今月の視点 2013.11

25年「司法試験」:合格者数やや減の2,049人、合格率2年連続アップの26.8% !

法科大学院修了者の合格率25.8%、予備試験組71.9%。 政府・閣僚会議、法科大学院の法的措置等、2年以内に結論!

2013(平成25)年度

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 法科大学院は法曹養成の中核を担い、法曹の量的拡大と質的充実を図るため16(2004)年度に創設された。法科大学院修了者による司法試験は18年から実施されているが、当初目標の合格者数年間3,000人、合格率7~8割とはほど遠い状況が続いている。
 25年司法試験合格者数は前年より2.5%減の2,049人、合格率は2年連続アップの26.8%。合格者の内訳は、法科大学院修了者が5.6%減の1,929人、予備試験組が前年の2倍以上の120人。合格率は前者25.8%、後者71.9%で、ともにアップしたが、両者の差はやや拡大した。
 政府の法曹養成制度関係閣僚会議は25年7月、深刻な課題を抱え、改善の見込みがない法科大学院への法的措置などの結論を2年以内に得るとしている。

 

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< 司法試験の動向 >

 

 新制度となった18年以降の司法試験のこれまでの受験・合格状況をみると、18年~23年までは受験者数の増加、合格者数の停滞状態と合格率の低下が目立つ。そうした傾向の下、24年は受験者数の減少、合格者数の増加、合格率の上昇といった好転換がみられた。
 25年は受験者数の2年連続の減少に加え、合格者数もやや減少したが、合格率は2年連続のアップとなった。(図1、表1・表2・表3参照)

 

受験状況

 

 司法試験の受験者数は、既修者コースのみの受験となった18年(第1回)は2,091人であったが、未修者コースも加わった19年には18年の2.2倍に当たる4,607人となり、以降、年々増加して23年には8,765人に達していた。
 しかし、24年は初参加の「司法試験予備試験」(以下、予備試験。後述)合格者の85人の受験を含め、前年を初めて378人(4.3%)下回る8,387人だった。
 25年は予備試験組の受験者が前年より82人(96.5%)増の167人に増加したが、全体では前年より734人(8.8%)減の7,653人だった。
 ところで、法科大学院修了者の受験者数は、前年より816人(9.8%)減の7,486人で、2年連続の減少。これは、21年度以降の法科大学院修了者数の減少や、司法試験の受験は「法科大学院修了後、5年期間内に3回まで」という“受験制限”などの影響とみられる。
 なお、25年の法科大学院修了者の受験者7,486人のうち、既修者コースは3,152人(占有率42.1%)で、未修者コースが既修者コースの1.4倍に当たる4,334人(同57.9%)である。

 

合格状況

 

● 合格者数
 司法試験の合格者数は18年の1,009人から20年の2,065人まで増加したが、21年は前年より22人減の2,043人に減少。22年はやや増加して2,074人であったが、23年は再び前年より11人減の2,063人。24年は予備試験組の合格者58人を含め、前年より39人(1.9%)増加の2,102人となった。
 25年は予備試験組の合格者数が前年より62人(106.9%)増の120人に倍増したが、法科大学院修了者の合格者数が前年より115人(5.6%)減の1,929人で、全体の合格者数は前年より53人(2.5%)減少の2,049人だった。法科大学院74校(廃止、募集停止校の受験者含む)のうち、合格者ゼロが3校(24年は1校)、1桁台が35校(24年は37校)だった。
 なお、法科大学院修了者の合格者1,929人のうち、既修者コースが1,209人(占有率62.7%)、未修者コースが720人(同37.3%)である。

● 合格率
 司法試験の合格率は、23年までの受験者増と合格者数の停滞状態を反映して、18年(第1回。既修者コースのみ)の48.3%を最高に年々低下。23年は23.5%まで低下して、新制度となった司法試験では過去最低を更新した。
 24年は受験者数が減少したことに加え、難関をパスした予備試験組の新規参加などから、合格率は23年より1.5ポイント上昇の25.1%となり、19年以降5年連続の下降から初めて脱した。
 25年も受験者数減少の下、予備試験組の高い合格率(前年より3.6ポイント上昇の71.9%)と法科大学院修了者の合格率アップ(前年より1.2ポイント上昇の25.8%)で、全体の合格率は前年より1.7ポイント上昇の26.8%で、2年連続の上昇となった。
 なお、25年の既修者コースの合格率は前年より2.1ポイント上昇の38.4%、未修者コースの合格率は0.6ポイント下降の16.6%で、未修者コースの合格率は既修者コースの半分以下である。

 

◆ 各法科大学院の合格実績
 各法科大学院における18年~25年までの司法試験合格実績をみてみよう。
 当期間における全法科大学院の累積合格者数は、1万5,078人である。各法科大学院の合格者数では、東京大1,516人(平均合格率54.3%)/中央大1,386人(同44.9%)/慶應義塾大1,319人(同54.0%)/京都大1,055人(同53.1%)/早稲田大988人(同36.0%)/明治大625人(同26.8%)/一橋大561人(同59.3%)の7校が累積合格者数500人以上である。
 一方、国立1校、私立3校が累積合格者数10人台で、私立1校は3人(同1.9%)に留まる。
 この間の各法科大学院の平均合格率は、一橋大59.3%/東京大54.3%/慶應義塾大54.0%/京都大53.1%の4校が50%以上で、全法科大学院の平均合格率28.4%の“半分”に達していないのは29校に上る。そのうち17校が合格率1桁台で、最低は1.9%である。合格者数、合格率とも法科大学院間の格差が目立つ。(表1・表2・表3参照)

 

 

受験資格の“喪失”

 

 司法試験の「受験資格」は、法科大学院修了者及び予備試験合格者とされているが、受験に際しては“期間”及び“回数”に関しての制限がある。
 法科大学院修了者及び予備試験合格者は、それぞれ「課程修了日後あるいは合格発表日後の最初の4月1日から5年間の期間において、3回の範囲内」で受験することができる。
 ただし、当該受験資格に基づく“5年間の受験期間”を経過し、かつ、最後に司法試験を受験した日後の“2年”を経過しなければ、当該受験資格とは別の受験資格で司法試験を受験することはできない。
 司法試験にこうした“受験制限”(所謂“三振制度”)を設けたことは、不合格者への早期の転進(法曹以外の法学関連分野等)を促し、受験生の停滞(司法試験浪人の累積)を回避することや、法科大学院等での教育・学習効果が時間の経過とともに薄らいでいくことなどを勘案したためとみられる。
 ● 受験回数制限の緩和
 司法試験の受験回数制限については、「5年以内5回まで」とする緩和措置の検討が25年7月に決まり(法曹養成制度関係閣僚会議)、1年以内に結論を得るとされている(後述)。

 

法科大学院修了者の5割以上が司法試験の“受験資格喪失”

 

 上記のような受験制限内に司法試験の合格を果たせず、“受験資格喪失”となった法科大学院修了者は、これまでの司法試験において、17年度修了者(既修者コースのみ)の約3割を除き、修了者の5割以上に及ぶ。受験資格喪失者の多くは所謂“三振者”(5年期間内に3回受験して全て不合格)であるが、受験機会の放棄者、物故者等も含まれる。また、未修者コースの喪失率は既修者コースの喪失率より大幅に高く、法学未修者(法学部出身の“隠れ既修者”も含む)が標準修業年限3年の教育カリキュラムで司法試験に合格することの難しさを示している。

 

“受験制限”を経過した各年度修了者の司法試験合格状況

 

 法科大学院修了者による司法試験は、これまで8回(18年~25年)実施されており、17年度~20年度の各修了者が「5年期間内に3回受験」の受験制限を経過している。
 受験制限を経過した当該年度修了者の司法試験合格状況の概要は、次のとおりである。
① 17年度修了者(18年~22年司法試験受験可能)
  ・実入学者数(16年度「既修者コース」のみ)=2,350人 → 17年度修了者数(「既修者コース」のみ)=2,176人  → 合格者数(18年~22年)=1,518人 → 合格率=69.8%
  ・受験資格喪失者数=658人 → 受験資格喪失率=30.2%
② 18年度修了者(19年~23年司法試験受験可能)
  ・実入学者数(16年度「未修者コース」+17年度「既修者コース」)=5,480人 → 18年度修了者数=4,418人  → 合格者数(19年~23年)=2,188人 → 合格率=49.5%
  ・受験資格喪失者数=2,230人 → 受験資格喪失率=50.5%
③ 19年度修了者(20年~24年司法試験受験可能)
  ・実入学者数(17年度「未修者コース」+18年度「既修者コース」)=5,660人 → 19年度修了者数=4,911人  → 合格者数(20年~24年)=2,273人 → 合格率=46.3%
  ・受験資格喪失者数=2,638人 → 受験資格喪失率=53.7%
④ 20年度修了者(21年~25年司法試験受験可能)
  ・実入学者数(18年度「未修者コース」+19年度「既修者コース」)=5,774人 → 20年度修了者数=4,994人  → 合格者数(21年~25年)=2,355人 → 合格率=47.2%
  ・受験資格喪失者数=2,639人 → 受験資格喪失率=52.8%

 

< 予備試験の実施 >

 

法科大学院を経由しない、“超難関の例外的ルート”

 

 18年~23年まで新司法試験と併行実施されていた旧司法試験の廃止を受け、司法試験受験の資格が得られる「司法試験予備試験」(予備試験)が23年から実施されている。
 予備試験は、経済的事情や既に実社会で十分な法律に関する実務を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格を取得する途を開くために設けられた、いわば法科大学院の“例外的ルート”に当たる。
 予備試験は、法科大学院課程修了と同等の学識や応用能力、法律に関する実務の基礎的な素養などを判定する試験である。予備試験合格者は、法科大学院修了者と同等の資格で司法試験を受験することができ、受験制限も前述のように同様に適用される。また、予備試験の合格率は低く、旧司法試験の合格率(17年までの単独実施時の合格率は2~3%台)並みの“超難関”試験といえる。(図2・図3参照)
◆ 予備試験の実施状況
23年から実施されている予備試験の実施状況は、次のとおりである。(図2参照)
● 23年実施
 出願者数=8,971人 → 受験者数=6,477人(最初の短答式試験)  → 合格者数=116人(最終の口述試験)  → 合格率=1.8%
● 24年実施
 出願者数=9,118人 → 受験者数=7,183人(最初の短答式試験)  → 合格者数=219人(最終の口述試験)  → 合格率=3.0%
● 25年実施
 出願者数=1万1,255人 → 受験者数=9,224人(最初の短答式試験)
 * 最終合格発表は25年11月7日予定

 

「司法試験」合格率:予備試験組=71.9% VS.法科大学院修了者=25.8%

 

 上記のような超難関の予備試験をパスした“「予備試験」合格者”(23・24年合格者)のうち、25年「司法試験」の出願者は184人、受験者は167人(23年予備試験合格者数38人、同24年合格者数129人)、合格者は120人で、「予備試験」合格者=“予備試験組”の25年「司法試験」合格率は前年を3.6ポイント上回る71.9%だった。
 一方、法科大学院修了者(20年度~24年度修了者)の25年「司法試験」合格率は25.8%で、予備試験組の3分の1程度に留まる。
 因みに、予備試験組の合格率71.9%は、法科大学院中トップの合格率である慶應義塾大(合格率56.8%)を15ポイントほど上回っている。

 

「司法試験」合格率72%の予備試験組の33%が大学生、28%が法科大学院生

 

 予備試験組の合格者120人の「職種」をみると、大学生が40人(予備試験組の合格者の33.3%)で最も多く、次いで法科大学院生34人(同28.3%)、無職16人(同13.3%)などである。「最終学歴」では大学が68人(同56.7%)で5割以上を占め、そのうち、6割が在学中である。(図3参照)
 合格者の「年齢別」では、20~24歳が53.3%、30~39歳が31.7%を占めている。
 また、「男女別」では男性108人(同90.0%)、女性12人(同10.0%)である。

 

懸念される法科大学院の“空洞化” ~「予備試験」制度の見直し検討 ~

 

 上記のような予備試験組の司法試験合格者の実態を踏まえ、予備試験が前述のような本来の趣旨に沿った試験制度となっているかどうか検証・分析し、制度の見直しを求める意見もある。
 また、予備試験の合格レベルが法科大学院課程修了レベルと同等であるとするならば、法科大学院修了者と予備試験組の司法試験の合格率は、同程度になるはずである。法科大学院の成績評価・修了認定の基準が低く、厳格さに欠けるのか、あるいは予備試験の合格要件が高すぎるのかといった両者の質保証に関する課題もある。
 今後、学費と時間を節約できる“バイパスルート”として予備試験組が一層拡大・定着すれば、法科大学院の“空洞化”も懸念される。
● 予備試験の在り方検討、2年以内に結論
 上述のような予備試験組と法科大学院修了者の司法試験の実態を踏まえ、政府の法曹養成制度関係閣僚会議は25年7月、「予備試験」の在り方及び法科大学院の「共通到達度確認試験(仮称)」導入の検討を決め、2年以内に結論を得るとしている(後述)。

 

 

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< 法科大学院の改善方策 >

 

法科大学院修了者数:8年間で3.3万人 / 司法試験合格者数1.5万人、合格率28.4%

 

 法科大学院は16年度の創設以降、25年度で10年目を迎え、17年度~24年度の“累積修了者数”は3万3,220人にのぼる。その間の司法試験(18年~25年受験可能)の“累積受験者数”は5万3,067人、“累積合格者数”は1万5,078人で、平均合格率は28.4%になる。(表1・表2参照)
 この間の法科大学院修了者の司法試験受験と試験結果を概観すると、前述したように、23年まで受験者数の累増と合格者数の頭打ちで、合格率の低下傾向がみられた。24年からは、受験者数の減少と合格率の上昇がみられる。
 なお、17年度~20年度修了者は前述したように司法試験の“受験制限”を既に経過しているが、21年度~24年度修了者は受験機会を残しており、今後、当該修了者による司法試験合格者数の増加、平均合格率の更なる上昇もあり得る。

 

法科特別委の改善提言

 

 法科大学院修了者については、従来の旧司法試験にみられた“点”のみによる選抜ではなく、「法学教育-司法試験-司法修習」といった“プロセス”としての法曹養成制度の理念が実現しつつあるとの評価もある。
 しかし、その一方では一部の法科大学院を除き、入学者選抜の低調、司法試験結果の低迷、教育課程実施状況の問題点等が顕在化している。
中教審の法科大学院特別委員会(以下、法科特別委)では法科大学院の実態を踏まえ、これまでに次のような法科大学院の改善方策を提言している。
◆ 『21年改善方策』
 法科特別委は21年4月、『法科大学院教育の質の向上のための改善方策について』(以下、『21年改善方策』)で、入学者の質と多様性の確保等について次のような提言を示した。
 ① 入学定員の見直しなどにより、入学者選抜における競争的な環境(競争倍率2倍以上)を確保。
 ② 適性試験の改善と総受験者の下位から15%程度の人数を目安とした統一入学最低基準の設定。
 ③ 法学既修者認定の統一的運用による厳格化。
 ④ 夜間コースや長期履修コースの拡充等による社会人のアクセスしやすい環境整備。
 各法科大学院ではこうした提言等に基づき、これまでに入学定員の見直し(募集人員削減)や教育課程改善等に向けた取組を進め、例えば次のような成果をあげている。
● 入学定員の適正化:「入学定員数」…16年度(創設時)=5,590人 → 17年度~19年度(この間ピーク時)=5,825人 → 20・21年度=5,700人台 → 22・23年度=4,000人台後半 → 24年度=4,484人 → 25年度=4,261人(ピーク時の26.8%減)
● 選抜機能の確保 ~競争倍率“2倍未満”の法科大学院の減少~ :「競争倍率2倍未満の法科大学院数」…21年度=42校(全校数の56.8%)  →  22年度=40校(同54.1%) → 23年度=19校(同26.0%)  → 24年度=13校(同17.8%)  →  25年度=7校(同10.1%。21年度より46.7ポイント減)
● 入学者の質の確保 ~入学者数の縮減~ :「実入学者数」…16年度~20年度=5,000人台(ピークは18年度5,784人) → 21・22年度=4,000人台 → 23年度=3,620人 → 24年度=3,150人 → 25年度=2,698人(ピーク時の53.4%減) 法科特別委では、上記のような改善取組等を評価する一方、全体としてみると、司法試験の合格率は若干の上昇傾向にあるものの、合格者数の低迷、弁護士など法曹有資格者の就職難などから、法科大学院への志願者減の傾向が続き、一部の法科大学院では十分な成果があげられず、法科大学院の入学者選抜状況や司法試験の合格状況などで、法科大学院間の格差が拡大しつつあると分析している。
 また、法科大学院は多様なバックグラウンドを持つ入学者の法曹養成を理念の一つとして創設されているが、現状では社会人や非法学部出身者の入学者は減少傾向にあり、司法試験合格率でも法学既修者と法学未修者との差が大きく、拡大の方向にあると指摘している。
◆ 『24年改善方策』
 法科特別委は『21年改善方策』提言以降の法科大学院の実態と課題を踏まえ、法科大学院制度全体を早期に安定させるため、更なる改善策が必要であると指摘した。そして24年7月、『法科大学院教育の更なる充実に向けた改善方策について』(以下、『24年改善方策』)を改めてまとめた。
 『24年改善方策』では、次のような4つの観点から提言した。
① 法科大学院教育の成果の積極的な発信
● 法科大学院修了者が高度の法的素養を備えた人材として、広く社会で活躍できるよう支援するため、その進路状況のより正確な把握、就職支援の充実方策の検討・実施、等
② 課題を抱える法科大学院を中心に入学定員の適正化、教育体制の見直し等の取組の加速
● 入学者選抜の競争倍率と司法試験合格率に加えて、入学定員の充足状況を新たな指標とすることを含む、公的支援の更なる見直し、等
③ 法学未修者教育の充実
● 法学未修者教育充実のための新たなワーキング・グループを設置し、改善方策について集中的に検討、等
④ 法科大学院教育の質の改善等の促進
● 適性試験の検証など、入学者選抜の改善実施、等 
 法科特別委は上掲の提言に際し、各法科大学院に対しては教育の質の更なる向上に向けた改善方策に速やかに取り組むことを、文科省に対しては当提言を踏まえた実効性のある施策を迅速かつ計画的に立案し実行に移すことを、それぞれ強く求めた。

 

文科省の「法科大学院教育改善プラン」

 

 文科省は中教審法科特別委の『24年改善方策』提言を踏まえ、「法科大学院教育改善プラン」(24年7月。以下、「改善プラン」)を策定した。
 「改善プラン」では、法曹資格者への支援体制の整備、司法試験合格率(23年合格率の実績23.5%)の大幅な上昇を目指す成果目標の設定、課題を抱える法科大学院に対する公的支援の更なる見直しや組織改革の加速、法学未修者教育の充実、入学者選抜の改善などについての具体的な改善方策を明確にし、その実現に向けて迅速かつ着実に取り組むとした。

 

< 公的支援の見直し >

 

法科大学院の組織見直し促進のため、不振・低迷校の交付金・補助金の減額措置

 

 中教審の法科特別委は22年3月、前述した『21年改善方策』にもかかわらず、深刻な課題を抱えながら改善が進んでいない法科大学院について、文科省に対し財政的支援の見直しや人的支援の中止などの措置を早急に検討すべきであるとする『法科大学院における組織見直しの促進方策について』を提言した。
 この提言は、法科大学院の再編等(統廃合含む)も視野に、各校の自主的・自律的な組織の見直しを促進する狙いがある。
◆ 第1の見直し(22年9月)
文科省は法科特別委の提言を受けて22年9月、次のような「公的支援の見直し」を決定した。
 具体的には、[指標1] =「前年度の入学者選抜の競争倍率が2倍未満」/ [指標2] =「①司法試験合格率が全国平均の半分未満、②司法試験直前の直近修了者のうち司法試験受験者数が半数未満で、その合格率も全国平均の半数未満。①、②のいずれかが3年以上継続」といった“2つの観点”(競争倍率と司法試験合格率)を指標として、両方の指標に当てはまる法科大学院の補助金(私立大)と交付金(国立大)の減額措置を講じるとしている。
● 補助金等の減額対象校:24年度6校、25年度4校
 上記の2つの指標に該当する法科大学院は、24年度から補助金等が減額された。
  ・24年度対象校:大宮法科大学院大/大東文化大/東海大/明治学院大/関東学院大/桐蔭横浜大の私立6校。私立大学等経常費補助金が減額された。
  ・25年度対象校:国立の島根大(運営費交付金の減額)のほか、愛知学院大/大東文化大/東海大の私立3校の合計4校。

 

更なる公的支援見直しの背景

 

 各法科大学院は、中教審の『21年改善方策』提言や文科省の「公的支援の見直し」施策(第1の見直し:22年9月)などを踏まえて、前述したような入学定員の適正化、選抜機能の確保、入学者の質の確保などの改善を図り、一定の評価も得ている。
 他方、深刻な課題を抱える法科大学院では、入学定員に占める実入学者の割合、すなわち「入学定員充足率」(実入学者数÷入学定員)の低さと、その拡大が課題となっている。
 21年度~25年度までの「入学定員充足率」等は、次のような傾向を示している。
● 全体の「入学定員充足率」の低下傾向:21年度=84.0% → 22年度=84.0% → 23年度=79.2% → 24年度=70.2% → 25年度=63.3%
● 入学定員充足率“50%未満”の校数の拡大傾向:21年度=13校(全校数の17.6%)  →22年度=13校(同17.6%)  → 23年度=21校(同28.8%)  → 24年度=35校(同47.9%) → 25年度=40校(同58.0%)
● 実入学者数“1桁”の校数の拡大傾向:21年度=1校(全校数の1.4%)  → 22年度=6校(同8.1%)  → 23年度=11校(同15.1%)  → 24年度=20校(同27.4%) → 25年度=23校(同33.3%)
 上記のような入学者数に係る最近の傾向をみると、「競争倍率」が補助金減額の指標となった23年度入学者選抜からの実入学者数の減少が著しい。これは、小規模校などで、“「競争倍率」確保”のために、「合格者数」を削減(受験者が増えないための苦肉の策)した結果、「実入学者減」→「入学定員充足率の低下」(入学定員の減員は限界状態で、定員削減は困難)に陥るケースなどもあるようだ。
 法科特別委ではこうした状況を改善するため、前述した [指標1](入学者選抜の競争倍率)/ [指標2](司法試験合格率)の“2つの観点”の指標に加え、入学定員と実入学者数が大きく乖離する事態を是正する“第3の観点”から、「入学定員充足率」を“新たな指標”(指標3)として追加する措置を講じるよう文科省に求めた(『24年改善方策』及び『法科大学院における組織見直しの更なる促進方策について』:24年7月)。

◆ 第2の見直し(24年9月)
 文科省は、中教審法科特別委の『24年改善方策』等の提言を受け、深刻な課題を抱える法科大学院について、自主的・自律的な組織見直しを更に促進する観点から、公的支援における補助金等の減額措置を改善するため24年9月、「入学定員充足率」を新たに [指標3]として追加する措置を決めた。追加された [指標3] は、「前年度までに入学定員充足率(実入学者数÷入学定員)50%未満の状況が2年以上継続」とされる。 
 この結果、公的支援の見直しの対象は、① [指標1] 及び [指標2] の両方に該当 / ② [指標1] 及び [指標3] の両方に該当 / ③ [指標2] 及び [指標3] の両方に該当といった3つのケースのいずれかに当てはまる法科大学院となった。
 また、単独の指標にのみ該当する法科大学院でも、当該指標の値が著しく低い場合は、公的支援の見直しの対象となる。
● 「第2の見直し」の実施
 公的支援の「第2の見直し」が実施されるのは26年度予算からで、国立大学法人運営費交付金、及び私立大学等経常費補助金で減額措置される。
 26年度の対象校は、次の18校である。
〔国立〕島根大/鹿児島大
〔私立〕白鷗大/獨協大/國學院大/駒澤大/大東文化大/東海大/日本大/神奈川大/愛知学院大/中京大/名城大/京都産業大/龍谷大/甲南大/久留米大/福岡大

 

< 募集停止、統廃合等の動き >

 

 法科大学院の入学定員の適正化や組織の見直し等については、前述したような中教審の改善提言や文科省の公的支援の見直し等を受け、22年度からこれまでにすべての法科大学院で入学定員の削減等が実施されてきた。26年度の入学定員は3,809人(25年6月時点での予定)で、対前年度452人(10.6%)減、ピーク時(17年度~19年度:5,825人)より2,016人(34.6%)の減員が予定されている。
 法科大学院を取り巻く環境がますます厳しさを増している中、次のような法科大学院がこれまでに募集停止や統廃合等を実施あるいは表明している(25年10月現在)。
1.23年度から募集停止(1校)
 ① 姫路獨協大(22年5月表明:25年3月31日付けをもって、法科大学院を「廃止」)
2.25年度から募集停止(4校)
 ① 大宮法科大学院大(23年8月表明:桐蔭横浜大と「統合」。「桐蔭法科大学院」として運営) / ② 明治学院大(24年5月表明) / ③ 駿河台大(24年7月表明) / ④ 神戸学院大(24年7月表明)
3.26年度から募集停止(25年10月現在:2校)
 ① 東北学院大(25年3月表明) / ② 大阪学院大(25年6月表明)
4.27年度から募集停止(25年10月現在:2校)
 ① 島根大(25年6月表明:他大学との「連合化」<連合法科大学院>を模索) / ② 東海大(25年10月表明)

 

*        *        *

 

< 法曹養成制度改革の推進 >

 

関係閣僚会議による改革促進

 

 政府の法曹養成制度関係閣僚会議(以下、閣僚会議)は25年7月、様々な課題が指摘されている法曹養成制度の改革・改善の促進について、改革項目や担当、改革事項、検討・実施期限などを明記した『法曹養成制度改革の推進について』を決定した。
 閣僚会議では、法科大学院を中核とする「プロセス」としての法曹養成制度を維持しつつ、質・量ともに豊かな法曹を養成していくことを基本としている。
 今回決定された改革項目のうち、法曹人口の在り方や法科大学院、司法試験に関する担当、事項、期限の概要は、次のとおりである。

 

 

中教審法科特別委による法科大学院の組織見直しの更なる促進方策の強化

 

 中教審の法科特別委は前掲のような政府の法科大学院の改革促進の決定を受けて25年9月、『法科大学院における組織見直しの更なる促進方策の強化について』(以下、『組織見直しの促進強化』)を提言した。
 『組織見直しの促進強化』では、法科大学院が法曹養成の中核としての使命を果たし、それにふさわしい教育の質を確保できるようにする観点から、次のような改善方針を基本に据えている。

◆ 「公的支援の見直し」強化策
 法科特別委の『組織見直しの促進強化』では、上記の改善方策を実施する上で、「公的支援の見直し」に関する強化策を早急に打ち出す必要があるとしている。
 そして、公的支援の見直しの更なる強化策を検討するに当たっては、次のような点を特に重視すべきだとしている。

 また、各法科大学院の評価の際には、特に以下の2点について検討すべだとしている。

 

◆ 「先導的な取組」の支援
 中教審法科特別委の『組織見直しの促進強化』の提言では、厳しい環境に置かれている法科大学院の浮揚を図る観点から、公的支援の見直しに当たっては、組織見直しの取組や先導的教育への取組の促進など、将来に向けてより積極的な改善を促すことも可能となる仕組みに改めるべきであるとしている。
 具体的には、より魅力ある法科大学院教育を目指した先導的な教育システムの構築、法曹に加えてこれまで十分に対応できていなかった分野に人材を輩出する先導的な教育プログラムの開発、企業・自治体等と組織的に連携した就職支援とともに、他の法科大学院に対する教育支援、教育の質向上につながる法科大学院間の連携・連合などの取組を促進することが望ましいとしている。

 

< “待ったなし” の法曹養成制度改革>

 

 本稿では、ここまで司法試験結果の状況や法科大学院の実態などを中心に、政府の法曹養成制度改革の推進、中教審の法科大学院の組織見直しの促進方策、文科省のこれまでの改善施策などをみてきた。
 創設から10年目を迎えた法科大学院は、これまで中教審の様々な改善提言や文科省の改善取組を受け、各法科大学院において量的、質的な改革・改善が図られてきた。
 しかし、創設時の制度設計の誤算は否めず、法科大学院を中核とする法曹養成制度の“負のイメージ”が際立ち、大学(学部)受験生の“法学系敬遠”傾向の一因にもなっている。
 多様な法社会において、質・量とも豊かな法曹人材を養成し、国民が等しく法的サービスを受けられる成熟した社会体制を構築することは重要である。
 法科大学院教育の立ち位置を浮揚させ、法曹養成制度の理念を確立するために、“待ったなし”の法曹養成制度改革が求められている。

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