今月の視点 2014.5

議論百出、定まらない「達成度テスト」 !

中教審、「達成度テスト(仮称)」<基礎レベル/発展レベル>の審議まとめ !

2014(平成26)年度

この記事の印刷用PDF

 中教審は26年3月、高校教育の質の確保・向上に向けた『審議まとめ(案)』と、高大接続の在り方・大学入学者選抜の改善等の『審議経過報告』をまとめた。
 これらの『まとめ(案)』と『報告』は、25年10月に政府の教育再生実行会議が提言した『高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について』(『第4次提言』)を受け、中教審の2つの部会で検討、議論された内容をそれぞれ取りまとめたものである。
 政府・実行会議と中教審では、「達成度テスト(仮称)」と呼ばれる新テストに“基礎レベル”と“発展レベル”の2種類を提起し、前者を高校教育の質保証に、後者を大学入学者選抜等への活用に供するとしている。ここでは、「達成度テスト(仮称)」を中心に、その背景や概要、大学入試に係るこれまでの共通試験の経緯を整理し、新テストの在り方等を探った。

 

*        *        *

 

 まず、今回の「達成度テスト(仮称)」<基礎レベル/発展レベル>が、政府の教育再生実行会議(以下、実行会議)や中教審で提起されるに至った背景を時系列的にたどってみる。

 

< 高校教育の質の確保・向上 >

 

高校教育の“多様化”と“共通性”

 

 平成3(1991)年4月の中教審答申『新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について』において、高校教育の多様化に関し、学科制度の見直し/新タイプの高校の設置/単位制の活用などとともに、大学や高校の入学者選抜についての評価尺度の多元化や複数化、入試情報提供の充実などが提言された。
 文部省(当時)はこうした高校教育の多様化提言を受け、その具体化に取り組み、「単位制高校」の全日制課程への拡大:平成5年度制度化 → 25年度=974校/「総合学科」創設:6年度制度化 → 25年度=363校/「中高一貫教育校」の推進:11年度制度化 → 25年度=450校(中等教育学校50校、併設型318校、連携型82校)などの改革を進めてきた。
 他方、中学から高校への進学率が98.4%(25年度)に達していることに加え、国公私立高校への「高等学校等就学支援金制度」(「市町村民税所得割額」30万4,200円<年収910万円程度>未満の世帯に授業料支援:全日制の支給限度額<月額>9,900円。26年4月以降入学者適用。25年度までに在学している者は旧制度適用)などから、今や高校はまさに“準義務教育”化した国民的な後期中等教育機関といえる。
 そのため、生徒の興味・関心、能力・適性、進路等が極めて多様化しており、学力面でも高い学力をもつ者から、小・中学校段階の学習を十分習得していない者まで、学力格差も極めて大きい。つまり、生徒の多様な学習ニーズに対応して、教育内容や履修形態を多様にしたことで、高校教育の“多様化”対応と共通的な基準(最低基準)である「高等学校学習指導要領」における学びの“共通性”との齟齬が大きな課題となっている。(図1・図2参照)

 

 

中教審「高等学校教育部会」設置

 

 上述したように、平成3年4月の中教審答申以降、高校教育を取り巻く環境はこの20年余りの間に大きく変貌した。
 他方、近年の教育改革を巡る動きは、小・中学校を中心に所謂“ゆとり教育”の見直し(教育課程編成の改訂<学習指導要領改正>)や大学教育の「質保証」などの大学改革に向けられがちで、高校教育はその挟間でいわばブラックボックス化していた。
 しかし、“準義務教育”化で極めて多様化した高校教育の「質保証・向上」は、社会においても、「高大接続」の観点からも喫緊の課題であるとの認識が高まった。
 こうした中で、文科省は23年9月、中教審に今後の高等学校教育の在り方についての審議を要請(文科大臣による諮問ではなく、初等中等教育局長の審議要請)。中教審はこれを受け、初等中等教育分科会に「高等学校教育部会」を設置し、高校教育の在り方についての審議を行っている。

 

高校教育の質保証

 

 高等学校教育部会では24年8月に『課題の整理と検討の視点』、25年1月に『審議の経過について』(以下、『審議経過』)を取りまとめた。(図3参照)
◆ 高校教育の“コア”と評価
 『審議経過』では、高校教育施策の方向性として、「全ての生徒に共通に身に付けさせる資質・能力=“コア”=」や「高校教育の質保証に向けた評価の仕組み」などについての基本的な考え方を提起する中で、“新たなテスト”の仕組みとして「高等学校学習到達度テスト(仮称)」の検討をあげ、高校教育の質保証の仕組みの構築を求めた。
 高校教育の「コア」の範囲やその要素を含む様々な資質・能力の中には、例えば知識の量を筆記試験や技能試験等で客観的に比較的容易に把握しやすいものと、難しいものとが混在している。「コア」の評価に当たっては、様々な資質・能力について、それぞれの性質に応じた適切な方法による把握を行い、客観的な評価の充実を図っていく必要があるとした。
◆「高等学校学習到達度テスト(仮称)」の構想
 ● 『審議経過』では、高校全体の質保証の観点から、国が高校教育の共通目標となる水準を明確にして、生徒一人一人が学習の到達度を把握できる“新たなテスト”の仕組みを設け、全国の高校・高校生が、希望に応じて参加できるようにすることが必要であるとした。このような仕組みの導入は、学習内容の習得についての評価を充実させる上でも有効な手段で期待されるという。
 また、生徒の学習意欲向上の観点から、当該テストの成績を例えば就職や推薦・AO入試などで自らの学力を証明できることとなれば、学習意欲を一層喚起するものと期待されるとした。

 

 

● 以上のような観点を踏まえて、高校生として共通に求められる「基礎的・基本的な知識・技能や思考力・表現力・判断力等」に関し、その学習到達度を把握する希望参加型のテストとして、「高等学校学習到達度テスト(仮称)」を全国規模で導入することについて、検討が必要であるとした。
 そして、当部会として今後(25年1月の『審議経過』まとめ当時)さらに、“新たなテスト”の仕組み(目的、内容、対象者、実施時期、活用の在り方など)等について検討を進め、評価の充実に向けた施策の方向性の明確化・具体化を目指すとしていた。

 

< 大学入試改革の “実行プラン” >

 

脱・“一発試験的入試”/「共通テスト」開発等の改革プラン

 

 文科省は24年6月、大学教育の質的転換と大学入試改革、国立大学改革、私立大の質保証の徹底に向けた厳格化など、大学改革の基本的な方向性を盛り込んだ『大学改革実行プラン ~ 社会の変革のエンジンとなる大学づくり ~ 』(以下、『大学改革プラン』)を策定した。
 『大学改革プラン』では、入試改革について“学ぶ意欲と力を測る大学入試への転換”といったキャッチフレーズを付け、“入試改革”が“大学教育の質的転換”の1つとして「大学機能の再構築」に不可欠な取組であることを示した。
 そして、入試改革の観点として、「高校教育から一貫した質保証へ」(点からプロセスによる質保証へ)と「教科の知識偏重入試から、意欲・能力・適性等の多面的・総合的な評価へ」(各大学が丁寧に選抜する入試へ転換)といった2つの基本方針を掲げた。
 改革方策としては、志願者の意欲・能力・適性等の多面的・総合的な評価に基づく入試/1点刻みではないレベル型の成績提供によるセンター試験の資格試験的活用の促進/思考力・判断力・知識の活用力等を問う“新たな「共通テスト」”開発などを示した。(図4参照)

 

 

< 高校教育と大学教育の円滑な接続・連携 >

 

中教審『大学教育の質的転換』答申 ~“三位一体”改革 ~

 

 中教審は24年8月の答申『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて』において、高校教育の質保証/大学入学者選抜の改善/大学教育の質的転換を、高校と大学がそれぞれ責任をもって連携しながら同時に進めていくことが必要であると提言した。
 つまり「高校教育-大学入学者選抜-大学教育」といった“三位一体”の改革を求めた。

 

中教審「高大接続特別部会」設置

 

 文科大臣は24年8月、上記の中教審答申を受け、「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」を中教審に諮問した。
 中教審では「総会」直属の「高大接続特別部会」を設置し、諮問当初に例示された次のような点に留意しつつ、審議を進めている。
 ● センター試験の在り方を含めた大学入学者選抜の改善方策について。
 ● 各学校段階での教育を通じこれからの時代に必要とされる力を育む観点から、大学入学者選抜と高校教育の質保証、大学教育の質的転換を一体的に行うための基本的な方向性、高校と大学との連携強化のための方策について。
 なお、高校教育の質保証に関しては、中教審「高等学校教育部会」で審議されている。

 

*        *        *

 

< 政府・実行会議の 「達成度テスト(仮称)」 >

 

「高大接続・大学入学者選抜の在り方」の提言

 

 政府の「教育再生実行会議」(以下、実行会議)は25年10月、高大接続や大学入学者選抜の在り方などを提言した『高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について』(以下、『第4次提言』)を安倍晋三首相に提出した。
 実行会議では25年6月から、高校教育の質の確保と向上を図るとともに、大学の人材育成機能を強化し、受験生の能力・意欲・適性や活動歴を多面的・総合的に評価する“丁寧な選抜”への転換を中心に検討、議論してきた。

 

2種類の「達成度テスト(仮称) 」

 

 『第4次提言』では、高校段階における学習の達成度を把握し、高校教育の質保証や大学入学者選抜に活用する新たなテストとして、“基礎レベル”“発展レベル”からなる「達成度テスト(仮称)」の導入を改革の基本に据えた。(表1参照)
 「達成度テスト・基礎レベル(仮称)」は、高校在学中の学習の達成度を測るテストで、生徒自身の基礎学力の把握、学習指導の改善や学力向上などに役立てたり、推薦・AO入試に利用したりするとした。
 一方、「達成度テスト・発展レベル(仮称)」はセンター試験に替え、大学教育を受けるのに必要な学力を“段階別評価”で測り、一般入試の基礎資格などに利用するとした。

 

■ 政府・実行会議の 「達成度テスト(仮称)」 提言 ■

○ 「達成度テスト・基礎レベル(仮称)」は、前述した中教審「高等学校教育部会」の『審議経過』(25年1月)で提起された、高校段階の学習の到達度を把握する希望参加型のテストである「高等学校学習到達度テスト(仮称)」を踏まえたものとみる。
 また、「達成度テスト・発展レベル(仮称)」は前述した文科省策定の入試改革プランにおける新たな“「共通テスト」の開発”を、「複数回受験」や一定の成績水準をみる「段階別表示」等は旧・大学審答申『大学入試の改善について』(12年11月)の提言等を踏まえていよう。

 

< 中教審の検討、議論 : 『審議まとめ(案)』 / 『審議経過報告』 >

 

〇 中教審は26年3月、政府・実行会議の『第4次提言』を受けて検討、議論してきた内容を、『審議まとめ(案) ~高校教育の質の確保・向上に向けて~ 』(高等学校教育部会)及び『審議経過報告』(高大接続特別部会)に取りまとめた。
 中教審の両部会とも実行会議の提言を踏まえ、『まとめ(案)』では「達成度テスト・基礎レベル(仮称)」を“高校教育の質保証”に、『報告』では「達成度テスト・発展レベル(仮称)」を“大学入学者選抜等への活用”にそれぞれ供するとしている。
 中教審がまとめた2種類の「達成度テスト(仮称)」の中身は、以下のとおりである。(表2参照)

 

■ 中教審の 「達成度テスト(仮称)」 審議まとめ ■
 
◎ 「達成度テスト・基礎レベル(仮称)」:『審議まとめ(案)』(高等学校教育部会)
 
◆ 目 的
 ● 高校教育の質の確保・向上に向け、生徒が自らの高校教育における基礎的な学習の達成度の把握及び自らの学力を証明することができるようにし、それらを通じて生徒の学習意欲の喚起、学習の改善を図る。
◆ 活用方策
 ● 結果は、高校の指導改善に活かす。
 ● 推薦・AO入試や就職時に基礎学力の証明や把握の方法の一つとして、その結果を大学等が用いることも可能とする。
◆ 対象者
 ● 希望参加型とし、高校生の個人単位での受検又は学校単位での受検も可能とする。
 ● できるだけ多くの生徒が参加することを可能とするための方策をあわせて検討する。
◆ テストの内容
 ● 教科については、実施当初は国語/数学/外国語/地理歴史/公民/理科を想定して検討。(選択も可能)

● 基礎的・基本的な知識・技能だけではなく、知識・技能の活用力、思考力等を測る問題も含める。また、複数の教科を融合した「教科融合型問題」を含めることも検討。

● 各学校・生徒に対し、成績を“段階”で表示するとともに、各問題の正誤や各自の正答率等も表示。
◆ テストの形態
 ● マークシートを原則としつつ、一部記述式も検討。

◆ 実施方法
 ● 年間2回程度の受検機会を提供し、高校2年及び3年で各生徒や学校の希望に応じた受検を可能とすることを検討。
  ( * 高校1年からの受検も可能とするか検討。)
 ● 年間の実施時期は、夏~秋を基本として学校現場の意見等を聴取しながら検討。
 ● 実施場所は、高校単位の受検の場合は高校で、個人の受検者のためには都道府県ごとに会場を設ける方向で検討。
◆ その他
 ● 全ての教科(とりわけ保健体育/芸術/家庭/情報及び専門学科の各教科)において、各生徒の多様な学習成果を評価するため、外部試験や検定の結果、各種コンクール等による評価を活用することも、「達成度テスト・基礎レベル(仮称)」の導入とともに別途検討する。
 ● 学習指導上、困難を抱える学校では、希望に応じてテストの一部問題の活用等の工夫を行う。また、国・地方自治体においては、学び直しへの支援などを強化する。
 ● 「高等学校卒業程度認定試験」と統合する方向も含めて検討。
 
◎ 「達成度テスト・発展レベル(仮称)」:『審議経過報告』(高大接続特別部会)
 
◆ 趣旨・目的
 ● 高校教育の質の確保・向上/大学教育の質的転換の促進/大学志願者の能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価する入学者選抜への転換を一体的に推進する必要がある。
 ● 現行のセンター試験には、大学教育を受けるために必要な能力の判定/高校段階における学習の達成度の判定の機能のほか、大学入学者選抜における合否判定資料として使えるよう志願者を順位付けする機能等が求められている。
 「達成度テスト・基礎レベル(仮称)」が、前述したように高校段階における基礎的な学習の達成度の把握等を目的とするものとして構想されていることを踏まえれば、「達成度テスト・発展レベル(仮称)」については、これからの大学教育を受けるために必要な「主体的に学び考える力」等の能力を測ることを主たる目的とすべきである。
 ● 上述したような「高校教育の質の確保・向上-大学教育の質的転換-多面的・総合的に評価する大学入学者選抜への転換」を一体的に進めていく取組が推進されることを前提として、現行のセンター試験に代わる“新たなテスト”(「達成度テスト・発展レベル(仮称)」)を実施することが必要である。
 ● 大学教育を受けるために必要な能力を判定するためには、本テストがその重要な一部として活用されることが望まれるが、「達成度テスト・発展レベル(仮称)」の結果だけではなく、多様な資料や評価手法を併せて活用することで、大学入学志願者の能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価することが必要である。
 そのため、「達成度テスト・発展レベル(仮称)」が測定する能力と各大学が実施する選抜において評価する能力の望ましい組合せ等を含め、具体的な活用の在り方について検討を進めるべきである。
◆ 対象者
 ● 大学入学志願者を主たる対象とするが、大学で学ぶ力を自ら確認したい者(転学・編入学希望者、大学在学者や社会人等で自己の学修成果の状況確認を希望する者等)の受験も可能にする方向で検討が必要である。
◆ テストの内容
 ● 「主体的に学び考える力」等を判定する観点からは、基礎的・基本的な知識・技能に加え、知識・技能の活用力(思考力、判断力、表現力、実行力等)や高校生活全般を通じて育成される“汎用的能力” 等の測定を重視することが必要である。
 ● 知識・技能の活用力や汎用的能力等(例えば、基礎的な知識・技能や体験的な学習等からの経験を統合し、答えのない課題に挑戦し、解を見いだしていく能力等)については、各教科の学習のみならず高校の教育活動全体を通じて育成・涵養されるものである。
 このため、このような能力を的確に測定する観点から、教科ごとに出題する「教科型」ではない、複数の教科・科目にまたがった内容に基づきその活用力や応用力を測る「合教科・科目型」や、教科の枠組みにとらわれない「総合型」の導入に向けて専門的な検討を進めるべきである。
 特に汎用的能力については、その内容についての関係者の共通理解を図るとともに、試験で測定できる能力の範囲や具体的な問題作成等の研究開発を進める必要がある。
 ● 「教科型」の出題については、「達成度テスト・基礎レベル(仮称)」との関係や教科・科目数等を勘案しつつ検討することが必要である。
◆ 実施方法
 ● 回答方式については、記述式やコンピュータによる出題・回答の方式(CBT:Computer Based Testing)を導入することについて、実現可能性に向けて専門的な検討を進めることが必要である。
 ● 年複数回の実施については、実施回数、時期、受験対象学年等について、高校教育への影響や試験実施体制等を考慮しつつ、今後具体的な検討を行う必要がある。
 ● 成績の提供方式については、大学での多様な活用の在り方に留意しつつ、知識偏重の1点刻みの選抜から脱却できるようにするなどの観点から、段階別に提供することや、標準化点数、百分位等の活用について専門的な検討を進めることが必要である。
 特に、試験を複数回実施する場合、複数の試験間の得点を比較可能とすることが必要であり、IRT(Item Response Theory:項目反応理論)等を用いた得点調整、得点表示方式についての検討が必要である。

 

< 「達成度テスト(仮称)」 と センター試験 >

 

 大学入試センター試験(以下、センター試験。後述)は現在、全ての国公立大及び9割の私立大(大学数ベース)が参加し、大学入学志願者の7割以上が受験する大規模な“共通テスト”である。また、センター試験は良質な試験問題を提供し、各大学の個別試験との組合せで入学者選抜の個性化・多様化を促すものとして評価されている。
 一方、知識量の多寡をみるようなマークシート方式に対する課題、6教科29科目(26年度)に及ぶ多数の出題科目と複雑な利用方法、運営上の負担などの問題点も指摘されている。
 今回提起された「達成度テスト(仮称)」の“基礎レベル”、“発展レベル”及び「センター試験」のそれぞれ目的・機能、試験内容等を以下に整理してみた。(表2参照)

 

< 大学入試 と 「共通試験」 > (以下、図5参照) 

 

「進学適性検査」:昭和23年~昭和29年

 

◆ 新制大学発足前後の入学者選抜
 終戦前の旧制大学における入学者選抜は、出身学校長の調査書、筆記試問、口頭試問、身体検査といった資料を総合的に判定して入学者を決める総合判定方式が採られていた。
 終戦直後の昭和22(1947)年には口頭試問が廃止され、筆記試験は新たに知能検査と学力検査に分けて実施された。
 そして、この知能検査は昭和23年以降、「進学適性検査」と改称され、内容も知的資質の測定と、その傾向の検出に改められた。
 戦後の新制大学による本格的な入試が実施され始めた昭和24(1949)年度当初の入学者の判定は、「進学適性検査・学力検査・身体検査、及び調査書の成績」を総合して行うものとされていた。この選抜方法の背景には、当時の連合国軍最高司令部(GHQ)の教育・文化担当部局のCIE(民間情報教育局)が「進学適性検査」の成績(受検者の“将来”傾向)/「調査書」の成績(受験生の“過去”の成績)/「学力検査」(受験生の“現在”の学力)の“3つの要素”を等しく総合的に扱うよう勧告したことがあるようだ。
◆ 「進学適性検査」の概要
 進学適性検査は、大学進学志望者の進学適性を検査するもので、「学力検査」ではないとされていた。検査の内容は、大学での教育を履修するのに十分な資質があるかどうか、文系、理系のいずれに適するかをみるもので、高校1年程度の文科的問題と理科的問題とが含まれていた。昭和23年に知能検査から変わった進学適性検査は、昭和24年度の第1回新制大学入学者選抜から志願者全員に課せられた。国立大では文部省が問題を作成し、全国一斉に行われた。公私立大では、国立大とともに実施することも各大学独自の進学適性検査を行うこともできた。
 しかし、それまでの学力検査偏重からの脱却を目指したこの検査は、練習効果が顕著に出ること/そのための受検準備が激化し、学力検査との二重の負担になったこと/大学の利用が積極的でなかったこと/予算が十分でなかったこと/国立大学協会(以下、国大協)、全国高等学校長協会等から中止の要望が出たことなどから、昭和30(1955)年度から国が一斉に行う実施は廃止された。
 因みに、進学適性検査の受検者数は、昭和28(1953)年度の約29万人が一番多かった。

 

「能研テスト」:昭和38年~昭和43年

 

◆ 実施の背景
 文部省は新制大学発足以降、入学者選抜については所謂“総合判定主義”を提唱していたが、大学は「学力検査」偏重で、高校教育にも弊害をもたらしていた。
 そのため、前述の「進学適性検査」が廃止された後の昭和38(1963)年1月、中教審は『大学教育の改善について』(以下、『三八答申』)において、大学入試の具体的改善策として「大学進学志望者の学習到達度及び進学適性について、信頼度の高い結果をうる共通的・客観的テストの研究・作成」などを提言した。
 この『三八答申』に基づき、学習到達度と進学適性について客観的検査方法を調査研究することなどを目的に、昭和38年に(財)能力開発研究所が設置され、「能研テスト」(能力開発研究所テスト)が昭和38年~昭和43(1968)年まで実施された。
◆ 「能研テスト」の概要
 能研テストには、①学力テスト(国語、社会、数学、理科、外国語の5教科17科目の学力の測定)/②進学適性能力テスト(進学適性としての知的能力のうち、言語的推理能力と非言語的推理能力の測定)/③職業適応能力テスト(職業適応に必要な知的能力のうち、一般能力と基礎学力の測定)があった。
 文部省は昭和42(1967)年度から能研テストの結果を入学者選抜に活用しうることとし、その活用をすすめた。しかし、大学側の活用が極めて消極的であったことなどから、能研テストは昭和43年度をもって廃止された。

 

共通第1次学力試験:昭和54年~平成元年

 

◆ 実施の背景
 昭和40(1965)年代、18歳人口の激増、大学進学率の上昇、大学受験生数の急増などから受験環境は激化していた。そのため、高校での「学習成果」(「調査書」等)は入学者選抜に反映されず、所謂“難問・奇問”の出題が多くみられた。
 こうした状況に対して中教審は、『今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について』を答申し(昭和46<1971>年6月。以下、『四六答申』)、初等中等教育から高等教育までの学校教育全般にわたる制度的・内容的な改善施策を提言した。その中で、大学入学者選抜制度の改善の方向として、次の3点を挙げた。

 他方、国大協は当時、“高校教育の尊重”(高校での学習成果を入学者選抜に反映)と“各大学の独自性”(個別試験)といった入学者選抜の“2部構成”を構想していた。
 『四六答申』の上記①・②は国立大の入学者選抜で「高校における一般的・基礎的な学習の達成度を共通尺度で評価するための試験」として位置づけられ、入学者選抜の“第1段階試験”つまり「共通第1次学力試験」(以下、共通1次試験)として昭和54(1979)年~平成元(1989)年まで実施された。公立大もこうした入学者選抜の在り方に賛同し、全公立大が参加した。また、提言の③は、国公立大の「共通1次試験と各大学の個別試験(2次試験)との総合による合否判定」という入学者選抜方法によって具体化された。
◆ 「共通1次試験」の概要
 共通1次試験は、全ての国公立大の入学志願者(昭和57年から私立大の産業医科大も参加)に対し、各大学の個別試験に先立ち、全国同一期日・同一問題で実施される“共通試験”であった。
 実施当初の昭和54年~昭和61(1986)年までは、文系・理系の別なく、全受験者に一律「5教科7科目」(国語、数学<1科目200点満点>、外国語、社会<2科目>、理科<2科目>:1,000点満点)を課していた。
 しかし、一律「5教科7科目」受験に加え、共通1次試験の導入と同時に国立大「1期校・2期校」の廃止で“国立大試験期日1本化”(昭和54年~61年)となったことは、国立大受験生への負担過重であり、私立大専願者に比べて極めて不利などといった批判が高まった。このため、昭和62年~平成元年は全受験者に対し「5教科5科目」以下でも可能とされた。
 昭和54年1月に実施された第1回共通1次試験の志願者は約34万2,000人、受験者約32万7,000人で、一律「5教科7科目」受験の平均点は636.1点(1,000点満点)だった。

 

大学入試センター試験:平成2年~

 

◆ 実施の背景
 共通1次試験が上述のような一律“5教科利用”を原則としたことなどから、大学の“序列化”が進み、“輪切り”の進路指導が行われたこと/試験の利活用が国公立大のみに留まったことなどが問題視された。
 当時、臨時教育審議会(臨教審:総理大臣の私的諮問機関)は『第1次答申』(昭和60年6月)の「大学入学者選抜制度の改革」において、大学・学部の序列化による「偏差値」偏重の受験競争の弊害を是正し、受験生の個性・能力・適性等の多面的な判定や、国公私立大を通じて各大学が自由に利用できる“新たな共通テスト”の創設を提言した。
 この臨教審答申を受け、文部省は大学・高校関係者等からなる大学入試改革協議会を設置し、入試改革に関する最終報告『大学入試改革について』(昭和63年2月)を取りまとめた。
 これに基づき、共通1次試験は臨教審の多様化・個性化路線を踏まえ、国公立大の固有性を崩して私立大の参加を可能にし、さらに、受験教科・科目を国公立大も含めて各大学(学部)の自由に任せる「アラカルト方式」にするなど、入学者選抜の多様化、独自性に向けた「大学入試センター試験」(センター試験)へと衣替えした。

 

 

◆ 「センター試験」の概要
 センター試験の「アラカルト方式」で大学(学部)のセンター試験利用教科・科目の弾力化が図られたが、国公立大では「5教科6科目」(国語、数学<2科目>、外国語、社会<平成9年から地歴、公民:1科目>、理科<1科目>)が主流を占めた。ただ、その一方で、志願者獲得策などから利用科目の軽減もみられた。
 国大協では、国立大の入学志願者に対し、高校教育における基礎的教科・科目の普遍的な学習を求めるという基本的な理念に基づき、16年入試からセンター試験「5(6)教科7科目」を基本に据えている(共通1次試験の“先祖返り”)。因みに、26年入試でセンター試験「5教科7科目以上」を課す国立大は、95.1%(大学数ベース)で、募集人員の77.5%である。
 他方、私立大では2、3科目利用が主体で、参加大学(学部)は年々増加し、26年には全私立大の約90%(大学数ベース)に達している。
 第1回センター試験は、全ての国公立大のほか、16大学・19学部の私立大が参加し、志願者約43万1,000人、受験者約40万8,000人だった。

 

*        *        *

 

< “新テスト” の在り方 >

 

「達成度テスト(仮称)」の2種類の名称

 

 今回提起された“新テスト”の現在呼ばれている名称は、「達成度テスト(仮称)」という“1つの共通テスト”に、「基礎レベル」と「発展レベル」といった“2種類のレベル別テスト”が設定されているような連想を抱かせる。
 しかし、「達成度テスト(仮称)」(基礎レベル/発展レベル)の目的・内容等については、前述した中教審の『まとめ(案)』(基礎レベル)と『報告』(発展レベル)にそれぞれ明記されている。それによれば、「基礎レベル」と「発展レベル」の名称の違いは、単なる“出題レベル”の違いではない。
 「基礎レベル」は、高校教育の質の確保・向上を図るために、全ての高校生を対象に“「高等学校学習指導要領」を踏まえた”「教科型」主体、一部「教科融合型」のテストを構想している。
 一方、「発展レベル」は大学入学志願者等を対象に、“大学教育を受けるのに必要な「主体的に学び考える力」を測る”ために「合教科・科目型」、「総合型」など汎用的能力等の測定を重視したテストを構想している。

 

「基礎レベル」と「発展レベル」の明確な違い=名称変更=を!

~「高等学校共通学習達成度テスト(仮称)」/「大学教育必須学力確認テスト(仮称)」~
 
 上述のような、「基礎レベル」と「発展レベル」の目的・内容等の違いを踏まえるならば、「達成度テスト(仮称)」の2種類のテストは、それぞれの中身を反映した名称にすべきだ。
 例えば、「基礎レベル」は「高等学校共通学習達成度テスト(仮称)」/「発展レベル」は「大学教育必須学力確認テスト(仮称)」などとし、テストの目的に合致した名称にしてはどうか。

 

「達成度テスト(仮称)」の実施主体

 

「達成度テスト(仮称)」の実施について、テストを活用する視点に立てば、「基礎レベル」の実施主体は高校側、「発展レベル」は大学側であることを明確にしておく必要があろう。
 また、テストの問題作成や評価(採点)など実施上の管理、運営について、例えば、「基礎レベル」は国立教育政策研究所、「発展レベル」は大学入試センターなど主導的な関係機関の下に、高校や大学がそれぞれ共同・協力して実施することなども検討する必要があろう。

 

次期「学習指導要領」改訂と「達成度テスト(仮称)」

 

 文科省は2020(平成32)年の東京五輪を視野に、次期「学習指導要領」改訂を予定している。26年度中に中教審に教育課程全体の見直しを諮問して、28年度に答申を予定。
 文科省は答申を受け、学習指導要領の改訂に取り組み(改正告示)、例えば小学校英語については32年度からの全面実施を目指すとしている。
 英語教育の一層の強化などのほか、高校では日本史の必修化や新科目「公共」の設置などが伝えられているが、教育目標・内容や評価の在り方などが大きく変わる可能性がある。
 生徒の「資質・能力の育成」において、これまでの各教科等の“縦割り”から、各教科の枠を超えた“横断型”の活用で、「何を知っているか」に留まらず、「何ができるか」(課題発見、課題解決能力等)に教育、学習を一層深化させるような方向が推測される。
 そうなれば、“新テスト”となる「達成度テスト(仮称)」(基礎レベル/発展レベル)は、当然、こうした次期「学習指導要領」の改訂を反映したものになろう。

 

< 「達成度テスト(仮称)」 への期待 >

 

 “議論百出”で、テストの実像は“霧中”

 

「達成度テスト(仮称)」の「基礎レベル」と「発展レベル」をそれぞれ検討、議論している中教審の高等学校教育部会と高大接続特別部会は、これまで合同会議も含め、毎回多岐にわたって活発な意見が交わされ、議論の拡散もみられた。
 そのため、今回の『まとめ(案)』や『報告』では、今後の“検討事項”や“抽象的な表現”が多くみられ、「達成度テスト(仮称)」の具体的な実施内容等は定まっていない。
 中教審は今後、関係団体からの意見聴取や一般からの意見公募(26年5月上旬までパブリックコメント実施)などを踏まえ、さらに審議を進め、26年夏前までを目途に最終的な取りまとめを行うようだ。その後は、文科省や大学入試センター、関係機関などによる事務局で具体的な制度設計が進められていくとみられる。

 

“三位一体”改革と人材育成の“新テスト”

 

 我が国の若者は、急速なグローバル化の進展と少子高齢化による生産人口の大幅な減少といったこれまで経験したことのない厳しい環境に否応なく晒される。
 そうした厳しい社会環境を迎え、「達成度テスト(仮称)」には、これまで共通テストとして行われた進学適性検査や能研テスト、共通1次試験、及びセンター試験の成果・現状・課題等を踏まえ、「高校教育-入学者選抜-大学教育」の“三位一体”改革と21世紀を“生き抜く力”の育成に資する“新たなテスト”として創設されることを期待したい。

この記事の印刷用PDF

記事一覧に戻る