今月の視点

3月

「高大接続」の“グローバル人材”育成を !

高校教育、大学入試における「国際バカロレア」教育の導入と活用に期待

旺文社 教育情報センター長 大塚/2012年3月1日掲載

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未曽有の災害をもたらした東日本大震災と原発事故から1年。我が国は今、復興事業の遅れ、世界的な金融不安、電力供給不安、巨額の財政赤字などを抱え、先の見えない経済環境や産業の空洞化など極めて厳しい状況におかれている。加えて、閉塞感漂う社会状況にあって、若者たちの海外に対する「内向き志向」が問題視されている。
 他方、世界を席巻するグローバル化の波は、我が国のあらゆる分野に押し寄せている。ヒト・モノ・カネが国境を越えて世界を駆け巡るグローバルな時代をたくましく生き抜き、持続可能な国際社会をリードする人材の育成は、学校教育にとって重要な課題である。
 グローバル人材の育成はこれまで大学教育を中心に論じられてきたが、「高大接続」の観点から、高校教育や大学入試における国際バカロレア教育の導入、活用などが期待される。

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<大学教育とグローバル人材の育成>

国際競争がますます激しさを増す中、グローバルに活躍する人材の育成は経済・産業界に留まらず、幼少期から始まる全ての学校段階においても、グローバル化に対応した教育の取組が必要である。
 ただ、これまで経済・産業界での“第一線のグローバル人材”育成に目が向けられがちであったことなどから、大学進学率50%を超え、社会への出口が近い高等教育、つまり大学でのグローバル人材の育成が中心に論じられ、様々な施策が講じられてきた。
 そこでまず、中教審大学分科会の大学教育部会で議論されている、グローバルに活躍する人材育成に係る大学教育の方向性についてみてみる。

中教審大学教育部会での議論

中教審大学教育部会では24年2月現在、グローバルな社会・経済の構造的変化を踏まえた次のような認識のもと、大学教育の質的転換について検討、議論している。
◆グローバル人材育成と大学教育
 ● 社会・産業構造の急激な変貌とグローバル化の進展の中、個人や社会の多様性を尊重しつつ、幅広い知識と柔軟な思考力に基づいて新しい価値を創造したり、他者と協働したりする能力などが重要となっている。
 ● グローバルに活躍する人材には、語学力、異文化理解、幅広い教養と深い専門性、問題発見・解決能力、自己表現力等が共通に求められる。
 ● 大学教育には、答えのない問題を発見し、その原因について考え、最善解を導く作業が根底にある。大学はまた、学生生活全般を通じて、高い倫理観、社会貢献の精神、豊かな人間性を身に付け、全人格的に成長する場でもある。
 ● このためには、中教審答申『学士課程教育の構築に向けて』(20年12月)で提起された“学士力”の向上など、学士課程教育の実質化などが重要である。
 その方策としては、「学生の学習時間の確保と学習密度の向上」などが必要で、それを促進するために「全学的な教学マネジメント」や「教育研究成果を重視した評価」を確立することが求められる。
 上記の内容は、文科省の「国際交流政策懇談会」の最終報告『我が国がグローバル化時代をたくましく生き抜くことを目指して-国際社会をリードする人材の育成-』(以下、懇談会『最終報告』:23年3月)、及び政府の「グローバル人材育成推進会議」の『中間まとめ』(以下、推進会議『中間まとめ』:23年6月)などを基調としているとみる。

グローバル人材に求められる能力

グローバル化した国際社会をリードする「グローバル人材」に求められる能力として、文科省の懇談会『最終報告』では、次のような点を挙げている。
 ● 日本人としての素養/外国語で論理的にコミュニケーションをとれる能力/異文化を理解する寛容な精神/新しい価値を生み出せる創造力
 ● 国際社会で活躍する人材に求められる能力としては、とかく語学力を挙げることが多いが、まずは国際社会で自らの考えや立脚点を臆することなく主張できる能力が必要。その際、我が国固有の文化や歴史に関する正しい知識を身につけ、自らのアイデンティティに係る自信と謙虚さを持つことが重要である。
 一方、政府の『中間まとめ』では、“グローバル人材”の概念を次のように整理している。
 ● 要素I:語学力・コミュニケーション能力
      要素II:主体性・積極性/チャレンジ精神/協調性・柔軟性/責任感・使命感
      要素III:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティ
 ● 『中間まとめ』では上記のほか、「グローバル人材」に限らずこれからの社会の中核を支える人材に共通して求められる資質として、幅広い教養と深い専門性/課題発見・解決能力/チームワークとリーダーシップ(異質な者の集団をまとめる)/公共性・倫理観/メディア・リテラシーなどを挙げている。

大学の国際化

大学でのグローバル人材の育成には、大学自身の国際化が不可欠である。
 国が推進・支援する大学の国際化に向けての取組み事業としては、2020年を目途に留学生30万人の受入れを目指す「留学生30万人計画」(20<2008>年7月策定)/当計画の一環として、英語による授業など留学生受入れ体制の整備や留学生と切磋琢磨して国際的に活躍できる高度な人材育成などを図る国際化拠点大学の重点的支援として、「大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業」(当初の「国際化拠点整備事業」<「グローバル30」>を改称。21年度に13大学を採択)などが行われている。なお、23年度(23年5月1日現在)の大学等における外国人留学生の在籍(受入れ)状況は、3月11日の東日本大震災の影響などから22年度より3,699人(前年度比2.6%)減の13万8,075人となっている。
 また、世界的な研究教育拠点の形成を重点的に支援するために14年度から実施されてきた「21世紀COE プログラム」(274拠点を採択)は、国際的に卓越した大学院の教育研究拠点の形成を重点的に支援し、国際競争力のある大学づくりを推進するために19年度から「グローバルCOE」(19年度~21年度で41大学140件採択)として実施されている。
 ところで、学生の海外留学については、若者の所謂「内向き志向」を反映して、2004(平成16)年の8万2,945人をピークに減少しており、2009年には5万9,923人まで減っている。また、アメリカの大学等に在籍する日本人学生数も減少傾向にある。(図1参照)
 その一方で、中国やインド、韓国などでは海外留学者数を増やしている。
 大学の国際化には、提供される教育や授与される学位などの国際標準に沿った質保証を前提に、大学間連携・交流、留学生の海外派遣と受入れ、奨学金制度の拡充、学年暦の弾力化(セメスター制、クォーター制、秋入学等)などの具体的な施策が求められる。


18歳人口&大学入学定員・受験生数・進学率の推移

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<高校のグローバル人材育成>
中教審高等学校教育部会での議論

中教審初等中等教育分科会に23年11月設置された高等学校教育部会では、多様化した高校教育の共通性や高大接続との観点なども踏まえ、(1)個々の生徒の学習進度・理解等に応じた学びのシステムの構築/(2)社会の要請に応える人材養成機関としての機能の充実/(3)個々の人格形成の場としての機能の再構築/(4)科学・技術の進展や産業界との連携等による教育方法等の刷新、の4本の柱を立てて議論している。
 このうち、(2)のテーマにおいて、グローバル人材をどのように育成すべきかが取り上げられ、英語教育の充実や国際バカロレア教育の導入などについても検討、議論されている。

英語教育の充実

高校生も含め、若者たちの海外に対する「内向き志向」の要因の一つとして、語学力不足の問題があるという。特に国際共通語である英語については、多くの若者が中学・高校、さらに大学まで学んでも、他国の人々と少なくとも意思疎通ができるレベルにまで英語を習得する者はそれほど多くはないであろう。
◆新しい学習指導要領における英語教育の充実
 上記のような英語教育の実態も踏まえ、新しい学習指導要領(小学校は23年度、中学校は24年度から完全実施。高校は25年度から学年進行で完全実施)では小・中・高校を通じて、次のような英語・コミュニケーション能力の育成、異文化体験の充実等を図っている。
 ● 小学校:第5・6学年で新たに「外国語活動」を週1コマ導入。音声や基本的な表現に慣れ親しみ、「聞く」「話す」を中心とした活動でコミュニケーション能力の素地を養う。
 ● 中学校:各学年の英語の授業時数を週3コマから週4コマに(3年間の授業時数:315単位時間 → 420単位時間(33%増)/従前の「聞く」「話す」重視の指導から「読む」「書く」を加えた4技能をバランスよく指導/指導語彙数の充実:900語 → 1,200語(33%増)
 ● 高校:英語の履修科目を再編し、従前の“選択必履修”(オーラル・コミュニケーションI<2単位>又は英語 I<3単位>を選択)から、“共通必履修”(コミュニケーション英語I<3単位。2単位まで減単位可>を必履修)に変更/授業は生徒の理解の程度に応じて“英語で指導することを基本”とする/指導語彙数の充実:1,300語 → 1,800語(38%増:コミュニケーション英語I、II及びIIIを履修した場合)
◆ 英語力向上のための“5つの提言”
 文科省では中学・高校の外国語能力の向上のため、「外国語能力の向上に関する検討会」を22年11月に設置。当検討会は、生徒に求められる英語力や英語教員の質の向上、及びALT(外国語指導助手)やICT(情報コミュニケーション技術)の活用等について、今後の英語教育の改善に反映させる施策を、次のような“5つの提言”にまとめている(『国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策』:23年6月)。
 ● 提言1:生徒に求められる英語力について、その達成状況を把握・検証する。
  ・国や教育委員会、学校は外部検定試験を活用し、生徒に求められる英語力の達成状況を把握・検証 → 中学校卒業段階:英検3級程度以上/高校卒業段階:英検準2級~2級程度以上、など。
 ● 提言2:生徒にグローバル社会における英語の必要性について理解を促し、英語学習のモチベーションの向上を図る。
  ・国や教育委員会は、高校生の海外留学を推進 → 18歳の時点までに中長期の留学ないし在学経験を有する者の3万人規模への増加を目指す、など。
 ● 提言3:ALT、ICT等の効果的な活用を通じて生徒が英語を使う機会を増やす。
  ・教育委員会は、優秀な外国人教員などの採用を促進 → 600人の採用を目指す、など。
 ● 提言4:英語教員の英語力・指導力の強化や学校・地域における戦略的な英語教育改善を図る。
  ・国は、英語教員に求められる英語力について、その達成状況を把握・公表 → 英語教員に少なくとも求められる英語力:英検準1級、TOEFL(iBT)80点、TOEIC730点以上。
  ・教育委員会は、地域の戦略的な英語教育改善の拠点校を形成 → 250校程度を目指す。
  ・国は「国際バカロレア」レベルの教育を実施する学校を5年間で200校程度増加させる。国際感覚の育成等にも取組む「スーパーサイエンスハイスクール」等を推進する、など。
 ● 提言5:グローバル社会に対応した大学入試となるよう改善を図る。
  ・国は、「聞く」「話す」「読む」「書く」を総合的に問う入試問題の開発・実施を促進。
  ・国はAO入試・一般入試等においてTOEFL・TOEIC等の外部検定試験の活用を促進。

高校生の留学促進

高校生の海外留学は、急速に変貌する国際社会に豊かな感性と強い吸収力を持つ10代半ばから接することができる。留学によって、他国の文化や生活などへの理解と人々との交流等を通じ、国内では得がたい様々な体験や学習成果が修められ、グローバル社会への意識の高揚とともに、帰国後、留学の経験を活かした各分野での活躍が期待される。
 しかし、高校生の留学への意識調査で、「可能であれば留学したい」とする割合が日本では4割程に留まり、「希望しない」割合が6割程度と高い。これに対し、アメリカ・中国・韓国では、「可能であれば留学したい」割合のほうが逆に6割程である。日本人高校生の留学者数はこうした「内向き志向」を反映し、最近は減少傾向にある。(図2図3参照)
 20年度の日本の高校の留学生は延べ3,190人で、留学先はアメリカ(36.1%)、ニュージーランド(18.2%)、カナダ(14.4%)、オーストラリア(13.7%)など。(図4参照)
 一方、20年度に日本の高校で受入れた外国人留学生は延べ1,816人で、出身国は中国(27.7%)、アメリカ(11.5%)、オーストラリア(9.4%)、ドイツ(6.5%)など。(図5参照)


18歳人口&大学入学定員・受験生数・進学率の推移


18歳人口&大学入学定員・受験生数・進学率の推移


◆“留学経験”を“大学入試の評価”に! ~懇談会『最終報告』~
 先述の懇談会『最終報告』では、「高校生の留学は、子どもたちの異文化理解を深めるのみならず、諸外国との友好親善の増進に寄与し、高等教育レベルでの留学やその後の国際交流活動の拡大に資するものであることから、今後も積極的に支援することが望ましい」としている。
 また、「高校生の中には、高校卒業後に直接海外の大学に進学する者も増えている。こうした傾向は、高校時代の留学経験に触発され、我が国の高校が行う外国の高校との交流プログラムや国内のインターナショナルスクール等との交流によって、海外へと視野が広がったことによるものと考えられる」とし、「我が国の大学がこうした高校時代の海外留学経験を大学入試の際に評価していくことが望まれる」としている。
◆“留学”含む“飛び入学・早期卒業”等の制度的整備を! ~促進会議『中間まとめ』~
 政府の促進会議『中間まとめ』では、高校生の留学促進等について、次のように提言している。
 ● グローバル人材の基本的な概念要素である「語学力・コミュニケーション能力」を基に、「二者間折衝・交渉」あるいは「多数者間折衝・交渉」レベルといった能力水準を意識した人材育成のためには、18 歳頃の時点までに1 年間以上の留学ないし在外経験を有する者を3 万人規模に増加させることを目指す。その際、留学しても3 年間での高校卒業が可能であることを周知徹底する。
 ◎ 海外留学の単位認定等:現在、高校での要卒業単位数は74単位以上で、学校外学修や海外留学を行った場合は、36単位を上限として単位認定を行うことができる。
 したがって、1年間留学しても、帰国後、留年の必要は基本的にない。
 また、学校独自で設定できる学校設定教科・科目に関する単位数は、普通科の場合上限20単位までだが、中等教育学校の後期課程及び併設型・連携型高校の普通科では24年度から現行の30単位を36単位まで拡大できる。これも、留学に関わる国際理解等の学校設定教科・科目の設定につながり、留学の促進に資するものと期待される。
 ● 国際バカロレア資格への対応等を進めるとともに、大学・大学院への飛び入学や早期卒業の促進及び高校における早期卒業制度の創設の制度的整備等を検討する。
 ◎ 留学を含めた飛び入学・早期卒業の例:高校2年 → 留学1年 → 大学4 年/高校2年 → 大学5年(留学1 年を含む)/高校3年 → 留学1年 → 大学3年、などの柔軟な進路設計。
 ● 帰国子女の中学・高校への中途編入枠を拡大する
 ● 高校卒業時に国際バカロレア資格を取得可能な、又はそれに準じた教育を行う学校を5年以内に200校程度へ増加させる。
 ● 高校の生徒のTOEFL の成績や英検の実績等の公表を促進する、など。

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<国際バカロレア>

グローバル人材育成に係る提言等にしばしば登場する「国際バカロレア」とは、何か。その概要を以下にまとめた。

国際的に認められる“大学入学資格”

様々な国籍の子ども(児童・生徒)を国籍に関わらず受け入れ、主に英語等により教育を行っている外国人学校のことを一般に「インターナショナルスクール」という。このインターナショナルスクールの卒業生に、国際的に認められる“大学入学資格”を与え、大学進学への道を確保するとともに、柔軟な知性の育成と国際理解教育の促進などを目的として1968(昭和43)年に「国際バカロレア機構」(本部:スイスのジュネーブ)が発足した。
 国際バカロレア機構は、認定校への共通カリキュラムの作成や国際バカロレア試験の実施、国際的に保障される大学入学資格である国際バカロレア資格の授与等を行っている。

国際バカロレアの教育課程と資格取得

現在、国際バカロレアには3歳~19歳の年齢に応じて、次のような3種類のプログラムからなる教育課程が用意されている。
 (1) PYP (Primary Years Programme:初等教育プログラム) =3歳~12歳を対象
 (2) MYP (Middle Years Programme:中等教育プログラム) =11歳~16歳を対象
 (3) DP (Diploma Programme:ディプロマ資格プログラム) =16歳~19歳を対象
 上記3種類のプログラムは、全て導入することも、いずれか1つのみの導入も可能である。いずれにしろ、国際バカロレアの認定校において、DP(ディプロマ資格プログラム)の課程を修了し、ディプロマ資格取得のための統一試験に合格すると、国際バカロレア資格を取得することができる。

国際バカロレア教育と認定校

国際バカロレアのDPのカリキュラムは、グループ1(第1言語<母語>)/グループ2 (第2言語<外国語>)/グループ3 (個人と社会)/グループ4(実験科学) /グループ5 (数学とコンピュータ科学)/グループ6(芸術又は選択科目)の6グループで構成されている。
 DP資格を取得するためには、グループ1からグループ5までの科目を各々1つずつ選択し、さらにグループ6から芸術又はグループ1からグループ5の中からもう1科目選んで合計6科目を2年間履修することになる。
 DP資格の取得にはこれに加え、(1)学んでいる科目に関連した研究課題を決めて、自分で調査・研究を行い論文にまとめる「課題論文」/(2)学際的な観点から個々の学問分野の知識体系を吟味して、理性的な考え方と客観的精神を養う。さらに、言語・文化・伝統の多様性を認識し国際理解を深めて偏見や偏狭な考え方を正し、論理的思考力を育成する「知識の理論」/(3)教室を出て広い社会で経験を積み、いろいろな人と共同作業をすることにより協調性、思いやり、実践の大切さを学ぶ「創造性・活動・奉仕」といった3つの要件を満たす必要がある。なお、DPは授業、試験ともに英語、フランス語、スペイン語のいずれかで行われるのが基本となっている。

国際バカロレア教育の導入

国際バカロレア認定校は2011年9月現在、世界141カ国、約3,300校である。
 我が国の国際バカロレア認定校は2011年12月現在22校であるが、多くがインターナショナルスクール(各種学校)であり、いわゆる“1条校”(学校教育法第1条に規定されている学校)は東京学芸大学附属国際中等教育学校(東京都・MYP)、ぐんま国際アカデミー(群馬県・DP )、加藤学園暁秀高等学校・中学校(静岡県・MYP 、DP )など、6校である。
 ● 国公立学校での導入
 22年度から全国の国公立学校として初の国際バカロレア認定校となった東京学芸大学附属国際中等教育学校では、前期課程(中学)と後期課程(高校)の6年間を見通した学習内容に、グローバルな視野の育成や多文化共生の教育、英語イマージョン教育など特色あるカリキュラムを取り入れている。今後、当校での取組がモデルとなって、特に公立学校等における国際バカロレア教育の導入促進に繋がることが期待されている。
 また、東京都教育委員会は、海外企業の誘致に伴う外国人駐在員の子弟の受入れや都立高生の海外留学の促進などを目的に、26年度に都立高校内に英語で授業する学級を新設するなどして、国際バカロレア認定校を創設する方策を打ち出している。

<「高大接続」 を踏まえた大学入試の国際化>
国際バカロレア資格と大学入試等の出願資格

 国際バカロレア資格は、国際的に認められている大学入学資格の一つである。我が国では、昭和54(1979)年に「スイス民法典に基づく財団法人である国際バカロレア事務局が授与する国際バカロレア資格を有する者で18歳に達したもの」について、大学入学に関し高校を卒業したものと同等以上の学力があると認められる者として指定された。
 これを受け、国内の大学で行われている帰国子女入試や私費外国人留学生入試などとセンター試験では、出願資格の一つに国際バカロレア資格をあげている。
 ところで、ヨーロッパでは大学入学資格(高校卒業資格も含む)として、フランスの「バカロレア」やドイツの「アビトゥア」が知られている。バカロレアはフランスにおける大学入学資格を得るための統一国家試験で、19世紀初頭にナポレオンによって導入された。
 したがって、「国際バカロレア」と「バカロレア」とは異なる。
 ただ、我が国の帰国子女入試や私費外国人留学生入試及びセンター試験などの出願資格としては、バカロレア資格とアビトゥア資格も国際バカロレア資格と同様に扱われている。
 因みに、23年度の帰国子女入試は国公私立397大学(全体の54.0%)・1,117学部(同51.8%)で実施され、入学者は1,235人(同0.2%)であった。なお、入学者の資格は不明。

国公立大初の「国際バカロレア入試」の導入

我が国の大学入試に関する国際バカロレア資格については、上述のようにこれまで多くの場合、帰国子女入試や私費外国人留学生入試等の出願資格として扱われてきた。
 そうした中、岡山大では24年度入試からAO入試の一つとして、「国際バカロレア入試」を全国の国公立大に先駆けて導入した。国際バカロレア資格を取得し、岡山大の出願条件を満たしていれば、“日本国内での資格取得者”でも出願できる。この入試は“書類選考のみ”(一部の学部・コースを除く)で入学資格を与え、「異文化理解に基づいた国際性の獲得」の資質とともに、優れた学力を備えた学生の確保、育成を目指すとしている。岡山大の24年度「国際バカロレア入試」の募集人員は若干名で、志願者・受験者・合格者はそれぞれ1名であったが、国際バカロレア資格者を書類選考のみで審査する方法は、国公立大初の国際標準型入試としても注目される。

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<国際性を基軸にした 「高大接続」 によるグローバル人材の育成>
大学“受験資格”と“入学資格”

我が国では、高校卒業は大学“受験資格”であるが、少なくとも“入学資格”ではない(学力不問とまでいわれる一部の推薦・AO入学の実態は別として)。
  岡山大の「国際バカロレア入試」導入の背景には、国際バカロレアの教育内容について、我が国の高校教育課程修了レベルを超えるものとみなした点にあるようだ。こうした岡山大のアドミッション・ポリシーは、欧米の多くの大学でみられる国際バカロレア資格取得者を書類選考のみで受け入れる“入学資格者の評価”と軌を一にするものといえる。
 国内において、「国際バカロレア入試」のような国際標準化された入試が拡大すると、高校での国際バカロレア認定校の拡大とともに、国際的に標準化されたカリキュラムで高度な高校教育の拡充にも繋がろう。

“教科学力”と国際標準の“キー・コンピテンシー”

グローバル社会では、言語などの文化的なツールやICTなどの物理的なツールを相互作用的に活用する力/異質な集団で交流する力/自律的に活動する力、といった国際社会に必要な主要能力である“キー・コンピテンシー”(OECDのPISA調査などにおける国際標準の学力の概念的なカテゴリー)が重要になってくる。
 そうした社会環境の変容に伴い、高校ではこれまでのような大学受験を前提とした6教科7科目を主体とする“教科学力”だけでなく、課題発見能力、論理的思考力、コミュニケーション能力、幅広い教養と異文化理解などの習得も必要だ。
 国際標準型のカリキュラムである国際バカロレア教育を導入した高校教育と、国際的な質保証を図る大学教育を円滑に接続する「高大接続」が確立されれば、グローバル人材の育成は一層深化したものとなるだろう。