今月の視点 2015.9

高大接続・「新テスト」の 『中間まとめ』!

「基礎学力テスト」:現行課程下では国語・数学・英語を出題、入試活用せず/「学力評価テスト」:「思考力・判断力・表現力」重視、「数理探究(仮称)」・高難度の出題。記述式、CBT方式目指す!

2015(平成27)年度

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 文科省の「高大接続システム改革会議」(座長=安西祐一郎・日本学術振興会理事長)は27年8月下旬、中教審が先に提言した『高大接続・大学入試改革答申』(26年12月)を踏まえ、文科省策定の「高大接続改革実行プラン」(27年1月)の具体的な改革内容や実行方法等を検討、議論した『中間まとめ』(案)を了承した。
 ここでは、高校教育改革、大学教育改革、高校教育に係る「基礎学力テスト」、大学入学者選抜改革に係る「学力評価テスト」、及び個別大学の入学者選抜改革などを中心に、『中間まとめ』(案)の要旨をまとめた。

 

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< 文科省・「システム改革会議」の設置 >

 

「高大接続改革実行プラン」の策定

 

 中教審は26年12月、これからの大きな時代の変化に対応するために、高校教育、大学教育、及び大学入学者選抜の改革を一体的に行うことを提言した『新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について ~すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花開かせるために~』を答申した(以下、『高大接続・大学入試改革答申』)。
 文科省は当答申を受け27年1月、高大接続改革を着実に実行する観点から、取り組むべき重点施策と工程を明示した実行計画として「高大接続改革実行プラン」を策定し、27年2月に「高大接続システム改革会議」(以下、「システム改革会議」)を設置した。

 

「システム改革会議」の検討事項等

 

 「システム改革会議」は「高大接続改革実行プラン」に基づき、その実現に向けた具体的な方策について検討、議論する。検討事項としては、➀「高等学校基礎学力テスト(仮称)」(以下、「基礎学力テスト」)及び「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(以下、「学力評価テスト」)の在り方について/➁個別選抜の改革の推進方策について/➂多様な学習活動・学習成果の評価の在り方について/➃その他が挙げられている。
 「システム改革会議」は、高大接続に係る多岐にわたる改革内容をシステムとして捉え、それぞれの関係についての議論を27年末に向けて具現化していくために資するよう、これまでの議論を『中間まとめ』として整理した。

 

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< 『中間まとめ』 の構成 / システム改革の実施方法 >

 

『中間まとめ』は、Ⅰ.「中間まとめ」の背景と目的/Ⅱ.高大接続システム改革の基本的な内容・実施方法/Ⅲ.高大接続システム改革の実現のための具体的方策からなる。
 提言の中心となる具体的な改革方策のⅢ.は、1.高校教育改革/2.大学教育改革/3.大学入学者選抜改革の3本柱で構成されている。

 

段階を踏まえた実施

 

 高大接続システム改革を実現していくためには、多くの克服すべき課題があり、全てを一度に実現することは困難であるとしている。
 特に、「基礎学力テスト」や「学力評価テスト」の具体的な制度設計については、高等学校学習指導要領の改訂に係る検討状況を踏まえる必要があるとしている。「次期学習指導要領」は、新しい時代に必要な資質・能力を育成するための教科・科目等の新設や目標・内容の見直し、主体的・協働的な学習等を充実させる方策などが中教審で検討されている。
◆ 「現行学習指導要領」と「次期学習指導要領」対応の“2段構え”
 高校の「次期学習指導要領」は、34年度入学者から学年進行で適用されることが想定される。このため、31年度から実施する「基礎学力テスト」は、彼らが高2生になる35年度実施分から「次期学習指導要領」対応のテストに移行することとし、“31年度~34年度”は「試行実施期間」と位置付け、この間は原則、“大学入学者選抜や就職には用いず”、本来の目的である“学習改善”に用いながら、その定着を図るとしている。
 他方、32年度から実施する「学力評価テスト」は、彼らが高3生になる36年度実施分から「次期学習指導要領」対応のテストに移行することとし、“32年度~35年度”にかけては、36年度以降に向けた課題を解決しつつ、「現行学習指導要領」対応のテストを実施するとしている。(図1参照)

 

≪ 1.高校教育改革 ≫

 

< 改革の基本的な考え方と方向性 >

 

3つの観点からの改革等

 

 高校教育は、義務教育までの成果を確実に発展させるとともに、高校教育の質の確保・向上を図り、生徒に、国家と社会の形成者となるための教養や行動規範、自分の夢や目標を持って主体的に学ぶ力を身に付けさせることが重要であるという。
 このため、今後は次のような3つの観点から、直ちに取り組むべき改善方策と計画的かつ着実に取り組むべき制度改革等を整理しながら、高校教育改革を推進していくとしている。
 .育成すべき資質・能力を踏まえた教科・科目等の見直しなどの「教育課程の見直し」/イ.アクティブ・ラーニングの視点からの「学習・指導方法の改善」と教員の“養成・採用・研修”の改善を通じた「教員の指導力の向上」/ウ.学習評価の在り方の見直しや指導要録の改善などの「多面的な評価の推進」

 

「学力の3要素」と教育課程の見直し

 

『中間まとめ』は、これからの教育、特に“高校段階以降の教育”について、義務教育段階を基盤とし、➀十分な「知識・技能」/➁それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見出していく「思考力・判断力・表現力等の能力」/➂これらの基になる「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」といった「学力の3要素」(中教審『高大接続・大学入試改革答申』とも共通した定義)の全てを一人ひとりの生徒・学生が身に付け、グローバルな環境の下、多様な人々と学び、働きながら、主体的に人生を切り拓いていく力を育てることを求めている。
 高校教育はこうした「学力の3要素」を生徒が身に付けていくことを目指し、高大接続システム改革の全体像を見据えながら、教育改革を実現していくことが求められるという。そして高校教育改革の具体的な教育課程の在り方等は、高校教育の「共通性の確保」と「多様化への対応」といった観点を軸として、中教審で検討されている。
◆ 高校教育課程の見直し
 中教審は高校の「次期学習指導要領」に向けた教育課程の見直しにおいて、例えば、次のような科目の新設や履修方法の見直しなどを検討している。
 〇 地理歴史科:「世界史」必修を見直し、共通必履修科目として、「歴史総合(仮称)」(歴史の諸相を近現代中心に学習)/「地理総合(仮称)」(持続可能な社会づくりに必要な地理的な見方や考え方)/〇 公民科:共通必履修科目として、「公共(仮称)」(主体的な社会参画に必要な力、人間としての在り方生き方の考察等)/〇 数学・理科:選択科目として、「数理探究(仮称)」(スーパーサイエンスハイスクールの取組等を参考にしつつ、数学と理科の知識・技能を総合的に活用して主体的な探究活動を行う)設置など。

 

■ 「基礎学力テスト」 の導入 ■

< 「新テスト」 創設の背景 >

 

高校教育を取り巻く課題

 

 高校では、生徒の興味・関心や能力・適性等の多様化に対応して、学校や学科、教育課程の多様化などが進められてきた。
 その一方、学習意欲の低い者も含め、基礎学力が不足している者もみられ、また、授業時間以外の学習時間の減少、さらには一部とはいえ、入学者獲得策としての推薦・AO入試の実施、私立大の4割を超える「入学定員割れ」の状況といった大学入学者選抜機能の低下など、高校教育を取り巻く様々な問題点が指摘されている。

 

基礎学力の確実な育成

 

 上記のような高校教育を取り巻く環境の中、社会で自立し、社会に参画・貢献していくために必要な力など、高校生が身に付けるべき基礎学力の確実な育成を図る必要があることを踏まえ、「基礎学力テスト」を創設するとしている。各学校には、当テストを学習改善や指導改善等に活用し、生徒の多様な進路に応じた資質・能力の育成を求めている。
 「システム改革会議」の『中間まとめ』は、中教審提言も踏まえ、「基礎学力テスト」の具体的な制度の在り方について以下のような点を検討し、具体化に取り組むとしている。

 

< 基本的事項 >

 

目的:高校教育の質の確保・向上

 

 「基礎学力テスト」の主な目的は、高校生の基礎学力の確実な育成に向け、高校段階の基礎的な学習の定着度を把握及び提示できる仕組みを設け、生徒の学習意欲の喚起や学習の改善を図り、指導改善にも生かして高校教育の質の確保・向上を図ることであるという。

 

対象者:学校単位を基本に、生徒個人の希望受検

 

 「基礎学力テスト」は、義務教育段階にある小・中学生とは異なり、多様な高校生が受検する。このため、上記目的のより確実な達成を目指し、“学校単位での参加”を基本としつつ、“生徒個人の希望に応じた受検”も可能としている。

 

< 具体的な仕組み >

 

対象教科・科目:国語、地歴、公民、数学、理科、英語の各「必履修科目」が基本

 

 高等学校学習指導要領では、生徒の共通性や基礎的な知識・技能と教養の幅を確保するために「必履修教科・科目」が設定され、その履修が卒業の要件の一つとなっている。
 これを踏まえ、「基礎学力テスト」の対象教科・科目は、「国語、地理歴史、公民、数学、 理科、英語」といった全ての生徒が共通して履修する「必履修科目」を基本としている。
➀ 「現行学習指導要領」対応(31年度~34年度)の実施科目:国語、数学、英語
 上記の対象教科・科目を前提に、31年度導入当初からの実施に当たっては、高校段階ではこれまで導入したことがない“新テストの仕組み”であることから、試行実施等を通じて円滑な導入を目指すため、対象科目は、全ての生徒が共通に履修する範囲を上限として、「国語、数学、英語」で実施するとしている。(図1参照)
➁ 「次期学習指導要領」対応(35年度~)の実施科目:「地歴、公民、理科」等追加
 「次期学習指導要領」に向けた検討や国語、数学、英語の実施状況等を踏まえつつ、「次期学習指導要領」が実施(34年度から学年進行)される段階(高2生を受検対象とする35年度以降)での実施科目には、「地理歴史、公民、理科」等を追加するとしている(図1参照)。
 前記➀と➁に挙げた教科以外、つまり、保健体育、芸術、家庭、情報、及び職業に関する各教科は、実技や実習等で評価される比重が高く、一般に多肢選択式や記述式のテストになじみにくいとされており、今後、国語や数学、英語の導入状況や「次期学習指導要領」の改訂内容等も踏まえながら、必要に応じて検討するという。その際、「情報」については、新科目の在り方について中教審において検討されることも踏まえながら検討するという。

 

出題範囲:「現行学習指導要領」対応=国語総合、数学Ⅰ、コミュニケーション英語Ⅰ

 

 現行の学習指導要領では、全ての生徒が共通に履修する共通必履修科目である「国語総合」「数学Ⅰ」「コミュニケーション英語Ⅰ」は、ほとんどの高校で1年生の履修科目として開設されているが、2年生以降に履修する場合もある。また、地理歴史や公民、理科などの必履修科目については、2年生以降に履修するものも多い。
 このため、「現行学習指導要領」対応の「基礎学力テスト」における各科目の出題範囲は原則、「国語総合」、「数学Ⅰ」、「コミュニケーション英語Ⅰ」を上限に、“履修した翌年度以降の受検”を基本としている。
 例えば、1年生と2年生での“分割履修”のような場合は、3年生で受検する。ただし、生徒が受検を希望した場合は、履修前の受検を可能としている。その際、「現行学習指導要領」では、義務教育段階での学習内容の確実な定着を図ることとされていることを踏まえ、出題範囲に“義務教育段階の内容”も一部含めるという。

 

問題の内容

 

◆ 難易度の設定:平均的な学力層、学力面で課題のある層を対象
 「基礎学力テスト」は、➀ 基礎的な学習の定着度を把握するものであること/➁ 学習指導要領を踏まえたものであること/➂ 生徒の興味・関心、能力・適性、進路希望等が多様であること、などを踏まえながら出題することが必要であるとしている。
 具体的には、高校生全体のボリュームゾーンとなる“平均的な学力層”や、“学力面で課題のある層”を主な対象として出題し、問題作成等では、学力面で課題のある層の学習意欲の喚起を念頭に入れ、難易度や問題設定、出題範囲の在り方に特段の配慮を求めている。
◆ 測定する資質・能力:基礎的な「知識・技能」中心
 「基礎学力テスト」の出題に当たっては、「学力の3要素」のうち、“基礎的な「知識・技能」の問題を中心”に、中教審で検討されている「次期学習指導要領」も念頭に“「思考力・判断力・表現力」を問う問題をバランスよく”出題するとしている。
 問題の作成に当たっては、〇 実社会の様々な事物や事象に結び付けた問題/〇 単に条件を当てはめるだけでなく、条件を導き出す力を問う問題/〇 単に解答を求めるだけでなく、解答を導く過程等を重視する問題/〇 解答を導く過程の不適当な点を指摘修正させる問題など、様々な形態の問題を導入することが必要であるとしている。
 今後、さらに詳細に検討し、「基礎学力テスト」の問題イメージを早急に提示するという。
 なお、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」など、筆記試験や技能試験での評価が難しい資質・能力については、日々の高校の学習活動等を通じて多面的な評価を行うことが必要であるという。

 

出題・解答・成績提供方式

 

◆ 多様な出題・解答方式の導入
 ● 選択式、連問式、連動型複数選択式、記述式等
 基礎的な「知識・技能」から「思考力・判断力・表現力」まで、幅広い資質・能力を把握することができるよう、「選択式」問題でも、“正誤式”や“多肢選択式”問題に加え、例えば「連問式」(*1.参照)や「連動型複数選択式」(*2.参照)といった、複数の思考プロセスを評価する問題や複数の正答がある問題などのほか、一定の文字数を記入する「記述式」など、多様な解答方式を導入するとしている。
 「記述式」は導入当初、“短文記述式”を一部試行実施することを検討し、「次期学習指導要領」の実施に併せて“一定の文字数を記入させる記述式”も導入するという。

● 英語については、「聞く」、「話す」、「読む」、「書く」の4技能を測ることができるテストを導入するとしている。
◆ IRTの導入:問題の非公開が前提
 高校は、全日制、定時制、通信制に加え、専門高校では長期の実習など、多様な学習形態がとられている。そのため、同一時間帯の全国一斉テストはなじみにくい。
 また、生徒の主体的な学習の促進には、複数回のテスト実施を可能とすることが有効であるが、その際、生徒の学習の定着度を客観的に把握できるようにするため、過去に受けたテストとの比較をできるようにすることが必要であるという。
 こうしたことから、テストの結果を統計的に処理し、複数の異なるテスト間の結果を比較することができる「項目反応理論」(以下、IRT.参照)を導入する方向で、今後、さらに詳細な制度設計を行うとしている。
 IRTを導入する場合は、“問題の非公開”を前提にプレテスト実施を通じて難易度を事前調整した問題を大量に蓄積することが必要になることや、問題非公開のため指導改善に生かしにくいことなど、解決すべき課題もある。
 このため、高校教員個人や学校単位、自主的な研究会、民間団体など様々な関係者・機関を活用した問題作成体制を構築し、“類似問題を公開”したり、単元ごとなど“分野別の結果”を示したりすることなどを通じて、指導改善の方法を検討するという。

 

◆ CBTの導入:「適応型テスト」への拡張、多様な技能測定が可能
 多様な高校教育の実態の下、同一テスト時間内において、問題の正答率に応じ、それ以降の問題の難易度を変えることのできる「適応型テスト」への拡張が可能であり、様々な技能を測定しやすい「CBT」(.参照)の導入について検討するとしている。その際、実現可能性も踏まえ、“紙によるテスト”実施も念頭に置きつつ検討するという。
 具体的な実施方法としては、タブレットなどのモバイル端末を活用する方式/学校内のコンピュータを活用する方式などを挙げており、今後、システムの安定性やセキュリティの確保、機器導入・運送・維持管理のコスト等を総合的に勘案しながら検討するという。

 

◆ テストの結果提供
 ● 生徒への結果提供:“10段階”以上の多段階表示
 生徒自身の学習の定着度を明確にして、以後の学習の目標になりやすく、学習の成果が実感しやすくなるよう、“10段階”以上の多段階で本人に結果を提供するという。
 また、より詳細な学習改善や指導改善にも生かすことができるよう、分野別の結果や各設問の出題のねらい等を提供するとしている。
 ● 学校・都道府県等への結果提供:全体の状況を公表/学校・都道府県間の比較、非公表
 学校での指導改善や都道府県等の教育施策改善に生かせるよう、学校単位の受検には当該学校に各生徒の結果を提供し、都道府県には管内各学校の結果を提供するという。
 また、実施主体は受検者全体の状況を公表するという。その際、「順位」や「平均点」を示すなど、学校や都道府県間における比較は行わないとしている。

 

実施場所・回数・時期

 

◆ 受検回数・時期:年複数回、夏~秋に実施
 経年での学習成果の推移が分かるよう、“年複数回受検”ができる仕組みにするという。
 導入当初は高2生と高3生が希望に応じて、年間2回受検することができる仕組みとし、今後、導入状況等を踏まえながら、必要に応じ、実施学年や回数の見直しを行うとしている。
 実施時期は、導入当初は“夏~秋”までを基本としつつ、今後、高校関係者等との意見交換を行いながら、引き続き詳細な実施時期を検討するとしている。
◆ テスト時間:1科目50~60分程度
 1科目当たりのテスト時間の目安としては、概ね“50~60分”程度を基本としている。
◆ 実施場所:高校や公の施設を検討 / 受検料:1回数千円程度

 生徒の経済的負担も考慮し、受検しやすい場所で行うことが必要であるとしている。学校単位での受検は、参加状況も踏まえながら、高校や公の施設の利用等も含め検討するという。
 受検料は1回当たり“数千円”程度の低廉な価格設定となるよう検討するという。
 ただし、記述式や英語4技能テストの実施には、多額の費用も想定されるため、実施費用面でコストを抑制する方策も併せて検討するという。

 

活用の在り方

 

◆ 適切な活用の在り方
 ● 基本的な活用:学習意欲の喚起、学習改善、指導改善
 「基礎学力テスト」は、高校段階における生徒の基礎的な学習の定着度を把握及び提示できる仕組みのテストで、生徒の学習意欲の喚起や学習の改善を図るとともに、その結果を指導改善にも生かすものである。したがって、生徒が主体的に活用するとともに、教員が高校での指導改善に生かすことが基本であるとしている。
 ● 副次的な活用:進学時等の基礎学力の提示
 生徒の学習の達成状況については、高校教育だけでなく、各大学のアドミッション・ポリシーに基づく選抜や初年次教育でも活用できるようにすることも考えられるという。
 こうした観点から、「基礎学力テスト」の“副次的な活用”方策として、生徒側が進学時等に基礎学力の定着度として提示したり、大学等が入学者の基礎学力を把握したりする方法の一つとして活用することも考えられるとしている。
◆ 「現行学習指導要領」対応の「試行実施期」は、“大学入学者選抜・就職”に活用せず
 ● 「試行実施期」(31年度~34年度)の活用
 「基礎学力テスト」が大学入学者選抜や就職等で過度に活用された場合、高校生活への悪影響が懸念される。こうしたことを踏まえ、現行の高等学校学習指導要領に基づく「基礎学力テスト」実施となる31年度~34年度(高2・高3生受検)までを「試行実施期」と位置付け、この期間は原則、“大学入学者選抜や就職には用いず”、本来の目的である“学習改善”に用いながら、その定着を図るとしている。(図1参照)
 ● 「次期学習指導要領」対応 (35年度以降)の活用
 次期「高等学校学習指導要領」(34年度から高1生。学年進行)下で学習した高校2年生が受検する35年度以降の進学時等の活用方策については、高校生の学習意欲や進路実現への影響等に関するメリット、デメリットを吟味し、検討するという。(図1参照)
 その際は、以下の視点も踏まえて検討する必要があるとしている。

 

民間の活用等

 

「基礎学力テスト」の実施に当たっては、公的な性質を踏まえつつも、可能な業務は積極的に民間事業者の知見を活用するとしている。
 特に英語については、『高大接続・大学入試改革答申』でも資格・検定試験の活用が提言されており、「聞く」、「話す」、「読む」、「書く」の4技能重視の観点から、民間の資格・検定試験の知見を活用することについて、民間団体との連携の在り方を検討するという。

 

≪ 2.大学教育改革 ≫

 

< 大学教育改革の必要性 >

 

実効性ある教育方法の確立

 

 大学教育改革は、これまでも中教審などで様々な提言がなされ、その取組も進められているという。ただ、実効性を持って進められているのは、現状では一部の大学に留まり、多くの大学は未だ課題になっているという。
 「次期学習指導要領」に向けて、高校を含む初等中等教育における能動的学習の本格的導入の議論がなされていることから、各大学には、能動的学習の方法を身に付けてきた多様な入学者の力をさらに向上させるために、実効性のある教育方法の確立を求めている。

 

< 三つのポリシーに基づく大学教育の実現方策 >

 

三つのポリシーの重要性

 

 各大学が教育を行う上で基本とすべきは、「学位授与の方針」(以下、ディプロマ・ポリシー)/「教育課程編成・実施の方針」(以下、カリキュラム・ポリシー)/「入学者受入れの方針」(以下、アドミッション・ポリシー)の三つのポリシーと、それらの間の緊密な関係であるという。また、各大学には、これらのポリシーを一体的に、かつ明確な内容を示すものとして策定し、三つのポリシーに基づく充実した大学教育の実現に取り組み、責任を持って卒業生を社会に送り出すことを求めている。

 

三つのポリシーの策定

 

 三つのポリシーについては、策定に取り組んでいる大学も多い一方で、その内容については抽象的な文言に留まるものや、相互の関連性が意識されていないものなども多く、全体に大学教育の指針として十分な役割を果たしているとは言い難いと指摘している。
 大学教育の充実は、三つのポリシーを一体的に充実したものとして策定することが重要で、その策定を法令上義務付けることや国が策定と運用に関するガイドラインを示すことが効果的であるとしている。特に「認証評価制度」の新たな評価の確立が重要であるという。
 今回の『中間まとめ』は、こうした三つのポリシーの策定に関するガイドラインについて、例えば次のような方向性が考えられるとしている。
◆ ディプロマ・ポリシー
 ● 当該大学が卒業生を社会に送り出す上で、“どのような能力”を身に付ければ、「学位」を授与するのかという方針を具体的に示すこと。
 ● 大学教育の質を担保し、授与される「学位」の信頼性を高めるため、当該大学における“学修成果の可視化”を図るとともに、在学の水準に合わない学生の“退学の基準”等、具体的な基準を示し、それに基づく厳格な「成績評価・卒業認定」を行うこと。
 ● カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーとの関係を具体的に示すこと。
◆ カリキュラム・ポリシー
 ● 当該大学におけるディプロマ・ポリシー及びアドミッション・ポリシーを踏まえた「カリキュラム編成」、そのカリキュラムによる学生の「学修方法・学修過程」の在り方等を具体的に示すこと。
 ● 特に、主体性を持つ多様な学生に対して、個々の学生が「自分がどうすれば、何を身に付けられるのか」を理解することのできる「カリキュラム編成」や、学生の「学修方法・学修過程」の在り方等を具体的に示すこと。
 ● 主体性を持つ多様な学生の入学・在学を前提に、ディプロマ・ポリシー及びカリキュラム・ポリシーとも関係し合う教育を、「カリキュラム編成」や学生の「学修方法・学修過程」の在り方等に具体的に位置付けること。
 ● 多様な入学者のそれぞれが、自らの「学修計画」を立て、“学修の実践”に入っていくための「初年次教育」を具体化すること。
◆ アドミッション・ポリシー
 ● ディプロマ・ポリシー及びカリキュラム・ポリシーを踏まえるとともに、「学力の3要素」を念頭におき、「入学前にどのような多様な能力を、どのようにして身に付けてきた学生」を求めているか/「入学後にどのような能力を、どのようにして身に付けられる学生」を求めているかなどを、具体的に示すこと。
 ● 「入学者選抜」において、多様な入学希望者に対して、アドミッション・ポリシーに明示された様々な能力や入学者に求めている事柄の“水準を判定する”ために、「どのような“評価方法”を多角的に活用するのか」/「それぞれの“評価方法”をどの程度の比重で扱うのか」などを具体的に示すこと。

 

≪ 3.大学入学者選抜改革 ≫

 

■ 個別大学の入学者選抜改革 ■

< 多面的・総合的評価による入学者選抜 >

 

入学者選抜の現状と課題

 

 『中間まとめ』は、大学入学者選抜の現状と課題について、次のような点を指摘し、その改革に取り組む必要があるとしている。
◆ 知識の多寡、解法パターンの適用を問う設問
 現行の入学者選抜は、知識の暗記・再生や暗記した“解法パターン”の単なる適用の評価に偏りがちで、思考力等を問う問題でも、答えが一つか複数個に限られている設問が多く、多様な背景を持つ受検者の能力や経験を多面的・総合的に評価できていない。
 こうした入学者選抜の在り方が高校教育における「能動的学習」の推進を妨げている。
◆ “点数主義”の選抜方法
 主に知識の暗記量・再生力を評価するテストの“点数”を柱とする入学者選抜方法では、受検者が「学力の3要素」に対応する諸能力や経験をどの程度持っているか、当該大学のカリキュラム・ポリシーに沿った教育を受けディプロマ・ポリシーを体現する学生として卒業後の社会で良き人生を歩むことができる潜在力を持っているかの判定は困難である。
◆ AO・推薦入試への批判
  一部のAO入試や推薦入試では、“学力不問”と揶揄されるような状況も生じており、入学後の大学教育に支障を来すことになっている。

 

多面的・総合的評価への転換

 

 上述のような入学者選抜の現状と課題を踏まえ、今後、各大学の入学者選抜方法を、「学力の3要素」を多面的・総合的に評価するものへと転換することが必要であり、その出発点として、各大学の「アドミッション・ポリシー」を明確化するとともに、入学者選抜方法に具現化することが不可欠であるとしている。
◆ 求める能力・レベル、評価方法等の明示
 「アドミッション・ポリシー」に盛り込む内容については前述のとおりであるが、「学力の3要素」については、具体的に「どのような能力を、どのレベルで求めるのか」や、様々な評価方法のうち、「どのような評価方法を用いるのか」などをアドミッション・ポリシーで明示することを求めている。また、評価方法としては、次のようなものを例示している。

 

大学側:多様な入学者の選抜 / 入学希望者:志望大学の見極め

 

 各大学は入学者選抜の具体的な在り方をアドミッション・ポリシーに明示し、「学力の3要素」を多面的・総合的に評価する。これを通して、各大学はディプロマ・ポリシーやカリキュラム・ポリシーに合致するとみられる多様な入学者を選抜できるようにするとともに、入学希望者にとっては、入学者選抜を“人生の最終目的”に見立てるのではなく、“卒業後の自分の人生”を拓くに値する大学かどうかを見極める有意義な手段にできるようにすることが大事であるとしている。

 

「個別選抜」と「学力評価テスト」との連携

 

 「学力評価テスト」が「知識・技能」のみならず、「思考力・判断力・表現力」を評価することに鑑み、個別大学では、同テストを入学者選抜の“多面的・総合的評価”の一環として用いることによって「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」の評価を行い、他方で個別の入学者選抜において「主体性を持って、多様な人々と協働して学ぶ態度」を多面的・総合的に評価する方法が考えられるとしている。

 

< 「学力の評価」が十分に行われていない入学者選抜の改善 >

 

「調査書」の活用:指定教科・科目の単位修得、評定、活動歴、資格・検定試験等

 

 一部のAO・推薦入試にみる、“「学力の評価」が十分に行われていない大学”では、入学者選抜をどのような方策により改善するかが重要な課題であるとしている。
 入学者選抜で求められるのは、「学力の3要素」を評価するためのアドミッション・ポリシーをディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーと連動させて明確化し、多面的・総合的な選抜を確実に実施し、各大学で学ぶ力を備えていると判断される者を受け入れることである。その方策として、小論文・口頭試問・プレゼンテーション等の多様な学力把握方法や「学力評価テスト」の活用のほか、「調査書」の有効活用が重要であるとしている。
 「調査書」の具体的な活用例としては、各大学が重要と判断する教科・科目を指定し、高校での「単位修得」や一定水準以上の「評定」の獲得を出願要件としたり、合否判定に用いたりするほか、特定の「活動歴」や「資格・検定試験」の成績等を合否判定で重視することなどを、アドミッション・ポリシーに明示することなどが考えられるとしている。

 

入学前準備教育、厳格な進級・卒業認定

 

 大学入学予定者に対し、高校とも連携して、入学までの間に学んでおくべき内容や読むべき書物などの取り組むべき課題を提示し、継続的に学力向上を支援すること(入学前準備教育)などで、入学後の大学教育活動に円滑につなげていくことも重要であるとしている。
 大学入学後は、多様な入学者に沿った柔軟なカリキュラムの充実を図り、厳格な成績評価で進級・卒業認定を行い、入学者をしっかりと教育して社会に送り出すことを求めている。

 

< 個別大学の入学者選抜を支える体制整備 >

 

 各大学の多面的・総合的評価による入学者選抜の推進には、その実施体制の充実・強化が不可欠で、アドミッション・オフィスの整備・強化やアドミッション・オフィサーなど専門人材の職務の確立などが急務であるという。また、各大学の多面的・総合的評価による入学者選抜の推進に資する先導的な選抜手法や評価方法等の開発、普及も求めている。
 国は大学の協力も得て、こうした先導的な入学者選抜方法の開発に取り組み、財政支援により個別大学の入学者選抜改革を促し、高大接続システム改革を推進すべきであるという。

 

< 入学者選抜実施の “新たなルール” の構築 >

 

複雑・多様な選抜形態

 

 大学入学者選抜は、“多様な挑戦の機会”が与えられることが望ましい一方で、その“早期化や複雑化”は、高校教育に“マイナスの影響”も与えることが懸念されるとしている。
 文科省が入学者選抜実施のガイドラインとして各大学に毎年度示している『大学入学者選抜実施要項』では、「一般入試、AO入試、推薦入試」等の“入試区分”に応じて選抜の時期を示している。しかし、例えば、8月1日以降実施としているAO入試が、8月より前に実質的に開始されている例もあるとの指摘が高校関係者からなされているという。
 また、個別大学の入学者選抜の実態が極めて多様化して、一般入試、推薦入試、AO入試といった区分では、明確に割り切れないケースも散見されているという。

 

一般・推薦・AO入試の“区分廃止”:「面接」「調査書」等、評価方法ごとの日程設定

 

 中教審の『高大接続・大学入試改革答申』は、大学入学者選抜を多面的・総合的評価による選抜へと転換するため、上記の『大学入学者選抜実施要項』を抜本的に見直し、「一般入試、推薦入試、AO入試」の各区分を“廃止”し、入学者選抜全体に共通する“新たなルール”を構築することを提言している。
 大学入学者選抜で「学力の3要素」を確実に評価することになれば、従来の「一般入試、推薦入試、AO入試」という区分の意味合いは相対化することから、こうした区分に代わる新たなルールについては、例えば、「個別面接」や校長の「推薦書」など、各大学が選抜で用いる具体的な「評価方法」ごとに“日程等を設定”することなどが考えられるという。

 

■ 「学力評価テスト」 の導入 ■

< 「学力評価テスト」 導入の背景 >

 

『高大接続・大学入試改革答申』は、新しい大学入学者選抜に資する方策の一環として、 「学力評価テスト」の創設を提言した。
 前述した入学者選抜における評価方法でも、個別大学の入学者選抜では、各大学の“三つのポリシー”に基づき、「知識・技能」のみならず、「思考力・判断力・表現力」、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を多面的・総合的に評価することが必要で、その方策の一つとして、「学力評価テスト」の積極的な活用が重要になるとしている。

 

< 「学力評価テスト」 の基本的な考え方 >

 

目的・対象者:大学入学希望者の「思考力・判断力・表現力」中心に評価

 

 「学力評価テスト」は、大学入学希望者を対象に、大学教育を受けるために必要な能力について把握することを主な目的とし、十分な「知識・技能」が習得されていることを前提に、「思考力・判断力・表現力」を中心に評価するとしている。
 これにより、大学入学に向けた学びを、知識や解法パターンの単なる暗記・適用などの“受動的なもの”から、学んだ知識や技能を統合して問題の発見・解決に取り組む、より“能動的なもの”へと改革し、大学教育ではこうした学びを一層発展させるとしている。

 

「思考力・判断力・表現力」の構成能力の明確化と作問の在り方

 

 「学力評価テスト」の目的を達成するため、次のような制度設計上の在り方を示している。
 ➀ 大学入学段階で求められる「思考力・判断力・表現力」を構成する、より具体的な能力概念の枠組みについて、専門家の知見も参考にして整理するとともに、
 ➁ それらの能力のうち、特に「自ら問題を発見し、答えが一つに定まらない問題に解を見出していく」ために必要な諸能力を重視し、
 ➂ それらの“諸能力を評価する作問”を、各教科・科目について行うこと
が必要であるとしている。
◆ “能動的学び”を促進する作問
 上記のような事項を検討する際、内容に関する十分な知識と本質的な理解に加え、
例えば、〇 提示された状況の中から問題を発見・定義すること/〇 必要な情報を収集して解決のための構想を立てること/〇 計画を実行し、結果を振り返って次の問題発見・解決に役立てることなど、大学入学希望者が日頃から主体的に活動し、能動的に学ぶことを促進するような問題作りが必要であるとしている。

 

< 具体的な制度設計の考え方 >

 

学習指導要領への対応

 

 中教審の「次期学習指導要領」に向けた審議を踏まえ、高3生が「次期学習指導要領」の下で学んで受検することが想定される“36年度及びそれ以降”、また「高大接続改革実行プラン」で「学力評価テスト」導入が示されている“32年度~35年度”までの「現行学習指導要領」対応の実施期間のそれぞれの期間について、以下の点を検討し、具体化に取り組むとしている。(図1参照)

 

対象教科・科目等

 

➀ 「次期学習指導要領」対応の基本的枠組み(36年度~):新科目「数理探究(仮称)」等、出題
 「次期学習指導要領」の趣旨を十分に踏まえ、大学入学者選抜の“共通テスト”として、特に「思考力・判断力・表現力」を構成する諸能力を、より適切に評価できるものにするとしている。出題教科の科目設定等に関しては、次のように示している。
● 地理歴史、公民:「次期学習指導要領」の科目設定等を踏まえ、「知識・技能」に関する判定機能に加え、例えば、歴史系科目では、“歴史的思考力”(*.参照)等を含め、「思考力・判断力・表現力」を構成する諸能力の判定機能を強化する。

● 数学・理科の総合科目:「次期学習指導要領」での導入が検討されている、「数学と理科の知識や技能を総合的に活用して主体的な探究活動を行う新たな選択科目」(「数理探究(仮称)」)に対応する科目を実施する。
● 数学、理科:「知識・技能」に関する判定機能に加え、「思考力・判断力・表現力」を構成する諸能力に関する判定機能を強化する。
● 国語:「次期学習指導要領」における科目設定等を踏まえ、「知識・技能」に関する判定機能に加え、例えば、「言語を手掛かりとしながら、限られた情報のもとで物事を道筋立てて考え、的確に判断し、相手を想定して表現する」など、「思考力・判断力・表現力」を構成する諸能力に関する判定機能を強化する。
● 英語:「書くこと」(ライティング)や「話すこと」(スピーキング)を含む4技能について、例えば、「情報を的確に理解し、語彙や文法の遣い方を適切に判断し活用しながら、自分の意見や考えを相手に適切に伝える」ための、「思考力・判断力・表現力」を構成する諸能力を評価する。また、民間との連携の在り方を検討する。
● 情報:「次期学習指導要領」における教科「情報」に関する中教審の検討と連動しながら、対応する科目を実施する。
 「現行学習指導要領」対応の基本的枠組み(32年度~35年度):科目数の“簡素化”
 現在、中教審で行われている「次期学習指導要領」に係る改訂の議論の方向性を勘案しつつ、「思考力・判断力・表現力」を構成する諸能力を、より適切に評価できるものにするとしている。各教科・科目の出題内容については、次のような方向を示している。
 ● 地理歴史、公民:「知識・技能」に関する判定機能に加え、例えば、“歴史系科目”では、「歴史的思考力」等に関する判定機能を強化する。
その際、「単なる暗記などによる個別具体的な知識の量や細かな知識の有無」により判定することがないよう、“出題の仕方を工夫”する。
 ● 数学、理科:「知識・技能」に関する判定機能に加え、「思考力・判断力 ・表現力」を構成する諸能力に関する判定機能を強化する。
 ● 国語:「知識・技能」に関する判定機能に加え、「思考力・判断力・表現力」を構成する諸能力に関する判定機能を強化する。
 ● 英語:「書くこと」(ライティング)や「話すこと」(スピーキング)を含む4技能を重視して評価する。
 ● 科目数の簡素化:試験の科目数については、「思考力・判断力・表現力」を構成する諸能力を中心に評価する作問体制への転換が必要であることや、受検者数の状況等も勘案しつつ、できるだけ“簡素化”するとしている。

 

出題・解答・成績提供方式

 

◆ 多様な出題・解答方式の導入
 「思考力・判断力・表現力」を構成する諸能力を、より適切に評価するため、「多肢選択式問題」に加え、「問題に取り組むプロセスにも解答者の判断を要する部分が含まれる問題」/「記述式問題」などを導入するとしている。
 ● 多肢選択式問題:〇 各教科・科目の特性を踏まえながら、分野の異なる複数の文章の深い内容を比較検討することを要する問題/〇 多数の正解があり得る問題/〇 選択式でありながら複数の段階にわたる判断を要する問題/〇 他の教科・科目や社会との関わりを意識した内容を取り入れた問題などを導入するとしている。
 ● 「連動型複数選択問題(仮称)」:“選択式”で、より深い思考力等を問う問題の例としては、例えば、複数の文章などを読み、そこで語られている考え方や取り組み方の“共通パターン”を分析し、“お互いに連動する複数の選択肢群”からそれぞれ選択肢を選び、その組合せに応じて“複数の解答が成立する”「連動型複数選択問題(仮称)」などの導入を考慮して検討を進めるとしている。
 ● 記述式問題:従来から採点等に課題があることを踏まえ、各教科・科目の特性も念頭に置きつつ、32年度~35年度までの「現行学習指導要領」対応では“短文記述式”の問題の導入、36年度以降の「次期学習指導要領」対応では、“より文字数の多い記述式”の問題を導入するとしている。
 ● 「記述式問題」導入の作問・採点体制:記述式問題の導入には、作問体制や採点体制の整備・充実の検討が必要で、例えば、採点について次のような検討項目を挙げている。

 

◆ CBTの導入
 ● 有効性:「思考力・判断力・表現力」を構成する諸能力をテストによって評価するには、CBTの導入が有効であると考えられるとしている。
 例えば、〇 複雑な文章の構成力を問う問題や統計的方法を用いて複雑な現象を表現する問題の導入/〇 多様な表現形態による様々な資料や動画を活用した出題内容の拡大/〇 テキスト入力を利用した記述式問題の導入/〇 音声入力を利用したスピーキングの評価/〇 正解のない判断を相当回数伴う問題の導入/〇 同一テスト時間内において問題の正答率に応じてそれ以降の問題の難易度を変えたりすることのできる「適応型テスト」への拡張など、多くの展開が想定できるという。
 ● 十分な準備体制:CBTについては、〇 実施のための環境整備に時間を要すること/〇 入学者選抜に係る大規模なテストにおける実施事例がないことなどに鑑み、導入には十分な準備が必要であるとしている。
 ● 「次期学習指導要領」対応から“本格実施”/「現行学習指導要領」対応は“試行実施”
 36年度から始まると想定される「次期学習指導要領」対応のテストからCBTを実施することとし、「現行学習指導要領」対応の32~35年度間は、CBTの“試行”に取り組むという。試行では、特に、「基礎学力テスト」の検討状況や実績等を踏まえつつ、端末の整備、システムの安定性・セキュリティの確保、機器導入・維持管理のコスト、その他の本格的実施に当たって前提となる課題について、専門家等の意見も聴きつつ、十分な検討を行う必要があるとしている。
◆ 難易度の設定
 ● 広範囲の難易度で高い選抜性にも対応
 「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」について、広範囲にわたる受検者が受検する可能性があるため、問題の難易度をできるだけ広範囲に設定するとしている。
 また、選抜性の高い大学が入学者選抜の評価の一部として十分活用できるよう、“高難度”の問題を選択できるようにするという。
 さらに、「次期学習指導要領」での導入が中教審で検討されている「数理探究(仮称)」等を念頭に置き、36年度以降、当該教科・科目に対応した高難度の出題を行うことについても検討するとしている。
 ◆ 結果の表示等
 ● 「多段階」表示:テスト結果の表示については、個別大学の入学者選抜における“多面的・総合的な評価”を促進する観点から、大学や大学入学希望者に対し、結果を“多段階”による表示で提供することや、種々の具体的なデータ、例えば、「パーセンタイル値」に基づき算出されたデータ、標準化得点、出題分野ごとの正答数や誤答数などを大学に提供することなどについて、今後、より専門的に検討するとしている。

 

実施方法

 

◆ 実施回数、実施時期等
 ● 年複数回実施の提言:中教審の『高大接続・大学入試改革答申』は、大学入学希望者に挑戦の機会を与え、資格試験的利用を促進する観点から、「学力評価テスト」の“年複数回実施”を提言している。
 ● IRT等による方策検討:年複数回実施を導入するには、統計的な処理を行うことで複数の問題間の難易度を平準化するため、IRT等に基づく仕組みを導入することが必要だという。IRTを導入する場合は、「基礎学力テスト」で前述したように、問題の非公開を前提に、全ての問題について予備調査を行ったり、多数の問題を蓄積したりすることなどが必要になる。
 他方、年複数回実施のための方策としては、IRTのほかに、複数回の試験結果を「等化」する方法も考えられるという。この場合には、IRT実施に必要となる大量の問題の蓄積は必要ないが、受検者の解答に応じて出題を変え、より幅広い能力を評価する「適応型テスト」への拡張等は困難になるという。
 ● 関係者・専門家による十分な検討:年複数回実施の場合には、テストの実施時期と高校教育の日程関係等について十分な検討が必要であり、さらに、テストの実施場所を大学とする場合には、大学側の負担についても考慮する必要があるという。
 これらを踏まえ、年複数回実施の方法や日程等については、作問や採点に関する課題を含め、高校・大学関係者、専門家等の意見も聴きつつ、十分な検討を行うとしている。

 

英語における民間の知見の活用

 

◆ 資格・検定試験活用促進の連絡協議会
 「学力評価テスト」における英語の出題については、中教審『高大接続・大学入試改革答申』で、4技能を総合的に評価できる問題の出題や“民間の資格・検定試験の活用”により、英語の能力をバランスよく評価することとされている。
 この中教審『答申』を受け、26年12月、文科省に設置された「英語力評価及び入学者選抜における英語の資格・検定試験の活用促進に関する連絡協議会」(以下、連絡協議会)では、「学力評価テスト」独自の問題作成を行うべきか、民間の資格・検定試験に全面的に委ねるべきかを考えるに当たって検討すべき点として、〇 4技能を踏まえた作問の質が適切に確保できるかどうかに加えて、〇 日本人の英語力の現状を踏まえたテスト開発の在り方/〇 受検料負担など経済格差、地域による受検機会の相違等による機会の不均等の解消/〇 各試験間の得点換算・対照表の作成及び活用等の検証の在り方、などが議論された。
 また、連絡協議会では、民間の資格・ 検定試験団体の知見を生かしつつ、国と協働で開発・実施することなど、様々な意見が報告された。
◆ “4技能重視”の観点から、資格・検定試験との連携を検討
 連絡協議会の議論を踏まえ、4技能を重視する観点から、民間の資格・検定試験の知見を積極的に活用するなどの具体的な連携の在り方について、「基礎学力テスト」に関する検討状況や民間事業者も含めた関係者の意見なども踏まえつつ、さらに検討するとしている。
 検討に当たっては、「次期学習指導要領」及び「現行学習指導要領」との関係、必要な水準の確保等のほか、例えば、以下のような点にも留意する必要があるとしている。

 

今後の検討の進め方

 

『中間まとめ』は、「システム改革会議」の27年2月の設置から8月までの約半年間にわたる検討状況等を中間的に整理したものである。当会議の検討事項の一つである「多様な学習活動や学習成果を適切に評価する」具体的な方策等は、今後、当検討グループを中心に「指導要録」や「調査書」の改善等の在り方などについて検討する。当会議は、27年内を目途に『最終報告』を提出することを目指し、さらに具体的な検討を進めるとしている。

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