ● 大学自らが伍していこうとする海外大学を目標とすることにより、大学が達成すべき基準を設定し、それを元に学内で第三者の参画を得た公正な評価を実施する。
  ● 研究戦略を策定した分野について、学外や専門家の参画を得た研究評価を行う。
  ● 国立大学法人評価では、外国人委員を任命し、この公正な学内評価を活用して評価を行う。
  ● 教員業績(教育業績、研究業績、社会貢献業績等や、教育、研究、社会貢献におけるエフォートを配分)の可視化を行う、他。
◆ 教育研究活動における大学の自律性を高める環境整備
 前述のような様々な取組を通じて、国際的研究・人材育成拠点としての国立大学の機能強化を図るには、国際的に遜色のない形で、大学の持てる資源を最大限に活用する環境整備が必要であるとしている。
 法人化以前の国立大は文科省の行政組織の一部として、予算や人事等は国の行政組織としての制度が適用されていた。
16年度の法人化に当たっては、各国立大に独立した法人格を付与するとともに、各大学が目標・計画を策定して運営し、予算や組織等の規制の大幅な縮小、自己収入拡大など経営努力にインセンティブを与えるなど、大学の自律性が確保される仕組みに基づいた制度が構築された。
 ◎ 財務基盤の更なる強化
 法人化以降、各国立大は自律性が確保された中で経営努力を重ね、特に財源の多元化を図ることで財務基盤を強化してきているが、意欲的な目標達成のために更に強化していく必要があるとしている。
 他方、国立大学法人に関する現在の法制度上の制約等を見直し、大学が自ら改革をより進めやすくするための環境整備が必要であるという。
 具体的には、大学の持つリソースを活用し、教育研究活動に必要な資金を自らの努力で更に獲得できるような環境整備を、制度改正も含めて進めていくとしている。
 ◎ 検討例
  ● 出資範囲の拡大(現在は、TLO(*1.)やVC(*2.)に限定)
  ● 自己資金等の運用の拡大
  ● 収益事業の実施

 また、高い能力を持つ役職員に対して、高い給与を支給できるよう、合わせて制度改正を行うことも検討するとしている。

 

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<国立大の機能強化>

 

国立大学改革プラン

 

 中教審答申『我が国の高等教育の将来像』(17年1月)は国立大の役割として、例えば、世界最高水準の研究・教育の実施/計画的な人材養成等への対応/大規模な基礎研究や先導的・実験的な教育・研究の実施/社会・経済的な観点からの需要は必ずしも多くはないが重要な学問分野の継承・発展/全国的な高等教育の機会均等の確保等を挙げている。
 文科省はこうした国立大の基本的な役割を前提に、時代の変化や社会の要請を踏まえて、
「国立大学改革プラン」(25年11月) を策定し、各国立大の機能強化の視点として、➀「強み・特色の重点化」/➁「グローバル化」/➂「イノベーション創出」/➃「人材養成機能の強化」の4つの事項を提示した。
 そして、国立大学法人の第3期中期目標期間(28年度~33年度)が開始するまでを「改革加速期間」と位置付け、その間の取組として「ミッションの再定義」(各国立大の強み・特色・社会的役割を客観的データに基づいて教育研究分野ごとに整理)を踏まえた各国立大の機能強化策に対し、重点的な支援を行っている。

 

「運営費交付金」配分の“3類型”化

 

 文科省は第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金(以下、運営費交付金)の在り方を検討、議論する有識者会議の提言を踏まえた上で、国立大の多様な役割や求められている期待に応える点を総合的に勘案し、各国立大の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、予算上、次のような「重点支援➀~➂」の“3つの重点支援の枠組み”を新設した。つまり、「運営費交付金」配分の“3類型”化である。
 各国立大は、それぞれの機能強化の方向性や第3期を通じて特に取り組む内容を踏まえ、3つの重点支援枠から“自ら1つの支援枠を選択”し、取組構想を文科省に提案。
 文科省は提案された取組構想等を基に、第3期中期目標期間における「運営費交付金」配分の“3類型”化について、国立86大学をそれぞれ選定した。
 選定された取組については、原則として、3つの重点支援の枠組みごとにまとめた「機能強化促進係数(仮称)」による財源を活用し、改革の取組内容に応じた重点支援として、国立大学法人ごとの運営費交付金に加えて配分される。(表1参照)
重点支援①:地域貢献型
 主として、人材育成や地域課題を解決する取組などを通じて地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大を重点的に支援する。
● 顔ぶれ:新制大学発足当初、“1県1国立大”などといわれ、戦前の専門学校や師範学校などを統合して設立された大学(総合大の他、教員養成系や医科系等)など、地元地域とのつながりが比較的強い55大学(全86国立大の64.0%)。北海道教育大/旭川医科大/宮城教育大/埼玉大/滋賀医科大/山口大/高知大/熊本大/鹿児島大など。
重点支援②:特定分野の教育研究型
 主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大を重点的に支援する。この枠組みについては、当該分野に重点を置いた人材育成や研究力の強化の取組を推進できるような支援を行う。
● 顔ぶれ:専門分野における強み・特色が強い15大学(同17.4%)。筑波技術大/東京医科歯科大/東京芸術大/電気通信大/鹿屋体育大/総合研究大学院大など。
重点支援③:世界水準の教育研究型
 主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に世界で卓越した教育研究、社会実装(*注.) を推進する取組を第3期の機能強化の中核とする国立大を重点的に支援する。(*注.研究開発成果を社会に生かすこと)
● 顔ぶれ:全学的に卓越した教育研究等の取組を中核とする16大学(同、18.6%)。北海道大/東北大/筑波大/東京大/東京工業大/一橋大/名古屋大/京都大/大阪大/広島大/九州大など。

 

 

<緊縮財政下の教育研究活動>

 

適切な“デュアルサポートシステム”の限界

 

 国立大の教育研究活動は、一般に「基盤的経費」(運営費交付金)と各種の「競争的資金」を組み合せた“デュアルサポートシステム”によって支えられてきた。
 しかし、厳しい財政事情の下で基盤的経費である運営費交付金は16年度の法人化以降、毎年度減額されてきた(26年度のみ増額)。因みに、国立86大学・4研究機構(90法人)の運営費交付金の交付額(予算額ベース)をみると、16年度の1兆2,416億円から27年度の1兆945億円と、この11年間で1,471億円、11.8%削減されている。
 一方、最近の「競争的資金」等の獲得状況(受入額ベース)をみると、20年度の4,854億円から25年度の6,776億円と、5年間で1,922億円、36.6%増加している。
 こうした状況下で、期間が限られている競争的資金の獲得で得られた教育研究のさまざまな成果を、運営費交付金(基盤的経費)によって各国立大の中で組織化し、持続・発展させていくことが難しくなっている。つまり、緊縮財政の下、デュアルサポートシステムは基盤的経費と競争的資金の適切なバランスを維持することが難しく、教育研究活動の競争的資金への依存度は拡大している。(図2参照)

 

 

国立大の財政的格差と「運営費交付金」配分の“3類型”化

 

「運営費交付金」配分の3つの“重点支援枠”については前述したとおりであるが、これは、国立大の機能強化(機能的分化)/世界水準の研究大学の形成促進/競争的資金の獲得促進/基盤的経費の配分見直し/国立大学間の財政的な格差是正など、国立大の改革・改善に向けた取組を緊縮財政下において一体的に進めていこうとする政策意図も伺える。
 例えば、「世界水準の教育研究型」(重点支援③)の大学は競争的資金の一層の獲得を目指し、デュアルサポートシステムの競争的資金の割合を高める。その結果、競争的資金を獲得した研究機関(大学)や研究者が当該研究のためにのみ使える「直接経費」に加えて、研究者の研究開発環境の改善や研究機関全体の機能向上に活用できる「間接経費」も原則的には交付されることになる。現在、この「間接経費」は「直接経費」の最高30%が措置される(まったくつかない場合もある)。
 こうしたことから、緊縮財政下における国立大の財政的格差を是正するためには、競争的資金に「間接経費」を確実に措置する代わり、より多くの競争的資金を獲得する大学の基盤的経費(運営費交付金)を縮減してまでも、その分を「地域貢献型」(重点支援①)の大学など基盤的経費の削減で困窮しているところに回すなどの考え方もあるようだ。

 

<国立大に収益事業等の規制緩和>

 

イノベーション創出の観点からの規制緩和

 

 国立大の財務基盤の強化については、基盤的経費である運営費交付金の確保とともに、各国立大の自己収入拡大を促進する必要がある。
そのためには、所要の制度改正などにより、収益事業等の規制緩和を行う必要がある。
 例えば、国立大から大学発ベンチャー支援会社等への出資を可能とする仕組みが既に創設(26年4月施行)されており、国立大学法人が自校の高い研究開発力と企業の開発・経営・販売力などのリソースを活用して、ベンチャー企業を支援(投資)する“ベンチャーキャピタル”(VC)を立ち上げている。

 

国立大に“VC第1号”誕生

 

 文科省は24年度の補正予算で、高い研究力や共同研究実績を持つ国立4大学(東北大/東京大/京都大/大阪大)に対して合計1,000億円を出資しており、国立大の出資事業を可能にしている。
 大阪大は27年7月、国立大の“VC第1号”として、出資金100億円の「大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社」(OUVC)を設立した。分野は再生医療、先端医療・材料、予防医療、診断、介護、創薬・創薬支援等のライフイノベーション/省エネ、創エネ、クリーン・環境等のグリーンイノベーション/ロボット・人工知能、ICT・ビックデータ、材料・ナノテク、セキュリティ等のプラットフォームテクノロジーなどである。

 

<「特定研究大学(仮称)」 の狙い>

 

第3期中期目標に向けた改革・改善

 

 国立大は、教育、研究、社会貢献といったそれぞれの機能強化を一層図っていくとともに、人材育成や地域の活性化、イノベーションの創出などを進め、それらの成果を社会に還元していくことが求められている。
 また、グローバル化が急速に展開する中で、国立大は未来の産業や社会を支えるフロンティア形成の役割も担う。
第3期中期目標期間に向けた一連の国立大学改革や運営費交付金の“3類型”化などは、国立大の多様な機能や役割を再確認し、各国立大が担う教育、研究、社会貢献といった役割をこれまで以上に果たせる仕組に転換していくものであるとみられる。

 

「知の創出機能」の最大化と「財務基盤」の強化

 

「特定研究大学(仮称)」構想の背景等については前述したとおりであるが、この構想と今回策定された「世界水準の教育研究型」(重点支援③)の大学との差異はどこにあるのか。
 28年度からの「世界水準の教育研究型」大学(16校選定)は、現行の国立大学法人制度や国立大学法人評価など“統一的な枠組み”の中で卓越した教育研究機能や人材育成機能、大学発ベンチャー等を最大化していくことになる。
 このような国立大を取り巻く枠組みにおいて、「世界水準の教育研究型」大学の中には、世界的研究競争力を更に強化し、世界水準の大学と互角に競い合うリソースと強い経営力を持つ大学、すなわち、今回構想されている「特定研究大学(仮称)」も必要であるという。
 つまり、「特定研究大学(仮称)」の狙いは、更なる“規制緩和”によって財務基盤を強化し、国立大の「知の創出機能」を競争的環境の下で最大化していくことにあるとみる。
 「特定研究大学(仮称)」構想は、かつて、アメリカ西海岸で学生に大学発ベンチャーを奨励し、シリコンバレーという世界的な「産業クラスター」の形成に大きな役割を果たしたスタンフォード大学の日本版をイメージしているかのようにみえる。
 ところで、イギリスの教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(Times Higher Education:
THE)が発表した2015年の「世界大学ランキング」1位は5年連続のカリフォルニア工科大学(アメリカ)で、2位オックスフォード大学(イギリス)、3位スタンフォード大学と続く。
 日本では、東京大が前年の23位から43位、京都大が59位から88位にそれぞれ順位を落としている。「THE」誌のランキングの評価指標は、各大学の教育環境や論文の被引用数、国際性など5分野13項目で、日本の大学は国際性に課題があるともいわれる。
 国は大学の財務基盤の強化を促進し、大学は国際的な研究環境を整備することが一層求められる。

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